Quantcast
Channel: ナースのヒント|明日のヒントが見つかるWebメディア
Viewing all 681 articles
Browse latest View live

アシドーシス・アルカローシスの症状と原因、カリウムとの関係性

$
0
0

アシドーシス・アルカローシス

人間の血液は中性ですが、何かしらの原因によって酸性またはアルカリ性に傾くことがあり、この値はpH(ペーハー)によって示されています。

血液が酸性に傾いた状態を「アシドーシス」、アルカリ性に傾いた状態を「アルカローシス」と言い、さまざまな原因によって引き起こされます。

pHの値は血液検査のデータなどで見る機会が非常に多いため、看護師として従事している方や、看護師を目指している方は、「アシドーシス」と「アルカローシス」について熟知しておいてください。

 

1、アシドーシス・アルカローシスとは

通常、人間の体液のpH(水素イオン濃度)は、常に7.4±0.05(7.35~7.45)に保たれており、これを酸塩基平衡と呼びます。7.4±0.05(7.35~7.45)の範囲にあれば、正常であると判断されますが、何かしらの原因によってpHのバランスが崩れ、血液が酸性側に、またはアルカリ性側に傾くことがあります。

pHが7.35未満になった状態(酸性)を「アシドーシス」、反対に7.45以上になった状態(アルカリ性)を「アルカローシス」と言い、この酸塩基平衡における異常には、大きく分けて「呼吸性」と「代謝性」の2つのパターンに分類されます。

 

分類 主な変化 pH
呼吸性 アシドーシス 二酸化炭素分圧(PaCO2)↑ ↓(酸性)
アルカローシス 二酸化炭素分圧(PaCO2)↓ ↑(アルカリ性)
代謝性 アシドーシス 重炭酸イオン(HCO3-)の減少

水素イオン(H+)の増加

↓(酸性)
アルカローシス 重炭酸イオン(HCO3-)の増加

水素イオン(H+)の減少

↑(アルカリ性)

 

「呼吸性アシドーシス」は、主に呼吸数の減少に伴う酸素量の減少(二酸化炭素量の増加)によってpHが酸性側に傾き、反対に「呼吸性アルカローシス」は、主に呼吸数の増加に伴う酸素量の増加(二酸化炭素量の減少)によってpHがアルカリ性に傾きます。

「代謝性アシドーシス」は、主に体内の重炭酸イオン(HCO3-)が減少または水素イオン(H+)の増加によってpHが酸性側に傾き、反対に「代謝性アルカローシス」は、体内の重炭酸イオン(HCO3-)が増加または水素イオン(H+)の減少によってpHがアルカリ性側に傾きます。

このように、それぞれで原因は大きく異なりますので、機序とともにしっかりと理解しておく必要があります。

 

2、アシドーシス・アルカローシスの原因

上記のように、「呼吸性」は主に“呼吸数(換気量)”に起因しており、また「代謝性」は主に“重酸素イオン”や”水素イオン“に起因しています。

 

分類 原因となる病態
呼吸性 アシドーシス COPD(慢性肺気腫など)、呼吸筋の障害、呼吸不全
アルカローシス 過換気症候群、一時的な肺機能の低下
代謝性 アシドーシス 腎不全、下痢などによる腸液の喪失、ケトアシドーシス
アルカローシス 反復性嘔吐(肥厚性幽門狭窄症)、原発性アルドステロン症

 

呼吸性アシドーシスでは、呼吸数(換気量)の減少が起因し、それに伴う呼吸器系のさまざまな疾患が原因となるため、どのような疾患が起因しているのかを正確に判断する必要があります。

呼吸性アルカローシスでは、基本的に精神的不安などによる過換気症候群が原因ですが、肺機能の低下(主に一時的)などによって起こることもあるため、同様に原因の正確な判断が不可欠です。

また、代謝性アシドーシス・アルカローシスにおいても、起因する疾患はさまざまであり、治療法は原疾患の改善が第一であることから、pHの値だけでなく、動脈二酸化炭素分圧(PaCO2)や重炭酸イオン(HCO3-)など、さまざまなデータを多角的に評価するとともに、付随する症状においても正確に把握し、原疾患を早急に特定することが必要となります。

 

2-1、呼吸性アシドーシスの機序

呼吸数(換気量)が減少すると、血中の酸素量が減少し、二酸化炭素量(CO2)が増加します。二酸化炭素が水(H2O)に溶けると炭酸(H2CO3)に変化し、二酸化炭素量が増加すると炭酸の量も増加します。炭酸は水素イオン(H+)を放出し、水素イオンは酸性を示すため、

 

CO2(増) → H2CO3(増) → H+(増) → 酸性

 

というように、二酸化炭素量の増加に伴う炭酸の増加、炭酸の増加に伴う水素イオンの増加によって、pHが酸性に傾きます。代謝性アシドーシスも水素イオンの増加によるものですが、発生機序によって呼吸性なのか代謝性なのか診断されます。

 

2-2、呼吸性アルカローシスの機序

呼吸数(換気量)が増加すると、血中の酸素量が増加し、二酸化炭素量(CO2)が減少します。二酸化炭素量が減少すると炭酸(H2CO3)の量が通常よりも少なくなり、それに伴って水素イオン(H+)の量も減少します。

 

CO2(減) → H2CO3(減) → H+(減) → アルカリ性

 

同様に、代謝性アルカローシスも水素イオンの減少によって起こるものですが、呼吸数の増加に伴う二酸化炭素量の減少によるものなのか、腎臓などの消化器官の異常に伴うものなのか、その発生機序によって呼吸性・代謝性が診断されます。

 

2-3、代謝性アシドーシスの機序

代謝性アシドーシスの主な原因は、「重炭酸イオン(HCO3-)の減少」、または「水素イオン(H+)の増加」によるものです。

重炭素イオンはもともと、アルカリ性物質であり、二酸化炭素と水素イオンに反応して変化し、pHを酸性に傾きすぎないように調整しています。しかし、腎不全などにより腎臓で再吸収されなくなった場合や、下痢などにより消化管から体外に過剰排泄された場合には、重炭素イオンが欠乏し、酸性への移行を制御できずに酸性へと傾きます。

また、エネルギーを作り出すためには、細胞に酸素を供給する必要がありますが、酸素が十分に供給されなくなると、酸素は水素イオンと結合するために、余った水素イオンが大量に放出されるようになります。

水素イオンはもともと、酸性物質であることから、大量に放出されることで、pHが酸性へと傾くようになるのです。腎臓は水素イオンを排出する機能を持っていますが、腎不全の状態では水素イオンの排出が正常に行われず、蓄積してくことでpHが酸性へと傾きます。

 

2-4、代謝性アルカローシスの機序

代謝性アルカローシスの原因は主に、「重炭酸イオン(HCO3-)の増加」、または「水素イオン(H+)の減少」によるものです。

重炭酸イオンが増加する原因には、体内への過剰流入または体外への過剰排出があり、重炭酸イオンが含まれる輸血や補液が過剰に投与されてしまった場合、利尿薬などの重炭酸イオンの再吸収を促す薬物を摂取した場合には、アルカリ性物質である重炭酸イオンの量が過剰となり、pHがアルカリ性へと傾くようになります。

また、胃液には水素イオンが多量に含まれていますが、嘔吐などによって胃液が体外に排出されてしまった場合には、酸性物質である水素イオン量が減少することで、pHがアルカリ性へと傾きます。

 

2-5、カリウムとの関係性

アシドーシス・アルカローシスともに、カリウムと大きく関係しており、アシドーシスになると高カリウム血症を発症、アルカローシスになると低カリウム血症を発症することがあります。

 

分類 病因
高カリウム血症

(アシドーシスに起因)

5.5mEq/L~ 体内の総カリウム貯蔵量の過剰、カリウムの細胞外への異常な移動、腎排泄障害、コントロールされていない糖尿病など
低カリウム血症

(アルカローシスに起因)

~3.5mEq/L 体内の総カリウム貯蔵量の不足、カリウムの細胞内への異常な移動、腎臓・消化管からの過剰喪失など

 

アシドーシスは水素イオンの増加が原因となって起こり、水素イオンが細胞内に入ることで、マグネシウムとともにカリウムが細胞外へ排出されます。これにより、体内のカリウム濃度が高くなり、高カリウム血症(5.5mEq/L以上)になります。

反対に、アルカローシスの場合には、水素イオンが減少しているために、細胞内のカリウムが不足し、それを補おうと体内にあるカリウムが細胞内に取り込まれることで、体内のカリウム濃度が低くなり、低カリウム血症(3.5mEq/L以下)になります。

また、アシドーシスの原因となる“腎不全”や、アルカローシスの原因となる“原発性アルドステロン症”などに起因してカリウム濃度が変化し、高カリウム血症または低カリウム血症を引き起こします。

 

3、アシドーシス・アルカローシスの症状

pHの低下・上昇の程度がそれほどない場合には、症状が発現しないこともありますが、程度が大きい場合には、さまざまな身体的症状が発現します。

これはアシドーシス・アルカローシスともに言えることであり、高カリウム血症・低カリウム血症などが相まって重症化すると、突然死することもあるため、発症時には綿密な観察と迅速な対処が不可欠となります。

 

分類 主な症状
呼吸性 アシドーシス 【急性の場合】

吐き気、頭痛、疲労感、錯乱、不安、抑うつなど

【緩徐に発症する場合】

睡眠障害、日中の過度な眠気、記憶喪失(まれ)など

アルカローシス 【急性の場合】

浮遊感、錯乱、末梢および口周辺の異常感覚、痙攣、失神など

【緩徐に発症する場合】

通常は無症状

代謝性 アシドーシス 【軽度】

通常は無症状

【重度】

悪心、嘔吐、倦怠感など

アルカローシス 【軽度】

通常は無症状

【重度】

頭痛、痙攣、筋肉のひきつり、嗜眠など

 

アシドーシスならびにアルカローシス自体によって引き起こされる症状は少なく、また程度は軽いものばかりです。ゆえに、一見して鑑別するのが難しいのが実情です。

 

4、アシドーシス・アルカローシスの治療

治療はそれぞれの基礎にある原因に対して行う必要があります。呼吸性の場合は、呼吸数(換気量)が関係しているため、酸素量の減少に起因するアシドーシスでは、十分な換気を提供することが第一となります。酸素量の増加に起因するアルカローシスでは、吸気中の二酸化炭素を再呼吸によって増加させる方法が一般的です。ただし、生命を脅かすことはないため、多くはpHを低下させるための介入は不要となります。

代謝性の場合は、主に原因となる疾患の治療を優先させることが先決であり、一般的にpHを変動させるための処置は行いませんが、場合によっては、起因する重炭酸イオンや水素イオンの補液などによって調整したり、血液濾過や血液透析が行われることもあります。

 

分類 一般的な治療法
呼吸性 アシドーシス 呼吸性アシドーシスは酸素量の減少、二酸化炭素量の増加によって起こるため、酸素の投与が第一となる。換気障害が高度の場合には、気道確保や換気の救急処置が必要。
アルカローシス ペーパーパックなどによる再呼吸、精神不安が起因している場合にはセルシンやフェノバールを筋注。
代謝性 アシドーシス 原疾患の治療を第一とする。補助として、補液の静注、重度の場合には輸液による重炭酸塩の投与。
アルカローシス 原疾患の治療を第一となる。補助として、水分と電解質(ナトリウムとカリウム)の投与、重度の場合には薄めた酸を静注。

 

代謝性の場合には、原因となる疾患の迅速な対処が不可欠となりますが、カリウム濃度の高低など、さまざまな要素が絡み合ってくるため、一概に原疾患の治療法に準じるのではなく、より安全な治療法を選択する必要があります。

 

まとめ

アシドーシス・アルカローシスの概要や原因、機序、症状、治療法など、包括的に解説してきましたが、当ページでの解説は基礎中の基礎であり、全体のほんの一部にすぎません。

しかしながら、基礎をしっかりと理解しておくだけで、看護の幅が大きく広がりますので、熟知できるまで2度3度と読み返しておきましょう。そして、今後の看護にお役立ていただければ幸いです。


看護師の「もしも」の時に頼れる!個人加入できる賠償責任保険3選

$
0
0

看護師賠償責任保険

看護師の“万が一”を守ってくれる看護職賠償責任保険。看護師も1人の人間であり、いつでも完璧な看護を提供できるわけではありません。疲れている時には、ヒヤリハットやインシデントを起こし、時にはそれが医療事故へと発展してしまうこともあるでしょう。

近年では、看護師が直接的に訴えるケースが増えており、看護職賠償責任保険の重要性はますます高まっています。自身の身を守るためにも、保険加入を強くお勧めいたします。

 

1、賠償責任保険とは

賠償責任保険とは、看護師がインシデントや医療事故を起こし、患者・家族からそのことについて訴えられた際に、損害賠償責任を負担してくれる保険のことです。ほぼすべての病院では、医療法人保険などに加入していますが、これだけでは看護師個人の賠償事故がカバーされないケースがあり、なにかしらの事故を起こした場合には、患者・家族から(または病院から)多額の賠償金を請求されることがあります。

通常、看護師は医師の監督下に置かれる立場であるため、病院内での医療事故に対しては、患者・家族は病院または医師に損害賠償を求めるケースが圧倒的に多いものの、看護師が医療事故を起こした場合には、看護師1人に対して損害賠償を求めるケースも増えてきています。

現状では、個人で賠償責任保険に加入する看護師はまだ少ないものの、いわゆる「なにかあった時の保険」として、昨今では個人加入する動きが加速しています。インシデントも医療事故も絶対に起こさないという自身をお持ちであれば、加入する必要は全くありません。

しかしながら、医療においては何が起こるか分からず、そもそも人材不足から看護師は多忙を極めているため、ほとんどの方はヒヤリハットを経験しているものです。

また、近年では看護師が行える医療行為が増えたこともあり、看護師は医師の監督下としてではなく、医師から独立した人材へと立場を改める動きがみられており、一昔前よりも看護師の責任は重くなっています。ゆえに、自己防衛のためにも「なにかあった時の保険」として、個人で加入する人が増えているのです。

 

2、なぜ賠償責任保険が必要なのか

上述のように、看護師も1人の人間であり、ヒヤリハットを起こしてしまうものです。ヒヤリハットで済めばまだ良いものの、これがインシデント、医療事故へと繋がっていき、万が一、賠償責任を問われた場合には、病院がすべてをサポートしてくれるとは限りません。

個人で損害責任保険に加入すると、以下のようなメリットがありますので、自分の身を守るためにも、また病院がサポートできないケースに備えるためにも、加入する意義は多いにあります。特に、個人の過失が明白となる場合(訪問看護師など)には、損害責任保険への加入は必須と言えます。

 

賠償金を補償してくれる

加入する保険会社によって保証額は異なりますが、日本看護協会の場合では、「対人賠償」において1事故あたり5000万円を補償してくれます。また、患者・家族の所有物を破損してしまった場合に補償される「対物賠償」や、名誉毀損・秘密漏洩などの賠償費用が補償される「人格権侵害」など、さまざまな賠償責任に対して負担してくれます。

 

補償内容 補償限度額
対人賠償 5000万円

(保険期間中は1億5000万まで)

対物賠償 50万円
初期対応費用 250万円
うち見舞品購入費用 10万円
人格権侵害 50万円

(保険期間中は100万円まで)

日本看護協会の場合

 

事故発生時に相談に乗ってくれる

次に、何かしらの医療事故を起こした際に、保険会社が相談に乗ってくれ、精神的な負担が減るというメリットもあります。実際に事故が起きた場合、自分は何をすればいいのか、反対に何をしてはいけないのか、分からなくて戸惑ってしまうものです。

一般的には、保険会社は事故発生時の対応だけでなく、事故発生前における業務に関する安全上の不安についてもサポートしていますので、事故発生時に慌てることなく対処することができます。

 

賠償責任についてサポートしてくれる

患者・家族から訴えられた場合、その損害賠償責任が正当なのか不当なのかをしっかりと調査してくれます。もちろん、病院などの医療施設自体も調査を行いますが、保険会社はより綿密に調査し、判断してくれますので、不当に訴えられた場合には、非常に心強い味方になるでしょう。

 

年あたりの掛け金が安い

加入する保険会社によって掛け金は異なりますが、おおむね5000円台と費用負担が少ないのが特徴です。日本看護協会に加入していれば、同会の保険の掛け金は2650円。2000円~5000円台の掛け金で、5000万円程度の対人賠償が補償されるのは、非常に大きなメリットと言えるでしょう。

 

3、補償金が支払われる・支払われないケース

各保険会社の保険は、すべてのケースに対して支払われるわけではなく、該当するケースにのみ支払われます。

 

対象となる業務
1.保険師助産師看護師法の規定に基づき、保健師・助産師・看護師・准看護師が行う業務

(※災害保険などにおける看護業務を含む)

(※有資格者が業務上のスキルアップを目的として参加する研修・臨床実習等を含む)

2.助産師・看護師が行う保険教育業務・健康教育業務

3.准看護師が医師又は看護師の指示を受けて行う保健教育業務・健康教育業務

4.1、2、3に対する管理監督業務

5.対象となるすべての業務に対して、報酬の有無は問わない

 

保険金が支払われない主なケース
1.保健師助産師看護師法の規定に違反して行った看護業務に起因する賠償責任

2.故意に起こした事故による賠償責任

3.業務の結果を保証することにより加重された賠償責任

4.被保険者と他人との間に損害賠償に関する特別の約定がある場合において、その約定によって加重された賠償責任

5.海外での看護行為

6.美容を唯一の目的とする医療行為等に関連する業務に起因する賠償責任

7.被保険者と同居する親族に対する賠償責任

8.被保険者の使用人が、被保険者の業務に従事中に被った身体の障害に起因する賠償責任

9.戦争(宣戦の有無を問いません)、変乱、暴動、そうじょう、労働争議に起因する賠償責任

10.地震、噴火、洪水、津波等の天災に起因する賠償責任

11.被保険者が業務を行う施設もしくは設備(業務遂行中に直接使用しているものを除きます)または自動車、航空機、昇降機、車両(原動力がもっぱら人力であるものを除きます)、船舶もしくは動物の所有、使用もしくは管理に起因する賠償責任

12.対物賠償の場合で他人の財物を紛失した場合 など

日本看護協会の場合

 

4、保険適応となる事例

保険適応となるのは、“過失”によるものです。故意に医療事故を起こした場合には、賠償金は一切支払われず、行政処分の対象となります。

 

対人賠償 ・  医師の指示とは誤った薬剤を投与してしまい、患者に身体疾患が発生。患者から賠償金を請求された。

・  移動介助の際に、患者を転倒させケガを負わせてしまい、患者から賠償金を請求された。

対物賠償 ・  看護業務中に、うっかり患者のメガネを踏みつけてしまい破損。患者から直接、メガネの賠償金を請求された。
人格権侵害 ・  患者へ説明中の発言で不適切な用語を使用してしまい、名誉を傷つけられたとして、患者から賠償金を請求された。

 

このように、一般的には「対人賠償」「対物賠償」「人格権侵害」における賠償金を補償してくれます。対物賠償においては、“紛失”時には賠償されませんが、該当しない場合であっても、見舞金としていくらかの補償金が患者・家族に対して支払われますので、故意でなければ、ほぼすべてにおいて補償の対象となります。

また、損害賠償に関する争訟においても、訴訟費用や弁護士報酬、仲裁、和解もしくは調停に要した費用も負担してくれます。それゆえ、損害賠償を請求されるほとんどの事例において、加入者の負担となる費用は発生しません。

 

5、事故発生から保険適用までの流れ

申し込みをする代理店、利用する保険会社によって少し異なりますが、おおむね、以下のような流れで進んでいきます。

 

①医療事故の疑いがある 専門的な知識と経験を持つ看護職が相談に対応
②医療過誤と確定 事故発生直後から解決に至るまでの全プロセスにおいて、相談に対応、支援
③被害者が賠償請求を起こした さらに、個別の相談事案においては本保険制度の顧問弁護士とも連携し支援
④事故審査委員会開催 委員は、弁護士、看護の有識者、日本看護協会の代表、保険会社などで構成
⑤賠償請求の内容や金額が妥当かをチェック 被害者の損害の程度や賠償金額を審査
⑥賠償金のお支払い 日本国内で、保健師、助産師、看護師、准看護師が行う業務によって、他人の身体や財物に損害を与えたり、 人格権を侵害したため、法律上負担しなければならない損害賠償責任を補償

日本看護協会の場合

 

看護師が加入できる保険会社(後述)はどれも、看護賠償責任保険だけでなく、自動車保険や傷害保険など、さまざまな商品を取り扱っており、医療に特化しているわけではありません。それゆえ、「事故審査委員会」が開催され、看護師にどのような責任があるかなどの審査が行われます。

 

6、看護師が加入できる保険会社

看護師が加入できる保険会社は、主に「東京海上日動」、「損保ジャパン」、「三井住友海上」の3つです。「日本看護協会」の会員の方は、同会の保険に加入することができます。なお、日本看護協会では損保ジャパンの保険を取り扱っています。

それぞれで掛け金や補償金、補償内容などが異なりますので、それぞれをみて、どこの保険会社に加入すべきかを検討してみてください。

 

  対人補償 対物補償 人格権侵害 初期対応費用 掛け金(年間)
日本看護協会 5000万円

(保険期間中は1億5000万円)

50万円 50万円 250万円

(うち見舞金は10万円)

2650円
東京海上日動 1億円

(保険期間中は3億)

1億円 1億円

(保険期間中は3億円)

500万円

(うち見舞金は10万円)

5640円
損保ジャパン 5000万円

(保険期間中は1億5000万円)

20万円 100万円

(保険期間中は500万円)

300万円

(うち見舞金は3万円)

5210円
三井住友海上

※掛け金、保証金、補償内容は変更される可能性があり、また代理店によって異なる場合があります。

 

三井住友海上に直接確認したところ、掛け金、保証金、補償内容についての詳細は聞けず、代理店によるということでした。また、個人での加入はできず、団体(病院など)での加入が基本とのことでした。

 

6-1、日本看護協会

日本看護協会は、損保ジャパンの代理店として保険の取り扱いを行っており、加入できる保険の中で掛け金が最も安いのが特徴です。

ただし、これは日本看護協会の会員限定のサービスですので、会員でない看護師の方は加入することができません。

代理店であるため、事故発生時には日本看護協会を介さず、保険会社に直接報告する必要がありますが、日本看護協会から加入すると、同会の看護の有識者から事故発生時の対処や精神的フォローなど、さまざまなサポートが受けられますので、会員の方は同会からの加入が第一選択となるでしょう。

なお、日本看護協会の報告によると、会員の25%が同会から加入しているようです。また、保険加入のために同会に入会する看護師も少なくないようです。

 

6-2、東京海上日動火災保険株式会社

東京海上日動は、補償金が最も高いのが特徴です。対人賠償では上限が1億円と他の保険と比べて2倍、対物補償ではなんと他を圧倒する1億円もの補償をカバーしています。

看護師という職業上、インシデントや医療事故が懸念されますが、保険の利用で特に多いのが患者・家族の私物を破損させてしまうケースです。

日本看護協会では上限50万円、損保ジャパンでは上限20万円しか支払われないため、1億円というのはかなり大きなメリットと言えるのはないでしょうか。

掛け金は5640円と最も高いものの、その分高額な補償金が設定されていますので、万が一の事態において、補償金がオーバーしてしまうのではないかと心配な方は、東京海上日動の保険を利用するとよいでしょう。

 

6-3、損害保険ジャパン日本興亜株式会社

損保ジャパンの補償で特筆するものはありませんが、日本看護協会をはじめ、各県の医療機関が取り扱っているため、実績が多く安心感があります。また、取り扱い代理店が多く、加入しやすいというメリットもあります。

医療機関などを通して加入する場合には、対物賠償が20万円しかなく、少し心細い印象はありますが、日本看護協会の会員でない人で、安心して保険会社を利用したいという場合には、損保ジャパンが第一選択となるのではないでしょうか。

 

まとめ

保険会社によって、また代理店によって、補償内容やサービスが異なるため、日本看護協会に入会している方は「日本看護協会」、高額な補償金を希望される方は「東京海上日動」、安心できる保険会社を利用したいという方は「損保ジャパン」というように、自身の状況や希望に応じて選択するとよいでしょう。

インシデントや医療事故を起こさないのが一番ですが、看護師は人材不足が顕著であるため、時には“ミス”を起こしてしまうのです。実際、看護師のほとんどがヒヤリハットを経験しています。

昨今では、看護師が患者・家族から直接的に訴えられるケースが増えてきていますので、自身の身を守るためにも、この機会に賠償責任保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。

看護主任・看護師長・看護部長の役割(業務内容)と給料(年収)

$
0
0

看護師長・看護部長

看護師の管理職(役職)には、「看護主任」、「看護師長(副看護師長)」、「看護部長(副看護部長)」の3つが主であり、大きな医療施設では必ずこれらの管理者が存在します。

管理職になると、業務の対象が患者から看護師を含む医療従事者になり、また「看護主任」→「看護師長(副看護師長)」、「看護師長(副看護師長)」→「看護部長(副看護部長)」と昇格するにつれて、行う業務の重要性や役割が増えていきます。

経営という観点からも非常に重要な人材であるために、給与が大きく増加することも少なくありません。管理職への昇進を1つの目標としている方は、それぞれの役割をしっかりと把握しておきましょう。

 

1、管理職の必要性

まず、なぜ管理職が存在するのか、管理職が必要なのかについて理解しておきましょう。医療施設だけでなく、企業においても「係長」、「課長」、「部長」というように管理職が存在し、おおむね企業における「係長」が「看護主任」、「課長」が「看護師長」、「部長」が「看護部長」と置き換えることができます。

大型施設となれば就業看護師数は1000人以上になり、病院長1人で看護師1000人を統率するのは非常に困難で、可能であったとしても環境・人材・業務などにおける質低下を招いてしまいます。

そこで、医療施設は組織全体が円滑に稼働できるよう、各分野における部門(看護部など)や病棟を設置し、また看護主任・看護師長→スタッフナース、看護部長→看護師長というように、数十人単位の人材を統括する管理者を配置しているのです。

それぞれの管理職は、職場環境の改善、人材の育成、相談・指導、業務の企画・運営・管理などのほか、上下間でスムーズに連絡がとれるパイプ役としての役割も担っており、就業人数が多い医療施設ほど、各管理職の重要性が高まっていきます。

 

2、管理職①【看護主任】

看護主任は、スタッフナースの上位にあたる管理職で、病棟内の業務が円滑に稼働するように、看護師長を補佐することが主な業務内容となります。看護業務全般の管理やスタッフナースへの指導などのほか、看護師長との連携もあるため、業務量は非常に多いと言えます。

看護主任への道は、看護師としての経験がおおむね10年以上。規模の小さい医療施設やスキル次第では10年未満でも任命されることもありますが、一般的には10~13年の経験が必要です。

看護主任は、病棟内のスタッフナースの管理とサポートを行う立場にあるため、業務の遂行能力や高度な知識はもちろん、リーダーシップ力も必要不可欠です。看護師としての経験が10年以上でもリーダーシップ力がなければ看護主任は務まりません。

また、高いレベルでのコミュニケーション能力やマネジメント能力も求められます。スタッフナースの指導や相談業務は、看護主任として大きな役割を担っているため、特に高いコミュニケーション能力は必須と言えるでしょう。

誰でも看護主任になれるわけではありませんので、スキルが伴っていないと感じる方は、日本看護協会が実施している認定看護管理者の教育課程の「ファーストレベル(150時間)」を受講し、管理者としてのスキルの向上を図ると良いでしょう。

 

2-1、看護主任の役割

看護主任の役割は、主に「包括的な看護業務の把握・運営」、「スタッフナースの指導・相談」、「職場環境の改善・向上」の3つ。具体的な役割は以下の通りです。

・  看護単位の運営状況を把握、スタッフへの認識の促進

・  看護案の方針・目的・目標におけるスタッフへの実施の促進と目標の達成

・  資源の有効活用、看護単位の運営

・  役割モデルとしての自立的かつ創造的な看護の実施

・  社会資源を活用した継続看護、スタッフへの指導

・  互いに啓発できる職場づくりの確立

・  スタッフへの看護の倫理の自覚促進と行動援助 など

 

■包括的な看護業務の把握・運営

病棟内で働くスタッフナースや患者全体の状況を把握するとともに、危機管理やヒヤリハットやインシデント発生率の減少に努めます。また、看護の質向上のために、病棟内の問題点を提起し、改善を図るのも看護主任の役割となります。さらに、シフトの調整やレポートの作成、看護計画の確認なども同時に行います。

 

■スタッフナースの指導・相談

病棟内の看護の質向上のために、スタッフナースへの指導を行います。ヒヤリハットやインシデントが起こった際には、単に指摘するのではなく、何が原因だったのか、再発させないために何をすればよいのかなどを、スタッフナース自身に気づかせ、自身の力で改善できるよう促すことが大切。

また、スタッフナースの悩みや看護技術向上における相談業務のほか、直接的なサポートも重要な役割となります。

 

■職場環境の改善・向上

業務を円滑に遂行できるよう、職場環境の改善・向上を図ります。スタッフナースにとって仕事がしやすく、達成感を持てるような環境づくりを推進するとともに、患者の安心・安全・安楽のための「環境整備」の統括も行います。

 

2-2、看護主任の年収

管理職に就くと年収が大きく上昇すると考えられがちですが、実はそれほど上昇はみられません。年収の上昇に起因するのは「管理当直」と「管理職手当」が一般的で、基本給が高くなることはそれほどありません。基本給は就業年数に起因するため、管理職に就いたからと言って、大きく上昇するものではありません。

なお、日本看護協会の「2012 年 病院勤務の看護職の賃金に関する調査 報告書」によると、看護主任の管理当直は平均7,738円。なお、管理職手当においては同報告書に記載されていませんが、おおむね1万円程度とそれほど多くはありません。

役職 給与・手当 支払い額(平均)
看護主任 基本給 327,143円
管理当直 7,738円

※基本給は、調査対象の看護主任の“最高額”の平均。(平均年齢50.1歳)

基本給の平均が327,143円(最高)であり、スタッフナースの平均が323,298円(最高)であるため、基本給の差はほとんどありません。また、看護主任になると夜勤の機会が大きく減り、さらに管理当直手当がない医療施設もあるため、スタッフナース時代よりも収入が少なくなることも珍しくはありません。

基本給327,143円、管理当直7,738円(2回/月)、賞与1,200,000円、各種手当を含めた場合の看護主任の年収(最高平均)は約600万円。一般的な平均年収は500万円ほどになります。

 

3、管理職②【看護師長】

看護師長は、スタッフナースを統括する役割を担い、主任看護師とともに業務の円滑化や看護の質向上に向けた取り組みを行います。

看護師長になるためには看護主任として数年の実績が不可欠であるため、おおむね15年以上の臨床経験が必要。規模の小さな医療施設では、管理職に看護主任がなく、「スタッフナース」→「看護師長」となるところもあります。

看護師長は、スタッフナースを統括するだけでなく、医療施設の運営に関しても考えていかなければなりません。それゆえ、看護主任よりも高いレベルでのリーダーシップ力、マネジメント能力、コミュニケーション能力が必要になります。

 

3-1、看護師長の役割

看護師長の役割は、看護主任と同様に「包括的な看護業務の把握・運営」、「スタッフナースへの指導・相談」、「職場環境の改善・向上」ですが、その他にも病棟内の管理者として、「病棟内看護における目標の設定・達成」、「組織としての使命・役割の推進」、「看護研究の推進・支援」といった業務も行っていきます。

・  職員の能力開発の支援と人材の育成

・  創造的に看護が実践できる職場環境・風土作り

・  看護部門の方針に基づいた目標の達成

・  看護単位を効率的に運用するための組織体制の整備

・  質の高い看護サービスの継続的な提供・評価・改善

・  地域社会との連携、社会資源を活用した継続的な看護の提供

・  看護職員の健康管理

・  病院の使命や役割の推進と危機管理

・  看護師長の特性や看護管理者の望ましいあり方の意識の確立

・  看護研究の推進と支援 など

 

病棟内看護における目標の設定・達成

病棟内の看護の質向上を図るために、何をすべきか、どのようにすべきかなど目標を設定し、達成に向けた取り組みを行います。看護師の看護目標は主に患者であるのに対し、看護師長の看護目標は主に病棟内全体の看護が対象となります。

そのほか、看護基準・手順の整備や、看護提供システムの評価・改善、個人情報の管理(看護記録など)といった事務的業務も看護師長の大きな役割となります。

 

組織としての使命・役割の推進

病棟内での業務を円滑に稼働できるよう、病棟内での問題解決はもちろん、各部門・看護部と連携をとり、チーム医療の推進を図ります。また、病院経営管理会議や委員会への参画、組織運営・方針に関する情報共有を行うとともに、人材確保活動など、組織としての役割を推進していきます。

 

看護研究の推進・支援

看護師長が中心となって看護研究を推進するとともに、スタッフナースへの支援・促進を行います。自らが中心となって推進するため、看護研究における深い知識と豊富な経験が必要です。

 

3-2、看護師長の年収

看護師長・副看護師長になると、業務の重要性・責任が大きくなるため、基本給が約5万円、管理職手当が約3万円増加します(比較:看護主任)。

役職 給与・手当 支払い額(平均)
看護師長 基本給 370,949円
管理当直 8,632円
管理職手当 45,439円
副看護師長 基本給 350,882円
管理当直 7,375円
管理職手当 26,159円

※基本給は、調査対象の看護師長・副看護師長の“最高額”の平均。(平均年齢54.0歳(正)、51.3歳(副))

しかしながら、看護主任と同様に、夜勤の回数が大きく減少するため、経験の長いスタッフナースよりも年収が低くなることもあります。

基本給370,949円、管理当直8,632円(2回/月)、管理職手当45,439円、賞与1,200,000円、各種手当を含めた場合の看護師長の年収(最高平均)は約650万円。一般的な平均年収は550万円ほどになります。

 

4、管理職③【看護部長】

看護部長は看護部の責任者として、各病棟の看護師長・スタッフナースなど全職員をまとめ、経営者の1人として医療施設の経営に参加します。

看護部長になるためには看護師長として5年~10年の実績が不可欠であるため、おおむね25年以上の臨床経験が必要。規模の小さい医療施設では、40代でも就任できることもありますが、基本的には50代以降の管理職と考えてよいでしょう。

看護部長の業務の大半はマネジメント業務であるため、高度なリーダーシップ力、マネジメント能力、コミュニケーション能力(交渉力)が必要不可欠。また、医療経済や財務・会計の知識、企画力、問題分析能力、情報収集能力など、さまざまなスキルが求められます。

 

4-1、看護部長の役割

看護部長の役割は、主にマネジメント業務になります。「各業務の計画、計画書の作成」、「施設運営への参画」、「運営側・労働側の調整」などをもとに、包括的にマネジメントを行います。

・  病院長・副院長との折衝

・  新人看護師の採用計画の作成

・  看護部の業務計画の作成

・  看護師長への計画の指示

・  看護師の教育方針・教育計画の作成

・  看護部の代表として対外的な交渉 など

 

各業務の計画、計画書の作成

看護部の代表者として、各病棟における看護の質向上のために行うべき業務の計画や、それに関する計画書の作成を行います。現場の声を反映した直接的な業務の計画は看護師長の役割ですが、看護師長らの計画をまとめ、医療施設における運営の観点などを考慮して再計画するのが看護部長の役割となります。

 

施設運営への参画

看護部の運営はもちろん、病院長や副病院長を補佐する立場として、施設運営に参画します。病院などの医療施設は1つの組織であり、患者の治療費によって運営が成り立っているため、財政面を考慮した上で、病棟編成のスムーズな移行、ベッドコントロールの一元化・システムの構築、退院調整システムの確立など、患者の安心・安全・安楽な看護の提供を推進します。

 

運営側・労働者側の調整

病院長や副病院長などの運営側と、看護師長やスタッフナースなどの労働者側には通常、思考の相違が存在するため、両者の意見を取り入れ、両者ともに不利益とならないように調整します。また、医師や薬剤師など他の医療従事者との調整も同時に行います。

 

4-2、看護部長の年収

看護部長になると管理職手当が大きく増加し、基本給においても増加がみられます。ただし、看護部長は通常、臨床業務は行わず、マネジメントが業務の主となるため、基本的に管理当直の手当は付加されません。

役職 給与・手当 支払い額(平均)
看護部長 基本給 427,573円
管理職手当 81,307円
副看護部長 基本給 405,373円
管理職手当 60,856円

※基本給は、調査対象の看護部長・副看護部長の“最高額”の平均。(平均年齢56.7歳(正)、54.1歳(副))

基本給427,573円、管理職手当81,307円、賞与1,200,000円、各種手当を含めた場合の看護部長の年収(最高平均)は約750万円。一般的な平均年収は600~650万円ほどになります。

看護師の代表者という立場上、1つ1つの業務における責任は非常に重いものの、年収は一般的な他の職種と比べて低く、また同年代の場合には、小規模な医療施設の看護部長が大規模な医療施設のスタッフナースより年収が低くなることも少なくないのが実情です。

 

まとめ

管理職に就任したとしても、年収が大きく増加するわけではなく、むしろ下位職より減少してしまうこともあります。しかしながら、行える業務の権限が多くなり、さらに自身の力で病棟ならびに施設全体における看護の質向上に寄与できるなど、仕事に対して多大なやりがいを感じることができます。

管理職に就任するためには、看護実践における豊富な知識と高度な技術はもちろんのこと、まとめ役として、リーダーシップ力、マネジメント能力、コミュニケーション能力の3つのスキルは必要不可欠であり、看護部長となると、医療経済や財務・会計の知識、企画力、問題分析能力、情報収集能力など、さまざまなスキルが問われます。

誰でも就任できるものではありませんが、スキルを磨くことで就任への道が開けますので、看護主任または看護師長を目指している方は認定看護管理者の教育課程の「ファーストレベル(150時間)」を、看護部長としてより一層のスキル獲得を望む方は「セカンドレベル(180時間)」ならびに「サードレベル(180時間)」を受講してみてはいかがでしょうか。

男性看護師の悩み|年収や将来への不安、恋愛・結婚の実態は?

$
0
0

男性看護師

看護師と言えば「女性」のイメージが強く、実際に2012年度における看護師就業者総数のうち女性は93.1%、男性は5.9%しかいません。そのため、男性看護師は肩身が狭いのではないのか、将来性はあるのかなど、懸念点が多々あるのではないでしょうか。

男性看護師の需要は年々増えてきており、それに伴って、男性看護師の認知度も上昇していますが、その反面、男性看護師の直面する困難や問題、社会的イメージは未だ払拭されていないのも事実です。

ここでは、男性看護師の必要性や将来性に加え、年収や恋愛・結婚事情など、包括的に解説しますので、看護師を目指している男性の方、すでに看護師として就業している男性の方は、ぜひ最後までお読みいただき、男性看護師の現状をしっかりと把握しておいてください。

 

1、女性患者からみた男性看護師の必要性

男性看護師は女性看護師と比べて、行えるケアが限られているという問題に直面します。男性患者であれば問題はありませんが、女性患者の場合、特に日常生活援助におけるケアが限定的であり、女性看護師にケアしてもらいたいという患者が多いのが実情です。

2006年に大山祐介らによって行われた調査によれば、日常生活援助における男性看護師から看護を受ける女性患者の反応は以下のようになります。

男性看護師から看護を受ける場合の女性患者の反応 一日常生活援助項目について

  女性看護師に代わる 男性看護師でもやむを得ない 男性看護師の方がよい どちらでもよい 無回答
排泄 121(67.2) 8(4.4) 0 9(5.0) 42(23.3)
入浴 122(67.8) 8(4.4) 0 10(5.5) 40(22.2)
更衣 116(64.4) 10(5.6) 0 13(7.2) 41(22.8)
清拭 114(63.3) 11(6.1) 0 13(7.2) 42(23.3)
食事 32(17.8) 16(8.9) 2(1.1) 91(50.6) 39(21.7)
移動 14(7.8) 14(7.8) 20(11.1) 97(53.9) 35(19.4)
洗髪 47(26.1) 18(10.0) 0 73(40.6) 42(23.3)

 

日常生活援助項目では排池、入浴、更衣、 清拭、食事、移動、洗髪について患者の反応をみた。排泄では 「女性看護師に代わる」が121人(67.2%)、「男性看護師でもやむを得ない」は8人(4.4%)、「男性看護師の方がよい」は0、「どちらでもよい」は9人(5.0%)であった。入浴、更衣、清拭では「女性患者に代わる」がそれぞれ122人(67.8%)、116人 (64.4 %)、114人(63.3%)と最も多かった。また、食事、移動、洗髪では「どちらでもよい」がそれぞれ91人(50.6%)、97人(53.9%)、73人(40.6%)と最も多かった。排泄、入浴、更衣、清拭は蓋恥心にかかわるケアであり、「女性看護師に代わる」が多かった。また各項目間における有意差はなかった。

 

男性看護師から看護を受ける場合の女性患者の反応 一処置の項目について

  女性看護師に代わる 男性看護師でもやむを得ない 男性看護師の方がよい どちらでもよい 無回答
外陰部の剃毛 124(68.9) 5(2.8) 0 10(5.6) 41(22.8)
導尿 122(67.8) 5(2.8) 0 11(6.1) 42(23.3)
採血 18(10.0) 10(5.6) 0 (61.7) 41(22.8)
急変時の対応 15(8.3) 10(5.6) 1(0.6) 113(62.8) 41(22.8)

 

処置の項目では外陰部の剃毛、導尿、採血、急変時の対応について患者の反応をみた。外陰部の剃毛、導尿ではそれぞれ「女性看護師に代わる」が124人(68.8%)、122人(67.8%)であった。採血、急変時の対応ではそれぞれ「どちらでもよい」が111人(61.7%)、113人(62.8%)であった。日常生活援助項目と同様に羞恥心にかかわる外陰部の剃毛、導尿では「女性看護師に代わる」が多かった。各項目間における有意差はなかった。また同様に男性看護師が勤務している病棟としていない病棟で女性患者の反応との関連をそれぞれの項目別にみたが有意差はなかった。

引用:男性看護師に対する女性患者の認知度とニーズに関する研究 2006年

 

このように、やはり羞恥心が絡む援助に関しては、女性看護師に対するニーズが圧倒的に高く、男性看護師は敬遠される傾向にあります。その反面、羞恥心が絡まない援助行為においては男性看護師にも十分なニーズがあり、特に移動介助といった力仕事に関する援助行為のニーズは非常に高いと言えます。

 

2、女性看護師からみた男性看護師の必要性

次に、病棟内においての男性看護師の必要性についてみていきましょう。女性看護師が同じ職場で働く専門職として、男性看護に期待する職務や役割は多大であり、これに関する研究は多方面で広く行われ証明されています。

その中から、福島県立医科大学看護学部(貝沼 純ら)が行った調査結果を取り上げ、女性看護師からみた男性看護師の必要性の具体例を明示します。

 

女性看護師が男性看護師と一緒に働いて良かったこと

女性看護師が男性看護師と一緒に働いて良かったこと

 

患者のケアに関することの内訳

患者のケアに関することの内訳

女性看護師が男性看護師と一緒に働いて良かったことでは、患者のケアに関すること42.4%であり、その内訳は患者の不穏時の対応や患者の移動時など、力仕事が80.7%だった。

引用:女性看護師が男性看護師に期待する職務・役割に関する調査研究 2008年3月

 

また、同研究では、女性看護師が男性看護師に抱くイメージとして、「力強い」「頼りになる」「やさしい」など、肯定的な意見が多数寄せられています。その反面、女性が多い職場上、男性看護師との接し方など、懸念点は多々ありますが、業務においては頼れる存在として認知されています。

 

3、男性看護師に将来性はあるのか

上述のように、女性看護師よりも男性看護師の方が適する看護業務が多々あり、一昔前と比べて男性看護師の割合は高くなっていることから、職場内においても、また患者観点からみても男性看護師の認知度は高まりつつあります。年収においても一昔前と比べて増加しています。

未だ認知度が低く、看護業務が限定的であるために、経験年数が短い頃は、雑用を任されたりと下っ端のようなポジションに定着する人も少なくありませんが、経験年数を重ねると中堅の仕事が任され、さらに30代後半~40代には師長の任に就く人も少なくありません。

就業したての頃はさまざまな葛藤に苛まれるかもしれませんが、キャリアアップの道が閉ざされているわけではなく、経験や実績によっては十分にキャリアアップを図ることができます。

 

3-1、男性看護師の給与の実態

2015年時点における男性看護師(准看護師含む)の平均年収は、人事院の統計書調べによると462万円。女性看護師の平均給与は470万円であることから、現状においては女性看護師よりも低年収に止まっています。

しかし、男性看護師の受け入れを強化する医療施設が増えており、それに伴い年収も増加傾向にあります。また、看護師不足の風潮も相まって、経験やスキル次第では年収が大きく増加し、同程度の経験・スキルを持つ女性看護師より優遇されることも珍しくはありません。

男性看護師を積極的に受け入れていない医療施設や、看護行為が限定的な領域では平均年収を下回ることもあるため、現状では就業する医療施設や従事する領域の影響を受けやすい状況にありますが、一般的なサラリーマンと比較すると高収入であるため、財政的困難を経験することはほとんどありません。

 

3-2、キャリアアップを図るためには

女性患者への看護業務は限定的であるため、すべての領域において円滑にキャリアアップを図れるわけではありません。

男性看護師に適した配属

男性看護師に適した配属

参照:女性看護師が男性看護師に期待する職務・役割に関する調査研究 2008年3月

上表は、女性看護師が考える男性看護師の適する配置のアンケート結果ですが、この結果は実際に男性看護師を必要とする配置と相違はなく、「精神科」「整形外科」「手術室」「脳外科」「外科」「ICU」「救急科」といった、多忙を極めやすい領域や力仕事を必要としやすい領域において、男性看護師に期待が集まっています。

つまり、これらの領域においてはキャリアアップを図りやすく、また女性看護師と違い男性看護師は、就業後に勤務を中断しないで退職まで継続していくことが多いため、男性看護師を求める医療施設が増加傾向にあり、現在ではキャリアアップを図りやすい体制が整いつつあります。

また、男性看護師は“まとめ役”として適任であると認知されることが多いため、主任や看護師長、看護部長などへ昇格しやすい傾向にあります。もちろん、すべての男性看護師に該当するわけではなく、経験やスキル、人間性など、さまざまな要素が関連するため、昇給・昇格できない人がいるのも事実です。

 

4、男性看護師が抱える悩み・懸念点

女性が大半を占めているため、配属先によっては男性看護師が1人だけということも珍しくはありません。そのため、同僚や上司(女性看護師)とどのように接したらよいのか、いわゆるコミュニケーションにおける悩みを抱えている人が多いのが実情です。

また、女性患者に対する看護業務が限定的であることから、看護業務に対するジレンマも悩みの一つと言えます。さらに、現状では医師と看護師との格差は大きく、男性看護師を低く評価する医師(主に男性)が多いことから、医師との人間関係に悩む人も多いのが実情です。

 

女性看護師とのコミュニケーション

まず、看護職に関わる職場は女性社会と言っても過言ではありません。それゆえ、女性看護師とどのように接するべきか分からなかったり、慣れてきたとしても男女間での価値観が異なることで、業務の遂行上、府に落ちない点が多々出てくるものです。

中には時間が経っても馴染めずに、大きなストレスを抱える人も多くいらっしゃいます。男性看護師の離職理由で最も多いのが、この女性看護師とのコミュニケーションであり、女性社会の中で働く以上、避けては通れない悩みと言えるでしょう。

この打開策としては“慣れ”も大切ですが、女性を理解することが重要です。考え方や価値観などの思考回路は、男女間で大きく異なりますので、男性思考を抑制し、女性思考を理解することから始めてください。そうすれば、次第に女性看護師の考え方や価値観だけでなく、行動の意味などさまざまなことに納得できるようになり、自然と女性社会の中でも馴染めるようになります。

 

業務内容におけるジレンマ

次に、羞恥心が絡む看護行為をして欲しくないという声が、男性看護師に対して挙げられており、現状では男性看護師が円滑に行える看護行為は限定的です。

それゆえ、就業したての頃は特に、雑用を強いられることが多々あり、領域によっては経験を重ねていっても、重要となる看護行為に携われない場合もあります。

「患者のためにケアをしたい」と思っていても、患者側から拒否されることも珍しくはありません。このジレンマも多くの男性看護師が抱えるものであり、ストレスの原因にもなっています。

この場合の打開策としては、「割り切ること」が重要なのではないでしょうか。女性患者から物理的に嫌煙されるのは周知の事実であり、実際、女性看護師には難しい看護行為においては男性看護師に期待が集まっています。

特に移動介助や急患の運搬、不穏患者の対応(病室への移動)など、肉体的に負担の大きい業務においては女性看護師よりも男性看護師の方が向いています。嫌煙されることや出来ないことに対してジレンマを抱くではなく、男性だからこその業務を率先して実施していく、この心構えを持つことで多くは解決できるはずです。

 

男性医師との人間関係

皆が皆とは言いませんが、医師の多くはプライドが高く、中には男性看護師を低く評価し、下に見る医師が多いのが実情です。年齢的に年上であればまだ納得ができるかもしれませんが、自分よりも若い医師に見下されたような態度をとられると、次第にストレスが溜まっていくものです。

しかし、医師と看護師との格差は今でも存在しており、女性看護師に対してきつく当たる医師も少なくはないため、これに関しては信頼関係を構築するほかありません。

 

5、男性看護師の恋愛事情

看護師として働く男性で、恋愛や結婚について不安を感じる人もいらっしゃると思います。公式に発表されたデータはありませんが、一般的に同じ職場で働く女性看護師は男性看護師のことを男としてみていない傾向にあるため、職場内でモテるということはほとんどないようです。

また、女性社会の中に居続けることによって、女性の人間模様や本来の性格がみえてしまい、場合によっては幻滅してしまうことで、同じ職場内で女性看護師と恋愛に発展するケースは少ないようです。

しかし、調べてみると、男性看護師の多くが他の医療施設の女性看護師や他職種の女性と恋愛・結婚しているため、それほど不安に感じる必要はありません。

また、男性看護師の年収は一般的なサラリーマンよりも高く、ほとんどの医療施設は福利厚生がしっかりしているため、結婚・出産後に財政面で困難に陥るということはないような気がします。

 

まとめ

男性看護師として働く上で、さまざまな困難や葛藤に直面し、必要以上に悩んでしまうこともあるでしょうが、男性に適した業務もたくさんあり、男性看護師への期待は年々高まっています。

また、看護師不足が懸念される現在においては、男性看護師の将来は安泰であり、失業や財政的に困ることはまずありえません。

しかし、男性看護師の社会的認知度が低いために、キャリアアップを図るためには人一倍の努力が必要になります。より高みを目指すなら、またより安定した将来を望むのなら、認定看護師や専門看護師といった資格取得は必須と言えるでしょう。

参照・引用文献

大山祐介,戸北正和,小川信子,宮原春美:男性看護師に対する女性患者の認知度とニーズに関する研究.保健学研究,2006 ; 19 ( 1 ): 13 – 19.

貝沼純,斎藤美代,佐藤尚子,宍戸朋子,林正幸:女性看護師が男性看護師に期待する職務・役割に関する調査研究.福島県立医科大学看護学部紀要,2008-03 ; 10:23-30

ブランク看護師の復職|復職支援研修や自己勉強でスムーズな復帰を

$
0
0

看護師のブランク

平成24年時点において、潜在看護師数は約70万人で、看護師免許取得者(准看護師含む)の30%以上にものぼっています。そんな中、平成18年に新設された「7対1配置(7対1入院基本料)」に伴い、各医療機関における看護師不足がより顕著なものとなりました。

そこで現在では、多くの医療機関・医療施設がブランクのある看護師向けに復職支援研修や職業紹介の実施、受け入れの強化などを積極的に行っており、徐々にではありますが、年々復職率は高まってきています。

復職するにあたって、看護技術などに不安を感じ、復職へ向けて一歩を踏み出せないという方が多いのが実情ですが、研修の参加や自己学習などで、以前の技術の大半は取り戻すことができるため、復職をご希望の方は不安を取り除くためにも、しっかりと準備しておくことが大切です。

 

1、潜在看護師の実情

出産を機に離職する方、他分野への興味により離職する方、責任の重さ・医療事故への不安により離職する方など、離職理由は人それぞれで、多くの方が離職を機に看護の道から離れています。

平成26年3月に、小林美亜(現:千葉大学医学部附属病院 地域医療連携部)が提出した報告書によると、平成24年末時点における潜在看護職員数は699,566人、潜在看護職員率はなんと32.5%にものぼっています。

潜在看護職員数推計結果

1)平成22年末推計

平成22年末時点において、看護師・准看護師の免許取得者数は2,110,240人、就業者看護職員数は1,395,571人であり、潜在看護師職員数は714,669人と推計され、潜在看護師職員率は33.9%であった。

2)平成24年末推計

平成24年末の潜在看護職員数は699,566人であり、潜在看護職員率は32.5%であった。潜在看護職員率を性別にみると、男性が19.3%、女性が33.2%であった。年齢階層別では25歳未満が34.2%、25~29歳が31.6%、30~34歳が34.7%、35~39歳が29.4%であり、40~54歳は約30%であった。

引用:第七次看護職員需給見通し期間における看護職員需給数の推計手法と把握に関する研究

潜在看護師とは、看護師免許の保有者のうち看護職に就いていない人のことを言います。女性の割合が大きいことや多忙な業務、不規則な業務形態などにより、離職率が高く、他の職種と比べて潜在者数は非常に多いと言えます。

しかしながら、看護職はすべての職種のうち最も安定性があり、求人倍率が非常に高いために、近年では求職者が増えてきています。特に40代以降の求職者が増加傾向にあります。

年代別の求職者数の推移(ナースセンター登録者)

年代別看護師の求職者数推移

参照:潜在看護職員の就業に関する報告 日本看護協会 2014年1月時点

看護師の人材不足に伴い、多くの医療機関・医療施設がブランクのある看護師向けに復職支援研修や職業紹介の実施、受け入れの強化などを積極的に行っているため、潜在看護師のうち求職者は約3割にのぼっています。

 

2、看護職復職支援研修

1年や2年という短期ならまだしも、ブランク期間が5年以上にもなると、それまで習得した看護技術の大半は忘れており、このような状態では患者に対して質の高い看護を提供できるわけはありません。また、看護師自身においては、復職に際して不安に感じてしまうものです。

そこで現在では、ブランクのある看護師がスムーズに復職できるよう、日本看護協会が運営する「eナースセンター」が看護職復職支援研修を積極的に実施しています。

各都道府県の看護協会(ナースセンターまたはナースバンク)にて、研修を無料で受講することができるため、復職に際して不安のある方は、必ず研修を受けておきましょう。(都道府県ナースセンター一覧

各都道府県によって多少の違いはありますが、基本的には、①看護師資格(准看護師含む)を有している、②研修受講申込時において離職中である、③就職先が決まっていない、④ナースセンターに登録している、の4つの要件を満たしていれば誰でも研修を受けることができます。

研修の内容も各都道府県によって多少の違いはありますが、基本的には、①最新の医療に関する講義、②採血・注射・吸引など看護技術全般、③病棟体験、というように、復職に際して不安に感じやすいことを中心とした内容となっています。

研修の参加にあたっては、各都道府県のナースセンターに問い合わせ、登録を済ませておきましょう。研修はナースセンターと提携している医療機関や医療施設で行われますが、日程や募集人数などはさまざまですので、受講を希望される方は、少しでも早く就業希望の都道府県にあるナースセンターに問い合わせを行いましょう。

 

3、復職へ向けた自己学習について

ブランクが長い方で、看護に関する多くの知識・技術を忘れてしまったという場合には、研修を受ける前に教本などを参考に勉強しなおすことをお勧めします。およそブランク期間が3年以上となると、看護の大半を忘れているため、一から勉強しなおす必要があります。

最新の医療については研修で学ぶことができますが、手技となると研修ですべてを補うことはできません。それゆえ、入職時に慌てないためにも、しっかりと準備しておく必要があるのです。

ご自身で勉強をする場合には、まず臨床で最も重要となる「看護技術」に特化した教本を用いましょう。看護技術は日進月歩しているため、最新の看護技術が詳しく書かれている、以下のような教本を参考にすると良いでしょう。

看護技術がみえる vol.1 基礎看護技術

看護技術がみえる vol.1 基礎看護技術 出版社:メディックメディア

【収録内容】

環境整備(ベッドメーキング)、②活動援助(体位変換・移動介助)、③食事援助(食事介助・口腔ケア)、④清潔ケア(入浴/清拭・足浴/手浴・陰部洗浄・洗髪・寝衣交換・整容)、⑤排泄ケア(おむつ交換・床上排泄・ポータブルトイレ)、⑥与薬(経口与薬・直腸内与薬・吸入療法・経皮与薬・点眼/点鼻/点耳)、⑦罨法(温罨法・冷罨法)、⑧創傷管理(創および創周辺の洗浄・外用薬/ドレッシング材・褥瘡予防・包帯法)

 

看護技術がみえる vol.2 臨床看護技術

看護技術がみえる vol.2 臨床看護技術 出版社:メディックメディア

【収録内容】

感染予防(手指衛生・個人防護具・洗浄/消毒/滅菌・無菌操作)、②採血(静脈血採血・血液培養検査・動脈血採血)、③注射(皮内注射・皮下注射・筋肉注射・静脈注射)、④輸液(末梢静脈路確保・点滴静脈注射・ヘパリンロック/生食ロック・輸液ポンプ/シリンジポンプ・中心静脈路確保の介助)、⑤輸血(輸血の実施)、⑥血糖管理(インスリン注射・簡易血糖測定)、⑦吸引(口腔吸引・気管吸引)、⑧酸素療法(中央配管からの酸素吸入・酸素ボンベからの酸素吸入)、⑨栄養管理(経鼻経管栄養・胃瘻からの栄養剤注入)、⑩排泄ケア(導尿・浣腸・摘便)、⑪救急蘇生法(一次救命処置(BLS))

精神科や透析科、オペ室など、病棟とは異なる領域への復職をお考えの方は、各領域に特化した教本を参考にしてください。

 

まとめ

昨今では、復職を希望する看護師が増えてきており、また多くの医療施設で復職者の受け入れを強化しています。ブランクが長くなればなるほど、習得した技術や知識は失われ、不安感も大きくなっていきますが、自己学習の後に復職支援研修を受講すれば、多くの知識・技術を取り戻すことができ、スムーズに復帰することができます。

パートやアルバイトなどの非常勤で働くという道もありますので、復職に際してどうしても不安があるという方は、勤務形態に関しても一度検討してみてはいかがでしょうか。

保育園看護師の役割・仕事内容と給料・求人など雇用の現状

$
0
0

保育園看護師

経済不況などによる雇用形態の多様性に伴い、慢性疾患や障害、アレルギー疾患を持つ子供が増えてきており、保育園内の看護師のニーズはますます高まっています。

また、子供たちのケガの発症率は非常に高く、以前にも増して保育士と保護者との関係がシビアになってきたことから、園児への応急手当や健康管理における看護師の役割も増大しています。

医療施設での勤務と保育園での勤務では、性質的に大きく異なりますので、保育園での就業を希望される方は、保育園看護師の役割や仕事内容などについて、しっかりと把握しておいてください。

 

1、保育園で働く看護師の実態

保育園における看護師の配置は、1969年に国から初めて通達がなされ、1977年には乳児保育指定保育所制度として、0歳児を9人以上保育する場合には、看護師または保健師を1人配置することが義務付けられました。

しかしながら、保育所設置に関わる児童福祉法においては、看護師など看護職の配置の明確な基準はなく、法的根拠はもっていませんでした。これは今でも同じであり、2009年に上別府圭子・多屋馨子らが行った調査1)によると、保育園における看護師の配置率は全国平均21.1%しかありません。

時代の流れとともに経済情勢や生活環境が大きく変化したことで、今では待機児童問題の深刻化、保育士の業務過多・保育の質低下を招き、保育に関する不安を抱える保護者が増加するようになりました。

これを受けて、2009年に「保育所保育指針」の改定が行われ、保育指針を大臣告示として定めることで、この指針が「最低基準」としての意味合いが生まれ、保育の重要性さや“重さ”に違いを持つようになりました。

保育所保育指針の改定から、保育園における看護師のニーズの高まりとともに、保育園看護師の果たす役割もますます重要なものとなっています。

 

2、保育園看護師の役割と仕事内容

保育園看護師の役割は、「園児の健康を守る」ことに尽きます。看護・医療に精通していない保育士では、園児の体調の変化や健康増進、ケガの手当・病気の看護などを行うことができません。そのため、看護師が園内の健康問題を一手に背負い、園児の健康を守る必要があるのです。

保育園看護師の仕事内容には、「園児・職員の体調管理と健康づくりの推進」、「園児のケガ・体調悪化時の対処」、「感染症の予防、蔓延時の対処」、「嘱託医・保育園職員との連携」、「健康問題に関する対策と実施」、「保育園職員への健康教育・健康相談」、「保護者への健康指導・健康相談」などがあり、これらを包括的に行うことで、園児の健康に寄与することができます。

①園児・職員の体調管理と健康づくりの推進

②園児のケガ・体調悪化時の対処

③感染症の予防、蔓延時の対処

④嘱託医・保育園職員との連携

⑤健康問題に関する対策と実施

⑥保育園職員への健康教育・健康相談

⑦保護者への健康指導・健康相談

 

①園児・職員の体調管理と健康づくりの推進

子供の免疫力は大人よりも低いため、容易に体調を崩し、場合によっては病気へと発展してしまいます。体調不良や病気を防ぐために、視診や触診、呼吸、健康データなどをもとに園児の体調管理・健康管理を行います。同時に、保育園職員の体調管理・健康管理も行います。

 

②園児のケガ・体調悪化時の対処

園児がケガをした場合や体調不良の際に、応急処置ならびに看護を行います。また、状況に応じて与薬の実施、与薬前後の状態観察も行います。程度が悪化した際の、保護者への連絡や救急車の手配、病院への付き添いも看護師の役割です。

 

③感染症の予防、蔓延時の対処

厚生労働省発行の「保育所における感染症対策ガイドライン」を参考に、感染症の予防に努めます。蔓延が懸念される場合または蔓延時には、はっきりとした感染症の症状を認める園児を別室で保育するなど、臨機応変な対処が必要不可欠です。

 

④嘱託医・保育園職員との連携

園児の健康と安全を守るために、嘱託医と密に連携を図ります。園内の看護師配置は1人~2人が一般的であるため、健康管理について分からないことがあれば嘱託医に相談すると良いでしょう。また、園内に滞りなく情報が行き渡るよう、すべてのクラスの保育園職員とも連携を図ります。

 

⑤健康問題に関する対策と実施

給食や活動時間、睡眠など保育生活上における健康問題を抽出し、改善・解決に向けて取り組みます。これは園内全体の問題であるため、園長、保育士、栄養士・調理士と連携を図り、経営方針に参画します。

 

⑥保育園職員への健康教育・健康相談

入所児童数の多い保育園では、看護師1人~2人ではすべての園児の健康管理・体調管理を行うことができません。それゆえ、保育園職員に健康教育を行い、園内の健康水準が高まるよう努めます。また、保育園職員からの相談業務も行っていきます。

 

⑦保護者への健康指導・健康相談

園内の健康管理・体調管理に止まらず、園外においても子供たちが健やかに成長していけるよう、保護者への健康指導を行います。健康だよりの発行のほか、各保護者との面談による指導、健康に関する相談業務を行います。

 

一昔前の保育園看護師の業務は、園児の健康問題に重きを置いていましたが、現代では7割以上の看護師が保育士と同様に保育業務に携わっており、保育園看護師の仕事内容に多様性が生まれています。

これは、保育園内に看護師1人という配置や保育士の人材不足などの要因によるものと考えられています。入所児童数の多い保育園では、看護師1人ですべての看護業務を行うことができず、また保育士が足りていないことで、看護業務を「園児のケガ・体調不良時の対処」のみとし、それ以外を保育業務とするところが増えてきています。

しかしながら、保育園看護師が本来行うべき仕事は「園児の健康を守る」ことであるため、保育業務と兼務する場合であっても、看護業務を主体として園児の健康を優先的に考えなければいけません。

 

3、保育園看護師の雇用状況

2009年の「保育所保育指針」の改定を受けて、保育園での看護師の役割が増大し、また保育士不足も相まって、看護師を求める動きが強くなってきています。

現状において、保育園の看護師には、クラスを担当して保育業務を兼務する「クラス担当配置」と、クラスを担当せず看護業務に専念する「フリー配置」の2つの配置2)があり、多くの保育園ではどちらかの配置を採用しています。

待機児童問題が深刻になるに連れ、保育士の労働過多も同時に深刻なものとなり、近年では保育士の離職率は数ある職業の中でも非常に高く、保育士の人材不足が顕著であるために、看護師を保育業務に従事させる体制が一般的となっているのです。

空田 朋子が行った調査3)によれば、調査対象者である保育園看護職(保健師など含む)308人のうち、「クラス担当配置」が137人、「フリー配置」が164人、その他は病後児室や保健室などに配置されています。

また、フリー配置の定義は曖昧であり、フリー配置であっても保育業務を行うことが多々あるため、全体の7割以上の保育園看護職が看護・保健業務と保育業務を兼務している状態です。

保育園における看護師の配置状況

配置人数においては、1人配置が264人(85.7%)、2人以上配置が31人(10.0%)となっており、このことから本来行うべき保健・看護業務を思うように遂行できないというのが、保育園看護職の現状となっています。

 

4、保育園看護師の平均年収

保育園において、看護師のニーズが高まっていることから、求人数も増加傾向にありますが、同一施設で長期的に働く看護師が多い、看護師の就業先として人気が高い、保健師との競争などの理由により、求人枠はそれほど多くはありません。

年収においては、一般的な看護師の平均年収470万円超に対して、保育園看護師の平均年収はおよそ320万円。保育園のほとんどは夜勤がなく、保育士と同程度の給与体制が定着しているため、基本的に高年収は望めません。

ただし、保育園の中には高年収が期待できるところもあり、一般的に認可保育園(公立・私立)では総じて高年収が期待できます。反して認可外保育園では、予算などの都合により、低年収が相場となっています。

平成24年賃金構造基本統計調査」によると、保育士の平均給与月額はおよそ21.4万円(平均年齢35.0歳)。一般的な看護師(臨床)の平均給与月額はおよそ32.7万円(平均年齢37.3歳)であり、保育士の給与は看護師を大きく下回っていますが、保育園看護師は保育士と同等の給与が基本とされているため、年2回(4~4.5か月)の賞与や各種手当を含めても、年収470万はおろか、400万円を超えることも難しいと言えるでしょう。

保育園における看護師の給与

なお、非常勤の場合では、時給1000円~1200円が相場。総じて、一般の看護師に及びませんが、同年代の保育士よりも多少、高給与に設定されています。

 

5、保育園看護師の求人情報

保育園看護師の求人枠は少ないものの、2009年の「保育所保育指針」の改定、ならびに待機児童問題への取り組みにあたり、今後ますます保育園看護師のニーズ・求人枠の増加が予想されます。

しかしながら、保育園は看護師の就業先として人気が高いために、誰しもが必ず入職できるというわけではありません。また、多くの保育園では求人に制限をかけており、優れた人材の確保を望む動きが強くなってきています。

長期勤続によるキャリア形成のために、採用時の年齢を40歳くらいまでとし、小児科経験者を優先的に雇用する傾向にあります。特に小児科経験者は即戦力となるため、経験者を優遇する傾向は当然と言えます。

保育園看護師の7割は保育業務にも携わる現状においては、小児科経験がない場合であっても、「チャイルドマインダー資格」、「ベビーシッター資格」、「ベビーマッサージ資格」、「レクレーションインストラクター資格」など、保育に関する資格を取得することで、他者よりも優位に立つことができます。

また、多くの看護師は常勤を望むため、小児科経験がなく各種資格も持っていない場合でも、非常勤であれば採用の道はそれほど困難ではありません。

非常勤から常勤へ転換できることも多々あり、他の保育園に転職する場合には非常勤としての経験が有利に働くため、保育園看護師としての長期的な就業を望まれる方は、勤務形態を問わず、求人を見つけた際には積極的に応募することが大切です。

 

まとめ

保育園での看護師の配置は1人~2人が一般的であり、さまざまな看護業務を一手に任される形となるため、子供が好きという理由だけでは務まらないのが実情です。それゆえ、医療施設と同様に多忙を極めるという事実をしっかり念頭に置いておきましょう。

給与においては、保育士の給与増の動きがみられており、保育園看護師も同様に給与増となることが予想されます。

保育園看護師としての採用には、小児科や保育経験が重視されていますが、未経験の方でも採用に至るケースが多々ありますので、経験・資格を持ち合わせていない場合でも、求人を見つけた際にはチャンスだと思い、積極的に応募してみてはいかがでしょうか。

 

参考文献

1)上別 府圭子,多屋 馨子ら:保育所の環境整備に関する調査研究報告書-保育所の人的環境としての看護師の配置-.社会福祉法人日本保育協会,2009.

2)阿久澤 智恵子,青栁 千春,金泉 志保美ら:保育所看護職者の配置形態の違いによる保育保健活動の現状と課題.桐生大学紀要 第24号, 2013. 9.

3)空田 朋子:保育所における医療的ケアが必要な子どもに対する支援の実態と保育所看護職の認識.山口県立大学学術情報 第7 号,2014.3.

アナフィラキシーの看護|症状と原因、発症患者への治療・対応

$
0
0

アナフィラキシーの看護

アナフィラキシーの発症者は10万人当たり5~50人(0.005%~0.05)と推計されており、死亡者数は年間で約50~60人にのぼっています。

アナフィラキシーの早期症状の断定は困難でありながら、症状の進行が急速であるため、重篤化を防ぐためにはアナフィラキシーに関する深い知識が必要不可欠です。

早期発見・早期改善を図れるよう、症状、診断基準、原因、治療・対処法、看護などについて熟知しておきましょう。

 

1、アナフィラキシーショックとは

アナフィラキシーショックとは、食物や医薬品、ハチによる刺傷の際に、アレルゲンなどが体内に侵入し、複数の臓器に全身性のアレルギー反応を引き起こす、アレルゲンの過敏反応のことを言います。

アナフィラキシーの主な抗原曝露の経路には、食物など経口摂取による曝露、医薬品など皮膚粘膜を介した非侵襲的曝露、ハチに刺される侵襲的曝露などがあります。

アナフィラキシーを引き起こす発生機序にはIgE抗体」が深く関係しており、IgE抗体は末梢血液中の好塩基球や組織に存在するマスト細胞の表面に結合していますが、食物・医薬品・ハチなどの原因物質が入ると、IgE抗体に結合します。

その結果、好塩基球やマスト細胞が活性化され、ブラジキニン、ロイコトリエン、ヒスタミンといったケミカルメディエーターが一気に放出されます。これにより、さまざまなアレルギー反応が引き起こされます。

このように、通常、IgE抗体と結合することにより発症するアナフィラキシーですが、その発症機序は未だ完全には解明されておらず、IgE抗体と関与せずに発症する場合も多々あります。この場合には、アナフィラキシーショックではなく、「アナフィラキシー様反応」と分類されています。

また、食物摂取後に運動することで同様の症状を発症する、食餌依存性運動誘発アナフィラキシーと呼ばれる症例も報告されており、さらに原因不明の症例も多々報告されています。

原因不明による死亡例も多く、さらに原因不明の場合にはアナフィラキシーの治療薬の投与により、症状悪化を招くこともあるため、迅速かつ適切な原因・病状の特定に加え、患者状態の綿密な観察が非常に重要となります。

 

発生因子の死亡者数(人/年)

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
総数 66 48 51 51 71 55 77
食物 5 4 4 4 5 2 2
ハチ刺傷 19 15 13 20 16 22 24
医薬品 29 19 26 21 32 22 37
血清 1 0 1 0 0 0 1
原因不明 12 10 7 6 18 9 13

厚生労働省 人口動態統計「死亡数、性・死因(死亡基本分類)別」より作表

 

2、アナフィラキシーショックの症状と診断

アナフィラキシーが引き起こされると、まず発疹・痛痒・紅潮などの「皮膚症状」が発現し、その後まもなく、または数時間以内に、呼吸困難・気道狭窄・喘息・低酸素血症などの「呼吸器症状」、血圧低下・意識障害などの「循環器症状」、腹部疝痛・嘔吐などの「消化器症状」などがみられます。

特に呼吸困難と血圧低下の発症率が高く、死亡例の多くは気道閉塞・血圧の急激な低下に伴う呼吸停止・心停止によるものです。

 

発現症状

皮膚・粘膜 紅潮、痛痒感、蕁麻疹、血管浮腫、麻疹様発疹、立毛、眼結膜充血、流涙、口腔内腫脹
呼吸器系 鼻痛痒感、鼻閉、鼻汁、くしゃみ、咽頭痛痒感、咽喉絞扼感、発生障害、嗄声、上気道性喘鳴、断続的な乾性咳嗽、激しい咳嗽、呼吸数増加、息切れ、胸部絞扼感、喘鳴、気管支痙攣、チアノーゼ、呼吸停止
消化器系 腹痛、嘔気、嘔吐、下痢、嚥下障害
心血管系 胸痛、頻脈、徐脈(まれ)、その他の不整脈、動悸、血圧低下、失神、失禁、ショック、心停止
中枢神経系 切迫した破滅感、不安、拍動性頭痛、不穏状態、浮動性めまい、トンネル状視野

Simons FER, et al. World Allergy Organization Journal 2011; 4: 13-37に引用改変

 

アナフィラキシーが発症する臓器は多種であることから、発現する症状は人によって、また原因によって異なります。おおむね、皮膚粘膜・呼吸器系・消化器系・心血管系・中枢神経系のうち2つ以上の器官系に生じることが多く、WAO(世界アレルギー機構)の調査によると、皮膚粘膜が80~90%、呼吸器系が70%、消化器系が45%、心血管系が45%、中枢神経系が15%の割合で発現すると統計しています。

発現する症状だけでなく、進行速度も人によって原因によって異なり、症状発現から数分で死に至ることもあります。その原因となるのが呼吸停止または心停止であり、死亡例でみると、食物が30分、ハチが15分、医薬品が5分との報告があります。

なお、アナフィラキシーの診断基準は未だ曖昧ではあるものの、現時点で3つの診断基準が用いられています。ただし、所見での正確な鑑別が難しいことが多々あり、さらに初期診療における有用な検査は現時点で存在していません。

 

診断基準

診断基準① 推測されるアレルゲンへの曝露後、数分~数時間以内に、皮膚粘膜の異常に加え、急性の呼吸器症状(呼吸困難・気道狭窄・喘鳴・低酸素血症)、循環器症状(血圧低下・意識障害)のいずれかを伴う
診断基準② 推測されるアレルゲンへの曝露後、数分~数時間以内に、皮膚粘膜症状(全身の発疹・痛痒・紅潮・浮腫)、呼吸器症状(呼吸困難・気道狭窄・喘鳴・低酸素血症)、循環器症状(血圧低下・意識障害)、消化器症状(腹部疝痛・嘔吐)のうち、2つ以上を伴う
診断基準③ 推測されるアレルゲンへの曝露後、数分~数時間以内に、血圧低下(平常時血圧の70%未満)、または生後1~11か月で70mmHg以下、1~10歳で70mmHg+(2×年齢)以下、11歳~成人で90mmHg以下の場合

 

また、日本小児アレルギー学会より、以下のように重症度における評価基準が示されています。ただし、軽症の場合は特に類似する疾患が多いため、軽症段階での鑑別が困難なのが実情です。

 

重症度評価

グレード1

(軽症)

グレード2

(中等度)

グレード3

(重症)

皮膚粘膜 紅斑、蕁麻疹、膨疹 部分的 全身性
痛痒 軽い痛痒

(自制内)

強い痛痒い

(自制外)

口唇、眼瞼腫脹 部分的 顔全体の腫れ
消化器系 口腔内・咽頭の違和感 口・喉の痒み、違和感 咽頭痛
腹痛 弱い腹痛 強い腹痛

(自制内)

強い腹痛

(自制外)

嘔吐、下痢 嘔気、単回の嘔吐・下痢 複数回の嘔吐・下痢 繰り返す嘔吐・便失禁
呼吸器系 咳嗽、鼻汁、鼻閉、くしゃみ 間欠的な咳嗽、鼻汁、鼻閉、くしゃみ 断続的な咳嗽 持続する強い咳き込み、犬吠様咳嗽
喘鳴、呼吸困難 聴診上の喘鳴、軽い息苦しさ 明らかな喘鳴、呼吸困難、チアノーゼ、呼吸停止、SpO2≦92%、嗄声、嚥下困難
循環器系 脈拍、血圧 頻脈(+15/分)、血圧軽度低下、蒼白 不整脈、血圧低下、重度徐脈、心停止
中枢神経系 意識状態 元気がない 眠気、軽度頭痛、恐怖感 ぐったり、不穏、失禁、意識消失

日本小児アレルギー学会誌2014 : 28 : 201-10より引用、一部改変

 

3、アナフィラキシーショックの原因

第1項で述べたように、アナフィラキシーの原因の多くは、食物、ハチ刺傷、医薬品によるものです。また、血清や原因不明のものもあります。

食物やハチ刺傷は、医療従事者が直接関係のない日常生活の中で起こるものですが、医薬品や血清においては医療施設内で起こります。特に、全身麻酔や局所麻酔時に起こることが多いのが実情です。

医療施設内で起こるアナフィラキシーは、迅速に対応できるために重篤化はしにくく死亡例が少ないものの、頻発するため、看護師は原因となる医薬品において精通しておかなければいけません。

 

発生機序と誘因

IgEが関与する免疫学的機序 食物 小児 鶏卵、牛乳、小麦、甲殻類、ソバ、ピーナッツ、ナッツ類、ゴマ、大豆、魚、果物など
成人 小麦、甲殻類、ソバ、ピーナッツ、ナッツ類、魚、アニサキス、スパイスなど
昆虫 刺咬昆虫(ハチ、蟻)など
医薬品 βラクタム系抗菌薬、NSAIDs、生物学的製剤、造影剤、ニューキノロン系抗菌薬、麻酔薬など
その他 天然ゴムラテックス、職業性アレルゲン、環境アレルゲン、食物+運動、精液など
IgEが関与しない免疫学的機序 医薬品 NSAIDs、生物学的製剤、造影剤、デキストランなど
非免疫学的機序(マスト細胞の活性化) 身体的要因 運動、低温、高温、日光など
アルコール
薬剤 オピオイドなど
特発性アナフィラキシー(明らかな誘因が存在しない) これまで認識されていないアレルゲンの可能性
マスト細胞症 クローン性マスト細胞異常の可能性

Simons FER, et al. World Allergy Organization Journal 2011; 4: 13-37に引用改変

 

3-1、原因①(食物)

欧米においてはピーナッツやナッツ類、日本においては鶏卵、小麦、ソバが多く、食物による発症のほとんどが特異的IgE抗体が関与しており、多くは摂取後まもなく(数分後)に発症します。

同じ食物に対してアナフィラキシーを起こす場合でも個人差が大きく、加工品を少量摂取しただけでもショックを起こす人もいれば、多量摂取したときだけに起こす人もいます。

食物によるアナフィラキシーの多くが家庭内で発症しますが、レストラン、学校、職場など外出先で発症する人も多くいます。これを避けるためには、自身や家族のみが原因となる食物に熟知するだけでなく、たとえば学校であれば担任、栄養士、クラスの同級生などに知ってもらうことが大切です。

このように、関わりを持つ人に認知してもらうことで、食物によるアナフィラキシーの発症率は大きく下げることができます。また、発症した場合に備えて、アドレナリン自己注射液などを携帯しておくことで、重症化を防ぐことができます。

 

3-2、原因②(ハチ毒)

ハチ刺傷によるアナフィラキシーショックは、アシナガバチ、スズメバチ、ミツバチの順に多く、短期間のうち2回の刺傷で発症しやすい傾向にあります。

ハチ毒はIgE抗体とマスト細胞とに結合し、これによりマスト細胞が活性化され、ヒスタミンなどの有害な化学伝達物質が体内で多量に放出されることで、さまざまな臓器に作用してアナフィラキシーを引き起こします。

 

ハチ毒成分

分類 原因物質 症状
痛みを起こす

毒成分

ヒスタミン 痛み、痒み、発赤
セロトニン、アセチルコリン ヒスタミンより強い痛み
アレルギーを起こす

毒成分

ホスホリバーゼAなどの酵素類 血圧低下、呼吸困難などのアナフィラキシー症状
その他の毒成分 メリチン、アパミン 溶血作用、神経毒
ハチ毒キニン 不明

林業・木材製造業労働災害防止協会 : 蜂刺されの予防と治療. 1996より作表

 

発現症状は人それぞれですが、多くは刺傷から数分~10分以内に全身性の蕁麻疹、咽頭浮腫・気道収縮に伴う呼吸困難、急激な血圧の低下、頻脈、顔面蒼白、嘔気などの症状が現れます。

小児の場合には軽症で済むことが多いものの、成人では早期のうちに重症化するケースが多く、少なくても1時間以内に緊急処置を行わないと死に至ります。

 

3-3、原因③(医薬品)

アナフィラキシーと関与する医薬品には、抗菌薬、解熱鎮痛薬(NSAIDsなど)、抗腫瘍剤、局所麻酔薬、筋弛緩薬、造影剤と多岐に渡り、また輸血時の血小板製剤・血漿製剤。赤血球製剤により発症することもあります。

 

抗菌薬

ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系のβラクタム系抗菌薬による発症が多く、ニューキノロン系抗菌薬による発症率もわずかながら報告されています。抗菌薬による発症を防ぐためには何より徹底した問診が必要不可欠。また、投与後の綿密な観察のほか、万一に備えて治療薬(後述)を用意しておくことが大切です。

 

解熱鎮痛薬(NSAIDsなど)

アスピリンなどのNSAIDsは、リノール酸を分解するアラキドン酸代謝経路に作用して、アナフィラキシーを引き起こす可能性があると考えられています。また、プロノプロフェンなどの鎮痛剤を服用後、運動や食事によって発症することもあります。ただし、これらの発生機序は未だ完全には解明されていません。

 

抗腫瘍薬

抗腫瘍薬によるアナフィラキシーは、タキサン系(パクリタキセル・ドセタキセル)や白金製剤(オキサリプラチン・シスプラチン・カルボプラチン)が主に関与しています。そのほか、L-アスパラギナーゼやリツキシマブによる発症も多々報告されています。

 

局所麻酔薬

局所麻酔薬によるアレルギー反応の多くは遅延型アレルギー性皮膚炎であり、アナフィラキシーの発症は1%程度です。ただし、局所麻酔薬そのものの関与による発症例は稀であり、ほとんどが保存薬や血管収縮薬、ラテックスなどが抗原となって発症します。

 

筋弛緩薬

主に全身麻酔時に起こることが多く、周術期のアナフィラキシーの50~70%は筋弛緩薬によるものです。意識消失時には主訴・意思表示ができないため、発見が遅れ重症化することも少なくありません。ゆえに、全身麻酔時においては特に注意し綿密に観察することが求められます。

 

造影剤

造影剤によるアナフィラキシーの発症は、数千件に1件と言われています。現時点では未だ発生機序は解明されておらず、症状が急速に進行することによる死亡例がいくつか報告されています。ただし、最近の研究で気管支喘息が重症化に起因していることが分かったため、現在では気管支喘息を有する患者に対しては慎重投与で行うことが原則となっています。

 

輸血など

輸血によるアレルギー反応は、患者血液中のIgEと輸血製剤中の抗原との反応の結果と考えられています。アナフィラキシーは、血小板製剤・血漿製剤・赤血球製剤のいずれにも起こりうるもので、発症率は0.01%~0.07%と報告されています。

 

4、アナフィラキシーショックの治療

アナフィラキシーの治療は、アドレナリン(エピネフリン)の筋注(または静注)が第一選択であり、アナフィラキシーと診断した場合または強く疑われる場合には、アドレナリンを大腿部に筋注し、同時に輸液と酸素投与を行い改善を図ります。

アナフィラキシー発症で特に問題となるのが血圧の低下と呼吸停止です。アドレナリンには、血圧の上昇、血管収縮作用の強化、気道の粘膜浮腫の抑制、気管支拡張の促進、心収縮力増大などの作用があり、アナフィラキシーの重篤化に起因する症状緩和に大きな効能を有しています。

アドレナリンには数多くの副作用が存在するため、原則として前出した重症度評価のグレード3(重症)が適応となります。また、症状の進行が激烈な場合にはグレード2(中等度)でも投与することがあります。

呼吸困難や血圧低下などの重篤化に繋がる症状がないグレード1(軽症)においては、第二選択薬である抗ヒスタミン薬β2アドレナリン受容体刺激薬などを投与し、軽度症状の緩和を図ります。

 

治療薬の概要

  アドレナリン

(第一選択薬)

抗ヒスタミン薬

(第二選択薬)

β2刺激薬

(第二選択薬)

投与時期

(原則)

グレード2or3 グレード1or2 グレード1or2
薬理 血圧の上昇、血管収縮作用の強化、気道の粘膜浮腫の抑制、気管支拡張の促進、心収縮力増大など 痛痒痛、紅潮、蕁麻疹、くしゃみ、鼻漏の軽減に効果はあるが、気道閉塞や血圧低下には効果はない 喘鳴、咳嗽、息切れの軽減に効果はあるが、上気道閉塞や血圧低下には効果はない
副作用 ≪常用量≫

蒼白、振戦、不安、動悸、浮動性めまい、頭痛

≪過剰投与≫

心身性不整脈、高血圧、肺水腫

≪常用量≫

眠気、煩眠、認知機能障害

 

 

≪過剰投与≫

錯乱、昏睡、呼吸抑制、神経系刺激

≪常用量≫

振戦、頻脈、浮動性めまい、びくつき

 

≪過剰投与≫

頭痛、低カリウム血症、血管拡張

 

アドレナリンの経静脈投与は心停止もしくは心停止に近い重症時においては必要ですが、それ以外では高血圧や不整脈の有害作用を起こす可能性があるため、原則として筋注で1:1000(1mg/ml)を投与し、必要あれば追加投与(最大量:成人0.5mg、小児0.3g)を行います。なお、皮下注射は効果が期待できません。

 

■輸液の投与

血圧の低下がみられる場合には、乳酸リンゲル液または生理食塩水による輸液を行い、血圧の維持または上昇を図ります。ただし、輸液のみでは血圧の維持が困難であるため、アドレナリンとの併用が原則。

初期輸液としては5~10分の間に成人なら5~10ml/kg、小児なら10ml/kg投与し、血圧・心拍数・心機能・尿量などに応じて輸液量を増減します。

 

気道確保・酸素投与

気道の狭窄・閉塞に伴う呼吸困難が生じた際には、直ちに気道を確保し、フェイスマスクまたは経口エアウェイによる流量6~8L/の酸素投与を行います。アドレナリンの投与、酸素投与を行っても気道狭窄・閉塞が改善されない場合には気管内挿管、さらに気管切開が必要なこともあるため、万一に備え、アナフィラキシーの発見段階で救命医療チームや麻酔・蘇生専門チームの人員を招集しておく必要があります。

 

5、アナフィラキシーショックの対処と看護

アナフィラキシーの初期症状には、医薬品の副作用などに類似しているものが多く、初期段階での特定は容易ではありません。しかしながら、アナフィラキシーの症状進行を急速であるため、早期における迅速な対処が不可欠です。

ゆえに、症状が類似する場合でもアナフィラキシーの発症を念頭に置き、バイタルサインや全身状態を綿密に観察し、迅速な人員の招集に加え、気道の確保や下肢拳上を早期のうちに行ってください。

 

バイタル・全身状態の確認

医薬品の副作用においては投与後30分~3時間のうちに発現します。それに対して、アナフィラキシーではアレルゲン被爆後5分~30分に発現することが多いため、症状の発現時間や速度によってある程度推測することができます。起こりうるアナフィラキシーのすべての症状を念頭に置き、患者のバイタルサインや全身状態を綿密に観察しておきましょう。

 

人員の招集

グレード1またはグレード2における症状が発現した時点で、それが医薬品の副作用などに類似する場合でもあっても迅速に人員を招集してください。アナフィラキシーの症状進行速度は非常に速く、対処が遅れれば呼吸停止・心停止を招きます。早期に対処することで重篤化を防ぐことができるため、すぐにコールをかけてください。

 

気道確保・下肢拳上

グレード1またはグレード2の症状が発現した場合には、アナフィラキシーと特定できない場合であっても、万一に備えて、まずは「頭部後屈顎先挙上法」や「下顎拳上法」などによる気道確保を行ってください。

また、下肢拳上を行うことで血圧の低下を抑えることができます。仰向けの状態で下肢を15~30cm挙上させ、安静保持を行いながら人員の到着を待っておいてください。

 

まとめ

アナフィラキシーの進行速度は非常に速く、対処・治療が遅れれば命にかかります。蘇生に成功しても後遺症が残る例は多く、さらに毎年50~60もの死亡例がでていることから、今後ますますの早期対処・早期治療が求められます。

アナフィラキシーの初期症状は、さまざまな疾患や医薬品の副作用に類似するものが多いため、初期における診断は困難ですが、綿密な観察を行えば早期発見ができ、迅速な対応・治療により、重篤化を防ぐことができます。

重篤化を防ぐために、また死亡者数の減少のために、アナフィラキシーの症状や診断基準、対処に精通し、細やかな観察の上で、早期対処に努めてください。

冠動脈バイパス術(CABG)の看護|適応と合併症、術前・術後のケア

$
0
0

冠動脈バイパス術(CABG)の看護

日本では現在、毎年約5万例の心臓手術が行われていますが、その約3分1を心筋梗塞や狭心症患者を対象とした「冠動脈バイパス術(CABG)」が占めています。

CABGは心臓手術の中で主軸を担う手術であり、すでに確立されているものの、手術の成功率は医師の技術によるところが大きく、術後合併症の発症率も比較的に高いのが実情です。また、術前における精神的不安を抱える患者も少なくありません。

それゆえ、看護師はCABGを受ける患者、CABGを受けた患者に対して、身体的・精神的の両面から包括的にサポートすることが必要不可欠です。CABGの看護に不安があるという方は、まずはCABGに関する知識を深めておいてください。

 

1、冠動脈バイバス術(CABG)とは

冠動脈バイパス術(CABG)とは、一般的に行われている開胸心臓手術のことで、主に心筋梗塞や狭心症の患者に対して行われます。心筋梗塞や狭心症の患者は、一部の血管が閉塞または狭窄を起こしており、心筋に十分な血液が供給されない状態にあります。

そこで、脚や胸、腕、腹部にある健康な静脈・動脈を採取して、閉塞・狭窄を起こしている血管に接続し、新しい路(バイパス)を形成します。この手技のことを冠動脈バイパス術と言います。

心筋梗塞や狭心症などの虚血性心臓疾患の治療には、冠動脈バイパス術のほか、血管拡張薬やベータ遮断薬などを用いる「薬物治療」、閉塞・狭窄した部分をバルーンのついたカテーテルで拡張する「冠動脈形成術(PTCA)」があります。

薬物治療は主に軽度、冠動脈形成術は主に中等症の症例に対して行われ、薬物治療でも冠動脈形成術でも改善がみられない場合、施行が難しい場合などに冠動脈バイパス術が行われます。

  適応症例 利点 欠点
薬物治療 軽症 非侵襲 効果が小さい
冠動脈形成術

(PTCA

中等症 低侵襲

薬より確実

中等度の侵襲性

再狭窄率が高い

冠動脈バイパス術

(CABG

重症 開存率が高い

完全血行再建

高度の侵襲性

再施行が困難

冠動脈バイパス術はすでに確立されている手技であるものの、成功率は医師の技術によるところが大きく、術中の移植の失敗や脳梗塞などの重篤な合併症を発症するケースがあります。しかしながら、手術が成功すれば移植後10年ほどは移植血管が適切に機能し、長期生存が期待できます。

 

2、冠動脈バイバス術の適応

上記のように、冠動脈バイパス術は虚血性心臓疾患の患者に対して、薬物治療・冠動脈形成術(PTCA)で成果が期待できない患者に対して行われます。適応となる具体例は以下の通りです。

①冠動脈主幹部あるいは左前下行枝の根元近くに狭窄・閉塞病変がある場合全て

②左前下行枝、回旋枝、右冠動脈のすべてに狭窄・閉塞病変がある

③薬物治療、冠動脈形成術(PTCA)が不適切な重症例

冠動脈造影による狭窄度や形態の評価、負荷心電図・負荷心エコー図などでの心筋虚血の証明により、適応の可否が決定されます。

冠動脈バイパス術は、薬物治療・冠動脈形成術(PTCA)では成果が期待できない重症例に対する治療であるため、基本的に禁忌はありません。

しかしながら、透析患者、多臓器障害(脳血管障害・肺機能障害・肝硬変・出血傾向)を持つ患者、再手術の患者は、施行における危険性が高く、また術後の合併症の発症リスクが高まるため、特に注意が必要となります。

 

3、冠動脈バイパス術の種類

冠動脈バイパス術には大きく分けて、「オンポンプ(on-pump)」と「オフポンプ(off-pump)」の2つがあります。“ポンプ”とは、人工心肺装置のことを指し、人工心肺装置の使用の有無によって手技が異なります。

 

オンポンプ(on-pump

オンポンプは人工心肺装置を使用し、心臓を止めて手術を行う方法です。一時的に心臓を止めることで手技としての完遂性が高く、オフポンプと比べて手技が容易であるという特長があります。オンポンプは古くから行われてきた手技であるため、すでに確立された方法であり、一般的に冠動脈バイパス術といえばオンポンプのことを指します。

 

オフポンプ(off-pump

オフポンプは人工心肺装置を使用せずに、心臓が動いたまま手術を行う方法です。1990年代後半から急速に普及し、近年では冠動脈バイパス術の主流になりつつあります。心臓を止めないため、侵襲性が低い、術後合併症の発症リスクが低い、発症時にも重篤に至りにくいという特長があります。その反面、手技が困難であり、オンポンプよりも卓越した技術が必要になるため、現在でも一部の医療施設でしか行われていません。

 

緊急度・年齢・血管を繋げる部位などを考慮して、グラフト選択を行いますが、開存率の観点から、基本的には内胸動脈が選択されます。

 

4、冠動脈バイバス術施行後の合併症

冠動脈バイパス術は、虚血性心臓疾患の治療に非常に有効な手術ではあるものの、合併症の発症率が比較的に高いのが実情です。「循環器病の診断と治療に関するガイドライン」によると、院内死亡1.94%、周術期心筋梗塞2.2~3.4%、脳血管障害2.2%~2.6%、感染症1.8%と、重篤な合併症が高率で発症しています。

冠動脈バイパス術における代表的な術後合併症には、「出血」、「心機能障害」、「脳梗塞」、「感染症」、「肝機能・呼吸機能障害」などがあり、いずれもおよそ1~2%の確率で発症します。

 

術後出血

冠動脈バイパスの吻合部、またはグラフト採取部位から出血を認めることがあります。出血量が多い場合には、再縫合の処置や輸血が必要となりますが、再開胸止血術を必要とする術後出血の発生頻度は約1%にとどまっています。

 

心機能障害

術中バイパスされたグラフトに良好な流量が得られない場合には、周術期心筋梗塞の原因となります。また、術後の約0.5%の症例において、冠動脈攣縮が原因となり、心筋梗塞が起こることがあります。

さらに、急性心筋梗塞に対する緊急手術では、心筋ダメージによる術後心機能低下・心室不整脈の遷延、術前から心機能低下の患者に冠動脈バイパス術を行った症例では、心機能の改善を認めずに心不全から離脱できない症例もあります。

 

脳梗塞

冠動脈バイパス術による脳梗塞発症の原因には、①大動脈遮断や送血に伴う上行大動脈内に存在する動脈硬化性粥腫の遊離、②心内血栓の遊離、③体外循環中の空気塞栓といった血栓塞栓症、④頚動脈狭窄病変・脳血管狭窄病変、⑤体外循環中の低血圧、⑥不整脈、⑦術後の低心拍出量症候群、などが考えられます。このうち、人工心肺装置が原因となるものもあるため、オンポンプよりもオフポンプの方が低リスクとなっています。

 

術後感染症

感染症の多くは手術創からの細菌感染によるもので、この場合には創周辺に化膿・炎症・熱感などの症状が現れます。感染症は手術侵襲による免疫力の低下に強く起因しており、中には肺炎や敗血症を発症することもあります。

 

肝機能・呼吸機能障害

冠動脈バイパス術自体による合併症ではありませんが、術前から肝機能・呼吸機能障害を有する症例では、これらの臓器障害が悪化することがあります。

 

5、冠動脈バイパス術の術前看護

冠動脈バイパス術を受ける患者の身体状態の把握や、手術に向けた入念な準備は、手術を円滑に遂行するために必要不可欠なことですが、精神的ケアも非常に重要となります。

術前患者の精神的不安は大きく、不安を抱える患者は一貫して、術後の経過が不良となり、回復までに時間がかかってしまいます。

町本 実保、佐藤 まゆみ、佐藤 禮子の3名が行った調査によると、術前患者の手術に対する認識が術後に大きな影響を与えるとしており、術前において精神的な看護介入を適切に行うことで、術後の早期回復を促すという結果が示されました。

 

術前回復に対する認識と術後回復との関連の有り様

術前回復に対する認識と術後回復との関連の有り様

術前の認識と術後の実際の回復状態に相違があった場合、手術の結果を否定的に捉えることで、術後の健康状態が低下してしまうことがあるという結果が示されました。反対に、術前患者が術後経過や回復状況を現実的に認識することで、健康状態が向上し、早期改善に寄与するということが分かりました。

要するに、術前には患者が術後回復に対する現実的な認識を抱けるよう、術後の経過や症状の変化、日常生活への回復見通しなど、患者の視点に立った情報の提供が必要不可欠なのです。

それを行うために、患者が何に対して不安に感じているのか、その詳細を的確に把握することが大前提となり、患者の言動や表情などから不安状態を読み取り、患者の背景を踏まえて不安の内容や不安の程度をしっかりアセスメントすることが必要となります。

その上で、術後に起こりうる合併症や経過、症状の変化などを細かく説明し、また理解・共感の意を示し、相互に信頼関係が築けるよう、献身的な態度でコミュニケーションを図ることで、術後患者の早期回復に寄与することができます。

 

6、冠動脈バイパス術の術後看護

冠動脈バイパス術は、虚血性心臓疾患に対して非常に有効な手術であるものの、術後合併症の発症率は1%~2%と比較的高いため、術後には綿密な看護が必要不可欠となります。

特に術後まもなくのICUにいる期間は、一般病棟に移った後よりも合併症の発症率が高く、また重篤になりやすいため、早期発見・早期対処ができるよう入念に観察しなければいけません。

また、手術に伴う胸痛や、安静保持における全身の苦痛のほか、服薬管理や精神的ケアも必要となり、これらを包括的に行うことで患者の術後の早期回復に寄与することができます。

 

合併症の予防、早期発見・早期対応

なによりもまず、合併症の予防、早期発見・早期対処のための入念な観察が必要不可欠です。「4、冠動脈バイバス術施行後の合併症」にあるように、術後には「出血」、「心機能障害」、「脳梗塞」、「感染症」、「肝機能・呼吸機能障害」などのリスクがあります。

出血や脳梗塞は手術(侵襲)に伴う合併症であり、感染症の多くは創部から発症するものです。心機能障害と肝機能・呼吸機能障害も手術に伴うものですが、術前にすでに機能低下・免疫力低下がみられる患者は発症しやすい傾向にあります。

このように、合併症の発症リスクは術前~術後で起因が異なり、また患者の年齢や体調など、さまざまな原因によって発症リスクが高低します。ゆえに、患者の個人データを詳細に把握するのはもちろん、バイタルや全身状態、表情、行動など、多角的な観察が必要となります。

 

苦痛に対する緩和処置

術後の苦痛には、切開に伴う創部痛、麻酔薬に伴う全身痛、呼吸管理に伴う苦痛、合併症発症に伴う苦痛・疼痛、体動制限に伴う苦痛・疼痛などがあります。苦痛の程度が大きい場合には、主に鎮痛薬を用いて対応しますが、まずは苦痛の部位や程度などをしっかりと確認してください。

感染症にしろ脳梗塞にしろ、苦痛は合併症の前兆として発生することが多いため、苦痛の部位や程度を知ることで、合併症の予防や早期発見・早期対応に役立ちます。

苦痛がある場合にすぐに鎮痛薬などを用いて対応するのではなく、まずは苦痛の部位や程度などを把握し、合併症の可能性がある場合には特に、入念に観察するようにしてください。

 

服薬・飲食などの管理・指導

冠動脈バイパス術は根治治療ではなく対症療法です。術後も冠動脈全体の動脈硬化はそのまま残っているため、薬物治療や食事・水分管理、運動などを行っていかなければなりません。これは術後はもちろん、退院後にも気をつけるべきことです。

術前にあった胸痛や息切れなどの症状は、術後に消失することが多いことから、患者の中には説明を受けていても、完全に治ったと錯覚してしまうことがあるため、服薬に関しては特に、患者の理解度を確認し、理解度が低い場合には、看護師からもしっかりと説明するようにしましょう。

 

コミュニケーションによる精神的ケア

一段落して安心する方、疼痛に対するストレスを抱える方、回復が遅いことに不安を感じる方、社会復帰への不安など、術後患者の精神状態はさまざまで、術後の日数によっても変わってきます。場合によっては、術後精神病に発展することもあります。また、「5、冠動脈バイパス術の術前看護」で述べたように、術後の精神状態は身体的回復にも影響を及ぼします。

術後回復の意欲となる要因には、医療従事者の誠意・信頼、回復の実感、十分な説明と納得、信念、ソーシャルサポート、苦痛の緩和、安心感などがあり、特に看護師など医療従事者の言葉がけや献身的な態度といった誠意のある対応は、患者の精神状態を大きく好転させます。患者が安楽な状態で早期回復できるよう、誠意を持って献身的にコミュニケーションを図るよう努めてください。

 

まとめ

冠動脈バイパス術は非常に有効な治療法であるものの、術後の合併症の発症リスクが高いのが実情です。術後合併症に伴う死亡例は1%程度と報告されていることから、合併症の重篤化も懸念されます。

合併症の発症リスクは術後まもなくが最も高いものの、一般病棟に移ってからも油断はできません。看護師のサポートは、患者の早期回復や再発防止に大きく寄与しますので、合併症の予防や早期発見・早期対応はもちろん、苦痛管理、服薬管理、精神的ケアなど、包括的かつ献身的な看護を実施していきましょう。


播種性血管内凝固症候群(DIC)|原因と症状、早期発見・治療のポイント

$
0
0

播種性血管内凝固症候群(DIC)

さまざまな重篤疾患の合併症に「播種性血管内凝固症候群(DIC)」があり、致死率が非常に高く、現在最も懸念される合併症の一つに挙げられます。さらなる重篤化を防ぐためには、早期発見・早期治療がカギとなりますが、DICの知識なくして早期発見はありえません。

当ページでは、DICの概要や原因、症状、診断(鑑別)基準など、包括的かつ詳細に解説していますので、DICについて少しでも不安のある方は、最後までしっかりお読みいただき、知識の習得にお役立てください。

 

1、播種性血管内凝固症候群(DIC)とは

通常、正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子の働きにより、血液は凝固することはありません。しかしながら、何らかの原因により、血管内のあちこちに突発的な血栓が生じることがあります。

血管内に血栓が無数にできることで、小さな血管が詰まり、出血の抑制に必要となる血小板や凝固因子を使い果たしてしまい、過度の出血を引き起こします。この状態を「播種性血管内凝固症候群(DIC)」と言います。

DICは突発的に発症することが多く、大量出血によって死に至るケースも少なくありません。それゆえ、いかに早期発見・早期治療ができるかがポイントとなります。

 

2、播種性血管内凝固症候群の原因

DICの発症には、基礎疾患が関与しています。未だ確固たる機序は証明されていませんが、基礎疾患が悪化した際に、何らかの影響で生体内の抗血栓性の制御をはるかに超える大量の凝固促進物質が血管内に流入することが、原因であると考えられています。

凝固活動が活性化すると、血栓の元になる血小板や凝固因子が大量に消費され、それらが著しく減少します。また、アンチトロンビンも大量に使われ不足していき、その結果、凝固反応が加速化し、血栓の抑制機能を低下(血栓形成を促進)させます。

さらに、血栓を溶かそうとして働くプラスミンが、本来の止血のための血栓をも溶かしてしまうため、出血傾向がさらに高まります。このように、血液を固める凝固作用と固まった血液を溶かす作用が同時に起こることで、大量出血が引き起こされるのです。

なお、基礎疾患には主に、「悪性腫瘍・白血病」、「細菌感染症」、「産科的疾患」、「外傷・熱傷」などがあり、「悪性腫瘍・白血病」と「細菌感染症」が発生起因の約3/4を占めています。

 

悪性腫瘍・白血病

悪性腫瘍における主因は、腫瘍細胞の表面や腫瘍細胞中に組織因子が出現し、それに伴う凝固作用の活性化と考えられています。そのほか、腫瘍細胞に対する免疫反応の刺激に伴う組織因子の産出、サイトカインの血管内皮細胞に対する作用に伴う組織因子の産出、トロンボモジュリン発現抑制に伴う血管内皮細胞の抗凝固から向凝固への性格シフトなど、発生機序は多岐に渡ります。

 

細菌感染症

敗血症などの重篤な細菌感染症では、発熱物質であるエンドトキシンなどが単球/マクロファージの表面に組織因子を産出させることが主な原因と考えられています。敗血症患者の約40%がDICを発症すると言われており、これはDICの原因となる基礎疾患の中でも頻度が高く、また敗血症はDICだけでなく、さまざまな重篤な合併症の発症リスクが高いため、DIC患者の死亡例の多くは敗血症が原因となっています。

 

産科的疾患

産科的疾患によるDICは、主に子宮内圧の上昇が引き金となっていることから、子宮内圧の上昇に関係する常位胎盤早期剥離と羊水塞栓症の2つが、DICに起因する産科的疾患の大半を占めています。

 

外傷・熱傷

外傷性DICでは、組織の損傷によって組織因子が血管内に流入し、凝固反応を示すようになります。また、炎症性サイトカインによって凝固作用が活性化することが原因と考えられています。しかしながら、外傷に伴う異常出血は、“DICが基礎病態である”という主張と、“DICではない別の病態である”という主張が混在しており、未だ議論の渦中にあります。

 

3、播種性血管内凝固症候群の症状

「出血」と「臓器症状」がDICの2大症状となっており、どちらが発現するかは綿溶(血栓の溶解)と凝固の優位性によって異なります。綿溶が優位に働く場合には出血症状が発現し、凝固が優位に働く場合には臓器症状が発現します。

播種性血管内凝固症候群の症状

出典:播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態、診断、治療 金沢大学 血液内科・呼吸内科

 

出血症状

血栓の元になる血小板や凝固因子が低下することで、出血傾向が高まります。止血作用が働いていると出血量はそれほど多くはありませんが、プラスミンの働きにより、止血のための血栓をも溶かしてしまうと、止血が追い付かなくなり、大量出血となります。DICに起因する基礎疾患のうち、「悪性腫瘍・白血病」、「産科的疾患」、「外傷・熱傷」は、出血症状が主な症状となっています。

 

臓器症状

微小血栓が多発すると、各臓器に十分な血液が流れなくなり、いわゆる微小循環障害をきたします。その結果、十分な血液を供給できない臓器で機能障害を行い、進行具合によっては全く機能しなくなる“不全”の状態になります。

DICでは、微小血栓が血管内のさまざまな部分に無数に発生することから、しばしば多臓器不全を引き起こします。臓器症状を呈する主な基礎疾患は、敗血症などの「細菌感染症」であり、薬物治療によって改善を図りますが、敗血症自体が生命にかかわる病気のため、DICを合併した敗血症患者の死亡率は60%以上にものぼると言われています。

 

4、早期発見のための指標

DICは基礎疾患に起因しているため、基礎疾患による可能性を念頭に置くことが何より大切です。DICに起因する基礎疾患には、悪性腫瘍(固形がん)、白血病、細菌感染症(敗血症)、産科的疾患(常位胎盤早期剥離や羊水塞栓など)、外傷・熱傷のほかにも、内科においては「膠原病」・「大動脈瘤」・「劇症肝炎」・「肝硬変」、「急性膵炎」、そのほか「ショック」などもあります。

これらの有症患者に対して、DIC発症の可能性を念頭に置いておくと、出血傾向がみられる場合や臓器機能の低下がみられる場合に、DIC発症の疑いを持つようになり、早期発見に役立ちます。

 

DICを発症しやすい基礎疾患

順位 基礎疾患 DIC症例数 全症例 発生頻度
敗血症 303 969 31.3%
ショック 222 945 23.5%
非ホジキンリンパ腫 161 847 19.0%
呼吸器感染症 144 2,568 5.6%
肝細胞がん 142 4,480 3.2%
肝硬変 123 3,807 3.2%
急性骨髄性白血病 104 312 33.3%
肺がん 99 2,316 4.3%
胃がん 93 3,456 2.7%
10 急性リンパ芽球性白血病 76 247 30.8%
11 急性前骨髄球性白血病 73 100 73.0%
12 大動脈瘤 69 1,183 5.8%
13 結腸がん 65 2,767 2.3%
14 胆道系感染症 55 831 6.6%
15 急性呼吸促迫症候群 53 251 21.1%

※文献1)を修正して引用

 

上表は、DICを発症しやすい基礎疾患を、発症数をもとに順位づけを行ったものです。特にこれらの疾患を有する患者には、DICの可能性を懸念し、入念な観察を行ってください。

なお、DICを発見するためには、“診断(鑑別)”が必要不可欠です。所見にて出血の確認はとれますが、出血の原因はDIC以外にもさまざまあるため、“出血症状があるからDICだ”と決めつけ、すぐに治療を開始することはできません。これは臓器症状においても言えることです。

DIC発症の有無を確認するためには、起因する基礎疾患の有無や、症状の程度などから多角的に分析し、可能性のある場合に血液検査の結果から、以下のような診断基準を用いて鑑別を行います。

 

■日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案

日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案

・(※ 1 ):血小板数>5万/μLでは経時的低下条件を満たせば加点する(血小板数≤5万では加点しない)。血小板数の最高スコアは3点までとする。

・FDPを測定していない施設(Dダイマーのみ測定の施設)では、Dダイマー基準値上限2倍以上への上昇があれば1点を加える。ただし、 FDPも測定して結果到着後に再評価することを原則とする。

・プロトロンビン時間比:ISIが1.0に近ければ、INRでも良い(ただしDICの診断にPT-INRの使用が推奨されるというエビデンスはない)。

・トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、可溶性フィブリン(SF)、プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2):採血困難例やルート採血などでは偽高値で上昇することがあるため、FDPやD-ダイマーの上昇度に比較して、TATやSFが著増している場合は再検する。即日の結果が間に合わない場合でも確認する。

・手術直後はDICの有無とは関係なく、TAT、SF、FDP、D-ダイマーの上昇、ATの低下などDIC類似のマーカー変動がみられるため、慎重に判断する。

・(※2)肝不全:ウイルス性、自己免疫性、薬物性、循環障害などが原因となり「正常肝ないし肝機能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ、初発症状出現から8週以内に、高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間活性が40%以下ないしはINR値1.5以上を示すもの」(急性肝不全)および慢性肝不全「肝硬変のChild-Pugh分類BまたはC(7 点以上)」が相当する。

・DICが強く疑われるが本診断基準を満たさない症例であっても、医師の判断による抗凝固療法を妨げるものではないが、繰り返しての評価を必要とする。

※文献2)より出典・引用

上図ならびに解説は、日本血栓止血学会が提示するDIC診断基準の暫定案です。DICの診断基準には、ほかに厚生省の「旧基準」、日本救急医学学会急性期DIC診断基準である「急性期基準」がありますが、どれも未だ確立されておらず、感度が悪い、適応疾患が少ないなどの問題が見受けられます。

現状においては、暫定版ではあるものの、上図の診断基準が最新であるため、これを参考にするとよいでしょう。なお、鑑別を行うに至るまでには、看護師の情報提供が必要不可欠となります。

出血はDIC以外にも、さまざまな原因によって発生するため、まずは何が原因となっているのかを考えなければいけません。出血を認めるすべての患者に対してDICの鑑別を行うのは得策ではありませんが、起因する基礎疾患の有無や出血の程度・時間などによって評価し、疑いのある場合には早急に鑑別を依頼してください。

また、臓器機能低下においては、初期段階では自覚症状がないことが多く、早期発見がさらに困難となります。さまざまな因子を多角的に評価する分析力が不可欠となりますが、多臓器不全に陥る前に治療に移れるよう、何かしらの兆候を感じた際には、すぐに医師に報告し、鑑別を急いでください。

≪診断のポイント≫

①基礎疾患の存在

②出血症状の存在

③臓器症状の存在

④血小板数の低下

⑤血中FDP(Dダイマー)の上昇

⑥血中フィブリノゲンの低下

⑦プロトロンビン時間(PT)の延長

 

まとめ

重篤な基礎疾患に起因するために、DICを合併することで予後不良となります。発見が遅れれば遅れるほど死亡率は高まりますので、早期発見・早期治療が非常に重要となってきます。

起因する基礎疾患の有無や所見、各種検査データなどをもとに、DIC発症の可能性を分析し、少しでも可能性のある場合には、患者の状態を細かく報告し、鑑別の依頼を仰いでください。

鑑別によってDICだと認められない場合でも、その事実が分かることで原疾患の早期治療に寄与しますし、決して無駄にはなりません。過度な血液検査は医療従事者への負担に繋がりますが、患者を第一に考え、行動に移しましょう。

 

参照・引用文献

1)中川雅夫:本邦における播種性血管内凝固(DIC)の発症頻度・原因疾患に関する調査報告. 厚生省特定疾患血液系疾患調査研究班血液凝固異常症分科会, 平成10年度研究業績報告書. 57-64, 1999.

2)DIC診断基準作成委員会:日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案, 血栓止血誌 25: 629-646, 2014.

採血はナースの腕の見せ所!看護師に嫌われる血管あるある6選

$
0
0

看護師の採血

採血は看護師の腕の見せ所。でも、看護師によって得意・不得意が大きく分かれますし、患者さんの血管やキャラクターによっても成功するかどうかが大きく左右される手技なんです。

 

看護師に好かれる患者とは?

いつもニコニコしてわがままを言わず、看護師にも優しい言葉をかけてくれる良い人でも、血管がまったく見えずに採血に苦労する患者は、「良い患者ランキング」では下位。

 

逆に、ちょっとわがままでも、まっすぐで太くモリモリ見える血管の患者は「良い患者ランキング」は上位に食い込んでくる。

 

看護師に嫌われる血管・患者6選

1.プレッシャーをかける患者

「私の血管は難しいわよ~。一発じゃなかなか取れないの~。」という無意味な脅し&プレッシャーはやめて欲しい。そんなことを言われると、失敗する確率が上がる気がする。

 

「○○さんの採血は痛くなくて、しかも一発で成功したのよ~。」と言う患者。「そうなんですか~。できるだけ痛くないようにしますね!」と笑顔で言いつつも、内心は全力で舌打ち。

 

2.蛇行している血管

蛇行していて、しかも逃げやすい血管の患者。1回目の採血で失敗すると、「次はちゃんと成功させてよね~。こっちは痛いんだからさぁ。」と文句を言われる。

 

3.曲がっている根性と血管

「すみません」と謝りつつも、「あんたの血管が悪いんだよ!あんたの根性が曲がってるから血管も曲がってるんじゃないの?」と言い返したくてたまらない。

 

4.脂肪に埋もれて浮き出てこない血管

採血前に腕をだらんと下に向けてもらって、駆血帯をきつめに巻くなどできる限りのことをしても、脂肪に埋もれて全然血管が浮き出てこない患者がいると、「この人、血が通ってないロボットなんじゃないの?」と本気で疑う。

 

5.血管を指定する患者

「あ、採血ならこの血管でお願い。」と採血する血管を指定されると、変なプレッシャーがかかるからやめて欲しい。血管はこっちで選ばせて!

 

6.「痛い」と大きな声で言う患者

針を刺した瞬間、「痛~い!」という患者。笑顔で「すみません。すぐ終わりますから。」と言うけど、心の中では「採血は針を刺すんだから痛くて当然。ほかの患者に聞こえるから大きな声で言うな!」とイライラ。

 

採血あるある8選

1.夜勤前の情報収集の段階で、翌朝の採血予定の患者の数が多いとげんなり。さらに、採血しにくい患者が多いとゲッソリ。

 

2.採血しにくい患者が多い時は、採血のための時間をできるだけ多く確保するために、夜勤中はガツガツ仕事をして、できる仕事は早めに終わらせなくちゃいけない。

 

3.夜勤勤務中の朝の採血。眠くて意識が朦朧としているためか、血管の狙いがなかなか定まらず、針先がぶれてしまってちょっと焦る。

 

4.採血は採血スキルよりも、「絶対に一発で取ってやる」という気持ちが大事。それはよくわかっているんだけど、採血しにくい患者さんの場合は、ちょっと弱気になって予備の針を数本用意する。←もうこの時点で失敗確定・・・。

 

5.採血が得意で、どんな患者さんでも成功させる先輩看護師。自分が失敗した患者さんの採血を難なく成功させるのを見ると、普段はちょっと嫌味な先輩でも「神!」とあがめたくなる。

 

6.3人失敗した患者の採血を一発で取れたときの爽快感は、何物にも代えがたい!採血成功後にナースステーションに戻るときは、ちょっとドヤ顔になっていることもしばしば。

 

7.2回の失敗後、ようやく成功して、スピッツを検査部に出したのに、検査部から「溶血してます」と電話が来た時の絶望感・・・。

 

8.「すいません。もう一度、採血させて下さい。」と平謝りしつつも、患者さんからの「もう失敗は許さない!」という無言のプレッシャーを感じ、変な汗をかいてしまう。

 

最後に

看護師の採血あるある、いかがでしたか?採血は看護師の基本的な技術の1つですが、患者さんとの精神的な駆け引きがある奥深い手技なんです。

 

採血が得意なら患者さんからのプレッシャーも楽しめるのかもしれませんが、そこまでの域に達するのは難しくて、やっぱり一喜一憂してしまうんですよね。

尿路感染症患者に対する看護目標・看護計画(OP・TP・EP)とケアの方法

$
0
0

尿路感染の看護

尿路とは、腎臓で作られた尿が体の外に出るまでの「道」です。その「道」には腎臓、腎盂、尿管、膀胱、尿道、外尿道口といった器官があり、尿はこの順に移動していきます。

尿路を構成している器官に細菌やウイルスが感染するのが尿路感染症です。尿路感染症を起こす主な病気は、膀胱炎、尿道炎、腎盂腎炎が知られていますが、それ以外でもマイナーな病気が存在します。

尿路感染症を引き起こすそれぞれの病気には、痛み方に特徴があるので、尿路感染症の入院患者に対する看護では、患者の痛みの訴えを注意深く観察する必要があります。

 

1、尿路感染症の基礎知識

尿路感染症を引き起こす3大疾患である、膀胱炎、尿道炎、腎盂腎炎について、基礎的な知識を身に付けておきましょう。

 

1-1、膀胱炎とは

膀胱炎では頻尿や排尿時の痛みなど、排尿障害が見られます。ただこうした症状が出るのは、数時間か1日程度です。

しかし排尿障害の症状が消えても膀胱炎の原因が取り除かれていなければ、膀胱炎は悪化します。排尿障害の次に現れる症状は、発熱や尿の濁り、血尿などです。

また膀胱炎では無症状であることも少なくありませんが、無症状であることは軽症であることを意味しません。痛みがないからといって膀胱炎を放置すると炎症が尿路全体に広がってしまいます。

膀胱炎は女性に多い病気です。男性と比較すると尿道が短いため、細菌が多く存在する膣や肛門と膀胱が近接しているからです。

また、妊娠中の女性は膀胱に物理的な圧迫が加わることから、膀胱を空にすることが難しくなり、これにより膀胱炎が起きることもあります。膀胱に絶えず尿が存在していることは、尿路感染症の大きなリスクになります。

性交も女性には膀胱炎のリスクになります。性交時の動きが尿道の細菌を膀胱に押し上げてしまうためです。男性は射精により、精子と一緒に尿道中の細菌が体外に排出されるため、性交は膀胱炎リスクになりにくいとされています。

 

1-2、尿道炎とは

尿道炎の症状の特徴は、排尿時の痛み、急な強い尿意、頻尿です。尿道炎は、単純ヘルペスウイルス、クラミジア、淋菌などに感染して発症します。いずれも性交渉によって感染が広がります。

尿道炎の治療では、分泌物の分析が必要になります。綿棒を尿道に挿入し分泌物を採取し、それを検査することで原因菌を特定するのです。薬物療法がメーンとなり、抗生物質が処方されます。

 

1-3、腎盂腎炎とは

腎盂(じんう)は、腎臓の器官のひとつで、尿を一時的にためておく空間です。また、尿路の出発点でもあります。

尿路感染症を引き起こす細菌やウイルスは元来、尿の中には存在しません。外部から侵入し、尿の中に潜伏するのです。細菌やウイルスは、尿路と外部との接触点である外尿道口にまず付着して、そこから川をさかのぼるように、尿道、膀胱、尿管、腎盂へと到達します。つまり、腎盂腎炎は最も感染が進んだ状態ともいえるのです。

また腎臓という生命に直接関与する臓器に発症することから、症状は膀胱炎や尿道炎より重くなることが一般的です。腎盂腎炎は排尿障害にとどまらず、悪寒や発熱、嘔吐、背中の痛みなど、苦しい症状が起きます。

糖尿病患者や、抗がん剤治療を受けている人など、免疫機能が低下している人は、腎盂腎炎のリスクが高まります。

 

2、尿路感染症の看護目標

看護目標は、尿路に発生している炎症の消失です。排尿障害をなくし、通常の排尿パターンを取り戻すことを目指します。

また、細菌やウイルスの感染は生活習慣を改善することで回避できることが多いので、看護師は患者に対し、再発予防策を指導する必要があります。

 

3、尿路感染症の看護計画

尿路感染症の看護では、症状を引き起こしている原因を取り除くことが必要です。細菌やウイルスの除去、さらに尿の滞留の解消が看護計画の柱となります。

また、尿路感染症の治療法の選択では、患者の痛み方が重要な情報になります。看護師には、患者の痛みの訴えに耳を傾けることと、状態の変化を看護記録に詳細に記載することが求められます。

さらに高齢患者の場合、体力の消耗が合併症を引き起こすことがあります。そのため、看護計画の作成では体力の保持も重要課題になりえます。

以下にて、O-P(observation plan、観察項目)、T-P(treatment plan、直接的なケア)、E-P(educational plan、患者への教育と指導)についてご説明します。

 

3-1、尿路感染症のO-P(観察項目)

尿路感染症の看護の観察ポイントは、体温、悪寒、嘔吐、頭痛、倦怠感、食欲など、全身に及びます。全身管理が必要なのは、炎症の大きさや感染場所の範囲などにより、体調が激変する可能性があるためです。

また、痛みの観察では、特に排尿時の状況を患者から聞き取る必要があります。聞き取りにあわせて、尿道の視認も必要になり、周辺の皮膚の膨張や発赤の有無を確認します。患者は性器を観察されるわけですから、羞恥心への配慮は本来看護としてとらえておく必要があります。

また頻尿がある患者の観察では、特に夜間時の排尿回数の記録に注意してください。夜勤帯は看護師の人数が限られていますが、排尿回数を正確に記録することが求められます。

血尿が出ている患者は、看護師が尿を視認する必要があります。尿の色、臭いなどが観察ポイントとなります。

 

3-2、尿路感染症のT-P(直接的なケア)

尿路感染症の患者には抗生物質が処方されているので、看護師はその効果の有無を確認しなければなりません。

さらに、尿路感染症の患者は1日1.5~2リットルの水分補給が必要となります。この量は、食事に含まれる水分を除いたものです。水やお茶などでこの量を摂取します。そこで患者の水分摂取量と尿量を記録する水分出納のチェックが必要になります。

患者は安静に臥床させ、安楽に過ごせるよう体位を工夫します。食事面では、免疫が落ちていることや、体力が低下していることなどを考慮して高カロリー、高タンパク質を基本として、ビタミンの補給も心掛けます。

痛みが激しい場合、医師の指示をあおぎ鎮痛剤を使用することがあります。また高齢者の場合、排尿と排泄後の陰部の清潔保持が難しい状況が考えられますので、看護師が支援する必要があります。

 

3-3、尿路感染症のE-P(患者への教育と指導)

尿路感染症は再発を予防できる病気といえます。看護師は患者の入院期間中に予防法を指導しなければなりません。

規則正しい生活、陰部の清潔保持、1日の水分補給1.5~2リットルは、患者に習慣付けてもらわなければなりません。

生活習慣では、特に女性は意図的に排尿を制限する傾向があるため、それを避けるように指導してください。尿を貯めないことが予防につながるからです。また退院後に排尿時に異変を感じたら、すぐに医療機関にかかるよう伝えてください。

病気への理解も欠かせません。医療従事者ではない一般の患者にとって、尿路感染症は細菌やウイルスに感染しなければ発症しない、ということを理解することは案外難しいことです。自然発生する病気ではないことや、細菌やウイルスを遠ざける生活の重要性を理解させるためには、口頭での説明に終わらず、紙の資料を渡すとよいでしょう。

また高齢者の患者に対しては、家族への助言が欠かせません。介護施設に入居中の患者には、介護施設の職員にも注意喚起しましょう。

 

まとめ

尿路感染症を引き起こす病気は、女性と、男女の高齢者に多く見られます。体調不良や過度なストレスを受けるなど、弱っているときほど症状は重くなります。尿路感染症の患者に対する看護では、体力と免疫力のアップ、そして再発予防策の指導が必要です。入院期間中に目に見えて改善することが多いため、患者の痛みの変化を見落とさないようにしましょう。

食事介助の看護|各患者に適した介助法と事故防止のための注意点

$
0
0

食事介助の看護

入院患者に病状に応じた適切な食事を提供することは、疾患の治癒の促進を図ったり、健康回復に貢献したりすることから、治療のひとつと考えられています。

また、患者の食事の仕方には多くの健康情報が隠されているので、看護師は患者の健康情報を取得するためにも、健康促進のためにも、食事介助を行う時には患者の入念な観察が必要不可欠です。

病院食のエキスパートは管理栄養士になりますが、看護師もその知識を有していないと食事介助によってかえって健康被害を引き起こしかねないため、営業学に基づいた安全・安楽な食事介助を目指してください。

 

1、食事介助とは

疾病や高齢など、さまざまな要因に伴って、自分の力でうまく食事ができないという方がいらっしゃいます。私たちは生きていくために栄養をとる必要がありますが、うまく食事ができない方は、必要な栄養を十分に摂ることができません。

栄養を十分に摂ることができなければ、疾病に打ち勝つことはもちろん、健康的な生活を送ることもできないため、そういった方に対しては寄り添いながら食事の介助を行う必要があります。

日々の忙しい看護業務において食事介助は流れ作業になりがちですが、食事中は患者がリラックスしているときでもあるので、食事介助は患者との信頼関係を築く好機になります。

また、十分な栄養素をいかに摂取できるかは、介助者である看護師にかかっていると言っても過言ではありませんので、患者の情報を詳細に把握し、各患者に合った介助法を実践しなければいけません。

 

1-1、食事態勢の準備

食事の前にはまず、患者の排泄を済ませておくことが大切です。複数人部屋の場合、1人の患者が食事中に尿意や便意を催すと、本人だけでなくほかの入院患者の食事環境も損なわれます。そのため、排便コントロールと食事介助はワンセットで考えておく必要があります。

次に患者の意識状態を観察し、望ましい体位をセッティングします。食事介助が必要な患者は、手が不自由なだけでなく全身が弱っていることが多い傾向にあります。

全身の調子は食べ方に大きく影響するので、「咀嚼が苦手」「飲み込みが悪い」「味覚障害」といったどの器官がどのように弱っているのかという情報は、事前に把握しておく必要があります。

 

1-2、食べさせる際の注意点

食事介助が必要になっている患者は、咀嚼と飲み込みがとてもゆっくりになっています。看護師は患者の食べるペースを把握して、食材を口に運びます。また「ひと口サイズ」は患者によって異なり、食べる快適性に大きく影響することも覚えておいてください。

口の中に食材や水分の溜め込みがないかの確認はひと口ずつ行う必要がありますが、だからといって患者にひと口食べ終えたごとに口を大きく開けてもらうわけにもいきません。そこで看護師が自分の視線の位置を工夫して、スムーズな確認を心掛けてください。

水分を与えるタイミングも重要です。特に高齢患者の場合、患者の要求を待っていては必要な水分量を与えられないことがあります。さらに1日の水分補給量が1500mlに設定されている患者は、食事のときに多く飲んでもらう必要があります。「食べた物を胃に送るために、ここで水を飲みませんか」などと小まめに促しましょう。

 

1-3、観察項目

患者の情報を詳細に把握していなければ、上手く介助を行うことができず、時として患者にとって“楽しくない食事”になることもあります。また、誤嚥を引き起こすこともありますので、必ず以下の情報を詳細に把握しておいてください。

 

・  意識状態、嚥下機能

・  咳、むせこみ、痰

・  消化器症状の有無

・  食欲、嗜好の変化

・  食事姿勢の変化、声の変化

・  食前食後の疲労感

 

こうした観察項目は後できちんと記録しておかなければなりません。さらに、食事介助の終了後も、摂取量または食べ残した量、食べ残した食材、食事に要した時間も観察記録に記載しておいてください。

食事介助時の観察では、1食1食ごとの様子に加えて、1週間単位や1カ月単位での「連続した摂取状況」の把握も求められます。栄養状態や全身状態の観察は、そうした長期的な視野が必要になります。

 

1-4、正しい食習慣を指導する

多くの生活習慣病の原因に「食生活の悪化」が挙がっていますので、看護師は絶えず「患者の日頃の食習慣は正しいだろうか?」という疑問を持っておく必要があります。特に朝食を食べない人は多いため、入院によって久しぶりに朝食を食べるという患者は珍しくありません。こうした患者には、退院後も3食を規則正しく食べる習慣を身に付けるよう指導しましょう。

 

2、入院治療における食事の意義

食事介助を的確に行うためには、入院治療における食事の位置付けについてしっかり理解しておく必要があります。「入院中の食事」の中には経管栄養による食事も含まれますが、ここでは経口摂取について取り上げます。

口と喉を使って食べることは患者に「食べる喜び」を実感させることができ、それは「生きる喜び」につながります。食事介助には栄養学的なアプローチに加えて、こうした精神的なアプローチも重要となります。

 

2-1、食べさせない食事、凶器となる食事介助

食事はエネルギーを得るための行動と考えられがちですが、入院治療では絶食というあえてエネルギー摂取量をゼロにする「食事」もあります。つまり看護業務では「食べさせない食事介助」も存在し、これは患者に我慢を強いることになります。

また経口摂取は口のほかに喉という臓器を使うため、食事介助をする看護師は患者の嚥下機能の確認が欠かせません。特に高齢者の嚥下機能は日々変化し、ときには食事ごとに変わります。

嚥下機能の低下を見過ごしたまま不適切な食事介護を続けて、その結果誤嚥性肺炎を引き起こした場合、食事介助が患者を悪化させたことになってしまいます。入院中に誤嚥性肺炎を発症し死亡する事故も珍しくはないため、「食事介助が凶器となりうる」ということをしっかりと覚えておいてください。

 

2-2、3種類の食事形態の特徴をよく理解した食事介助を

病院食には、「常食」「軟菜食」「流動食」の3つの形態があります。「常食」は特殊な食事療法を必要としない患者向けのメニューで、使用する食材や調理法は健康な人が日頃の生活で食べているものと変わりません。

「軟菜食」における主菜のコメは、全粥、七分粥、五分粥、三分粥などで提供され、副菜も火をよく通して軟らかくなっています。患者の消化管への負担を小さくする狙いがあり、主に消化器の機能が低下している患者や嚥下障害を持つ患者に対して提供されます。「流動食」は重湯やスープのことで、固形物が入っていない食事です。

看護師がこの3種類の食事形態に特に注意しなければならないのは、消化器系の手術を行った患者です。看護計画では「入院○日目はこの食事形態」ということが「決まっている」病院も少なくありませんが、その「決まり」はあくまで「目安」にすぎません。看護師は日々の食事介助時の観察から的確な食事形態を考え、医師や管理栄養士にアセスメントする必要があります。

 

3、治療食

治療食はそのほかの病院食よりメニュー管理が厳しくなっています。看護師はそれぞれの治療食の意義を把握しておく必要があります。治療食の名称とその狙いをまとめました。

 

低残渣食 消化しやすい食材や調理法で作られた食事で胃や腸の病気の患者向けです。
糖尿病食、脂質異常食 糖尿病や脂質異常症は、特定の血中成分が異常値に達している病気ですので、こうした患者の治療食では特定の栄養素を控えてあります。
肥満症食 肥満症の治療で出される食事で、エネルギーは1日3食の総計で400kcal程度に抑えられています。
先天性代謝異常食 アミノ酸代謝異常症や有機酸代謝異常症など、各種の先天性代謝異常患者向けの食事で、メニュー管理は特に厳格になります。
アレルゲン除去食 食物アレルギー反応を持つ患者向けの食事で、特定のアレルゲンを含みません。アレルギー反応の有無を調べる狙いがあります。
低菌食 白血球が低下している患者には、感染リスクを回避したメニューが提供されます。

 

まとめ

豪華な食事を提供する病院が最近増えています。かつては「病院食はまずい」といわれていた時代がありましたが、多くの医療機関が病院食の改善に取り組んでいます。

こうした傾向の背景には、食事の改善が治療効果に影響を与えているという多くのエビデンスがあり、看護研究のテーマになることも少なくありません。

食事介助の効果的な方法は、患者によって大きく異なりますので、患者の情報を詳細に把握した上で、各患者に合った介助法を実践していってください。

歩行介助の看護|目的と種類、安全を考慮した効果的な介助方法

$
0
0

歩行介助の看護

看護者にとっての歩行介助は、「目的の場所まで安全に安楽に移動することを介助する」と定義づけられます。しかし実のところ、だれにとっての「目的の場所」でだれにとって「安心、安楽」なのでしょうか。

ここでは看護される側を「患者さん」、介助する側を「介助者」として、歩行介助の目的と技術などについて検討したいと思います。

 

1、歩行介助とは

歩行介助とは、文字通り、歩行の介助を行うこと。つまり、自力で歩行することがままならない患者さんの歩行運動をサポートすることを示します。主たる目的は歩行移動中の転倒防止です。

具体的には病床から歩いてトイレや洗面所、あるいは検査室へ移動したり、リハビリを目的とした自力歩行復帰への介助作業として、看護師や作業療法士(OT)には、患者さんが転倒することなく移動することができるよう、安全で正確な介助技術が求められます。

 

2、歩行介助が必要となる原因は

患者さんが歩行困難になる原因はさまざまです。事故や外科的な疾患でそれまで正常に歩けていた人が歩行困難になることもあれば、高齢により足腰が弱くなり、介助無しで歩くことができなくなった場合もあります。特に高齢者の場合は、移動に伴う転倒により、骨折などを招き、寝たきりになってしまうケースも少なくありません。

患者さんがどうして歩行困難になったかを理解することは、介助の方法を探る一助にもつながります。介助法にはいくつかありますので、介助を受ける患者さんに合った“安全・安心・安楽な介助”を目指しましょう。

 

3、歩行介助の種類

歩行介助には単純に杖や歩行器など、歩行での移動をしやすくする器具を使用する場合と、使用しない場合があります。器具を使用した移動でも、階段など介助者がいなければ不可能な場合も考えられますので、ここではまず歩行介助の種類について、みていきましょう。

 

3-1、手引き歩行介助

手引き歩行介助とは、介助者と患者さんが向かい合って立ち、両手を繋いで介助者が後ろ向きに歩く方法です。両手引き歩行介助、手歩き歩行介助ともいいます。移動する距離が短い場合や、転倒の危険性が高い場合に有効な歩行介助法です。

介助者は患者さんの表情をつぶさに観察することができますし、互いに手を握り合っているので、お互いに安心感が生まれます。手に力がない患者さんや、歩くことに消極的な患者さんについては、肘を支えると効率よく介助することができます。

手引き介助は、患者さんが安全に歩くために、介護器具が必要かどうかを判断する基準として行う場合もあります。患者さんの全身状態の把握や、リハビリに対する患者さんの心構えを聞くことも今後のリハビリ計画に大きく関わってくるので、手引き歩行介助の際に把握しておくとよいでしょう。

患者さんの歩く姿勢や歩幅をしっかりと観察し、介助者は患者さんの歩行リズムやペースに合わせて、ゆっくりと歩く事が大切。さらに歩行面や歩行環境の状況を言葉で丁寧に説明してあげることも患者さんの安心感につながります。

手引き歩行介助の場合、介助者は後ろ向きで歩くようになるため、患者さんの状態のほか、自分の足元や背後も含め十分な注意が必要になってきます。

 

3-2、寄り添いながらの歩行介助

杖や歩行器などの器具を使用せず、介助者が患者さんの横に立ち、寄り添うかたちで行う歩行介助法です。この場合、患者さんの身体麻痺がないことを前提に行います。

介助者は患者さんの左側に立ち、患者さんの左脇下に右手を差し入れ、左手で患者さんの右手首を軽く握り、支えます。患者さんの体をホールドした感じで姿勢が安定したら、患者さんの歩行リズムや歩幅、ペースに合わせてゆっくりと歩きます。

寄り添いながらの歩行介助の良い点は、介助者・患者さんともに進行方向を向いているため、障害物を事前に確認し、それを回避できる点にあります。

また、患者さん自身も自力歩行における身体のバランスが取りやすく、介助者も患者さんをホールドしていることで患者さんの身体バランスを把握しやすいということがあり、歩行中にバランスを崩しても即座に支えることができます。

 

3-3、杖を使用している場合の歩行介助

事故などで単純に片足を骨折するなど、もう片方の足で立つことが可能な場合に補助器具として杖を使うことができます。

また、高齢になると脚の筋力が衰え、力が入らなくなったり、立った姿勢を維持することができないなど、さまざまな障害が出てきます。その中には1人では歩くことができなくても、杖を使用し、介助があれば歩ける患者さんもいます。

杖にもT字杖や四脚杖、ロフストランドクラッチ、ステッキなど身体状況に合わせて種類はさまざま。しかしながら、杖を使用している患者さんの歩行介助は、基本的に同じになります。この場合、介助者は患者さんが杖を持つ側とは逆側に立ち、視線は患者さんと同じ進行方向を向いて、患者さんの脇下に手を差し入れ、手首を軽く握りながら、被介護者の身体を支えます。

介助者は、患者さんの歩行リズムや歩幅、ペースに合わせて、患者さんと同じ様に脚を踏み出すことが大切。

また、介助者の脚で患者さんがつまずかないように、患者さんの踏み出した後に脚を出すと良いでしょう。

 

3-4、片麻痺のある場合の歩行介助

脳血管障害などにより、脳の“運動をつかさどる部分”などが損傷し、身体の片側半分を動かすことができない症状を片麻痺といいます。片麻痺のある患者さんに対する歩行介助は、3-3で述べた杖を使用している場合の歩行介助に通じる点があります。

患者さんの麻痺のない側(健側といいます)で杖または手摺などを持たせ、介助者は麻痺のある側に立ちます。さらに手を患者さんの腰に置き、身体を支えます。この時、患者さんの衣類を掴まないようにします。患者さんがバランスを崩したとき、身体を支えきれず転倒する恐れがあるからです。

片麻痺のある場合の歩行介助は、患者さんの健側に重心が傾き過ぎないように注意する事が大切です。できるだけバランス良く歩行移動できるように配慮する必要があります。

麻痺がある場合は、転倒の危険性も増します。患者さんの身体状況も他の歩行介助と比較して深刻になっていますので、患者さんにとって安心・安全・安楽な歩行をいっそう心掛けましょう。

 

4、歩行介助を行う場合の注意点

歩行介助中に患者さんが転倒しそうになった場合、介助者はそれを防止しなければなりません。しかし、転倒は突発的に起こる事が多いため、防ぐことが非常に難しいという側面があります。

転倒は骨折につながることが多く、患者さんによっては寝たきりになる場合があります。転倒による骨折を防ぐため、歩行介助中にバランスを崩し転倒した場合、無理に腕を引っ張って転倒を防止するのでは無く、介助者が身体全体で患者さんを受け止め、安全に”着地”させ、骨折から患者さんを守る方法を取りましょう。

そのために、歩行介助中、介助者はできるだけ重心を低くし、患者さんとの距離を近くします。また、患者さんの重心をできる限り移動方向に持って行くように支えるとよいでしょう。

転倒はとっさの出来事で対処しづらい点もありますが、日頃から歩行の様子を良く観察し、歩行中は目を離さないことが大切です。特に足元がおぼつかない患者さんの場合は、介助者は片手を患者さんの腰に添え、とっさの場合にいつでも支えられるよう、準備をしておくことが大切です。

 

5、安全に行う歩行介助のポイント

歩行介助は、患者さんの歩行動作からの転倒を防ぐだけではなく、患者さん自身の“歩ける!”という自尊心や自立心を高め、これからの生活の質を高めることも兼ね備えています。介助者はいずれの歩行介助時であろうと、患者さんに対して十分な観察と配慮が必要となります。

転倒を一度でも経験してしまうと、その恐怖心から歩行への意欲や興味を一挙に失ってしまい、自律して歩こうとすることから遠のいてしまいます。介助者は常に患者さんが安心して歩行できるように介助しなくてはなりません。そのためにも、次に挙げるチェックリストを参考に、歩行介助の見極めとして活用するとよいでしょう。

 

・  患者さんに歩く意志があるのかを確認→歩く意志の無い場合は無理に歩かせない。

・  歩行する進行方向に障害物が無いかをしっかりと確認→障害物は撤去する。

・  片麻痺がある患者さんの場合、麻痺側から支える→健側に重心が掛かりすぎないようにする。

・  一歩ずつ、患者さんのペースに合わせながら歩行する→介助者が主導して歩かない。

・  患者さんの身体を支える場合、力を入れ過ぎない→患者さんが介助に依存しないようにする。

・  患者さんの歩く姿勢を観察し、腰が引けている場合には無理に歩かせない→まずは立姿勢を整え、体のバランスをとるようにする。

・  歩行時は靴や履き物にも配慮して、歩きやすいものにする→滑りやすい履物、サイズに合っていない履物は、転倒の危険がある。

・  移動距離や通路の状況によって、介助の方法を変える→安全・安楽に移動できる方法を臨機応変に考える。

 

あくまでも介助であることを忘れず、介助者に全面的に体を預けるなどの様子が患者さんにうかがえた場合は、歩く意志がないということで歩行介助はやめた方がよいでしょう。

 

まとめ

過度の介助は患者さんの自立心を阻害すると考えられており、高齢者の場合はそれが生活全体に顕著に現れることがあります。あくまでもリハビリや自立心を阻害することのないようにしましょう。患者さん一人一人の心身の状態に気を配ることこそ、看護師の歩行介助といえるのです。

水頭症患者に対する看護目標・看護計画と具体的な看護ケアの方法

$
0
0

水頭症の看護

水頭症の代表的な治療法は、V-Pシャント術(脳室腹腔短絡術)です。この手術は脳に物理的にアクセスするため、術後の看護では急変に備える必要があります。

また、全身麻酔下で行い、手術時間は3~4時間を要します。患者やその家族は「とても大きな手術を受ける」という覚悟で臨みます。看護師は、患者と患者家族の心理的なストレスにも配慮する必要があります。

 

1、水頭症とは

水頭症は、頭蓋骨内の脳脊髄液が増えてしまう病気です。頭蓋骨内の脳は、「水」に浮いた状態にあります。この水のことを脳脊髄液といいます。脳脊髄液は、脳内の血管から染み出してきて、まず脳室という空間にたまります。脳室から脳全体に脳脊髄液が行き渡り脳を保護しています。

脳脊髄液は古くなると血管に吸収され、血液と一緒に頭部から出ていきます。健康な人の脳脊髄液は、血管から染み出てくる量と血管に吸収される量が同じなので、頭蓋骨内の「水」の量は一定に保たれます。

水頭症には、生まれながら脳に異常がある先天性水頭症と、脳腫瘍を発症したり頭部を損傷したりして発症する後天性水頭症があります。

いずれも、古くなった脳脊髄液の血管への吸収が滞り、そのため脳脊髄液をためておく脳室が拡大して、脳全体を圧迫していきます。

 

2、V-Pシャント術とは

水頭症は脳内の脳室という空間に、脳脊髄液という「水」がたまりすぎている病気なので、治療の目標はこの「水」を抜くことです。

比較的軽症の場合は、頭蓋骨に穴を空けそこに管を通して脳室まで到達させ、脳脊髄液を吸い取って体外に出します。これを脳室ドレナージといいます。しかしこの方法では、再び脳脊髄液が増えてしまったら、同じことを繰り返さなければなりません。

そこで脳脊髄液が継続的に増えてしまう患者には、V-Pシャント術を行います。全身麻酔下で脳に穴を空けるのは、脳室ドレナージと同じです。V-Pシャント術ではその後、シャントチューブという20~60cmほどのシリコンの管を挿入し、体内に埋め込みます。シャントチューブの片方の先端を脳室に挿入し、他方の先端を腹腔内に置きます。

こうすることで脳室という「池」にたまった「水」が、お腹の中という「海」に流れ出ることができます。腹腔内にやってきた脳脊髄液は自然に体内に吸収されます。

 

3、水頭症の看護目標

V-Pシャント術を受ける水頭症の患者は、手術前日に入院します。入院期間は8泊9日を標準とする病院が多い傾向にあるため、その期間内に患者を元の生活に戻すことが看護目標となります。

しかしV-Pシャント術後の患者は一時的に、失見当識や歩行障害、尿失禁を起こすことが少なくありません。また、低脳圧という合併症を起こすこともあります。水頭症患者の看護では、こうした障害や合併症を回避したり、克服したりすることが目標になります。

 

4、水頭症の看護計画

V-Pシャント術のクリニカルパス(入院診療計画書)は、一般的に8泊9日で組まれます。水頭症患者は、手術前日に入院し、CT、レントゲン、採血、心電図、呼吸機能など、手術に備えた検査を行います。また頭蓋骨に穴を空けるので、頭髪を除毛します。この日は夕食まで食べることはできますが、21時以降は絶食です。

入院2日目が手術日になります。この日は完全に絶食です。尿に管を入れます。3日目となる手術翌日はCT検査と採血を行います。この日の昼食から食べることができます。順調だとこの日から尿の管を抜くことができ、自力歩行でトイレに行くことが許されます。シャワーが許されるのは、5日目からです。

しかし、入院生活がこのように順調に進まないケースも珍しくありません。そこで以下に、術後の患者に①意識レベルの低下、②尿失禁と歩行障害、③低脳圧――が生じた場合の看護計画とその実施を紹介します。

 

4-1、意識レベルの低下に備える

シャントチューブを埋めても、すぐに脳室内の脳脊髄液が少なくなるわけではありません。その場合、術後であってもしばらくは脳室は拡大したままなので、意識レベルが低下する恐れがあります。

そこで手術直後のO-P(observation plan、観察項目)は、意識レベル、瞳孔、麻痺、痙攣、言語、頭痛や吐き気となり、こうした観察項目をチェックすることで急激な悪化を防ぎます。

手術をした日のT-P(treatment plan、直接的なケア)は、観察項目のチェックのほかに、採血、点滴などがあります。手術当日の患者は術後もベッドから離れることはできませんが、体調次第でベッドの上に座ることができます。患者は手術前日の21時から手術翌日の昼まで絶食ですので、点滴は24時間行うことになります。検温は4~6時間おきに行います。

E-P(educational plan、患者への教育と指導)としては、手術翌日にはCT検査と手術創の確認があることや、尿の管を抜いて自力歩行でトイレに行けることなどを伝えます。

 

4-2、尿失禁や歩行障害に備える

V-Pシャント術の合併症に尿失禁や歩行障害があります。しかしこれらの異常は手術前の水頭症の症状でもあるため、術後数日が経過していても尿失禁や歩行障害が続くと、患者の自尊心は著しく傷つきます。また患者に「手術は失敗したのではないか」という心配を抱かせることにもなります。

そこで尿失禁がみられる患者のO-Pとしては、失禁回数、排尿パターン、飲水量などが挙げられます。例え失禁を繰り返していたとしても、失禁前にかすかに尿意を感じることができていれば、改善傾向にあることを患者に伝えましょう。尿失禁に対するT-Pとしては、尿量と飲水量のチェック表の作成、陰部清拭などがあります。

歩行障害は術後に必ず起きるわけではありません。順調な患者だと、手術翌日から歩行が可能になります。そこで歩行障害が見られる患者には、歩行ができない程度を観察する必要があります。医師を通じてリハビリ部門へのアセスメントが必要になることもあります。

また、尿失禁や歩行障害は永続的に続くわけではなく、シャントチューブが正常に機能して、脳室の拡大が収まれば自然に改善させることを伝えるようにしてください(E-P)。

.

4-3、低脳圧に備える

シャントチューブを留置する目的は、頭蓋骨内の脳髄液を腹腔内に放出することですが、放出しすぎると頭蓋骨内圧が急激に低下して、低脳圧を引き起こすことがあります。低脳圧を引き起こすと激しい頭痛や嘔吐といった症状に見舞われます。

低脳圧のO-Pは、意識レベル、瞳孔、麻痺、痙攣、言語、頭痛や吐き気などで、看護師はこうした観察項目に十分注意する必要があります。看護師は常に、低脳圧やシャント機能不全を念頭に置いて看護しなければなりません。

また、患者には、急に頭部を動かすと低脳圧を引き起こす可能性があることを十分に説明することが大切です(E-P)。

 

まとめ

水頭症のV-Pシャント術は、医療従事者ではない一般の患者には「頭蓋骨に穴を空ける大手術」と受け止められてしまいますが、脳神経外科ではそれほどリスクがない施術です。医療従事者と一般患者のこうしたギャップを埋めるのも、看護師の重要な仕事になります。

また、水頭症患者は乳幼児から成人、さらに認知症の高齢者まで層が幅広いという特徴があります。E-Pは患者の病気への理解度を把握しながら立てる必要があります。

身体抑制とは|看護分野における問題点と状況に応じた対処方法

$
0
0

身体抑制の看護

精神疾患や認知症患者の看護で問題となりやすい身体抑制。事故を防ぐためにどうしても必要なケースもありますが、本当に抑制しなければならないのか判断に迷うことも多いものです。

病状の悪化や患者・家族とのトラブルを避けるためには、抑制の定義や禁止理念を理解し、職員同士でも意思疎通を図ることが重要です。

 

1、身体抑制の定義

厚生労働省の定義では、身体抑制は「衣類または綿入り帯等を利用して一時的に該当患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限」とされています。「身体拘束」とも呼ばれます。具体的には、厚労省は次の11事例が身体抑制に当たるとしています。

①徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る

②転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る

③自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む

④点滴・栄養管理等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る

⑤点滴・栄養管理等のチューブを抜かないように、又は皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける

⑥車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける

⑦立ち上がる能力のある人の立ち上がりを防げるようないすを使用する

⑧脱衣やおむつはずしを制限するために、介護服(つなぎ服)を着せる

⑨他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る

⑩行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる

⑪自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する

引用:『身体拘束ゼロへの手引き』、2001年

 

2、身体抑制における問題点

医師や看護師はあくまで患者の身を思って抑制の手段をとるわけですが、必ずしも患者のためになるとは限りません。最も問題なのは人の自由を奪うことは人権そのものを奪うに等しいことです。認知症だから分からない、どうせ寝たきりだから動けない…と安易に考えることは許されません。

抑制がかえって病状を悪化させてしまうことも問題です。筋力の低下や固定した部分の褥瘡、食欲の低下を引き起こすことが考えられます。精神的なダメージから認知症がさらに進む、歩けなくなりもっと治療が必要になる、といった悪循環に陥り、そのまま死に至る恐れもあります。

 

3、身体抑制の禁止と「例外」

現在、介護保健施設での身体拘束は原則として禁止されています。精神科病棟についても、「できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならない」とされています。

ただし、抑制がいかなる場合にも禁止されているわけではありません。例えば介護保険施設では、本人や他の患者の生命や身体を守るために「緊急やむを得ない場合」には、例外として禁止の対象から外れます。

「緊急やむを得ない場合」かどうかは、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つの要件をすべて満たすことが必要です。

①切迫性:施設の利用者本人や周り利用者の生命・身体が危険にさらされる可能性が著しく高い

②非代替性:身体拘束の他には替わりの手段がない

③ 一時性:拘束が一時的な対応にとどまる

引用:『身体拘束ゼロへの手引き』、2001年

 

これらの規定を守らずに抑制を行っていれば、高齢者虐待として介護施設の認定を取り消される可能性があります。抑制が患者に精神的苦痛を与えたり、身体能力が低下して病状が悪化したりした場合は、裁判沙汰1)になりかねません。

一方で、適切に抑制しなかったために事故が起きた場合も責任を問われる恐れもあり、判断は悩ましいものです。医師・看護師一人ひとりはもちろん、施設全体で抑制に対する考え方を共有することが大切です。

 

4、医療・介護現場の現状

厚生労働省が2016年3月に公表した調査2)では、全国の病棟・介護施設の65.9%で何らかの抑制が行われていることが判りました。特に医療施設では9割を超えています。医療施設については明確に抑制を禁止する法令がないことが背景にあるとみられます。

一方、抑制をしているかどうかと実際の事故発生件数には、あまり相関がないことが判りました。NPO全国抑制廃止研究会が2010年に発表した調査3)でも、抑制を一切廃止している介護施設では年間の骨折事故の発生件数が1床当たり5.2件、そうでない施設では4.6件と、大きな差はないことが判っています。

抑制に代わる手段としては、ベッドからのダメージ軽減のための床マットや超低床ベッドを使ったり、見守りしやすい場所に移動してもらったり、といった回答が多くなっています。点滴チューブなどが患者の目に触れないようにする病院も多いのが現状です。

 

5、身体抑制に関するマニュアル・ガイドライン

看護師も患者にとっても、なくすのが望ましい身体抑制。どういった対策がありうるのか、色々なガイドラインやマニュアルがあります。代表は上述の「身体拘束ゼロへの手引き」(厚労省)。

他にも全国抑制廃止研究会の「身体拘束廃止のための標準ケアマニュアル」(2008年)、日本集中治療医学会の「ICUにおける身体拘束(抑制)ガイドライン」(2010年)、日本看護倫理学会の「身体拘束予防ガイドライン」(2015年)など、様々な組織が独自のガイドラインをまとめています。

病院など施設単位で抑制ゼロを宣言したり、現場向けのマニュアルを作成したりしている組織もあります。マニュアルをよく認識したうえで、カンファレンスその他で職員どうしでもよく話し合い、判断に迷うときにいつでも相談し合える環境を整えておくことが大切です。

 

6、具体的な回避策

看護倫理学会のガイドラインから、具体的な回避策をみてみましょう。例えばチューブを抜いてしまう患者の例では、まず患者がどうして抜こうとするのかを観察します。挿入部や固定部位の痛み・痒み・不快感はないか、チューブが視界や行動の邪魔になっていないか。

これらの観察事項はあらかじめ看護計画に明記し、経過を記録しましょう。患者にとって苦痛の少ない種類のチューブを使う、固定部位を清潔に保つ、などの工夫で改善できるかもしれません。チューブそのものの抜去を目指して治療を進めることも考えられます。

大声で叫ぶ患者の場合は、何らかの不安感や恐怖心などが原因であることが多くみられます。生活リズムが整っているか、活動不足によるストレスはないか、などをチェックし、夜の消灯で昼夜の区別をつける、馴染みのある衣服や日用品などを身の回りにおいて安心感をもってもらう、などの手段をとってみましょう。

代替手段では改善がみられず、どうしても抑制が必要とみられる場合は、チーム内で議論を重ねたうえで病棟師長など責任者の判断をあおぎます。

患者や家族の思いをよく聞いて、「やむを得ない」3要件に当てはまるか、抑制の目的や継続時間などを明確にさせましょう。観察や対処は看護計画・記録に明記し、抑制継続が必要かどうか、日々の見直しを重ねます。

 

まとめ

身体抑制は1990年代から問題になり、国を挙げて対策が講じられてきました。抑制ゼロへの認識が広まってきた一方、医療・介護の現場の人手不足が深刻になるなか、事故防止のため抑制に頼らざるを得ない状況は増えてきていると言えます。

多忙の中でも、なぜ抑制がいけないのか、という原点に立ち返りつつ、一人で抱え込まず他のスタッフと相談しながら抑制ゼロを目指しましょう。

 

参考文献

1)奥津康祐『看護師による身体拘束に関する最高裁平成22年1月26日判決以降の民事裁判例動向』日本看護倫理学会誌 Vol6、No.1、2014年

2)公益社団法人全日本病院協会『身体拘束ゼロの実践に伴う課題に関する調査研究事業報告書』厚生労働省、2016年

3)NPO全国抑制廃止研究会『介護保険関連施設の身体拘束廃止に向けた基礎的調査報告書』2010年


気管支喘息患者に対する看護目標・看護計画と具体的なケアの方法

$
0
0

気管支喘息の看護

「喘息は大人になったら治る」という考えが一般に広まっているため、気管支喘息は軽い病気であると誤解している人が少なくありません。さらに、発作が起きない状態が続くと「治った」と勘違いされることが多く、このこともこの病気を深刻に考えない傾向に拍車をかけています。

しかし気管支喘息は、悪化と改善を繰り返しながら、数十年という期間を経て肺の機能を低下させ重症化する病気です。最悪、死亡に至ることもあります。

気管支喘息で入院する患者は、激しい発作を起こして救急搬送されるケースが多く、患者や家族は強い恐怖心を持つこともあるため、入院患者への看護では、患者への症状の鎮静化とともに、患者やその家族への心のケアも重要になります。

入院期間中に、日常生活でも発作をコントロールできるよう指導・教育することも看護師の大きな仕事になります。

 

1、気管支喘息とは

気管支喘息の症状は、突然の呼吸困難から始まります。急に「ぜいぜい」「ひゅうひゅう」し始め、すぐに呼吸が苦しくなるのです。患者は横になるとつらいため、椅子に座って前かがみの姿勢を取ります。

呼吸困難の次に患者を襲うのは、激しい空咳です。そのまま放置すると、チアノーゼ状態に陥ったり、血液中の酸素が不足して意識を失ったりすることもあり、そのまま死に至るケースも少なくありません。

 

1-1、発作性疾患説とアレルギー説

気管支喘息は長年、発作性の疾患と考えられてきましたが、近年は、気道のアレルギー反応が原因であるとの見解が主流になっています。しかしいずれの説でも、気道に起きる炎症から発生しているとの見方は共通していて、患者の気道の粘膜を採取すると、炎症を引き起こす好酸球やTリンパ球といった炎症細胞が見られます。

気管支喘息が発作と改善を繰り返すのは、「きっかけ」があるかないかによる、と考えられています。「きっかけ」は人それぞれで、ある人はダニによって喘息発作を起こすことがありますし、そばや魚といった食材が引き金となる人や、解熱鎮痛薬などの薬が引き起こすこともあります。

 

1-2、薬物療法

気管支喘息の治療は薬物療法が行われます。気道の炎症を抑える効果が期待できる吸入式のステロイド薬が主流になっています。また、アレルギーが原因で発作を起こす患者には、抗アレルギー薬で改善を図ります。

また、喉の気管支平滑筋という筋が過度に収縮してしまう患者には、気管を開くために気管支拡張薬であるテオフィリン(商品名テオドール)やベータ2刺激薬といった薬で改善を図ります。

 

2、気管支喘息の入院患者への看護目標

気管支喘息で入院する患者は、ほとんどが激しい発作を起こし救急搬送されるため、患者もその家族も興奮状態にあることが多いでしょう。また小児患者も珍しくないため、患者家族への精神的ケアは、治療に向けた直接的な看護と同じくらい重要になります。

気管支喘息のクリニカルパス(入院診療計画書)は、6日間用と9日間用を準備している病院が多いようですが、ここでは9日間用のクリニカルパスから1日ごとの看護目標を見てみます。

 

入院当日(1日目) 脱水症状の改善、家族の不安を最小限にする、患者と家族を落ち着かせる
2日目 低酸素症状の改善
3~4日目 発作がなくなる、呼吸が楽になる、睡眠の質が改善
5~6日目 喘鳴の軽減、酸素吸入の中止、表情が穏やかになる
7~8日目 食事量が元に戻る
退院日(9日目) 活動が増える、喘鳴がなくなる

 

3、気管支喘息の看護計画と具体的な看護ケア

次に、入院日ごとの看護計画と具体的な看護ケアをみてみましょう。ここでも9日間の入院を想定して解説をしますが、入院期間が短縮した場合でも、すべての課題をここで紹介する順番にクリアしていくことには変わりありません。

 

3-1、1日目は脱水の改善と不安の解消

入院初日は血液検査とレントゲン検査があります。脱水症状を軽減させるため、24時間持続の点滴を行います。吸入式によるステロイドの投与は、退院後は患者自身が行わなければならないため、正しい吸引方法や使用頻度の指導は、患者やその家族の理解度を把握した上で、複数回行うことが望ましいでしょう。

抗生剤の使用はケースバイケースですが、使用する場合は、1日の回数と服用時間を患者に指導するとともに、アドヒアランスを向上させられるよう努めてください。

患者が日頃から気管支拡張薬のテオフィリンを服用しているかどうかの確認は必須です。医師に確認の上、使用しないよう患者または患者家族に伝えますが、医療機関によっては看護師がテオフィリンを預かります。

激しい喘息発作は血液中の酸素を減らし、患者を重篤に陥らせる可能性があります。そのため、患者の指にSpO2モニターを装着し、血中酸素飽和度を計測しなければなりません。場合によっては酸素吸入が必要になります。呼吸状態の観察では、呼吸のリズム・深さ・数、喘鳴音と肺雑音の有無を記録します。

血中酸素飽和度と呼吸の観察に関わる情報は、医師の治療判断を左右する重要事項ですので、これらの測定と観察は退院まで行います。

特に小児患者が初めて入院するケースでは、看護師は患者家族に対し、気管支喘息という病気について説明したり、入院期間に行う治療の説明、疑問点の整理といった手厚いケアをする必要があります。

また、食物アレルギーによって気管支喘息が起きることがあるので、アレルギーの有無は複数回のチェックが必要になります。また給食部門にきちんと情報が伝達されているかどうかも確認しましょう。

 

3-2、2~6日目は薬の効果を確認する

入院2日目から6日目までの期間で、喘息発作の消失や喘鳴の軽減を目指します。静養と薬の効果を待つ期間といえます。

看護師は医師から退院日の見通しを聞き、患者に正しい情報を伝えます。入院期間が短縮される場合はトラブルになりにくいのですが、延長となった場合は思わぬクレームにつながります。

特に症状が治まっているのに入院期間が長引けば、患者や家族は「重大な病気が見付かったのでは」と心配になります。正確な情報を把握するだけでなく、早めに伝えてあげることも心掛けてください。

 

3-3、7~9日目は退院後の生活を見据えた看護を

入院7日目から、気管支拡張薬テオフィリンを使った治療が始まります。医師は、患者の食事量や活動量、喘鳴の程度によって退院日を判断します。

退院後の生活上の注意は、紙に書いたものを渡すとよいでしょう。またこの病気は治療の効果が出やすい反面、長期化しやすいということも、繰り返し伝える必要があります。

過度に恐がらせてもいけませんが、「軽い病気」「簡単に症状が治まった」と認識させないように注意してください。治らない場合でもコントロールは十分可能な病気です。

 

まとめ

気管支喘息の治療は、病院とかかりつけ医の連携も重要です。病院看護師が直接かかりつけ医や診療所看護師と連絡を取ることはまれですが、自院の地域連携室から退院後の患者の情報を得ることは可能です。再入院が珍しくない病気であることを覚えておく必要があります。

病院と診療所がクリニカルパスを共有する「病診連携クリニカルパス」を導入している先進地域の取り組みは参考になるでしょう。

出血性ショックの看護|観察のポイントと症状発現時の対処法

$
0
0

出血性ショックの看護

出血性ショックは重篤化しやすく、対処が遅くなれば死に至ることもある危険な症状です。そのため、徴候や症状の発現時には、速やかに対処する必要があります。

今回は、症状や観察項目、対処法などについて詳しく解説しますので、重篤化を防ぐために、出血性ショックについてしっかりと把握しておいてください。

 

1、出血性ショックとは

出血性ショックとは、出血により血液量が減少し内臓に有効な血流が維持できず血圧低下、冷汗、呼吸困難、尿量の減少、意識障害などの症状で生命の危機に陥ることです。

1時間に100ml 以上の出血が続くと、出血性ショックが起こることがあります。成人の血液量は体重の7%ぐらいで、その20%以上を失うと様々なショック症状を起こします。

 

出血性ショックの原因

外出血 四肢切断、頭部外傷、開放骨折など
内出血 動脈瘤破裂、肺挫傷、子宮外妊娠、胃潰瘍による消化管出血、食道静瘤の破裂など

 

多くは、外傷や血管疾患、消化管出血、手術などの出血によって血液が減少することで起こります。血液量の減少で臓器に十分な酸素が運ばれなくなると、最終的には多臓器不全に至ります。脳や腎臓は多くの酸素を必要とするので、脳梗塞や腎不全になる場合もあります。

 

2、出血性ショックの症状

出血性ショックの初期症状ではどういった症状が出現するのか、進行した場合にはどうなるのでしょうか。

 

2-1、出血性ショックの初期症状

出血性ショックの初期症状では、脳・心臓へ血液が優先的に配分されるため、皮膚の症状は蒼白で冷汗が出たり皮膚が冷たく、湿り気が感じられます。脈の状態は頻脈となり脈が速く弱くなります。これは状態の悪化を示しており、更に早期の対応が必要です。

また、呼吸は早く浅くなり、呼吸不全を引き起こします。心拍出量が減少し、血圧が低下していき心拍数が増加し、末梢血管が収縮します。

爪の圧迫により、末梢血管再充填時間が遅延している場合は指先の血流が不良となり循環障害が生じる可能性があります。

このような症状は循環血液量の15~30%の出血で見られ、循環障害が生じていけば、皮膚は冷感が生じ、蒼白く見えます。

血圧が低下していない場合でも出血性ショックの可能性があるので、出血を伴う症例では、入念な観察が必要不可欠です。

 

2-2、出血性ショックが進行した場合

出血性ショックの状態が続くと全身に循環する血流量が低下し、これによって心拍出量が減少して血圧が低下します。血圧が低下すると脳へ血流を送る圧力も血液量も減り脳への血流量も減少するので意識が朦朧状態となります。

意識が朦朧状態になるとぐったりとし、自力で動けない状態になります。意識が朦朧になることで不安な状態や不穏状態、攻撃的になったり非協力的になるといった症状も生じます。そのまま放置されると、意識レベルは昏睡状態となります。意識障害が生じる前兆として生あくびをすることもあります。

また、血液の循環不全により、酸素が運搬される量も左右されるため、呼吸状態が不安定となり低酸素血症を引き起こす可能性もあります。更に過呼吸を引き起こします。過呼吸になる理由は、血中のpHを保持するために二酸化炭素の排出を増やそうと過度に酸素を吸い込んでしまうからであり、筋組織は低酸素状態になるため、筋力も低下します。

体内の血液量が大量に減ることで更に過度の脱水状態にも陥ります。そして多量の出血が続くと多臓器不全となり、死に至るといった生命に関わるケースもあります。

ショックから助かることができた後にも様々な全身の臓器の機能低下などがあるため、集中的な治療をしばらく継続しなければなりません。

 

3、出血性ショックの観察項目

血圧の低下が出血性ショックの兆候となりますが、血圧が下がる前、脈が速くなった時点で、出血に気付きたいものです。血圧が下がった時点では、すでに相当量の出血があると考えられます。

出血性ショックの治療は、輸液、輸血の準備、出血源の確認と止血などを行います。目に見える出血への対応はもちろんですが、次の症状がないのかまず確認してください。

・  表情はぼんやり、目はうつろになっていないか?

・  皮膚は青白く冷たくなっていないか?

・  冷汗がでているか?

・  唇は紫色か白っぽい。

・  呼吸は速く、浅いか?

・  脈拍は弱く、速いか?

 

出血性ショックを看護する時には、まずよく観察し、頻脈のときには血圧低下がなくても初期症状の可能性があるので、注意して経過を観察する必要があります。

もしも出血性ショックの場合は、気道確保、酸素投与・換気、静脈路確保、輸液投与などの緊急処置を行います。大量の輸液と輸血をする可能性があり、その場合は体温が低下するので保温しておくことが必要です。

止血のため手術が必要とされた場合、看護師は直ちに手術の手配・準備を行うことが必要です。その場合患者さんや家族の了解を取ることが必須となるので、家族に対する緊急連絡は誰がどのような方法で行うか決めておくことも大切です。

 

4、出血性ショックへの対処法

出血性ショックを理解するためにポイントとなるのは血圧です。血圧が低下すると、体では代償機能が働きます。一般的には血圧が低下しますが、血圧が低下する前に、その他の症状が先に現れるので、血圧が下がり始める前に出血性ショックの有無を判断し、迅速な処置を行う必要があります。

出血量が大量であると、心臓に帰ってくる血液の量が少なくなり、全身に送り出す血液の量が少なくなります。ショックの大まかな意味を低血圧だと捉えられることもあります。出血が疑われたら、ショックの徴候がないかを観察します。血圧低下がなくても、頻脈の時はすでに出血性ショックの初期症状の可能性があるので、注意が必要です。

出血性ショックの場合は、気道確保、酸素投与・換気、静脈路確保、輸液投与などの緊急処置を行います。静脈路確保を行う際は、輸血が必要になることを想定して、なるべく太い静脈ルートを確保します。

また、大量の輸液と輸血により体温が低下するので保温を行い、どこから出血しているかを見極めます。術後の患者さんであれば手術による出血が、内科病棟の患者さんであれば下血などが考えられます。止血のため手術が必要とされた場合、看護師は直ちに手術の手配・準備を行わなければなりません。

この場合、患者さんや家族の了解を取ることが必須となるので、家族に対する緊急連絡は、誰がどのような方法で行うか決めておくことも大切なことです。

では応急処置はどのようにすれば良いのでしょうか。まずは出血が疑われたらよく観察し、目に見える体表部分の出血には、可能な範囲で止血を試みることが応急処置となります。

基本的な止血方法としては、圧迫止血法を行うのが一般的です。圧迫止血法には、直接圧迫止血法、間接圧迫止血法があります。

臨床現場以外においては、清潔なハンカチなどを直接傷口に当て、強く圧迫してください。(直接圧迫止血法)。手をビニール袋などで覆い、圧迫すれば血液感染の防止になります。

直接圧迫止血で血が止まらない場合、出血しているところより体の中心部側にあたる動脈を圧迫して血を止めるという方法もあります(間接圧迫止血法)。

 

まとめ

出血とは怪我や手術にはつきものですが、大量の出血は命を脅かすものです。出血は目に見えるものだけではなく、お腹の中や胸の中など体内でも起こり得るもので、ショックの症状が見受けられたら早急な対処が必要となります。

ショック状態、症状などを知ることで、疑わしい症状が見られた時に対処ができることは命を救うことにもなります。まずは出血傾向のある患者に対して入念な観察を行ってください。

看護における行動計画の書き方と記述に際するポイント・注意点

$
0
0

看護師の行動計画

研修中の方や新人の看護師の方であれば、毎日の朝礼で発表することになる”「行動計画」の作成”という行為自体に「苦戦した」という方も少なくないのではないでしょうか。

まだ社会人暦も浅く、看護師として右も左もわからない状態にもかかわらず、課される行動計画の作成というタスク。1日の業務内容を整理して、それぞれに要するであろう時間配分を考えるなど、内容はギッシリです。

今回は、看護における「行動計画」作成の意味と重要性、計画の仕方(書き方)、注意すべきポイントについて、分かりやすく簡潔にご紹介していきますので、「行動計画」に悩んでいる方はぜひ参考にしていただければと思います。

 

1、行動計画とは

行動計画とは、看護過程(看護の目標を成し遂げるための一連の行い)で、看護の目標を計画的に実施していく、いわば看護の指示書のようなものです。患者に看護問題を解決、改善していくため、行動計画にしたがって日々の看護は行われています。

行動計画には、ルーティーンで行われる処置と、看護問題、その解決のための目標と看護計画が書かれており、誰が閲覧してもわかりやすい内容になっています。

つまりは、デイリーの「Todoリスト」のようなものを指していますが、単に「AM10:30 A病棟701号室の田中さん」というタイムテーブルではなく、プラスαとして「何のために」「どのような処置を」という詳細な内容を付け加える必要があります。これが行動計画で重要な要素であり、如何に理解してスケジュールが組まれているのかがポイントとなります。

ちなみに、その際、より情報伝達の精度とスピードを向上させるという意味で盛り込みたいのが「5W1H」という概念です。これは、「いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)」という6つの要素を表し、これに沿って整理することで情報伝達の乖離が少なく、より明確に意思疎通を図ることができます。

 

2、看護過程における行動計画の位置づけ

行動計画は1日のタスクの流れを書いたもので、その中で出てくる複数の対応内容に対して、『行動目標』や『看護計画』、『看護目標』というのが存在します。

1日のタスクには、これら『看護目標』が複数存在して、これらをすべてクリアできた状態が一番望まれる形となります。ちなみに、『看護目標』が完了したのかを評価する基準とされているのが、下記にある5つとなります。

この5つは、看護過程において、独自の知識体系に基づき、ヘルスケア、看護ケアを必要としている対象者に的確に応えるため、どのような計画・介入援助が望ましいかを考え、系統的・組織的に行う活動のことです。詳細は下表のとおりです。

 

①アセスメント 患者の健康問題、または潜在的な問題を把握するために情報を収集するフェーズです。
②看護診断 ①で収集した情報をもとに、優先順位をつけて看護問題か否かを確認するフェーズです。
③看護計画立案 ②の診断結果をもとに、解決と目標達成のために行動計画を作成するフェーズです。
④看護計画実施 ③で立てた目標を実際にアクションに起こすフェーズです。
⑤看護計画評価 ④で実施した結果を踏まえ、その成果・看護計画の改善点などを確認するフェーズです。

 

これらを患者と一緒に繰り返していきます。そして、満足のいく看護が提供できなければ、計画改善もしくは実施内容を見直して、再び①からプロセスをやり直します。

行動計画は、1日の計画を考える上で軸となるものです。通常は行動計画を立てた上で、各々の『行動目標』や『看護計画』、『看護目標』を設定します。ただ、研修中などは、ある程度1日のタスクが実習形式で決められているものであるため、『看護目標』から逆算する形で、行動計画を作成するパターンもあります。

いずれにしても、患者のために行動することは変わらないので、きちんとした行動計画の下、漏れのないように情報共有して、チームで1日の動きを共有して動きたいものです。

 

3、看護実習における行動計画

通常の看護ではもちろんですが、看護実習の際も行動計画の作成と共有が行われます。看護計画に加えて、自身の学習計画も記載していきます。毎日行動計画を発表する病棟が多いので最初は緊張することもあると思いますが、要点を抑えた目標の明確な行動計画を作成できるよう心がけていきましょう。

不明な点や理解できないことなどは、先輩看護師や指導者に積極的に質問や相談をして指示を仰ぎましょう。

看護実習初日は病棟オリエンテーションが行われ、まだ受け持ちの患者が決まっていない場合が多いので、事前準備と挨拶を心がけましょう。それに加え、実習施設の概要や特徴、看護体制など調べられる情報は収集し、余裕をもって初日に臨むことがオススメです。

 

3-1、行動計画の書き方

担当する患者が決定したら、その方の説明と紹介を受けます。そして、看護問題を明確にするため、必要な情報を収集して、先に説明した①アセスメントのフェーズに移っていきます。(アセスメントの方法については、「看護過程の1つ「アセスメント」ゴードン等の書き方と事例」をお読みください)

具体的には、患者の疾患名、治療方針、治療内容、禁忌事項などについて情報を集めていきます。患者と充分にコミュニケーションが取れて、アセスメントによる看護診断から看護問題が見えてきたら、次は行動計画の作成です。行動計画は以下の順序に従って書いていきます。

 

①毎日決まっている処置や予定を先に書き込む

体重測定、経管栄養、リハビリ、診察、面会、患者の方の日課、実習のカンファレンスなど、あらかじめ決められた項目を書き込みます。

 

②残りの時間を調整して、看護計画を立てる

看護計画に記載するのは、看護問題と看護目標、それに必要とされる看護計画のOP(観察計画)、TP(実施計画)、EP(教育・指導計画)と評価欄です。患者の方に対してどんな看護をしたいのか、なぜその看護が必要なのかを考えて適切な看護目標を設定し、看護計画を立てていきます。

 

③学習目標と評価を記載する

看護実習の中で、何を学ぶことができるかという学習目標の記載も重要です。適切な看護援助を体験し今度の看護活動に生かしていけるように、目標設定をして看護への理解を深めていきましょう。

例)

・   患者の方の全体像を把握し、患者の具体的な援助を導くための学習の整理を行う。

・   受け持ち患者の方のバイタルサインが測定できる。

・   身だしなみに注意し実習生としての自覚をもち、挨拶や態度を意識した行動がとれるように心がける。

学習目標と評価を記載する

参照元:なぜ?どうして?シリーズ  メディックメディア

 

4、看護実習での行動計画作成の注意点

  • セッティング準備、看護の実施、片付けまでの流れを時間にゆとりを持って予定する
  • 根拠ある目標設定で、その内容が計画と照らし合わせた際、妥当か否か確認する
  • 患者の体調や活動パターン、日課や処置スケジュール等がわかれば、それらを考慮する

例)体調:午後は疲れやすい、午前中は血圧が低いなど

例)日課:午後の面会前に清潔援助を済ませる、リハビリ後は休憩を挟んで入浴介助を行う

  • 休憩時間の確保を忘れずにしましょう。

 

まとめ

看護における「行動計画」の重要性と書き方などについてご紹介しました。いかがでしたでしょうか。理解しているようでそうでない箇所、まさに今勉強中でなかなか自分事化できずに悩んでいたところは、問題解決に至りましたか。

行動計画を学ぶ課程で、そのほか「看護目標」までの流れやその過程のチェックポイントとして5段階評価が存在すること、様々な点で気づきがあったのではないでしょうか。

きちんと全てのステップが行われて初めて、患者と看護師の納得できる看護が提供できます。先輩看護士や支持者の助けをかりながら、質の高い行動計画の作成を行い、患者の方にとって満足度の高い看護が提供できるように努めていきましょう。そのために、今回の記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

心房細動の看護|診断・検査における観察とケアのポイント

$
0
0

心房細動の看護

不整脈のひとつ、心房細動が増えています。心臓の中の上部にある心房が小刻みにけいれんする病状で大半の人は頻脈になり動悸、息切れなど日常生活に支障をきたします。不整脈のなかでも患者数が最も多く、100万人程度の患者がいると推定されています。

怖いのは血栓ができやすくなることで、その血栓が脳に飛んで脳の血管が詰まる心原性脳塞栓症が多いことが明らかになってきたため、その予防が重要になってきました。

従来は薬物治療が主でしたが、血管内に入れたカテーテルの先端から高周波電流を流して心臓の異常部位だけを焼き切るアブレーション治療(電気焼灼)が根治治療として確立してきました。薬物、根治治療を確かなものにするためには適切な看護、観察が大切です。

 

1、心房細動の基礎知識

心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしている臓器です。心臓の4つの部屋(左心房、右心房、左心室、右心室)のうち、上に心房、下に心室があります。このうち心房が痙攣するように細かく動くのが心房細動です。

心臓の疾患ですが、脳梗塞の原因のひとつです。高齢化社会の進展に伴い増えている病気を未然に防ぐことにつながりますので注意深い看護が必要です。

 

1-1、心房細動とは

右心房上部にある「洞結節」で電気を作り、心房と心室の間にある「房室結節」が電気のタイミングと量を調節することで、心臓の各部屋が適切な速さと順序で動き、血液を全身に巡らせます。

この調節機能がうまく働かないと「心房細動」になり、動悸や息苦しさが起きます。1分間140回以上の頻脈は息苦しさを覚えます。突然起きた場合は、心臓が送り出す血液量が減って血圧が下がることもあります。

 

1-2、心房細動の危険因子と基礎疾患

加齢とともに心房細動は増え、各年齢層とも男性が、女性より有病率が高いことが明らかになっています。欧米より日本人の有病率は低く、その理由は明らかではありません。

心房細動が起きやすい基礎疾患として、器質的な心疾患である心肥大、心不全、心虚血があげられます。また、心臓に病気がなくても高血圧との関係はかなり高いです。

飲酒は男性の場合の危険因子とされ、特に飲酒量増加は短時間でも発生危険度が増すとの研究があります。心原性脳塞栓症の危険因子を評価するため、CHADS2スコアが使われています。

 

CHADS2スコア

  危険因子
Congestive heart failure(うっ血性心不全)/ LV dysfunction(左室機能不全)
Hyper tension(高血圧)
Age>75y(75歳以上)
Diabetes mellitus (糖尿病)
S2 Stroke / TIA(脳梗塞、一過性脳虚血発作)
  合計 0〜6

 

■CHADS2スコアによる脳梗塞発生のリスク

CHADS2スコア 脳梗塞発症率
1.9%/年
2.8%/年
4.0%/年
5.9%/年
8.5%/年
12.5%/年
18.2%/年

 

2、心房細動の看護計画

心房細動は、動悸など胸部不快感を訴えて入院した患者が検査で分かる場合と、他の病気で入院中に心電図で発見される場合の2つがあります。

動悸や呼吸苦を訴える場合には不安感の除去と共に、適切な「抗不整脈」、あるいは「抗凝固療法」の薬物投与が必要です。

また、基礎疾患がある場合は、その疾患の治療が心房細動の治療にも役立つので、基礎疾患をしっかりと見極める必要があります。以下、観察項目と、ケアについて説明します。

 

2-1、心房細動の観察項目

心房細動の診断

心房細動は、基本的に慢性進行性疾患と考えられ、発症後、いったん症状がおさまり、同じような発作を何度も繰り返しながら、次第にその持続時間や頻度が増え、やがて発症がとまらなくなると考えられています。重篤な不整脈の心室細動(VF)、心室頻拍(VT)とはその点で異なります。

発症後、いったんはおさまる例が40%程度あるとされています。従って、本当の心房細動の初発時期がいつなのかを見極めるのは困難で、臨床上は「初めて心電図で心房細動が分かった時」を初発とします。

下2つのうち上図が心電図であらわれる心房細動の典型的例です。下図のように正常脈のP波がはっきりせず、RとRの間隔が不正であることが特徴です。

心房細動に対するカテーテルアブレーション

 

 

 

 

 

不整脈とアブレーション治療

(上)心房細動に対するカテーテルアブレーション 東京大学医学部附属病院循環器内科

(下)不整脈とアブレーション治療 国立循環器病研究センター循環器病情報サービス

 

診断は、通常の心電図検査で行いますが、突然、症状が出る事もあるので、ホルター心電図、携帯型心電図を用いることもあります。
心房細動は、自然に収まる「発作性心房細動」、発作性から年間5〜8%の率で徐々に移行する長時間型の「持続性心房細動」、慢性に経過する「永続性心房再動」などに分類されます。
移行のスピードは、初期は速く、その後緩慢となり、5年で約25%が永続性に移行するとされています。

 

基礎疾患の見極め
心房細動は、もともと何らかの疾病があり、その結果として生じる場合が多く、基礎疾患となる器質的な疾患を探し出すことが非常に重要です。
心疾患としては心臓弁膜症、冠動脈疾患や心機能低下、心房中隔欠損症などの先天性心疾患、拡張型、肥大型の心筋症などが上げられます。こうした病気は心房細動の慢性化の促進因子にもなります。甲状腺機能亢進症が原因となる場合もあります。
高齢者については、高齢自体が脳梗塞のリスクが高く、症状が収まっても、心エコー、レントゲン検査、血液検査などで基礎疾患の有無を調べることが特に必要です。

 

初発心房細動が自然停止している場合の脳梗塞防止
心房細動の合併症として最も怖いのは、脳梗塞です。初発心房細動が一過性で自然停止している場合は、半数の症例で数年間は再発しないので、薬物による心房細動予防を安易に行わないとされる一方で、脳梗塞の危険因子がある場合は、再発がない、と判断されるまでは血栓をできにくくする抗凝固療法の適応です。
よく使われるのは、ワルファリン(商品名ワーファリン)です。CHAD2スコアの2点以上は、年間の脳梗塞発症率が4%以上になるためワルファリン療法が推奨されています。ワルファリンは食品や他の薬との相互作用があります。近年、ダビガトラン(商品名プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレクト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバン(リクシアナ)の新しい抗凝固薬(NOAC)も使われています。

 

発作性、持続性心房細動への薬理的対応
発作性心房細動は長い経過からみると早期に当たり、早期ほど薬物が高い効果を示します。「Naチャネル遮断薬」の投与が高効果で、救急外来では静注されることが多いですが、患者に持たせ発作時に内服するPill—in—the—pocket(抗不整脈薬単回経口投与法)も使われています。
Naチャネル遮断薬は、心房の異常な興奮の起因源の90%近い肺静脈内の興奮頻度を減らす作用を持ち、多くの薬がありますが、ピルシカイニド(商品名サンリズム)、シベンゾリン(シベリール)などが知られています。
持続性心房細動になると、除細動せずに心拍数を調節(レートコントロール)することで優れたQOLが確保されるので、心拍数調節のための薬物としてベプロジル(ペプリコール)が推奨されます。心拍数調節が困難な場合や、心拍数調節を行っても症状が続く場合、永続性心房細動に移行する前にアブレーション治療(電気焼灼)を行う場合は、薬物より電気的除細動で洞調律を整える(リズムコントロール)方が高効果とされるので、治療法については各種検査を重ねたうえでの医師の判断です。

 

永続性心房細動の場合
心拍数調節と脳梗塞リスクに応じた抗凝固療法を、薬物を使って行うのが一般的です。

 

カテーテルアブレーション(電気焼灼)に向けて
心房細動の最大のリスクは、心原性脳塞栓症にあるとわかってきたため、根治治療としてカテーテル治療が進みました。発作性心房細動が主ですが、最近では持続性、永続性心房細動にも適応しています。
血管を通して左心房に電極カテーテルを挿入し、心房細動の主因である、肺静脈からの異常な電気信号が左心房に伝わらないよう、肺静脈を左心房から電気的に隔離します。このほか、4本の肺静脈の入口に順番に風船(バルーン)を押し当てその部分をマイナス70度前後に凍らせる「冷凍凝固バルーン法」や、風船を高周波電流で暖める日本発技術の「高周波ホットバルーン法」も2015、16年に保険適用になりました。麻酔下で行い、入院期間は5〜7日間です。

 

2-2、看護ケア

脈拍が通常の3倍の1分あたり300回以上になることもあり、心臓が速く、時には不規則に脈打ちますので、心房細動の患者は胸部不快感があり、息切れ、疲れやすさもあります。

自覚症状のない発作性の場合も、脳梗塞を合併しないため症状がなくなっても治療が必要であることをていねいに説明する必要があります。なお、心原性脳塞栓症を含めた脳梗塞の看護については、「脳梗塞の看護|急性期・慢性期における看護計画とは」をご覧下さい。

まとめ

心房細動を発症する患者の多くは、基礎疾患のほか、高血圧症や糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病などの生活習慣病を有していますので、治療後は生活の改善についてしっかりと指導し、再発防止に努めてください。

タッチングの看護|目的と種類、効果的に行うタッチング方法

$
0
0

タッチングの看護

タッチングは、重要な看護技術のひとつですが、施術方法やタイミング、その効果について定量的に説明することの難しいものでもあります。

タッチングを直訳すれば「手当て」となります。まさに医療や看護の真髄とも言えるのですが、看護師として勤務するうちに自然と体得すると思われがちです。

ここではタッチングの意義や技術などを意識的に文字化して、効果などを見て行きましょう。

 

1、タッチングとは

タッチングとは、患者さんに対する安心感を提供する目的で行われる非言語的(言葉を介さない)コニュミケーションのひとつです。 患者さんの痛みや不安感を軽減する効果があるほか、疾病等で引きこもってしまった患者さんの心を解きほぐし、看護師をはじめとする医療従事者に親しみや信頼を覚えるなどの効果も認められています。

カイロプラティックなど、物理的な機能回復を図るための施術とは異なり、タッチングはその効果により患者さんの思いや悩みなど、吐露しやすい雰囲気をかもし出すことから、ターミナルケア(終末期医療)などにおいては欠くことのできない看護技術となっています。

 

2、タッチングの研究

アメリカの心理学者Keltner氏によれば、人間は世話をすることや思いやりの文化の上で発達してきており、触れることや触れられることには重要な意味があり、その効果は計り知れないのだそうです。

これを裏付けけるように、触れるという行為が皮膚の感覚を通じて大脳を刺激し、オキシトシンやエンドルフィンが放出され、さらにマッサージは幸せホルモンと言われるセロトニンを増加させることが昨今の研究によって解明されつつあるそうです。

Touch Research Institute(アメリカの接触研究機関)は、タッチングが痛みを軽減させることから、マッサージがパーキンソン病の振戦(体の震え)を減らすという研究を発表しています。

疾病ごとにその効果はさまざまです。マッサージはアルツハイマー型認知症の症状である徘徊や暴力行為を減らす効果があるといわれており、実際、介護施設などでも、激しく興奮した認知症の患者さんの背中をやさしくさすり、興奮を抑える光景を見ることがあります。

また、認知症の患者さんは言語コミュニケーションが難しい場合も多いため、手を握ったり、顔に触れたりすることがコミュニケーションとなり、それが安心感・信頼感につながることも多くあります。

ターミナルケアからのアプローチを見てみましょう。アメリカでは2012年、月刊誌Supportive Care in Cancerにおいて、ガンに罹患している患者さんの痛みやストレス、悪心、無気力や不安などは、タッチングやマッサージによって軽減したという研究を発表しています。

このとき患者さんに施されたマッサージは、マッサージ師などのプロのものではなく、看護助手によるものであったことも明らかにされています。この研究では患者さんへの心理的なアプローチをタッチングが実現している、つまり思いやりや温かさをタッチングによって示し、それが患者さんのストレスを軽減させたのではないかと結論づけています。

このほかにも、タッチングによる効果をより定量的に示すため、現在もなおさまざまな形でアプローチが続けられています。

これは、タッチングには一定の医学的効果が認められているからであり、触れられることによって病気の症状や心理的な不安定感をいかに軽減するかを明らかにすることで、看護におけるタッチングの重要性を再認識し、医療現場でのタッチングの効果的な施術を目指していくことにもつながっているのです。

 

3、タッチングの方法

タッチングは患者に単に触れれば良いというものではありません。患者さんの症状はもとより、患者さんの性格や環境などをつぶさに観察し、その上で一番適したタッチングを必要とされるタイミングで施す必要があります。ここではまずタッチングの種類について見ていきます。

 

手を当てる(手当て)

タッチングの中でも基本的な技術になります。患者さんの患部や身体の悪い部分、患者さんが訴えている痛みの箇所に手を当てることです。かるく患部を包むような感じをイメージしてください。

人の手のひらは適度に湿り気と体温が維持されているので、それが患部にとって湿気や熱となり皮膚を通して伝わります。軽い温湿薬のような効果があるのかもしれません。それが血行を良くし、患部を治癒するような働きをするようです。

 

■さする

患者さんの訴えている痛みのある箇所をやさしくさすることもタッチングのひとつです。衣服の上であったり、衣服を通さず患者さんの皮膚を摩擦で痛めることのない程度の強さでさすります。これによりほどよい熱が発生し、温湿布のような効果が生まれます。

 

■揉む

マッサージもタッチングの技法のひとつです。マッサージには、リンパの流れや血流を良くすることを目的とするものがあり、東洋医学の観点から、経絡とツボを意識しながら施術するものもあります。患部を手でつかんで離すという動きでおもに筋肉の懲りを和らげる作用があります。

 

■圧迫する

患部やその周辺にあてた手を動かさずに圧力を加えます。一定の時間、圧力を与えて離す、という動きですが、揉むことよりも動きが静かでゆるやかで、主に寝たきりの高齢者などに施されています。

 

■たたく

いわゆるタッピングと言われる動きで、一定のリズム感で患者さんの体をたたいて刺激を与えるというものです。よく見かけるタッピングの一例は、赤ちゃんを眠りにつかせるときに、おしりや背中などをやさしくタッピングして神経を落ち着かせるというものです

授乳後に軽く背中をたたいてゲップをさせるときも、このタッピングが使われていますね。成人の患者さんに対しては、手を握ったときに、手の甲をもう一方の手でタッピングする光景が見受けられます。

 

4、タッチングの効果

タッチングを施せる関係自体がかなり信頼感を得ていると考えて良いでしょう。患者さんの多くは闘病生活のつらさから孤独や孤立感を知らずに感じているものです。そうした患者さんに対し、大切にされているという感覚を呼び覚まし、自然治癒力を引き出すことができるとされています。

「医は仁術なり」という言葉があります。治療の甲斐もなく、絶望感で一杯になっている患者さんもいるでしょう。一人で思い悩んでいる患者さんに、「そばにいて見守っている」という言葉にできないメッセージを伝えることができ、安心感をあたえることができます。

現在、こうした感情の源とも言えるオキシトシンやセロトニンの分泌量を計測し、タッチングの効果を定量的に示そうとする研究がさまざまな形で続けられています。

 

5、タッチングのポイント

タッチングはあくまでも、患者さんが快適につらい闘病生活をのりきる手法の一助であるにすぎません。タッチングを行うとなったとき、たいていは「どうやれば効果的か」と考えてしまいがちです。

効果的なタイミングこそ、患者さんによって千差万別。患者さんの身になって「自分だったらどうしてもらったら嬉しいか」を考えて患者さんに退治することが大切だと考えます。

タッチングは、患者さんの心情に深く寄り添うことから始まります。看護師はどんなときも患者さんに対して十分な観察と配慮が必要となります。患者さんの状態を見極め、どうしてもらいたいかを率直に聞くこともよいでしょう。

タッチングにはいくつか技法がありますが、ほとんどが組み合わせで成り立っています。その患者さんに合ったものを自分なりに発見してみてください。

 

まとめ

欧米では挨拶で抱き合うなど、医療従事者と患者さんという関係に限らず非言語的コミュニケーションが図られている社会だと言えるでしょう。それに比べて、日本は非言語的コミュニケーションが苦手な文化と言えます。

受容者である患者さんにも触れられることを嫌がる方がいるのは事実です。そうした人にタッチングするのはかえってストレスになりかねません。

タッチングは患者さんと看護師との間に揺るぎない信頼関係が築き上げられた上で成立するものなので、まずは信頼関係を築く努力を惜しまず、日頃から患者さんの様子に目を配り、それが必要であるかどうかを見極める力をつけることが大切です。

Viewing all 681 articles
Browse latest View live


<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>