テンポラリーとは一時的な体外ペーシングのことです。ペーシングというと難しそうで、苦手意識を持っている看護師さんも多いと思いますが、テンポラリーのモードや観察項目のポイントを押さえておけば、特に難しいことはありません。
テンポラリーの基礎知識や看護計画、観察項目をまとめましたので、テンポラリーの患者を受け持つときの参考にしてください。
1、テンポラリー(一時ペーシング)とは
テンポラリーとは体外ペーシングのことで、恒久式(植込み型)のペースメーカーを埋め込む手術を行うまでの間、一時的に心拍数を保つために用いられます。
内頸静脈や鎖骨下静脈、大腿静脈から電極リードを挿入し、右室心尖部に留置して、心臓に電気信号を送り、ペーシングを行います。
■テンポラリーの適用疾患
テンポラリーの使用が適用となる疾患は、徐脈系の心疾患です。
徐脈によってめまいや失神などの脳虚血症状や心不全など心拍出量低下症状などが見られると、ペースメーカー適用となりますので、ペースメーカーの植込み手術が行われるまでテンポラリーを用いてペーシングします。
具体的な疾患は次のようなものです。
・洞不全症候群
・モビッツⅡ度房室ブロック
・完全房室ブロック
・徐脈性心房細動
また、急性心筋梗塞や心筋炎などによる徐脈は、テンポラリーを留置して一時的にペーシングをするものの、治療で徐脈が回復すれば、テンポラリーを抜去してペーシングが不要になるケースもあります。
■テンポラリーと埋め込み式ペースメーカーの違い
テンポラリーと埋め込み式ペースメーカーの違いを確認しておきましょう。
種類 | 特徴 |
テンポラリー | ・感染の危険性がある
・比較的簡単で短時間に挿入できる ・体外の機械の管理が必要 ・ペーシング中ははADLが制限される ・リードは心室のみ |
埋め込み式ペースメーカー | ・皮下に機器を留置するので、1~2時間の手術が必要
・感染のリスクは少ない ・ADLの制限がない ・心房と心室の両方にリードを挿入可能 ・10年に1回程度、電池交換が必要 |
テンポラリーを挿入する時は手術を行う必要はないのですが、体外からのカテーテルを心臓に挿入したままにしておきますので、感染のリスクが高くなります。
そのため、テンポラリーの留置は1週間が限度とされています。テンポラリーを扱う医療機器メーカーによると、留置は72時間を超えると、感染症等の合併症が有意に増加するとのことですので、テンポラリーはできるだけ短時間で抜去して、ペースメーカーを埋め込む必要があります。
1-1、テンポラリーのモード
テンポラリーにはいくつかのペーシングモードがあります。テンポラリーを挿入している患者さんの看護をする時には、このペーシングモードが何かをきちんと理解しておく必要があるのです。
ペーシングモードは3つのアルファベットで表します。
■1文字目=ペーシング部位
1文字目は、「心臓のどこに電気信号を送るのか」というペーシング部位を表します。
A:心房(Atrium)
V:心室(Ventricle)
D:両方(Double)
■2文字目=センシング部位
2文字目は、「心臓のどこで心拍を感知するか」というセンシング部位を表します。
A:心房(Atrium)
V:心室(Ventricle)
D:両方(Double)
■3文字目=作動様式
3文字目は、「どのように動くか、どのようにペーシングするか」という作動様式を表します。
作動様式 | 詳細 |
I:抑制 | 自分で心臓を動かすための刺激を出した時は、ペーシングの電気刺激は出さない(抑制)。心臓が自分で刺激を出さない時は、電気刺激を出す。 |
T:同期 | 心臓が出した刺激を感知した後に、それに同期して電気刺激を出す。心房の興奮を感知して、そこからほんの少しだけ遅らせたタイミングで心室をペーシングすることで、心房の収縮と心室の収縮を同期させる。 |
D:抑制・同期 | 抑制と同期の両方を行う |
O:なし | 感知機能はない。心臓が信号を出すかどうかにかかわらず、設定された一定のリズムでペーシングをする |
出典:[47] ペースメーカーと植え込み型除細動器 | 心臓 | 循環器病あれこれ | 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
テンポラリーは右心室にリードが1本入ることが基本なので、心室ペーシングであることがほとんどで、VVIモードが選択されることが多いです。
VVIモードは、心室に電気信号を送り、心室の心拍を感知して、心室心拍があったらペーシングしない、なかったら電気刺激を出すというモードになります。
VVI60回/分という設定だと、1秒間に1回は心室心拍があったら、テンポラリーの働きはお休み。1秒間以上心室頻拍がなかったら、テンポラリーが電気刺激を出して、心臓を収縮させることになるのです。
2、テンポラリーの看護計画
テンポラリーの患者の看護計画は、テンポラリを挿入したことでの合併症の予防を中心にして目標を立て、看護計画を立案します。
<テンポラリー関する看護目標>
・ペーシング、センシング不全が起こらない
・感染が起こらない
・合併症の早期発見ができる
■OP(観察項目)
テンポラリーの看護計画での観察項目は、次に詳しく説明しますが、テンポラリーがきちんと動いているか、感染兆候はないか、合併症はないかなどを観察します。
■TP(ケア項目)
テンポラリーが入った患者さんは、感染を起こしやすいので、刺入部の消毒をする時は、清潔操作を心がけて、感染が起こらないようにします。
また、テンポラリーを挿入している時は、ADLが制限されます。基本的にベッド上安静であり、ベッドアップも制限があることが多いので、日常生活援助を行う必要があります。
テンポラリーが入っていることへの不安、植込み式のペースメーカーを入れる手術をすることへの不安を感じていますので、不安を傾聴していかなくてはいけません。
■EP(教育)
テンポラリーの患者の安静度を守るためには、患者の協力が必要不可欠ですので、テンポラリーについての説明を行うようにしましょう。
また、心拍での異常や刺入部の熱感や疼痛、発赤などの感染兆候が見られたらすぐに知られるように説明します。
2-1、テンポラリーの観察項目
テンポラリーを挿入している患者は合併症を起こしやすいので、看護師はしっかりと観察をして、異常の早期発見に努めなければいけません。
①ペーシング不全
テンポラリー挿入中の患者は、ペーシング不全が起こっていないかを観察しましょう。ペーシング不全は、心電図を確認することでわかります。
ペーシング不全には、テンポラリーから電気信号が出ていないものと電気信号は出ているのに心室が収縮しないものの2種類があります。
電気信号がきちんと出ているかどうかは、心電図にスパイクが見られるかどうかでわかります。また、心室が収縮しない場合は、心電図のQRS波の有無で確認することが可能です。
このペーシング不全はリードの接続に問題があったり、断線している可能性があるので、テンポラリー本体とリードを確認してみましょう。
②センシング不全
センシング不全は、本来ないはずの心拍を感知してしまうオーバーセンシングと心臓が自分で動いているのにそれを感知できないアンダーセンシングがあります。
オーバーセンシングではないはずの心拍を感知してしまうので、ペーシングすべきところでペーシングをせずに、心電図上ではペーシング間隔が延長して徐脈になってしまいます。
アンダーセンシングはきちんと心臓が動いているのに、ペーシングをするので、頻拍になりやすいのですが、T波の上にスパイクが乗ってしまうと、VTに移行することがありますので、注意が必要です。
③感染リスク
テンポラリーは長期間挿入していると、感染を起こしやすいので、挿入部の感染兆候を観察しましょう。発赤、熱感、腫脹、疼痛はないかどうか、発熱はないか、血液検査データで炎症兆候は見られていないかを確認してください。
④リードの移動や断線
リードは挿入部できちんと固定されているものですが、まれに抜けてしまうことがあります。また、動くことで心臓内でリードがずれる可能性もゼロではありません。
そうすると、きちんとペーシングできずに患者さんの命にかかわりますので、挿入部はきちんと固定されているか、またマーキングをしてずれはないか、心電図を見てペーシング不全は起こっていないかを確認するようにしましょう。
⑤気胸や血胸、心タンポナーデ
これは、テンポラリーを挿入する時に起こりやすい合併症です。特に鎖骨下静脈からのアプローチの場合、肺や周辺の血管を損傷して、気胸や血胸を起こすことがあります。また、まれに心タンポナーデを起こすこともあります。
挿入の手技中は、患者のバイタルサインの変化に注意しましょう。また、気胸は挿入してから2~3日経ってから徐々にはっきりしてくることがありますので、心電図だけではなく呼吸状態も確認しておきましょう。
まとめ
テンポラリーは一時的な体外ペーシングのことですが、テンポラリーの基礎知識やモード観察項目などを理解していないと、適切な看護をすることができません。
テンポラリーを挿入している患者の看護をする時は、きちんとペーシングされているか、感染兆候はないかなどを観察することはとても大切ですが、ADLが制限されていて、ストレスが溜まりますので、日常生活援助や精神的なケアも行うようにしましょう。