神経因性膀胱は泌尿器科の疾患ですが、排尿機能障害に関わる疾患の総称として表現されています。排尿機能障害は、原因や症状によってたくさん存在し、看護ケアも症状や障害の程度、ADLによっても変わってきます。神経因性膀胱の原因や症状について詳しくご紹介しますので、看護ケアにぜひ役立ててください。
1、神経因性膀胱とは
神経因性膀胱とは、脳血管障害、脊髄障害、神経変性障害などの中枢や末梢の神経の変化が原因となって起こる下部尿路機能障害の総称です。通常は膀胱内に尿がたまると、膀胱内のセンサーが尿の充満を感知して大脳に信号が送られます。その信号によって、大脳は膀胱や尿道、排尿に関わる筋肉に指令を出し、膀胱を収縮させて尿を押し出し、収縮して尿が出ないように止めていた尿道や尿道口を弛緩させて排尿させます。排尿が終わると膀胱は弛緩し、再び尿を貯めることができるように準備し、尿道は収縮して尿が漏れ出ないようにします。
出典:石上鍼医院
このように、排尿には神経の伝達と、骨盤内の筋肉や膀胱、尿道の収縮と弛緩がされることで行われます。神経因性膀胱は、この神経の伝達や筋肉、膀胱、尿道口の機能に何らかの原因で障害が起こり、排尿に問題が生じた状態をいいます。神経因性膀胱は何らかの原因によって起こるものですが、その原因とされているものには脳血管障害、精髄障害、末梢神経の疾患があります。
脳血管障害としては、脳出血、パーキンソン病、認知症、多系統萎縮症、脳腫瘍などがあり、精髄障害には、脊髄損傷、多発硬化症、脊髄腫瘍、脊髄血管障害、二分脊椎、脊椎変性疾患(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症)などがあります。また、末梢神経の疾患には、糖尿病や骨盤内の手術操作による合併症があります。
2、神経因性膀胱の症状
神経因性膀胱には大きく分けて上位型と下位型の2つに分けられます。上位型は痙性神経因性膀胱といい、仙髄より中枢の神経が原因となる排尿障害で、膀胱が過敏になります。症状としては、頻尿や尿失禁が上位型の症状にあたります。下位型は弛緩性神経因性膀胱といい、膀胱が弛緩しきった状態で収縮ができなくなった状態になります。この場合、尿意を感じることができなくなったり、尿閉、溢出性尿失禁、排尿困難などがあります。他に、骨盤内の筋肉の機能障害によって排便困難や性機能障害、尿意がわからないために膀胱内に尿がいつも充満した状態となることでの膀胱炎や腎盂腎炎や尿路感染症、腎機能障害などを併発することもあります。
3、神経因性膀胱の診断と治療
神経因性膀胱は、どこの部位がどうして原因となっているかによって治療方法が異なるために、次のような必要な検査を行います。
3-1、問診
排尿障害がいつから、どのような症状があるのか、また、神経因性膀胱となった原因を探るために既往歴、手術歴、事故や外傷経験はないかなどを問診します。
3-2、排尿機能検査
尿流量測定検査、残尿測定検査、ウロダイナミクス検査などを行い、排尿障害の程度を調べます。
3-3、腎機能障害の有無
超音波検査、腎シンチグラフィー、血液検査などを行い、感染の有無や膀胱、腎臓などの機能や形状を調べます。
3-4、尿検査
尿中の成分を分析して、膀胱炎、尿路感染症の有無や原因を調べます。
3-5、治療
神経陰性膀胱の治療は、症状や障害の程度によって治療方法は異なりますが、薬物療法によるものは根本的な治療方法ではなく、薬物療法を含めて、機能を回復、改善できるような保存的、また、長期的な方法での治療を行います。尿を溜めておくことができない蓄尿障害と、溜まった尿を排尿できない排尿障害の障害別の治療方法は次の通りです。
■蓄尿障害
尿道口や尿道を収縮させて尿を漏出しないようにするために骨盤底筋を鍛える骨盤底筋体操や、膀胱内に尿を貯めるようにする膀胱訓練の他に、薬物療法として過敏となっている膀胱の緊張を和らげるために抗コリン剤やβ3受容体刺激剤などが使用されます。
■排尿障害
排尿時に腹圧をかけたり、排尿の姿勢を工夫する排尿訓練や、薬物療法として排尿筋に収縮力を強くするために副交感神経刺激薬や、尿道口の収縮が強い場合には尿道括約筋を弛緩させるためにα遮断薬が使用されます。
他に、薬物療法でも効果が見られない場合には、間欠自己導尿を行なったり、膀胱留置カテーテルを使用することもあります。膀胱留置カテーテルは、蓄尿バッグを脚や腰に付けて、日常でも使用できるような工夫もされています。
出典:MPIストア
4、神経因性膀胱患者への看護目標
神経因性膀胱は、自然に起こる疾患ではなく、何らかの疾患が原因となって合併症として出現することが多く、原因となっている疾患の急性期を乗り越えてから症状があることがわかるためにショックや不安が出現することがあり、精神的なサポートが大切になります。そして、即効性のある治療方法はなく、長期的な計画での機能の回復や現状での生活を行うためにもサポートが必要です。また、排尿に関わることなので、羞恥心に配慮した関わりも重要なことです。
症状を放置してしまうと尿路感染症や腎機能障害などを引き起こすことになり、感染の防止や、自己管理も重要です。薬物療法で治療を行なってもすぐに治癒することは難しく、排尿はQOLに関わることでもあるので、日々の訓練などが無理なく行えるようにサポートして、患者自身が上手く神経因性膀胱と付き合っていけるようにすることが目標となります。
5、神経因性膀胱患者の観察項目
神経因性膀胱患者をケアする上で必要な観察項目は次のようなものがあります。
①排尿回数、頻度
②排尿所要時間 ③排尿困難感・排尿痛・残尿感の有無 ④尿失禁の有無、程度 ⑤尿量・性状 ⑥不安の有無・内容 ⑦膀胱訓練・骨盤底筋体操・排尿訓練の方法、理解度 ⑧水分摂取量、飲水内容 ⑨薬物療法の内容 ⑩尿路感染の有無(血液データ、バイタルサインなど) ⑪自己導尿の方法、理解度 |
6、神経因性膀胱の看護計画
神経因性膀胱の患者に対する看護ケアは、原因となる急性期の状況を乗り越えての合併症であることや、排泄行動であることの羞恥心、日常生活行動に関わることであるため、看護計画は精神的なサポートやQOLを向上させるようなケアが重要です。
具体的には以下のような看護ケアを行います。
①排尿のペースをつけるように、時間を見て排尿のタイミングを伝える
②自力で排尿できるように、体位を工夫したり、腹圧の掛け方を指導する
③間欠自己導尿の指導をする(清潔操作、管理方法など)
④飲水量の調整する(夜間は控える、時間によって量を決めるなど)
⑤排尿指導するときは、プライバシーを考慮した場所で行う
⑥骨盤底筋体操の指導をする
出典:医療法人神楽岡泌尿器科
⑦神経因性膀胱についての思い、不安などを傾聴する
⑧日常での生活行動をアセスメントし、生活スタイルに合った排尿方法を指導する
⑨失禁があったときは、速やかに排泄物を片付ける
まとめ
神経因性膀胱は、この疾患によって生命の危機に直面することはありませんが、排泄行動という日常生活行動では欠かすことができないことに関わるものであり、長期的に排泄機能の回復を図るものであるため、精神的な看護ケアや日常生活に状況に合わせた排泄行動をうまく組み込む工夫が大切になります。
神経因性膀胱の看護ケアは、患者にとってのQOLに大きく影響を与えるものなので、しっかりと理解して関わっていきましょう。
参考文献
神経因性膀胱に関する実験的研究(栗原 三千雄|1965年)