健康な人にとって「シャワー浴」は、体を清潔に保つための日常生活の行動の一部となっています。入浴によるメリットは多数あるものの、看護が必要な患者にとっては、皮膚状態の考慮、浴中の体力消耗や転倒の危険性など、多くの観察と注意を必要とする行為となります。シャワー浴の目的と方法を再確認し、適切な観察を行いながら保清看護を提供していきます。
1、シャワー浴とは
シャワー浴とは、シャワーで洗体浴を行うことです。シャワー浴は入浴に比べてエネルギー代謝率が少ないため、夏の簡易入浴、高齢者の体力消耗の軽減、病状や身体機能の低下によって入浴動作の困難な患者に対して行われます。
シャワー浴によって体を清潔に保つと同時に、睡眠、食欲、便通が促進される、褥瘡の予防やマッサージ効果なども期待することができます。疲労回復の研究によって、シャワー浴後は、筋肉疲労が回復しリラクゼーション効果が得られるとのデータが明らかになっています。またシャワー浴は、患者の清潔欲求を満たし、温熱刺激による爽快感などの心理機能への効果ももたらすことができます。
2、シャワー浴の目的と目標
シャワー浴は、病状や機能障害、体力の低下により自力で入浴が困難な患者や、浴中の転倒や熱傷など危険を伴う可能性がある患者に対し、下記の目的と目標によって行われます。
・洗体によって全身を清潔に保つ。
・患者の清潔に対する欲求を満たす。 ・温熱刺激が生体や心理に影響を与え、心地よさ、爽快感やリラックス感を得る。 ・血液循環が促進され、代謝を高めることができる。 ・代謝の促進によって、内臓の機能を高めることができる。 ・筋肉の緊張が緩み、疲労回復につながる。 ・浴槽につかる入浴よりも消費エネルギーが少ないため、体への負担や疲労感の軽減ができる。 |
3、シャワー浴の看護計画
医師の許可を得た後に、必要であればシャワー浴の看護計画(看護目標、OP-観察項目、TP-ケア項目、EP-教育・指導項目)を作成していきます。
■看護目標:安全・安楽なシャワー浴介を行い、体を清潔にする。保清によって褥瘡の改善や予防を行う。リラックス効果を高め、睡眠・食欲などの活動意欲を促進させる。など。
■OP:最終シャワー浴の日付と頻度の確認。シャワー浴への意欲を含め、介助可能な全身状態であるかを観察する。褥瘡や創部などの皮膚状態に注意する。浴中の表情や訴え、疲労度合いなどに注意をはらう。
■TP:羞恥心に注意をする。患者の意向に沿った洗体方法を選択する。体温の低下を避けるため、保温などに留意する。体力の消耗に注意し、無理のないシャワー浴介助を行う。
■EP:保清の重要性を患者に伝える。シャワー浴の方法を説明する。
3-1、シャワー浴 看護観察項目
シャワー浴はエネルギー代謝の少ない洗体方法ではありますが、体力の消耗につながるため、シャワー浴全体を通して全身状態の看護観察が重要になってきます。また、肌に直接水分や石鹸などに付着する為、特に皮膚状態には注意をはらい観察していきます。
・シャワー浴前後のバイタルサイン
・創部の皮膚状態:出血、腫れ、痛み、熱感など ・皮膚状態:乾燥、発疹、褥瘡、掻痒感など ・入浴中の表情や意向 |
3-2、シャワー浴の事前準備
シャワー浴では、患者の体温の低下や転倒の危険性を軽減するために、素早く適切な看護か求められます。 そのため、身体状況のチェックと備品の確認などの事前準備を行い、スムーズなシャワー浴を心がけていきます。
・主治医の同意が得られているかの確認をする。
・患者のシャワー浴に対する理解と同意があるかを確認する。 ・食事摂取後や検査時間と重なることを避け、適切なシャワー浴の時間を確保し設定する。 ・入浴可能な全身状態であるかを確認する。 ・使用する着替えや、チェアーや滑り止めマットなどの備品の準備を行う。 ・事前に排泄をすませて待機してもらう。 ・創部やドレーン挿入部位など汚染を防止し漏らしてはならない部分がある際は、フィルムドレッシング材を貼付し、汚染防止を行う。 ・洗体方法やシャワーキャップの使用有無など、患者の意思確認を行う。 |
3-3、シャワー浴の看護手順
- 浴室床の段差や転倒に注意しながら移動を行う。
- 湯の温度を調節する。
- 湯の温度を確認しながら、患者の身体にかける。
- 患者の意向に沿った手順や方法で洗体を行っていく。
- 褥瘡や創部は力加減や温度により気を付けながら患部を洗っていく。
- 再度、湯の温度を確認しながら、患者の身体にかける。
- 滑らないように注意しながら、チェアーからの立ち上がりや、浴室内の移動の介助を行う。
- シャワー浴後は保温に注意するため、体表面の水分を手早くタオルで拭き取る
- 皮膚状態をチェックし、必要であればドレッシング材の交換や薬の塗付を行う。
- 脱水予防のために、飲水をしてもらう。
- 疲労感などを観察しながら、バイタルサインを再度測定する。
4、シャワー浴を行う際の留意点
・主治医の許可を必ず得るようにする。
・装具を外す必要がある場合にも医師の確認をとり、注意を払いながら行う。 ・シャワー浴前に創傷や褥瘡などの皮膚状態を含めた、全身状態の観察を十分に行う。 ・創傷のある患者のシャワー浴前には、必ず防水性のフィルムドレッシング材を貼り、皮膚への浸水を防ぐ。 ・シャワー浴中、浴後に患者の体を冷やさないように注意する。体温を保ちやすい首にタオルやシャワーの湯をかけるなど、体温を下げないよう配慮する。 ・浴室内は滑りやすいため、段差や転倒に気を付ける。 |
4-1、浴室内事故と平均気温
【事故数/国民生活センター資料 (東京都監察医務院統計) 気温/気象庁資料】
まとめ
シャワー浴は、患者の身体の保清や清潔欲求を満たすなど、様々な身体的・心理的メリットを得られます。一方でシャワー浴は体力や全身状態が安定した患者にのみ行われるため、浴前、浴中、浴後の観察と注意が非常に重要です。看護師は日ごろから患者の観察を行い、安全性の高いシャワー浴を提供できるようにサポートを行っていきましょう。