1977年、スイスの医師グルンチッヒ(Dr. Andreas R.Gruzig )によって初めてその施術が行われ、日本でも1981年に実施された冠動脈インターベンション(PCI,PTCA)。
39年の歳月を経た今、その技術は格段に進歩し、医療従事者、中でも看護師に求められる知識やスキルは高いものになってきました。
こうした状況を踏まえ、OJT(オンジョブトレーニング、現場主義)を前提としたPCIを取り巻く現状を見ていきましょう。
1、PCIとは
PCIはPercutaneous(経皮的:皮膚を通して処置をするという意味)Coronary(冠動脈:心臓に酸素や栄養分を送る動脈)Intervention(インターベンション:細い管(カテーテル)を介して治療するという意味)の略で、冠動脈インターベンションとなります。
これは心臓カテーテル治療のひとつで、PTCA(percutaneous transluminal coronary angioplasty:経皮的冠動脈形成術)などもこの治療に含まれます。
PCIは施術の主流を占めていた時代や施術を行う施設によって呼び名が異なり、経皮経管冠動脈形成術、風船治療などと呼ばれることもあります。
2、PCIの対象となる疾病
狭心症や心筋梗塞に代表される虚血性心疾患は、冠動脈の狭窄や閉塞によって発症します。心筋梗塞は、心臓の筋肉への血液供給が阻害され、虚血状態になり、胸痛などの症状をきたす疾患です。
特に冠動脈が突然詰まる急性心筋梗塞は全くの前兆(狭心症)無しに発症し、時間の経過と共に心筋が壊れる(梗塞)ため、命に関わる可能性があります。この疾病に対しては迅速かつ適切な治療が重要となり、具体的な治療法として
① 薬物療法
② PCI(冠動脈インターベンション) ③ 冠動脈バイパス術 |
の3つが挙げられます。このうち薬物療法は基礎的治療法で、この治療を行った上でPCIおよび冠動脈バイパス術が行われます。冠動脈バイパス術に関しては、「冠動脈バイパス術(CABG)の看護|適応と合併症、術前・術後のケア」をお読みください。
3、PCIの穿刺部位
冠動脈の治療を行う場合、カテーテルを用います。カテーテルを挿入する代表的な部位として、手首(橈骨動脈)、肘(上腕動脈)、ももの付け根(大腿動脈)の3カ所がありますが、患者さんの病態や状態によって、最も適した箇所を穿刺部位として選択します。
穿刺部位にももの付け根を選択し、大腿動脈からアプローチした場合は、血管を縫合することで治療後の安静時間を短縮し、患者さんへの負担をできるだけ短くする配慮がなされています。
4、PCIの作業の一例
ここでPCIの作業の流れを振り返ってみましょう。ここではバルーンとステントを使用した場合を紹介します。
- 局所麻酔を行い、シース(カテーテルを出し入れするための血管に入れる管)またはガイディングカテーテルという(径2mm程度の管)を血管に挿入
- カテーテルを冠動脈入り口まで挿入
- ガイドワイヤー(極めて細いワイヤー)で、狭窄部位や閉塞部位を通過
- ワイヤーに沿ってバルーンカテーテル(先端に風船のついた管)を挿入→バルーンをふくらませ、病変部を拡張
- 拡張部にステントを留置
5、PCIの手技
冠動脈は患者さんによってさまざまな病変を見せます。人によって硬い病変もあれば、やわらかい病変もあります。また病変が長かったり、比較的短いものであったり、病変が一箇所にとどまらず複数あるなど、個人差があります。
病変の様態によって使用するカテーテルの種類や治療の方法が変わってきますので、確認しておきましょう。現在行われている主なPCIの手技を以下に紹介していきます。
■バルーン拡張
PCI治療で、もっとも基本的な手法のひとつです。細くなった血管にバルーンを挿入し、造影剤で満たし、血管を拡張します。
■ステント留置
金属製の編み目あるいはコイル状のもの(ステント)を血管の内側で広げて冠動脈内に留置し、再び狭窄しないようにします。
■ロータブレーター
ロータブレーターは先端にダイヤモンドが散りばめられた回転ドリルです。高速で回転し、動脈硬化の進行により石灰化し、非常に固くなった病変を削ります。
■レーザー
カテーテルの先端からレーザーを照射し、病変部に付着して冠動脈を狭窄、あるいは閉塞させているものを焼き切ります。
■血栓吸引療法
冠動脈内がやわらかい血栓でふさがれている場合、吸引カテーテルを使って血栓を吸いとり、血行を改善します。
6、PCIに伴う合併症
PCIは、熟練した循環器の医師らが十分な症例の検討と準備をした上で行いますが、合併症や副作用は皆無ではありません。というのも施術には造影剤や血栓を予防する薬などを使用するほか、カテーテルを血管内で操作するからです。この治療に伴う合併症の頻度は高いものではありませんが、次のようなものがあります。
急性冠動脈閉塞 | PCI後6時間以内に発症することが多いとされており、冠動脈を拡張させた部位の再狭窄や、治療部近位の冠動脈の閉塞などが原因として考えられます。 |
ステント血栓症 | 狭窄を回避させるために留置したステントに血栓がたまることです。 |
不整脈 | PCI術後の心筋梗塞後の期外収縮、房室ブロック、徐脈に注意してください。 |
冠動脈の穿孔・破裂とタンポナーゼ | ガイドワイヤーによる冠動脈の穿孔やバルーンカテーテルによる冠動脈の破裂、またロータブレーター、ステント植え込みに伴って冠動脈の穿孔が起こることがあります。PCIで発生した冠動脈の穿孔では、急速に動脈血が心嚢内へ漏れ出し、心嚢刺激による迷走神経反射が発生、徐脈と血圧低下が起こります。処置が遅れると心タンポナーデに陥ります。 |
血圧低下 | 原因として、極度の精神的緊張や穿刺部の疼痛に伴う迷走神経反射によるもののほか、術前の絶食などによる脱水が考えられます。 |
脳血管障害、その他の塞栓症 | カテーテルやガイドワイヤーの操作や、造影剤の急速注入による血液や造影剤の気泡化によって大動脈壁についているプラークが剥離し、プラーク塞栓症が起こります。 |
造影剤による腎機能障害 | 特に高齢者に多い症例で、多量の造影剤使用に伴い、腎機能低下が発症する可能性があります。 |
徐脈 | 一過性の迷走神経刺激によるもので、患者さんによっては過度の緊張や穿刺部の疼痛によって引き起こされます。また、右冠動脈や左回旋枝領域のPCIに伴って発症する場合もあります。 |
薬のアレルギー | 造影剤などによりアナフィラキシーショックを起こす可能性があります。 |
7、PCI後の看護・観察項目
PCI後の患者さんの看護は、PCIに伴う合併症を十分に認識した上で行う必要があります。ここでは特にPCI後に看護観察において見過ごしてはならない項目について見て行きましょう。
・ バイタルサイン(血圧、体温、脈拍、呼吸)
・ 出血の有無 ・ 動脈拍動触知が可能か ・ 血腫の有無 ・ 下肢の冷感の有無 ・ 胸部症状の有無→合併症の解離や塞栓症をキャッチできる ・ ST変化→再狭窄の可能性もあるため ・ 点滴の内容と流量 ・ 足背動脈の確認 ・ 下肢のしびれ感・疼痛の有無 |
PCIでは、緊張や不安によって引き起こされる副交感神経反射や、狭心発作・心筋梗塞発作の誘発、重症不整脈、心タンポナーデの発症といった、緊急性が高く生命の危険に関わる合併症もあるため、患者さんの様子や訴えについて注意深く観察しなくてはなりません。
術後は使用している薬剤も併せて考える必要があるでしょう。不整脈についても他の原因によるものなのか、確認が必要です。PCIでは造影剤を使用するため、腎障害やインアウト、凝固系もみていく必要があります。
まとめ
PCIの術後の看護は、合併症や再発などを十分に配慮した非常に神経を使うものだと言えます。患者さん一人一人の心身の状態に気を配ることはもとより、個々の患者さんの生活習慣や暮らし向きを把握し看護にあたることが求められます。
PCIに関する知識の習得も大切ですが、最も大切なのは常に患者さんへの観察眼を働かせ、患者さんと向き合う中で、ちょっとした異変に気付くこと。それこそが看護師に求められる比類ないスキルなのだと言えるでしょう。