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悪性症候群の看護|抗精神病薬の副作用や悪性症候群の原因と看護計画

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悪性症候群の看護

統合失調症や躁状態の治療薬として承認されている精神神経用薬(主として抗精神病薬)の副作用が、悪性症候群です。主に精神科で使う薬ですが、心療内科、内科など多くの診療科、総合診療科(プライマリーケア)でも使いますので、精神科だけの問題ではありません。

早期に治療すれば完治します。しかし、重篤化すれば死亡に至ることもあり、看護の役割はこの副作用に陥った患者を一刻も早く発見することにあります。

 

1、悪性症候群とは

英語ではNMS(Neuroleptic Malignant Syndrome)で、Mが「悪性」です。

原因医薬品は特定されていませんが、可能性が高いと指摘されているのは精神神経用薬、特に抗精神病薬です。しかし、他に抗鬱薬、気分安定薬、抗認知症薬や、制吐剤での発症が知られています。パーキンソン病治療薬の場合は、投薬だけでなく減薬による発症が報告されています。

発生頻度は、精神神経用薬服用患者1万人中7人〜220人とばらつきが大きいですが、精神科以外での調査が進めば増える可能性があります。

厚生労働省は医薬品等安全性関連情報の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」で2008年からこの副作用を取り上げ、注意を呼びかけています。1)

 

2、悪性症候群の症状

急激に症状が変化します。投薬(あるいは減薬)のあと24時間以内の発症が16%、1週間以内の発症が66%を占めるというデータを厚労省マニュアルは示しています。

発症すると、多症状を併発することも知られています。

厚労省マニュアルは、副作用の判別基準として4種類の基準を示していますが、いずれも、下記の臨床症状の3つ(発熱、錐体外路症状、自律神経症状)が共通し、これを「三大症状」とすることもあります。

 

悪性症候群の主症状
初期症状 内容
発熱、発汗、唾液の分泌量が通常より相当多くなる、身体の水分調節のコントロールがうまくいかない、手足の震え、しびれ、目の焦点は合いにくくなる、などの神経症状や、血圧の急激な変化などが複数起きている時には、悪性症候群を疑う

 

臨床症状 内容
発熱 通常38度を超える。微熱で推移する場合もあり発熱を診断・治療の目安にすべきではない、とされるが、血液、生化学検査が必須になる
錐体外路症状 筋肉のこわばり(強剛)、ふるえ(振戦)、ジストニア(脳、中枢神経の障害から起きる筋肉の不随意運動)、構音障害、嚥下障害、よだれなど
自律神経症状 発汗、頻脈、動悸、血圧の変動、唾液に分泌量の増加、尿閉による不快感

 

※錐体外路は大脳皮質運動野から抹消に至る神経路のうち延髄を通る錐体路以外の通り道

 

合併症 内容
腎不全 筋肉の収縮から骨格筋組織の融解を併発し、排尿困難や、血尿(ミオグロビン尿)、急性腎不全を含む腎障害を起こす
肺炎、呼吸不全 高熱と、筋肉が固まり呼吸不全や肺炎となることがある
神経症状 精神障害を起こしている場合、原疾患が悪くなり、意識はあるものの、反応を返せない(昏迷状態)になることがある

 

※重症化の場合、代謝性アシドーシス(体内が酸性化し、呼吸不全、強い脱力感、吐き気、血圧低下)、DIC(播種性血管内凝固症候群、血液凝固反応が全身の血液内で無秩序に起きる症状)を起こし、数時間内に死亡することもありえます

 

2―1、間違いやすい別の副作用症状

悪性症候群の類似症状として抗鬱剤服用中の副作用として起きる「セロトニン症候群」があります。厚生労働省のマニュアルも臨床症状が似ていることを認めています。

セロトニン症候群は、抗鬱剤の多剤服用の時に起きやすいこと、血清クレアチンキナーゼ(CK)、白血球の増加が、悪性症候群の場合より頻度が低いという違いがあり、どういう薬を飲んでいたかの情報を集め、血液、生化学検査をしたうえで、医師の判断を仰ぐ必要があります。2)

 

3、悪性症候群の原因

脳内の運動やホルモン調節、快感情、意欲などのかかわる神経伝達物質ドーパミン(ドパミンともいう)神経系の受容体の作用を急激に遮断するためではないかという仮説が有力視されています。あるいは、ドーパミン受容体遮断によって別の神経伝達物質であるセロトニン系の機能を亢進させるのではないか、という仮説も提起されています。

この症状を引きおこす可能性のある薬の多くが、ドーパミン受容体遮断作用を持つ抗精神病薬であることからの推定ですが、他の薬でも悪性症候群が起きることから厚労省マニュアルは「原因は十分に解明されてはいない」としています。

 

4、悪性症候群の看護目標

早期発見し治療を開始できるようにすることに尽きます。発症すると命にかかわるからです。

 

5、悪性症候群の観察計画

入院中の患者と、家庭で該当薬を服用している患者とでは、観察の内容が異なります。家庭の場合、患者本人、家族の協力が必要です。

 

5―1、入院中の患者への対応

薬のチェック

1、抗精神病薬の急な増量、複数回の抗精神病薬の筋肉内注射は危険因子

2、抗精神病薬だけでなく、可能性ある薬を投与の場合、十分な観察が必要

3、パーキンソン病治療薬の増量、減、量の観察

 

患者の全身状態のチェック

1、悪性症候群の初期は、風邪か、肺炎にも似ているため要注意

2、発熱、錐体街路症状、神経症状の三大症状のチェック

3、精神状態のチェック(無言、昏迷状態、パーキンソン病の場合は、姿勢を変えようとしないカタレプシー状態など)

4、上記症状を発見した場合は、医師に報告する

 

臨床検査

悪性症候群を疑う場合、可能な限り早期に、血液・生化学検査を実施しなければならない。ほとんどの場合、血清クレアチンキナーゼ(CK)の高値、白血球増多がある

感染症や他の炎症疾患として除外できる場合以外は「できるかぎり広めにリスクをとる」ことが推奨されている

 

・血清クレアチンキナーゼの基準値は男性…40~200IU/l、女性…30~120IU/l

・白血球の基準範囲は、3500〜9800個/μl(個人差が大きい)

 

■ 家庭で服用している場合

患者、家族への指導

1、該当する薬を服用している患者、家族には薬の副作用、症状を教えておく(特に薬を増量する場合)

2、特に錐体外路症状(筋肉のこわばりだけでなく、筋肉の不随意運動がある場合)が出た場合は、すぐに報告することをアドバイスする

3、悪性症候群の三大症状が出た場合は、至急、受診するよう伝えておく

 

6、悪性症候群の看護計画

■ 発症を疑われる薬の中止

発症が認められるか、そうでなくても、強く疑われる場合には原因とみられる薬を中止します。症状がごく軽い場合だけ、段階的な服用中止も可能です。

 

■ 補液、電解質補液

38度以上の場合、脱水症状を来しているので補液を必ず行います。液が確実に体内に入るようにします。

 

■ 解熱

薬剤の副作用による中枢性の高熱なので、アイスノンや、冷たいジュース、水などを、ワキの下や脚の付け根(鼠径部)にあてがって冷やします。経口、経腸の解熱剤は効果が低いですが、経口摂取が可能なら冷たい飲み物を飲ませ、身体を冷やします。ただし、無理な摂取は避けます。悪性症候群に陥った患者は、ぼんやりとしてしまい、飲みにくいという症状があるからです。

 

■ 頻回バイタルチェック

血圧や脈は、症状の進行に合わせて上昇します。血圧は時には低下することもある、とされますが、バイタルサインは、たびたびチェックが必要です。呼吸数が上がると、酸素吸入も必要になることがあります。意識が急に無反応となり、昏迷状態になることもあります。

 

■ 薬剤の投与

筋弛緩薬を投与するのが第一選択です。マニュアルでは、投与薬としてダントロレンナトリウム水和物(ダントリウム)をあげています。

精神症状が顕著に出ている場合は、抗不安薬の短期併用も効果があるとされています。抗不安薬は筋弛緩作用も持っているので、悪性症候群の症状軽減にも役立つわけです。

症状が進むと投与薬剤も増えてきます。点滴ルートの確保、管理が看護には求められます。

 

■ 注意薬剤

2005、2006年に薬事法に基づき悪性症候群の副作用が報告された抗精神薬のうち上位10薬は以下の通りです(厚労省マニュアル記載の合計件数の多い順)。

ハロペリドール、リスペリドン、オランザピン、塩酸パロキセチン水和物、フマル酸クエチアピン、カベルゴリン、スルピリド、塩酸ペロスピロン水和物、塩酸アマンタジン、マレイン酸フルボキサミン

 

まとめ

悪性症候群は早期に発見し、治療すれば完治します。発見が早ければ早いほど患者の身体への負担も、症状も軽くて済むため、看護の役割は重要です。抗精神病治療薬のほか、該当治療薬を投与している場合は、必ず事前にチェックしておく必要があります。

 

参考文献

1)厚生労働省——重篤副作用(悪性症候群)医療関係者向けマニュアル

同上マニュアルの悪性症候群全文

2)厚生労働省——セロトニン症候群重篤副作用対応マニュアル(医療関係者向け

統合失調症の看護/陽性・陰性症状と各治療に基づく看護計画


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