胸膜癒着術とは難治性胸水の患者に対して行う処置で、胸膜を癒着させて胸水が溜まるスペースを閉じてしまうことで胸水が溜まらないようにする治療法です。
胸腔癒着術は胸腔ドレーンの挿入が必要で、胸膜に故意に炎症を起こす治療法になりますので、看護師は副作用の早期発見や胸膜癒着術によって起こる看護問題に対して、適切な看護をする必要があります。
1、胸膜癒着術とは
胸膜癒着術とは、胸水が溜まるスペース(胸腔)に薬剤を入れて癒着を起こして閉じることで、胸水が溜まらないようにする処置のことです。
出典:呼吸器Q&A 胸部エックス線画像で異常があり、胸水が溜まっていると言われました 日本呼吸器学会
肺は2枚の薄い膜でおおわれています。内側の膜を臓側胸膜、外側の膜を壁側胸膜と言いますが、この臓側胸膜と壁側胸膜の間に胸水が溜まります。
一般的な胸水の治療は胸腔ドレーンを挿入して胸水を抜いたり、利尿剤などを用いて胸水を減らしますが、難治性の胸水の場合は胸水を排出しても、またすぐに溜まってしまいます。
その場合は、2枚の胸膜を薬剤で化学的に癒着させることで、胸水が溜まる空間をなくしてしまう胸膜癒着術を行います。薬剤を胸腔内に注入して胸膜に炎症を起こすのです。
炎症が起こると、フィブリンが析出され、それによって隔壁形成が起こるので、胸膜が癒着します。薬液を注入することで、故意に炎症を起こし、炎症が治癒する時の過程を利用して、胸膜を癒着させてしまうというわけです。
胸膜癒着術の適応疾患は気胸や癌性胸膜炎です。肺がんや悪性中皮腫などは、滲出性胸水が溜まりやすく、胸水を抜いても抜いても、どんどん溜まってきてしまうので、胸膜癒着術を行うことが多いです。
胸膜癒着術は胸腔を閉じてしまうことで、胸水が溜まるスペースをなくすことができますが、一度癒着してしまった胸膜は、二度と剥離させることができないというデメリットがあります。
2、胸膜癒着術の施術方法
胸膜癒着術の施術方法は胸水ドレーンを挿入して、そこから薬剤を注入して行います。胸腔ドレーンの挿入方法や看護は、「胸腔ドレーンの仕組みと管理とエアリーク・抜去における看護」を参考にしてください。
①胸腔ドレーンを挿入して、全て排出しておく。排液量が150ml/日を下回ると、胸膜癒着術の施行が可能になる。
②胸腔ドレーンをクランプする。
③麻酔のために、1%キシロカインを20ml程度を胸腔ドレーンの側管から注入する。
④胸膜を癒着させるための薬液を注入する。薬剤はタルク(鉱物製剤)、ピシバニール(抗がん剤)、ブレオマイシン(抗がん剤)、ミノマイシン(抗生物質)などが用いられる。
⑤薬液注入後は、薬液が胸腔内に行き渡るように頻回に体位交換をする。右側臥位→仰臥位→左側臥位→座位→腹臥位→頭部を下げての仰臥位など。
⑥医師の指示に基づいて、胸腔ドレーンのクランプを開放する。開放する時間は薬液注入2時間後が一般的。
⑦クランプ開放後、胸水が150ml/日以下だと胸腔ドレーンの抜去が可能。それ以上の排液が続く時は、再度胸膜癒着術を行うことを考慮する必要がある。
3、胸膜癒着術の術後の副作用
胸膜癒着術の術後は次のような副作用が起こることがあります。
・胸腔ドレーン挿入時の出血や気胸
・再膨張性肺水腫
・発熱
・疼痛
・消化器症状
・迷走神経反射による血圧の低下
・薬剤アレルギーの症状
・呼吸不全
・全身性炎症反応症候群(SIRS)
・膿胸
・癒着後の再貯留時の気胸や血胸
胸膜癒着術の術後は、発熱と疼痛がほとんどの患者さんに起こります。これは、薬剤を注入したことで、胸膜に炎症が起こっているからです。タルクという鉱物製剤はほかの薬剤に比べて、発熱しにくいと言われていますが、それでも発熱する患者さんは多いので、注意が必要です。
また、この薬剤による炎症は、一般的にはすぐに治まりますが、まれに炎症が広がってしまい、膿胸や全身性炎症反応症候群を起こすこともあります。
4、胸膜癒着術の看護問題
胸膜癒着術を行った患者の看護問題は、薬剤を注入したことでの炎症が起こっていること、ドレーン挿入による感染リスクがあること、胸腔ドレーンが挿入されていることで行動が制限されることによる苦痛の3つが挙げられます。
胸膜癒着術は薬液を使って、わざと胸膜に炎症を起こして、胸膜を癒着させる治療法ですので、炎症に伴う発熱や疼痛などの症状が現れるため、それを緩和させるための看護を行わなくてはいけません。
また胸腔ドレーンを挿入していることで、感染のリスクが生じます。胸膜に炎症が起こっている状態で、さらに感染が起こったら、炎症が全身に広がって、全身性炎症反応症候群を引き起こす可能性があります。
胸膜癒着術を施行した後は、すぐに胸腔ドレーンを抜去できるわけではありません。胸水の排出量を見ながら、治療が上手くいったとしても術後1~2日はドレーンを挿入しておく必要があります。
もし、癒着が上手くいかない場合は、再度胸膜癒着術を行う必要がありますので、挿入期間はさらに長くなるのです。
胸腔ドレーンを挿入していると、どうしても行動は制限されますので、それによる苦痛・ストレス、セルフケア不足が生じるため、それに対して看護師は援助しなければいけないのです。
4-1、胸膜癒着術の看護計画
胸膜癒着術の看護計画を先ほど挙げた3つの看護問題に沿ってご紹介します。
■胸膜癒着術の施行による炎症が起こっていることへの看護計画
看護目標 | 炎症による疼痛や発熱が緩和する |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・血液データの炎症所見(WBCやCRP) ・言葉による疼痛表現 ・疼痛の有無や程度、持続時間 ・苦痛表情の有無 ・睡眠状態 ・食事量 |
TP(ケア項目) | ・指示に基づいた疼痛緩和薬(解熱剤)の投与
・安楽な体位の工夫、体位交換 ・気分転換を図る ・不眠時には指示に基づいた眠剤の投与 ・不安を傾聴し、安心感を与える ・クーリング |
EP(教育項目) | ・痛みの原因を説明する
・痛みが強い時は我慢しないように伝える ・レスキュー薬を使えることを説明する ・安楽な体位を指導する |
通常は鎮痛剤の第一選択はロキソニンですが、胸膜癒着術は故意に胸膜に炎症を起こすことで、癒着を起こす治療法ですので、抗炎症作用が強いロキソニンは用いられないことが多いです。
代わりに抗炎症作用がほとんどないカロナールが用いられることがあります。
■ドレーン挿入による感染リスク状態の看護
看護目標 | 感染が起こらない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・血液データの炎症所見(WBCやCRP) ・呼吸状態(呼吸音、呼吸様式、呼吸苦の有無) ・ドレーン挿入部の発赤、腫脹、疼痛の有無 ・胸腔ドレーン管理、吸引圧 ・排液の量や性状、変化 |
TP(ケア項目) | ・ドレーン挿入部の消毒やガーゼ交換
・ドレーン周囲の清潔を保つ ・衣類の清潔を保つ |
EP(教育項目) | ・挿入部に痛みや異常を感じたら報告するように伝える
・挿入部には触れないように指導する |
■セルフケア不足の看護計画
看護目標 | 援助によりニードが充足する |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・疼痛の有無 ・睡眠状態 ・呼吸状態 |
TP(ケア項目) | ・体位を工夫して、安楽に努める
・身体の保清 ・身の回りの介助 ・患者の訴えの傾聴 |
EP(教育項目) | ・必要時はナースコールを押すように説明する
・歩行許可があれば胸腔ドレーンの扱い方を指導する |
胸腔ドレーンが挿入されている事でのセルフケア不足は、患者さんの状態やADL、安静度によって変わってきますので、その患者さんの状態を総合的にアセスメントして、1人1人に合った看護計画を立案するようにしましょう。
まとめ
胸膜癒着術の基礎知識や施術方法や副作用、看護問題、看護計画などをまとめました。胸膜癒着術後は疼痛と発熱がほとんどのケースで発生しますし、全身性炎症反応症候群や膿胸、呼吸不全などの重篤な副作用が起こる可能性がありますので、看護師はしっかり観察して、ケアをするようにしましょう。