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VATS(胸腔鏡下手術)の看護|5つの看護計画や気胸の合併症について

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VATSとは胸腔鏡下手術のことで、患者への侵襲が少なく、早期離床・早期退院が可能であることがメリットです。侵襲は少ないですが、合併症がないというわけではありませんので、VATS後の患者のアセスメントをしっかり行い、看護計画を立案してケアをしていかなくてはいけません。VATSの基礎知識や看護問題・看護計画、気胸の合併症についてまとめましたので、実際の看護に活かしてください。

 

1、胸腔鏡下手術(VATS)とは

胸腔鏡下手術(VATS=Video-Assisted Thoracic Surgery)とは、胸部の内視鏡手術のことです。全身麻酔下で2cmほどの切開創を数か所作り、そこから胸腔鏡を挿入して手術を行います。胸腔鏡下手術(VATS)は創部が小さいので、患者への侵襲が少ないことがメリットです。

創部が小さいので、疼痛が少なく、オペ後の呼吸機能低下も少ないため、早期離床・早期退院が可能になります。

 

胸腔鏡下手術

出典:呼吸器外科(日本赤十字社 長岡赤十字病院)

 

しかし、適応になる疾患が限られていることや出血等の急変時の対応が遅れやすいことがデメリットになります。

胸腔鏡下手術(VATS)には、完全胸腔鏡下手術と胸腔鏡補助下手術の2種類があります。

①完全胸腔鏡下手術

開胸せずに、胸腔鏡だけを用いてビデオ映像を見ながら行う手術のことです。これは比較的手術手技が簡単な自然気胸の手術の時に用いられることが多いです。

②胸腔鏡補助下手術

小開胸と胸腔鏡を併用する手術方法のことです。これは肺がんのオペの時に用いられます。肺がんのオペは手技が複雑なため、小開胸と胸腔鏡を併用する必要があることが多いです。

 

2、胸腔鏡下手術(VATS)後の看護計画

胸腔鏡下手術(VATS)は患者への侵襲が少ないと言っても、全身麻酔下での手術になりますので、VATS後は看護問題を挙げて、それに沿って看護計画を立案しなければいけません。

VATS後の看護問題は、次の5つが挙げられます。

①創部の感染のリスクがある(感染リスク状態)

②創部の疼痛がある(急性疼痛)

③痰の喀出ができず無気肺や肺炎を起こすリスクがある(非効果的軌道浄化)

④深部静脈血栓のリスクがある

⑤術後出血のリスクがある

この5つの看護問題に沿って、看護計画を立案していきましょう。

 

①創部の感染のリスクがある(感染リスク状態)

VATSは完全胸腔鏡下手術でも2cm程度の切開創が複数ありますので、創部感染を起こすリスクがあります。

看護師はVATS後には創部感染を起こさないようにケアをしていく必要があります。

看護目標 創部の感染を起こさない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・血液検査データ(WBC、CPR)

・創部の状態

・ガーゼ汚染の有無

TP(ケア項目) ・創部処置は清潔操作を徹底する
・医師の指示による抗生剤の投与をしっかり行う
・清潔ケアの解除を行う・環境整備を行う・創部に感染兆候が見られたら、すぐに医師に報告する
EP(教育項目) ・感染予防に関する指導を行う

・創部の痛みや発赤、浸出液の増加などが見られたら、すぐに報告してもらう

糖尿病などの基礎疾患がある患者や高齢者は、免疫力が低下していて感染を起こしやすいですので、易感染者の患者の場合は、特に注意して感染予防のケアをしなければいけません。

 

②創部の疼痛がある(急性疼痛)

VATSは完全胸腔鏡下手術の場合、数センチ程度の傷になりますので、開胸手術に比べると疼痛は強くありません。しかし、疼痛が全くないというわけではありません。また、小開胸と胸腔鏡を併用する胸腔鏡補助下手術の場合は、創部は大きくなりますので、疼痛が強くなります。疼痛が強いと睡眠をとることができませんし、早期離床の妨げになります。そのため、VATS後は急性疼痛を看護問題として挙げ、痛みを軽減するための看護計画を立案してケアをしなければいけません。

 

看護目標 痛みが軽減して良眠できる
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・痛みの程度(NRSなどのペインスケールを用いて)

・表情

・言動

・睡眠状況

・創部の感染兆候の有無

・不安の有無

TP(ケア項目) ・安楽な体位の工夫

・鎮痛薬の適切な投与

・必要に応じて医師の指示による頓服薬の投与

・気分転換を図る

・不安や訴えの傾聴

EP(教育項目) ・痛みは我慢せずに看護師に伝えるように説明する

・疼痛が強い時は頓服薬を使えることを説明する

 

③痰の喀出ができず無気肺や肺炎を起こすリスクがある(非効果的軌道浄化)

VATSは全身麻酔で行う手術になりますので、気管挿管の刺激で痰の量が増えます。さらに麻酔の影響で気管の繊毛運動が低下し、痰の喀出が困難になります。また、創部の疼痛によって、痰の喀出ができなくなることもあり、痰の貯留により無気肺や肺炎を引き起こすリスクがあります。そのため、看護師はVATS後の患者に痰の喀出を促し、無気肺や肺炎を予防する必要があります。

看護目標 ・無気肺や肺炎を起こさない

・SpO2を保つことができる
・痰を喀出することができる

OP(観察項目) ・バイタルサイン(SpO2や呼吸回数)

・呼吸苦の有無

・痰の量や性状、色調

・呼吸音(喘鳴、雑音等)

・痰の喀出状態

・疼痛の有無や程度

・チアノーゼの有無

・検査データ(血液ガス、胸部X-P、WBC、CRP)

・水分出納

TP(ケア項目) ・痰の喀出を促す

・体位ドレナージ

・疼痛緩和のためのケア

・安静度を確認し早期離床を促す

・呼吸理学療法

・必要時、痰の吸引

・室内の湿度等の環境整備

・医師の指示に基づいた去痰薬の投与やネブライザーの施行

EP(教育項目) ・痰の喀出を積極的に行うように指導する

・痰の喀出の重要性や無気肺・肺炎について説明する

・呼吸困難感が出てきたらすぐに伝えるように指導する

・痛みで咳嗽ができない時は、鎮痛剤を使えることを説明する

・飲水制限の有無を確認し、水分摂取を促す

 

④深部静脈血栓のリスクがある

VATSは全身麻酔で行われるので、長期臥床により静脈血栓ができるリスクがあります。特に、小開胸を伴うVATSは手術の時間が長くなりますし、離床までに時間がかかることがありますので、静脈血栓が発生するリスクは大きくなります。下肢に静脈血栓ができれば、それが血流に乗って肺塞栓症を引き起こすこともありますので、看護師は静脈血栓の発生を予防するためのケアをする必要があります。

看護目標 静脈血栓が発生しない
OP(観察項目) ・バイタルサイン(呼吸回数、SpO2)

・呼吸苦の有無

・血液検査データ(Dダイマー)

・足背動脈の蝕知の可否

・下肢の疼痛や発赤、腫脹の有無

・ホーマンズサインの有無

TP(ケア項目) ・術前から弾性ストッキングを着用してもらう

・安静度の範囲内で下肢を自発的に動かしてもらう

・早期離床を促す

EP(教育項目) ・DVTのリスクを説明する

・早期離床や下肢の運動の重要性を説明する

・下肢の疼痛や呼吸苦などが出たら、すぐに知らせるように指導する

 

⑤術後出血のリスクがある

VATSの中でも完全胸腔鏡下手術の場合は、術後出血のリスクはあまり高くありません。それでも、術後出血のリスクはゼロではありません。小開胸を伴うVATSの場合は、もちろん術後出血のリスクがあります。術後出血を起こすことで、循環不全を起こすことがありますので、看護師はVATS後に術後出血のリスクを看護問題として挙げ、早期発見ができるように看護計画を立案しなければいけません。

看護目標 術後出血の早期発見ができる
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・意識レベル

・術中の出血量

・術中のIn/Outバランス

・ドレーンからの排液量や性状

・創部出血の有無、ガーゼ汚染の状態

・術後のIn/Outバランス

TP(ケア項目) ・術後は頻回なバイタルサインの測定

・疼痛コントロールを行う

EP(教育項目) ・ドレーンからの排液が突然血性になったり量が増えたのを見つけたら、すぐに伝えてもらうように指導する

・自覚症状の変化があったらすぐに伝えてもらう

・痛みが強い時は我慢せずに伝えてもらう

疼痛による血圧が上昇すると術後出血が起こりやすくなりますので、疼痛コントロールも重要なケアになります。

 

  • 胸腔鏡下手術(VATS)の合併症と気胸の再発

胸腔鏡下手術(VATS)の適応となる疾患の代表例に気胸があります。しかし、自然気胸をVATSで治療した場合、開胸して手術した時と比べて、自然気胸を合併するリスクが高いとされています。VATSで自然気胸のオペをした場合の再発率は10%前後です。1

VATS後の合併症としての気胸の再発は、術後6~12ヶ月にかけて多い2ので、入院中に自然気胸の合併症を発症することはほとんどありませんが、看護師は合併症として気胸が発症することがあることを考慮して、ケアや退院指導をする必要があります。

 

まとめ

胸腔鏡下手術(VATS)の基礎知識や看護計画、合併症としての気胸の再発についてまとめました。VATSは患者への侵襲が少なく、早期離床・早期退院が可能な手術方法ですが、合併症が全くないというわけではありません。術後の合併症を考慮し、看護計画を立案してケアをしていきましょう。

 

参考文献

1)胸腔鏡手術の合併症に関する検討 自然気胸の術後再発を中心に(日呼外会誌 第10巻6号|浅岡 峰雄|1996年9月)

2)自然気胸に対するVATS術後再発症例の検討(日臨外会誌 64(10) 2378-2383|勝野剛太郎、津村眞、國土泰孝、村岡篤、鶴野正基|2003年)


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