スピーチカニューレは、気管切開をしていても発声できるカニューレです。スピーチカニューレをすることで会話ができるようになるので、患者のQOLは大きく向上します。
スピーチカニューレの基礎知識や看護計画、管理の注意点をまとめましたので、今後の看護の参考にしてください。
1、スピーチカニューレとは
スピーチカニューレとは、気管切開をしていながらも、発声することができる気管カニューレのことです。
呼気時に空気が声帯を通ることで、声帯が震えて声が出ます。声を出すためには、声帯を空気が通らなければいけないのです。
でも、気管切開は声帯の下にカニューレを挿入します。
気管切開をすると、口や鼻ではなく気管カニューレを通して呼吸をすることになりますので、空気が声帯を通らなくなるため、声を発することができなくなります。
ただ、スピーチカニューレにすると、カニューレから(気管切開部)から息を吸い込んで、鼻や口から息を吐き出すことができるようになるので、空気が声帯を通ることになり、声を発することができるのです。
2、スピーチカニューレの適応
スピーチカニューレは、気管切開をしているなら誰でも適応になるわけではありません。スピーチカニューレの適応となるのは、次の条件を満たしている患者になります。
・自発呼吸があり、人工呼吸器が外れていること
・酸素投与がなくてもSpO2を保てること
・痰が少ないこと
・誤嚥が少ないこと
スピーチカニューレは自発呼吸があり、しかも人工呼吸器が外れている必要があります。そして、酸素を投与していなくても、ある程度SpO2を保っていられるだけの呼吸状態でなくてはいけません。
また、スピーチカニューレは一般的な気管カニューレよりも細いですし、気管切開部から人工鼻を通さずにダイレクトに空気を吸い込みますので、気管が乾燥して、痰の粘稠性が上がります。そのため、痰が多い患者がスピーチカニューレを使ってしまうと、痰がカニューレにこびりついて、閉塞することがありますので、痰が多い患者にスピーチカニューレは適していません。
スピーチカニューレは、カフがついていないものもありますので、誤嚥が多い患者は唾液が気管内に垂れ込んでしまって、誤嚥性肺炎を起こしてしまいますので、誤嚥が少ない患者にしかスピーチカニューレは使えません。
3、スピーチカニューレの構造
スピーチカニューレの特徴的な構造は、発声用バルブがついていることと側孔が開いていることです。
出典:スピーチカニューレ 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
発声用バルブは一方弁になっていますので、空気を吸い込むことはできますが、吐き出すことはできません。カニューレには側孔が開いていますので、呼気はその側孔を通って、声帯を通り、口は鼻から息を吐き出すことになります。
スピーチカニューレには、単管タイプのものと複管タイプの2種類があります。
■単管タイプ
単管タイプは、発声用バルブがついていて、カニューレに側孔が開いているだけの単純構造のスピーチカニューレです。カフはついていませんので、誤嚥が全くない患者向けになります。また、24時間発声用バルブをつけることになりますから、呼吸状態が安定していて、基本的には酸素投与が必要ない患者が適応です。
■複管タイプ
複管タイプは外筒と内筒の二重構造になっているスピーチカニューレです。内筒が取り外し可能になっていることが大きな特徴で、内筒をつけているとカニューレの側孔が閉じる仕組みになっています。そのため、内筒をつければ、人工呼吸器やインスピロン、人工鼻などを接続して、一般的な気管カニューレとして使えるようになっています。
また、複管タイプはカフがついていることが特徴です。カフがついているため、カフを膨らませることで、誤嚥を予防することができます。
スピーチカニューレとして使う時には、内筒を外して発声用バルブをつけます。外筒には側孔が開いていますので、内筒を外して、カフのエアを抜くことで、鼻や口から息を吐き出すことができるようになるのです。また、内筒を外して洗うことができるので、痰のこびりつきによる閉塞を防ぐことができるというメリットもあります。
複管タイプは短時間だけスピーチカニューレとして使って、普段は気管カニューレとして使えますので、気管カニューレからスピーチカニューレへの移行訓練、発声のためのリハビリ用として使うことができます。
4、スピーチカニューレの看護計画
スピーチカニューレの患者を看護計画は、息苦しさと誤嚥、痰詰まりの問題に対して計画を立案しましょう。
■息苦しさ、呼吸困難感の問題
スピーチカニューレは、一般的な気管カニューレに比べるとカニューレの内径が細くなっています。また、側孔は決して大きな穴ではありません。一方弁のバルブで上手く空気を吸い込めないこともあります。
そのため、今までは太い気管カニューレで呼吸をしていた患者が、スピーチカニューレにすると、突然息苦しさを訴えることが多いのです。
複管タイプのスピーチカニューレで、普段も酸素投与をしていない患者でも、カフを抜き、内筒を外して、発声用バルブをつけた途端に、SpO2がみるみる下がっていき、息苦しさを訴えるケースは少なくありません。
スピーチカニューレの構造による呼吸困難感だけではなく、スピーチカニューレにしたことによる不安感も呼吸困難感を加速させている可能性があります。
看護師は、「スピーチカニューレにして話せるから嬉しいはず」と決めつけずに、呼吸困難感は出ていないか、SpO2や呼吸状態はどうかをきちんと観察し、最初は短時間だけ発声訓練をするようにしてください。
■誤嚥の問題
次に、誤嚥についてです。単管タイプのスピーチカニューレはカフがついていません。複管タイプも、発声できるようにするためには、カフのエアを抜く必要があります。
カフがついていないと、唾液が垂れ込んで、誤嚥性肺炎を起こすリスクが高くなります。また、スピーチカニューレを装着している患者は、嚥下訓練や食事を始めることが多いと思いますが、長期間の気管挿管や気管切開で、嚥下機能は低下していますので、誤嚥には十分気をつけましょう。
複管タイプのスピーチカニューレで発声できるようにする時には、カフのエアを抜く前に、しっかりカフ上の痰を吸引するようにしてください。
■痰詰まりの問題
最後に痰詰まりについてです。スピーチカニューレは痰が少ないことが適応条件になりますが、空気を加湿せずにダイレクトに気管から吸い込みますので、痰が乾燥し粘稠性が高くなります。そのため、カニューレが閉塞して痰詰まりを起こしやすくなりますので、適宜吸引して、痰詰まりを防ぎましょう。
また、痰の性状や量を観察することで、誤嚥性肺炎を起こした場合は早期に発見することができますので、痰の性状や量には注意するようにしましょう。
4-1、スピーチカニューレの管理
スピーチカニューレの管理にも、看護師の重要な仕事になります。スピーチカニューレは痰で閉塞を起こしやすいので、閉塞が起こらないように、痰を適宜吸引し、内筒の洗浄を行うようにしてください。
また、単管のスピーチカニューレはカフがついていません。また、複管タイプも発声する時には、カフのエアを抜きます。
そのため、スピーチカニューレは一般的な気管カニューレよりも簡単に抜けやすいのです。気管カニューレのカフは決して固定のためにあるわけではありませんが、カフがあると抜けにくくなるのは事実です。
スピーチカニューレの患者はむせ込んだり、痰の喀出のために強い咳嗽をした場合、スピーチカニューレがスポッと抜けてしまうことがありますので、しっかりと固定をしておく必要があります。
また、発声用のバルブもきちんと空気を取り込めるようになっているのか、痰がこびりついて、弁の動きが悪くなっていないかも、確認するようにしましょう。
まとめ
スピーチカニューレの基礎知識や適応、構造、看護計画をまとめました。スピーチカニューレは、気管切開をしていても会話ができるので、患者のQOLを大きく向上させるものです。
ただ、呼吸困難感や痰詰まり、誤嚥のリスクがありますので、看護師はアセスメントをしっかりして、適切な看護計画を立てるようにしてください。