肝臓は体の中で最も大きな臓器で、代謝・解毒・胆汁の生成や分泌などの機能を持ちます。予備能力に優れているため、肝機能が半分以下に落ちないと症状が認められません。このため、症状が出てきた頃にはかなり進行しています。「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓、 症状や原因を踏まえた看護をしていく必要があります。
1、肝硬変とは
肝硬変とは、長期に渡って肝細胞の破壊が起こることでびまん性に繊維の増生と肝細胞の壊死が見られ、かつ肝細胞の壊死に対して再生が反復されることで肝小葉の改築と再生結節が形成されます。これに伴って生じる肝内血管系の変化を伴う慢性の肝臓障害です。肝硬変は様々な原因によって生じた慢性肝炎が長い経過をたどった後の終末像と言えます。
2、肝硬変の原因
肝硬変の原因のほとんどは肝炎ウイルスによるものです。この他の原因としてアルコール性・非アルコール性、自己免疫性、代謝性などがあります。これらにより肝臓が炎症を起こすと、肝臓はそれを修復するためにコラーゲン線維の増生と肝細胞の再生が必要となります。炎症が反復されることで肝細胞の再生が間に合わず、肝臓が線維化し組織構造が変化、肝臓の表面が凸凹になり肝硬変へと移行します。
3、肝硬変の症状
肝臓は体内の最も重要な代謝器官で、ひとたび障害が起こると身体的症状のみならず、性格や行動にも症状が現れます。肝臓の持続感染により慢性肝炎が肝硬変へと移行していくと以下のような症状が現れます。
1.全身倦怠感
2.易疲労感
3.食欲不振
4.腹部膨満
5.手掌紅斑
6.くも状血管拡張(前胸部・肩・首など)
7.腹水
8.黄疸
9.腹壁静脈拡張
10.肝性脳症
11.浮腫
12.食道・胃静脈瘤
13.女性化乳房
14.睾丸萎縮
4、看護診断と看護過程
肝硬変の患者さんの状態を全体的に分析・把握し、個々にあった看護を行っていく必要があります。
4−1、身体活動性の障害
情報 解釈・分析 看護診断
1.患者情報
・既往歴
・家族構成
・社会的役割
・趣味など
・生活パターン
2.活動・運動
・日常生活の状態
・体力・活力の状態
・安静や活動制限
3.栄養・代謝
①栄養状態
・食欲、摂取量
・体重の増減
・検査データ
②活動を制約する因子
・肝機能障害
・全身倦怠感、易疲労感
・食欲不振
・浮腫
・腹水貯留、腹部膨満
・黄疸
・検査データ
・エネルギー代謝を行なっている肝臓の機能が低下することにより、エネルギー代謝障害をきたし、肝臓の予備力も低下した状態。全身倦怠感・易疲労感・食欲不振が生じる。これらは、活力や活動の低下の原因となる。
・症状が進むと腹水貯留による腹部膨満、呼吸困難により更に活動性が低下する。
・肝硬変における腹水貯留は、低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧低下、門脈圧亢進症のための毛細血管内圧の上昇とリンパ漏、二次性高アルドステロン血症によるNa貯留により起こる。
・TP 4g/dl, Alb 2.7g/dl以下になると血漿の膠質浸透圧が低下して腹水が貯留する #肝機能低下による全身倦怠感、腹部膨満や肝庇護のための活動制限に関連した身体可動性の障害
4−2、組織循環の変調
情報 解釈・分析 看護診断
1.循環動態
・バイタルサイン
・脈拍の緊張・リズム不整
・呼吸状態
・口唇・皮膚・爪の色や状態
・四肢冷感
・冷汗・皮膚の浸潤
・尿量の減少
・意識レベルの低下
2.食道静脈瘤破裂の徴候
・前駆症状:胸部不快感、悪心、全身倦怠感など
・吐物の性状・潜血反応
・便の性状
・吐血・下血
・貧血症状
・検査データ
3.食道静脈瘤の状態
・内視鏡検査所見
4.出血傾向の程度
・検査データ
・脾腫
・皮下出血や歯肉出血
・肝硬変では、肝内肝静脈の閉塞による肝内血流障害が原因で門脈圧亢進が起こる。
・門脈圧が亢進すると、食道静脈は門脈系と上大静脈を結ぶ側副血行路となり、門脈血や脾静脈血が食道静脈を経て上大静脈へ流れ込む。
このため、食道静脈内圧は亢進し食道静脈瘤が形成される。
・食道静脈瘤が拡張してくると破裂・出血の危険性が高くなる。
種々の原因により静脈瘤が破裂すると大出血となり、全身の組織循環障害を起こし、出血性ショックに陥る。このため、食道静脈瘤の予防と早期発見は非常に重要である。
・血液凝固因子の生成が障害され出血傾向となる。門脈圧亢進を起こしている場合は、脾機能亢進による血小板減少により出血傾向が強くなる。
・ショック状態になると心機能は低下、循環障害が起こる。
・ショックによる低心拍出量は脳循環血液量の減少に繋がる。
・腎動脈圧が80mmHg以下になると腎血流は低下、血尿や無尿状態となる。
・出血に伴い肺動脈圧の低下、肺血流量の低下が起こり、代謝性アシドーシスとなり肺換気能率は低下する。
出血量が多いと肝血流量も減少、他の消化管の循環血液量の減少に繋がる。
・肝硬変の出血は出血量が少なくても肝不全を誘発するため、消化管出血のある肝硬変は予後が悪い #出血傾向、門脈圧亢進による食道静脈瘤破裂の危険性に関連した組織循環の変調
4−3、思考の変調
情報 解釈・分析 看護診断
1.認知・知覚
①意識と状態
・意識レベル・反応
②精神状態
・集中力・注意力
・気分・感情
・性格
・行動の様子
③知覚・感覚の状態
・見当識・認識力・記憶力
④神経症状
・羽ばたき振戦
・腱反射・筋緊張
2.睡眠・休息
①睡眠パターン
・睡眠状態
・睡眠と覚醒のリズム
3.栄養・代謝
①肝機能検査
・アンモニア値
②肝性昏睡を誘発する因子
・アンモニアの増加
・消化管出血
・たんぱく質過剰摂取
・便秘
③代謝異常
・感染
・利尿剤や睡眠薬などの投与状況
・多量の腹水穿刺 ・代謝障害によりアンモニアが尿素に転換されず、肝周囲での短絡があるためアンモニアが直接脳に達して、肝性昏睡を起こす。
・高アンモニア血症は、肝臓に流入したアンモニアが尿素に転換されないために起こる
・腸管内でアンモニアを増加させるものに、たんぱく質の過剰摂取、便秘、消化管出血などがある
・便秘による便の長時間腸内滞留が腸内細菌のアンモニア生産量を増加する。
肝性昏睡の発症・悪化の予防するためにこれらを起こさないようにすることが必要である
・低酸素血症、高尿酸血症、低K血症、高血糖、アルカローシスなどの代謝異常を起こすものも肝性昏睡の原因となる
・代謝異常・肝機能障害を認める患者への与薬・処置については十分に注意する。
・精神神経症状が生じた場合は転落や転倒事故の防止に努める。
・肝性脳症の初期症状として、思考能力の低下、精神錯乱状態、失見当識などが見られるので、注意深く観察する。 #肝機能低下による血清アンモニア値上昇に関連した思考の変調
5、肝硬変の看護計画
患者さんのアセスメントができたら個々の患者さんに応じた看護計画を立て、観察・ケアを行います。
5−1、目標:安静を守りながらニーズに応じた活動ができる
■OP
1.全身倦怠感・易疲労感の有無と程度
2.食欲の有無・食事摂取量
3.浮腫の有無・程度
4.腹水・腹部膨満の有無・量
5.腹囲・体重の増減
6.検査データ
7.IN-OUTバランス
8.黄疸の有無・程度
9.治療に対する認識・理解度
■TP
1.医師の指示のもと塩分制限、水分制限を行う
2.尿量などから必要に応じて利尿剤、アルブミン製剤などの与薬を行う
3.倦怠感や疲労感が強い時は無理せず安静にしているよう話す
4.指示された安静が守れるよう配慮しながら必要な活動が行えるよう援助する
5.腹部膨満が強い時は呼吸運動を妨げないよう体位の工夫をする
6.締め付けのない衣類を工夫する
7.安静による下肢の筋力低下・循環障害の予防を行う
8.褥瘡予防に体位交換やクッションを使用し除圧を行う
■EP
1.栄養指導を行い、高タンパク、高ビタミン、高カロリー食をバランスよく摂取できるようにする
2.安静についての説明を行い理解と協力を得る
5−2、目標:食道静脈瘤の破裂の予防ができ、異常時の早期発見適切な処置ができる
■OP
1.バイタルサイン
2.口唇・皮膚などのチアノーゼの有無や色
3.四肢の冷感や皮膚の浸潤
4.尿量
5.意識レベル
6.胸部不快感
7.嘔気・嘔吐・腹痛の有無
8.ふらつき、立ちくらみの有無
9.検査データ
10.内視鏡所見
11.出血傾向の有無・程度
12.排便状況
■TP
1.食事:硬いものや刺激物を避ける
2.破裂の危険性が高い時やその徴候がある時は絶食とする
3.便通を整える:必要に応じて下剤の使用をする
4.心身の安静を図り、不安の除去に努める
■EP
1.食道静脈瘤及び破裂の誘因・症状などについて説明する
2.安静と運動制限や入浴制限の必要性を説明する
3.食事は熱いものや硬いものは避けるよう説明する
4.よく噛んでゆっくり嚥下するよう説明する
5.排便コントロールや便の性状・形態の観察の必要性を説明する
6.心身のリラックスを促し興奮したり怒鳴ったりしないよう指導する
7.排便時の怒責や強い咳き込みなどによる腹腔内圧の上昇を避けるよう指導する
5−3、目標:腹水・浮腫による苦痛の軽減が図れる
■OP
1.バイタルサイン
2.腹部膨満、腹痛の有無
3.浮腫の程度
4.倦怠感の程度
5.IN-OUTバランス
6.体重・腹囲測定
7.利尿剤の効果
8.排便状況のチェック
9.検査データ
■TP
1.食事の塩分制限を行う
2.利尿剤の正確な与薬をする
3.ビタミン摂取量、必要カロリーの維持
4.衣類は締め付けのないものを使用する
5.安楽な体位の工夫・必要に応じて体位交換を行う
6.下肢の浮腫が強い時はクッション等で挙上する
7.腹水穿刺を行う際はショックの出現に注意する
8.腹水穿刺後は液漏れの有無を確認する
■EP
1.塩分制限や水分制限の必要性について説明・指導する
2.安静が守れるよう指導する
3.苦痛・不安があればいつでも話してもらうよう話す
この他にも不安、黄疸、退院後についてなどに関する計画も立案できると思います。それぞれの患者さんの病状やコミュニケーションをとっていく中で必要なものを看護計画として立案していくと良いでしょう。
6、非代償期における看護計画
肝硬変には「代償期」と「非代償期」の二つがあります。代償性肝硬変が進行すると非代償性肝硬変へと移行していきます。この二つの違いは症状があるかないかで、非代償期では肝機能は低下、黄疸・腹水・肝性脳症・門脈圧亢進症状等を認めます。
6−1、目標:肝性昏睡が出現しない・誘因を知り予防策が取れる
■OP
1.意識レベル・反応(バイタルサインと合わせて)
2.睡眠状態
3.気分や感情の変化
4.異常行動の有無
5.知覚・感覚障害の有無
6.黄疸の有無と程度
7.IN-OUTバランス
8.電解質バランス
9.排便状態
10.消化管出血の有無
11.検査データ
12.腹水・浮腫の有無・量と程度
13.腹囲・体重の増減
14.利尿剤・鎮痛剤等の使用状況
15.腹部膨満・腹壁静脈怒張
16.くも状血腫
■TP
1.たんぱく質の摂取を制限する(高アンモニア血症またはその徴候がある時)
2.便秘しないよう下剤の使用や浣腸・内服を検討する
3.皮膚や粘膜の清潔の保持
4.安静の保持ができるよう援助する
5.指示の薬物を確実に与薬する
6.肝性昏睡が出現時は転落や転倒などの事故防止をする(ベッド柵の使用など)
7.不穏時は医師と相談し鎮静剤を使用する
8.肝性昏睡に陥った場合は禁食とし、輸液を行う
■EP
1.肝性昏睡の誘因や症状などについての説明を行う
2.安静の必要性を説明する
3.たんぱく質摂取制限についての説明・指導を行う
4.排便のコントロールの重要性について説明・指導を行う
引用:先進医療.net
まとめ
近年、肝硬変は治療可能な病気になりつつあります。肝炎ウイルスの除去、合併症が予後を左右すると言われていますが、個々の患者さんにより治療過程や予後は変わってきます。病気だけではなく、患者さん自身やその背景にあるものを全体的にみて適切なケアが提供できるようにしていきましょう。
参考文献
肝変ガイドブック – 日本消化器病学会(2010/09/30)
Child-Pugh分類と肝性脳症の昏睡度