心タンポナーデは心嚢内に多量の液体が貯留することで、心臓が拡張できなくなり、心原性ショックを起こす疾患です。心原性ショックを起こすと、死に至りますので、迅速な対応が必要になります。
心タンポナーデの基礎知識や原因、治療、看護計画をまとめましたので、今後、心タンポナーデの患者を看護する時の参考にしてください。
1、心タンポナーデとは
心タンポナーデとは、心嚢内に多量の液体が貯留することで、心臓が十分に拡張できなくなった状態のことです。
心臓は2枚の薄い膜で覆われています。この2枚の膜を心膜と言います。この2枚の心膜の間のスペースが心嚢です。心嚢には健康な状態でも10~50cc程度の心嚢液が貯留しています。この心嚢液は心臓が拡張・収縮を繰り返すための潤滑油になったり、外部からの衝撃を和らげるクッションのような役割を担っています。
この心嚢液が何らかの原因で急速かつ多量に増えてしまうと、心臓が拡張できなくなってしまうので、心拍出量が低下し、心原性ショックを引き起こします。
急速に心嚢液が増加した場合は、100ml程度の比較的少量の貯留でも心タンポナーデの症状が現れますが、ゆっくりと少しずつ心嚢液が貯留した場合は、多量に貯留するまで無症状であることも珍しくありません。
1-1、心タンポナーデの症状
心タンポナーデは心臓が拡張できなくなることで、心拍出量が低下します。そうすると、様々な症状が現れます。心タンポナーデの典型的な症状は、Beckの3徴です。
<Beckの3徴>
・血圧低下
・静脈圧上昇
・心音微弱
心拍出量が低下すれば、血圧が低下します。また、心拍出量が低下すれば、血液の流れが滞り、心臓に戻れなくなりますので、静脈圧が上昇します。静脈圧の上昇しているかどうかは、頸静脈の怒張が見られるかどうかで確認することができます。また、心タンポナーデは心臓が拡張できず、収縮が弱くなりますので、心音も弱くなります。
このほか胸の痛みや胸部圧迫感、胸の不快感、奇脈(吸気時に脈圧が小さくなり、呼気時には大きくなる)、チアノーゼ、クスマウル徴候(吸気時に頸静脈が怒張する)、呼吸困難、意識レベルの低下などの症状が現れます。
2、心タンポナーデの原因
心タンポナーデは心嚢内に液体が貯留することで起こる疾患ですが、この液体は血液とそれ以外の2種類に分けることができます。
■血液が貯留する原因
心タンポナーデで血液が貯留する原因には、次のようなものがあります。
・胸部外傷(交通事故、刺創、銃創)
・急性大動脈解離
・急性心筋梗塞
・心臓カテーテル中の穿孔
交通外傷等で心臓に強い衝撃が加わることで、心破裂が起こると、心嚢に血液が溜まります。また、刺創や銃創で心臓に傷がつくことでも、心嚢に血液が流れ込んでしまいます。
大動脈解離が心臓まで及ぶことで、心タンポナーデを起こすこともありますし、心筋梗塞で心破裂が起こることもあります。
心臓カテーテル治療中に誤って心臓の血管や筋肉を破ってしまうと、血液が心嚢に溜まってしまいますので、心タンポナーデが起こります。
■血液以外の液体(滲出液等)が貯留する原因
心嚢に血液以外の浸出液などが貯留して心タンポナーデが起こることもあります。
・悪性腫瘍
・急性心筋炎
食道がんや肺がんなどの悪性腫瘍が心膜に転移したり、心膜炎(ウイルス性、細菌性、結核性)が原因で、心嚢液が貯留することがあります。
3、心タンポナーデの治療
心タンポナーデを発症すると、心拍出量が低下することで、心原性ショックを起こし、心停止に至る可能性がありますので、できるだけ早く心嚢に貯留した液体を排出する必要があります。
心嚢に貯留した液体を排出するためには、心嚢穿刺を行います。
心嚢穿刺は動いている心臓に針を刺して行いますので、非常に危険が高い治療法になります。救急現場で時間的余裕がない、心停止を起こしているという状態であれば、盲目的に心嚢穿刺を行うこともありますが、基本的には心臓カテーテル検査室で、エコーやレントゲン装置を使って、穿刺部位を確認しながら、慎重に行います。
<心嚢穿刺の手順>
- 局所麻酔をする
- 心嚢を試験穿刺する
- カテラン針による本穿刺を行う
- カテラン針からガイドワイヤーを挿入し、ガイドワイヤー沿いにカテーテル挿入する
- 心嚢液を採取・排出する
心タンポナーデの状態によっては、心嚢穿刺後にそのままドレーンを留置して、持続的に心嚢に貯留した液体を排出することがあります。
また、心破裂や大動脈解離による心タンポナーデの場合、心嚢穿刺は救命のための一時的な処置になりますので、心嚢穿刺後に原因疾患の治療のための緊急手術が必要になります。
3-1、心タンポナーデの治療による合併症
心タンポナーデを治療するためには、心嚢穿刺を行わなければいけませんが、心嚢穿刺は動いている心臓に針を刺すのですから、とても危険な処置になります。そのため、合併症が起こることもあります。
<心嚢穿刺の合併症>
・心筋や冠動脈の損傷
・不整脈
・消化管穿孔
・気胸や血胸
・空気塞栓
心タンポナーデを起こしている患者は、すでに循環動態が非常に不安定であり、合併症を起こさなくても、心嚢穿刺中に急変することもあり、救命できないことも少なくありません。
4、心タンポナーデの看護計画
心タンポナーデの患者の看護は、異常の早期発見と心嚢ドレーンの管理が主になります。
■異常の早期発見
心タンポナーデの患者は、循環動態が非常に不安定であり、いつ急変してもおかしくありませんので、異常の早期発見に努め、循環動態を安定させるためのケアが必要になります。
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・冷汗、チアノーゼなどの臨床症状 ・水分出納 ・頸静脈の怒張の有無 ・意識レベル ・検査データ ・胸部レントゲン ・各種モニター |
TP(ケア項目) | ・血管確保の準備や介助
・医師の指示に基づいた輸液の投与、管理 ・心嚢穿刺の介助 |
心タンポナーデ発症直後は、モニターを装着し、Beckの3徴である血圧低下、静脈圧の上昇、心音微弱には特に注意して観察を行います。静脈圧の上昇はCVが入っている患者はCVPを測定することで観察できますが、CVが未挿入の患者は頸静脈の怒張の有無を観察します。
また、CVPを測定している患者でも、頸静脈の怒張を観察することで、クスマウル徴候の有無が分かりますので、頸静脈の観察は続けましょう。
心嚢穿刺時は合併症が起こりやすいので、循環動態に注視して、心嚢穿刺の介助をしなければいけないのはもちろんですが、呼吸状態にも注意する必要があります。
心嚢穿刺時は血胸や気胸などの肺損傷が起こり、呼吸困難や息切れ、SpO2の低下、呼吸促迫などの症状が現れることああります。
■心嚢ドレーンの管理
心嚢穿刺をした後、または心タンポナーデの原因疾患の手術後は、心嚢ドレーンを留置して、排液を促すことがあります。
OP(観察項目) | ・排液の量
・排液の色や性状 ・挿入部の感染兆候 ・挿入部のズレ、抜けの有無 |
TP(ケア項目) | ・ドレーンのミルキング
・ドレーンのマーキングでのチェック ・挿入部の清潔操作 |
EP(教育項目) | ・ドレーンの重要性を説明する
・ドレーンに触れないように説明する ・安静度を守るように伝える |
心嚢ドレーンからの排液が鮮血であり、さらに1時間に200ml以上の排液が続く場合は、開胸手術が考慮されますので、ドレーンからの排液の量と性状はきちんと確認しておきましょう。
また、排液の性状によっては、ドレーンが詰まりやすいので、適宜ミルキングをして排出を促さなくてはいけません。もし、突然排液が減ってしまった場合、ドレーンの閉塞が考えられます。
ドレーンが閉塞すると、また心嚢内に排液が貯留して、心タンポナーデを起こす可能性がありますので、排液量の変化にも注意を払いましょう。
まとめ
心タンポナーデの基礎知識や原因、治療法、看護計画をまとめました。心タンポナーデは心原性ショックを起こし、心停止に至る疾患ですので、迅速に心嚢穿刺を行わなければいけません。
心嚢穿刺後も循環動態は不安定ですので、バイタルサインやドレーンからの排液に注意して観察を行う必要があります。