神経には、身体からの情報を脳に伝え、受けた指令を末梢に伝える末梢神経と、末梢神経から伝達された情報を分析し、全身に指令を送る中枢神経があります。末梢神経はさらに運動神経や知覚神経などから成る体制神経と、呼吸・循環・消化などを無意識に調整する自律神経に分けられます。この末梢神経の働きを局所麻酔薬によって一時的に遮断する方法を神経ブロックと言い、痛みやしびれなどの治療や手術時の麻酔として用いられています。
ここでは、その中の「神経根ブロック」について説明しますので、概要や看護のポイントをしっかりと学び、実際のケアに生かしていきましょう。
1、神経根ブロックとは
脊柱から出た神経の根元を神経根と言い、神経根およびその周辺に局所麻酔薬とステロイド薬の混合液を注入し、神経の伝達を一時的に遮断する方法を神経根ブロックと言います。
神経根ブロックはブロックする部位により体位や方法が変わり、起こりやすい合併症も異なります。
■頸部神経根ブロック
頸部椎間板ヘルニア、頸椎症、頸髄症に伴う頸部神経根症などの疾患に用いられ、ブロックする神経により腹臥位や仰臥位または側臥位の体位で行います。
X線透視下で造影剤を用いて行われますが、頸部の場合は目的とする神経を正確に把握することが難しいこともあり、高い技術が必要となります。正しい位置での穿刺が重要となりますが、針が思わぬ方向へ進んでしまうこともあり、神経損傷などの合併症を引き起こすこともあります。また、頸部神経根ブロックでは、血管穿刺やクモ膜下腔穿刺などの重篤な合併症が多いため、呼吸や循環の管理がすぐに行える体制が整っている状態で実施します。
■胸部神経根ブロック
胸椎圧迫骨折や帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛などの疾患に用いられる方法で、腹臥位で後方から行う後方アプローチ法と斜位で行う斜位法があります。
頸部神経根ブロック同様造影剤を用い、X線透視下で行われます。針が横突起から2cmを超えると気胸や食道穿刺になる可能性があるため、針先の確認が重要となります。
胸部神経根ブロックでも血管穿刺やクモ膜下腔注入、脊髄穿刺、気胸、食道穿刺などの合併症の出現に備え、呼吸や循環の管理が行える環境下で行われます。また、気胸はブロック後少し時間が経ってから症状が出ることが多いため、ブロック後は1~2時間安静臥床とし、合併症の出現がないことを確認する必要があります。
■腰部仙骨部神経根ブロック
腰部椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症の神経根症状、下肢の帯状疱疹や癌性疼痛にも用いられる方法です。腹臥位で行う腹臥位法と斜位で行う斜位法、経椎間法などがあります。
造影剤を用い、X線透視下で針先を確認しながら行われます。他の方法よりも合併症は少ないですが、穿刺による出血や感染、神経損傷などの神経ブロックの際に起こりうる一般的な合併症はいずれの方法でも起こる可能性があります。
腰部仙骨部神経根ブロックでは、下肢の脱力が起きるためブロック後は1~2時間後の安静臥床が必要となります。
2、神経根ブロックの効果と合併症
神経根ブロックは痛みの原因となっている神経を正確に特定し直接注射するため、神経根症などの症状に高い効果が期待されます。また、責任神経根の同定ができる診断効果があり、造影により病変部位診断が行うことも可能です。
神経根ブロックには、交感・知覚・運動神経の遮断による痛みの軽減や血流増加などの局所麻酔薬による効果や神経根周囲の抗炎症作用などのステロイド薬による効果のほかに、薬物注入により神経根周辺の癒着や炎症を取り除く効果があると考えられています。
局所麻酔薬による効果は一時的なものですが、ステロイド薬により神経根ブロックの効果が数カ月以上持続すると推測されています。
一方、神経根ブロックでは上述のように、神経損傷やクモ膜下腔注入、脊髄穿刺、気胸などの重篤な合併症が引き起こされる可能性があります。
■神経損傷
神経穿刺を繰り返し行ったり切れの悪い針の使用により神経を損傷されることがあり、知覚や運動機能が障害される場合があります。
■クモ膜下腔注入
クモ膜下腔に薬液が浸潤してしまった場合、頸部では全脊椎麻酔、他の部位ではクモ膜下ブロックの状態となります。肋間神経や横隔膜神経に麻痺が及ぶと呼吸困難や呼吸停止などを引き起こします。
■脊髄穿刺
脊髄穿刺によって脊髄を傷つけてしまうと、損傷部位以下の支配域に運動麻痺や知覚障害、自律神経障害などを引き起こし、重度の場合は四肢麻痺や呼吸困難、呼吸停止を引き起こす可能性があります。
■気胸
誤って肺を刺してしまうことで発症します。自然に治癒することもありますが、脱気が必要となる場合もあります。
3、神経根ブロックの看護
神経根ブロックでは、副作用や合併症の早期発見と予防が看護のポイントとなります。また、患者が安心・安全に神経根ブロックを受けられるよう援助していく必要があります。
3-1、神経根ブロックの具体的ケア
1)術前準備
神経根ブロックにより吐気や嘔吐が出現する可能性があるため、術前は絶食となります。食事指示の確認や患者への説明をしっかりと行うとともに、開始時間の確認をしておきましょう。
また、患者の不安やストレスの有無を確認し、適宜声をかけるなど安心して神経根ブロックを受けられるよう援助していくことが大切です。
2)体位の確保・保持
それぞれの方法に適した体位を確保します。患者がしっかりと体位を保持できるよう工夫しましょう。神経根ブロックを安全に受けるために、適した体位を保持することはとても重要なポイントとなります。
3)穿刺部位の確認
穿刺部位と方法を確認します。医師が処置を行いやすいよう、必要時ベッド等の高さを調整しておきます。
4)術中管理
合併症や副作用の兆候がないか確認します。ブロックする部位により、特異的な合併症が出現する可能性があるため、ブロックに伴う一般的な合併症のほかにどのような合併症が引き起こされるリスクがあるか事前に確認しておきましょう。
5)術後管理
術後に合併症が出現することもあるため、継続して合併症の兆候の有無を確認していきます。また、麻酔が効いている間は、その部位が麻痺しているため、転倒やふらつきなど運動機能に問題がないかの確認が必要となります。
3-2、神経根ブロックの観察項目
神経根ブロックの看護では、術中から術後を通して患者の状態を観察していく必要があります。以下の観察項目を者の全身状態を綿密に観察していきましょう。
■具体的観察項目
・バイタルサイン(血圧、脈拍、体温)
・呼吸状態(回数、リズム、深さ、肺音)
・出血の有無(出血部位、程度、時間)
・意識状態(意識レベル、顔面蒼白、チアノーゼ、発汗の有無など)
・循環器症状の有無(血圧低下、頻脈、不整脈など)
・呼吸器症状の有無(喘鳴、呼吸困難、呼吸停止など)
・中枢神経症状の有無(意識喪失、痙攣など)
・副作用の有無(悪心、吐気、嘔吐、蕁麻疹、ショック症状、中毒症状など)
・ブロックの効果(痛みやしびれの程度、範囲など)
・知覚・運動機能(麻痺の程度、部位)
・精神的ストレスの有無
まとめ
神経根ブロックでは、痛みやしびれの緩和に大きな効果が期待されます。しかし、手技が難しく高い技術が求められるとともに、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
しっかりと患者の状態を観察し、合併症や副作用の早期発見・予防に努めましょう。また、患者の精神的ケアも同時に行っていくことが重要となります。