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急性・慢性膵炎における看護の注意点と適切な看護計画

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急性・慢性膵炎の看護

症状のレベルなどによって、軽症から死亡の可能性も濃厚になるなど、幅広い病態をもつ膵炎。それぞれの症状の進行を食い止め、患者の回復のための適切な看護計画を実行するために、膵炎とは何かを改めて振り返ります。

 

1、膵炎とは

膵炎とは、何らかの要因により膵臓が炎症を起こした状態の総称を指します。症状としての代表的なものは嘔吐や下痢などの消化器症状や上腹部から左背部への痛みなどが主にあげられています。

この膵炎に対する看護処置ですが、まずは膵炎が臨床の発症状態において、急性膵炎と慢性膵炎によって大きく分けられる事を知っておくことが重要です。

いずれの状態かによって看護計画が全く異なる事を事前知識として認識しておく必要があります。

 

1-1、急性膵炎とは

急性膵炎とは、非活性型で分泌されていた膵消化酵素が何らかの要因で活性化され、膵臓自体を消化するという自己消化の症状が本態です。

悪心や嘔吐と共に激しい腹痛が特徴となっており、特に上腹部の激痛で発症します。その後に心窩部または左季肋部に持続痛がおこり、背部、左肩にかけて痛みは放散していきます。

圧痛も心窩部および左季肋部にあって、病変が進行すると腹部全体に広がっていきます。これら全ての症状に伴う痛みは激痛であるということが急性膵炎の大きな特徴です。

比較的予後の良い疾患ではありますが、重症になると多くの重要臓器が障害され、多臓器不全を呈します。また、全身病に進行すると死亡率が極めて高くなります。

 

1-2、慢性膵炎とは

慢性膵炎とは、膵実質の破壊と脱落がゆるやかなペースで進行し、その結果として生じた不規則な間質結合組織の増生が基本的な病変です。

病変の範囲としては広範なものから限局している場合などもあり、病態も症状も多彩なのが特徴と言えます。

要因となるものは一般的にアルコール性と非アルコール性、もしくは膵石の有無で石灰性、非石灰性のそれぞれに大別され、病期は代償期と非代償期に分けられます。検査、診断、治療方針は病期によってもそれぞれ違います

代償期の症状は腹痛の発症からスタートし、痛みが長時間にわたって起こります。疼痛は間欠的もしくは慢性的で、上腹部、心窩部、左季肋部に起こった後に背部に放散されます。

痛みの種類としては刺し込むような痛みとされており、鈍痛から激痛まで程度はさまざまです。また、嘔気や嘔吐、食欲不全も症状に含まれます。

非代償期の症状は代償期とは異なります。膵酵素が減少して消化器吸収障害が起こり、消化不良、下痢、脂肪便が出現します。膵内部の分泌機能が障害されることによって、糖代謝にも異常がみられるようになります。食欲不振や消化不良のほかに、治療に伴った長期にわたる食事制限などによる体重減少もみられます。

 

2、患者との信頼関係によって導き出される膵炎の看護計画

膵炎の症状における観察ポイントは、症状の発症した状況や経過時間、痛みの種類です。急性か慢性かを切り分ることが、今後の治療に大きな影響を及ぼすためです。そのためには患者から適切なヒアリングを行う必要があります。

また、膵炎はアルコールから遺伝性のものまで様々な起因が考えられます。起因の判別や退院後も再発を防止するために普段の生活習慣についてもヒアリングすることも看護の過程として必要なポイントになってきます。

 

2-1、急性膵炎と診断された場合の看護計画

急性膵炎は、急性腹症の代表的な疾患の一つです。激痛と共に急速に発症してくるため、看護や処置も早急な対応が求められます。

できるだけ早急に成因を含めて病態を正確に把握した診断ができるかと、重症度のレベルを判定した看護を行うことが急務となってきます。

症状によっては疼痛緩和のほか、絶対安静や絶飲絶食の対応が必要になる場合もあります。また、急性炎症を繰り返することにより慢性膵炎に移行しやすいのも特徴です。

急性炎症の症状が消失したあとの体調管理や、退院後の経過観察も含めた適切な看護援助が必要になります。

 

2-2、慢性膵炎と診断された場合の看護計画

慢性膵炎の病変は不可逆です。再発を防ぐために、薬物療法のほかに禁酒や食事療法、規則正しい生活などの生活管理が退院後も求められます。

患者は強い痛みや今後の病変への恐怖を抱いている事が多いため、常に不安を抱いているケースが少なくありません。そのため物理的な看護のほかに、精神的な看護、援助が不可欠です。

 

3、膵炎を理解することで見えてくる共通の看護ポイント

患者は急瀬・慢性にかかわらず痛みや今後の症状について強い不安を持っています。入退院の中で各症状に着目しながら、精神的なケアも並行して行うことが求められます。

 

3-1、入院中に注意すべき看護ポイント

絶飲食の指示が守られているかの確認や、嘔吐があった場合は吐物の性状、量、胃液分泌の性状、量の観察を行います。

膵炎において、痛みの状態は重要な着目点となります。鎮痛剤使用時の効果のヒアリングや痛みに対しての表情、動作、言葉の表現も観察が必要です。

衣服を緩め、腹壁の緊張を取り、腹圧をかけない体位を工夫します。嘔吐を伴う場合は口腔の清潔も保つようにしましょう。不安を軽減できるような落ち着いた口調での声かけも患者にとって精神的な支えになりえます。

また、気分転換を図ったり落ち着いた静かな環境を提供することや、疼痛時には鎮痛剤を使用することができることを伝えることで患者のストレスを和らげます。

 

3-2、退院にむけて、退院後に注意すべき看護ポイント

入院時や退院後も患者が医師や看護師を信頼でき、病状の急変時に適切な処置が受けられる体制を整えておくことが大切です。

また、患者が疾患の経過を適切に理解でき、食事制限や生活習慣改善などの予防手段をとったり、日常の行動をコントロールできるようになることも看護目標として挙げられます。そして、膵炎は継続的治療の必要性があるということもきちんと認識してもらうことも重要な看護目的のひとつです。

再発防止のために、医師が本人や家族に病気の説明を行うときはなるべく同席し、病気について理解できていない部分があれば補足します。不安を表出しやすい雰囲気作りをして思いを傾聴することや心身ともに休める環境の提供を提案しましょう。

また、膵炎の病識がないことは再発のリスクも高めます。日常生活を患者本人が自らコントロールできるよう、飲酒が原因であれば禁酒の指導を行い、患者に実現可能な食事制限などの指導を心がけましょう。

いずれにしても、継続的な治療や経過観察、食事制限などを行うためには、看護師と患者本人との信頼関係の構築が必要不可欠になってきます。

 

まとめ

軽度から重篤な症状まで、様々な症状がみられる膵炎は、状況に応じて様々な対応が求められます。また、患者の精神状態や医師・看護師への信頼度によってもヒアリングの精度が左右され、病態への対応速度も変化します。

また、食事制限などの継続的治療も必要です。病気への理解を深め、再発を防止するためにも、患者との信頼関係の構築を常に心がけ、病状の変化を見落とさない看護を心がけましょう。


胆石症患者への看護|術前・術後の看護計画と身体的・精神的ケア

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胆石症の看護

胆石症患者は年々、増加傾向にあり、別の疾患の検査で発見されることも珍しくはありません。胆石症に対する手術はすでに確立されており、比較的容易に摘出できるものですが、手術に対する患者のストレス度は大きく、また術後の合併症のリスクや退院後の再発の可能性もあります。

そのため、胆石症を軽視せず、身体的・精神的なケアはもちろん、合併症を早期発見できるよう入念な観察と再発防止のための指導も、同時にしっかりと行っていく必要があります。

 

1、胆石症とは

胆石とは、胆のうや胆管に流れ込んだ消化液「胆汁」が、何らかの原因で石のように固まったもので、その症状を胆石症といいます。固まる原因は、はっきりとは分かっていませんが、胆汁がコレステロールや色素などでできているため、それらのバランスが崩れることが原因の一つと考えられています。

胆石症の患者数は増加傾向にあり、食生活の欧米化が一因とされています。食生活の欧米化は、脂肪の摂取量を増やし、胆汁のコレステロールに影響しているといわれます。

患者は、中年以上に多く、女性は男性の2倍の発症率といわれます。最も発症率が高いのは、40歳代の肥満気味の女性です。

 

2、胆石症の種類

胆石は、できる場所で分類されます。症状と併せて記します。なお、胆石は「結石の一種」という位置づけです。胆のうと胆管にできる結石を、胆石と呼びます。

 

胆のう結石

胆のう結石は、胆のうの中にできる胆石で、胆石の中で最もよく見られます。胆のう結石ができると、食事の後に右上腹部やみぞおちに激しい痛みが発生します。痛みは、1~2時間で収まることが多い傾向にあります。ただし、結石が小さい場合には、無症状のこともあります。

 

■胆管結石

胆管結石は、胆のうと肝臓、十二指腸をつなぐ胆管にできる胆石です。胆管結石は、さらに2つに分類されます。肝臓内部にある胆管にできたものは肝内結石、肝臓から十二指腸に向かう総胆管にできたものは総胆管結石と呼ばれます。

 

■肝内結石

肝内結石は、無症状のことが多いものの、長期的には胆道がんの発生リスクも報告されています。総胆管結石は、胆のう結石が流れ出したものがほとんどです。症状が起こりやすい胆石で、十二指腸への出口に胆石が詰まると、上腹部に激痛が起こります。

 

3、胆石症の治療

検診などで胆石症を指摘されても、無症状の場合は、経過を見るだけでよいとされています。治療が必要なのは、胆石発作や急性胆のう炎が起きた場合と、総胆管結石と診断された場合です。

胆石発作とは、胆石由来の激しい痛みが発生したことを指します。急性胆のう炎は、蓄積した胆石が閉塞を起こすなどして炎症を発生させた状態をいいます。

治療法には抗菌薬投与、胆のうドレナージ術、内視鏡による胆管結石砕石術、外科的手術などがあります。手術は、胆のう摘出術と、結石砕石術があります。

近年は、早期の手術が勧められています。抗菌薬やドレナージで、炎症を落ち着かせることを優先させていた時期もありましたが、早期の方が手術が容易に行えることと、患者への負担が少ないことから方針が変わりつつあります。

なお、手術で胆のうを摘出しても、肝臓や胆管が胆のうの代役を果たすため、生活に支障はありません。特に日本人の食生活では、その傾向が強いのが実情です。

 

4、全体を通した胆石症患者への看護

胆石症は、痛み、発熱、黄疸、吐き気、嘔吐など、病態と胆石のある場所により、様々な症状を起こします。胆石症の看護は、病態をしっかりと把握した上で当たることが重要です。急性期は、激しい痛みを生じるため、痛みの緩和も大切です。

胆石症の看護目標には、①腹痛・発熱・悪心などの苦痛を緩和すること、②合併症の発症を回避すること、③患者の心配を最小限に抑える心のケア、などがあげられます。全体を通した胆石症患者への看護ケアは以下のとおりです。

 

■痛みの緩和

痛みが少なく、リラックスできる姿勢がとれる工夫をします。冷やすことで痛みが和らぐこともあります。激しい痛みが恐怖心を生むこともあるので、安心できるように声かけに努めることも大切です。

 

■状況をしっかりと把握

痛みの発生箇所、程度、性状のほか、放散痛や黄疸を含む全身を観察する必要があります。胆のう炎、胆管炎の併発にも注意を払ってください。胆管炎は、胆のう炎と同様の症状が胆管に発生したものです。

 

■二次感染への対策

抵抗力が低下することがあります。黄疸が発生している場合は、要注意です。二次感染への対策は徹底してください。胆汁をドレナージしている場合は、逆行感染にも注意してください。

 

■生活指導

痛みを抑えるために、発作時は絶食とします。痛みのない間も、脂肪制限、また肥満の場合はダイエットに努めてもらいます。過度な疲れも痛みを発生させる原因になります。これらの意味を、患者にしっかりと理解してもらうことも重要です。

 

5、術前における胆石症患者への看護

術前の看護目標には、①手術を受けることを理解し、心身ともに安定した状態を保つこと、②患者と家族の不安も緩和されること、などがあげられます。

看護師が行うべき看護ケアは、「チューブの管理」、「栄養状態の把握」などが主体となります。また、患者の状態をできるかぎり良好に保つことと、術後の合併症を予防することも必要不可欠な看護ケアです。

 

■状況をしっかりと把握

黄疸や肝機能障害の有無をしっかりと確認する必要があります。術後の回復に大きな影響を与えるためです。

 

■チューブの管理

閉塞性黄疸が著しい場合は、PTCDチューブ(経皮経肝経道ドレナージ)が挿入されます。事前の管理が必要です。PTCDチューブの管理については、「PTCDの手技と合併症、看護における管理・観察項目」をご覧ください。

 

■栄養状態の把握

痛みの発生を抑えるため、普段から脂肪を制限し、香辛料やアルコールの摂取は禁止します。水分補給量にも注意を払い、輸液管理も万全にします。

 

6、術後における胆石症患者への看護

胆石症の手術後の看護目標には、①ドレーンチューブの適切な管理で合併症を防ぎ、早期離床を促す、②患者の苦痛を最小限に抑える、③異常があれば早期に気づき、重症化を防ぐこと、などがあります。

胆石症の手術後の看護は、胆のう機能の喪失と、手術侵襲から症ずる合併症を予防することが肝心です。異常の早期発見を第一に心がけてください。具体的なケアは以下の通りです。

 

■ドレーンチューブの管理

ドレーンチューブの管理では、整理整頓と排液の観察が重要です。整理整頓は、患者が体を動かすごとに徹底しましょう。排液の観察は、患者の状態を知るために極めて重要です。通常は血性から淡血性になりますが、胆汁が流出している場合は、胆汁漏の疑いがあります。すみやかに医師に報告しましょう。ドレーンを挿入している皮膚の状態や、胆汁性腹膜炎の症状も同時に観察しましょう。

 

■痛みのコントロール

早期離床を図るために、多くは硬膜外カテーテルによる自己調節鎮痛法がとられます。患者の痛みの程度をしっかりと把握しておきましょう。

 

■合併症の予防

全身麻酔の影響により様々な合併症が起こる可能性があります。細心の注意を払いましょう。合併症は通常、術後数日以内に起こりますが、癒着による腸閉塞などは、時間をあけてからも起こることがあります。

 

腹腔内出血にも留意

肝機能の異常と黄疸が見られる場合は、腹腔内出血が起きている場合があります。注意しましょう。

 

■退院間近、退院後の指導

胆のう摘出手術の場合は、胆のうがなくなったことに体が慣れるまで、半年ほど必要といわれます。患者には、その間に心がけることを知ってもらう必要があります。食事面においては、

 

①     規則正しい時間に食事をとる

②     ゆっくりとよく噛んで食べる

③     一度にたくさん食べない

④     脂っこい食事(乳製品、マヨネーズ、油入りのドレッシング、インスタント食品、ファストフード、菓子、ナッツなど)は避ける

⑤     食物繊維の多い食品(緑黄色野菜、キノコ、芋、海藻)を食べる

 

などを徹底してもらえるようしっかりと指導してください。術後の運動の制限はありませんが、ウオーキングや自転車などの運動は術後約2週間以降、激しい運動は約3週間以降にするよう指導してください。

 

まとめ

激しい痛みに始まり、さまざまな症状が起こる胆のう症は、患者が抱えるストレスが大きい病気です。しかし、病気としての知名度が高く、完治も見込まれる病気のため、理解がすすめば、治療は軌道に乗っていくものです。

痛みの緩和や合併症の予防・早期発見、生活上における指導など、看護師が行うべき業務はたくさんありますので、身体・精神の双方から多角的に、患者に寄り添う看護を実施していってください。

PCIの看護|その目的と手術法、合併症を踏まえたケア・観察項目

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DCIの看護

1977年、スイスの医師グルンチッヒ(Dr. Andreas R.Gruzig )によって初めてその施術が行われ、日本でも1981年に実施された冠動脈インターベンション(PCI,PTCA)。

39年の歳月を経た今、その技術は格段に進歩し、医療従事者、中でも看護師に求められる知識やスキルは高いものになってきました。

こうした状況を踏まえ、OJT(オンジョブトレーニング、現場主義)を前提としたPCIを取り巻く現状を見ていきましょう。

 

1、PCIとは

PCIはPercutaneous(経皮的:皮膚を通して処置をするという意味)Coronary(冠動脈:心臓に酸素や栄養分を送る動脈)Intervention(インターベンション:細い管(カテーテル)を介して治療するという意味)の略で、冠動脈インターベンションとなります。

これは心臓カテーテル治療のひとつで、PTCA(percutaneous transluminal coronary angioplasty:経皮的冠動脈形成術)などもこの治療に含まれます。

PCIは施術の主流を占めていた時代や施術を行う施設によって呼び名が異なり、経皮経管冠動脈形成術、風船治療などと呼ばれることもあります。

 

2、PCIの対象となる疾病

狭心症や心筋梗塞に代表される虚血性心疾患は、冠動脈の狭窄や閉塞によって発症します。心筋梗塞は、心臓の筋肉への血液供給が阻害され、虚血状態になり、胸痛などの症状をきたす疾患です。

特に冠動脈が突然詰まる急性心筋梗塞は全くの前兆(狭心症)無しに発症し、時間の経過と共に心筋が壊れる(梗塞)ため、命に関わる可能性があります。この疾病に対しては迅速かつ適切な治療が重要となり、具体的な治療法として

 

①     薬物療法

②     PCI(冠動脈インターベンション)

③     冠動脈バイパス術

 

の3つが挙げられます。このうち薬物療法は基礎的治療法で、この治療を行った上でPCIおよび冠動脈バイパス術が行われます。冠動脈バイパス術に関しては、「冠動脈バイパス術(CABG)の看護|適応と合併症、術前・術後のケア」をお読みください。

 

3、PCIの穿刺部位

冠動脈の治療を行う場合、カテーテルを用います。カテーテルを挿入する代表的な部位として、手首(橈骨動脈)、肘(上腕動脈)、ももの付け根(大腿動脈)の3カ所がありますが、患者さんの病態や状態によって、最も適した箇所を穿刺部位として選択します。

穿刺部位にももの付け根を選択し、大腿動脈からアプローチした場合は、血管を縫合することで治療後の安静時間を短縮し、患者さんへの負担をできるだけ短くする配慮がなされています。

 

4、PCIの作業の一例

ここでPCIの作業の流れを振り返ってみましょう。ここではバルーンとステントを使用した場合を紹介します。

 

  • 局所麻酔を行い、シース(カテーテルを出し入れするための血管に入れる管)またはガイディングカテーテルという(径2mm程度の管)を血管に挿入
  • カテーテルを冠動脈入り口まで挿入
  • ガイドワイヤー(極めて細いワイヤー)で、狭窄部位や閉塞部位を通過
  • ワイヤーに沿ってバルーンカテーテル(先端に風船のついた管)を挿入→バルーンをふくらませ、病変部を拡張
  • 拡張部にステントを留置

 

5、PCIの手技

冠動脈は患者さんによってさまざまな病変を見せます。人によって硬い病変もあれば、やわらかい病変もあります。また病変が長かったり、比較的短いものであったり、病変が一箇所にとどまらず複数あるなど、個人差があります。

病変の様態によって使用するカテーテルの種類や治療の方法が変わってきますので、確認しておきましょう。現在行われている主なPCIの手技を以下に紹介していきます。

 

■バルーン拡張

PCI治療で、もっとも基本的な手法のひとつです。細くなった血管にバルーンを挿入し、造影剤で満たし、血管を拡張します。

 

■ステント留置

金属製の編み目あるいはコイル状のもの(ステント)を血管の内側で広げて冠動脈内に留置し、再び狭窄しないようにします。

 

■ロータブレーター

ロータブレーターは先端にダイヤモンドが散りばめられた回転ドリルです。高速で回転し、動脈硬化の進行により石灰化し、非常に固くなった病変を削ります。

 

■レーザー

カテーテルの先端からレーザーを照射し、病変部に付着して冠動脈を狭窄、あるいは閉塞させているものを焼き切ります。

 

■血栓吸引療法

冠動脈内がやわらかい血栓でふさがれている場合、吸引カテーテルを使って血栓を吸いとり、血行を改善します。

 

6、PCIに伴う合併症

PCIは、熟練した循環器の医師らが十分な症例の検討と準備をした上で行いますが、合併症や副作用は皆無ではありません。というのも施術には造影剤や血栓を予防する薬などを使用するほか、カテーテルを血管内で操作するからです。この治療に伴う合併症の頻度は高いものではありませんが、次のようなものがあります。

 

急性冠動脈閉塞 PCI後6時間以内に発症することが多いとされており、冠動脈を拡張させた部位の再狭窄や、治療部近位の冠動脈の閉塞などが原因として考えられます。
ステント血栓症 狭窄を回避させるために留置したステントに血栓がたまることです。
不整脈 PCI術後の心筋梗塞後の期外収縮、房室ブロック、徐脈に注意してください。
冠動脈の穿孔・破裂とタンポナーゼ ガイドワイヤーによる冠動脈の穿孔やバルーンカテーテルによる冠動脈の破裂、またロータブレーター、ステント植え込みに伴って冠動脈の穿孔が起こることがあります。PCIで発生した冠動脈の穿孔では、急速に動脈血が心嚢内へ漏れ出し、心嚢刺激による迷走神経反射が発生、徐脈と血圧低下が起こります。処置が遅れると心タンポナーデに陥ります。
血圧低下 原因として、極度の精神的緊張や穿刺部の疼痛に伴う迷走神経反射によるもののほか、術前の絶食などによる脱水が考えられます。
脳血管障害、その他の塞栓症 カテーテルやガイドワイヤーの操作や、造影剤の急速注入による血液や造影剤の気泡化によって大動脈壁についているプラークが剥離し、プラーク塞栓症が起こります。
造影剤による腎機能障害 特に高齢者に多い症例で、多量の造影剤使用に伴い、腎機能低下が発症する可能性があります。
徐脈 一過性の迷走神経刺激によるもので、患者さんによっては過度の緊張や穿刺部の疼痛によって引き起こされます。また、右冠動脈や左回旋枝領域のPCIに伴って発症する場合もあります。
薬のアレルギー 造影剤などによりアナフィラキシーショックを起こす可能性があります。

 

7、PCI後の看護・観察項目

PCI後の患者さんの看護は、PCIに伴う合併症を十分に認識した上で行う必要があります。ここでは特にPCI後に看護観察において見過ごしてはならない項目について見て行きましょう。

 

・  バイタルサイン(血圧、体温、脈拍、呼吸)

・  出血の有無

・  動脈拍動触知が可能か

・  血腫の有無

・  下肢の冷感の有無

・  胸部症状の有無→合併症の解離や塞栓症をキャッチできる

・  ST変化→再狭窄の可能性もあるため

・  点滴の内容と流量

・  足背動脈の確認

・  下肢のしびれ感・疼痛の有無

 

PCIでは、緊張や不安によって引き起こされる副交感神経反射や、狭心発作・心筋梗塞発作の誘発、重症不整脈、心タンポナーデの発症といった、緊急性が高く生命の危険に関わる合併症もあるため、患者さんの様子や訴えについて注意深く観察しなくてはなりません。

術後は使用している薬剤も併せて考える必要があるでしょう。不整脈についても他の原因によるものなのか、確認が必要です。PCIでは造影剤を使用するため、腎障害やインアウト、凝固系もみていく必要があります。

 

まとめ

PCIの術後の看護は、合併症や再発などを十分に配慮した非常に神経を使うものだと言えます。患者さん一人一人の心身の状態に気を配ることはもとより、個々の患者さんの生活習慣や暮らし向きを把握し看護にあたることが求められます。

PCIに関する知識の習得も大切ですが、最も大切なのは常に患者さんへの観察眼を働かせ、患者さんと向き合う中で、ちょっとした異変に気付くこと。それこそが看護師に求められる比類ないスキルなのだと言えるでしょう。

手浴が看護の現場に果たす役割と効果、実施に際する注意点

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手浴の看護

看護や介護の現場で、患者の手や指を清潔にするために手浴が実施されることがあります。手浴は足浴や清拭と同じく、自力での入浴が困難な患者に対する清潔ケアの一環でもあり、さらに体温の上昇や冷え取り、血行促進、発汗、デトックス効果などが見込めるとして、妊婦やダイエット中の人に対しても、幅広い人たちにすすめられています。

ここでは看護や介護の現場で活用されるケースをメインに、手浴に期待される効果や手順、注意点などを紹介します。

 

1、手浴とは

手浴は、看護や介護の現場で行われる部分浴の一つで、患者の手を湯に浸けて清潔にするほか、手の血流を改善させたり、手を温める働きなどでも知られています。手を洗うだけでなく、マッサージなどを加える方法もあります。

 

2、手浴の効果

手浴の効果には、さまざまな種類があります。衛生、メンタル、鎮痛など、看護や介護に関わる多方面から注目が注がれる手浴の効果について、紹介します。

 

清潔ケア

脳血管障害などで長期臥床となり、手に麻痺が残ったり掌屈位となると、手や指の密着した部分が湿ったりして不衛生になりやすく、白癬症や臭気、褥瘡の発生につながる可能性もあります。そのため、手浴は自分で手洗いができない長期臥床患者にとって、通常の入浴介助だけでは落としきれない手の汚れを改善させることができると言われています。

 

入眠促進

手浴をすることで身体が温まり、眠りに入りやすくなると言われています。

 

浮腫の予防

湯の中で手を洗ったり、マッサージや手の運動をすることで血流を改善させたり、手や指の筋肉をほぐす効果が見込まれるため、浮腫の予防につながるとも言われています。

 

リラックス

メンタルに関わる面で言えば、手浴にはリラックス効果があるとよく言われています。手浴によって、被験者の緊張や怒りの気持ちを落ち着かせたり、副交感神経が上昇する傾向がみられたという研究結果があります1)。また、手浴によって身体の一部分が加温されることで、保温効果だけでなく、被験者に爽快感がもたらされることを示す研究もあります2)

 

鎮痛効果

脳血管障害を抱え、手や指に麻痺や痺れがあったり、指先での細かい動作が困難な患者に対して行われた実態調査3)によると、手浴をすることによって一時的に痛みや痺れが緩和されたり、手の動きが改善される感覚を持った、という実績が示されています。他にも、手浴を実施した際に、実施場所以外の部位の痛みを鎮める効果が認められた実験もあります2)

 

3、手浴の手順

具体的に、手浴はどのようにして行えば良いのでしょうか。手順やポイントを挙げてみましょう。

 

湯の温度と時間

手浴に使われる湯については、38~43度程度の温度が示されるケースが多いようです。熱さをめぐる表現としては「ぬるま湯」「少し熱め」など幅があります。また、手浴にかかる時間は5~10分間、手浴を行うタイミングとしては、食前や排せつ後などが示されています。

 

具体的な手順

湯の入った洗面器に患者の手のひらと指、手首を入れ、湯に浸けます。手浴中には血行が良くなることに合わせて、患者の手のマッサージをしたり、可能であれば指を曲げたり引っ張ったりして運動させることもおすすめです。また、手首までしっかりと湯に浸けるようにして温めましょう。

石鹸やウォッシュクロスを使って指の間や手のひらをきれいに洗う場合、洗った後に湯を取りかえて手をすすぐ必要があります。すすぎが終了したら、手にかけ湯をした後、タオルを使って手に残った水分をふき取りましょう。

 

4、手浴をする際に注意すること

手浴は部分浴の中でも比較的簡易な作業と言え、さらにさまざまな効果が期待されるというメリットもあります。しかし、実行する際には注意点もありますので、以下のポイントを踏まえた上で手浴をするようにしましょう。

 

患者の体調

全身浴ではないにしても、手浴は温浴ですので、実施すると体調の変化が起こりやすくなると言われています。手浴中や手浴終了後に患者の体調に変化がないかどうか、注意しながら行いましょう。手浴前に体調をチェックしておくことも重要となります。

 

患者への配慮

患者が起き上がることができない状態の場合、左側臥位で右手、右側臥位で左手を洗うなど、配慮するようにしてください。手浴中は湯加減が熱くないかどうかを確かめるなど、患者とコミュニケーションを取りながら行うことも重要です。

 

患者の状態をよく観察する

手浴は、患者の手の状態を確認するということにおいても重要なポイントとなり得ます。手浴を実行するにあたり、患者の手の皮膚の色や乾燥具合、爪の状態、さらに掻痒感や臭気がないかどうか、といったことを観察してください。

 

5、手浴との相乗効果が見込まれる方法

手浴をする際には、お湯の中に手や指を入れて汚れを落とし、清潔にするだけでなく、マッサージなどを加えることもできます。手浴と組み合わせることで、温浴やメンタルの面で相乗効果が出ることが期待される方法を紹介します。

 

5-1、手・指の屈伸運動

手浴の温熱効果を促進させる方法として、加温効果のある炭酸泉入浴剤入りの炭酸泉を使い、さらに手浴中に手指の屈伸運動を実施した結果、深部体温の上昇がみられたという研究結果4)があります。

しかもその上昇度合いは、炭酸泉や単純泉で手浴しながら手指の屈伸運動をしなかったケースに比べても大きかったとのことです。このことから、単純な手指屈伸運動でも、温浴効果に対して果たす役割が大きいことがうかがえます。

 

5-2、アロマテラピー

アロマテラピーは、植物由来の香りや有効成分を含む精油を使い、不調を抱える心身に癒しを提供したり、自然治癒力を高めることなどを目的とした療法です。近年、看護や介護の場でも、アロマテラピーを取り入れる動きが見受けられます。

手浴をする場合、ハンドマッサージがつくことがありますが、マッサージに使用するオイルに、リラックス効果などが見込まれる精油を混ぜる事例が、しばしば見受けられます。また、手浴や足浴などの温浴に使われる湯の中に精油を入れることで、患者はアロマの香りを楽しみながら、清潔ケアを受けることもできます。

血行促進効果が期待できるレモン、ひんやりとした心地を楽しめるペパーミント、リラックス効果が見込まれるラベンダーやローマンカモミールなど、患者の状態や気温、時間帯などによって使用する精油を変えてみたりすることで、より満足度の高い療法になります。

ただし妊婦に対して行う場合は、種類によっては避けた方が良い精油もありますので、注意が必要です。

 

まとめ

手浴は比較的簡易な作業で患者の清潔ケアができるほか、メンタルや鎮痛などの面でも効果が期待できるため、非常に便利なケア方法となります。

特に寝たきり状態となっている患者に対して、不衛生になりやすいとされる麻痺の残った手や指を清潔に保つのに有効である点や、痛みや痺れが緩和されたり、リラックス効果も期待できる点は、闘病生活をサポートする上で、有効な方法となり得るでしょう。

ただし、手先だけでなく身体に麻痺や障害を抱える患者が対象となるケースが多いことを踏まえ、手浴を実行する際は患者の体調管理や観察をしっかりと行い、コミュニケーションを取りながら患者がケアを受けやすい体勢や環境を整えるなど、配慮しながら行うようにしてください。

 

参考文献

1)石井ゆり香 他「手浴によるリラックス効果の検討―対象者の気分による主観的評価と自律神経活動の変化―

2)池田理恵・深井喜代子・岡田淳子「手浴が実験的疼痛閾値に及ぼす影響」2002『川崎医療福祉学会誌』

3)矢野理香・石本政恵・品地智子・飯野智恵子「脳血管障害患者における手浴―7事例の検討を通して―」2009『日本看護技術学会誌』

4)大重匡・高森明久・西宏晃・田中信行「手浴の温熱効果を向上させる方法について

ダンピング症候群の看護|症状・治療法と発症を防ぐための予防策・注意点

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ダンピング症候群の看護

ダンピング症候群の症状・治療法と発症を防ぐための予防策・注意点

 

食べ物を食べるとその食物は胃を通過することになります。胃は食べ物を分解してお粥みたいにドロっとした状態にしてから腸へと運ばれて、食物の栄養を体中に取り入れていきます。上記は健全者の胃の働きですが、ガンなどの病気で胃を切除してしまうと食べ物を食べた後、一気に腸へと流れ込んでしまいます。

この結果、全身に不快感を感じてしまう症状が発生。この症状のことを「ダンピング症候群」と言います。ここではダンピング症候群とは何かを説明するとともに、改善する為の看護ケアをご紹介していきたいと思います。

 

1、ダンピング症候群とは

ダンピング症候群とは胃切除後に起きる症状。切除後に食べ物を食べると食物が急速に十二指腸と小腸の最初の部分となる空腸と言われる場所へ流れ込んでいきます。すると腸は食物が流れ込んだことによって拡張するとともに、食物に含まれている水分が移動し、全身の血液量変動や血糖の急上昇、血糖の急低下によって、さまざまな不快な症状が発現します。術式や吻合によって発生する確率は変化してきますが、大体10~40%とされております。

 

2、ダンピング症候群の症状と原因

ダンピング症候群が起きる要因を一つに絞ってあげることは非常に難しいとされており、いくつかの原因が重なって起きるものとされております。その主な要因とは、

 

①   胃の食物等の急速な排出

②   腸の運動が激しくなった時

③   循環血流量の変動と末梢血流量の変動

④   体液性因子(セロトニン、ヒスタミン、ブラジキニンなど)の変動

⑤   血液生化学的変化(血糖の変化や低カリウム血症、血清鉄の減少など)

 

などがあり、これらが重なり合ってなるものとされております。これらの原因が重複することで、腸からセロトニンやプロスタグラジンなどの物質が放出されることによって神経が刺激され、ダンピング症候群が発生するとされております。

 

3、ダンピング症候群の種類

ダンピング症候群は二種類に分類されます。一つ目は胃を切除した後に食事を行った時、30分程度でダンピング症候群とされる症状が発生した場合を「早期ダンピング症候群」と分類。二つ目は食後2~3時間経過後、個人差によって程度の差がありますが、めまいなどの諸症状が現れた場合を「後期ダンピング症候群」としております。下記に早期ダンピング症候群と後期ダンピング症候群の症状をまとめましたのでご紹介します。

 

3-1、早期ダンピング症候群の症状と治療

早期ダンピング症候群は全身症状と腹部を中心とした症状が発生します。全体症状はめまい、冷や汗、動悸、眠気、腹痛、全身脱力感などがあり、また下腹部においては吐き気、下痢、腹部の不快感などが発生します。

腹部の諸症状においては、ダンピング症候群が原因とは限らない可能性が高く、看護・医療分野における今後の研究によって明らかになってくると思われます。これらダンピング症候群を治療するにはいくつかの方法があります。

薬物療法が良いとされております。投与する薬物としては抗セロトニン薬、抗ヒスタミン薬、抗ブラジキニン薬などが胃の排出遅延や小腸運動減少を目的として用いられます。薬物療法によって治療を続けても効果が見られないダンピング症候群の治療法として外科療法があります。

原則として、外科療法を行う場合は胃を切除後約6ヶ月経過してから行うものとしています。しかし、外科療法は多くの問題点を有しているため、積極的に使われない療法となっております。

 

3-2、後期ダンピング症候群の症状と治療

後期ダンピング症状は前期ダンピング症候群と違い、食事の後2~3時間経過してから発生します。主な症状としては、全身の脱力感や倦怠感、めまい、失神発作、気力消失などが重複して起きるとされており、一般的に30~40分程持続します。

早期ダンピング症候群と重複して発生することもありますが、後期ダンピング症候群単体で起きる可能性もあります。後期ダンピング症候群に対しては、早期ダンピング症候群のように薬物療法や外科療法などはなく、食事摂取の方法を改善することによって回復を図ります。

ご飯を食べてから2時間位間を空けた後に間食したり、冷や汗、動悸などの低血糖症状が表れた際には、アメや氷砂糖など舐めることによって収まります。上記の方法をとる事によって改善することができるとされております。

 

4、ダンピング症候群の予防策

胃を胃潰瘍やその他の病気によって切除すると、切除以前のようにいっぱいご飯を食べることができなくなっていることでしょう。この時に無理して以前のようにいっぱいご飯を食べると、ダンピング症候群が起きやすくなるので注意が必要です。

ダンピング症候群を予防するためには、①食事に時間をかける、②少量摂取を心がける、③食後の休息・安楽な体勢をとる、などが重要となってくるため、看護師はこれらの予防策を患者にしっかりと伝えるようにしてください。

 

一回の食事に30分以上かけて食べること 胃が部分的にのこっていても機能自体は低下しており、全摘で食道と小腸を繋いだ場合、食道と小腸では食物や飲み物などの通過速度に差異があり、速く食べると小腸のつなぎ目でつかえやすくなるため、ゆっくり食べることが予防に繋がります。
焦らず欲張らずに少量でやめる 一回でご飯を食べられる量には個人差があります。食事の摂取量が多いとダンピング症候群を引き起こす可能性が高まるため、看護師は患者の食事の摂取量をしっかりと把握し、少量摂取を行うよう指導してください。
ご飯を食べたあとの過ごし方に注意する ご飯を食べたあとの過ごし方によってダンピング症候群を改善できるとされております。ダンピング症候群を頻繁に起こしてしまう方は、食道から小腸への食べ物や飲み物の流れがゆっくりとなるように横になるのがいいでしょう。また、ただゴロンと横になるのではなく、上半身を少し高くして横になって休むと効果的です。ただし、胃もたれする方は横にならずに座って休むか、ちょっとしたウォーキングなどをすると良いとされております。

 

これらのほか、食事のメニューに気を付けることも大切です。脂質の少ない赤身のお肉や鶏のササミ、ご飯、チーズやヨーグルトなどの乳製品などが、ダンピング症候群の予防に適していると言われています。

入院時の食事は栄養士がしっかりと調整しているため、基本的に問題はありませんが、退院後の食管理は患者自身が行わなければいけませんので、看護師は患者に対して、上記メニューのほか、糖分の多い食品を避けるなど、入念に説明・指導してください。

 

まとめ

ダンピング症候群は胃を切除した場合に起きる症状ですが、現在では減少傾向にある症例です。しかし、もしこの症状が発生したときは、食事の改善によって治る可能性が高い病気です。

発症時の改善策として、また発症しないための予防策として、上記で紹介した、①食事に時間をかける、②少量摂取を心がける、③食後の休息・安楽な体勢をとる、などの実施は不可欠ですので、患者が自分の意思でしっかり行えるよう、看護師は患者に対して入念な説明と指導を行っていってください。

 

胃カメラ検査の看護|検査前~検査後における看護ケアと観察項目

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胃カメラの看護

胃カメラは、簡単な検査手段として広く認知され、また頻繁に実施されていることから、医師や看護師など医療従事者は安易に捉えてしまいがちです。

しかし、胃カメラの検査を受ける患者さんの多くは、身体的な負担に加え、精神的不安を抱えています。そのため、看護師は患者さんに対して、身体的・精神的の双方から献身的なケアを実施する必要があります。

 

1、胃カメラとは

胃カメラとは、口または鼻から内視鏡を挿入し、食道・胃・十二指腸までの上部消化管の様子をみる検査のことを指し、正式には「上部消化管内視鏡検査」と言います。

胃カメラは炎症や潰瘍などの発見のために行う場合や、組織診を目的として行う場合があり、また治療を目的に実施されることも多々あります。

 

一般検査 炎症性病変(食道炎・急性胃炎・慢性胃炎など)や潰瘍(食道潰瘍・胃潰瘍・十二指腸潰瘍など)の観察
特殊検査 ポリープ(粘膜の変化や良性・悪性の識別をして必要時に組織採取)や腫瘍(腫瘍の範囲や進展度、経過など)の観察や組織診
内視鏡的治療 ポリープや腫瘍などの切除

 

1-1、経口内視鏡と経鼻内視鏡の違い

患者さんが感じる違いは、嘔吐感・息苦しさ・挿入時の苦痛度です。経鼻内視鏡は経口内視鏡に比べて直径が約半分(5~6mm)と径が細いため、挿入もあまり気になりません。また、スコープが舌根部に触れないことで、嘔吐反射が少ないことから苦痛度は低くなります。さらに、検査中の会話も経鼻内視鏡の場合には可能になることから、心理的にも経口内視鏡にくらべて負担は軽くなります。

そして、これら苦痛度の違いは、心拍数や血圧の増加といった数字にも表れてきます。経口内視鏡では心拍数・血圧が上昇することが多く、それに伴い心筋酸素消費量も増加するのに比べ、経鼻内視鏡では心拍数がわずかに増加するに留まるため、心筋酸素消費量も変化しません。

一方で、内視鏡のスペックとしては、経口内視鏡と経鼻内視鏡は同様のスペックを有しているものの、経鼻内視鏡は経口内視鏡と比べて、個々のサイズが小さく、機能が劣るものもあります。例えば、ライトは光源が弱いため経口内視鏡の撮影映像に比べて鮮明さに欠け、解像度は劣ってしまいます。また、経鼻内視鏡は鉗子孔などが小さく、切除用処置具の通過が困難であるため、早期癌の粘膜の内視鏡的切除などは原則として行われません。

 

2、胃カメラによる合併症・副作用

胃カメラは基本的に安全な検査であるものの、約0.012%で消化管出血や、穿孔などの偶発症の可能性があることから、偶発症の可能性を念頭に置いて介助・看護をする必要があります。

 

薬剤アレルギー

経口・経鼻いずれの内視鏡検査においても、前処理で局所麻酔を使用します。その際に用いられる麻酔薬がアレルギー反応、発熱、痙攣、不整脈、呼吸抑制、心停止などの副作用を起こすことがあります。事故を防ぐためにも、患者さんの過去の使用歴などを事前に確認をしておくことが大切です。

 

出血

経鼻内視鏡検査では、前処理の血管収縮薬や局所麻酔薬の点鼻や鼻腔内散布の際に、チューブなどがあたって鼻出血が生じることがあります。また、組織生検のために粘膜を採取したあとは少量の出血が起こります。

さらに、ポリープや早期癌の内視鏡的切除の際には、ポリペクトミー内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(EDS)のいずれかの方法がとられます。これらの切除後には出血や穿孔の恐れがありますので、入念な観察が必要不可欠です。

 

消化管の穿孔

嘔吐反射などにより胃の中の圧が高くなることで消化管の粘膜が裂けることがあります。この場合、内科治療で穿孔がふさがることもありますが、輸血などの緊急処置・手術が必要になることもあります。

 

咽頭・消化管の損傷

のどの奥や十二指腸の狭い部分、胃と食道の結合部で粘膜の弱いところなど、内視鏡を通すのが難しい箇所では内視鏡で傷をつけてしまうことがあります。

 

3、看護・介助の流れと注意点

患者さんの身体はもちろん、心の負担を軽減することが大切です。緊張をほぐすことで、検査もスムーズに進みます。そのためには、内視鏡検査の必要性や方法、さらには合併症の可能性まで説明し、患者さんの承認を得ることはもちろん、検査の安全性についても十分に伝えることが大切です。

その際に、看護師は患者さんをよく観察し、医師の説明を理解しているかを確認し、必要があれば補足説明をすることが求められます。患者さんに不安を言語化してもらい不安を共有し、解消してあげることで心身の緊張を解きほぐします。

 

3-1、患者の状態を一番近くで観察する

まずは、病歴・検査データを把握して、全身状態をよく観察します。次に、禁忌の確認をします。心肺の重大な疾患、緑内障、前立腺肥大、消化管穿孔、消化管高度の炎症、咽頭・食道上部の通過障害などの有無を確認します。

さらに、服薬の確認です。抗凝固薬(ワルファリンカリウム、塩酸チクロピジン)などの服用の有無も確認が必要です。なぜなら、これらの薬を内服していると、思わぬ出血で止血処置に苦労することがあるからです。

また、禁忌ではないものの、スコープの機種選択や麻酔の考慮が必要な患者さんもいます。例えば、高齢者、循環系異常、頸部・脊椎異常、消化管の手術直後などの患者さんには注意深く検査を行う必要があります。

処置台に移動の際にも患者さんの緊張をやわらげるために声掛けは有効です。検査に入ってからも、状態を常に観察することが求められます。検査医は内視鏡操作に集中するあまり、患者さんの表情を見逃すことがあります。表情や呼吸の状態を注意深く観察して、声掛け行うことで、患者さんの苦痛を和らげます。

また、検査後の観察も重要です。「2、胃カメラによる合併症・副作用」の他にも検査後の吐き気、空嘔吐、腹部膨満感、めまいなど、軽微な偶発症が発症することがあります。そのため、患者さんの安静を確保し、観察を怠らないようにします。

のどの不快感や腹痛の症状を訴えていないか、吐血・下血の有無などを確認します。これらの症状の多くは安静により自然に回復しますが、持続する場合や症状によっては点滴などの処置が必要になります。

 

まとめ

胃カメラは広く周知されていることや、検査自体が約5分~20分で終わることから、医療従事者には、あまり重く受け止められませんが、患者さんは大きな不安とストレスを抱えています。

そのため、検査前には、患者さんの不安を取り除けるように十分に説明をし、その上で疾患や服薬状況などについても具体的に問いかけ、患者さん本人に声に出して答えてもらって確認をすることが大切です。

検査中においてはしっかりと観察を行いましょう。特に、経口内視鏡検査では患者さんはしゃべれません。様子を常に観察し、わずかな表情や呼吸の変化などを見逃さずに、声をかけることが大切です。

検査後も同様です。鎮静薬からの回復を見守り、軽微な偶発症を見逃さないようにします。何事も声に出して確実に確認をすることが大切です。看護師が声を出すことで事故を未然に防ぐことができます。

放射線治療の看護|種類と方法、副作用を踏まえた看護ケア・指導

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放射線治療の看護

がん治療の代表的な方法の一つとして放射線治療が挙げられます。これは患者さんの病態などにより、単独で行われることもあれば、薬物療法(抗がん剤治療)・手術など、ほかの治療と併用して行われることもあります。

今回は、放射線治療の概要や看護について詳しく紹介しますので、放射線治療について正しい知識を身に付け、患者さんに最善の看護ができるように備えていきましょう。

 

1、放射線治療とは

放射線の細胞に対する作用を応用したのがこの療法です。がんの成長を遅らせる、あるいは縮小させることを目的とし、がんに侵された臓器の機能と形態を、手術のような侵襲なく温存することができます。

また、がん細胞に対する局所療法であるため、全身への影響が少なく、施術の適応年齢が幅広いのが特徴です。高齢の患者さんにも施せる有効な治療法といえます。

 

2、放射線治療の目的

放射線は細胞のDNAに直接作用し、細胞分裂を抑制して数を増やす能力をなくしたり、アポトーシス(細胞の自死現象)を強めるなどして細胞を殺します。

照射された放射線は正常細胞とがん細胞の区別なく、双方に等しい作用を及ぼしますが、正常細胞はがん細胞よりは破壊の程度が低いため、放射線照射前の状態に回復するまでの時間が短くて済むのです。放射線治療には、次のような目的があります。

 

  • がんが発生した臓器の形態や機能を温存することが可能
  • 術前、術後治療の補助療法→手術によって散らばる可能性のあるがん細胞を殺したり、がんを小さくしてから手術をしやすくするために、手術前に放射線の治療を行う
  • 再発治療→再発がんによる症状の緩和
  • 全身照射(骨髄移植)→骨髄移植を施行する直前に免疫力を落として移植骨髄の生着促進を図る、およびがんの再発予防
  • 術中照射→手術中に放射線に弱い組織を避けてがん組織に直接照射し治療

 

3、放射線治療に使用される放射線の種類

放射線は、空間または物質に、エネルギーを伝播する波形や粒子状のエネルギーの総称です。X線、γ線などの電磁波と原子を構成する電子、陽子、中性子などの粒子線に大別されます。

放射線治療に使われる放射線は、おもにX線、γ線、電子線ですが、研究段階で使われていた陽子線・重粒子(重イオン)線ががん細胞にダイレクトに照射できることから、進行していない限局した病巣で、がんの周辺に放射線に弱い組織がある場合、特に有効ながん治療のひとつとして昨今取り上げられています。

 

放射線治療が標準となる主な疾患

根治治療を目的とした場合 頭頸部領域のがん、肺がん、乳がん、子宮頸がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、悪性リンパ腫、食道がん、脳腫瘍
緩和治療を目的とした場合 転移性骨腫瘍、転移性脳腫瘍、がんが神経や血管を圧迫しておこす症状

 

放射線治療が標準となる疾患にはさまざまなものがありますが、これらの治療は患者さんの年齢や病態などによって変わります。あくまでも予備知識として知っておくと良いでしょう。

 

4、放射線治療の方法

放射線治療には外部照射法(身体の外から放射線を照射する方法)と、密封小線源治療(放射線源を身体に直接挿入して治療する方法)があります。2つのうちいずれかひとつを治療法として採用することもあれば、2つを組み合わせることもあります。

治療期間は放射線源の強さによって変わり、24時間~約8日にわたって治療する場合と、数分の治療を数回繰り返す場合とがあります。

長時間治療する方法を時間あたりの線量が低いことから低線量率、それに対して治療する時間が短い方法を高線量率といい、低線量率で長時間治療している間は、患者さん以外の人に放射線があたらないようにしなければなりません。

高線量率は治療室内で放射線治療が行われますが、1回の治療が数分ということもあり、放射線治療以外は一般病室で過ごすことができます。

 

5、放射線治療の副作用とケア・指導

放射線治療には副作用があります。主に放射線を当てた場所に起こり、症状の起こり方や時期には個人差があります。

また、副作用が発症する時期により、急性期(放射線治療中または終了直後)と晩期(終了してから半年から数年たった後)とに二分されます。主な副作用と患者さんへの指導は次の通りです。

 

副作用 患者に対するケア・指導
疲労感、倦怠感 治療中は過度な運動を避け、疲労感を感じたら、無理せず休むよう指導します。
食欲がない 正常細胞の修復などのため、普段以上にカロリー・栄養素をとることが望ましいことを患者さんに伝え、小分けにして食べたり、高カロリーの食事をとるなどのアドバイスをします。
貧血、白血球減少、血小板減少 骨髄移植を行った場合におもに現れる症状です。疲労感などもこれによって起こる可能性が高いことを説明しておきましょう。
皮膚の赤み、かゆみ かゆみのある箇所をこすったり、かいたりしないように注意します。衣類は皮膚に刺激の少ないものにし、入浴やシャワーは短時間で、ぬるめのお湯にし、刺激の少ない洗浄剤を用いて泡で流すよう指導します。痛みや熱感が強い時期には冷やすと軽くなることがあるので、冷やしすぎに気を付けて行うと良いでしょう。
吐き気 患者さんの中には症状を訴えることができずにいる場合もあります。患者さん自身に尋ねたり、食後の様子などを観察しましょう。
下痢 消化のよい食事と十分な水分補給を心がけます。
口の中の渇き(口腔乾燥)や口内炎 口腔内を清潔にするよう心掛けます。こまめにうがいをするよう促したり、歯ブラシや口腔洗浄液は粘膜を刺激しないようなものにします。
脱毛 脱毛の起こる時期や、再び生えてくると予想される時期を患者さんにお話しするとよいでしょう。患者さんに心の準備ができ、動揺して治療に支障をきたすことがありません。脱毛が始まったら、医療用のかつら(ウィッグ)や帽子などを提案するのもよいでしょう。脱毛後は頭皮保護に努め、直射日光や乾燥に気を付けます。洗髪時は地肌を強くこすらないように注意し、すすぎはぬるま湯で軽く流す程度にしましょう。

 

副作用は患者さんによって千差万別です。愁訴を訴える患者さんの声に耳を傾け、患者さんの体の負担にならないように努めましょう。中には通院しながら放射線治療を受ける患者さんもいらっしゃるでしょうから、患者さんとその家族には患者さんの負担にならないように日々の生活について指導ができるように知見を深めておくことが必要です。

 

6、放射線治療で求められる看護師の役割

放射線治療は、放射線治療医、医学物理士、診療放射線技師など、放射線治療専門の医療職スタッフがチームで臨みます。看護師は治療の間、患者さんのみならず、その家族のケアを行うことが前提となります。

具体的には、治療開始時に患者さんに対して治療についてのオリエンテーションを行ったり、副作用の説明、あるいは患者さんに起きた副作用に対応しなければなりません。また、患者さんが退院してその後の生活を送るときの注意などにも関わる必要が出てきます。

いわば患者さんと医療スタッフとのパイプ役になるのですが、こうした説明役がいないと患者さん自身が不安になり、治療に悪影響を及ぼしかねません。

看護師が患者さんとその家族に接して、十分な治療を受けられるように橋渡しをすることは、医療スタッフへの信頼感の増大に大きく寄与します。治療を受ける患者さんとその家族の不安や誤解を引きだし、それについて真摯(しんし)に正確に回答することが、よりよい治療生活に導くことになるのです。

 

まとめ

スマートフォンの普及により、患者さんの中にはがんやがん治療について誤った情報を仕入れ、放射線に対してネガティブなイメージを持つ方も多く、放射線治療に対する抵抗感をあらわにするケースは珍しくありません。

そうした状況を踏まえ、いたずらに不安を募らせている患者さんの心を解きほぐし、患者さんとその家族が納得して放射線治療に臨めるような環境作りをすることが、看護師に求められていると言えるでしょう。

そのためにも、病ではなく、患者さん個人をつぶさに観察し、患者さんの身になって判断することができるよう看護にあたることが大切です。

下血時の看護|早急なヒアリングと目視判断で有疾患の正確な特定を

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下血の看護

軽度のものから生命に関わる重度のものまで、さまざまな消化器官の異常を示すのが下血の症状です。患者の状態によって症状の度合いを判断し、的確に看護を進めていくためにはどうしたらいいかを素早く判断していくために、下血の概要や状態によって変化する看護方法と看護ポイントを再確認してみましょう。

 

1、下血とは

下血は血便とも呼ばれ、吐血と同様に消化器官の異常を示す身体のサインです。食道、胃、十二指腸の上部消化器官のみならず、小腸や大腸などの下部消化器官も含めた全領域の消化管のいずれからでも出血した場合に認められる症状であり、血液成分を肛門から排出することを指します。

そのほかに同時に起こる症状としては、悪心のほか、ふらつきや息切れといった貧血による症状などもあります。症状は出血の原因となった部分や出血速度、疾患の有無によってもさまざまに変化します。

大量出血を起こしている場合は、ショック状態(出血性ショック)を引き起こす、もしくは引き起こしている場合があり、重篤な状態と考えられます。この場合、重篤な症状が進行している可能性もあるため、早急な検査や治療、看護が必要となってきます。

また、出血量が軽度のものであっても、状況によっては生命の危険を伴うこともありえます。少量ずつ時間をかけて出血していた場合は、患者の自覚症状が乏しい場合もあるためです。

そのため、下血に関しては常に排出物の目視や問診によるヒアリング、検査を行うことによって患者の体に何が起こっているかを迅速に判断・診断し、状況に応じた適切な看護計画による処置が必要になっていく事を理解しておく必要があります。

 

2、下血の症状は大きく2つに大別される

下血によって排出される排泄物の状態は、鮮血便、黒色便(タール便)に大きく二分されます。患者が下血症状を訴えて医療施設を訪れた場合はヒアリングによる下血状態の確認を、患者が入院中の場合は排便状態を速やかに目視で確認します。

 

鮮血便

鮮血便は、鮮紅色の出血を伴うため、黒色便とはすぐに違いがわかります。この症状は肛門側に近い大腸からの出血で起こります。黒色便とは異なり、体内に留まる血液が排出される速度が速いためです。しかし、十分量の出血が緩やかに続き、大腸の運動が低下している場合は血液が体内に多く留まり、黒色便に変化している場合もあります。

 

黒色便

黒色便は、上行結腸よりも口腔側の出血で起こり得ることが多い状態です。出血した血液が黒色便として排出されるためには、血液中の血色素が胃液や大腸内細菌によってヘマチンに変換される必要があり、少なくとも60ml以上の出血量が必要となります。したがって、黒色便が確認された場合の出血箇所は消化器官上部である可能性を考え、内視鏡検査や内視鏡を使用した止血処置を医師に提案するなどの対応を行います。

しかしながら、本来であれば鮮血便になりうる大腸などの消化器下部の出血でも腸の運動状態によっては黒色便に変化する可能性があるため、入院状態であれば患者のカルテによる経過観察資料と問診、来院であれば問診などを綿密に併せて行い、医師に報告を随時行いながら出血箇所を特定していくことが重要です。

 

3、患者へのヒアリングの正確さが疾患判明のヒントになる

下血を伴う疾患は重大なものが多く、患者の便に下血が認められた場合は速やかに問診と検査を行います。下血といっても、要因となる疾患はさまざまです。どのような疾患によってどの場所で出血を引き起こしているかを迅速に探ることが医師・看護師ともに求められます。

 

3-1、下血を伴うさまざまな疾患

下血を伴う消化器系の疾患は、大腸がん、腸捻転や腸重積を含む絞扼性イレウス、潰瘍性大腸炎をはじめとして多岐にわたります。

また、下血の要因となる疾患は消化器系だけに順ずるとは限りません。白血病や再生不良貧血などの血液系疾患、結節性多発動脈炎などの循環系、細菌性赤痢やO157による腸管出血性大腸菌感染症などをはじめとする感染症、毒キノコの摂取や漂白剤や電池、農薬などの誤飲による中毒症状でも下血症状は起こります。

早急に下血の要因となった疾患や原因をつきとめるためには、まず最初にどのようなタイプの下血であるのか、下血症状が起こる前後に患者がどのような状況におかれていたかを、事前把握やヒアリングによって把握していくことが、患者への看護計画や看護対応を決定づけていく重要なポイントとなってきます。

 

3-2、ヒアリングのポイント

患者が下血を訴えた場合は、排便状態の確認と同時に症状が発生するまでの経過をヒアリングします。入院中の場合は下血状態の確認が可能ですが、外来の場合は下血状態の詳細な確認ができないため、ここできちんとヒアリングを行うことが重要です。

まず、便の色調や量、硬度といった下血の症状、下血状態が急性的なものか慢性状態だったかをヒアリングします。また、繰り返し下血が起こっている場合はその周期を聞き取り、発症前の便通状態もチェックしておきましょう。

抗生物質や経口避妊薬、鉄剤などの薬物服用状態や既往歴、放射線治療歴や海外渡航歴、月経状態や家族歴、発熱や腹痛、悪心などの随伴症状についても聞き取りが必要です。聞き取りの項目が多くありますが、これは下血が示す症状が多岐にわたる可能性があるためだということを患者に理解してもらう必要があります。

下血に伴い吐血も併発している場合は窒息状態に陥らないように体位を変える、気道を確保するなどの看護対応もあわせて行います。患者自身がショック状態に陥っている場合は、ヒアリングが困難になるため、入院中の場合はこれまでの排便状態や体調の変化を振り返ってヒアリング項目にあてはめて対応するほか、外来の場合は同行している親族などに可能な範囲でのヒアリングを行います。

便通は患者にとって日常的な行為かつデリケートな話題でもあります。また、患者自身が持ち得た知識によって、自身の下血症状や今後の状況に対して大きな恐怖や不安を感じています。ヒアリングを行う場合は患者のプライバシーに配慮し、精神的に落ち着きをもてる声かけも看護のひとつと捉えておいた方がいいでしょう。

 

4、自覚のない下血状態を正確に確認するためには

患者自身が何らかの要因で入院治療を行っている場合は、自分の排便の状況の変化に気づかず、下血を起こしている自覚症状がないケースもあります。

特に少量の出血が長く続いている場合や慢性的・周期的に少量の出血を起こしている場合は、患者が自身の排便状況から下血であると正確に自己認識することが難しい場合もあります。また、黒色便になるレベルの出血量であっても自覚症状のない下血を起こしている場合もあります。

そのため、看護師には患者の排便状況から客観的にみて下血症状を起こしていると判断できるかどうかも看護対応として求められます。

下血状態を起こしているかを正確に判断するためには、普段から入院中の患者の排便状態を常に把握しておく必要性があります。状態や色、臭いといった通常便と下血による血中成分が混じった排便の差異を敏感に感じ取れるよう、普段から下血とは関係のない疾患の患者であっても、日常的な観察を行っておくことが変化をいち早く察知するポイントにつながります。

 

まとめ

下血は、さまざまな疾患の症状として表出してくる症状です。また、状況によっては命にかかわる重篤な状態を指し示すものでもあるため、出血箇所の特定と原因疾患の早急な判別が医師・看護師ともに求められます。

下血状態を明確に判断するため、普段からの患者の排便状態や健康状態を聞き取るためには患者との信頼関係も不可欠です。綿密な経過観察やヒアリングを定続的に行い、緊急を要する疾患や容態の変化に迅速に対応できるよう、患者の日々の変化に着目した看護を行うことが大切です。


変形性膝関節症を有する患者の看護、術前・術後のケアと注意点

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変形性膝関節症

立ち上がった時や歩き始めに膝に違和感や痛みを覚えても、それが長続きしないとさほど気にせず、特に中高年では歳のせいと思って諦めがちです。しかし初期症状を放置しておくと、痛みがひどくなったり関節が腫れ上がったりして膝の曲げ伸ばしが困難になることがあります。さらに階段の昇り降りが苦痛になり、正座が困難になって、日常生活に支障をきたすようになります。

これは変形性膝関節症と呼ばれますが、膝の違和感や痛みがすべて変形性膝関節症になるとは限りません。また変形性膝関節症と診断されても、ほとんどの場合は薬物療法や装具着用や運動・温熱療法などで症状を軽減することができます。これらで改善しない場合、最終段階として外科的療法に頼ることになります。ここでは手術が必要となった患者さんの看護に触れます。

 

1、変形性膝関節症とは

変形性膝関節症とは、特に中高年の女性に多くみられる症状で、膝関節の軟骨が様々な原因からすり減り、関節に炎症が起きたり軟骨下骨に変形を生じて、痛みなどが起きる病気です。炎症が起きると関節液が過剰に分泌され、いわゆる水が溜まる状態になります。

初期では違和感やだるさ、痛みなどの症状ですが、進行すると膝に負荷のかかる動作が苦痛になり、末期には安静時でも痛みが取れず、歩行が困難になり、膝の変形が目立つようになります。

関節軟骨の老化が原因であることが多いとされていますが、それ以外にも肥満や筋力の低下、遺伝子要因など、そして外傷(骨折、靭帯や半月板の損傷)や化膿性関節炎などの後遺症も挙げられています。又O脚や偏平足などや、足に合わない靴やハイヒールを履いたりするのも原因とされています。

高齢者になるほど罹患率が高くなり、男女比では1:4くらいとされています。特に女性は閉経と共に骨粗鬆症が進行し、骨がもろくなることが影響していて、高齢者の要介護の一因となっています。

 

2、変形性膝関節症の手術

手術には関節鏡(内視鏡)手術、高位脛骨骨切り術(骨を切って変形を矯正する)、人工膝関節置換術などがありますが、それぞれに対処する症状と、メリットとデメリットが有ります。

 

関節鏡手術

関節鏡手術は、関節の変形がそれほど進んでおらず、痛みの原因が主に半月板の損傷や軟骨下骨の変形である場合に行います。内視鏡で節内を観察しながら、軟骨や半月板の変形や、軟骨下骨にできた骨棘や滑膜の異常を取り除くので、傷口も小さくて済み、手術後数日で歩けるようになります。条件が満たされればかなりの効果が有りますが、条件に合う患者は多くなく、又、効果の持続性が短い場合もあります。

 

高位脛骨骨切り術

高位脛骨骨切り術は、O脚で関節破壊の程度が軽い場合、脛骨を切って金属で固定し、膝の内側にかかる負担を軽減する手術です。矯正した骨の部分がくっつくまで2~3か月かかり、長期の療養と入院が必要となり、回復には半年近くかかりますがほぼ完治し、重労働やスポーツができるまでになりますが、膝の変形が内側だけであまりひどくなく、40~60歳代で活動性が比較的高い人が対象となります。

 

人工膝関節置換術

人工膝関節置換術は、膝全体が大きく変形し、痛みがひどく日常生活での歩行や立ち座りが困難になった場合に行う手術です。痛みを取り除く効果は高く、関節の状態が良くない人や高齢者でも受けられ、日常生活に支障をきたすことは無くなります。しかし正座などの膝を深く曲げ伸ばすことや、無理な運動などは制限されます。

人工関節置換術には、関節全体を人工関節に置き換える場合(人工膝関節全置換術:TKA)と、膝関節の内側又は外側にだけ人工関節を入れる場合(人工膝関節単顆置換術:UKA)が有り、関節の変形程度などによって決められます。術後の経過が早い上、痛みが比較的短期間でほぼ取れますが、人工関節にゆるみが出ると再手術となり、術後深部静脈血栓症のリスクが高いことなどのデメリットもあります。

 

2-1、術前の看護

手術前には、患者さんの不安が軽減されて手術に対する精神的準備ができるよう心がけます。又全身の状態を評価して、術後合併症などの予測ができるような身体的準備も大切です。

医師から詳しい説明を受けているはずですが、患者さんが理解できていない内容が有れば、納得して手術を受けられるよう、不安感を取り除くようにします。また食欲や睡眠状況などや、家庭でのサポートの可否なども確認し、患者さんに術後の状態が具体的に理解できるよう説明します。

術後の安静期間やその後の移動方法(車椅子や杖)の他にも排泄方法なども具体的に指導し、その重要性・必要性を理解してもらいます。患者さんによっては、痛みを我慢している場合もあるので、表情などから読み取ることも大切です。痛みや腫れがひどい場合は、鎮痛剤の使用だけでなく、膝関節を冷やすことも必要です。

 

2-2、術後の看護

術後は状態が変化しやすいので、バイタルを観察し、麻酔からの覚醒状態や輸液量を確認して、必要なら点滴速度を調整します。出血や創部痛が有るか、ドレーンの量やにおいなどの確認も必要です。

 

2-3、TKA施術後のリハビリと痛みの軽減

手術後にはリハビリが必要となりますが、特にTKAの場合は比較的長期の入院が必要となり、日常生活に早く戻れるように、リハビリをできるだけ早く始めることが非常に重要です。手術前から膝や股関節の筋力が低下していたり、膝の曲がりづらかったり、痛みで動作が制限されていたのは、手術したからすぐ良くなるわけではありません。これらは手術からの回復のリハビリと同時に、それぞれ改善していく必要があります。

患者さんの状態によって異なりますが、早ければ翌日には手術した方の足に全体重をかけられるようになりますが、歩く練習は術後数日で始めます。手術直後の膝は炎症を起こしています。又、傷口や腫れ、曲がっていた膝を真っ直ぐにしたことから来る筋肉の張りなどからの痛みが有りますので、必要なら薬品の投与だけでなくアイシングで痛みを軽減することから始めます。

アイシングは、リハビリの時間内だけでなく、ベッドの上にいる間も続けることも可能です。術後、麻酔から覚めたら、理学療法士や作業療法士の指導のもと、ベッドの上でできるリハビリから始めます。術後すぐに足を動かすことによって、血栓ができるのを防ぎます。

 

関節可動域運動

膝の動きを良くし、可動域を広げ、筋肉を柔らかくしますが、この時CPM(持続的関節他動運動装置)で膝関節の動きを改善することもあります。これは理学療法士や作業療法士でなくとも看護師などが装着できるため、正規のリハビリ時間外でも使用できます。

 

筋力増強運動

膝回りや股関節周りの筋力増強も大切ですが、変形性膝関節症にかかわる要因の一つとして挙げられている肥満がある場合などには、全身の筋力が低下していることが多いので、腹筋を含む体幹筋力を鍛えるのも大切です。

術後数日で歩く練習を始めますが、痛みの程度にあわせて調整します。退院後の日常生活で行う動作を確認し、実際に試してもらって、必要ならどう工夫すれば良いかを指導します。又、正座ができなくなるため、椅子中心の生活状況にするとか、階段に手すりを取り付けたり、トイレを和式から洋式にするなどの生活環境の変更も指導します。

 

3、看護において気を付けるべき点

術前の患者さんは、手術に対する不安だけでなく、その後の生活にも不安を抱えているものです。又、特に中高年の女性は我慢強いので、痛みを訴えようとしない場合もあります。

手術やリハビリ、その後の日常生活などに関して分からない点が無いか必ず確認して、必要なら追加説明をすることが大切です。又、本当に痛みが無いのかも、表情やしぐさから判断することが必要になる場合が有ります。

リハビリに対して意欲を示さない場合は、痛みが原因なのか、他に理由があるのかを確かめる必要もあります。逆に早く治したいために、無理なリハビリ運動をする場合にも、気を付けなければなりません。

車椅子や杖の使い方は、丁寧に教えてください。特に車椅子で、ブレーキを外したりフットレストの上げ下げをするのを忘れて移動すると、転倒する危険性が有ります。転倒して骨折でもしては、大変です。

リハビリは長期にわたって続ける必要が有り、帰宅後も重いものを持ったり、重労働をしてはいけないこと、又無理な姿勢をしないことなどにも注意を促します。

肥満のある人には、膝関節にかける荷重を少なくするため、体重を減らすように、又、安静にばかりしているのも逆効果なので、散歩など適宜な運動をするようにも勧めます。

 

まとめ

変形性膝関節症は手術で確実に治るものではなく、また手術のリスクも懸念されています。術後の看護・リハビリにおいても、さまざまな点に気をつける必要がありますので、患者さんが安楽に過ごせるよう、入院時はしっかりとサポートしていきましょう。

また、退院後は患者さん自身が率先して予防策に取り組むよう、退院前にはしっかりと指導し、再発防止に努めてください。

深部静脈血栓症の看護|発症の原因、検査と治療、予防を含むケア

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深部静脈血栓症の看護

一般的には「エコノミークラス症候群」として知られている深部静脈血栓症(DVT)。この疾患は長距離移動で長時間同じ姿勢を強いられる旅行客や長距離ドライブの同乗者、あるいは大震災後、車中泊の被災者を中心に発症し、一躍注目を集めるようになりました。

この疾患についてよく知り、患者さんに対してより良い看護を提供できるようにしましょう。

 

1、深部静脈血栓症とは

深部静脈血栓症(deep veinthrombosis:DVT)は、四肢(通常は下肢)の深部静脈(筋膜下静脈)に血栓が作られてしまう疾患です。

私たちの体には心臓から手足のほうへ流れている動脈と、手足から心臓のほうへ流れる静脈が網羅しています。心臓はポンプの役目をして、血液を動脈に送り出していますが、静脈にはポンプがないため、筋肉の収縮がポンプの代わりになります。

手足を動かすなど筋肉に力を入れることにより、静脈の流れが速くなります。血管内部には血液が循環しているために血液が固まる(凝固)ことは通常ありません。

しかし、手足の深部静脈の内部では血液が凝固することがあります。これが深部静脈血栓症です。

 

2、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症

深部静脈血栓症になると、血管内に血液のかたまり(血栓)ができるようになります。この血栓が遊離して静脈の血流に乗り肺へ移動。その結果、肺動脈を閉塞すると肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)となります。

つまり、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症は連環した病気、言い換えれば肺血栓塞栓症は深部静脈血栓症の合併症と言えるのです。この2つを併せて「静脈血栓塞栓症」と呼びます。

肺塞栓症

出典:[78] 肺塞栓症 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス

 

この疾患は多くは下肢(足)に発症し、その中でも特に膝下静脈・大腿静脈・ふくらはぎの後脛静脈が最も発症しやすい傾向であることもわかっています。

 

3、深部静脈血栓症の原因

静脈の血流は、歩行をはじめとする下肢(足)の運動で起こる筋肉の収縮によって助けられています。そのため、長時間同じ姿勢のまま足を動かさないでいると、静脈の血液の流れが遅くなり、血栓ができます。

日常生活でも小さな血栓は発生し、肺の動脈へ送られることがありますが、小さい血栓は自然に溶けるのでそれほど心配はいりません。しかし、血栓が大きくなってから肺の動脈へ送られると詰まる可能性があり、命を落とす危険があります。

この疾患は、飛行機やバスなどで同じ姿勢で長時間座っている時に起こることがよく知られているほか、災害時に狭い空間で避難生活を強いられた結果、発症し、突然死を招くこともあります。血栓のできる原因が静脈の血液の滞留にあるとすると、次の場合、発症が考えられます。

 

発症の原因 ・  下肢の手術後に同じ体勢で運動をしなかった場合

・  下肢の骨折などでギプスにより下肢運動が制限されている場合

・  高齢等で歩行が困難な場合

発症リスク

(傾向)

・  脱水の傾向にある人

・  血液が凝固しやすい性質の人

・  腸骨静脈圧迫症候群の人

・  外傷や出産、手術など出血を伴う状況にある人(人体のしくみにより、血液が凝固しやすくなるため)。

発症リスク

(状態・疾患)

・  高齢者

・  下肢静脈瘤

・  下肢の手術

・  骨折等のけが

・  悪性腫瘍(がん)

・  過去に深部静脈血栓症、心筋梗塞、脳梗塞等を起こした事がある

・  肥満

・  経口避妊薬(ピル)を使用中である

・  妊娠中または出産直後である

・  生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症等)がある

 

これらに該当する方は、特に注意が必要です。このほか、湿度が20%以下(いわゆる乾燥状態)の環境下も発症原因の一つと考えられています。

 

4、深部静脈血栓症の症状

深部静脈血栓はほとんどの場合、ふくらはぎの小静脈に起こりますが、たいていは無症状で発見されにくいものです。患者さんの中にはその症状を『違和感を感じる』といった漠然とした表現でしか示せないこともあります。症状と徴候としては、

 

・  漠然とした疼痛

・  静脈に沿った圧痛、もしくは圧迫感

・  浮腫

・  紅斑

 

がありますが、特異的ではなく、頻度や重症度は患者さんによってまちまちです。膝を伸ばした状態で足首を曲げたとき、たまにふくらはぎに不快な感覚がある(ホーマンズ徴候)ものの、特徴的な症状とは言えません。外見や患者さんの愁訴のみでは診断しにくいこの疾患を検査せずして予測するポイントとしては、以下のことが挙げられます。

 

・  脚の圧痛

・  脚全体の腫脹

・  両ふくらはぎ間の3cmを超える外周差

・  圧痕浮腫

・  表在性の側副静脈

 

これらのうち3つ以上が見られる場合は、この疾患の可能性があるとして良いでしょう。この疾患は軽度の発熱症状をみせることがあります。特に手術後の患者さんでは、原因不明の熱の原因となることもある上に、肺塞栓症を発症すると、息切れや胸膜炎性胸痛が発症することがありますので、術後の看護はその点にも気を付ける必要があります。

この疾患で気を付けたいのはフリーフロート血栓です。その名の通り、遊離した血栓です。血管が完全にふさがってしまった場合は、血栓はその場にとどまり、遊離しにくく肺まで運ばれる危険性は減ります。

ただし、血流が停滞するため、とどまった場所を中心にさまざまな症状が現れます。その一方、血管内に浮き上がっているような血栓は遊離しやすく、肺血栓塞栓症の原因となることがあります。

こうした血栓をフリーフロート血栓(非閉塞型浮遊血栓)といい、血管を完全にはふさいでいないので血流が保たれ、症状はあまり現れなくなります。このため肺血栓塞栓症を起こしやすい深部静脈血栓症は無症候性のものが多くなります。

 

5、深部静脈血栓症の検査

深部静脈血栓症は肺血栓塞栓症をひとたび発症すると、1時間足らずで死亡に至ることもある疾患です。診断にはさまざまな検査があります。中でも下肢静脈超音波検査や凝固線溶マーカーのD-dimer<ダイマー>(血液検査)などの検査は不可欠です。これら検査の結果、深部静脈血栓症が疑われる場合は、さらに造影CT検査などで精査していきます。

 

下肢静脈超音波検査

最初に行う検査です。下肢静脈を超音波で描き出すものですが、検査機器の性能も高くなってきているとはいえ、下大静脈、腸骨静脈といった中枢側の静脈は、描出の難しい場合もあります。また、鼠径靱帯以下の評価には有効ですが、そこよりも上のほうで血栓が疑われる場合は、CTなどの画像検査が別途必要です。

 

D-ダイマー(血液検査)

Dダイマーは、線維素溶解現象(フィブリン溶解現象)を調べる検査です。体の中のどこかに血栓ができていると、線溶現象(固体である線維素、いわゆるフィブリンが、線維素分解酵素であるプラスミンの作用を受けて液体の状態に溶けること)が亢進し、FDP、Dダイマーが高い値を示します。

この検査は静脈血栓塞栓症の診断に有効で、治療の効果を判定するときも行います。ただし、D-ダイマーは、炎症、腫瘍、消化管出血、臓器出血、リンパうっ滞などでも上昇するため、陽性を示したとしてもこれだけで静脈血栓塞栓症と確定診断することはできません。血栓の有無を判断するには他の検査と併せて診断する必要があるのです。

 

造影CT検査

血管内に造影剤を注入し、血管の形態や走行、閉塞の状態を撮像、確認する検査です。機器の性能の目覚ましい向上により、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症をこの1回の検査で確認できる上、血栓の部位(範囲)や性状、血流(還流障害)の把握と、疾患確定後のケアの判断に大いに役立ちます。

診断例として「血栓の動揺あり」とあった場合は、肺血栓塞栓症の発症リスクが高いことを示します。こうした患者さんの安静度については医師に確認する必要があり、その看護も極めて繊細なものが求められます。

さらに、肺血栓塞栓症を診断する場合は、造影CTや肺シンチグラムを行います。カテーテルを肺動脈まで進めて行う肺動脈造影も行われます。

 

6、深部静脈血栓症の治療

深部静脈血栓症の治療は、発症が確認され、肺血栓塞栓症を引き起こす危険性もあることから、一刻も早い治療が望まれます。そのため、治療には、①血栓症の進行や再発の予防、②肺血栓塞栓症の予防、③早期・晩期後遺症の軽減、に目標を置くこととなります。

治療の中でも第一に選択されるのは抗凝固療法です。これは肺血栓塞栓症や、残存している血栓が遊離して発生する再閉塞(セカンドアタック)の予防法として最も効果的です。

また、深部静脈血栓症の予防として知られる圧迫療法(弾性ストッキング・弾性包帯の着用)は、治療として広く実施されています。このほか、カテーテル血栓溶解療法、外科的血栓摘除術、下大静脈フィルター留置術などがあります。

 

治療法 治療内容
抗凝固療法 抗凝固薬を用いて、血液凝固を阻害することにより血栓形成を予防する。

注射薬→ヘパリン、フォンダパリヌクス

経口薬→ワルファリン、NOAC(日本国内ではリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの3種)

NOACはワルファンに比較して利点は多いものの、さらなる開発が待たれている。

圧迫療法

 

患肢を圧迫して、下腿の筋ポンプ作用の増強および、微小循環の改善を図る。圧迫を加えるものによって3つに分類される。

①  弾性ストッキング

②  包帯圧迫法

③  間歇的空気圧迫法(IPC)

一般的に、重症心不全、重度の末梢動脈疾患(PAD)、有痛性青股腫、重度の感染性炎症などの患者さんには施術できない。

カテーテル血栓吸引・溶解療法 カテーテルを血管内に挿入、留置して、血栓を吸引したり、溶解剤を投与したりすることによって血栓を減少させる。
外科的血栓摘除術 外科的に静脈を露出させ、血栓を除去する。
下大静脈フィルター留置術 下大静脈にフィルターを留置し、フリーフロート血栓が肺まで移動することを防ぐ。治療後、フィルターは回収することを推奨している。

 

十分な効果を発揮させるには、各治療法の特徴を十分に理解し、適正な使用と管理を行うことが必要です。圧迫療法では、末梢血管領域の血管評価は必須となります。すでに深部静脈血栓症が生じている場合には、その血栓が遊離するリスクがあるため、血栓の所見(範囲、性状、還流障害)を絡めて施術を検討する必要があるのです。

また一般的には、重症心不全、重度の末梢動脈疾患(PAD)、有痛性青股腫、重度の感染性炎症などの患者さんには施術できないとされています。ほかにも施術に注意が必要な症候・疾患があるほか、圧迫法の種類によっても禁忌事項が異なるため、施術法の正しい理解と禁忌・禁止事項をよく確認してから行いましょう。

 

7、深部静脈血栓症の看護

深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症は早期発見、早期診断・治療により救命の確率が高くなる病気です。患者さんの変化や原因不明の急変などに対し、肺血栓塞栓症に関連した症状ではないかと、疑いをもてるかが重要なのです。

そのためには深部静脈血栓症について日頃から理解を深めておき、肺血栓塞栓症の発症には迅速かつ適切な対処ができるように備えておきましょう。

肺血栓塞栓症が発症しやすいタイミングは、安静状態から身体を動かしたとき。このことを念頭に置いて、初回歩行時には必ず付き添い、清拭や体位変換、排泄、リハビリテーション、処置、検査、食事などを行う際には、肺血栓塞栓症の前兆的な症状や症候を見逃さないようにします。看護時の観察のポイントは以下の通りです。

 

対象 観察ポイント
患者 ・  足背動脈の有無(触知できない場合は下肢深部静脈血栓症を発症している可能性がある)

・  下肢の疼痛や腫脹・熱感

・  下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)の把握痛

・  ホーマンズ・サイン(足の背屈により生じるふくらはぎの痛み)の有無

・  採血データ(特にDダイマー)や下肢エコー

肺塞栓症の症状 ・  急激な呼吸困難

・  血圧低下

・  ショック

・  チアノーゼ

・  胸痛

・  意識障害

 

8、深部静脈血栓症の予防法

深部静脈血栓症を予防する方法には、「基本的予防法」「理学的予防法」「薬物的予防法」の3つが挙げられます。これらを単独、または併用して患者さんに行うことによって効果的に予防できると考えられる一方、相乗効果による過剰作用が現れかねません。両側面に注意して行いましょう。

 

基本的予防法

早期離床と運動、下肢挙上、脱水予防などは、最も重要で基本的な予防法です。理学的予防法(圧迫療法)や薬物的予防法(抗凝固療法の導入)の継続が困難な症例にも実施できるというメリットがあります。運動量の低下を伴う入院生活はこの疾患のリスクになるため、すべての入院患者さんが基本的予防の対象になります。

 

種類 効果 注意点ほか
早期離床と歩行 ふくらはぎの筋ポンプと足底のフットポンプの作用を活性化させ、下肢の静脈還流を促進し、下肢への静脈うっ滞を軽減。 ・歩行が困難な場合は、移乗や立位訓練、足踏みなど、抗重力下で足底部に体重負荷をかける運動を行う。

・うっ滞が生じる姿勢(静止立位や下肢下垂)は方法や時間など別の方法を配慮する。

下肢の運動、足関節運動 筋ポンプ作用とフットポンプ作用を活性化する。筋ポンプを効率よく働かせるため、足関節の底背屈運動を中心に行う。 自動運動のほうが他動運動よりも効果的。大歩行が困難な患者さんにも実施できるが、自動運動ができない場合や不十分な場合は、徒手的に他動運動を行う。
足関節の背底屈運動 筋ポンプ作用とフットポンプ作用を活性化する。
下肢挙上 生理的作用による下肢静脈還流の促進。 ・正しい挙上肢位になるように注意する。

・車椅子や椅座位、端座位、立位による長時間の下肢下垂を避け、時間をみて下肢を挙上する。さらに、長座位やレッグレストの使用による水平挙上にも配慮する。

・心肺への静脈還流量が増加するため、心不全の患者さんへは禁忌。

 

理学的予防法(圧迫療法)

下肢を周囲から機械的に圧迫し、静脈血の滞留を軽減して予防します。圧迫療法は静脈内皮の損傷を防ぐので、深部静脈血栓症のリスクが高く、出血リスクも高い患者さんの場合、第一に選択される予防法です。

 

種類 効果 注意点ほか
弾性ストッキング 末梢から中枢へと漸減的に圧を加え、静脈還流を促進する。 深部静脈血栓症の治療目的のものと予防目的の弾性ストッキングとでは、圧力設計や耐久性などが異なるので、目的に応じた種類を使用する。血栓予防用の弾性ストッキングは入院中の臥床安静での着用を想定しているため、耐久性は低い。
包帯圧迫法 どのような下肢の形状でも使用可能。状態に合わせて圧迫圧や範囲を調節できる。弾性ストッキングが履けない、サイズが合わない、あるいは皮膚障害などで中断した、下肢の手術や変形など、ストッキングを装着できない場合に使用。 ・下肢末梢から中枢に向かって同じ張力と層数で巻き上げる必要がある。

・包帯がずれにくいよう、包帯角度を調整したり、チューブ包帯を下地に装着し、摩擦力によってずれを予防したり、肢位や包帯法を調整しながら巻き上げるなどの工夫が必要。

・巻くたびに圧が異なり、緩みによる圧の低下が起こりやすいというデメリットがある。

間歇的空気圧迫法(空気圧ポンプ;IPC 効率よく能動的に静脈流出量を増加させる。

①    足底型(フットポンプ)

②    下腿型(カーフポンプ)

③    下腿大腿型(カーフタイポンプ)

④    足底下腿型(フットカーフポンプ)

の4種類を患者さんの状態、目的などに応じて選択する。

深部静脈血栓症存在下、深部静脈血栓症既往の疑いがある場合、全ての症例で禁忌となる。IPCの圧迫圧、加圧時間、加圧間隔などの設定は、装着部位や機種によって異なるため、説明書をよく読む必要がある。

 

薬物的予防法(抗凝固療法)

わが国のガイドラインでは、深部静脈血栓症のリスク要因の高い患者さんに対し、最も推奨されている予防法です。抗凝固薬を用いて、血液凝固を阻害することで血栓形成を予防します。投与時間など詳細な指示を順守し、薬剤の特徴や投与期間、投与法をはじめ、禁忌、併用注意、副作用などを確認することが重要です。ここでは特に経口薬を紹介します。

 

薬剤 種類 問題点
ワーファリン 経口薬 ・  効果が十分に現れるまでに1~2週間かかります。

・  食事の影響を受けてワーファリンの投与量を変更する必要があるために定期的に血液検査を行い、効果をチェックする必要がある。

・  血液凝固に必要なビタミンKの働きを低下させる作用があり、出血傾向になる。

NOAC

(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)

経口薬 ・  効果が早い。

・  定期的な検査を必要としない。

・  適用例が少ないため効果を実証できない。

 

まとめ

深部静脈血栓症は無症候性が多いのですが、患者さん本人も気づかない「疾病のちょっとしたサイン」を見逃さないことが大切です。症状を訴えない場合でも、視診や触診の結果、なんとなくむくんでいる、左右差がちょっとあると気づくこともあります。

こうしたサインを見つけるためには、日頃から患者さんの様子を注意深く観察し、多くの下肢をみて触ってみることが必要です。入院患者さんすべてにこの疾患の可能性があるということを念頭に入れておくと良いでしょう。

腎生検前後の看護|検査の目的と生検前後の看護ケア・観察項目

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腎生検

内科的腎疾患の診断に不可欠な検査である、腎生検。検尿や血液検査、レントゲン検査では診断が不十分な場合に行われます。正確な診断を得るために重要で有効な検査方法ですが、年齢や病態により適応や禁忌が異なり、看護における注意点もさまざまです。

今回は、腎生検の方法と適応、看護手順について詳しく解説しますので、しっかりと詳細を確認し、実践に生かしましょう。

 

1、腎生検の目的

腎生検の目的は、腎疾患の正確な診断と病態や予後の予測をし、治療方法を決定することです。比較的安全な手技であり、短時間で終了するため、患者の負担も最小限に抑えられます。しかし、採取時の穿刺に伴う出血が必ず起きることで合併症を引き起こすリスクも十分に考えられるので、その点に関しては注意が必要です。

また、すべての患者の病態に適応するわけではなく、禁忌となる場合も少なからずあります。検査の看護や管理をするにあたっては、あらゆる腎疾患の知識を有しておくことが必要です。

 

1-1、腎生検の適応

腎生検の適応となる病態として一般的に多くあげられるのは、①検尿異常、②ネフローゼ症候群、③急性腎不全、④急速進行性腎炎が疑われる場合などです。成人と小児で適応は異なりますが、ここでは成人の適応ケースについて見ていきましょう。

 

①検尿異常

検尿異常は、タンパク尿単独、血尿単独、タンパク尿と血尿両方の3つのパターンがあります。どのパターンも継続して異常が見られる場合は腎生検の適応です。また、尿タンパクが(+)〜(2+)程度持続し、1日の尿タンパク量が0.3〜0.5g以上の場合も、腎生検によって糸球体疾患を鑑別する必要があります。

 

②ネフローゼ症候群

血液中のタンパク質が減少し、浮腫や血中コレステロールの上昇などが現れるネフローゼ症候群。成人でこの疾患が見られる場合は、糖尿病性腎症をのぞいて腎生検を行うことが原則です。

 

③急性腎不全

急性腎不全の場合は原因が数多く、原因を診断する目的として、腎生検は有用とされています。

 

④急速進行性腎炎

数週間から数ヶ月で急速に腎機能が悪化し、放置すれば末期腎不全まで進行するため、急速進行性腎炎が疑われる場合は早期の腎生検が必要です。

 

1-2、小児における適応

成人の適応例と比較して、小児期に見られる腎疾患の場合、一般的に腎生検の対象にはならないことがほとんどです。しかし、小児の腎疾患において、特にIgA腎症や膜性増殖性腎炎などを早期発見し、治療できる点で腎生検は重要な意味を持つとされています。ここでは、代表的な適応を紹介します。

 

文献1)より出典・引用

 

①  血尿 多くは無症候性血尿といわれるもので、腎炎と診断されるものはほとんどありません。しかし、まれに血尿の程度が強い場合や、経過中にタンパク尿を伴ってくる場合は腎生検が適応します。
②  タンパク尿 起立性タンパク尿は適応となりません。早朝タンパク尿が診断基準となります。
③  タンパク・血尿群 タンパク尿のケースと同様に判断しますが、早朝タンパク尿がテープ方で1+以上持続する場合は、IgA腎症など慢性腎炎が疑われます。
④  急性腎炎症候群 急性腎炎で、低補体血症の改善傾向が認められない場合は腎生検が適応します。
⑤  ネフローゼ症候群 ほとんどの小児特発性ネフローゼ症候群は微小変化型であり、腎生検の適応になりません。しかし、好発年齢(2〜10歳)以外の初発例や頻回再発例などで適応が検討されます。
⑥  紫斑病性腎炎 血管性紫斑病でタンパク尿が長期的に持続する場合は腎不全に至ることがあり、ネフローゼ状態にある症例は早期に腎生検を検討します。
⑦  全身性エリテマトーデス(SLE) 免疫異常を伴う腎炎では、小児の場合、このSLEであることがほとんどで、全例が腎生検の適応となります。
⑧  急性腎不全 出血傾向、腎不全の程度などを十分に考慮して、適応を検討します。
⑨  その他 軽微な病態しか認められず腎生検の適応がない場合でも、将来や生活のために検査を希望される場合は、検査に対する理解を得た上で腎生検を行う場合があります。

 

2、注意すべき禁忌

安全な腎生検を行うためには、禁忌となる病態に対しての細心の注意を払う必要があります。特に問題になるのが、出血傾向です。血小板数、出血時間、PT/APTTなどは慎重に判断しなければなりません。

また、禁忌ではなくとも慎重さが求められる場合もあり、特に、重症高血圧の場合は降圧治療を優先します。高齢者の場合は、血管石灰化などによる出血合併症のリスクが高くなりますので、この点でも十分な検討が必要です。

患者の予後を悪化させるあらゆる可能性を十分に留意し、看護に臨みましょう。以下、一般的に禁忌とされる病態を紹介します。

 

l  管理困難な出血傾向

l  腎の数・形態の異常(機能的片腎、馬蹄腎)

l  嚢胞腎

l  水腎症

l  管理困難な全身合併症(重症高血圧症,敗血症)

l  腎実質内感染症(急性腎盂腎炎、腎周囲膿瘍、膿腎症)

l  腎動脈瘤

l  末期腎(高度の萎縮腎)

l  息止めが30秒間できない場合(超音波ガイド下針腎生検の場合)

l  腎生検後の安静が困難な場合

文献2)より出典・引用

 

3、腎生検の合併症

腎生検において、起こりうる合併症は「①出血」と「②感染」が主なものです。腎生検中に出血等の合併症が発生する場合もあり、その際は検査を中断します。

また、腎生検の針を腎臓に挿し込む時や、検査後の処置で感染することもありますので、看護や観察によって早期発見、または予防し、合併症リスクを減らすことが重要です。

 

①出血

血腫や血尿として症状にあらわれます。血腫は多くの患者に見られますが、ほとんどの場合、症状はなく自然に消失します。ただし、血腫が大きくなると腰背部痛や、発熱が見られることがあります。

出血がさらに高度になれば輸血が必要となる場合もあり、注意が必要です。腎生検後12〜24時間後に起こることが多く、検査後は傷口を圧迫して安静を保つことが重要です。しっかり管理してください。

 

②感染

穿刺時に皮膚の常在菌が入ったり、腎生検後の傷口から感染する場合があります。また、検査後の安静により尿路感染症を合併することも考えられますので、看護の際は細心の注意を払いましょう。

 

③その他の合併症

非常に稀に、穿刺時に他の臓器を誤って傷つけたり、動静脈瘻で合併症を引き起こすこともあります。

 

4、腎生検の方法

腎生検の方法には大きく分けて、①超音波ガイド下針腎生検と、②開放性腎生検の2つがあります。どちらの場合も入院検査になり、検査前後の看護には厳格な管理が求められます。

 

①超音波ガイド下針腎生検

局所麻酔のもと超音波で腎臓の位置を確認しながら、背中から生検針を刺入して腎臓の組織を採取します。病棟や病室で行い、通常はこの方法が選ばれます。穿刺中は患者に息を止めてもらう必要があるため、深呼吸を促したり声かけを行います。

 

②開放性腎生検

肥満などで生検針による検体の採取ができない場合や、片腎などで合併症の危険性が高い場合に行われます。また、1歳以下や身長が75cm以下の患者に対しての経皮的腎生検は禁忌のため、開放性腎生検が選ばれます。手術室において全身麻酔のもと、腹部を切開して検体を採取する方法です。開腹する場合と、腹腔鏡下で行う場合があります。

 

5、腎生検前後の看護

腎生検は内臓を穿刺するため、患者が不安や恐怖感を抱くことが多くあります。そのため、医師からの説明はもちろんですが、看護師からの十分な事前のオリエンテーションが重要です。

また、腎生検後の観察に関しては、出血や感染などの合併症に注意して看護することが求められます。観察ポイントをしっかりと把握し、検査後の管理を十分に行いましょう。長時間の安静が必要なため、腰痛など苦痛を訴える患者のケアにも心を配ってください。

 

5-1、腎生検前の看護

担当医師からの患者・家族へ検査の必要性や方法、合併症の可能性などを説明し、承諾書を得ます。オリエンテーションをしっかりと行い、看護計画を元に必要な物品の準備と処置の確認を済ませましょう。

また、術前訓練として、息を止める呼吸訓練や床上排泄訓練も行います。特に、床上排泄訓練に関しては、羞恥心や緊張を感じて上手くいかない場合も多いので、さり気なく周囲の目から遠ざけた環境を作り、検査後の排泄がスムーズになるよう配慮しましょう。

医師の指示のもと、止血薬の投与も開始します。穿刺部位の点検をし、必要であれば剃毛を行います。

 

5-2、腎生検後の看護

検査後は合併症のバイタルサイン測定や顔色、痛みの程度など、一般状態の観察をしっかりと行うことが重要です。

 

看護と観察ポイント

①  検査後、仰臥位にて6〜12時間程度の絶対安静

②  医師の診察後に砂嚢を除去、ベッドのギャッチアップ

③  医師が診察し包帯交換の後、安静解除

④  排尿のチェック(量、色、混血の有無、回数など)

⑤  穿刺部位の出血や血腫の程度

 

まとめ

腎生検は、正確に腎疾患を診断できる安全な検査方法です。しかしながら、検査後の安静など患者負担も少なからずあり、まれに合併症を引き起こすリスクも存在します。

適応と禁忌をしっかりと頭に入れ、検査前後の看護と観察を細かく実施しましょう。出血や発熱など、少しでも合併症が疑われた時は迅速に医師の指示に従ってください。

 

参照・引用文献

1)臨床所見からみた小児腎生検の適応について 千葉大学

2)日本腎臓学会誌Vol. 47 (2005) No. 2 P 73-75:第I章 腎生検の適応と禁忌

患者の顔より血管を覚えている|看護師あるある【vol.1】

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看護師の血管あるある

看護師は、患者さんの名前と顔は一致していなくても、名前と腕の血管の特徴は一致していることがありますよね。特に、採血や点滴のライン確保が苦手な看護師さんにとっては、「あるある」だと思います。

採血がライン確保が苦手な看護師さんは、患者さんに針を刺すのに必死になります。

必死になりすぎて、患者さんの顔ではなく、腕や血管ばかりを見ているので、患者さんの血管の特徴を覚えてしまって、「血管の特徴で患者さんを見分けている」という人は多いんです。

「昨日オペしたあの男性の患者さんだけど」という話題が看護師同士で出た時、まずは名前じゃなくて、「あぁ、あの血管が見えない患者さんか」と血管の形が思い浮かぶこともあるほどです!

肝臓癌と共に考える膵臓癌患者への看護計画と看護ケアのポイント

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肝臓癌と膵臓癌

膵臓癌は、この疾患を原発として周辺臓器への転移例が多くみられることが特徴の癌疾患です。膵臓癌があると判明した場合は、高確率で他臓器への癌への看護計画も必要とされる状況になってきます。

今回は、同時に複数の看護計画が発生する事の多い膵臓癌の基礎知識と看護計画、そして膵臓癌発見時に転移している可能性が高い肝臓癌の看護について振り返ります。

 

1、膵臓癌とは

膵臓に発生する癌であり、発生の原因は不明とされています。膵臓の中でも膵管上皮由来の腺癌(膵菅癌)が多くみられ、60歳以上の男性に発生しやすいのが特徴です。また、部位別の癌発生の割合は膵頭部癌が全体の約3分の2、体尾部癌と膵臓全体を占める癌が約3分の1とされています。

膵臓そのものの大きさが小さいことや、膵臓から血管やリンパ管の多さから侵潤や周囲の臓器へと遠隔転移しやすいのも膵臓癌の大きな特徴です。転移は周囲臓器への直接浸潤し、リンパ行性・血行性を経て肝臓、肺、骨へと転移します。

乳頭膨大部の癌の場合は症状が出やすいため切除率が高い一方で、体・尾部癌の場合は症状が乏しいため、自覚症状がないため発症に気づくことも少ないとされています。血液検査による腫瘍マーカーやその他の検査でも発見しにくいため、症状が進行して疼痛などの初期症状を訴える状況に至ったり、肝臓癌など周辺臓器に転移したことによって膵臓癌が原発として診断される例も多いのが現状です。

膵臓癌の予後は根治手術を施行し得た膵頭部癌の場合でも5年生存率は約10パーセントと低く、それがステージ1の場合であっても約38パーセントと患者に厳しい現実を強いるものとなっています。

 

2、膵臓癌の看護計画には肝臓癌の看護計画も準備しておく必要性がある

膵臓癌は、病態の進行や検査、治療方式、患者の臨床症状に伴って身体的苦痛を患者が大きく受ける事になります。入院生活も長期に及ぶことが多いため、医師・看護師共にターミナルケアの必要性を予測しておくことが看護の上で必要といえます。

ターミナル期における看護・介護ケアとプラン作成のポイント

終末期の患者・家族に対する看護計画と適切なケアの実施

 

2-1、膵臓癌から発見される肝臓癌とは

膵臓癌の治療は、切除可能例の場合の対応と切除が不可能な例によって大きく異なります。切除可能例の場合は拡大手術に併せて術後科学療法が主に行われます。また、切除不可能例の場合は化学療法と放射線療法が併用されます。

膵臓癌から発見される肝臓癌とは

出典:膵臓がん|大阪医療センター

 

膵臓は神経や血管が多く走っていることや、肝臓などへ近接する臓器である影響から、開腹手術を行った際に肝臓に小規模の癌転移が肝臓にみられる場合が多くあります。

肝臓癌は原発性肝癌と転移性肝癌に二分されますが、その95パーセントが転移性のものです。そのため、膵臓癌が認められた場合は肝臓癌転移の可能性を、肝臓癌がみられる場合は膵臓癌が原発である可能性を考え、患者の症状の観察やヒアリング、検査を行いながら医師と綿密に相談しつつ看護診断を進めていきます。

看護診断(NANDA・NIC-NOC)に対する理解と知識の習得

 

2-2、肝臓癌特徴と膵臓癌と密接に関係した看護問題

肝臓癌は膵臓癌と同じく、自覚症状が少ないのが大きな共通の特徴です。肝臓癌は合併症を併発することが多い疾患でもあります。

肝機能の低下のほか、肝炎や肝硬変、閉塞黄疸や糖尿病を合併症として発症しているケースが多く、代謝異常による低栄養価状態や電解質の平衡を保たれにくいことや、解毒作用の低下、凝固因子不足による出血の可能性などが問題視されます。

患者のこれまでの生活態度を含めた療養経過や、入院時の患者の自覚している苦痛のレベルを把握することで、患者の肝臓がどのような状況にあるかを術前に把握し、術後の合併症を予防することが大切です。また、消化管の出血や感染仲介の危険性にも十分な配慮が必要です。

肝臓癌は膵臓癌と同じく治療が難しい疾患であることから、患者が疾患や手術に対して抱く大きな不安も2つの疾患に共通した看護問題になってきます。

理論をもとにした看護問題の書き方(明確化・優先順位)

 

3、術前・術後の状況により膵臓癌の看護計画は変化していく

膵臓癌および、肝臓癌を伴う膵臓癌の看護計画は、術前と術後によって変化していきます。膵臓癌と肝臓癌は生存率が低い疾患としても一般認知されている疾患です。

患者は疾患そのものや手術に対する大きな不安を抱えているほか、患者を見守る家族も大きな不安下に晒されています。肉体的苦痛を和らげるための看護対応のほか、患者や患者の家族に対する精神的アプローチも、看護を行う上で重要なポイントになることを予め考えておきましょう。

 

3-1、術前に行うべき看護計画と看護ポイント

膵臓癌の症状として、持続性の心窩部~背部痛の著しい疼痛、他の癌と比べて著しい体重減少や黄疸、肝外胆管の完全閉塞による白色便などがあります。また、痛みや悪心に伴って食べ物が摂取できないことや、手術に対する不安や恐れ、検査や治療に対する偏った情報や理解不足も患者への大きな精神的負担の要因となります。

これらを緩和するために、患者ができるだけストレスを感じにくくする声かけや環境づくり、適切な病状説明などを行います。患者が不安を表出できるための共感的態度、受容的態度での対応を心がけましょう。また、患者の不安が何に起因しているかを明確にできるよう、入院時から密接な患者とのかかわりを持つ事も大切です。

そのほかにも、患者が手術後の状態を具体的にイメージできるよう、術前オリエンテーションを行うほか、術式によって患者の体内にドレーンやチューブ類が数多く挿入されることとその重要性を理解してもらえるためのアプローチも必要です。

また、膵臓癌や肝臓癌は痛みも患者の状態を見分けるポイントになります。無理に痛みを我慢しないですぐに訴えてもよいという事をきちんと伝える事も心がけましょう。

痛みに対しては衣服を緩めて腹部の緊張を和らげるほか、医師の指導による鎮痛剤の投与とその効果の確認も行いましょう。術前の心身のストレスを軽減することで栄養状態が改善され、手術に対して心身の不安を取り除いた状態で患者が手術段階へと入れるように心がけます。

 

3-2、術後に行うべき看護計画と看護ポイント

手術後の回復過程は『障害期』『変換期』『筋力回復期』『脂肪蓄積』の大きく4段階に分かれ、各過程の状況によって患者が受ける肉体的・精神的苦痛の種類もさまざまに変化していきます。特に、患者の生体反応が非常に激しく変化する時期である障害期と変換期は注意深く患者を観察する必要があります。

障害期は手術後2~3日、変換期は障害期の後に1~3日程度続く状況と言われ、この2つの時期は手術侵襲に続いて起こる異化相となっており、その後の状況とは異なった生態の反応過程を示すと考えられています。そのため、変化に対して適宜対応が必要です。

術後は体力が落ちている状態でもあるため、血糖コントロールも術後の状態に応じてカロリー補給を行いつつインスリン投与の増減などで調整するなど、きめ細やかな観察と患者の状況に応じた看護対応が求められます。糖尿病状悪や縫合不全、下痢などの合併症に注意しながら観察と看護対応を行いましょう。

また、循環器系と呼吸器系の管理や疼痛の管理も重要です。膵臓癌患者は一般的に高齢の場合が多いため、術後肺炎や無気肺などを起こしやすい状況にあります。手術創の疼痛による呼吸抑制なども要因として挙げられます。他にも疼痛は心血管系にも負担をかけ、血圧上昇や不整脈を誘発することもあるため、持続的に鎮痛剤を注入することで痛みを和らげます。

膵臓癌や膵臓癌に伴う肝臓癌の手術後は、長期間にわたる入院が必要になるほか、退院後にも治療と経過観察が必要になります。長期の治療に対して患者自身や家族に対してしっかりした治療と精神的サポートができるシステムを構築しておく必要があります。

 

まとめ

膵臓癌と肝臓癌はセットで対応する事の多い疾患です。患者の術前と術後の状態変化の見落としがないように細やかな観察と柔軟な対応を心がけましょう。また、患者と患者の家族が抱く心身のストレスの軽減も看護に関する重要なポイントです。

術前・術後ともに患者の状況を的確に判断し、精神的側面や肉体的側面など、あらゆる方向から患者の苦痛を取り除く看護を心がけましょう。

いつも時間に追われるので早歩きと早食いの癖がついた|看護師あるある【vol.2】

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看護師早食いあるある

看護師はいつも時間に追われています。病棟内をセカセカと歩き回り、時には走り回りながら働いているんです。あまりにセカセカ動き回っているため、自分の髪型がボサボサになってしまい、鏡を見た時にビックリすることも!(でも、髪型を直す時間もないんですけどね)

そして、昼休憩もゆっくり休んでいる暇はないので、とにかく早く食べて、休憩を早めに切り上げて、また仕事に戻ります。早食いは特技のようなもの。

仕事中はいつも早足、昼食はいつも早食い。もうこれが身についているので、仕事以外の時もその癖が出ることも!デート中も「歩くの速いよ!」と彼氏から言われたり、彼氏よりも早く食べ終わってしまうこともしばしばです。。。

肝臓癌を有する患者への看護計画と、術前・術後における管理・ケア

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肝臓癌

日本では肝臓癌による死者は年間3万人前後。男性では肺癌、胃癌、大腸癌に次いで4位、女性では大腸癌、肺癌、胃癌、膵癌、乳癌に次いで6位(2016年、国立がん研究センターの推計値)と高率です。

患者数は2000年代初めをピークに漸減傾向にあり、これは肝炎ウイルス対策が進んできたためですが、患者は、肝硬変や慢性肝炎などを併発していることが多いため、看護においては身体的・精神的の両面から包括的なケアが必要不可欠となります。

 

1、肝臓癌とは

肝臓癌は、肝臓自体で発生する原発性肝癌と、他の臓器から転移した転移性肝癌に分類されます。原発性肝癌のうち90%は、肝臓の細胞に由来する肝細胞癌で、肝臓癌は肝細胞癌のことを言うのがほとんどです。そのうち肝炎ウイルスの感染が90%以上(60%がC型肝炎ウイルス、15%はB型肝炎ウイルス)を占めます。

肝細胞癌のほとんどは、慢性肝炎や肝硬変を合併しています。再発率も高く、看護の上でも配慮する必要があります。

また、近年ではB型でもC型でもない「非B非C型肝臓癌」が増加傾向にあります。中でも生活習慣の改善以外に有効な治療法が今のところ確立されていない「非アルコール性脂肪性疾患(NAFLD)」への対策が急務となっています。

 

2、肝臓癌の治療

肝臓癌の治療は、肝臓の障害度、肝癌の個数、大きさをもとにして治療法が選ばれます。

 

肝障害度分類 肝障害度A 肝障害度B 肝障害度C
腹水 なし 治療効果あり 治療効果少
血清ビルビリン値(mg/dl) 2.0未満 2.0〜3.0 3.0超
血清アルブミン値(g/dl) 3.5超 3.0〜3.5 3.0未満
ICGR15(%) 15未満 15〜40 40超
プロトロンビン活性値(%) 80超 50〜80 50未満

参照:日本肝癌研究会編:臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第5版補訂版.2009年:P15

 

■外科治療=肝切除

早期(肝障害度A、B段階)で、腫瘍数が1〜3個の場合には肝臓の一部切除が有効で、根治が期待できます。しかし、腫瘍数が多い場合、肝硬変が進行している場合は、切除は困難です。また、術後には肝不全が起きやすく、術前評価・術後管理が重要です。

 

■内科的治療①=局所療法

早期の肝障害度A、B段階で、肝臓癌が3センチ以下の大きさ、3個以下の場合は局所療法を選ぶことがあります。単発癌の場合、もう少し大きい癌でも選択する施設があります。

ラジオ波焼灼療法(RFA)が第一選択とされています。局所麻酔下で癌の位置を確認しながら電極針を挿入し高周波を流してまわりに発生する熱(ジュール熱)で病変部を固めます。

 

■内科的治療②=肝動脈化学塞栓療法(テイス)

腫瘍数が4個以上、あるいは、腫瘍の径が3センチを超える場合は肝動脈塞栓療法が選択されます。概ね進行癌の進行を止めるためのものですが、肝臓の血流を止めることで肝機能が低下しますので入念な観察が必要です。

肝動脈までカテーテルを挿入し門脈に抗悪性腫瘍薬を油性造影剤とともに注入後、ゼラチンスポンジを詰めて栓をする肝動脈化学塞栓療法(TACE、テイス)が主力です。抗癌剤を吸着させたビーズを使って塞栓する肝動脈塞栓術(TAE、ビーズテイス)が最近、保険適用になりました。

 

■内科的治療3=化学療法

進行性の場合、内服や注射によって抗癌剤を入れて癌増殖や進展を抑えます。「分子標的薬」とも呼ばれます。手足の皮膚反応、発疹やかゆみ、高血圧、食欲不振を含めた消化器への副作用も高率で起きるため看護が大切になります。

これ以外に肝動脈内注入療法(動注療法)があります。抗癌薬を直接、癌組織に届ける療法で、体外式動注ポンプか体内埋め込み式の動注ポンプを使い、いくつかの抗癌薬を持続して送り込む方法です。

インフォームドコンセントを図って患者が自己管理できるように指導すること、抗癌剤を使うことは同じですから副作用の観察は欠かせません。

化学療法(抗がん剤治療)の副作用ごとの対処と看護ケア

 

■肝移植

肝硬変になっている組織を含めて正常な肝臓と入れ替えます。肝障害度がCまで進み、腫瘍数が3個以内で径3センチ以内、ないし単発癌で径5センチ以内が保険適応です。健康な人(ドナー)から肝臓を切除するため、その人に対するインフォームドコンセントも重要になります。

 

■放射線療法

切除不能な場合、肝臓の門脈が腫瘍で塞がれている場合、他臓器への転移などの場合に行われます。

 

3、肝臓癌の看護計画

肝臓癌も他の癌と同様、早期発見し、特に切除すれば根治する可能性が高い癌です。しかし肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、多くは慢性の肝障害で長い療養の末に肝硬変から癌に移行して見つかるか、無症状のまま末期の肝臓癌の症状が出て初めて分かる例もあります。

看護に当たっては、肝臓癌治療への対応だけでなく、肝障害の全身症状(食欲不振、発熱、倦怠感など)に対する配慮、長期にわたる闘病生活に対する支援の視点が必要です。

 

■看護目標

l  全身状態を評価し、術後合併症も予測して術前準備

l  外科的治療、内科的治療への精神的準備

l  術後の苦痛軽減を図る

l  家族の精神的安定

 

4、術前検査、処置

肝切除の適応の場合、肝腫瘍の位置、形状、範囲などを診断するとともに、肝臓の予備能、全身状態を把握することに努める必要があります。

 

[術前検査]

l  肝機能一般の検査

l  腫瘍マーカー、血管造影、肝生検など肝腫瘍の診断

l  全身状態の把握

 

[術前処置]

l  栄養状態の悪い場合、栄養補給

l  血糖コントロール

l  腹水のある場合、電解質異常の是正

l  食道、胃静脈瘤、胃・十二指腸潰瘍のある場合の治療

l  黄疸、腹水、肝性脳症、吐血などの症状の発現時の対応

 

5、術後の管理

特に肝硬変を伴う肝切除のあとは肝不全や、呼吸不全を中心にした多臓器不全に陥る危険を伴います。術直後には、循環不全、低酸素血症、消化管出血などからも多臓器の合併症に発展することが多く、輸液管理を中心に全身管理の対象となります。

 

■疼痛管理

肝臓癌患者は40歳代以降の中高年(男性が女性より多い)に多く、高齢ほど痛みが心肺機能に負担をかけ、血圧上昇や不整脈を誘発したり肺炎の併発につながったりするおそれがあるため、除痛が必要です。

 

■呼吸器、循環器の管理

低酸素血症は肝機能の不全の要因となるため術後の呼吸管理は重要です。肝予備能が高度に低下している場合、広範囲に肝切除した場合は、術後、レスピレータを使うのが有効です。

 

■輸血、輸液の管理 

切除後の肝再生のためには、肝血流の維持、低酸素血症の防止、エネルギー基質の供給が重要です。術後の輸液は糖質を混ぜた電解質輸液とアミノ酸を含む輸液を投与し、新鮮凍結血漿を投与します(NA貯留傾向にある肝硬変併発例は、NAを含まない輸液製剤を用います)。

 

■栄養管理

肝硬変を持っていると低栄養、糖代謝、アミノ酸代謝異常などや免疫機能の低下を伴うことが多く、術前から異常を補正していくことが必要です。栄養管理には、高カロリー輸液や経口栄養剤投与が一般的となっています。

 

■経口摂取の開始

胃に入れていた管の抜管後、腸の蠕動と排ガスがあれば、水分→全粥と進み、その後は高カロリーの肝庇護食の摂取になります。摂取により腸管が刺激され下痢の可能性もあり、要観察対象です。

 

そのほか、「精神的サポート」や「清潔の保持」なども重要な看護ケアになります。

 

6、肝硬変と末期肝臓癌への対応

肝臓癌患者のかなり多くは肝硬変を持っていますが、繰り返し治療を行う過程で徐々に癌の増大と、肝機能の低下をきたします。肝硬変の末期状態になると痛みや腹水、黄疸、肝性脳症などの苦痛を伴うことが多い中で終末期(ターミナル期)を迎えなければなりません。

苦痛症状のコントロールに努め、精神的に落ち着いた状態で過ごすよう働きかけなければなりません。チェックすべき項目は以下の通りです。

 

l  栄養状態(代謝の低下、癌の増大により食欲不振、倦怠感の増加により栄養状態が下がります)

l  出血の兆候(肝機能低下により出血傾向が高まり、食道動脈瘤の予防が必要です)

l  腹水、むくみの増大(門脈圧の増大、腎臓の体液貯留が起きている可能性が高く食事療法、利尿剤、治療としての穿刺が行われます)

l  黄疸に関連するかゆみ(皮膚の観察と治療が欠かせません)

l  意識障害(肝性脳症に移行する可能性があります)

 

食道動脈瘤の予防的看護と治療後(EIS・EVL)の看護実践

肝性脳症の看護計画、各段階における看護師の役割とは

 

6-1、ターミナル期の看護目標

肝硬変を伴った肝癌は予後が悪く、急速に症状が悪化し、生命の維持に危険が迫る事態に陥ることがあります。

看護は、少しでも患者の精神的苦痛、身体的苦痛を緩和できるよう医師や家族と協力し、余生をできるだけ有意義で楽しいものになるよう努めることに重点が移ります。

 

l  出血(食道動脈瘤による消化管出血)傾向を観察し、異常時に医師に報告できるようにするとともに出血予防する策を取る

l  肝性脳症にならないように栄養状態を保つとともに意識レベルの観察を続ける

l  不安を患者が表現でき、精神的に安定した状態で闘病生活を送れる

l  痛み、かゆみが緩和され、安らかに過ごせる

 

終末期の患者・家族に対する看護計画と適切なケアの実施

ターミナル期における看護・介護ケアとプラン作成のポイント

 

まとめ

肝臓癌は、多くが肝炎ウイルスに起因するとわかってきました。初期の癌であれば切除で根治できるものの、肝硬変を伴っていると全身症状も出て末期段階に進むことも多いやっかいな病気です。看護に当たっては、身体全体に対する総合的なケアの視点が必要です。

 


患者にはゆっくり食べてと説明するが、自分はめちゃ早食い|看護師あるある【vol.3】

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食事介助
患者さんに食事を配膳する時や食事介助をする時は、「ゆっくり食べてくださいね」とか「よく噛んで食べてくださいね。むせちゃうと大変ですから」と患者さんに伝えることがよくありますよね。

「ゆっくり食べてくださいね」と患者さんに伝えるのは、看護師として当たり前のことです。誤嚥したら大問題ですから。

でも、自分が昼休憩に入った時は、時計をチラチラ見ながら、急いで食べることがよくあります。

これは、病棟が忙しくて、すぐに仕事に戻らなくちゃいけないので、早食いになってしまうのは仕方がないことなんですが、患者さんには「ゆっくり食べてくださいね」と伝えた30分後に、自分は5分で完食していたら、ちょっと罪悪感が残るし、切ない気持ちになりますよね。

OJTを取り入れた看護教育の現場における特徴や課題

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OJT

看護における新人教育の現場で、OJTの重要性が主張されることがあります。臨床の現場で先輩看護師から直接指導を受けながら実践を積むことができるOJTの仕組みや課題点、他の新人教育方法との連携などを踏まえ、日本の新人看護師育成システムにおけるOJTの特徴を浮かび上がらせてみましょう。

 

1、OJTとは

OJTとは「On the Job Training」のことで、職場で実際に業務を実行しながら知識や技術を身につけ、上司や先輩の助言を受けて能力を磨いていく教育訓練の方法です。さまざまな職業分野でも取り入れられている制度ですが、看護師の世界でも新人教育の場で重要なポイントを占める訓練法と言えます。

 

1-1、看護師の仕事におけるOJTとは

看護師の職場で導入されているOJTは、新卒看護師を先輩看護師が現場で業務指導をする、アメリカから取り入れられた育成プログラム「プリセプターシップ」と言われています。2004年時点の調査では、日本の病院の85・6%がプリセプターシップを取り入れていることが分かっています。

具体的なOJTの年間スケジュール例を挙げると、ある病院では新人は4月に配属部署でのオリエンテーションを経て、先輩に付き従って仕事内容を学ぶシャドウイングや日勤を体験し、5月~7月には自身が先輩から業務を観察される逆シャドウイング、日勤での受け持ち患者数の段階的増加、ペアでの土日・休日出勤や夜勤を経験します。

8~12月には日勤・夜勤ともに、指導者のフォローを受けながらも受け持ち患者の数や重症度合いが上がった状況で業務を手掛けるようになり、翌年1~3月には基本的に独り立ちできるという、流れになっています。

 

2、OJTの実態と教育方法

OJTが看護教育の中で導入されている場合、指導看護師側の新人教育力の向上が課題として挙げられることがあります。新人を指導する側の看護師の実態を浮かび上がらせた上で、教育力向上のために取り入れられている方法を紹介します。

 

指導看護師の実態―能力の違い

OJTで指導する立場となる先輩看護師にも、新人看護師への対応の仕方に差があることを示す調査結果があります。新人看護師には「そもそも自分が何を分からないのか」といった点について正確に把握できていなかったり、聞かれたことに対して返答しようとはするものの、うまく表現できていないという場面が見受けられます。しかし、先輩看護師から新人に対する対応は個人によって異なります。例を挙げると、

 

・  新人からの質問に対して答えはするものの、そのまま自分の仕事に戻ってそれ以上のフォローをする余裕がない

・  新人の様子を察して状況判断し、自主的に適切な指導をする

・  全体的に新人らの状況を観察し、困っている新人を見つけると必要な対応をした上で指導を担当している別の看護師に報告し、以降のフォローを託す

 

といった行動が報告されています。このように、指導する側の看護師にも、異常時の対応やチームプレーを支える能力に違いがあることが示されています。

 

指導看護師の実態―負担

2004年時点の調査により、日本の大半の病院でプリセプターシップが導入されていることを記しましたが、その中で特徴的なのは、プリセプターの6割程度を経験3年目未満の看護師が占めていることです。そのため、プリセプター自身が自分の知識・技術不足を痛感し、プリセプターという役割に重責を感じて重荷になってしまうという事態が生じていると言われています。

また、中堅看護師を取り巻く環境としては、OJTを通した新人指導などで業務量が増加することで疲弊し、離職に至るケースも指摘されています。OJTを実施する際の問題点としては、指導者側にかかる負担も外せないポイントとなってきます。

 

指導者のための研修も!

OJTを実施する際、指導者側はこれまでに先輩がOJTの現場でやってきていた指導方法を模倣したり、自主的に教え方を学ぶなどして、進めるケースが多いと言われています。これまでに示したように、OJTにおける指導者側の教育力の向上は急務な課題となっており、指導法や新人看護師の評価の仕方などを、より体系的に学ぶ機会を設ける病院もあります。

OJTは新人に対する研修の一環ととらえることができますが、言わば研修を行う指導者に対しても、指導のノウハウを身に着ける研修が必要となる、ということになります。具体的には、指導者自身が年間教育計画の作成や評価システム、効果的な指導法を学び、演習なども通してOJTの実践に役立つような体験ができる、という研修内容が挙げられています。

 

3、OJT(職場内研修)とOFF-JT(集合研修)

看護の新人教育における過程の中で、OJTとともによく出てくる言葉にOFF-JTがあります。OFF-JTは「Off the Job Training」のことで集合研修とも呼ばれ、OJTが職場内での実践研修であるのに対し、OFF-JTは現場を離れた職場外での学習や教育の機会になります。

 

OFF-JTの特徴

OFF-JTは、新しい知識や技術を得る機会などになります。OJTの場合、部署ごとの現場で研修を受けますが、OFF-JTでは部署を越えた全体的な学習内容を身につけることができる上に、職場を離れて学習することで、職場以外の人間関係を構築して情報交換の機会を得たり、精神的にリフレッシュすることができるというメリットもあります。

 

OJTとの組み合わせ

厚労省の新人看護職員研修ガイドラインでは、OJTとOFF-JTを組み合わせた学習を行うことが、適当とされています。新人教育をOFF-JT中心で進めた場合、新人看護師の臨床現場での看護実践体験が乏しくなるというデメリットが、生じかねません。日本看護師協会が示す「継続教育の基準(ver.2)」の解説版である活用ガイドには、OFF-JTで得られた内容の応用能力を高めるため、OJTが行われると位置づけられています。

一方、この活用ガイドの中では、OJTのみの研修を導入してしまうと、最新の知識や技術に対応する能力を開発する上で限界が生じる可能性も指摘されています。そのため、集合教育も節目ごとに取り入れていく必要がある、ということになります。OJTとOFF-JTについては、両者をバランスよく取り入れることが重要なポイントとなると言えます。

また、OJTとOFF-JTは、クリニカルラダーと密接な関わりを持っており、クリニカルラダーを用いて段階的に教育・研修を行うことで、さらなる効果の増大が期待できます。クリニカルラダーについては、「看護師の教育制度「クリニカルラダー」の評価基準と評価項目」をご覧ください。

 

まとめ

OJTは看護師以外の職種にも広く導入されており、新人教育における有効な手段と言えますが、きちんと機能するためには指導看護師側の能力向上が必要となってきます。それも、効果的な教え方や新人の評価の仕方を身に着けるだけでなく、日ごろから新人を含め職場の同僚や後輩の様子を洞察して仕事が回りやすくなるような配慮を図ったり、タイミングや相手の力量を見計らった上で適切な対処をとる能力などを磨くこともカギとなるでしょう。

看護はチームプレーが重要な役割を果たす業務でもあり、指導者側もそのような能力を向上させることが新人教育に貢献するだけでなく、自身の職場でのコミュニケーションや働きやすさをアップさせるきっかけにもなり得るのではないでしょうか。

新人看護師にとっては、現場で直接先輩の指導を受けながら実践経験を積むことができるOJTは、看護師としてのスタートを切る上で心強い制度となるでしょう。臨床現場での実践を享受できるOJTと、新しい知識や技術を学ぶ機会となるOFF-JTのいずれの長所も取り入れることで、知識と経験をバランスよく吸収・活用しつつ、独り立ちの時期に向けて成長していくことが期待されます。

 

参考文献

1)鄭佳紅「OJTによる看護師の技能とその伝承-指導・育成能力と報告・連絡・情報共有能力に焦点を当てて―」2009年『日本ヒューマンケア科学会誌第2巻第1号』

2)厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン

3)日本看護協会「『継続教育の基準ver.2』活用のためのガイドPart.2 学習資源の基準

勉強するほど、医師に近づき患者から遠ざかる|看護師あるある【vol.4】

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患者との距離
看護師は「患者さんにより良い看護をしよう」と思って、日々忙しい仕事の合間を縫って、勉強に励みます。

職場の勉強会や院内研修には積極的に参加して、外部セミナーにも自費で参加して、少しでもスキルアップしようと頑張るんです。

ただ、看護師は勉強をすればするほど、「看護」ではなく「治療」に関する知識を身につけていくことになります。

そうすると、自分でも気づかないうちに、看護師目線ではなく医師目線になっていて、ふとした時に「あ。私、医師みたいな考えになっている」と気づくんです。

患者さんに寄り添うために勉強したのに、いつの間にか患者さんから離れて、医師に近づいている自分に気づくと、何のために勉強していたんだろうって思ってしまいますよね。

肺塞栓の看護|医療現場や災害現場での発症リスクと予防法

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肺塞栓

肺の動脈が血栓によって詰まってかかる肺塞栓は、エコノミークラス症候群と呼ばれる症状でも知られています。

入院中や術後、被災後、長期移動後などに発症するとされており、最悪の場合は死に至ることも考えられるため、しっかりとした予防策を打ち立てることが重要です。国内での肺塞栓症は、近年増加傾向にあると言われています。

発症する仕組みや原因、どのようなケースで引き起こされるのか…といったことを把握した上で、先手を打つ対策が求められます。

 

1、肺塞栓とは

塞栓とは、血流によって運ばれた血栓が血管をふさぐ現象です。血栓により動脈が詰まる病気として、心筋梗塞や脳梗塞が知られていますが、肺の動脈が急に詰まると肺塞栓症と呼ばれます。

肺塞栓症の死亡率は急性心筋梗塞よりも高いとされており、症状の兆候などが見られた場合は注意が必要です。長時間での移動を強いられるビジネスマンや旅行者などがかかることで知られる、エコノミークラス症候群と呼ばれる症状も、肺塞栓の1つです。

 

2、肺塞栓の原因

肺塞栓症につながる血栓は、9割以上の確率で下肢の静脈内からできると言われています。この血栓ができることを深部静脈血栓症と呼び、血栓が血流によって右心房・右心室を経由して肺動脈まで到達すると、肺塞栓症につながります。ちなみに、肺塞栓症と深部静脈血栓症を合わせて静脈血栓塞栓症と呼びます。

 

2-1、肺塞栓症にかかりやすい環境

肺塞栓症にかかる患者の例としては、先に挙げたエコノミークラス症候群のように、長時間座席に座った状態を続ける移動中のビジネスマンや旅行者も挙げられますが、それ以外にも肺塞栓症にかかりやすいケースは存在します。肺塞栓症にかかりやすい環境の条件やリスクについて考えてみましょう。

 

■寝たきり生活を送ること

肺塞栓症にかかる人の約半数は入院中とされています。それも、手術を受けた後だったり、けがや骨折をしたり、4日以上寝たきり生活を送った人などが当てはまるそうです。安静期間が終わった後にベッドから起きて歩き始めたら呼吸困難や失神を起こしてしまったり、トイレに行く際に失神発作を起こすなどの事例が挙げられます。

人間は立って歩くことで、脚の筋肉が静脈を刺激し、心臓から送り出された血液を押し上げる補助ポンプの機能を果たして、血液を心臓に戻すことができます。しかし、長期的にベッドで安静する生活を送っていると、筋肉による脚の静脈への刺激が無くなり、血管が拡張して血流が悪くなり、血栓ができやすくなるのです。

通院中でもギブス固定している場合などは、肺塞栓症のリスクが高くなります。また、脳卒中の後遺症で下肢に麻痺に残る人も、脚の筋肉が動かないため静脈が拡張して流れが遅くなり、深部静脈血栓ができやすくなると言われていますし、避妊薬を服用したり、妊娠出産を経た人も血液が固まりやすくなっているため、注意が必要です。

 

■手術によるリスクも

股関節・膝関節置換術や大腿骨骨折などの整形外科手術後に静脈血栓塞栓症が発生したり、腹部手術による肺塞栓症の合併も多いとされています。手術を受ける際に、筋弛緩薬が使用されることでふくらはぎの筋肉の緊張が解かれ、脚の静脈が拡張してしまうことや、術後に血液の固まる力が高まることから、手術中や手術後の肺塞栓症のリスクが高まると言えます。

 

このようにさまざまな危険因子が存在するものの、実際にはそれぞれの因子が重なることで肺塞栓症につながるケースが多いと考えられます。年齢別で言えば、60歳ごろから肺塞栓症で死亡する人の数が急激に多くなってきています。

肥満もリスクとして考えられています。高齢者や肥満体型の人、過去に血栓ができた経験のある人が手術を受けたり、入院する際には、静脈血栓塞栓症が起こる可能性が高くなるため、注意が必要となります。

 

危険因子の強度 危険因子
弱い l  肥満

l  エストロゲン治療

l  下肢静脈瘤

中等度 l  高齢

l  長期臥床

l  うっ血性心不全

l  呼吸不全

l  悪性疾患

l  中心静脈カテーテル留置

l  癌化学療法

l  重症感染症

強い l  静脈血栓塞栓症の既往

l  血栓性素因

l  下肢麻痺

l  ギプスによる下肢固定

肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)より抜粋

 

3、肺塞栓症の症状

肺塞栓症の患者の症状の大半は、突発性の呼吸困難として現れると言われています。さらに半数程度の患者が胸の痛みを、2割程度は失神発作を経験しているとされます。

 

肺塞栓症 呼吸困難、腹痛、冷汗、失神、動悸、せき、血痰
深部静脈血栓症 下肢の腫れ、下肢痛、下肢の色調変化

※左から順に発生頻度が高い

 

症状は肺に運ばれてきた血栓の大きさにもよって出方が違うことが多く、例えば血栓が小さい場合、症状が出ないケースも少なくありません。

しかし、ある程度の大きさの血栓が肺動脈を閉塞すると突発的な呼吸困難を引き起こし、さらに大きな血栓が肺動脈に詰まると血流が途絶えてしまい、失神やショック状態に陥ることもあります。ほかに肺塞栓症の症状としては、全身倦怠感や動悸などが出ることもあります。

肺塞栓症の大半の直接的原因でもある深部静脈血栓症の症候としては、下肢のはれや痛み、皮膚の色の変化があります。深部静脈血栓症は、症状が出ないまま進行するケースも多いとされていますが、特にこれらの症候が片側の下肢のみに出た場合、発症の可能性を疑う必要があります。

 

4、肺塞栓の治療

肺塞栓症にかかってしまった場合、治療法には薬を使うケースや、カテーテル治療、外科手術を施して血栓除去を図るケースなどが挙げられます。治療法や注意点などをまとめてみましょう。

 

薬剤の投与

肺塞栓症の治療としては、初期段階では酸素や生理食塩水、血管収縮薬の投与があります。以降の治療としては、残った凝血塊が拡大して閉塞を起こすことを防ぐ抗凝固療法などが挙げられます。

凝固因子を阻害する物質の作用を促すヘパリンは、抗凝固療法にも有効な薬です。ただし、ヘパリンには出血や血小板減少症、アナフィラキシーを引き起こす可能性があり、投与が長期に渡ると低カリウム血症の原因にもなり兼ねません。

低カリウム血症とは、体内の総カリウム貯蔵量が不足したり、血清カリウム濃度が3.5mEq/Lを下回る状態を指し、脱力、筋力低下、多尿、インスリン分泌障害、四肢麻痺などの症状が現れます。また、ヘパリンを長期投与して骨粗しょう症を引き起こす可能性も指摘されています。

また、ヘパリンと同じく抗凝固療法に用いられるワルファリンは、納豆やクロレラなどビタミンKが豊富な食べ物を摂取すると効果が抑えられるため、使用中はそれらの食べ物を控える必要があります。

 

■血栓除去

肺動脈内の血栓近くまでカテーテルを挿入し、血栓を吸引したり粉砕する方法があります。また、手術をして肺血管内にある血栓を取り除く外科治療法もあります。

 

5、肺塞栓の予防

歩行が困難な患者が静脈血栓塞栓症にならないために予防する策としては、足関節を動かしたり、脚の上げ下げをして筋肉を動かし、血流を良くさせることが有効です。脚をマッサージすることも、予防策になります。

また、圧迫力の強い弾性ストッキングを着用するという手段もあります。弾性ストッキングを着用させる場合、着用前に皮膚トラブルや浮腫の有無などを確認し、着用後に血行状態や血色を観察したり、チアノーゼ、びらんや水疱、痛みやしびれの有無などを確認し、圧迫症状を確かめる作業が重要となってきます。

他に、ふくらはぎやひざから足首にかけてゴムチューブを巻き、空気を送り込んで加圧し、静脈の流れを速くさせる間欠的空気圧迫法、足の裏側を周期的に圧迫するフット・ポンプ法(下図)などの手段を取ることもあります。

ベノストリームFT 圧迫療法 逐次型空圧式マッサージ器

出典:ベノストリームFT 圧迫療法 逐次型空圧式マッサージ器 テルモ

 

看護の現場でこのような具体的な予防策を講じるほか、深部静脈血栓症や肺塞栓症の兆候がないかどうか、観察を続けることも有効な対策の1つとなります。

 

6、エコノミークラス症候群

肺塞栓の中でよく知られているのが、エコノミークラス症候群と呼ばれる急性肺動脈血栓塞栓症です。飛行機などの乗り物の座席に座る状態を長時間続けることで発症すると言われていますが、災害現場で被災者がかかってしまうケースも指摘されています。

エコノミークラス症候群に陥ってしまう仕組みをまとめ、被災地で生活を送る人たちがエコノミークラス症候群にかかってしまわないために、注意すべきポイントなどを挙げていきましょう。

 

6-1、エコノミークラス症候群とは

エコノミークラス症候群は飛行機の座席に座るなど、同じ姿勢を長時間保つ状態になった時に発症します。長時間座って脚を圧迫した状態が続くことで局所的に水分不足になり、血液の粘度が上がって固まるために血栓ができ、身体が座席から離れて脚の圧迫が解放された際、血管から血栓から剥がれて肺動脈に詰まり、呼吸困難や動悸など、循環器系のトラブルをもたらします。

飛行機のエコノミークラスに限らず、ファーストクラスの座席でも起こりうる症候群で、バスや電車などの交通機関を利用した場合でも、座っている時間が長時間に渡ると発症する可能性があります。「旅行者血栓症」「ロングフライト血栓症」とも呼ばれています。

 

6-2、災害とエコノミークラス症候群

飛行機などによる長時間の移動中に起こるケースが多いエコノミークラス症候群ですが、災害発生時の被災者が発症したというニュースも、しばしば聞かれます。これは大規模地震が発生して、被災者が車の中で避難生活を過ごす場合に発症するケースが当てはまります。

夜間や昼間に車の座席に座って長時間に渡って同じ姿勢を保つことになるため、エコノミークラス症候群にかかってしまうとされています。

被災地で車中泊を繰り返す生活を送っている避難者に接する機会があった場合、水分補給や足を動かす運動を促進させるなど、看護師が率先して予防策を周知させる必要があります。

 

6-3、クラッシュ症候群

災害が起きた際に発生する、エコノミークラス症候群と類似した症状として、クラッシュ症候群があります。地震が起きて建物などに身体を挟まれた人が、救出された後に容体が急変し、死に至ることもあると言われる症候群です。

クラッシュ症候群は、災害現場などで長時間手足などが挟まれるうちに筋肉の壊死が始まり、そこからカリウムなどの有害物質が大量に血中に放出されることが原因と言われます。

救出されて手足の圧迫から解放された際に、それまで塞がれていた血流が戻り、有害物質を含む血液が全身に流れ出すことで、高カリウム血症やチアノーゼ、意識混濁などの症状を引き起こしてしまうのです。

高カリウム血症とは、体内の総カリウムの貯蔵量が過剰になったり、血清カリウム濃度が5.5mEq/Lを上回る状態を指し、弛緩性麻痺などの症状があります。不整脈を引き起こす原因にもなり、心停止にもつながりかねない症状です。

災害現場で瓦礫などに手足を挟まれている人を発見した場合、圧迫され続けている身体の部位よりも心臓に近いところをタオルなどで縛るなどの応急処置を施し、救出後は直ちに医師の診断を受けさせる必要があります。

 

まとめ

肺塞栓が引き起こされる事例としては、さまざまなパターンが考えられます。世間ではエコノミークラス症候群という名前が広まっているため、長時間乗り物の座席に座って移動する人がかかるというイメージが先行しているかもしれませんが、入院中や術後など、元々病院生活を送っている人にも発症リスクがあることから、看護の現場で発症を食い止めることが、重要な課題となってきます。

予防のための弾性ストッキングの着用やフット・ポンプ法などに使われる装置の作業を着実にこなすことはもちろん、肺塞栓や深部静脈血栓症の兆候の特徴をしっかりと把握した上で、入院患者らにそのような兆候がないかどうか、日ごろから細やかに観察する姿勢も大切です。

また、災害支援ナースとして災害発生時に現場に遭遇したり派遣され、災害看護を実施する際には、被災者にエコノミークラス症候群が引き起こされないように予防策を十分周知するなど、的確な対応も求められます。

自分が入院すると、点滴を勝手に早めてしまう|看護師あるある【vol.5】

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点滴速度
患者さんの点滴の滴下を合わせる時は、時計の秒針とにらめっこしながらクレンメを調節して、指示通りに点滴が滴下するように合わせます。

もし、患者さんが触っているのを見かけたら、「ちょっと!何やっているんですか?そこ、触らないでください!」なんて、ちょっと厳しい口調で注意することもありますよね。

でも、いざ自分が入院して点滴を受ける時は、早く点滴が終わってほしいから、勝手にクレンメを調節して、滴下を早める「ダメ患者」に変貌します。もちろん、滴下を早めて良いものかどうかは自分なりに見極めますが。

だって、点滴がつながっていると、歩くのも大変ですから!こういうことって、患者側の立場に立たないと、気づかないんですよね。

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