アカシジアは抗精神薬の副作用として現れることが多く、動かずにはいられないという衝動に駆られ、患者の精神的な苦痛が非常に大きいことが特徴です。最悪の場合、あまりの苦痛から自殺に至るケースもありますので、看護師は患者の安全を確保しながらケアをしていかなければいけません。アカシジアの原因や症状、看護のポイント、看護計画を説明しますので、実際の看護に役立ててください。
1、アカシジアとは
アカシジアとは、ギリシャ語が語源となっていて、日本語では「静座不能症」と訳されることが多いです。抗精神薬を服用することで発症するケースが多く、動かずにはいられない衝動に駆られ、絶えず動いてしまうために、ずっと座っていたり、同じ姿勢で立っていることができない状態になります。
アカシジアは、次の4つに分類することができます。1)
分類 | 定義 |
急性アカシジア | 原因となる薬を服用後6週間以内に発症 |
遅発性アカシジア | 原因となる薬を服用後3ヶ月以上経過してから発症 |
離脱性アカシジア | 6週間以内に原因薬剤を投与中止・減量している |
慢性アカシジア | 症状が3ヶ月以上続いている |
この4つの中で、最も多いのが急性アカシジアで、原因となる薬を飲んでから数日~2週間以内に発症することが多いです。
2、アカシジアの原因
アカシジアの原因は、薬剤誘発性のものと非薬剤誘発性のものに分類されます。
2-1、薬剤誘発性
アカシジアの原因のほとんどが、薬剤を服用したことによる副作用になります。特に、抗精神薬を服用すると発症することが多いです。ただ、抗精神薬だけでなく、抗うつ薬や抗不安薬、制吐剤、抗けいれん薬、消化性潰瘍用薬、消化器用薬、抗ヒスタミン薬、血圧降下薬、抗がん剤などでも発症するケースがあることがわかっています。2)
2-2、非薬剤誘発性
先ほども説明した通り、アカシジアの原因のほとんどは抗精神薬によるものです。ただ、薬剤とは関係なく、次のような中枢神経疾患が原因のこともあります。
・脳炎
・脳炎後パーキンソニズム ・パーキンソン病 ・両側前頭部外傷 |
原因は抗精神薬と決めつけず、看護師はそれ以外の可能性も考慮しておく必要があります。
3、アカシジアの症状
アカシジアは、次のような症状が特徴です。
<アカシジアの主な症状>
・座位を保つことができない
・静止した状態を保つことができない ・絶えず体を動かし、姿勢を変えている ・足踏みしたり、歩きまわったりする ・脚がムズムズする ・灼熱感がある ・心拍数の上昇 ・息切れ ・気分が落ち着かない ・不安感、不快感がある ・イライラする ・不穏 |
これらの症状は、動くことで多少軽減することが多いです。逆に、動かないでいようとすると、患者の精神的苦痛は増大します。
4、副作用によるアカシジアの看護のポイント
抗精神薬を服用している精神科の患者が、薬剤の副作用でアカシジアを発症した場合の看護のポイントは2つあります。
■早期発見を心がける
副作用によるアカシジアの看護のポイントの1つ目は、早期発見を心がけることです。ただ「動かずにはいられない」という症状だけでなく、不安感や焦燥感など精神的な症状も現れますので、患者本人にとって精神的な苦痛を伴います。あまりにも辛くて、自傷行為をしたり、自殺を試みる患者もいるほどです。
アカシジアは、中枢性抗コリン薬やベンゾジアゼピン系薬剤を投与することで、治療をすることができます。
だから、看護師が抗精神薬を服用している患者をしっかり観察し、早期発見をして、医師に報告しなければいけません。アカシジアはむずむず脚症候群と間違えられることも多いので、注意が必要です。また、落ち着かない感じや不安感、不穏などの症状は、精神疾患による症状と混同するケースも少なくありません。
さらに、症状が軽い場合、「もとから落ち着きがない性格なので」と患者本人から言われて、重症化するまで見逃してしまうということもあります。看護師は、患者本人の苦痛を早く取り除くためにも、抗精神薬やその他の原因となる薬剤の服用開始時期を考慮しながら、アカシジアかどうかをしっかり観察して早期発見に努める必要があります。
■患者や家族への説明
副作用によるアカシジアの患者の看護をする時には、アカシジアについて患者や家族にしっかり説明しておかなくてはいけません。患者や家族は、アカシジアの症状を精神疾患の症状が悪化したと思い、自己判断で薬の服用を中止したり、逆に増量したりします。それによって、精神症状が悪化したり、アカシジアの症状が悪化したりするので、アカシジアは薬の副作用であること、自己判断での服薬中止や増量は危険であることを、患者や家族にしっかり説明しておく必要があります。
また、家族がアカシジアに関する知識を持っていないと、ソワソワと落ち着かない患者に対して「動くな!」、「落ち着け!」、「いい加減にしろ!」のように責めてしまうことがあります。その結果、患者の精神的な苦痛は増大してしまいますので、アカシジアの症状が出たら、患者だけでなく、家族にもその症状の特徴などを説明しておかなくてはいけないのです。
5、アカシジアの看護計画
アカシジアの症状が出たら、症状の程度によっては入院が必要になることもあります。アカシジアの患者への看護計画を2つ説明していきます。
■自殺・自傷のリスクがある
アカシジアの患者は、あまりの精神的な苦痛の大きさに、自殺や自傷をすることがあります。看護師は安全に入院生活を送れるように、看護計画を立ててケアをしていく必要があります。
看護目標 | 自分を傷つけず、安全に入院生活を送ることができる |
OP(観察項目) | ・自殺企図や自傷衝動の有無
・イライラや不穏、不安感の程度 ・言動や表情 |
TP(ケア項目) | ・常に居場所を確認する
・自傷につながる危険物はナースステーションで預かっておく ・目が届きやすいナースステーション近くの病室に入院してもらう ・不安な気持ちを傾聴する ・常に支持的な態度で接する ・不安感が強い時は医師の指示に従って頓服薬を服用してもらう ・気分転換を促す |
EP(教育項目) | ・患者や家族にアカシジアの症状を説明する
・家族に危険物は持ち帰ってもらうように説明する ・自分の気持ちを言葉で表現してもらうように伝える |
■日常生活を規則正しく送れない可能性がある
アカシジアの患者は、絶えず動きたくなる衝動に駆られますので、日常生活を送ることすら難しくなることもあります。症状によっては、睡眠がとれない、食事を摂るのもままならないということになり、休息を取れず、さらにセルフケア不足になることがあるのです。看護師は患者ができる限り規則正しい日常生活を送ることができ、セルフケア不足に陥らないようにケアをしていかなければいけません。
看護目標 | 日常生活を無理なく送ることができ、休息や睡眠を取ることができる |
OP(観察項目) | ・生活リズム
・セルフケアの程度 ・睡眠状況 ・言動や表情 ・不安や焦燥感の程度 ・食事の摂取状況 |
TP(ケア項目) | ・医師の指示に基づいた投薬を確実に行う
・必要な範囲でセルフケアの援助をする ・患者の気持ちを傾聴する ・支持的な態度で接する ・気分転換を促す ・動き回っても転倒等の危険がないようにベッド周囲の環境整備を行う ・患者が少しでも落ち着ける環境を整える ・患者のストレスになることがあるため、消灯後に就寝することを強要しない ・睡眠が取れない時には医師に報告する |
EP(教育項目) | ・患者や家族にアカシジアの症状を説明する
・治療で症状が落ち着くことを説明する |
まとめ
アカシジアは患者本人の精神的な苦痛が非常に大きく、最悪の場合は自殺に至る可能性もあります。看護師はそのリスクをしっかり考慮して、患者の安全を確保しながら、患者の精神的な苦痛、ストレスを取り除き、セルフケア不足にならないようにケアをしていくようにしましょう。
参考文献
1)アカシジアの症候学(第105回日本精神神経学会総会|堀口淳|2009年)
2)重篤副作用疾患別対応マニュアル アカシジア(厚生労働省|2010年3月)