1、アナムネ とは
アナムネとはドイツ語の「既往歴」を意味するAnamneseからきており、日本ではアナムネーゼが略されて「アナムネ」と呼ばれています。入院患者に対して看護師がまず行うのが、このアナムネで、実際の現場では「アナムネを取る」「アナムネを聴取する」と言われたりします。日本でのアナムネが示すところは本来の意味である既往歴、つまりこれまでの病歴や今回の現病歴に関する経過を聞くだけではありません。アナムネには、主に以下の目的があります。
<アナムネ聴取の目的>
・患者を理解すること
・患者(家族)と良好な関係を築くこと ・今後の治療や退院にむけて必要な情報を得ること |
昔はヴァージニア・ヘンダーソンの14の基本的ニード全ての項目に沿ってアナムネ用紙を作成し、患者に関する情報を入院時に一挙に聞き出していました。しかし、現代では個人情報の観点から不必要なことまで根掘り葉掘り聞くことをあえて止めるという医療機関もあります。
また、高齢社会・核家族化の進む日本では、退院後の受け皿を早期から探す必要もあるため、アナムネには介護に関することが多く含まれて来るようになりました。入院時から退院や退院後の生活を視野に入れているわけです。更にアナムネ聴取そのものが現場の看護師にとって時間を必要とする業務負担も問題となり、聴取する内容も変わりつつあります。
<アナムネで聴取する内容>
・既往歴、現病歴(治療した医療機関)
・緊急連絡先 ・家族構成(キーパーソン) ・治療方針(万が一のときには蘇生をするのか、それともDNARとするのか) ・ADL(食事・入浴・排泄・移乗などの日常生活動作に関するもの) ・介護保険の申請状況、介護度 ・利用している介護サービスや入居施設 ・退院後の生活の場をどう考えているか *小児の場合は、成長発達の状態やワクチン接種履歴なども追加 |
2、アナムネ 取り方・コツ
アナムネ聴取の大きな目的は、患者理解を深めつつコミュニケーションをとることにあります。
しかし、新人看護師やコミュニケーションをとるのが苦手という看護師は、アナムネ用紙の項目を順番に聞く、事情聴取のような問診になりがちですが、患者・患者家族は立ち入った情報を矢継ぎ早に質問されることに、不安や嫌悪感を抱く人も多いのです。
また、アナムネに一度行くとなかなか帰ってこない看護師もいますね。これは決して怠けているのではなく、必要な情報を最短で聞き出すことが苦手だからです。患者・家族の訴えを聞きつつ、いかに必要な情報を聞き出すかということで、効率よく質問することだけを考えてはいけません。
アナムネ聴取には、ワザが必要なのです。
<アナムネ聴取、3つの必殺技>
①アナムネ聴取は挨拶で決まる!
②患者・家族に“語らせる”! ③アナムネ用紙の順番は無視すべし! |
まずは自分が名前を名乗り、付き添っていただいている家族の関係を確認し、アナムネ聴取の目的を伝えます。ここできっちり挨拶という手順を踏まないと、ずかずかとプライベートなことに突っ込んでくる看護師に対して患者・家族はよい印象を持ちません。挨拶なんて日常の社会生活を送る上で当たり前のことなのですが、病棟勤務している看護師はどうしても自分達が「してあげている」という意識を持ってしまいがちで、一般常識が欠けていることがあります。
そのためまずは名前を名乗ってなぜアナムネを必要とするのかを説明し、同意を得た上で聞きとりを開始しましょう。入院時に付き添っている家族があまり詳しくない、もしくは別の人に聞いて欲しいというかもしれません。その場合は、最低限の緊急連絡先や家族構成を確認し、キーパーソンが来院した時点で残りの項目を補完すればよいでしょう。
挨拶という第一印象でアナムネ聴取・今後の信頼関係が変わってしまうといっても、過言ではありません。
そして、今回の入院に至った経緯を確認しながら、話を広げていきましょう。イメージとしては、アナムネ用紙を埋めるのではなく、「○○さん」という人物像を埋めていくと考えるとよいでしょう。
ここでのポイントは、まず患者・家族に話してもらうこと。そうすることで、質問攻めにされている感覚が薄れ、話を聞いてもらったという思いが生まれます。ただし、いかに自分の頭の中で患者・家族と話しながら会話を整理し、脱線しないように本筋に戻すかが重要です。
3つ目のポイント、ここが一番のコツともいえるのですが、アナムネを聴取する際、アナムネ用紙の空白を作らないようにと頭から順に「聞き取り調査」をしてしまう看護師が多いと思います。しかし、これは必要最低限の時間で聞き取ることができるかもしれませんが、本来の目的である患者理解やコミュニケーションを深めるには効果的ではありません。
アナムネ用紙の項目に沿わず、まずは患者・家族から必要な情報を先に話してもらい、不足することには雑談の中に質問を織り交ぜて埋めていくのです。中には話をうまくまとめることができない人もいますので、コミュニケーション能力が試されるところです。
アナムネを取る際のコツは、「アナムネを取ることを目的としない」せず、最終的に「〇〇さん」という患者の人物像が出来上がればよし、なのです。
3、アナムネ 記録用紙
アナムネの記録用紙は、医療機関によってどの看護理論を採用するかで異なります。ヴァージニア・ヘンダーソンの14のニードなのか、オレムのセルフケア理論なのか、はたまた完全に実用性を重視したオリジナルのものを自分達で作り出すのか。
ヘンダーソンの方式を採用していると、どうしても聞き出す内容が多くなってしまい、アナムネ用紙の空白を埋めるためだけの質問も出てきてしまいます。一方で、オレムの場合はセルフケアに比重が傾きます。
自分の医療機関がどの方式を採用しているかによっても聴取する内容は異なります。ここで一つ大切なことは、どんな方式を採用していようと患者・家族の前ではできるだけアナムネの電子カルテ入力は控えること。入院して間もなく関係性ができていないので、まずはパソコンの画面ではなく相手を見て話しを聴く・するというスタンスが望ましいですね。
ただし、そうするとあとからナースステーションに戻ってカルテ入力をする際に空白ができてしまう人もいます。ですから、自分の病院で使っているアナムネ用紙の内容を覚えてしまうか、プリントスクリーン機能を使って印刷し、そこへメモ書きをしながら話を聞いておくと、聞き漏れや未入力の項目が出るのを防ぐことができます。
本当は、患者・家族から話を聞くことで「〇〇さん」の全体像がつかめたなら、アナムネ用紙は全てもれなく埋まるのが理想。ただし、限られた時間の中で聞いてくるので、最初から100%の理解はできません。
そこで、話をしながらチラチラとプリントアウトしておいたアナムネ用紙を見ながらメモをとるという具合に工夫するとよいのではないでしょうか。
4、アナムネ 目標
アナムネの目標は、いかに短時間で身体的な理解だけではなく、「〇〇さん」という1人の社会性まで含めた全人的な患者理解をしてコミュニケーションをとるかにあります。
ただし、アナムネ聴取が苦手だな・・・という人は、時間にできるだけこだわらないようにし、一番の目標である患者理解とコミュニケーションをとることに比重を置きましょう。「問診型」から「会話型」のアナムネ聴取ができるようになってから、時間を短縮することを心がけましょう。ぶしつけなアナムネ聴取のせいで信頼関係を損なってしまうことのないよう、短時間で済ませることよりも、目的を意識するほうが大切です。
ただし、自分がアナムネ聴取に専念している間は、他のスタッフがそのほかの仕事を引き受けてくれていることはお忘れなく。
アナムネ聴取は、立派な看護です。聴取する内容はアナムネ用紙にとどまらず、今回の入院に関して患者理解をするために必要な情報の全てです。
深く聞くことが必要な場所と、さらっと確認するだけでよい項目もありますので、ここには患者の疾患に対する病態生理や今後の生活を見通してどこがポイントになるかという判断力も必要。
アナムネ聴取とは、非常に奥が深いもの。日々の生活の中で他人とコミュニケーションをとること、常に病態生理や今後を考えることを習慣にし、聞き取り型の上手なアナムネ聴取を身に付けましょう。
<参考文献>
看護の基本となるもの(日本看護協会出版会|ヴァージニア・ヘンダーソン|2016年12月)