冠動脈が閉塞し、心筋組織が壊死に陥る心筋梗塞。閉塞する場所が悪かったり、治療が遅れると、治療後も重症心不全を起こす危険性の高い疾患です。診断と初期治療を並行して行い、心筋のダメージを抑えるため早期に再灌流治療を行います。緊急性が高いため、もし目の前で胸部症状を訴える患者がいたらただちに動けるよう、ここでしっかり学習しましょう。
1、心筋梗塞とは
冠動脈内の血栓形成や冠動脈攣縮により、冠血流が突然減少または閉塞し、心筋の酸素需要が増加した結果、虚血が進展し、心筋組織が壊死します。この状態を心筋梗塞といいます。障害を受けた組織は3層に分けられ、心筋梗塞の重症度は障害層や虚血層の状態に左右されます。
・第1層:壊死に位置言った心筋細胞・毛細血管および結合組織からなる中心領域
・第2層:第1層の周りにある傷害された細胞。十分な循環が早期回復すれば復活する可能性あり。 ・第3層:虚血が特徴的な細胞。虚血が持続したり悪化しなければ回復の余地あり。 |
虚血は徐々に壊死へと進行し、6時間で梗塞過程は完成してしまうため、壊死が限局するよう十分な血流を回復させることが重要です。また心筋梗塞は、梗塞部位により前壁中隔梗塞、側壁梗塞、下壁梗塞、純後壁梗塞に分類されます。
2、心筋梗塞の症状
前駆症状として、約50%の患者が急性心筋梗塞発症4週間以内に狭心痛発作を起こします。発症時には締め付けられるような激痛が20分以上持続し、同時に背中や左肩への放散痛も認められ、冷汗・不安感・顔面蒼白を伴うことも。あるいは呼吸困難や悪心嘔吐を初発とすることもあります。しかし、高齢者や糖尿病患者は胸痛を訴えない場合もあるため治療が遅れやすい傾向にあります。
3、心筋梗塞の検査
■心電図(ECG)
心電図の変化は進行性で梗塞の進展を示します。急性期ではST上昇がみられ、その後T波陰転と異常Q波がみられます。異常なQ波は心筋の壊死を示し、幅が0.04秒以上あるいは通常みられない誘導に存在している時は病的とみなし、通常は半永久的に残ります。STの上昇は心筋の障害を示し、2~3日で正常に戻ります。ST上昇が万が一4~6週にも及ぶ場合は心室瘤を疑うべきです。
出典:心筋梗塞の心電図変化(町医者の「家庭の医学」みやけ内科・循環器科)
梗塞部位は、特徴的な心電図を示す誘導を同定することで決めることができ、梗塞部位による症状の違いは以下の表を参照してください。
梗塞部位 | 主な閉塞枝 | 主な合併症 |
前壁中隔 | 左前下行枝(LAD) | ショック、寝室中隔穿孔、心室瘤、心室頻拍、房室ブロック、心不全、心破裂(予後不良) |
側壁 | 左回旋枝(LCX) | 心機能低下、左脚ブロック |
下壁 | 右冠動脈(RCA) | 房室ブロック、洞性徐脈、乳頭筋機能不全、乳頭筋断裂、右室梗塞 |
純後壁 | 乳頭筋機能不全、乳頭筋断裂 |
出典:看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|C-55 2015/03/19)
■臨床検査 酵素
発症 | ピーク | 正常への回復 | |
SGOT | 6~12時間 | 36時間 | 5~7日 |
CPK-MD | 4~12時間 | 24時間 | 3~4日 |
LDH(アイソザイム) | 24~48時間 | 3~6日 | 8~14日 |
■末梢血(CBC)
白血球の増加と赤沈値の亢進は心筋の損傷を反映するためチェックしましょう。
■臨床検査 グルコース、脂質
グルコース:上昇しない
脂質レベル(トリグリセリド、コレステロール、HDL,LDL):リポタンパクの異常を判定するためチェックします。
■タリウム-201シンチグラフィー
確定診断に用いられる検査で、虚血領域はタリウム摂取低下を反映しcoldな部分として現れます。
出典:心筋シンチ(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院)
■テクネシウム-99mによる血液プールイメージング
駆出率を測定することで心室機能を評価できる検査で、通常急性心筋梗塞後2~6日以内に行います。貫壁性梗塞の範囲と部位を判定することにより心筋障害を確認します。
出典:[33]RI検査で何がわかる?(国立循環器病研究センター循環器病情報サービス)
■心臓カテーテル検査、冠動脈造影
急性期では診断には用いられません。血栓溶解剤の投与や経皮的冠動脈形成術に際に行われます。
出典:心臓カテーテル検査(医療法人錦秀会阪和記念病院)
4、心筋梗塞の治療
4-1、急性期:急性心筋梗塞
ベッド上安静にして不整脈モニタリングしながら酸素投与を開始し、心筋へのダメージを抑えるため早期に再灌流治療を行います。血栓予防のためにアスピリン、ヘパリンを、胸痛を緩和するためモルヒネを投与します。加えて状態に応じ冠動脈造影を行い、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、冠動脈バイパス術(CABG)も考慮します。心筋梗塞の薬物療法の詳細については以下を参照してください。
[血管拡張剤] 亜硝酸剤
・ニトログリセリン(0.4~0.6mg)、硝酸イソソルビド(5mg) 用法:舌下投与 作用時間:30分~2時間
・硝酸イソソルビド(10~20mg、1日4回)、2%ニトログリセリン軟膏の局所投与(1回2.5~5cm、4~6時間間隔) 作用時間:6時間以上
[β遮断薬] ・チモロール 適応:心筋梗塞の再梗塞と死亡率の低下、高血圧症 常用量:1回20~60mg、1日2回
[ストレプトキナーゼ(ウロキナーゼ)] 適応:梗塞初期(発症から4~6時間以内)に心筋の酸素の供給を回復し、心筋を保護そ梗塞を限局させる 常用量:30~60分以上かけて50~170万単位
[抗血小板剤] ・アスピリン 適応:冠動脈血栓症の調節と粥状変性の進行の予防 常用量:1日325~1300mg ・ジピリダモール(ペルサンチン) 適応:大伏在静脈による冠動脈バイパスグラフトの開存維持のためアスピリンと併用される 常用量:食前1時間、1回100mg、1日3回(アスピリンは食後325mg、1日3回) |
また、急性の胸痛がある患者は、評価・管理・監視のために冠動脈疾患治療室(CCU)や冠動脈疾患観察室への入院も考慮されます。入院中は冷たい飲み物は600~800mlに制限し、カフェインなど心臓に刺激を与えるものも禁止します。
4-2、回復期
リハビリテーションを行うと同時に、再発防止のため血圧のコントロール、脂質異常症の治療、糖尿病のコントロール、禁煙、運動などを指導していきます。
5、慢性(陳旧性)心筋梗塞とは
陳旧性心筋梗塞とは、急性心筋梗塞後の慢性期のことを指します。心臓のポンプ機能が低下して活動性が減少し、心不全の症状が出現することも。梗塞が起こった場所によっては心室瘤や心拡大、僧帽弁閉鎖不全症を起こし難治性の虚血性心筋症という病態に陥ります。
6、心筋梗塞の看護計画
6-1、心拍出量の変調:減少
■看護目標 心拍出量の減少が抑えられる
■観察項目
[急性期]
・5~15分ごとのバイタルサイン ・リズム障害の有無 ・1~4時間ごとの呼吸音と心音 ・水分出納 [回復期] ・早期合併症(低血圧、不整脈、心不全、心破裂)の徴候 |
■ケア項目
[急性期]
・指示に応じて薬剤投与 ・必要に応じてスワンガンツカテーテルと中心静脈圧ライン挿入の準備をする [回復期] ・患者の状態が安定していればアームチェア療法を始める |
6-2、安楽の変調:痛み
■看護目標:痛みが軽快したと感じられる
■観察項目
[急性期]
・表情、言動 ・痛みの程度 ・痛みが出現した以前の患者の活動 ・バイタルサイン ・12誘導所見 |
■ケア項目
[急性期]
・ベッド上安静を守る ・痛みをとるため指示に応じて薬剤投与 ・指示があれば酸素吸入実施 ・胸痛発作時には頻回にバイタルサイン聴取 ・12誘導実施 [回復期] ・指示に従い長時間作用型の亜硝酸剤投与 |
まとめ
心筋梗塞は梗塞部位や治療の遅れにより、治療後も重症心不全になることもある恐ろしい疾患です。治療後もリハビリが必要になったり、活動や食事が制限され今までのように生活できないことを不自由に感じる方も少なくありません。心筋梗塞発症時には的確で素早い対応ができるよう、何度も復習して備えましょう!
参考文献
クリニカルナーシング3循環器疾患患者の看護診断とケア(石川稔生、樋口康子、小峰光博、中木高夫|株式会社医学書院|47-57 1990/08/01)
狭心症・心筋梗塞(町田市民病院)
看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|C-55-59 2015/03/19)