胆石症患者は年々、増加傾向にあり、別の疾患の検査で発見されることも珍しくはありません。胆石症に対する手術はすでに確立されており、比較的容易に摘出できるものですが、手術に対する患者のストレス度は大きく、また術後の合併症のリスクや退院後の再発の可能性もあります。
そのため、胆石症を軽視せず、身体的・精神的なケアはもちろん、合併症を早期発見できるよう入念な観察と再発防止のための指導も、同時にしっかりと行っていく必要があります。
1、胆石症とは
胆石とは、胆のうや胆管に流れ込んだ消化液「胆汁」が、何らかの原因で石のように固まったもので、その症状を胆石症といいます。固まる原因は、はっきりとは分かっていませんが、胆汁がコレステロールや色素などでできているため、それらのバランスが崩れることが原因の一つと考えられています。
胆石症の患者数は増加傾向にあり、食生活の欧米化が一因とされています。食生活の欧米化は、脂肪の摂取量を増やし、胆汁のコレステロールに影響しているといわれます。
患者は、中年以上に多く、女性は男性の2倍の発症率といわれます。最も発症率が高いのは、40歳代の肥満気味の女性です。
2、胆石症の種類
胆石は、できる場所で分類されます。症状と併せて記します。なお、胆石は「結石の一種」という位置づけです。胆のうと胆管にできる結石を、胆石と呼びます。
■胆のう結石
胆のう結石は、胆のうの中にできる胆石で、胆石の中で最もよく見られます。胆のう結石ができると、食事の後に右上腹部やみぞおちに激しい痛みが発生します。痛みは、1~2時間で収まることが多い傾向にあります。ただし、結石が小さい場合には、無症状のこともあります。
■胆管結石
胆管結石は、胆のうと肝臓、十二指腸をつなぐ胆管にできる胆石です。胆管結石は、さらに2つに分類されます。肝臓内部にある胆管にできたものは肝内結石、肝臓から十二指腸に向かう総胆管にできたものは総胆管結石と呼ばれます。
■肝内結石
肝内結石は、無症状のことが多いものの、長期的には胆道がんの発生リスクも報告されています。総胆管結石は、胆のう結石が流れ出したものがほとんどです。症状が起こりやすい胆石で、十二指腸への出口に胆石が詰まると、上腹部に激痛が起こります。
3、胆石症の治療
検診などで胆石症を指摘されても、無症状の場合は、経過を見るだけでよいとされています。治療が必要なのは、胆石発作や急性胆のう炎が起きた場合と、総胆管結石と診断された場合です。
胆石発作とは、胆石由来の激しい痛みが発生したことを指します。急性胆のう炎は、蓄積した胆石が閉塞を起こすなどして炎症を発生させた状態をいいます。
治療法には抗菌薬投与、胆のうドレナージ術、内視鏡による胆管結石砕石術、外科的手術などがあります。手術は、胆のう摘出術と、結石砕石術があります。
近年は、早期の手術が勧められています。抗菌薬やドレナージで、炎症を落ち着かせることを優先させていた時期もありましたが、早期の方が手術が容易に行えることと、患者への負担が少ないことから方針が変わりつつあります。
なお、手術で胆のうを摘出しても、肝臓や胆管が胆のうの代役を果たすため、生活に支障はありません。特に日本人の食生活では、その傾向が強いのが実情です。
4、全体を通した胆石症患者への看護
胆石症は、痛み、発熱、黄疸、吐き気、嘔吐など、病態と胆石のある場所により、様々な症状を起こします。胆石症の看護は、病態をしっかりと把握した上で当たることが重要です。急性期は、激しい痛みを生じるため、痛みの緩和も大切です。
胆石症の看護目標には、①腹痛・発熱・悪心などの苦痛を緩和すること、②合併症の発症を回避すること、③患者の心配を最小限に抑える心のケア、などがあげられます。全体を通した胆石症患者への看護ケアは以下のとおりです。
■痛みの緩和
痛みが少なく、リラックスできる姿勢がとれる工夫をします。冷やすことで痛みが和らぐこともあります。激しい痛みが恐怖心を生むこともあるので、安心できるように声かけに努めることも大切です。
■状況をしっかりと把握
痛みの発生箇所、程度、性状のほか、放散痛や黄疸を含む全身を観察する必要があります。胆のう炎、胆管炎の併発にも注意を払ってください。胆管炎は、胆のう炎と同様の症状が胆管に発生したものです。
■二次感染への対策
抵抗力が低下することがあります。黄疸が発生している場合は、要注意です。二次感染への対策は徹底してください。胆汁をドレナージしている場合は、逆行感染にも注意してください。
■生活指導
痛みを抑えるために、発作時は絶食とします。痛みのない間も、脂肪制限、また肥満の場合はダイエットに努めてもらいます。過度な疲れも痛みを発生させる原因になります。これらの意味を、患者にしっかりと理解してもらうことも重要です。
5、術前における胆石症患者への看護
術前の看護目標には、①手術を受けることを理解し、心身ともに安定した状態を保つこと、②患者と家族の不安も緩和されること、などがあげられます。
看護師が行うべき看護ケアは、「チューブの管理」、「栄養状態の把握」などが主体となります。また、患者の状態をできるかぎり良好に保つことと、術後の合併症を予防することも必要不可欠な看護ケアです。
■状況をしっかりと把握
黄疸や肝機能障害の有無をしっかりと確認する必要があります。術後の回復に大きな影響を与えるためです。
■チューブの管理
閉塞性黄疸が著しい場合は、PTCDチューブ(経皮経肝経道ドレナージ)が挿入されます。事前の管理が必要です。PTCDチューブの管理については、「PTCDの手技と合併症、看護における管理・観察項目」をご覧ください。
■栄養状態の把握
痛みの発生を抑えるため、普段から脂肪を制限し、香辛料やアルコールの摂取は禁止します。水分補給量にも注意を払い、輸液管理も万全にします。
6、術後における胆石症患者への看護
胆石症の手術後の看護目標には、①ドレーンチューブの適切な管理で合併症を防ぎ、早期離床を促す、②患者の苦痛を最小限に抑える、③異常があれば早期に気づき、重症化を防ぐこと、などがあります。
胆石症の手術後の看護は、胆のう機能の喪失と、手術侵襲から症ずる合併症を予防することが肝心です。異常の早期発見を第一に心がけてください。具体的なケアは以下の通りです。
■ドレーンチューブの管理
ドレーンチューブの管理では、整理整頓と排液の観察が重要です。整理整頓は、患者が体を動かすごとに徹底しましょう。排液の観察は、患者の状態を知るために極めて重要です。通常は血性から淡血性になりますが、胆汁が流出している場合は、胆汁漏の疑いがあります。すみやかに医師に報告しましょう。ドレーンを挿入している皮膚の状態や、胆汁性腹膜炎の症状も同時に観察しましょう。
■痛みのコントロール
早期離床を図るために、多くは硬膜外カテーテルによる自己調節鎮痛法がとられます。患者の痛みの程度をしっかりと把握しておきましょう。
■合併症の予防
全身麻酔の影響により様々な合併症が起こる可能性があります。細心の注意を払いましょう。合併症は通常、術後数日以内に起こりますが、癒着による腸閉塞などは、時間をあけてからも起こることがあります。
■腹腔内出血にも留意
肝機能の異常と黄疸が見られる場合は、腹腔内出血が起きている場合があります。注意しましょう。
■退院間近、退院後の指導
胆のう摘出手術の場合は、胆のうがなくなったことに体が慣れるまで、半年ほど必要といわれます。患者には、その間に心がけることを知ってもらう必要があります。食事面においては、
① 規則正しい時間に食事をとる
② ゆっくりとよく噛んで食べる ③ 一度にたくさん食べない ④ 脂っこい食事(乳製品、マヨネーズ、油入りのドレッシング、インスタント食品、ファストフード、菓子、ナッツなど)は避ける ⑤ 食物繊維の多い食品(緑黄色野菜、キノコ、芋、海藻)を食べる |
などを徹底してもらえるようしっかりと指導してください。術後の運動の制限はありませんが、ウオーキングや自転車などの運動は術後約2週間以降、激しい運動は約3週間以降にするよう指導してください。
まとめ
激しい痛みに始まり、さまざまな症状が起こる胆のう症は、患者が抱えるストレスが大きい病気です。しかし、病気としての知名度が高く、完治も見込まれる病気のため、理解がすすめば、治療は軌道に乗っていくものです。
痛みの緩和や合併症の予防・早期発見、生活上における指導など、看護師が行うべき業務はたくさんありますので、身体・精神の双方から多角的に、患者に寄り添う看護を実施していってください。