気管挿管は確実に気道確保を行うための方法です。気管挿管を行う時は、患者は命の危機に瀕していることが多いので、看護師は気管挿管の介助を慌てずに行うことができるようになる必要があります。
気管挿管の基礎知識や介助の手技・手順、看護のポイント、合併症をまとめましたので、気管挿管の介助に自信がない看護師さんは、参考にして下さい。
1、気管挿管とは
気管挿管とは気管チューブを口や鼻から気管に挿入して留置することで、確実に気道を確保・維持する方法です。
口や鼻から気管チューブを入れて、気管分岐部の2~3センチ上まで進めて固定することで、気道から口または鼻までの空気の通り道を確保することができます。
気管挿管以外にも気道を確保する方法がありますが、気管挿管は他の気道確保の方法と比べて、確実に気道を確保できること、患者への侵襲が比較的少ないというメリットがあります。
2、気管挿管の適応
気管挿管の適応は、基本的に次の3つがあります。
■心肺蘇生
意識がない状態で、バックマスクでは換気が不十分な時には、気管挿管の適応となります。救急の現場では、次のようなケースで気管挿管されることが多いです。
・徒手的気道確保やエアウェイでは気道確保が困難
・酸素化の低下
・換気不良、CO2ナルコーシス
・吐血や喀血、嘔吐
・ショック状態
これらのケースでは、気道を確実に確保して呼吸管理を行ったり、全身管理を行う必要があるため、気管挿管の適応となります。
■長期人工呼吸器管理
長期的に人工呼吸器管理が必要であると予測される場合にも、気管挿管を行います。具体的な疾患には、慢性肺疾患の急性増悪や重症喘息発作、肺水腫、誤嚥性肺炎、胸部外傷などです。
■全身麻酔
手術で全身麻酔が必要な場合は、気管挿管をして、手術中は人工呼吸器管理を行います。
3、気管挿管の介助の手技・手順
病棟や救急外来では、気管挿管をする時は、緊急気管挿管であることが多いと思います。突然医師に「気管挿管するから準備して」と言われた時でも、落ち着いてスムーズに準備・介助ができるようにしておく必要があります。
①必要物品の準備
まずは、必要物品を準備しましょう。気管挿管に必要な物品は次の通りです。
・喉頭鏡(ハンドルとブレード)
・気管チューブ
・スタイレット
・カフ用シリンジ(10ml)
・キシロカインぜりー
・キシロカインスプレー
・バイドブロック
・気管吸引ののための物品
・聴診器
喉頭鏡のブレードのサイズは、男性は4号、女性は3号を目安にして用意しましょう。気管チューブのサイズは次のサイズを目安にして準備します。
出典:気管チューブ | 製品カテゴリ | エアウェイマネジメント | 呼吸ケア関連 | 製品情報(製品カテゴリ) | 医療関係者の皆様へ | コヴィディエン
性別 | 気管チューブのサイズ |
男性 | 7.5~8.5mm |
女性 | 6.5~7.5mm |
ただ、男性でも小柄な人には7.0mmを使うこともありますので、どのサイズを使うかは医師の指示に従ってください。
また必要に応じて、次のものも準備しておきましょう。
・マギール鉗子
・開口器
・呼吸CO2検知器(イージーキャプ)
・食道挿管検知器(EDD)
気管挿管をする時は、何かあった時にすぐに対応できるように救急カートをベッドサイドに用意しておくと安心です。
②気管挿管前の準備
気管挿管のための物品を準備したら、次は物品をすぐに使えるように準備しておきましょう。
1.喉頭鏡の準備 | ハンドルとブレードを接続して、ライトが点灯するかを確認する。 |
2.カフの確認 | 挿管チューブの袋を開けて、シリンジでカフを膨らませて、カフが破損していないかを確認する。確認後はカフのエアは抜いておく。 |
3.スタイレットの挿入 | スタイレットを挿管チューブに挿入する。この時、挿管チューブ内キシロカインスプレーを噴霧しておくと、あとでスタイレットが抜きやすくなる。
スタイレットの先端が挿管チューブから出ないように注意する。挿管チューブの先端の1~2センチ上で止めておく。 |
4.キシロカインゼリーの塗布 | 挿管チューブの先端にキシロカインゼリーをたっぷり塗って、滑りをよくしておく |
5.体位の調整 | 気管挿管時は患者を仰臥位にして、頭に枕を入れて、やや前屈気味にしておく(スニッフィングポジション)。
スニッフィングポジションにすることで、咽頭軸と喉頭軸が一直線になり、喉頭展開をした時に声門が見えやすくなる。 |
6.前酸素化 | 気管挿管の前はしっかりと酸素化しておく。 |
③気管挿管の介助
いよいよ気管挿管をします。看護師は、「医師が気管挿管しやすいこと、無駄な動きなく気管挿管できること」を頭に置いて、気管挿管の介助をします。
1.喉頭展開 | 医師はクロスフィンガー法で開口し、喉頭鏡を用いて喉頭展開をします。
⇒看護師は医師に喉頭鏡を渡します。この時、喉頭鏡の渡す向きに気をつける。喉頭鏡を渡す時は、ブレードが下になるように、またブレードのとがった部分が患者側になるように渡す。 |
2.挿管 | 気管チューブを挿管します。
⇒看護師は医師の右手(利き手)に気管チューブを渡す。この時、医師が気管チューブを持ってそのまま挿入できるように、気管チューブの向きに気を付けて渡す。 |
3.スタイレットを抜く | 気管チューブが声門を通ったら、医師はスタイレットを抜くように指示します。
⇒スタイレットを抜くように指示されたら、速やかにスタイレットを抜く。この時に、挿管チューブまで一緒に抜かないように注意する。挿管チューブを片手で持って、動かないようにしてからスタイレットを抜く。 |
4.カフを入れて固定する | 医師は男性で23センチ、女性で21センチを目安に挿管をする。
⇒適切な位置まで挿管できたら、看護師はカフを入れて、何センチ固定かを医師に確認し、テープでしっかりと固定する。必要ならバイドブロックを使用する。 |
これで、気管挿管は完了です。
この後、きちんと気管に挿管チューブが入っているかを確認します。きちんと挿管できているかどうかは、胸郭が上がっているかを確認してから、5点聴診を行います。
5点聴診とは、左右の前胸部、左右の側胸部、心窩部を聴診することです。5点を聞くことで、片肺挿管になっていないか、食道挿管になっていないかを確認することができます。
片肺挿管の場合は、左右の呼吸音が異なります。食道挿管の場合は、心窩部を聴診するとゴボゴボという音がします。
また、必要に応じて、呼吸CO2検知器や食道挿管検知器を用いて確認し、さらにポータブルレントゲンを取って挿管の位置を確認することもあります。
この挿管後の確認は、看護師がカフを入れて固定している時に医師が行うことが多いですが、看護師も固定が終わったら、念のために胸郭の観察と5点聴診で確認するようにしましょう。
4、気管挿管の看護
気管挿管をしている患者の看護は、挿管チューブの管理、痰の吸引、精神的なケア、感染管理に重点を置いて看護を行いましょう。
■挿管チューブの管理
万が一、気管挿管が抜けてしまったら、患者は呼吸ができなくなり、死に至る可能性があります。そのため、看護師は気管チューブの管理はしっかり行わなければいけません。
噛んでしまう患者にはバイトブロックを使い、しっかりと固定をしてください。勤務中は頻回に挿管チューブが抜けていないかを確認しましょう。
カフ圧の管理も大切です。カフがきちんと入っていないと、換気量を保てませんし、分泌物が気管に流れ込んでしまいます。カフ圧は15~22mmHg(20~30cmH2O)を目安に管理しましょう。
また、患者が挿管チューブを抜こうとしないように気を付けてください。挿管チューブは患者の命綱ですから、必要であれば、きちんとした手順を踏んで、抑制をすることを考慮しなければいけません。舌で押し出そうとする患者もいますので、注意が必要です。
■呼吸の管理
呼吸管理も気管挿管の患者の看護では重要なことです。バイタルサインや血ガスデータのチェック、人工呼吸器のモードが適正かなどを確認しながら、呼吸管理をしましょう。
気管挿管中は、痰の量が増えますので、適宜吸引をして下さい。また、挿管チューブによってはカフ上の痰を引けるものがありますので、その場合は、きちんとカフ上の痰も吸引するようにしましょう。
また、気管挿管中は誤嚥性肺炎を起こしやすいので、血液データでの炎症所見や痰の性状や量を観察すると良いでしょう。
■精神的なケア
気管挿管中は、患者は声を出せません。また、挿管されていることで大きなストレスを抱えています。セデーションをせずに気管挿管をしている患者には、必要な情報提供をしたり、コミュニケーション方法を工夫して、ケアをしましょう。
また、セデーションをかけていても、せん妄や見当識障害が起こることがありますので、注意が必要です。
5、気管挿管の合併症
気管挿管の合併症は、歯牙欠損と片肺挿管・食道挿管、咽頭痙攣、気道粘膜の損傷があります。
■歯牙欠損
これは喉頭展開する時に多い合併症です。喉頭展開する時に、てこの原理で力を入れ過ぎて、歯が折れてしまうのです。もし、歯牙欠損が起こったら、看護師は速やかに折れた歯を確保して、誤嚥させないようにして下さい。
■片肺挿管・食道挿管
片肺挿管や食道挿管になると、せっかく挿管しても、意味がありませんので、再度挿管し直さなければいけません。
片肺挿管と食道挿管は、気管挿管後にきちんと呼吸音を確認すれば、すぐに発見することができます。
■咽頭痙攣
咽頭痙攣は、抜管時に起こりやすい合併症です。抜管の刺激で咽頭閉鎖筋が攣縮して、声門が開かなくなり、換気ができなくなるので、窒息することがあります。その場合、筋弛緩剤の投与をしてから、再挿管が必要になることもあります。
■気道粘膜の損傷
カフ圧を上げ過ぎると、気道粘膜に圧をかけ続けることになりますので、気道粘膜が損傷して壊死を起こすことがあります。
まとめ
気管挿管の基礎知識や気管挿管の介助の手技・手順、看護のポイントなどをまとめました。気管挿管は一刻を争う事態であることが多いので、看護師は慌てず落ち着いて介助ができるように、必要物品や介助のポイントを確認しておきましょう。