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「なぜ人は宗教で健康になれるのか」を専門医が解説する

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宗教の目的は「個人の健康」と「世界の平和」を維持し発展させることにあります。この目的のもと、古来よりさまざまな宗教の教義や修行法が提示され発展してきました。ところが近代に入ってからは「個人の健康」は主に医学が担う一方で、「世界の平和」は主に宗教や政治が担い「健康」と「平和」が同じ俎上で議論されることは少なくなってきました。

西ヨーロッパやイスラム世界における自然科学の発達は、神への信仰と深く結びついており、自然科学によって世界を解明することはそのような精密な被造物を創造した神の偉大さを讃えることにつながっていました。実際、欧米では神の存在について研究する神学は、長きにわたって学問上の基礎科目でありました。オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学も元々は神学校でした。

 

1 祈りから医学へと発展

祈り

世界的に見ると神を信じている人は多く、アブラハムの宗教(ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)を信じている人口だけでも30億人を超えます。古代から現在まで神話的世界観の中で、神は超越的であると同時に人間のような意思を持つものとして捉えられてきました。一方で、 神の存在を疑う者も多いのも事実です。神の不在を信じる者は無神論者と呼ばれ、マルクス主義は無神論の立場に立ち、実存主義者の一部も無神論を主張します。長らく神学を継承しながらも批判的に発展してきた哲学でもその風潮を受け、19世紀にはニーチェが有名な「神の死」を指摘しました。ニーチェが提起した「神の死」は善悪の行いを基準とした道徳観や倫理観の崩壊を招き、ニヒリズム(虚無主義)をもたらしたのです。

世界には古来、無数の宗教があってそれぞれが「祈りと癒し」の長い伝統を受け継いできました。私たち人間は古来から、心の力による深い癒しをもたらす方法を受け継いできました。あらゆる宗教によって実践されてきた「祈りと瞑想」という行為には癒しの効果があるのです。ところが人間は近代になってその長い伝統を忘れ、人間を「物」とみなし、化学物質一辺倒の医学ばかりを発展させてきました。

 

2 オキシトシンとは?

オキシトシン

専門医が教える!幸せホルモン「オキシトシン」にあふれる生活の過ごし方

オキシトシンは脳下垂体で産生される神経伝達物質(神経ホルモン)ですが、 ストレスが負荷されたり社会的刺激を受けたりすると脳内の種々の部位に向かって放出されます。オキシトシンには、すでによく知られた「授乳」「分娩の促進」のような哺乳動物としての繁殖機能を助ける働きの他に、社会行動や積極的な仲間付き合いを調整する重要な働きがあります。人にオキシトシンを経鼻投与(噴霧)すると、他人を信用する度合いが増します。日常生活の中で人と交わることで得られる相互作用が男女共にオキシトシンシステムを継続的に活性化させています 。

ラットの実験では、世話をしてくれるものとの身体の接触が視床下部でオキシトシン放出を促していることが確認されています。こうした結果は、日常的な人や仲間との交流(接触)がオキシトシン発現を増加させ、それによって心理的行動や日常活動を調節していることを示すものです。人に関心を持ち積極的に交友すると、中枢神経でオキシトシン発現が増加し、それによってストレスの多い日常生活が乗り切れ胃腸障害が改善されます。オキシトシンは社会的愛着を持ち、良好な人間関係を築くことの科学的・医学的な根拠を提供しているのです。積極的な人間交流は、共感や思いやりの心情や行動を与えたり受けたりする双方向性の感情を受け渡しする行為といえます。人から共感され理解を得られると、ストレスに対処できる可能性のあることが最近の研究で明らかになってきました。

愛する家族との団らんの時を持つことや、仲間との交流は健康を増進させます 。多くの研究は、ボランテイア活動が心身の疾病に対して予防効果のあることを報告しています 。ボランテイア活動を規則正しく長期間継続することと、多くの種類のボランテイア活動に参加することはどちらも本人の幸福感や健康度と極めて密接に関係しています。つまり積極的に人とお付き合いをすることは、お互いが共感・気遣いを授受し合うことで自分の身体のなかに内因性のオキシトシン発現を増加させ、日常経験するストレスの克服に重要な役割を果たすことになるのです。助けを必要とする人々のことを考え、彼らに同情を寄せるだけで視床下部のオキシトシン発現が増加します。そしてそのオキシトシンが私たちの心と身体の健康を促進させるのです。

オキシトシンは 「母子の絆」「性愛行動」「人の付き合い方」、そして「心の安定」「身体の健康」に関係していると考えられています。幸福感・健康感というのは心理的・身体的に病気から解放されている状態であり、気持ちがすべてに前向きで充足した状態をいいます。オキシトシンは健康の増進はもちろんのこと、対人関係の向上、信頼獲得の強化、不安・心配の軽減を叶えてくれるのですから幸福への誘引剤といえます。

オキシトシンは私たちが幸福になれるよう広範囲な効果を持っていますが、それ故に、逆にこの分泌機能が働かなくなった場合、私たちは病的な状態になり、生活の質が落ち込む原因にもなります。そして自閉症、統合失調症、 外傷後ストレス障害、抑うつ症などの精神疾患が引き起こされるのです。

 

3 宗教で「幸せ」「健康」になる理由

幸せ

一神教の教えは排他的ではあるにせよ、信者にはさまざまの規範を強いています。信者になれば自ずと神の慈悲が得られるわけでは決してなく、神の慈悲を得るためには、信者には果たすべき義務があるのです。『アッラー』の神の恩寵を授かるには、私たちは心を純化しなければならないとコーランは諭します。この「純化」というのは、自我に固執せず、他人への思いやりを育む努力を続けることと私は理解します。「純化」により視床下部のオキシトシン発現が活発化し、自ずと私たちの健康を維持管理してくれることになるということではないでしょうか。オキシトシンは 人と人とが積極的で好意的な絆の環を築く促進剤として働き、人を好きになったり愛したりすることを手伝ってくれています。このオキシトシンによって促進される人との付き合いを永く維持できれば、「友好の輪(愛のループ)」が崩れることはありません。活発化したオキシトシン誘導による積極的な社会活動は、やがて地域全体におよび、結果として平和で住みよい社会を創りあげることになるでしょう。母親の「子育て法」が世代を超えて受け継がれるのと同様に、人と人の間の「好意」「共感」「友情」やその行為も世代を経て受け継がれていきます。

「キリスト」や「アッラー」の存在を信じ、瞑想や祈りなどの宗教活動や日常の善行を続ける人たちはこれらの行為によってオキシトシン神経が活性化され、神へのチャンネルが開くのでしょう。あるいは瞑想や祈りによって活性化されたオキシトシン神経により神のイメージが容易に想像できるようになるのでしょう。いずれにせよ、私たちの視床下部のオキシトシン神経の活性化が 「神」へのチャンネルを開き、その恩恵や慈悲を受けるのに必須なのです。まさに視床下部の活性化したオキシトシン神経こそ、天上の神と対話できる装置なのです。

一方で、「キリスト」や「アッラー」などの 神の存在を信じない人々にとっても、もしオキシトシン神経が活性化されれば、視床下部が「内在する神」として作用し私たちの心と身体の健康維持に役立つことになります。

 

4 思いやりは生物学的な要因により生まれる

思いやり

ダライ・ラマ14世はこう述べています。『愛と思いやりはいかにして育まれるのでしょうか。それは宗教によってでもなく、教育によってでもなく、法律によってでもなく、まさに生物学的な要因によっているのです。なぜならば、この世に生まれ落ちたその瞬間から私たちが生きていくためには、母親の愛情が決定的に必要だからです。そしてこういった本来的な意味における他に対する愛情や思いやりが、私たち人間を結び合わせ、一つの共同体をつくって生きていく原動力であるわけです。同時にこの愛と思いやりが、他人の面倒をみるというケアの意識を生みだすのです。』

ダライ・ラマ14世は「愛と思いやり」は、母の愛という「生物学的な要因」に依存していると述べています。お釈迦様や仏様がおっしゃっているから「愛と思いやり」が大事なのではなく、それは「生物学的な要因」に起因しているのだと説きます。母性愛を発現させるオキシトシンという「生物学的な要因」が私たちの「愛と思いやり」の根源であり、このオキシトシンこそが「私たち人間を結び合わせ、一つの共同体をつくり、同時に他人の面倒をみるというケアの意識を生みだす」と、筆者は理解します。

 

5 欧米の心理学者が確立した「LKM」瞑想法とは

瞑想

仏教は釈迦が説かれた教えー現世で必然の「四苦」を克服するためには欲を捨てればよいーを学ぶ宗教です。「悟り」とは、自己と他者が同じであることを感得することであり、禅でいう「大悟」とは、そのような体験をすることのようです。そのような「悟り」の境地に到達する方法は、妙好人「浅原才市」のような念仏三昧もあれば、比叡山の千日回峰行や籠山行、護摩行、坐禅の公案や只管打坐(しかんたざ)などさまざまです。

小乗仏教の一派である上座部仏教には、昔から「慈悲の瞑想」の修行により人との交友を進んで行い、人を慈しむことを強調してきました。『生きとし生けるものが幸せでありますように、生きとし生けるものの悩み苦しみがなくなりますように、生きとし生けるものの願いごとが叶えられますように、生きとし生けるものにも悟りの光が現れますように。私を嫌っている人々も幸せでありますように、私を嫌っている人々の悩み苦しみがなくなりますように、私を嫌っている人々の願いごとが叶えられますように、私を嫌っている人々にも悟りの光が現れますように。』

「慈悲の瞑想」は、自分の身近な人のみならず、自分を嫌っている人々の幸福を祈るところにその真骨頂があります。最近、欧米の心理学者は、この「慈悲の瞑想」を応用しLoving kindness meditation (LKM)という瞑想法を確立しました 。LKMはまず身近な人(例えば、家族、恋人、友人など)を想定し、その人の幸せを心底から祈ることから始めます。このトレーニングの後で、祈りの対象をあまり良く知らない人(例えば、今日行ったスーパーのレジの人や、駅ですれ違った人など)にまで広げていきます。その後自分が嫌いな人、自分を嫌っている人、 疎遠にしている人などをも祈りの対象として、その人たちの幸せを真剣に祈るトレーニングをします。そして最終的には、人類、地球、宇宙にまで祈りの対象を拡大していきます。LKMの手法で大事な事は、身近な人であれ、嫌いな人であれ、直接会って親切な行為を実際に施す必要はまったくないという点です。その代わりに誰をも区別せず、真剣にその人たちの幸福を心底から祈ることを修練するのです。

 

6 脳を活発にする「LKM」の効能

脳

LKMのトレーニングにより、慢性腰痛、心理的苦痛、怒りの感情が和らぎます。LKMにより前頭葉や視床下部をはじめ、さまざまな分野で脳の神経活動が活発になることが確認されています。オキシトシン刺激が能動的な他人への思いやりによって誘発されること、オキシトシン自体が個人のストレス反応を抑え、痛みを減少させる作用があることなどを考え合わせれば、LKMによる有益な効果はオキシトシンを介した現象であることが容易に想像できます。残念ながら、LKMによって視床下部のオキシトシンが増加したという直接のエビデンスは現時点では報告されていませんが、世界の神経科学者の関心が、LKMとオキシトシンの関係の解明に向かっていることは間違いありません。

LKMは直接誰かに会って親切な行為を施すわけではありません。ただ、そのように念ずるだけですが、誰をも区別せずに心底から他人の幸福を祈ることにその特徴があります。このトレーニングを積むことで、利己的だった脳の神経回路が利他的なものに変わっていくのです。その神経回路の構築に、視床下部から脳の各部位に投射しているオキシトシン神経が関わっています。したがってこのトレーニングは、自分自身の感情を欺いて、他人の幸福を祈るふりをしただけでは、効果を得ることはできません。能動的に他人を思いやる気持ちを起こさなければオキシトシンが活性化しないからです。このときの自分自身の感情、これこそが今まで一般的に「良心」と呼ばれていたものに相当します。すなわち、自分の「良心」の命ずるままに、他人の幸福を祈る心情を育むことが、自身のオキシトシン神経を強化し発展させるのです。

ダライ・ラマ14世は、思いやりの実践が自身の幸せと健康につながることをその類い稀なる直感力で見抜いていました。自他ともに幸せになれるためには、他人を想いやる訓練をすることが大切なのです。「慈悲の瞑想」やLKMの実践を毎日繰り返しながら、他人を思いやる感情を育む訓練を欠かさず続けることです。それにより『昨日よりは今日、今日よりは明日』とより愛情溢れる人間に自分自身を育てていくことができます。大切なことは宗教の教団や組織ではなく、個人のうちにある「宗教心」なのです。そして、その「宗教心」は「利他の心」と言い換えることができます。

人の健康は家族の支えを得て、社会的ネットワークが上手く構築できたときに増進します。また、ボランティア活動も、心身の不調に対して予防的効果のあることがわかっています。愛情をベースにした身体へのタッチは、私たちの心と身体に有益な効果を与えてくれますが、この効果の生理学上の最大の功労者の一つが「活発化したオキシトシン」であることは理論上疑いの余地はありません。社会的活動を積極的に行っているときに感ずる「高揚感」には視床下部でのオキシトシンが関係していると考えます。

人類は遺伝子レベルで仲間と仲良く協調して生きるように仕組まれています。そうすることが他に勝る生存条件を得るための鍵となるからです。「人を愛する」「人を好きになる」ことは、それが親子間、男女間を問わず愛された(好きになられた)人のみならず、愛を最初に与えた(最初に好きになった)人にも恵みをもたらすことのなのです。他の人の気持ちに寄り添い、情けや愛情をかけることがオキシトシンを増加させ、その増加したオキシトシンが心臓血管系を強くし、痛みを和らげ、ストレスへの抵抗性を高くし健康維持に役立つことになります。

 

6  まとめ

オキシトシンの働きによって人は優しくなり、人に好意を寄せ、そして好意ある行動をします。すると好きになられた人は、その友好的な行為に刺激を受け、今度はその人の脳内オキシトシンの発現が活発になり、受けた好意を同様に好意で返すようになります。こうして両者間には良好な関係の絆(愛のループ)が形成されることになります。「愛」は一方通行の自己犠牲ではありません。「人を思いやる」という情感でオキシトシンが増加し、健康の維持につながります。加えて、与えた(施した)思いやりと質・量共にほぼ同等の思いやりが相手から返ってくることにもなります。こうした「愛のループ」の形成が健康上のプラスになり、また社会生活上プラスになることは当然のことです。私たちが人類という「種」として生き残るためにも、私たちの社会の質的向上発展のためにも、こうした「オキシトシンを媒体とした人と人との絆のループ」が必要不可欠なのです。これは人類が太古から大切にしてきた普遍の愛の力なのです。

 

参考文献

高橋徳著『人は愛することで健康になれる–愛のホルモン オキシトシン』(知道出版, 2014)


透析「CHDF」の適応疾患と設定値、機器など異常時の対処法

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CHDF

腎臓の働きが著しく低下し、血液中の余分な水分や老廃物などを体外に自力排出できない患者に対して行われる血液透析。ダイアライザーと呼ばれる透析器を用いて、血液の浄化を行う血液透析は、腎臓の代替となる治療法として定着しており、一般的な血液透析(HD)から、血液濾過透析(HDF)や持続的血液濾過透析(CHDF)など、さまざまな血液浄化法が確立されています。

今回は、数ある血液浄化法の中から「持続的血液濾過透析(CHDF)」を取り上げ、概要や適応疾患、設定値、施行中の各異常の原因と対処法など詳しくご説明していきます。

 

1、代表的な血液浄化法

冒頭で述べたように、代表的な血液浄化法は「血液透析(HD)」「血液濾過透析(HDF)」「持続的血液濾過透析(CHDF)などがあります。

多くは一般的な「血液透析」が施行されますが、病状や病態によって「血液濾過透析」、「持続的血液濾過透析」が使い分けられます。以下に、それぞれの血液浄化法の概要を簡潔にご説明します。

 

■血液透析(HD)

血液透析は“拡散”の原理を利用して血液内の老廃物や水分を除去する療法のことです。“拡散”は濃度差によって水と物質の移動が行われ、これにより血液内の老廃物や水分(小分子量物質)を除去していきます。

 

■血液濾過透析(HDF)

血液濾過透析は血液透析の原理の“拡散”に加え、圧力によって水と物質の移動が行われる“濾過”の性能を併せ持つ療法で、血液透析では除去しきれない中~高分子量物質も除去することができます。

よって、血液透析よりも人間の腎糸球体機能に近い治療モードと言え、血液透析で問題視される血圧の低下(貧血)を抑えることができます。また、分子量の大きい物質が原因となって起こる掻痒症、関節痛、いらいら感、栄養障害といった合併症の改善も期待できます。

 

■持続的血液濾過透析(CHDF)

持続的血液濾過透析(CHDF)は血液濾過透析(HDF)を24時間持続的に行う療法のことで、急性腎不全、多臓器不全症候群、急性膵炎といった緊急を要する症状に対して施行されます。

持続的に少量ずつ水分や物質の除去を行うことで透析効率を落とし、全身状態に与える影響(特に心血管系)が少ないため、日本ではCHDFを施行可能な医療施設では積極的に行われています。なお、血液透析と血液濾過透析は透析室で行われますが、持続的血液濾過透析は特殊な浄化法であるため主にICUで行われます。

 

2、CHDFで除去可能な物質

CHDFは小分子量物質(500ダルトン以下)だけでなく、中分子物質(500~5000ダルトン)や高分子量物質(5000ダルトン以上)の除去能に優れていることで、血液中に存在するさまざまな物質を除去することができます。

下表は血液中に含まれるさまざまな物質(成分)とその分子量を示しており、CHDFでは小分子~高分子量物質を除去することができるため、下表にある物質の多くが除去可能です。

 

物質名 分子量

(値:ダルトン)

物質名 分子量

(値:ダルトン)

ナトリウム 23 アミラーゼ 50,000~60,000
カリウム 39 トリプシン 23,000~26,000
尿素 60 リパーゼ 48,000
クレアチニン 113 ホスフォリパーゼA2 13,000~14,000
ブドウ糖 180 補体C1q 410,000
ビリルビン 585 補体C3 190,000
アミノ酸 75~204 補体C4 200,000
ヘパリン 15,000 補体C5 190,000
アンチトロンビンーⅢ 65,000 補体C3a 90,000
プロテインC 62,000 補体C3b 180,000
ミオグロビン 12,000 TNF―α 17,000
アルブミン 68,000 IL-1 17,000
ヘモグロビン 68,000 IL-2 15,000
タンパク質 150,000 IL-6 21,000
フィブリノーゲン 400,000 IL-8 8,000
フェノバルビタール 232 IL-10 19,000
アセトアミノフェン 151 IL-1Ra 14,000
ジゴキシン 781 IFNーr 20,000
ヒスタミン 97 顆粒エラスターゼ 33,000
セロトニン 146 エンドトキシン 1,000,000
パラコート 257 IgG 150,000
グリホサート 167 IgA 170,000
スミチオン 297 IgM 900,000

参照:一般社団法人 静岡県臨床工学技士会

 

3、CHDFの適応疾患

CHDFはHDFの1/50~1/20程度の速度で浄化を行うため、生体負担が少なく、循環動態の不安定な症例にも広く施行されます。

また、高効率の浄化性能により、脳浮腫といった臓器障害を悪化する可能性のある症例にも適応となるなど、適応疾患の幅は非常に広く、透析液の供給設備のない施設でも実施可能であることから、日本では率先的にCHDFが行われています。

 

除水を目的とした症例

過剰な水分を除去することで体液量の調整を行い、「全身浮腫」「急性肺水腫」「うっ血性心不全」などに適応となります。

 

溶質除去を目的とした症例

血液中の不要物質を除去することで血液の浄化、電解質や酸塩基平衡を是正(K,Ca,HCO3などの正常化)し、少ない生体負担の観点から重症症例である「急性腎不全」「多臓器不全」「敗血症」「急性膵炎」「劇症肝炎」のほか、「薬物中毒」にも適応となります。

 

なお、CHDFは主に急を要する症例に対する血液浄化法であり、尿素質素やクレアチニンなどの小分子量物質、サイトカインやエンドトキシンなどの中~高分子量物質の病因物質など広範囲に除去できることから、救急・集中治療領域において第一選択と考えられています。

 

≪救急・集中治療における有効性≫

①組織酸素代謝失調の改善、②Humoral Mediatorの除去、③ホメオスタシスの除去、④余剰水分除去による栄養管理、⑤肺間質浮腫除去による酸素化改善、⑥アシドーシスに対する持続的治療、⑦循環不全における血液浄化

 

4、CHDFの設定

CHDFでは、「血液流量(QB)」「濾液流量(Qs)」「補液流量(QF)」「透析液流量(QD)の条件を設定する必要があり、この設定により除去できる物質の種類や透析効率が大きく異なります。

また、設定を大きく間違えば生命に危険を及ぼすこともあるため、患者の病状や病態によって設定値を適切に変更しなければいけません。

 

■血液流量(QB)

血液ポンプの速度を指し、一般的には60~100ml/hに設定します。サイトカイン物質の大量に除去するために補液流量(QF)を高くする際には、血液の濃縮による回路凝固が起こりやすくなるため、血液流量(QB)を150~200ml/hに上げることもありますが、基本的には60~100ml/hに設定します。

 

■濾液流量(Qs)

濾液ポンプの速度を指し、一般的には血液流量(QB)の30%以下を目安に設定します。濾液流量(Qs)はフィルターから破棄される水分量のことで、30%以上に設定すると、溶血や血液濃縮の危険性があるため、30%以下、概ね20~25%で設定されています。

 

補液流量(QF)、透析液流量(QD)

それぞれ補液ポンプと透析液ポンプの速度を指し、一般的には補液流量(QF)と透析液流量(QD)の合計で600~2100ml/h(概ねQF:800ml/h、QD:500ml/h)に設定します。また、「Qs‐(QF+QD)」が除水流量となります。

補液流量(QF)は中分子量物質の除去量に反映し、補液流量(QF)が多いほど中分子量物質を効率的に除去することができるため、サイトカイン物質を積極的に除去する際には1000ml/h以上に設定することがあります。

また、透析液流量(QD)は小分子量物質の除去能に起因し、透析液量(QD)が多いほど小分子量物質を効率的に除去することができるため、高カリウム血症など小分子量物質を早急に除去する必要がある際には1000ml/h以上に上げる場合があります。

 

5、CHDFのブラッドアクセス部位の比較

ブラッドアクセスとは血液の循環を行うためのカテーテルの挿入口(血液の出入り口)のことを言います。

圧迫止血のしやすさやアクセスのしやすさにより、大腿静脈がブラッドアクセス部位の第一候補となりますが、内頚静脈や鎖骨下静脈も選択肢に挙げられ、それぞれの部位に利点・欠点が存在します。

 

穿刺部位 利点 欠点
大腿静脈 ・アクセスが容易

・穿刺が容易

③圧迫止血が容易

・穿刺部位が不潔になりやすい

・体動制限あり(座位不可)

内頚静脈 ・感染が少ない

・体動制限がなく負担が少ない

・圧迫止血が容易

・カテーテルの固定がやや不安定
鎖骨下静脈 ・穿刺・挿入の違和感が少ない

・感染が少ない

・穿刺が難しい(鎖骨下動脈穿刺のリスクがある)

・気胸のリスクがある

 

一昔前までは鎖骨下静脈も選択肢に挙げられていましたが、リスクが高く、狭窄による静脈高血圧になる恐れがあるため、現在ではほとんど選択されていません。

また、内頚静脈は感染症のリスクが少ないなど利点が多く存在するものの、大腿静脈の方が脱血不良となる頻度が少ないなどの観点から、現在では大腿静脈が第一選択として取り上げられています。

 

6、CHDFで特に気をつけるべき異常・合併症

CHDFは血管(血液)に直接処置するため、装置の異常や患者のバイタルサインなど、さまざまなことに注意しなければいけません。特に、「脱血不良」「感染症」はCHDF施行中によく起こるため、この2つはしっかりと抑えておきましょう。

 

脱血不良

脱血不良とは、正常に血液浄化が行われていない状況の事を指し、多くは体位変換の際などにカテーテルの入っている静脈(大腿静脈や内頚静脈)が曲がり、血液が十分に吸い出せない、またはシャント・カテーテルが詰まることで血流が阻害されることが原因です。

対処としては、足(大腿静脈)や首(内頚静脈)などカテーテルを挿入している部位を少し動かす、またはカテーテルを少し動かすことで改善されます。カテーテルを動かす際には少しだけ抜いたり、回転させることで改善を図ることができます。

 

感染

血管(静脈)に直接カテーテルを挿入することで、感染リスクが高く、特に大腿静脈に穿刺する場合は穿刺部位が不潔になりやすいため、感染リスクはさらに高まります。

血液透析全体における合併症は、①高血圧、②低血圧、③貧血、④二次性甲状腺機能障害、⑤アミロイド骨関節症、⑥高カリウム血症など様々ありますが、中でも感染リスクが高く、死亡事例も多いため、細心の注意を払って操作ならびに患者の観察を行う必要があります。

なお、感染兆候が見られる場合には直ちにカテーテルを抜去し、抗生剤を投与するなど、感染症の治療を率先的に行います。

 

7、圧力アラームの原因・対処

また、透析装置のアラームについてもしっかり把握しておく必要があります。透析装置は「動脈圧」「静脈圧」「濾過圧」「TMPなどの圧力を測定しており、何かしらの異常がある場合にはアラーム(警報音)が鳴る構造になっています。

つまり、各圧力は、適切に透析が行われているかを知覚的に把握するための重要なカギなのです。よって、アラーム発生の原因や対処法をしっかり熟知しておきましょう。

 

動脈圧(入口圧)

動脈圧は血液が最初に通る動脈チャンバーの動脈ラインで測定しており、血液が適切にとれているかを判断する基準となります。回路の屈曲やカテーテルの狭窄、長時間のCHDFならびにフィルター入口の抵抗増などにより静脈圧の上昇がみられる場合があります。

アラーム 原因 対処
上限 回路凝固 回路の交換
回路の屈曲 回路の屈曲の確認・是正
カテーテル先当たり 体位変換

カテーテル位置の変更

下限 回路外れ 回路の接続部の確認

 

静脈圧(返血圧)

静脈圧は静脈チャンバーから返血側のカテーテル先端までの圧力を反映しており、カテーテルが血管内に正確に挿入されているかを判断する基準となります。返血側のカテーテルの狭窄(血塊など)、静脈チャンバー内の血栓などにより静脈圧が上昇し、反対に回路外れにより静脈圧の下降がみられます。

アラーム 原因 対処
上限 回路凝固 回路の交換
回路の屈曲 回路の屈曲の確認・是正
カテーテル先当たり 体位変換

カテーテル位置の変更

下限 回路外れ 回路の接続部の確認

 

濾過圧

濾過圧は血液濾過器から返血側カテーテルの先端までの圧力を反映しており、膜の状態や濾過ポンプの速度によって圧力が変動します。

アラーム 原因 対処
上限 回路凝固 回路の交換
回路の屈曲 回路の屈曲の確認・是正
カテーテル先当たり 体位変換

カテーテル位置の変更

下限 回路外れ 回路の接続部の確認
過濾過 濾過速度を下げる

 

TMP(膜間圧差)

TMPは膜内外の圧力差を表しており、「TMP=(入口圧+返血圧)÷2-濾過圧」で求められます。膜の凝固や過濾過によりTMPが上昇し、反対にリークや機器の故障などによってTMPが下降します。

アラーム 原因 対処
上限 膜凝固 回路の交換
過濾過 濾過速度を下げる
下限 血液濾過器のリーク(漏れ) 回路の交換
機器の故障 機器の交換

 

その他にも、補液・濾液・透析液の計量異常や電源供給の遮断、シリンジサイズ検出不良など、機器におけるトラブルは非常に多く、場合によっては早急に対処しなければ命に関わることもあります。

それゆえ、CHDFなどの血液浄化法を行う際には、患者のバイタルサインはもちろん、機器を適切に操作し、トラブル時には迅速に対処しなければいけません。

 

まとめ

現在の日本では、CHDFは効果的な血液浄化法として特に血液浄化に際して急を要する患者に対して積極的に施行されています。

数ある血液浄化法の中でも回路構造や設定値などは複雑かつ把握困難ではありますが、非常に有効な血液浄化法であるため、透析領域またはICU勤務の看護師は必ず熟知しておかなければいけません。

当ページでご説明した内容をしっかり把握し、今後の看護に役立てて頂ければ幸いです。

ICU看護師の役割と仕事内容、ICUに関する看護研究(論文)

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ICU看護師

重篤な患者を収容するICU。現在では大型病院だけでなく中型病院でもICUを設備が充実しており、今後ますますその必要性は高くなってくるでしょう。また、ICUでの業務は多忙を極める反面、やりがいが多く、ICUから離れたくないと考える看護師が多いのも事実です。

当ページでは、①ICUとは、②集中治療室の分類、③ICU内における医療従事者の配置・役割、④ICU内における看護師の役割、⑤ストレスにおける自己管理の必要性、⑥ICUに関する看護研究・論文、の6つの項目をもとにICU看護に詳しくご説明します。ICUでの勤務を考えている方はぜひ最後までお読みください。

 

1、ICUとは

ICUとは、一般的に重篤な疾患を有する患者を収容し、24時間体制で監視、ならびに治療を行う“集中治療室”のことを指します。

生命に関わる、または関わる可能性のある重篤な患者の監視・治療を行うことから、細やかな室内環境、設備(機器や器具)・人員の確保、さらには感染など各種予防に際する規定が厳格に定められています。

また、ひとえに集中治療室と言っても、「ICU」だけでなく「CCU」、「SCU」、「SICU」、「NCU」、「NICU」など、症例ごとに細分化している病院(特に大型病院)が増えてきています。

 

2、集中治療室の分類

上述のように、ICUは一般的な集中治療室のことを指しますが、現在では多くの病院で症例ごとに細分化されており、それぞれが異なる役割を果たしています。どのような集中治療室が整備されているのか、以下にて代表的な集中治療室の分類と特徴をご説明します。

 

ICU

ICUは「Intensive Care Unit(集中治療室)」の略で、内科・外科系問わず、呼吸器や循環器、その他の重篤な急性機能不全の患者を集中的に治療・看護を行う病棟です。以下のように集中治療室が分類されていない病院においては、重篤な疾患を有する患者すべての監視・治療を担う、総合的集中治療室の役割を果たします。

≪入院対象となる疾患≫

弁疾患、冠動脈疾患、大動脈疾患(解離性大動脈瘤・腹部大動脈瘤・腹部大動脈瘤)、食道癌、肺癌、膵癌、肝癌、脳腫瘍、脳動脈瘤、頸椎疾患、腎移植、肺炎、敗血症など

 

CCU

CCUは「Cardiac Care Unit(冠疾患治療室)」の略で、虚血性心疾患を中心とした心臓疾患の有する患者の治療・看護を行う病棟です。心臓疾患は生死に関わることが多いことから、今や多くの病院で設備されています。

≪入院対象となる疾患≫

急性冠症候群、心筋症、心不全、重症不整脈、徐脈、弁疾患、大動脈疾患(大動脈解離)、感染性心内膜炎、肺動脈塞栓症など

 

SCU

SCUは「Stroke Care Unit(脳卒中治療室)」の略で、脳梗塞などの脳血管疾患を有する患者の治療・看護を行う病棟です。また、ICUより軽度な患者(脳血管疾患以外も)を収容することが多く、いわばICUと一般病棟の中間的存在として活用されています。

≪入院対象となる疾患≫

脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血、痙攣、てんかんなど

 

SICU

SICUは「Surgical Intensive Care Unit(外科系集中治療室)」の略で、主に大外科手術直後の麻酔下にある患者を短期間(2・3日程度)収容・管理する病棟です。病床に空きがある場合には、ICUに入室予定(予備軍)の患者を収容することがあります。

≪入院対象となる疾患≫

循環器疾患、脳疾患、呼吸器疾患などの大手術後

 

NCU

NCUは、「Neurosurgical Care Unit(脳神経外科治療室)」の略で、脳血管障害術前および術後急性期の脳神経外科系重症患者を収容する病棟です。SCUも同様に脳疾患患者を収容することから、SCUとNCUは基本的に同じ役割を持っているため、統合しているところも多いのが現状です。

≪入院対象となる疾患≫

くも膜下出血、脳出血、脳梗塞、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、脳腫瘍、内頸動脈狭窄症・閉塞症など

 

KICU

KICUは、「Kidney Intensive Care Unit(腎疾患集中治療室)」の略で、急性の腎不全や肝炎によって緊急の処置・管理を必要とする患者、または腎障害を合併した重症患者を収容します。現在ではKICUを設備している病院は多くなく、概ねICUに統合されています。

≪入院対象となる疾患≫

急性腎不全、急性肝炎などの重篤な腎疾患

 

RCU

RCUは、「Respiratory Care Unit(呼吸器疾患治療室)」の略で、重篤な呼吸器疾患を有する患者を収容し、24時間体制で集中的に治療・看護を行います。現状においてはRCUを設備する病院数は少ないものの、呼吸器疾患は生死に関わることが多いことで、開設する病院が増えてきています。

≪入院対象となる疾患≫

重症肺感染症、間質性肺炎、肺気腫、ならびに呼吸不全を招く可能性が高い呼吸器疾患

 

PICU

PICUは、「Perinatal Intensive Care Unit(周産期集中治療)」の略で、いわゆる幼児・小児のための集中治療室です。

≪入院対象となる疾患≫

循環器系、心臓血管系、脳神経系、呼吸器系など、全領域における幼児・小児の重篤な症例

 

NICU

NICUは、「Neonatal Intensive Care Unit(新生児集中治療室)」の略で、低出生体重児などの新生児を収容し、保育器の中で酸素や栄養を与えるほか、脳低体温療法などさまざまな治療を行い、厳密な管理体制の元、新生児の発育を促進する病棟です。授乳指導を合わせて行うことから、助産師も従事しています。

≪入院対象となる疾患≫

出生体重が1500g未満の低出生体重児、出生に際する適応障害・母体合併症、先天異常など

 

3、ICU内における医療従事者の配置・役割

ICUには重篤な患者が収容され、24時間体制で監視・治療を行うため、十分な医療従事者が配置されていることが義務付けられています。ICU内には「医師」「看護師」「臨床工学技士」「薬剤師」などが配置され、それぞれが専門となる業務を行うとともに、他の医療従事者と連携を図ることで、はじめてICUとしての機能が成立します。以下にそれぞれの医療従事者の役割をご説明します。

 

医師

ICU全体を統括する役割を担い、急変時の治療を行う。重症患者管理に関する知識と高い技能を有する医師(またICUに直ちに対応できる)が常時医療機関内に従事していること。

≪求められる能力≫

複数の診療科及び他職 種と綿密に連携し、治療方針を立案するリーダーシップとコミュニケーション能力が求められる

 

看護師

医師や臨床工学技士と連携を図り、患者の容態の観察、治療における医師の介助、患者の日常生活の援助、精神的苦痛の緩和など、看護全体の役割を担う。常時、患者2名に対して1名以上、必要時には患者3名に対して2名以上の看護師が従事していることが望ましい。

≪求められる能力≫

病態生理の正しい理解を持った上で、患者の綿密な観察を行い、異常を早期に発見(予知)できる観察力と異常発生時の迅速な対応力が求められる

 

臨床工学技士

医療機器、特に生命維持装置の操作を担当するとともに、医療機器の保守・点検・トラブル処理を行う。ICU内にICUでの業務に関与できる臨床工学技士またはICUに専従する臨床工学技士が1名以上従事していることが望ましい。

≪求められる能力≫

設備されている全ての医療機器に関する確実な操作法を習得した上で、保守・点検などの確実な管理、トラブル発生時における迅速かつ適切な処置が実行できること

 

薬剤師

ICUでの薬剤の管理・調整などを行う。DDI(薬物間相互作用)の発生数の減少を目的として、昨今ではICUにおける薬剤師の必要性が高まっている。

≪求められる能力≫

迅速かつ適切な薬剤の選択・投与量の提案、医療品管理、ならびに薬剤の服薬指示などに関する他の医療従事者への指導・コミュニケーション能力が求められる

 

4、ICU内における看護師の役割

続いて、ICU内における看護師の細かな役割をご説明します。看護師は主に「観察(モニタリング)」「診察補助・治療介助」「QOL向上のための環境整備」「患者の日常生活の援助」「他の医療従事者との連携」「設備機器の管理」「患者家族への精神的ケア」などがあり、多角的な視点から看護全体の業務を行います。

 

観察(モニタリング)

ICU勤務ならでは業務または役割の1つに心電図の観察があります。心電図により、心拍の異常(不整脈)、STの低下(心筋虚血)、STの上昇(心筋梗塞)など、患者の平常時の状態が分かり、異常の早期発見に役立ちます。また、この他にも設備機器だけでは読み取れない些細な情報を目視や体感によって患者から読み取ることも大切で、直接的に患者の観察を行います。

ICUに収容されている患者は重篤な疾患を有しており、急変を来すことが多いため、設備機器ならびに目視・体感によって患者の病態を常時観察し、急変時の早期発見に努めることが不可欠です。

 

診察補助、治療介助

X線撮影、混合静脈血酸素飽和度モニタ、超音波診断など設備機器を用いた診断や、治療に際する医師の補助も看護師の役割です。この業務は一日の大半を占めることから、各医療機器に精通しているのはもちろん、医師とのしっかりとした連携もとで診断・治療における補助技術を有しておく必要があります。

 

QOL向上のための環境整備

いかなる疾患においても、生活環境の良悪は患者の健康状態、はたまた生存率・早期離床に大きく関わっています。生活環境を整えることで精神状態が安定し、QOLの向上を図ることができるため、清潔保持はもちろん、各医療機器のコードやカテーテル・チューブなどの管の適切な配置(患者にとって不具合がない)、着脱防止への工夫など、患者自身または患者の身の回りの環境整備を徹底しなければいけません。

 

患者の日常生活の援助

一般病棟よりも頻度は少ないものの、患者の日常生活を援助し、ニードに応えることも看護師の重要な役割です。清拭や食事介助はもちろん、苦痛・不安の緩和、倫理的葛藤、意思決定における援助など、不安なく安心して生活できるよう、多角的な視点から援助を行います。

 

■他の医療従事者との連携

ICUでは急変を来す可能性が高い重篤な患者を収容していることから、他の医療従事者との連携が上手くいかず、情報が適切に共有できていなければ、病態のさらなる悪化を招き、異常時の対処遅延を起こします。

それゆえ、カンファレンスにおいてだけでなく、業務実施中においても他の医療従事者との情報共有を行い、また臨床工学技士や薬剤師などから専門となる知識を修得する心構えを持ち続けておかなければいけません。

 

■設備機器の管理

ICUには、生体情報監視装置(心電図モニタ、呼吸数モニタ、体温モニタなど)、人口呼吸器、除細動器、血液ガス・電解質分析装置、ポータブルレントゲン撮影装置をはじめとする様々な機器が設備されており、これらは基本的に臨床工学技士が操作・管理を行いますが、臨床工学技士が常時しているとは限らず、異常には手が足りなくなることが想定されるため、看護師も各機器の操作・管理法を習得しておく必要があります。

また、救急蘇生器具(人工呼吸用バッグ、気管挿管用具、酸素吸入器具など)、小外科セット(気管切開、胸腔穿刺、腹腔穿刺など)などの器具類においても同様です。

 

患者家族への精神的ケア

重篤な疾患を有する患者は急変の可能性が高く、また医療機器に囲まれた状況や面会制限などにより、患者家族の不安は非常に大きいことが容易に想像できます。それゆえ、看護師は患者の看護だけでなく、患者家族の精神的ケアならびに精神的サポートに尽力する必要があります。また、可能な限り、患者家族のニードを満たすよう行動することも重要な役割です。

 

5、ストレスにおける自己管理の必要性

上述のように、ICU看護師は「観察(モニタリング)」「診察補助・治療介助」「QOL向上のための環境整備」「患者の日常生活の援助」「他の医療従事者との連携」「設備機器の管理」「患者家族への精神的ケア」など、さまざまな業務を行いますが、重篤かつ緊急性の高い患者の看護を行うことから一般病棟よりも精神的負荷(ストレス)が重くのしかかることが多いため、「自己管理」も非常に重要な業務の1つです。どのような場面でストレスがかかるのか、その原因を以下にてご紹介します。

 

①多忙を極める業務の流れ

ICUは重篤な患者を収容し、24時間体制で監視・治療を行う病棟であることから、急変を来した際の迅速な対応が求められます。一般病棟よりも看護師1人あたり受け持つ患者数は少ないものの、業務内容は多く、さらに常に観察を行い、異常の予測・早期発見に努める必要があるため、常時思考を働かすことが多いのが実情です。これにより、身体的な疲労はもちろん、精神的な疲労が蓄積しやすいのです。また、緊急時には罵倒が飛び交うことも少なくありません。

 

②プレッシャーが大きい

1つのミス、たとえば他の医療従事者との連携不足(患者情報の共有不備)、特に引き継ぎにおいて起こりやすく、カルテだけでなく現状の情報を口頭または文面正確な情報を共有できていなければ、患者の離床の遅延だけでなく死亡率が高まります。このように、急変を起こしやすい患者は小さなミスでも死に直結することが多いのです。患者の監視・観察を行うのは看護師の業務であるため、ICUは常にプレッシャーのかかる病棟であると言えます。

 

③知識の習得量が多い

一般病棟からICUに移る場合や新卒者としてICUに勤務する場合、つまり新人ICU看護師は一日の業務の流れはもちろん、ICU設置の特殊な機器の操作・管理や他の医療従事者との患者情報の共有に際する手段、各治療法に関する医師の介助法など、さまざまな知識を習得しなければいけません。

また、ICUは緊急性が高いため、中堅看護師からの教授・指導の機会が少ないため、特に新人看護師は多忙を極め、短期間にストレスが蓄積しやすい傾向にあります。さらに、必要最低限の知識習得後も、患者・家族への対応や異常の早期発見のための観察力など、高めるべきスキルが多いため、常に勉強は欠かせません。しかしながら、これは看護師としての自身の能力向上を担い、やりがいの1つでもあります。

 

④死に直面する機会が多い

ICUでは、患者の死に直面する機会が多く、これは患者家族だけでなく、献身的に看護業務を行ってきた看護師にとっても辛いものです。特に新人看護師にとって患者の死は大きなストレスとなることでしょう。人間は順応力が高い生き物であり、人の死を幾度と経験すれば、程度の大小に関わらず“慣れ”が生まれてきます。

それゆえ、ICU勤務歴が長いほど患者の死に慣れ、それが自身のストレスになる度合いは低くなってきますが、人の死に慣れることへの葛藤が次第に芽生えてきます。ICUで勤務する以上、人の生死に関して考えることを避けることはできないでしょう。

 

⑤患者・家族への対応困難

ICU収容患者の多くは人工呼吸器を装着していることで言語による意思疎通ができません。また、患者の周りにさまざまな機器が配置され、面会時間が制限されていることで、患者家族の不安は非常に大きいものです。よって患者・家族への言語による対応は非常に難しく、特に家族に対する不安軽減のためのコミュニケーションは常に配慮しなければいけません。発する言葉に対して配慮・責任を持つことは看護師にとっても精神的負担となり得ます。

 

このように、ICU看護師はさまざまな場面でストレスがかかり、ストレスの蓄積度は一般病棟以上と言えます。また、患者2名に対して看護師1名が必要であり、看護師不足が嘆かれる昨今、特にICU勤務の看護師が不足している場合には、看護師自身のストレス管理は非常に重要となります。

ストレスが大きくのしかかるICUですが、その分“やりがい”が多く、ICUに留まり続ける看護師が多いのも実情。患者の看護業務だけでなく、自身のストレス管理もしっかり行っていきましょう。

 

6、ICUに関する看護研究・論文

最後に、ICU領域における看護研究を以下に列挙します。ICU領域の看護に関する調査・研究はこれまで幾度と行われており、どの論文もICU勤務の看護師にとっては非常に有益なものです。

ICU看護師としてさらなる知識の習得、はたまたスキルアップを目指そうと考えている方は、ぜひ以下に列挙する全ての論文を熟読してください。

 

集中治療室における看護師の家族援助とICU経験年数との関連

ICUにおけるエンゼルケアへの家族参加に対する看護師の意識調査

ICU看護ケアの自己効力に関する研究

生命危機場面でのチーム連携における集中治療室看護師の判断と行動

ICUにおける抑制開始時の看護師の思考と行動の内容分析

ICU看護師と患者による看護アウトカム

日本の集中治療室における面会の実態調査

的確なアセスメントに向けたICU看護師の実践

ICU病棟における新任看護師の習熟度別教育プログラムの導入過程

ICUにおける看護師の動き

急性期看護の独自性に関する研究

ICU看護師の終末期ケアにおける家族に対する看護援助

「初心者レベル」の看護師に求められるICU看護の知識の概念化

ICUにおける抑制開始時の看護師の思考と行動の内容分析

 

なお、これらは一部であり、すべて無料で閲覧できる論文です。医中誌やCINAHLなど、大学・病院の図書館などで看護研究を検索できるデータベースは数多く存在するため、ぜひ活用しましょう。

 

データベース 料金形態 概要
医中誌

(個人利用の場合)

有料

一部無料

NPO医学中央雑誌刊行会が運営する日本で最も権威のある文献データベースで、多くの大学・医療機関の図書館から無料にて閲覧可能。
CINAHL 有料 Cinahl Information Systemsが運営する全世界の看護・保健・医療分野の文献情報を網羅的に収載したデータベースで、多くの大学・医療機関の図書館から無料にて閲覧可能。
CiNii Articles 有料

一部無料

国立情報学研究所が運営する学術論文や雑誌・図書など、約1800万件の学術情報を検索できるデータベースで、看護・医療関係の論文も数多く収録している。
メディカルオンライン 有料 株式会社メテオが運営する、医師や看護師など医療関係者に向けた医療情報の総合WEBサイト。医療情報に加え、文献・論文などを検索・閲覧することができる。
日本看護研究学会 基本無料 日本看護研究学会が開催する年1回の学術集会、年間5号の学会誌、5つの地方会での研究活動報告などを閲覧することができる。
日本看護協会 有料 日本看護協会図書館に所蔵されている国内発行の看護の実践・研究・教育に関する文献や雑誌を数多く検索・閲覧することができる。ただし、会員登録が必須。
MedicalFinder 有料 医学書院ならびに提携するその他の出版社・学会が発行する医学・看護領域の学術雑誌を掲載している。全文閲覧には個人購読契約またはPPVでの購入が必要。
PubMed(MEDLINE) 基本無料 米国国立医学図書館の国立生物工学情報センター(NCBI)が運営する学術文献検索データベース。世界中の主要医学系雑誌に掲載された記事・論文を検索・閲覧できる。すべて英語表記。

 

まとめ

ICUでは、看護師の役割が非常に大きく、多忙を極めることが少なくありません。しかしながら、大変だからこそ“やりがい”が多く、ICUから離れたくないと考える看護師が多いのも事実です。

新人の頃には習得すべき知識やスキルが非常に多く、大きなストレスがのしかかることも少なくありませんが、積極的に勉強に取り組む、献身的に看護を実践すれば、次第に苦労は大きな喜びへと変わるはずです。慣れてきたとしてもICUの業務は非常に奥が深いため、患者のために、自身のために、常に積極的な態度で知識・スキルの習得に励んでください。

CF(大腸内視鏡検査)の看護手順と留意すべき観察項目

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CF(大腸内視鏡検査)

検査の1つとして広く実施されているCF。簡易な検査法であることで、看護業務を軽視しがちですが、患者情報を適切に取得し、よく観察しなければ、時として患者に苦痛を与えてしまいます。それゆえ、しっかりとした知識を踏まえた上で、多角的な視点から看護を実践しなければいけません。

ここでは、CFの概要や適応疾患、副作用・合併症、看護手順などについて、包括的かつ詳細にご説明しますので、CFに関して不安があるという看護師の方は最後までしっかりお読みいただき、知識の習得・今後の看護にお役立てください。

 

1、CFとは

CFとは、”Colono Fiberscopy”の略で、「大腸内視鏡検査」または「下部消化管内視鏡検査」のことを指します。CFは、腹痛や便秘、下痢、血便、下血など、何かしらの大腸疾患の疑いがある場合に施行され、肛門から内視鏡を挿入し、腸内の異常を調べます。

また、大腸疾患の検査だけでなく、止血術、良性ポリープ(大腸線種)・大腸がん(早期)の切除、進行大腸がんなどによる腸閉塞合併症時の経肛門的減圧術などの治療目的でも施行されます。

CFに際しては、医師(内視鏡医)、看護師(内視鏡技師)、看護助手が配置され、各医療従事者がそれぞれの役割を果たし、検査・治療を行います。検査に際しては約15分と短時間の間で終了しますが、洗腸剤の内服の仕方の説明、内視鏡室への案内など、看護師が行う看護業務は多岐に渡ります。

 

2、CFが適応となる症状・疾患

「1、CFとは」で軽く触れましたが、当項でCFの適応症状・疾患について詳しくご説明します。CFは大腸の内部における内視鏡の検査法であり、検査を通してさまざまな疾患を特定することができます。また、内視鏡により大腸の内部を肉眼的に観察することができるため、大腸疾患の治療時にも施行されます。

 

大腸疾患が疑われる症状がある時

腹痛や便秘、下痢、血便、下血など、何かしらの大腸疾患が疑われる場合にCFが施行されます。普段と比べてお腹の調子が悪いなど軽度症状においても大腸疾患の兆候を見逃さないために行われることが多いのが現状です。

≪特定できる大腸疾患≫

大腸がん(直腸がん・結腸がん)、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎、アメーバ赤痢、大腸結核、細菌性腸炎、クローン病など

 

治療を目的として施行される時

止血術、良性ポリープ(大腸線種)・大腸がん(早期)の切除、進行大腸がんなどによる腸閉塞合併症時の経肛門的減圧術など、さまざまな治療においてもCFは施行されます。

ポリープや腫瘍の切除においては、高周波電流を用いた内視鏡的大腸ポリープ切除術が行われます。ただし、形状によって対象とはなりません。

これらの疾患の治療を行う際には、大腸の内部を直視下で観察しながら行う必要があるため、CFは非常に有効なのです。

 

大腸疾患の早期発見のため

大腸疾患が疑われる症状出現時や治療目的だけでなく、過去に大腸ポリープがあった方、血縁者に胃腸がんを患ったことがある方、40歳以上の方など、大腸疾患(特にポリープや大腸がん)の早期発見のために行われることが多いのが実情です。

 

このように、さまざまな状況においてCFが適応となりますが、以下のような場合は禁忌となり、CFではなく他の検査法を用いて大腸疾患を特定します。

≪絶対的禁忌≫

ショック、急性心筋梗塞、腹膜炎、急性穿孔、劇症大腸炎など

≪相対的禁忌≫

不整脈、心筋虚血、同意が得られない患者など

 

3、CFにおける副作用・合併症

CFは基本的に簡易かつ安全な検査であるものの、約0.04%で鎮静剤などの使用薬の副作用(主にアレルギー)や検査時における穿孔・出血などの合併症が起こっています。よって、これらの偶発症の可能性を念頭に置いておく必要があります。

 

穿孔

穿孔とは腸に穴があくことで、特に腸が脆い高齢者に起こりうる合併症です。治療においてだけでなく、疾患特定のために行う検査でも大腸穿孔を起こすことがあり、穿孔は敗血症などに移行していく危険があるため、穿孔がみられる場合には緊急手術が行われます。

 

出血

ポリープや腫瘍の切除に伴い出血することがあります。切除においては高周波電流を用いた内視鏡的大腸ポリープ切除術が実施され、電気を通して焼いた部分が一時的に潰瘍になり、傷痕が残ることから、切除から1日~3日後に出血がみられます。なお、便などにより出血がみられると内視鏡を再度挿入し、直視下で止血処置を行います。また、ポリープや腫瘍の切除に伴う出血だけでなく、組織を採取する時(生検時)においても出血することが稀にあります。

 

薬剤アレルギー

前処置における下剤・鎮静剤などに対する薬剤アレルギーもCF時に起こりうる偶発症の1つです。該当薬を服薬歴がない方はもちろん、既往歴がありアレルギー反応を起こしたことがある方で問診時に適切に情報を取得できていない場合などに、薬剤アレルギーを起こす可能性があります。

 

このように、CFにおける合併症(偶発症)はさまざまあります。特に薬剤においてはアレルギー反応だけでなく、抗凝固剤や抗血小板薬など薬を常用している場合には出血時に重症へと発展する危険性があるため、問診時にはしっかりと患者情報を取得しておく必要があります。問診は医師が行いますが、看護師も患者に再確認するなど、合併症の予防に最大限努めなければいけません。

 

4、CFに際する看護手順

CFは治療時にも実施されますが、ここでは検査を主とした場合の看護手順をご説明します。上述のようにCFに際して合併症や副作用のリスクはゼロではありません。また、情報の取得不備を避けるため、患者の苦痛を軽減するために、さまざまな点に留意しながら医師の介助、患者の看護を行う必要があります。

 

≪前処置≫

①問診とCFに関する説明を行う

基本的には医師が問診を行い、CFの方法や必要性、合併症の可能性などを説明し、同意ならびに承諾書を得ます。問診・説明は医師が行いますが、症状、既往歴 飲酒・喫煙歴、既往歴、服薬歴など、看護師も再確認しておきましょう。

 

②食事制限、下剤の服用

腸内の安静にするために検査前日に食事の制限を行います。これには飲酒も含まれます。特に入院時には看護師が食事制限を監視する必要があります。また、腸内を綺麗にするために、検査当日に約2リットルの下剤を服用します。下剤の服用を確認し、便が水様透明になったことをしっかり確認してください。

 

③CFに関する再説明を行う

検査に入る前に、看護師が患者に対してCFの方法や必要性、合併症の可能性など再度説明を行うと共に、症状、既往歴 飲酒・喫煙歴、既往歴、服薬歴、さらには食事制限・下剤の服用の確認を行います。特に薬剤に関する情報をしっかり取得しておいてください。

 

【看護のポイント】

・患者情報(既往歴や服薬歴など)が適切に取得できているか

・前処置において食事制限の説明が正しく行われているか

・下剤により便が完全に水様透明化しているか

 

≪検査・術中≫

①検査室へ誘導する

患者のバイタルサインをチェックした後、検査室へ誘導し、検査着に着替えてもらいます。その後、検査を円滑に行うため、苦痛を軽減するために、腸の働きを抑制する薬や鎮静・鎮痛薬を投与します。なお、検査台上で左側臥位をとってもらいます。この時、薬物によるアレルギー反応の有無や体位における苦痛などを確認し、異常時には迅速かつ適切に対処してください。

 

②内視鏡を挿入する

医師が肛門より内視鏡を挿入します。看護師は医師の補佐として患者に対して声掛けを行い、羞恥心を軽減させる・体の力を抜いてもらう、体位を固定・調整する、患者の状態を確認する(肉眼的ならびにモニターにより)、空気の注入に伴う腹部膨張感の有無の確認などを行います。

 

③(治療によるCFの場合)

検査の段階でポリープや腫瘍が見つかっても、治療の同意が必要となるため、その時点では治療は行いませんが、同意書を得ている場合は(治療目的のCF)、切除を行います。この時、医師の補佐を勤めるとともに患者の観察を行い、異常時には迅速かつ適切に対処します。

 

④内視鏡を抜去する

観察が終了したら内視鏡を抜去します。抜去の際も必要に応じて体位変換を行うよう声をかけ介助します。また、検査後は薬物による副作用や検査に伴う合併症などが懸念されるため、安静保持の旨を説明します。

 

【看護のポイント】

・患者のバイタルサインを正しく観察できているか

・検査台上にて適切な体位をとれているか

・前投与薬によるアレルギー反応が出ていないか

・苦痛、腹部膨張感が伴っていないか

・検査終了後の安静保持の説明が行われているか

 

≪検査・術後≫

①安静を保持してもらう

検査のみであれば患者をリカバリー室へ移し安静にしてもらいます。治療後であれば病室へ移し安静にしてもらいます。この時、患者のバイタルサイン・腹部膨張感・腹痛などを観察します。

 

②検査結果の報告

1時間~2時間ほど暗線にしてもらった後、医師より撮影した画像を見ながら症状の説明を行います。組織を採取した場合には後日結果の報告を行います。この際には看護師が行う業務は特にありません。

 

③退院の準備

検査のみの場合は当日中に退院してもらいます。その際、CFによる合併症や副作用が懸念されるため、出血や腹痛、吐き気などの症状が現れた際には再度通院してもらうよう伝えます。また、しばらくの間、刺激の強い飲食物の摂取を控えるよう飲食制限の説明を行ってください。なお、ポリープや腫瘍の切除後は入院してもらい、食事制限だけでなくバイタルサインや各症状の観察を行います。

 

【看護のポイント】

・安静状態が保たれているか

・腹部膨張感や腹痛など異常がみられるか

・異常時の通院、飲食制限などの説明が正しく行われているか

 

まとめ

CFは簡易的な検査です。また、看護業務の一連は単調であるため、各所における看護を軽視しがちです。たとえば、患者情報を適切に取得できていないと薬物アレルギーを起こす可能性があります。また、時として患者が苦痛を我慢することで異常の発見が遅れることがあります。

このような状況を避けるために、一連の看護業務を軽視せず、患者が安心・安全・安楽に検査・治療を行えるよう援助しなければいけません。CFにおける看護手順やポイントをしっかり踏まえ、患者にとって最適となる看護が提供できるよう、さまざまな点に留意しておいてください。

新人ナースに贈る!オペ室で働く前の予備知識と看護師あるある3選

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オペナース

私は手術室で働く看護師です。手術室といえば、患者さんにとっては非日常の極みであり、病棟ナースの皆さんもなかなか足を踏み入れない、どことなくミステリアスな場所だと思います。

 

「本当に医療ドラマのような感じなのだろうか?」

「患者さんが麻酔で眠ってしまうと、医師や看護師たちは本性をあらわすのだろうか?」

などと興味を持たれる方もいらっしゃるでしょう。

 

そんな特殊な場所で日々奮闘するオペナースのあるあるを、私の体験談とともに紹介させていただきます。今回は「とにかく覚えることが多い!」です。

 

1. オペナースは覚えることが多い

皆さんは仕事がうまくいかなくて落ち込んだとき、どのように対処していますか? さまざまな方法があると思いますが、私はオペナースになったばかりの頃を思い出します。すると「当初に比べれば、相当な量の知識と技術を身につけている」と実感できて、元気がわいてきます。

 

もっとも、看護師は生涯勉強であり、どこの部署でも勉強に追われていると思います。私は手術室しか経験していないのですが、「病棟ナースは楽でいいな~」とは微塵も思っていません。ただ、「覚えることの多さ」ではオペナースが目立っているといわれます。理由としては、以下のようなものがあげられます。

 

  • 器械出し(医師にメスなどを渡す役)と、外回り(患者さんの観察や麻酔の介助などをする役)の両方をこなさなければならない。
  • あらゆる診療科の術式を覚えなければならない。
  • 術式だけでなく、患者さんの持病や体質も把握したうえでアセスメントする能力が求められる。
  • 医師によって、使う物品や手術の手順が違うことがある。
  • 診療科ごとに「暗黙の了解」のようなルールが多く存在する。

 

地味に厄介なのは「暗黙の了解」です。例えば、手術中に鑷子(セッシ:ピンセットのこと)を使うとします。単に「鑷子」と言われたら、婦人科では普通の鑷子を出し、胃外科では「組織鑷子」と呼ばれるものを出し、肝胆膵外科では先が細いタイプの鑷子を出し……というように、一つ一つ対応していかなくてはなりません。

 

また、オペナースの仕事内容のほとんどは、看護学生時代に教わらないことです。たとえ看護師国家試験の成績が良くても、手術室に配属されればゼロからのスタートに等しいのです。そのため「想像以上に大変……」という壁にぶつかります。この壁は、きっとオペナースならば誰でも経験するのでしょう。

 

2. オペナースの日常

仕事をしながら勉強もする。そんな生活の実際を紹介してみます。仕事に慣れてくれば少しずつ余裕が出てきますが、新人時代は息つく暇もありません。

 

朝は5時半に起き、その日につく手術の手順書を読みながら朝ごはんを食べます。職場に到着すると、着替えて受け持ちの手術室へ。肩がガチガチに凝ってしまう緊張の一日が始まります。

 

昼休みも、新人たちは予習・復習にいそしんでいます。夕方は定時上がりが多いのですが、仕事が終わってから先輩と振り返りをしたり、翌日の手術の資料をコピーしたり、翌日の部屋準備をしたりしています。それでも職場を出る時刻は病棟の看護師よりも早いので、環境としては恵まれています。

 

帰宅すると夕食の準備をして、ほっと一息つきながら食べます。疲れが出てお風呂に入るのも面倒になってきますが、明日の予習もしなければなりません。手順書やチェックリストを読まずに手術につくことはありえないからです。疲れすぎて「寝落ち」してしまった場合は、気合で早起きして朝のうちに予習をします。

 

平日は大変ですが、たいてい土日はゆっくり休むことができます。

 

3. 大変なぶん、やりがいもある仕事

このように、オペナースは決して楽ではありません。しかし手術室ならではのやりがいも多々あります。

 

最たるものは、自分の受け持った患者さんが無事に手術を終えて、褥瘡もなく、低体温になることもなく、不安や不信が増強することもなく退室されたときの達成感。器械出しでは、医師から指示される前に必要なものを予測して準備できたとき、ひそかな喜びを噛みしめます。これらの楽しみは、すべて「日々の予習・復習」の上に成り立っているのです。

 

さらに、医師たちの顔と名前を覚え、それぞれの「流儀」ともいえる手術方法を把握することで信頼関係が生まれます。オペナースは医師たちの手袋のサイズもだいたい覚えていて、医師が滅菌ガウンを着て近づいてきたときに「あ、○○先生だからこのサイズね」と思いつつ、サッと手袋を広げてあげるのが快感だったりもします。それぐらいで褒められることはありませんが、医師の側も悪い気はしないはずです。

 

オペナースは大変なぶん、やりがいもある仕事。自信をもって働く先輩たちの背中を見ていると、そう感じます。

 

私はまだ経験が浅く、「仕事が楽しい!」とは思えないのですが、あるあるを発信することで少しずつ面白さを見出していけたらと思います。オペナースの方々、特に新人・若手の皆さんに共感していただければ嬉しいです。

明日から使える!仕事でも生活にも役立つ看護師の25の裏技

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看護師の裏ワザ

看護師の現場は使える裏技がたくさんあります。今回は、海外ブログで話題になっている、お仕事の現場から日常生活まで、明日から役立つ25の裏技をご紹介します。

 

1. コンタクト保存液を忘れたら「食塩水」

コンタクト保存液を忘れたときは、普通の食塩水を使えばレンズが渇きません。緊急対策として、ドライアイの目薬がわりにもなります。

 

2. 排泄物の処理には「手袋3枚重ね」

手袋三枚重ね

患者さんの排泄物処理の際、時間を節約するためにも「排泄物3枚重ね」が便利。処理が終わったら一枚目の手袋を取って捨てます。ゴミを捨て終わったら二枚目をはがして捨て、最後周囲の掃除やベットメイキングが終わったら三枚目も捨てればOK。新しい手袋をする時間の節約にもなります。

 

3. 休憩時間の食事の汚れが気になるなら「手術衣を着る」

休憩中、食事の汚れがユニフォームについてしまうこと、ありますよね。食べ物の汚れは落ちにくいので、心配な方はユニフォームの上から手術衣を着るのがおすすめ。エプロンのようにユニフォームを予期せぬ汚れから守ってくれます。

 

4. 臭気が気になる場所には「コーヒーの粉」

ポータブルトイレや嘔吐物用の膿盆、さらには給湯室の排水溝まで、臭気が気になる場所に使えるのが「コーヒーの粉」。コーヒーの粉を振りかけて流すだけでも消臭効果が抜群です。さらに、挽いたコーヒー豆を箱やポットに入れて部屋に置くだけでも、部屋の臭いを消臭してくれます。

 

5. 鼻腔栄養チューブは使う前にひと工夫!

鼻腔栄養チューブは使う前に一工夫

鼻腔栄養チューブを使う前におすすめなのが「冷やす」こと。冷やすことで挿入時の不快感が軽減されるだけでなく、挿入しやすくなります。氷水で冷やすか、冷凍庫に15~30分入れるといいでしょう。

 

6. 静脈路確保・挿入には「温かい布きん」が使える

あたたかい布きんを挿入する場所に少しあててあげると、血管が拡張し、静脈路確保がしやすくなります。

 

7. 女性の患者さんにはフォーリーカテーテルを「2回」する

女性の患者さんに対してフォーリーカテーテルをしても尿の流れが確保できない場合は、外さないまま新しいものを使ってみるとよいでしょう。最初のカテーテルは同じ位置に固定し、新しいものを少し上のほうに向けて挿入しましょう。尿道が閉じずにうまく処置ができます。

 

8. 検血前に、「尿採器」を置いておく

小児患者の検尿・検血では、血液精密検査の間、採尿器を置いておくといいでしょう。検体採取のときに役立つ場合があります

 

9. 取れない血痕には「過酸化水素」が効く

布についてしまった血液を取り除くには「過酸化水素」が使えます。(※容量・用法を遵守してください)

 

10. 排泄物のふき取るときには「ローション」

ローション

ロストリジウム-ディフィシル(あるいはクロストリジウム-ディフィシレ)感染症の患者さんの場合など、皮膚から排泄物をふき取りにくい場合があります。その場合は、ふき取る布/紙に少量のローションをつけるだけで、肌に負担をかけることなくすぐふき取ることができます。

 

11. 点滴するときは、しっかりと「チューブを締める→スパイクを穿刺」してからチャンバーを満たす

こうすることで、の空気を抜くことで、気泡が発生することを防ぎます。

 

12. 接触予防策として、「聴診器に手袋」

接触予防策として、聴診器に手袋をつけるという裏技も。手袋は非常に薄いのできちんと音は聞き取れ、患者さんとのウイルスの接触予防になります。

 

13. ベッドや部屋から出たがる患者さんには「お願いごと」を

ベッドや部屋から出たり、はいかいしがちな患者さんには、ベッドの上でお願いごと・頼みごとをするといいでしょう。(例えば、タオルをたたんでいただくなど)。そうすると、目的意識が芽生え、移動してしまうことが少なくなります。

 

14. 小児患者の止血帯は「半分にカット」

小児患者にとって、止血帯は大きすぎたり、厚すぎる場合がほとんど。患者さんの身体の大きさに合わせてカットすると、きちんと握ってもらえます。

 

15. 毛深い患者さんには「布ガーゼ」

静脈注射の際、毛深い患者さんに対しては、止血帯としてガーゼか布を使うとよいでしょう。はがすときの傷みを軽減できます。

 

16. 強い臭気には「歯磨き粉・Vics」を使う

強い臭気が伴う処置を行う際には、二枚のマスクの間に、歯磨き粉やヴィックスといったメントールの香りが強いものを塗って使うと快適です。

 

17. 絡まった髪や汚れには「消毒用アルコール」

寝たきりの患者さんの髪、汚れのせいでしつこく絡まっていたりしている場合は、消毒用アルコールが使えます。身体の拭き取りの際に行うといいでしょう。

 

18. 尿道カテーテルを使用するときは、先端だけの円滑剤はNG

シリンジにも円滑剤を塗って尿道に直接挿入すると、円滑剤が一部にとどまることができ、抜け落ち防止にもなります。

19. 排泄物の汚れ落としには「シェービングクリーム」が効く

シェービングクリームをつけてこするとローションのように汚れが落ちやすくなります。

 

20. 紛失防止に「ソックス重ねばき」

患者さんのソックスを脱がしたときに、バラバラになってなくなってしまうことがよくあります。ぬがした片方の靴下をもう片方の脚にかぶせれば、衛生的かつ紛失防止になります。

 

21. 患者さんの呼吸速度を測るときは「演技も必要」

演技も必要

呼吸速度を測るとき、そのまま言ってしまうと、患者さんは呼吸を故意に整えようとしてしまうのでNG。「脈を測る」といって、脈を測るフリをしながら、呼吸速度を測ると正確な数値が出ます。

 

22. 尿道カテーテルを固定するには「空いたシリンジ」が使える

プランジャーを取って空いたシリンジのバレルにチューブを入れるだけでOK。ケリー鉗子が切れているときの裏技です。

 

23. 乾いてしまった血液をとるには「KYジェリー」か「円滑剤」がいい

まずKYジェリーや円滑剤を塗って少ししてから拭き取ると、乾いてとりにくくなった血液も簡単にとれます!

 

24. メモは手じゃなくて「マイクロポアテープ」に

マイクロポアテープにメモを書いて貼れば、洗って落ちたりしてしまう心配も0!汗をかく夏や緊張する状況下でも大丈夫です。

 

25. 袖のずり落ち防止に、手術衣に「親指の穴」をあける

手術衣を着たあと、手袋をつける前に、親指部分に穴をあけます。その穴に親指を通してから手袋をつけると、袖がずり落ちる心配がなくなります。

 

いかがでしたか?参考になった方は、ぜひ仲間にライフハックをシェアしてみてくださいね。

 

※本コラムでご紹介した裏技は、あくまでブログ作者の個人的見解であり、医学的根拠を完全に保証するものではございません。実行の際は、現場や責任者にご確認をしてください。

reference:nursebuff

看護必要度の評価基準(A・B項目)の解説、指摘される問題点

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看護必要度

看護職員の確保や提供する看護サービス料の増大を図るために開発・導入された「看護必要度」。現状では確立されておらず、多くの点で追加・修正・削除が行われています。

未だ多くの問題を抱えている看護必要度の評価ですが、適切な評価基準を設ければ、患者に対する看護の質向上のためのツールとなるでしょう。

また、すべての病院において看護必要度が導入されているため、すべての看護職員がしっかり把握しておく必要があります。看護必要度の知識を深めたいという方は、当記事を最後までしっかりお読みいただき、知識習得にお役立てください。

 

1、看護必要度とは

看護必要度とは、「入院患者に提供されるべき看護の必要量」のことを指し、看護サービスの質と量を表す基準として1996年に開発されました。

看護師の不足により、1人あたりの患者に対する看護の質の低下が懸念され、看護師1人あたりの患者数が多くなればなるほど必然的に各患者に対する看護の質は低下していきます。

そこで、厚生労働省は看護師1人あたり7人の患者を受け持つ体制を推奨し、その過程で患者の重症度や看護の必要量を評価することで、適切な人員確保を目的に「看護必要度」の導入に至ったのです。

 

2、看護必要度に係る評価

看護必要度を測るために用いられる評価基準(得点形式)はA項目・B項目から成り、患者の重症度を基準とします。A項目は「モニタリングおよび処置」、B項目は「患者の状態」で、処置や患者のADLを基に0点~2点と採点し、得点が高ければ高いほど患者に対する「看護必要度」が高く、診療報酬が多くなり、看護師など医療従事者の人員を多く配置することができます。また、人員を多く配置することで、患者に対する看護の質向上を図ることができるのです。

 

A項目(一般病棟)

モニタリング

および処置

定義 0点 1点 2点
1、創傷処置 創傷・褥瘡における処置があり、看護師など医療従事者が医師の介助をした場合、または自ら処置を施した場合、かつ記録があるか。 なし あり
2、呼吸ケア 人工呼吸器管理(気道内吸引、酸素吸引、口腔内吸引)、痰排出のための体位ドレナージ、スクウィージングのいずれかを実施し、その記録があるか。 なし あり
3、点滴ライン

(同時3本以上)

点滴ライン(ボトル、バッグ、シリンジバッグなどから抹消静脈、中心静脈、動静脈シャント、動脈、硬膜外、皮下への点滴、輸血、血液製剤の流入経路、持続注入による薬剤)を同時に3本以上、持続的に使用した場合、かつその記録があるか。 なし あり
4、心電図モニター 持続的に心電図のモニタリングを実施した場合、かつ記録があるか。 なし あり
5、シリンジポンプの使用 静脈注射、輸血、輸液、血液製剤に際してシリンジポンプを使用している場合、かつ記録があるか。 なし あり
6、輸血・血液製剤の使用 輸液(全血・新鮮凍結血漿・濃厚赤血球など)や血液製剤(アルブミン製剤など)の投与を実施した場合、かつ記録があるか。 なし あり
7、専門的な治療・処置 ①抗悪性腫瘍剤の使用(注射剤のみ)、②抗悪性腫瘍剤の内服の管理、③麻薬注射剤の使用、④麻薬の内服・貼付、⑤放射線治療、⑥免疫抑制剤の管理、⑦気圧剤の使用(注射剤のみ)、⑧抗不整脈剤の使用(注射剤のみ)、⑨抗血栓塞栓薬の持続点滴の使用、⑩ドレナージの管理、のいずれかを実施し、かつ記録があるか。 なし あり

 

■B項目(一般病棟)

患者の状態 定義 0点 1点 2点
1、寝返り 寝返りを自分でできるか、あるいはベッド付属品(ひも、ベッド柵、彩度レールなど)に掴まればできるか。 何かに掴まれば可 不可
2、起き上がり 自分で起き上がりができるか、あるいはベッド付属品(ひも、ベッド柵、彩度レールなど)に掴まればできるか。 不可
3、座位保持 上半身を起こして座位の状態を保持することができるか。 支えがあれば可 不可
4、移乗 自分でベッドから車椅子・ストレッチャー・ポータブルトイレなどへ乗り移ることができるか。 見守り・一部介助が必要 不可
5、口腔清潔 口腔ケアにおいて一連の行為を自分でできるか、あるいは看護師の見守り・介助を必要とするか。 不可
6、食事摂取 朝食・昼食・夕食・補食(経管・経口栄養を含む)などにおいて、自力摂取ができるか、あるいは介助を必要とするか 介助なし 一部介助 全介助
7、衣服の着脱 パジャマ(上衣)、寝衣、ズボン、パンツ、オムツなど、衣類の着脱に際して介助を必要とするか。 介助なし 一部介助 全介助

 

3、看護必要度の問題

このように、看護必要度は患者の重症度をもとに得点化され、重症度に見合った人員確保(看護の質向上)を目的として導入されていますが、数々の問題点が指摘され、看護必要度の“必要性”は未だ議論の渦中にあります。以下に指摘されている3つの問題点についてご説明します。

 

■正確に反映できるわけではない

現在の看護必要度は計14項目から測定していますが、高齢者の増加や安全対策の強化など、現場の医療環境が大きく変化していることで、看護必要度の測定項目にはない重症度の高いケアが生まれてきています。

また、特殊な薬剤・機器の管理などの業務も評価に反映されていないため、現状においては看護必要度と“看護量”は比例していなく、患者の重症度からくる看護の必要度を正確に測ることが困難なのです。それゆえ、追加すべき評価項目や修正すべき評価項目、はたまた削除すべき評価項目についての検討が現在進行形で行われています。

 

■記録に際する労働時間の増加

看護師など医療従事者の業務は多岐に渡り、残業を強いられることも少なくありません。それに加え、看護必要度を測るために作成する評価シートへの記載にあたって、各項目の記録を残す必要があります。そのため、この作業は業務の負担となり、結果的に医療従事者の労働時間を増加させてしまっているのです。

看護必要度は患者に対する看護職員の適切な人員確保を目的として導入されているのにも関わらず、結果的に業務時間・残業時間の増加に伴う離職率の増加で、総体的な人員確保がさらに難しくなっているのも事実なのです。

 

■経営の視点から適切な処置が行われない

看護必要度が高ければ高いほど、つまり患者の重症度が高ければ高いほど診療報酬が増加します。病院は1つの会社として捉えることができ、経営のために収益性を考慮しなければいけません。

診療報酬が高いほど収益を得られることができることで、不必要な医療機器の使用など評価点数を無理やり上げる行為が横行することが懸念されます。これにより、患者が適切な看護を受けられない状況を生み出し、さらに患者にとって負担となり得るのです。

 

4、今後の動向

看護必要度の基準となる各項目は未だ適切ではなく、患者が求める最適な看護量に結びついていません。それに伴い、追加・修正・削除すべき評価項目が幾度も議論されており、今後は大きな見直しがなされることが予想されます。

また、現状では術後患者を評価する項目が一切定められていないことで、患者の重症度をタイムリーに測るために術後の項目(M項目)を新設する動きがみられるなど、これまでの評価基準が大きく変更されることが予想されます。

 

■M項目

手術などの医学的状況 0点 1点
①開胸・開頭の手術(術後5~7日間)

②開腹・骨の観血的手術(術後3~5日間)

③胸腔鏡・腹腔鏡手術(術後2~3日間)

④その他の全身麻酔の手術(術後1~3日間)

なし あり

 

さらに、そもそも「看護必要度」の導入における必要性についての議論も行っています。というのも、これまで幾度となく追加・修正・削除が行われ、病院や看護師など医療従事者、患者を巻き込む1つの研究(実験とも言える)になっているからです。

しかしながら、看護必要度は数ある病院の患者傾向を把握する上で有益なツールであり、現状すべての病院で導入されていることから、廃止されることは非常に考えにくいのが実情です。よって、今後もさまざまな点において追加・修正・削除が行われることでしょう。

ただし、改定者と現場との意識の差は大きく、追加・修正・削除がなされても、それが果たして患者のためになるのか、医療従事者の負担が軽減できるのかという問題は残り続けるかもしれません。それゆえ、改定者と現場との温度差を少なくするのが、早期に行うべき課題なのではないでしょうか。

 

5、看護必要度を深く知るために

ここまで、看護必要度の概要や評価項目、問題点など簡単にご説明しましたが、実際には非常に細かく、また分かりづらい点も多々あります。詳細を把握するのはやや困難であるものの、すべての病院で導入されているため、看護管理者は特に看護必要度に熟知しておく必要があります。

なお、看護必要度については、研修やeラーニング(機器やインターネットを利用した学習)などにより深く学ぶことができます。研修・eラーニングのいずれも組織単位・個人単位で活用することができるため、看護必要度に関する知識習得のためにぜひ活用しましょう。

また、個人単位や院内指導において、書籍を活用する手もあります。以下に参考となる2つの書籍をご紹介します。看護必要度とはどのようなものなのか、よく分からないという方はぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

 

看護必要度 第5版 日本看護協会出版会

看護必要度評価者院内指導研修における受講者必須のテキストであり、1章:看護必要度の開発、2章:看護必要度と政策動向、3章:看護必要度を評価するための項目、4章:看護必要度の評価者養成、5章:看護必要度と記録、から成り、看護必要度について包括的かつ詳細に、分かりやすく書かれています。なお、内容に関する誤りが同出版会より訂正されていますので、購入者は「訂正のお詫びとお願い」をお読みください。

 

「看護必要度」評価者のための学習ノート 第2版 日本看護協会出版会

看護必要度における評価項目に焦点を当て、フローチャート形式で細かく、そして分かりやすく書かれています。評価のポイントなど、評価者が考慮すべき点について学ぶことができるため、新人看護師は特に読んでおくべき一冊です。

 

これら2冊により、看護必要度に関して深く学ぶことができます。しかしながら、看護必要度の追加・修正・削除は現在進行形で検討されており、各書籍においても改訂されていくため、改訂の都度、最新版をご購入ください。

 

まとめ

看護必要度は患者に対する看護師など医療従事者の人員確保を目的として導入されていますが、未だ確立されていません。それゆえ、多くの点で改定者と現場との溝があり、現状においては看護師など医療従事者に負担が大きいだけでなく、患者に対しても適切な評価基準とは一概に言えないのも事実です。

しかしながら、病院の全体像を把握する上で、また人員確保における統一化を図る上では重要なツールであるため、今後は早期に病院・医療従事者・患者すべてにとって最適となる評価基準の確立を図ってもらいたいものです。

看護サマリー(転院・退院時)の書式と書き方のコツ

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サマリーの書き方

看護サマリーの記載にあたって、どう書いていいのか分からない、やる気がでないという人は非常に多いのではないでしょうか。しかしながら、看護サマリーは患者に対して継続的に質の高いケアを提供するために欠かせないものです。それゆえ、新人看護師の方は早期に書き方をマスターし、記載に慣れてきた場合でも高い意識を持って取り組まなければいけません。

当ページでは、看護サマリーの概要に加え、書き方のコツについてご説明しますので、看護サマリーに何かしらの負の感情をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みいただき、参考にしていただければ幸いです。

 

1、看護サマリーとは

看護サマリーとは、いわゆる患者の情報を要約した情報(書類)であり、患者が退院する際や他の病棟へ移る際に、次の受け入れ先へ情報を伝達するために作成します。

主に①患者の基本情報、②病名、③現病歴、④既往歴、⑤ADL(日常生活動作)、⑥投与薬、⑦看護上の問題点、⑧患者・家族への説明などを記載します。ただし、看護サマリーの書式は定型化されていなく、病院・施設によって異なります。

なお、看護サマリーには上述の「退院時(転院時)看護サマリー」のほか、入院中の中間評価として作成する「中間看護サマリー」がありますが、ここでは「退院時(転院時)看護サマリー」に焦点を当ててお話しします。

 

2、看護サマリーの必要性

看護サマリーがないと、患者情報が正しく共有されず、次の受け入れ先ではこれまでにどのような治療・看護がなされてきたのかという情報が分からず、疾患の改善を遅らせてしまいます。ゆえに、正しく患者情報を引き継ぐこと(看護サマリーの作成)は非常に重要なのです。

しかしながら、看護サマリーが苦手という看護師が多く、多忙などにより軽視されている、また疎かにされているのが現状です。看護師は何も直接的な看護だけが業務ではなく、長期的な看護を視野に入れ、最後まで責任を持って患者のために取り組まなければ、一流の看護師とは言えません。

看護サマリーを初めて記載する方や経験が少ない方だけでなく、熟練の方も適当に記載するのではなく、さまざまな情報元を参考に、次の受け入れ先で適切に看護がなされるよう、正確にそして時間をかけて記載する必要があります。

 

3、看護サマリーの問題点

上述のように看護サマリーの作成は非常に重要であり、正確かつ簡潔的に記載・引き継ぎを行わなければいけません。しかし、①多忙により記述する時間がない、②先輩看護師が教えてくれない、③フィードバックが得られない、④情報の伝達が不十分など、さまざまな問題点があり、これらによって看護サマリーが軽視または疎かにされているのです。

 

①多忙により記述する時間がない

看護師の看護業務は忙しく、看護師が不足している病院・病棟では特に、看護業務に追われて残業することもしばしばあるでしょう。そこにさらに看護サマリーを記述するとなると残業は当たり前となり、ほとんどボランティアといった感覚に陥ります。また、記述するのに早くて30分、場合によって1~2時間かかることもあり、これが長く続くと意欲の消失ならびに心身疲労となります。これが、看護サマリーが疎かにされている最も大きな要因と言えるでしょう。

 

②先輩看護師が教えてくれない

看護サマリーの書式は病院・施設によって異なります。よって、各病院・施設の書式に合わせて記述する必要があります。しかしながら、先輩看護師の多くは教えてくれないでしょう。もちろん、多忙により教える時間がないという場合もあるでしょうが、“教え方が分からない”というのが大きな要因となっています。自身がいかに書き方を把握していても、1つ1つ細やかに教えるのは困難です。よって、書き方をマスターするためには、言葉による教授ではなく、記述済みの看護サマリーを参考にするのが最良の手段と言えます。

 

③フィードバックが得られない

自身が記述した看護サマリーが次の受け入れ先でどこまで活用されているのか、そのフィードバックを受けることができません。それに伴い、どのように改善すればいいのか、どのような情報が不足していたのかが分からず、向上心や意欲が削がれてしまいます。

 

④情報の伝達が不十分

1人の看護師が1人の患者を24時間、看護をするわけではなく、病棟内で毎日引き継ぎが行われます。しかしながら、引き継ぎにおける情報共有は口頭で行われることが多く、すべての患者情報を把握できるわけではありません。それゆえ、どのように患者情報を取得して整理すれば良いのか、どのようにまとめれば良いのかが分からないのです。

 

このように、看護サマリーを作成する上でさまざまな弊害があることで、疎かにされがちなのです。しかしながら、情報の伝達が上手くいかないと、患者に適切な看護が実施されないだけでなく、事故発生の危険性も高めてしまいます。そのため、作成上さまざまな問題点が存在するものの、正確に患者情報を記述する必要があるのです。

 

3、看護サマリーの書式

看護サマリーは病院・施設によって異なりますが、一般的には①患者の基本情報、②病名、③現病歴、④既往歴、⑤ADL(日常生活動作)、⑥投与薬、⑦看護上の問題点、⑧患者・家族への説明、に関して記述する欄が設けられています。

出典:長崎県看護協会

①患者の基本情報 患者の氏名、生年月日、性別、住所、入院日など、患者の基本情報を記載します。基本情報は看護記録に記載されているため、そのまま抽出しましょう。
②病名 医師より診断された病名を記載します。
③現病歴 現病がいつからどのように始まり、どのような経過をとってきたのか、どのような症状が出たのかを記述します。医師の紹介状を抜粋するのではなく、看護の視点から現病の経過を記述し、特に現状(最終的にどうなったのか)を記述することが大切です。
④既往歴 これまで患った病気を記載します。患者・家族からの聴取のほか、入院カルテから抽出することができます。なお、既往歴が多い場合には、必要・不要を判断し、現病と関連の深い病気のみ記載します。
⑤ADL(日常生活動作) 寝たきり度、麻痺、起居・移動、歩行、排泄、食事、更衣など、現在の日常生活動作について記述します。ADLは入院中に大きく変動するため、現状を正しく把握しておかなければいけません。
⑥内服薬 内服している薬を記載します。
⑦看護上の問題点 これまで看護を行ってきた中で、問題となっている事柄(看護問題)について記述します。転院の場合は入院に際する看護問題、退院の場合は退院に際する看護問題を記述します。

これまでの看護の中で試行錯誤の末に浮上したさまざまな問題を他者が引き継ぎ、問題解決のために取り組むための情報であるため、看護上の患者のすべての問題を正しく引き継げるよう、可能な限り詳細かつ分かりやすく書く必要があります。

⑧患者・家族への説明 患者・家族に対して医師から説明が行われますが、内容が乏しい場合もあるため、看護師の立場から説明内容を付け加えるとともに、理解や受け止め方、同意の状況について記述します。

 

このように、引き継ぎに必要となる情報を記載しますが、中でも記載に際して困難となるのが「現病歴」と「看護上の問題点」です。この2つはこれまでの治療・看護の一連を把握しておかなければ詳しく書くことができません。よって、日頃から他の担当看護師との患者情報の共有が必要不可欠です。

また、患者に対する看護ケアが各看護師によって異なる場合、たとえば“言ってることが違う”ことがあると患者は困惑し、時に精神状態が不安定になることもあるため、看護サマリーにおいてだけでなく、医療従事者間での日頃からの情報共有は非常に大切です。

 

4、看護サマリー記載におけるコツ

まず、どのように書けば良いのかということに関しては、ネット上で調べるのはあまり良い方法とは言えません。というのも、看護サマリーの書き方に正解はなく、病院・施設によって書式が異なり、また人によって書き方が異なるからです。それゆえ、書き方に関しては既存の看護サマリーを参考にするか、先輩看護師の看護サマリーをタイムリーに見せてもらうかするのが習得の近道です。

よって、ここではどのように作成時間を短くするかに重点をおいて、看護サマリーの書き方のコツを精神論も踏まえてご紹介します。

 

■日頃からしっかりと情報共有をしておく

上で軽く触れましたが、「現病歴」や「看護上の問題」においては、これまでどのような治療・看護が行われてきたのか、その過程で生じた問題は何かなど、一連の情報を把握しておかなければ容易にまとめることができず、時間がかかってしまいます。それゆえ、夜勤従事者やチーム間で日頃から情報共有をしっかり行い、口頭だけでなくメモをとるなどして、気になることを書き留めておきましょう。そうすることで、記載時間の削減はもちろん、次の受け入れ先へ患者情報を正確に引き継ぐことができます。

 

■目的を明確にする

ダラダラ書いていては当然時間がかかります。“誰に”“何のために”書いているのか、その目的を明確にすることで、より容易にまとめやすくなります。たとえば、自分ならこのように書いてくれたら分かりやすい!というように、引き継ぐ側の気持ちになって書くのです。これは一つの心理であり、目的があれば効率的(時間の短縮)に行うことができ、またやる気にも繋がります。

 

■書ける時に書く

看護師の多くは複数の患者の看護サマリーを“一気”に書いているのではないでしょうか。こうすると、書くことへの精神的負担が大きくなり、心理的に書くのが“嫌”になってしまいます。また、複数の患者情報を一度に考えながら書くと混乱しやすく、患者一人に対する看護サマリーの記載時間が長くなり、結局のところ非効率になります。よって、複数の患者の看護サマリーを一度に書くのではなく、転院・退院が決定したら出来るだけ早く作成するようにしましょう。

 

■経過が長い場合は要約する

入院期間が長い患者の看護サマリーで、これまでの経過を長々と書く方がいますが、引き継ぐ相手にとってはその全てを必要とすることは少ないと言えます。また、これまでの経過を振り返る時間が長くなることで、必然と記載時間が長くなってしまいます。それゆえ、「入院時・中間・現状」の3つ時期だけピックアップしましょう。

 

5、参考になる書籍

最後に、看護サマリーの作成にあたって参考となる書籍をご紹介します。看護サマリーに関する書籍の数は非常に少なく、書かれていても看護記録の一部として軽く触れられているだけのものが多いのが現状です。書籍数は少ないながら、参考になる教本は出版されていますので、看護サマリーに関してもっと知識を増やしたいという方は読んでみてはいかがでしょうか。

 

地域につなげる「退院サマリー」を提案します

看護サマリー(退院時)にどのような内容が書かれていれば患者の支援に役立ち、引き継ぎ先に必要とされるものになるのか、患者の円滑な移行に重点を置いて詳しく書かれています。看護サマリーの書籍の中で文章量が多く、参考度は最も高いと言え、知識の習得を目指す方はぜひとも読んでおきたい一冊です。

 

適切で効率的な書き方がわかる看護記録パーフェクトガイド

東京都立病院で使われている「看護記録表現事例集」を基に、看護記録・看護サマリーに記述してはいけない例など文章の書き方に重点を置いて詳しく書かれています。看護記録全体についての書籍ですが、文章の選び方などは看護サマリーにおいても大いに役立ちます。看護記録の書き方が分からないという方は、ついでに勉強してみてはいかがでしょうか。

 

まとめ

看護サマリーは患者が転院後(退院後)も適切な看護ケアを受けられるよう支援する情報であり、患者のために必ず必要なものです。毎日の看護業務は多忙を極め、看護サマリーの記載を疎かにしがちで、また単調になりがちですが、担当している間だけ看護に携わるという考え方ではなく、長期的な視点で親身になって看護を実践していきましょう。

そうすることで、患者のためだけでなく、自身のスキルアップにも大いに役立つでしょう。特に看護師としての経験が長くなればなるほどルーティーン化して“やりがい”を感じにくいものです。それゆえ、常に高い意識を持って看護業務に取り組んでいってください。看護サマリーは面倒くさいものですが、看護サマリーに高い意識を持って取り組むことで、自身の看護業務の意識改革のための促進剤になるはずです。


中心静脈による栄養投与「IVH(TPN)」の管理と観察

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IVH

中心静脈から血液に栄養を投与するIVH。効果的な栄養法でありながら、感染の発症率が高いため、適切な無菌操作が必要不可欠です。また、各栄養素の過剰・不足に陥りやすく、場合によっては重篤化することもあるため、栄養素の管理も非常に重要です。

IVHの管理は容易ではなく、軽視すると患者のQOL低下はもちろん、症状の増悪ならびに合併症を発症させてしまいます。それゆえ、適切な観察・管理を行い、患者にとって最適となる看護を提供してください。

 

1、IVHとは

IVHとは、「Intravenous Hyperalimentation」の略で、「高カロリー輸液」のことを言い、「中心静脈栄養法」と呼称されることもあります。人間の体は常に栄養を摂取する必要があり、いかなる疾患を患っていようとも様々な手段を用いて体内に栄養を送る必要があります。

通常、飲食物を口から摂取しますが、それが難しい患者に対しては鼻腔からチューブを入れて胃に直接的に流動食を流し込む「経鼻経管栄養法」や、胃ろうを造設して直接的に流動食を流し込む「胃ろう栄養法」などが選択されます。これらはチューブ(管)を介した栄養投与法であることから「経管栄養法」と総称されています。

しかしながら、消化管(胃や腸)に何かしらの異常がある場合は経管栄養法を安全に行うことができません。その場合には血液中に直接的に栄養素を投与する必要がでてきます。血液中に栄養素を投与する場合には一般的に腕の静脈などから点滴を行いますが、点滴は補佐的なもので、必要なすべての栄養素を投与することができません。

また、高カロリー(高濃度)の輸液を投与すると苦痛を伴うだけでなく、静脈炎を起こす可能性があるため、点滴から一日に必要な栄養素を十分に投与することが難しいのです。

そこで選択されるのが上大動脈などの中心静脈にカテーテルを留置し血液中に直接的に栄養素(輸液)を投与するIVHなのです。IVHは心臓に近い太い静脈を介することから苦痛が少なく、継続的に高カロリーの栄養素を投与し続けることができ、経口摂取ならびに経鼻・経腸(経管栄養法)からの栄養投与が難しい患者に対して行われる、いわば栄養投与法の最終手段なのです。

なお、IVHは国際的に用いられる言葉ではありません。国際的にはTPN(Total Parenteral Nutrition)という言葉が使われており、TPNは完全非経口(非経腸管)的栄養法のことで、経口・経腸(経鼻含む)以外の栄養投与法、つまり静脈を介した栄養投与法のことであるため、IVHとTPNは同様の意味(静脈栄養法)で用いられています。

 

2、IVHの適応疾患

上記のように、IVHは経口摂取が難しい患者や消化管に何かしらの異常がある患者に対して行われる栄養投与法であるため、適応となる症例は多岐に渡ります。

 

日常治療の一部として行う場合

①消化管の栄養素吸収能がない場合

a. 小腸広範囲切除患者

b. 小腸疾患(強皮症、全身性エリテマトーデス、スプルー、慢性特発性偽性腸閉塞、クローン病、多発性小腸瘻、小腸潰瘍

c. 放射線腸炎

d. 重症下痢

e. 重症で長期間続く嘔吐

②化学療法、放射線療法、骨髄移植

③中等度〜重症膵炎

④消化管機能の障害を目前にひかえている高度栄養障害患者

⑤消化管が5〜7日間以上機能しないと思われる高度異化期患者

(敗血症、拡大手術、50%以上の熱傷、多臓器外傷、重症炎症性腸疾患)

 

通常、役に立つことが期待できる場合

①大手術

(大腸全摘、食道癌手術、膵頭十二指腸切除、骨盤内臓全摘、腹部大動脈瘤など)

②中等度侵襲:中等度の外傷、30〜50%熱傷、中等度膵炎

③消化管瘻

④炎症性腸疾患

⑤妊娠悪阻

⑥集中的治療を必要とする中等度栄養障害患者

⑦5〜7日間に十分なENを行うことが不可能な患者

⑧炎症による小腸閉塞

⑨集中的化学療法を受けている患者

 

なお、消化吸収機能に障害がない脳血管障害後遺症や神経・筋疾患に伴う嚥下障害においては原則として適応とならず、消化管に異常がない場合は経管栄養法が選択されます。また、IVHが選択に挙げられる場合でも効果が十分に認められない症例や、原則として施行すべきでない場合もあります。

 

十分な価値が認められない場合

①消化管を10日以内に使用可能で軽度の侵襲や外傷を受けた栄養状態良好な患者

②7〜10日以内に消化管が使用できるかもしれない患者の手術・侵襲直後

③治療不能な状態にある患者

 

施行すべきでない場合

①十分な消化吸収能をもった患者

②高カロリー輸液が5日以内にとどまる場合

③緊急手術が迫っている患者

④患者、あるいは法的保護者が強力な栄養療法を希望していない場合

⑤強力な化学療法を行っても予後が保証されない場合

⑥高カロリー輸液の危険性が効果を上回る場合

引用元:高カロリー輸液施行のガイドライン(成人)(参考文献7-1-3)

 

このように、IVHが適応となる条件・症例は多岐に渡り、施行の可否は多角的な情報をもとに決定します。

 

3、IVHの合併症

IVHが数ある栄養投与法の中でも最終手段として用いられるのは、その合併症の発症率の高さです。また、発症しうる合併症も多岐に渡るため、可能な限り、経口摂取または経管栄養法が施行されるのです。

以下にて、IVH時に起こりうる合併症を「カテーテル挿入時」「カテーテル管理」「栄養管理」の3つのカテゴリーに分けてご説明します。

 

3-1、カテーテル挿入に際する合併症

①静脈切開時

IVHは心臓に近い静脈を切開し、そこにカテーテルを留置して輸液を流し込みますが、静脈を切開する際に“動脈損傷”の可能性があります。特に、小児は動脈と静脈の区別が難しい場合があり、誤って動脈を傷つけてしまうことがあります。また、部分的な“神経損傷”の可能性もあり、神経を損傷した場合には一時的な痺れ、知覚異常がみられることがあります。

 

②穿刺時

定められた方法により中心静脈を穿刺しますが、中心静脈付近には太い動脈が走行しており、誤って動脈を穿刺してしまうことがあります。この際、圧迫止血により治療を行いますが、稀に血腫が形成されることによる気道圧迫・呼吸困難を起こす場合があります。また、鎖骨下静脈を穿刺する場合に肺に針が当たり、“気胸”や“血胸”をきたす場合があります。なお、気胸や血胸は術中だけではなく、稀に術後数日経ってから生じることもあります。

 

③局所麻酔

術前に患者の情報を正確に取得して、麻酔薬に対するアレルギー過敏症の有無(薬歴確認)を調べますが、薬歴がない患者に対しては過敏症の有無を正確に判断することができません。それゆえ、麻酔薬によるアレルギー反応(ショック)は避けることができないのが実情です。アレルギー反応を起こすと、血圧低下・意識消失・呼吸困難などの症状を認め、時として呼吸停止から重篤な脳障害により死亡に繋がるケースがあります。

 

3-2、管理に際する合併症

①感染症

IVHで最も発症頻度が高いのが感染症です。体の外と中心部がカテーテルで繋がれていることで、カテーテルを介して細菌が侵入しやすく、ひとたび細菌が侵入すると一気に全身に広がり、敗血症になることもあります。感染症の発症時には抗生物質を用いて治療を行いますが、敗血症により全身状態が著しく不良の場合などにはカテーテルを抜去せざるを得ないため、IVHの感染症予防は看護の大きな課題と言えるでしょう。

 

②血栓の形成による閉塞

カテーテルを留置することにより、カテーテルの周囲や内部に血栓ができ、カテーテルの内部が閉塞することがあります。この場合には、直ちに抜去します。

 

③血管炎

カテーテルの先端が血管の壁に接触することで血管炎を起こし、輸液が胸腔内に溜まることがあり、呼吸困難を呈することが多い傾向にあります。それゆえ、直ちに胸腔ドレーンを入れ、胸腔内に溜まった輸液を体外に排出させます。

 

④カテーテル位置異常

カテーテルの挿入に際してはX線によりカテーテルが正しく位置されているか確認しますが、その後に他の血管へ迷入する、浅くなる・深くなる、血管外へ逸脱するなどの現象が起こることがあります。カテーテルが適切な位置にないと血管外への輸液の漏出をきたす可能性があるため、カテーテル位置異常の場合には直ちに抜去を行います。

 

⑤カテーテル断裂

何らかの原因により、留置されているカテーテルが断裂を起こし、肺や心臓の血管内に入ってしまうことがあります。この場合には、心臓カテーテルを行い、断裂したカテーテルを摘出します。

 

3-3、栄養・成分に関する合併症

①高血糖・低血糖

通常、IVHに使用される輸液は組成上20%程度の糖が含有しており、静脈内に直接的かつ継続的に投与を行うため、高血糖状態が維持されます。また、場合によっては低血糖症状をきたすことがあります。これには投与速度が大きく関係しており、速度を速めると高血糖、速度を遅めると低血糖になる可能性があります。患者によって代謝や症状などは異なるため、糖管理は非常に難しく、血糖値を正常範囲内に維持するには数時間単位のきめ細やかな管理が必要となります。

 

②高トリグリセリド血症

輸液にはブドウ糖を主として、アミノ酸、ビタミン、脂肪などの栄養素を含めて投与を行いますが、輸液の投与速度が速すぎると血中の脂肪(トリグリセリド)が増加する高脂血症をきたすことがあります。回避するためには、糖の投与速度を基に含有量を調整します。

 

③過剰投与

IVNの投与量は35kcal/kgが上限とされており、それを超える場合には肝臓の脂肪変性を引き起こす可能性があります。過剰な糖やグリコーゲンが肝細胞内に蓄積することで肝臓が腫大します。なお、IVNの栄養投与に際して糖に頼ったエネルギー投与は二酸化炭素の発生を助長するなど、偏った比率はさまざまな合併症の発症を促すため、患者の状態に見合った栄養素の投与が不可欠です。

 

④ビタミン欠乏症

ビタミンは体で作られず、体外からの摂取が必要不可欠な栄養素です。ビタミン(特にビタミンB1)が不足するとアセチルCoAへの代謝が抑制されピルビン酸が乳酸に代謝されることで乳酸アシドーシスを起こします。最近ではビタミン投与が当たり前になっているため、欠乏症をきたすことが少なくなりましたが、万が一、代謝性アシドーシスが進行した際にはビタミン欠乏症を疑い、血清乳酸値をチェックし、ビタミンの投与を行います。

 

⑤微量元素欠乏

IVHを施行する際、特に長期的にIVHを必要とする患者の場合は亜鉛や銅などの微量元素が欠乏することがあります。IVHの輸液だけでは微量元素の含有量が十分でないため、適宜、補充が必要となります。なお、最近では微量元素製剤を必ず投与するようになっているため、欠乏に陥ることは以前と比べてかなり少なくなりました。

 

他にも、電解質異常、腎前性高窒素血症、酸塩基平衡以上、胃液の過剰分泌による胃炎・潰瘍形成、消化管粘膜の萎縮など、IVHに際する合併症は非常に多く存在します。また、経口摂取でない場合、どのような栄養投与法を用いようとも、何かしらの合併症は存在しますが、中でもIVHの合併症数は多く、発症率の高さは際立っています。

特に感染症や各栄養素の過剰・欠乏は、時に重篤な疾患へと繋がるため、看護師は適切な観察のもと、患者管理を徹底しなければいけません。

 

4、IVHの観察・管理

IVHでは中心静脈カテーテル(CVCライン)を用いて高カロリー輸液の投与を行いますが、上述のようにカテーテル挿入における合併症や栄養素に関する合併症が数多く存在するため、さまざまな点において観察・管理しなければいけません。以下にIVHならびにCVCラインにおける観察・管理事項をご説明します。看護師は必ず各項目について熟知しておきましょう。

 

穿刺・挿入部の観察

カテーテルを挿入した皮膚の周りに出血・疼痛・腫脹などがないか確認します。圧迫により起こる場合もありますが、不潔状態が続くことで発熱を伴う感染症状が現れることがあります。このように、挿入部位や全身状態を観察し、感染が疑われる場合には直ちにカテーテルを抜去し、各部位の感染症の治療に専念します。

 

穿刺・挿入部の消毒

挿入部は細菌感染を起こしやすく、常に清潔な状態を保つ必要があります。挿入部の周辺は10%ポビドンヨード(イソジン®)、ヨードチンキ、グルコン酸クロルヘキシジンアルコール(ヒビテン®アルコール)などを用い、滅菌ガーゼや綿棒などで清拭・消毒を行いますが、清拭・消毒の際に用いる用品の滅菌対策も忘れてはいけません。

 

■カテーテルの屈曲の確認

カテーテルが屈曲していると、輸液の滴下速度が遅くなる(または滴下しない)現象が起こり、これが継続化すると各栄養素の不足ならびに欠乏が生じてしまいます。輸液による確認はもちろん、カテーテルの状態を直接みて屈曲の有無を確認してください。また、カテーテルにテンションがかかっている場合には抜ける恐れがあるため、同時に確認してください。

 

ドレッシング交換

CVC挿入部には、細菌感染の予防やカテーテルの固定のためにドレッシング材を張ります。ドレッシング材にはフィルム型とパッド型がありますが、どちらも概ね週に1~2回の交換を行います。剥がれていないか、剥がれにくい工夫がなされているか、密封されているかをしっかり確認してください。

 

■輸液フィルターの沈殿物の有無

輸液ラインには、輸液中の沈殿物・異物・細菌などの微生物が血液中に入らないようにする、空気塞栓を防止する目的でフィルターがついています。また、薬剤相互間の反応による沈殿物がフィルターにつくことがあるため、沈殿物が付着している場合には適宜交換を行います。交換の際に感染予防のために、細心の注意を払ってください。

 

■輸液ラインの無菌的管理

輸液はカテーテルを通して血管内に流し込むために、それぞれ独立した輸液とカテーテルを接続します。この接続部は常に外気と接触することで無菌操作を誤れば容易に細菌の侵入(CRBSI)を許してしまいます。それゆえ、酒精綿で拭うだけという簡易的な考え方での管理は行うべきではなく、70%エタノールなどを用い消毒し、無菌状態を保持しておかなければいけません。なお、接続部が多いほど細菌侵入の機会が増えるため、三方活栓ではなく一体型が推奨されています。

 

■各値の観察

高血糖・低血糖、脂肪過多による高トリグリセリド血症、投与量超過による稼働投与、ビタミン・微量元素の欠乏など、IVH時に起こりうる栄養素関連の合併症は多岐に渡ります。尿や各種測定機器により値を調べ、過剰または欠乏状態にある場合には、投与量・投与速度の調整、または含有成分の調整を行い、正常範囲内に収めるよう努めます。

 

このように、IVHに際する観察・管理の項目は多く、特に感染症の予防に最善を尽くす管理が求められます。また、患者のバイタルサインを確認し、異変を素早く察知し、異常の早期発見に努めなければいけません。

 

まとめ

IVHは在宅でも行うことができる栄養投与法であり、既有疾患を有することが通常であるため、意識は既有疾患の方に向きがちです。それに伴い、看護者はIVHを軽視しがちなのが実情です。

しかしながら、IVHは感染症などの合併症の発症率が高く、時として重症化を招く恐れもあるため、病棟勤務の看護師はもちろん、訪問看護師もしっかりとIVHの管理を行い、合併症を未然に防ぐとともに、既有疾患の早期改善、QOLの向上に向けて患者にとって最適となる看護を提供する必要があります。それゆえ、当ページ記載の各事項を参照し、さまざまな点においてきめ細やかな観察・管理を行ってください。

就職・転職に際する看護師の面接|適切な服装と質問・回答例

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看護師の面接

看護師が就職・転職を行う時に避けては通れないのが面接です。間隔が空けば、どのような服装で挑めば良いのか、どのような質問が投げかけられ、どのような回答が望ましいのか、いろいろ考えてしまうことと思います。

当ページでは、「1、面接の心構え」「面接時の服装」「3、面接の流れと注意点」「4、良く聞かれる質問と回答例」」の4項目をもとに、好感が持たれる面接への挑み方について詳しくご説明しますので、最後までしっかりお読みいただき、参考にしていただければと思います。

 

1、面接の心構え

ご存知のように日本では看護師の人材不足が深刻で、新卒者の就職率はほぼ100%です。また、転職者においても入職は非常に容易で、基本的には転職に困ることはありません。

しかしながら、就職先に挙げられる医療施設の中には各都道府県の医療の中核を担う大型病院など看護師に人気の施設があり、看護師の人材不足は深刻でありながら、それらの医療施設においては全ての看護師が容易に入職できるわけではありません。よって、大型病院など人気の高い医療施設での就職を希望する場合には、それなりの準備が必要となります。

各医療施設の責任者は、「履歴書」「面接」「小論文」を基に新規入職者の採用の可否を決定しますが、この中で最も重要となるのが「面接」です。履歴書をどのように書けばよいのか、小論文が苦手だ、という方は多いと思いますが、実際には「面接」が採用決定の8割以上の割合を占めます。それゆえ、履歴書の書き方がおかしい、小論文がよく書けていない、という場合でも面接さえしっかり行えていれば採用されるでしょう。

医療施設が求める看護師というのは、勉学ができる者ではなく、“他の医療従事者と協調性を持って業務に取り組むことができる者”です。看護師としての知識や経験が乏しくても、それは業務の中で学ぶことができるため重要視されていません。それよりも、他の医療従事者と問題を起こすことなく業務を円滑に遂行できるかが重視され、それは履歴書や小論文では分かりません。よって、面接時の対応で判断するのです。

そのため、いかに面接時に質問に対してしっかり自分の答えを述べられるか(自主性)、いかに愛想よく振る舞えるか(コミュニケーション力)が重要であり、特に競合率が高い大型病院などではしっかりと面接の準備をしておく必要があるのです。

 

2、面接時の服装

新卒者にしろ転職者にしろ、就業する以上は1人の大人としてみられるため、社会人として適切な服装で面接に臨まなければいけません。ただし、それほど堅く考える必要はなく、一般的な大人としての身だしなみで十分です。どのような点に気をつければよいのかみていきましょう。

 

■髪型

清潔感の髪型を意識し、髪が長い方は後ろで一つにまとめましょう。また、お辞儀をした時に前髪が落ちないよう、耳にかけるかピンで留める工夫が必要です。髪色は黒。茶など明るい色はNGです。

 

■メイク

メイクは血色が良く見える程度のナチュラルメイクを意識しましょう。濃すぎるメイクは完全にNG。スッピンでも問題はありませんが、血色が悪く良い印象を与えない可能性があるため、出来る限りのメイクはしておきましょう。

 

■服

スーツやジャケットを基本とし、カラーは黒・紺・グレーなどダーク系にしましょう。パンツ・スカートどちらでも構いません。シャツは白、靴はローヒールにし、ストッキングはナチュラルな肌色を選択しましょう。

 

■アクセサリー

ブレスレットやピアスは完全にNG。ネックレスも外しておきましょう。腕時計はシンプルで落ち着いた色のものを選択してください。

 

■持ち物

書類などを持参するためにバッグを持っていくことでしょう。バッグは黒などダーク系の目立たない色を選びましょう。昨今ではリュックやハンドバッグも良しとされていますが、出来る限りA4サイズが入るビジネスバッグを選択してください。

 

3、面接の流れと注意点

次に、面接の流れと要所における注意点(ポイント)をご説明します。面接当日は、「訪問」→「訪室」→「面接」→「退室」という流れで進みますが、服装だけでなく、社会人として適切な行動をとることができるよう、マナーはきちん遵守しましょう。

 

①訪問

必ず10分~15分前に到着できるよう余裕を持って家を出ましょう。万が一、電車の遅延などで到着が遅れる場合には必ず電話入れ、遅れる旨を伝えてください。受付時には、来訪の目的と明確に伝え担当者との面談をお願いしてください。

例:本日、面接でお伺いしました○○と申します。ご担当の□□様をお願い致します。

 

②訪室

面接担当者の面談時(入室時)には、ノックをゆっくり3回行い、「どうぞ」の一言を待って入室します。入室の際には「失礼します」と一言添えてください。閉扉後に置かれている椅子の脇に行き、「○○と申します、よろしくお願い致します。」と大きな声でハッキリ言い一礼します。

「どうぞ」と勧められた後に「失礼します」と一言告げ、静かに着席してください。バッグは椅子の脇に置いておきましょう。

 

③面接

面接では、「志望理由」や「転職理由」、「看護師を目指したキッカケ」「看護観」など、さまざまな質問が投げかけられます。面接担当者の目を見て1つ1つしっかり大きな声で答えましょう。質問内容に関しては次項の「4、良く聞かれる質問と回答例」でご説明しています。

 

④退室

面接が終わったら「本日はありがとうございました」と言い、お辞儀をしましょう。また、退室時にドアの前でもう一度お辞儀をして、静かにドアを開け退室します。ここで気を抜かず、病院を出た後もしっかりとした態度で帰路についてください。

 

4、良く聞かれる質問と回答例

面接の時間は医療施設によって異なりますが、概ね5分から10分程度と短時間で終わります。質問内容は基本的にどこの医療施設でもテンプレート化されているため、事前にある程度の質問内容と回答を用意することができます。

準備せず挑むのもアリですが、何を聞かれるのか分からないという状態では緊張もしますし、言葉を詰まらせ印象が悪くなってしまう可能性もあるため、ある程度はしっかり準備しておくことをお勧めします。

なお、各医療施設は当院のために誠実にそして問題なく働いてくれる人材を求めています。ただし、誠実と言っても何でもかんでも正直に回答していては印象が悪く映る可能性がありますので、時として嘘も必要です。以下に、良く聞かれる質問とその回答の一例をご紹介しますので、参考にしてください。

 

①なぜ当院で働きたいのですか?

昔から子供が好きで、以前の職場では子供の患者さんのために少しでも治療のお手伝いをしたいと思い、小児科に勤務していました。御院(おんいん)では小児の分野で県内でも有数の病院であり、これまでの経験を生かしながら、さらに小児看護の専門性を高めることができるのではないかと考えました。また、見学させていただいた時に子供の患者さんやそのご家族に温かなサポートをされている看護師の姿に感銘を受け、御院の一員として患者さんやご家族のために温かなサポートをしたいと思い、応募いたしました。

※ポイント

家から近い、夜勤がない、給与が高いなどはNG。また、自分主義の考えではなく、就業先にとって利益となるよう、ポジティブかつ支援の内容を伝えることが大切です。

 

②なぜ退職されたのですか?

以前の職場では一通り小児看護のスキルを学ぶことができましたが、さらなるスキルアップを図るために、より設備や教育環境が充実した病院へ転職することが最適だと思い、退職を決意しました。

※ポイント

家から遠かった、忙しかった、休みが少なかった、給与が安かった、人間関係が悪かったなどネガティブな回答はNG。可能な限り、退職理由と志望動機を統一させると“つじつま”が合い、より納得してくれるでしょう。なお、引っ越しや結婚・妊娠、病気、介護など、やむを得ない理由の場合は嘘偽りなくそのまま伝えましょう。

 

③なぜ看護師を目指そうと思ったのですか?

高校生の頃に医療ドラマの中で患者さんに親身になって看護を提供している看護師の姿をみて、私も人のためになる仕事がしたいと思い、看護師を目指しました。

※ポイント

理由は何でもOK。正直に答えましょう。

 

④実際に看護師になってみてどうですか?

実際に看護師になってみて、看護の難しさを肌で感じ、くじけそうになる時もありました。しかし、患者さんの「ありがとう」という言葉や体調が良くなっていく姿をみて、看護師としての“やりがい”を感じ、今では看護師になって良かったなと心から思っています。今後も患者さんのためにより良い看護が提供できるよう、切磋琢磨していきたいと考えています。

※ポイント

③の延長で聞かれる質問です。理想と現実のギャップを正直に話すと説得力があります。また、今後どのようにしていきたいのかを加えると尚良し。

 

⑤あなたの看護観を教えてください

患者さんが信頼でき、円滑に治療を行えるよう精神的にサポートを行うことが看護師の大きな役割だと思っています。疾患により不安を感じる患者さんが、この人なら安心できると感じられるよう、患者さんの気持ちや想いを理解し、寄り添う看護を提供することを心がけています。

※ポイント

看護観とは、自分にとって“看護とは何か”、“どのように看護を行うのか”ということです。看護師の役割は患者さんへの“援助”であるため、そのことに紐づけて自分なりの考えを伝えましょう。

 

⑥インシデントの経験はありますか?

車椅子移乗の際に、介助が不適切で危うく患者さんが前に倒れそうになったことがあります。体が傾いている段階で気づいて大事には至りませんでしたが、それ以来は転倒や転落を防止すべく、細心の注意を払って介護しています。また、介護時の体勢や注意を払うことなどを他の看護師と話合い、院内全体で予防策を講じました。

※ポイント

インシデント(ヒヤリハット)の有無を問われているのではなく、“対応”が本意であるため、経験がある場合にはどのように対処し、どのように改善(予防)を図ったのかを詳しく説明しましょう。

 

⑦自己PRをお願いします

私は人と接するのが好きで、誰とでも気さくにコミュニケーションを図ることができます。以前の職場でもムードメーカーとして居心地の良い職場環境を作れたのではないかと思っています。また、多くの患者さんやご家族から“あなたのような看護師さんが側にいてくれて安心できる”と嬉しい言葉を頂きました。明るい性格や気さくなコミュニケーションは私の強みであると感じておりますが、今後はさらなる向上を図り、患者さんやご家族にとって心から信頼できる看護師になることを目指して日々邁進していきたいと思っています。

※ポイント

回答は何でも構いませんが、必ず自分の“長所”や看護における“強み”について回答しましょう。その“長所”や“強み”がどのように反映されたのかを詳しく述べるとさらに好印象を与えることができます。

 

4-1、逆質問で印象UPを!

面接の最後には「何か質問はありますか?」と必ず聞かれます。この際、あなたの方から質問することで好印象を与えられ、また入職への積極性が評価され、合格に一歩近づけます。

この逆質問は入職への“意思表示”ですので、積極的に質問することをお勧めします。面接担当者からの説明が不十分な場合にはその点について尋ね、説明が十分の場合には以下のように職場の雰囲気などの質問を投げかけると良いでしょう。

 

○以前の職場で患者さんやご家族、他の医療従事者と積極的にコミュニケーションを図ってきましたが、配属予定先はどのような雰囲気でしょうか?

○差支えなければ配属予定先の1日の業務の流れを教えていただけますか?

○もし採用して頂ける場合、入職までに何か勉強しておくべきことはありますでしょうか?

○御院では小児看護に関して深く学びたいと思っております。研修内容について教えていただけますか?

 

なお、ホームページやパンフレットにすでに記載されていること、給与や有給休暇など待遇面は深く聞かない方が無難です。多くの場合は求人情報に待遇が記載されていますので、記載されていない場合のみ、やんわりと聞くと良いでしょう。

 

まとめ

看護師の就職・転職における面接は何も特別ではなく、一般的な面接と変わりはありません。大人としてマナーを遵守するのは当然とし、好印象を与えられるよう、胸を張って自身を持って挑んでください。

就職や転職は人生の大一番であるため、誰もが緊張するものです。当日にあたふたすることのないよう、また不安のない状態で挑めるよう、面接マナーや質問に対する回答など事前にしっかりと準備しておきましょう。

理論をもとにした看護問題の書き方(明確化・優先順位)

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看護問題

看護学生や新人看護師の誰もが一度は壁にぶち当たる「看護問題」。実は経験を積んでいる中堅看護師でも詳細かつ的確に看護問題を導き出すのは困難であるため、看護学生や新人看護師が悩むのも無理はありません。

しかしながら、的確に看護問題を抽出し援助を行うことが看護師の大きな役割であり、患者のQOL向上のために非常に大切なものです。それゆえ、時間がかかっても必ず的確に看護問題を抽出できるよう励まなければいけません。

当ページでは、「1、看護問題とは」「2、看護問題を提起するための診断」「3、看護問題を細分化する」「4、看護問題を明確にする」「5、看護問題に優先順位をつける」の5つの項目をもとに、段階的に看護問題の取り組み方について詳しくご説明しますので、看護問題に不安がある方は最後までしっかりお読みいただき、知識習得に役立ててください。

 

1、看護問題とは

看護師が行う業務は多岐に渡り、特に病室においては患者のQOLを向上させるための“援助”になります。そこで重要となるのが患者が抱える問題、つまり「看護問題」を提起し、その問題をどのように解決するのか「看護計画」を立案し、「看護介入」するという一連の看護過程を遂行していくことです。

患者が抱える(または抱えるであろう)問題の中で看護介入が必要であるものを「看護問題」とし、それを導き出すためには綿密なアセスメントが必要不可欠であり、アセスメントなくして的確に看護問題を導き出すことはできません。

①看護アセスメント バイタルサインや病歴など患者の情報収集と判断
②看護診断 看護アセスメントによる情報の確認とデータの分析
③看護計画 問題解決のための看護計画の立案
④看護介入 看護計画に基づいた看護行為
⑤看護評価 看護行為による成果および看護計画変更の必要性の評価

看護問題は上表の「②看護診断」に当てはまりますが、①看護アセスメントを経て、得た情報をもとに患者が抱える(または抱えるであろう)問題を導き出します。

各患者によって有する疾患や身体的・精神的状況、社会的状況、霊的状況などが異なるため、綿密なアセスメントを行い、患者は何が困難なのか、何に不安を感じているのか、QOLの低下や治療の遅延に際してどのような身体的・精神的リスクが存在するのか、何に対して葛藤が生じているのかなど、多角的な視点からアセスメントを行い、QOL向上のために患者が抱える問題を解決へと導く必要があるのです。

 

2、看護問題を提起するための診断

看護診断(看護問題)を行うにあたって、参考となる診断基準は「ヘンダーソンの基本的欲求(14項目)」、「ゴードンの11の健康機能パターン」、「NANDA看護診断(13項目)」などがあります。これらを参照することで頭の中が整理でき、患者の状態を1つ1つ綿密にアセスメントしやすくなるだけでなく、取りこぼしをなくすことができるため、都度参照することが推奨されています。

なお、それぞれの看護診断は、詳細は違えど大枠は概ね同一であるため、どれか1つを参照すると良いでしょう。ただし病院によって参照する理論は異なります。それゆえ、すべての理論を基に診断ができ、看護問題を提起できるようにしておく必要があります。

 

ヘンダーソン

14の基本欲求 基本的欲求の充足した状態
①正常に呼吸する ・ガス交換が正常に行われている

・安楽に呼吸ができる

②適切に飲食する。 ・必要な栄養が取れている

・楽しく食べられ満足感がある

③身体の老廃物を排泄する。 ・生理的で正常な排泄である

・尿意・便意的快感がある

④移動する、好ましい肢位を保持する。 ・歩行、立つ、座る、眠るなどの姿勢が適切である

・よい姿勢のとり方を理解している

⑤眠る、休息する。 ・休息や睡眠が自然にとれる

・ストレスヤ緊張感からの開放感がある

⑥適切な衣類を選び、着たり脱いだりする。 ・適切な衣類を身につけている

・きちんと身づくろいができる

⑦衣類の調節と環境の調節により体温を正常範囲に保持する。 ・体温が生理的範囲内である・

・体温調節に努めることができる

⑧身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する。 ・皮膚や粘膜が清潔になっている

・清潔の基準が保たれている

・他人に受け入れられやすい身だしなみである

⑨環境の危険因子を避け、また、他人を傷害しない。 ・自分で自分の環境を自由に調整できる

・周囲に危険な物がない

・知らずに他人に危険をあたえない

⑩他者とコミュニケーションをもち、情動、ニード、恐怖、意見などを表出する。 ・自分の欲求、興味、希望などを十分に自分の身体の上に表現できる

・まわりの人々に理解してもらえる

⑪自分の信仰に従って礼拝する ・誰もが(聖人も罪人も)ひとしく医療従事者の援助を受けられ、かつ自分の信じる教義・思想に従う権利が守られる

・自分の宗教に基づいた生活の仕方ができる

⑫達成感のあるような仕事をする。 ・身体的あるいは精神的に仕事(生産活動)ができる

・自分が社会に受け入れられているという満足感がある

⑬遊び、あるいは種々のレクリエーションに参加する。 ・遊びを通したコミュニケーションによる満足感の獲得ができる環境にある
⑭正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる。 ・回復、あるいは病気の進行阻止のための、十分な健康教育を行うための意欲を持っている

 

■ゴードン

11の機能的健康パターン 項目
①健康知覚・健康管理 -既往歴、現病歴、健康状態、病気への理解

-喫煙・アルコール・薬物・アレルギーの有無

②栄養・代謝 -身長、体重、BMI、体温の変動・悪寒、発汗の有無

-嗜好・偏食・間食・食欲・食事制限の有無

-爪・毛髪・皮膚・体液の状態と、感染の兆候

③排泄 -排便の回数・性状・量、不快感や残便感の有無

-排尿の回数・性状・量、不快感や残尿感の有無

-ドレーンからの排液(量・性状・皮膚の状態)

④活動・運動 呼吸、脈拍、血圧など、バイタルサインの正常確認

歩行状況と姿勢、身体の障害・運動器系症状の有無

セルフケア行動・移動動作など運動機能の正常確認

⑤睡眠・休息 睡眠時間・熟眠度、入眠障害・睡眠中断の有無

健康時の休息の有無と休息の仕方

⑥認知・知覚 視力・聴力・味覚・嗅覚・触覚・知覚など感覚器の状態

疼痛・掻痒感・眩暈・しびれの有無と程度

意識レベル・言語能力・記憶力・理解力の状態

⑦自己認識・自己概念 表情・声・話し方、疾病や治療に対する想い・感情

不安・絶望感・無力感の有無

自己尊重、家庭や社会における役割遂行と自立

⑧役割・関係 家族の構成や家族に対する想い、キーパーソンの有無

職業(学校)における内容・役割・満足度

⑨性・生殖 月経事情、生殖器の状態、妊娠・分娩回数

性関係に対する問題の有無と満足度

⑩コーピング・ストレス耐性 ストレス因子の有無、ストレス発散方法

家族や友人など、身近な相談相手の有無

⑪価値・信念 宗教・宗教的習慣の有無とその内容

家族のしきたり・習慣の有無とその内容

 

■NANDA

項目 診断ラベル
①ヘルスプロモーション 栄養・家事家政・健康維持・健康探究行動・治療計画管理など「健康管理行動」における障害の有無
②栄養 栄養摂取消費バランス異常、嚥下障害、体液量の過剰・不足など、栄養摂取における異常の有無
③排泄と交換 尿失禁(腹圧性・反射性・切迫性・機能性)、尿閉、排尿障害、便失禁、便秘・下痢、ガス交換障害など、排泄における異常の有無
④活動/休息 睡眠パターン障害・睡眠剥奪など「睡眠障害」の有無、移乗能力障害・身体可動性障害・歩行障害など「ADL障害」の有無、消耗性疲労など「エネルギー平衡」の乱れ、活動耐性低下・自発換気障害・心拍出量減少など「循環/呼吸反応」の障害、摂食・入浴・清潔・更衣・排泄における「セルフケア」不足の有無
⑤知覚/認知 片側無視・徘徊など「注意力/見当識」の障害、感覚知覚混乱、記憶障害・混乱(急性・慢性)・思考過程混乱など「認知」の障害、コミュニケーション障害の有無
⑥自己知覚 孤独感・自己同一性混乱・絶望・無力など「自己概念」の異常・混乱、自己尊重の低下(慢性的・状況的)、ボディイメージ混乱などの有無
⑦役割関係 家族介護者役割緊張・ペアレンティング障害など「介護役割」の喪失、親子間愛着障害・家族機能障害など「家族関係」の崩壊、母乳栄養中断・親役割葛藤など「役割遂行」における機能の喪失の有無
⑧セクシュアリティ 性同一性、生殖などにおける性的機能障害の有無
⑨コーピング/ストレス耐性 移動ストレス・心的外傷シンドローム(強姦など)の「身体的/心的外傷後反応」、防衛的コーピング(無力化・妥協化)・適応障害・慢性悲哀・予期悲嘆・不安などによる「コーピング反応」、頭蓋内圧許容量減少・乳児行動統合障害・自律神経反射異常亢進における「神経行動ストレス」の有無
⑩生活原理 信仰心障害・ノンコンプライアンス・霊的苦悩など「価値観/信念/行動の一致」における葛藤・障害の有無
⑪安全/防御 感染リスク・誤嚥リスク・歯生障害・転倒リスク・窒息リスクなど「身体損傷リスク」の有無、自己傷害・自殺リスク・他者傷害など「暴力」リスクの有無、高体温(低体温)・体温平衡異常リスクなど「体温調整」の異常、中毒リスク・ラテックスアレルギー反応の有無
⑫安楽 悪心・疼痛など「身体的安楽」の欠如、社会的孤立など「社会的安楽」の欠如の有無
⑬成長/発達 気力体力減退・成長発達遅延など「成長/発達」における障害の有無

 

3、看護問題を細分化する

上記の理論をもとに患者の状態を把握し、患者が抱える(または抱えるであろう)問題を抽出していきますが、例えば「身体的苦痛」1つを取り上げても、どのような状況下で苦痛を感じているのか、状況別にみる苦痛は多岐に渡ります。

 

①疾患に伴う苦痛(腹痛・頭痛・患部の疼痛など)

②投薬など治療に伴う苦痛(嘔吐・倦怠感など)

③合併症に伴う苦痛(感染症など)

④体動制限に伴う苦痛(筋力低下によるだるさ・褥瘡など)

⑤精神不安に伴う苦痛(睡眠障害による頭痛・倦怠感など)

 

このように、ひとえに身体的苦痛と言っても原因や症状はさまざまです。また、身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛・社会的苦痛・霊的苦痛など、QOLの維持・向上に際して弊害となる苦痛の種類はさまざまです。

これら各苦痛に対して、患者のQOLの低下を招いている原因は何かを考え導き出すことが非常に重要であり、上記の理論の大枠だけを基に問題を抽出するのは不十分です。

つまり、看護問題を提起・抽出するためには、各カテゴリーを細分化し、因子(原因)を特定することで、看護問題が明確になり、はじめて解決すべき問題がみえてくるのです。

 

4、看護問題を明確にする

アセスメントによって患者の状態を把握した後、各理論をもとに患者を分析し無数の問題を提起・抽出した後に明確化することで、解決への取り組みをスムーズに行うことができます。

明確化とは「因子(原因)を特定する」ことであり、たとえば「転倒・転落リスク」を取り上げると、転倒・転落リスクは①既往疾患、②身体的機能、③精神的機能、④性格、⑤活動状況、⑥薬剤の服用、⑦排泄、⑧当日の状態、⑨環境の変化、⑩観察・指導不足、⑪不適切な環境など、転倒・転落を招く原因は多岐に渡ります。

転倒・転落の因子(原因)
①既往疾患 過去にめまい・失神・麻痺発作など疾患に伴う転倒があったか
②身体的機能 運動障害、知覚障害、言語障害、視力障害、聴覚障害、筋力低下、骨・関節の異常(骨粗鬆症・変形・拘縮など)
③精神的機能 理解力低下、判断力低下、不眠不穏、徘徊、多動など
④性格 遠慮深い、我慢強い、自立心が強い
⑤活動状況 歩行器・車椅子・杖の使用、点滴・各種カテーテルやドレーンによる行動制限、移動に要介助
⑥薬剤の服用 睡眠剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、降圧・利尿剤、向精神薬の服用
⑦排泄 頻尿、下痢、夜間の排尿、ポータブルトイレ使用、要介助
⑧当日の状態 発熱、脱水、貧血、検査・手術後、リハビリ訓練中
⑨環境の変化 入院・転入後2日以内、ベッド・浴室・トイレなど設備の操作不慣れ
⑩観察・指導不足 監視体制の不備、与薬後の観察不十分、履物・寝衣の選択や歩行の指導不十分など
⑪不適切な環境 ベッドの高さが不適切、電動ベッドの操作不慣れ・誤操作、水濡れにより床が滑りやすい、物品の散乱、障害物など

よって、単に「転倒・転落リスク」を看護問題とするのではなく、「筋力低下による転倒・転落リスク」というように原因を特定し、問題を明確にしなければ、真に解決へと導くことができません。そのためには綿密なアセスメントが必要不可欠です。

このように、現在患者が抱えている問題(または抱えるであろう問題)は何が原因となっているのかを的確にアセスメントし、それぞれの問題に対する“根拠”をもとに明確化することが、問題解決のために非常に重要となってくるため、必ず根拠を提示し、必要であれば再度アセスメントを行うようにしましょう。

 

5、看護問題に優先順位をつける

最後に、ここまでで抽出した看護問題に対して、どれが危険性が高いのか優先順位をつけなければいけません。というのも、抽出できる看護問題は多岐に渡り、全てを平行して実施することができないからです。

また、全ての看護問題を同程度の割合で実施すると、危険性の高い問題へ取り組む時間や意識が減少し、結果的にQOLの低下を招くだけではなく、場合によっては疾患を増悪させてしまいます。それゆえ、看護問題に対して優先順位をつけ、率先して行うべき行動・援助を決定する必要があるのです。

危険度(高) ガス交換障害、高体温、ライン類の自己抜去、窒息リスク、自己傷害・自殺リスクなど、直接生命に関わる問題
危険度(中) 転倒・転落リスク、栄養バランス異常、誤嚥リスクなど、疾患の重篤化・合併症の発症による治療遅延が及ぶ危険性のある問題、または苦痛を伴う問題
危険度(低) 摂食・入浴・清潔・更衣・排泄における「セルフケア」不足、ALD障害など、日常生活において不快となる問題

このように、危険度をもとに優先順位を決定しています。しかしながら、同程度の問題に対しても書面上、優先順位をつけなければいけない場合もあるでしょう。

その場合には、危険度に加え「可能性」を加えることで、より優先順位がつけやすくなります。可能性が高ければ高いほど優先順位が高く、可能性が低ければ低いほど優先順位が低いと決定することができます。

また、すでに問題となっているのか、起こりうる問題なのかという「既存の有無」を基にしてもよいでしょう。すでに問題となっていれば優先度が高く、問題となっていなければ優先度が低いと決定することができます。

ただし、実際は必ずしも細かく優先順位を決める必要はありません。実際のケアは並行して行われることが多く、日に日に患者の問題は変化していくからです。しかしながら、適切に優先順位をつけられるということは、患者を綿密にアセスメントができるということであり、各問題に対するリスクを多角的に把握できるということでもあります。

この域に達するには経験を積むしかないため、危険度を基に分類できるようになることを第一とし、細かな順位づけは今後の課題としておくと良いでしょう。よって、看護学生や新人看護師の方はそれほど悩む必要はありません。

 

5-1、マズローの欲求5段階説におる順位づけ

これは補足ですが、看護問題の優先順位をつける1つの手段として「マズローの欲求5段階説」を参考にすることもできます。

欲求の階層

出典:東京未来大学 欲求の階層

フェーズ 欲求 解説
第五段階 自己実現欲求 自分の能力を引き出し、創造的活動がしたいという欲求
第四段階 尊厳欲求 認められたい、尊敬されたいなど心理的充実に対する欲求
第三段階 社会的欲求 集団に属したい、仲間が欲しいなどの帰属に対する欲求
第二段階 安全欲求 自分の健康、生活や経済的な安定に対する欲求
第一段階 生理的欲求 食べる、寝るといった生活活動における欲求

マズローは、第一段階である「生理的欲求」が満たされていなければ、第二段階である「安全欲求」が満たされないというように、低次の欲求から段階的に満たすことが、精神的安楽に繋がると説いています。

看護問題は「危険度」を基に優先順位をつけるのが通常ですが、これはマズローの欲求5段階説にも当てはめることができ、低次(第一段階)ほど優先度が高いと言えます。ただし、まずは危険性を基にした順位づけを重視しなければいけないため、第三段階である「社会的欲求」より高次の段階においては優先順位がかなり低いと捉え、参考程度に考える必要があります。

 

まとめ

このように、看護問題を抽出するのはさまざまな過程を辿らなければならず、容易とは言い難いのが事実です。しかしながら、看護過程を展開する上で非常に大きなウエイトを占めると共に、患者の生命に危険を及ぼす因子の排除やQOLの維持・向上のために、しっかりと抽出しなければいけません。

そうするためには患者をしっかりアセスメントする必要があり、綿密なアセスメントなくして適切に看護問題を抽出することは不可能です。看護問題を考える際に、その問題の根拠を示すことが求められますが、この際、根拠に乏しい問題があれば、迷わず再度アセスメントを行ってください。

看護問題を細かく抽出するのに多くの時間を必要としますが、常に考えることで、抽出する時間が短縮され、より的確な問題を導き出すことができます。面倒くさいと思わず、積極的な態度で看護問題に取り組んでいってください。

PTCDの手技と合併症、看護における管理・観察項目

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PTCD

体内に貯留した胆汁を人工的に体外に排出させる目的で施行されるPTCD。合併症の種類は多岐に渡り、また発症率が高いことから細やかな観察のもと異常を早期に発見し、迅速に対処しなければいけません。

当ページでは、「1、PTCDとは」「2、手技」「3、術中合併症」「4、術後合併症」「5、観察項目(術中・術後)」の5つの項目をもとにPTCDの看護について詳しくご説明しますので、PTCDの看護に不安のある方は、各項目を熟読し、PTCDに関する知識を深めてください。

 

1、PTCDとは

PTCDとは、“Percutaneous Transhepatic Biliary Drainage”の略で、「経皮経肝胆道ドレナージ」のことです。総肝管や総胆管の閉塞、その結果生じた閉塞性黄疸に対して施行されることが多く、胆汁を持続的に体外に排出する治療法です。

まず、胆管の狭窄や閉塞が疑われる場合に、胆管の結石や腫瘍、腫瘍による胆管の圧迫、隣接臓器の炎症など原因を特定するために、PTC(経皮経肝胆管造影法)により、体外→皮膚→肝臓→肝内胆管の順に穿刺針を刺していき、造影剤の注入・レントゲン撮影を行います。その後、狭窄や閉塞によって胆汁が貯留し横断が生じた場合には、胆汁を体外に排出させるPTCDを行います。

PTCDの手技は超音波画像の誘導化で行い、PTCで用いた穿刺針を留置用のチューブに置き換えて、そのチューブを通して貯留している胆汁を体外に排出します。手技自体は簡単であり侵襲は少ないものの、合併症は多岐に渡り発症率も高いため、術中・術後において患者に対する適切な観察ならびに看護が不可欠です。

PTCDは「PTBD」とも呼称されることがあります。PTCDは商品名であり、広域ではPTBDの用語が使用されています。つまり、PTCDとPTBDは同義の意味を持っています。以下では、混乱を防ぐために“PTCD”の用語を用いて記載します。

 

2、PTCDの手技

PTCDを行うのは医師ですが、看護師も手技について熟知しておくことで、術中に異変をきたした場合にスムーズに対処することができます。それゆえ、PTCDはどのように行われるのか、しっかり把握しておいてください。

なお、PTCDは大まかに「前処置」→「穿刺部位決定」→「局所麻酔」→「穿刺」→「GW挿入」→「カテーテル挿入」の順に行われます。

 

■前処置

穿刺時には臓器の損傷を防ぐために呼吸を止めてもらう必要があるため、ジアゼパムやミダゾラムなどの鎮静剤を通常使用せず、鎮痛剤のみを前処置として投与し、鎮静剤の使用はGW(ガイドワイヤー)挿入後に投与します。また、前処置として、迷走神経反射を防ぐ目的で硫酸アトロピンの投与を行います。

 

■穿刺部位決定

胆管には、肝内胆管・肝門部・肝外胆管があり、狭窄・閉塞している部分によって穿刺部位を選択します。肝内胆管の場合には左肝または右肝より穿刺を行いますが、左肝の方が合併症のリスクが少ないため、右肝でなければならない理由がない限り左肝が選択されます。

また、肝門部が閉塞している場合には、胆管枝の抹消から穿刺を行います。ただし、ステント留置の必要がある場合には、留置位置を考慮して穿刺部位が選択されるため、全体像を把握した上で最終的に決定されます。

 

■局所麻酔

穿刺に際して痛みが伴うため、皮膚消毒を施したあと穿刺部位に表面麻酔を行います。シリニンジ内に空気が入っていると超音波画像が不良になり、適切に手技を実施できないため、脱気は厳重に行います。また、深部麻酔時には、肝臓に針先が刺入することがあるため、呼吸停止下に行い、苦痛軽減のために腹膜前組織まで十分に麻酔を施します。

 

■穿刺

他の臓器の損傷・刺入を防ぐため、穿刺は超音波の誘導下で行います。胆管の目標となる穿刺部位を確実に描出した上で、患者に10~15秒ほど息を止めてもらい、その間に一気に針を進めます。胆汁の流出により穿刺の成功が確認できます。なお、皮切・皮下剥離は穿刺前に行う場合と穿刺後に行う場合の両方があり、施設によって、また医師によって異なります。

穿刺前皮切は針の穿刺が容易でズレが少ないなどの利点がある反面、穿刺点の変更ができない・空気流入による超音波画像などの欠点が存在します。基本的には簡単で太い胆管に対して穿刺前に皮切を行います。

穿刺後皮切は穿刺点の変更が可能で空気の流入がないなどの利点がある反面、針の穿刺がズレやすい・皮膚のズレによる穿刺の可能性があるなどの欠点が存在します。基本的には細く難しい胆管に対して(何度も穿刺する場合)穿刺後に皮切を行います。

 

■GW挿入

PTCD時には、①穿刺時に針から出て胆管内へ入る時の誘導、②穿刺後の目的位置までの先進、③針を抜去しカテーテルを胆管内へ入れる時の誘導、④狭窄の突破などの目的でガイドワイヤーが使用されます。なお、ガイドワイヤー後には呼吸を止める必要がないため、鎮静剤の投与を行います。

 

■カテーテル挿入

放射線被爆を考慮しつつガイドワイヤーに沿ってカテーテルを挿入します。ドレナージチューブを留置し、皮膚固定を行い、PTCDが終了となります。

 

3、PTCDの術中合併症

PTCDの施行中には、疼痛に伴う「迷走神経反射」、穿刺部位不適当による「気胸」、静脈・動脈の損傷に伴う「出血」、造影剤による「ショック・アレルギー」など、起こりうる合併症は多岐に渡ります。

手技においては医師が担当し、超音波の誘導下で穿刺やカテーテルの挿入などを行い、胆管の様子は医師が確認しますが、患者の苦痛の有無やバイタルサインの確認は看護師の役割であるため、それぞれの合併症に熟知し、異変を早期に察知できるよう努めてください。

 

①迷走神経反射

穿刺や瘻孔拡張、胆管屈曲部を超えてチューブを挿入する時などに強い疼痛と伴い、また手術に対して強い不安がある場合に失神・徐脈・血圧低下といった迷走神経反射が起こることがあります。これを避けるためには十分な局所麻酔(特に壁側腹膜・肝被膜)を行い、強い不安がある患者に対して抗不安剤や鎮痛薬の投与を行います。

なお、患者の反応低下、不穏、嘔気などがみられた場合にはすぐにバイタルサインを確認し、徐脈や血圧低下が確認されれば硫酸アトロピンの投与、下肢挙上などを行い、必要に応じて酸素吸入を行います。

 

②気胸

主に右肺からのアプローチの場合で、超音波画像の不良などにより穿刺部位が不適当であった場合に気胸になることがあります。右前胸部での穿刺の際には出来るだけ前胸壁寄りから穿刺、右側腹部での穿刺の際には出来る限り尾側から穿刺を行うことで回避できます。

強い胸痛・背部痛、穿刺時にエアー音がみとめられる場合には気胸を疑い、すぐに透視で気胸の程度を確認し、中程度以上であれば胸腔穿刺による脱気、胸腔ドレーン挿入を行います。軽度であれば経過観察することもありますが、高度な気胸に移行する場合や胆汁性腹膜炎が生じることもあるため、注意深く観察する必要があります。

 

③出血(穿刺針から)

穿刺針から多くの出血がみられる場合には、肝静脈・門脈・冠動脈の損傷が疑われます。まず穿刺した部位(肝静脈・門脈・冠動脈)を造影で特定し、肝静脈であればそのまま抜去、門脈であれば外筒を血管外の肝実質内まで引き抜いて閉鎖し血栓化を待って抜去(細径針はそのまま抜去しても問題ない)。肝動脈であれば同様に処置後に抜去を行い、偽動脈瘤の形成を考慮して経過観察を行います。

 

③出血(穿刺部から)

穿刺部からの出血が見られる場合には、肝内血管・腹膜壁・胸腔内の肝外血管の損傷が疑われます。まず、出血の程度や血液の色などにより出血部位を特定し、太いチューブを用いて圧迫出血を行います。

 

④出血(ドレナージチューブから)

ドレナージチューブからの出血がみられる場合には、肝動脈・門脈の損傷、腫瘍出血、胆管壁からの出血が疑われます。基本的には自然に止血するため経過を見て排液の血液が薄くなるようなら放置します。ただし、経過をみても血液が薄くならない場合にはチューブ位置の変更やチューブを三方活栓などで閉鎖します。これでもダメなら、太いチューブに交換し圧迫止血を行います。なお、自然に止血した場合でも動脈性出血であれば遅発性の可能性があるため、厳重に経過観察する必要があります。

 

⑤エンドトキシンショック

造影剤圧入による感染胆汁の血管内移行が原因となりショックを引き起こすことがあります。悪寒や戦慄などの症状がみられる場合にはエンドトキシンショックを疑い、酸素投与・昇圧剤投与・ステロイド投与・抗生剤投与・輸液増量などを行います。術中だけでなく、術後2時間までに生じることが多いため、病棟帰室後も厳重な観察が必要不可欠です。

 

⑥造影剤アレルギー

症状が軽度(蕁麻疹・発疹など)でバイタルサインが安定している場合には経過観察を行いますが、呼吸困難・意識障害・失神などのショック症状がみられる場合にはエピネフリンなどを投与し、下肢挙上、酸素投与を行いますが、バイタルサインが安定した後も厳重な経過観察が必要です。

 

4、PTCDの術後合併症

術中だけでなく、術後における合併症の発症リスクがあり、「脱水・電解質異常」「胆汁性胸膜炎・腹膜炎」「チューブ逸脱・閉塞・破損」が主な合併症です。患者のバイタルサインや全身状態の確認、チューブの確認などを適宜行い、異常の早期発見に努めてください。

 

①脱水・電解質異常

胆汁が大量に体外に排出されることが原因で、PTCDを施行する全ての患者に起こりえます。脱水や電解質異常になると、尿路減少、不整脈、口渇などが起こります。また、脱水によるショック(血液量減少性ショック)は特に注意しなければいけません。なお、脱水・電解質異常を避けるためには、PTCD排液量を含めた水分のIN-OUTバランス、血中電解質、クレアチン値などのチェックを行い、適宜補正を行います。また、同症状発現時には輸液ならびに電解質バランスの補正を行います。

 

②胆汁性胸膜炎

経胸腔のPTCDで生じ、横隔膜のチューブ刺入部より胆汁が漏出することで発症します。発熱や呼吸困難感、側胸部痛などの症状がみられた場合には胆汁性胸膜炎が疑われます。発症時には胸腔ドレーンを挿入するか、ドレナージの不良(チューブの狭窄・閉塞など)がないか造影で確認し、チューブの交換または位置の修正を行います。

 

③胆汁性腹膜炎

肝表と腹壁との瘻孔形成が未熟な場合に起こりやすく、発症時には発熱、強い腹痛、筋性防御・反跳痛などの腹膜刺激症状を呈します。腹腔ドレーンを挿入するか、ドレナージの不良(チューブの狭窄・閉塞など)がないか造影で確認し、チューブの交換または位置の修正を行い改善を図ります。なお、胆汁性腹膜炎は右側から深吸気息止めでPTCDを施行する場合に起こりやすいため、自然吸気息止めで行うことで比較的避けることができます。

 

④チューブ逸脱

自己抜去、事故抜去、肝表・腹腔間でチューブがたわむことにより起こります。排液量の減少や排液停止がみられる場合にはチューブ逸脱の可能性があり、胆管末梢・肝実質内にチューブの先端がある場合(不完全逸脱)には再留置します。完全に逸脱している場合にはPTCDの再施行が必要になることもあります。

 

⑤チューブ閉塞・破損

胆石・胆泥・腫瘍などによりチューブの閉塞が起こり、排液の脇漏れや排液停止がみられ、同時に胆汁性胸膜炎や胆汁性腹膜炎の症状が発現します。チューブの閉塞に際しては主にチューブの交換を行い、チューブ手元のハブが折れることによる破損・切断の場合にも同様にチューブの交換を行います。破損・切断に対しては起こりやすいチューブのハブ部を胸壁に固定することで防止することができます。

 

5、PTCDの観察項目(術中・術後)

上記のように術中・術後における合併症は多岐に渡り、観察を怠ると時に重篤化することもあります。それに伴う死亡例も毎年報告されています。それゆえ、看護師は細やかな観察を行い、少しでも異変を感じたらすぐに担当医に報告し、起こりうる合併症の増悪を防止しなければいません。以下に術中・術後における観察項目をご説明しますので、しっかり確認しておきましょう。

 

≪術中≫

PTCD施行中には、上述のように手技に伴うさまざまな合併症の発症リスクがあります。合併症発症時の処置は担当医が行いますが、症状の発見は看護師の役割であるため、バイタルサインや刺入部の感染兆候(発熱・腫脹・熱感・疼痛)、表情や全身状態を細かく観察し、異常時または異常の兆候がみられる場合には、直ちに医師に伝えます。

また、担当医が円滑に処置できるよう、体位の変換・固定を行うとともに、患者の精神的負担を軽減するために声かけを行うなど、さまざまな点に留意して観察・援助を行ってください。

 

≪術後≫

■患者の状態

まず、平常時の状態を把握するために、バイタルサインをはじめとする患者情報を正確に取得します。そして、経過観察においてバイタルサインや疾患に伴う症状の有無、腹痛の有無、刺入部の皮膚状態(発赤や腫脹がないか)などを観察します。安定期に入っても気を抜くことなく、平常時の状態から何かしらの変化がみられる場合には注意深く観察し、合併症の早期発見に努めてください。また、PTCD処置後は体動制限・体位制限など生活において不快な面がでてくるため、患者の精神的ストレスの緩和に努めるのも非常に大切です。

 

■ドレーンチューブ

常時、チューブが固定されていることで、逸脱・閉塞・破損・切断などが起こる可能性があり、長期的に留置する必要がある場合は特に起こりやすいものです。これらは排液量の減少(または停止)によって確認することができますが、基本的にどれも新たにPTCDを行う必要があるため、平常時の排液量を正確に把握した上で、予防に努めなければいけません。また、自己抜去・事故抜去を防ぐべく、精神的ストレスの緩和、体位・体動における指導、ならびに各患者に合った工夫を行ってください。

 

■排液(色・量・性状)

排液により合併症(疾患)の発症やドレナージ不良などさまざまな情報を取得することができるため、しっかりと観察する必要があります。排液量においては350~850mlが正常ですが患者によって幅があるため、変化を素早く察知できるよう、必ず平常時の排液量を正しく把握しておいてください。また、異変がある場合には直ちに担当医へ報告し指示を仰いでください。

  正常時 異常時 原因
黄褐色 緑色 胆管炎、感染胆汁、逆行感染など
血性 胆道系腫瘍からの出血、損傷など
350~850ml/日 過多 ドレーン挿入直後、鬱滞した胆汁の急激な排出、腸液の混入など
過少 ドレナージ不良(チューブ逸脱・閉塞・屈曲)、胆汁生成機能低下など
性状 やや粘稠性 砂混じり 結石粉砕後など
膿性 腫瘍、胆管炎(膿性)など

 

まとめ

PTCD自体は簡単な手技ではあるものの、合併症の発症率は高く、重篤化するケースが多々あります。それゆえ、看護師の細やかな観察が非常に重要となります。

術後の管理は全体的に看護師が行いますが、術中においても異常を早期に発見できるよう、看護師も手技について知識を深めるとともに、起こりうる合併症の種類と対処法について精通することが必要不可欠です。

また、観察だけでなく、患者の精神的不安の軽減や体位・体動制限の指導、在宅療養時の管理指導など包括的に援助し、患者のQOLの向上に努めてください。

看護学生・現役看護師“必読”のおすすめ本・雑誌まとめ

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看護師の本まとめ

各患者にとって最適な看護とは何かを突き詰めると、一生を通しても習得するのは非常に困難であるゆえ、看護師は“生涯を通して勉学に励む”必要があります。それゆえ、看護関連の本を読むことは非常に重要で、スキルアップを図る上で欠かせません。

しかしながら、出版されている本の数は非常に多く、どれを読めば良いのか分からないという方も多いのではないでしょうか。

そこで当ページでは、看護学生や現役看護師(特に新人看護師)必読の“役に立つ”本や雑誌を厳選し、一挙にご紹介します。

 

1、本や雑誌を読むことの必要性

おすすめの本・雑誌を紹介する前に、読むことの必要性についてお話したいと思います。今では、看護師を目指す看護学生に向けた教本や領域ごとに患者への対応や手技が書かれたものなど、看護関連の本・雑誌は多く出版されていますが、なぜそれらを読む必要があるのでしょうか。

まず、ネット上にも看護関係の情報は数多く存在します。しかしながら、信憑性に乏しいものも多々あり、どれが正解なのか判断するのは至難の業で、時に情報が乱雑していることで、“疑問解決”のために情報を検索しているにも関わらず、さらに混乱することもしばしばあるでしょう。

しかしながら、本や雑誌はネット上にある情報より信憑性が高く、中でも“大系書”や“教科書”として使用されているものは最も信憑性が高い文献です。“大系書”や“教科書”だけでなく、看護師の目線で執筆されている一般本や雑誌においても、文献としては信憑性が高く、基本的には書かれている情報を自身の知識としてそのまま習得することが可能です。

つまり、看護関連の本や雑誌を読むことで、情報の正誤に惑わされることなく、素早く自身の知識を習得することができるのです。ネット上の情報とは異なり、購入費が必要となりますが、正確な知識を早期に習得できるという点で、多忙を極める看護学生または看護師にとって、看護における専門的な本・雑誌を読むことは非常に有意義で、スキルアップを図る上で必要不可欠なツールなのです。

 

2、代表的な出版社

続いて、看護関連の書籍を発行している主な出版社をご紹介します。代表的な出版社は「メディックメディア」、「照林社」、「日総研」、「医学書院」の4社であり、4社とも看護関連の書籍出版を主とした、いわゆる専門的な出版社です。各社がどのような特色を持っているのか、以下にてみていきましょう。

 

■メディックメディア

1979年に創業した同社は、医師・看護師・栄養士・PT/OT(理学・作業療法士)・介護士・社会福祉士など各医療従事者に向けた数多くの専門書籍を発行している出版社です。

中でも医学生・医師に向けた医学書籍は定評があり、内科・外科のエッセンスとなる「year note」は医学部6年生のほとんどが所有しているほど。看護においても“わかりやすく、そして整理・凝縮して構成する”というコンセプトをもとに、「看護師・看護学生のためのレビューブック」をはじめ、数多くの看護系専門誌を出版しています。

 

■照林社

小学館グループの医学・看護専門図書出版社である同社は、他の出版社よりも規模が小さいものの、「プチナース」や「エキスパートナース」などの月刊誌、「看護学生クイックノート」・「基準看護計画」など内容の濃い実用的な書籍を数多く出版しています。学問的でなく実用的な書籍をお探しの方にとって同社は第一選択の出版社となり得るでしょう。

 

■日総研

同社は、看護・介護系の書籍の編集・発行に特化した出版社であり、書籍だけでなく年間1500回を超えるセミナーや通信教育など、さまざまな事業を展開しています。

 

■医学書院

医学・看護関連の専門書籍・雑誌の大手出版社。編集・コンテンツ作成における実績が豊富で、年12回発行の月刊誌や「病期・病態・重症度からみた 疾患別看護過程+病態関連図」、「看護診断ハンドブック」など、専門性の高い書籍を数多く発行しています。

他の出版社よりも専門性の高いコンテンツを問い上げていることから、内容はやや困難であるものの、根拠を深く知ることができるため、1つの領域・ジャンルにおいて深く学びたい方にとって第一選択の出版社と言えるでしょう。

 

3、看護関連のおすすめ本・雑誌

それでは、以下にて「看護学生向け(全般)」「看護技術」「看護過程」「看護記録」など、各ジャンルのおすすめの本・雑誌を一挙にご紹介します。

 

【看護学生向け(全般)

看護学生プレトレーニング

看護学生プレトレーニング(メヂカルフレンド社)

看護学校入学前の看護関連における基礎知識の習得・受験用に役立つ一冊。①計算と数字(割合/比/濃度の計算/速度の計算)、②看護に生かす理科(人体を構成する臓器・器官/人体のはたらきを知るための化学の知識/安全・安楽に生かす物理の知識)、③言葉と文章(漢字・語句/敬語と言葉づかい/文章のルール/文章読解)を収録。独学で無理なく基礎知識が学べるよう、ドリル&ワークブック形式で書かれているため、優しく自然な流れで学習でき、達成感も味わうことができる。

 

看護学生クイックノート 第2版

看護学生クイックノート 第2版(照林社)

①解剖生理(心臓の構造と血液の流れ・心臓に栄養と酸素を送る冠状動脈など)、②アセスメント(尿の観察・便の観察など)、③看護技術の数値(バイタルサイン測定・フィジカルアセスメント・環境調整など)、④検査値(血球検査・生化学検査(電解質:栄養状態:腎機能:胆汁色素:糖代謝:炎症マーカー:脂質:肝機能:血液ガス)など)、⑤看護でよく聞く言葉、⑥略語、が収録されている。簡潔かつ持ち運びに便利で、実習に役立つ一冊。

 

看護師・看護学生のためのレビューブック

看護師・看護学生のためのレビューブック(メディックメディア)

過去10年分の看護師国家試験、出題内容を1冊に収録。「INTRO」→「症状」→「検査診・断」→「治療」→「看護の流れ」で、頭の中で整理のしやすい構成かつ、イラスト・図表・動画クリップにより理解がしやすい。国家試験対策はもちろん、在学中の勉強にも役に立つ一冊。年毎に新刊が出版されているため、必ず新刊を購入すること。

 

【看護技術】

看護技術がみえる vol.1 基礎看護技術

看護技術がみえる vol.1 基礎看護技術(メディックメディア)

1200点を超えるイラストと1000点を超える写真で、日常生活における援助・看護技術について分かりやすく解説されたビジュアルテキスト。文章のみでは理解しにくいという方にうってつけ。第2版として「看護技術がみえるvol.2臨床看護技術」がある。

 

完全版 ビジュアル臨床看護技術ガイド

完全版 ビジュアル臨床看護技術ガイド(照林社)

①感染予防(3項目)、②バイタルサイン測定・採血・モニタリング(7項目)、③与薬・注射・点滴(12項目)、④呼吸管理・人口呼吸管理(9項目)、⑤救命救急処置(4項目)、⑥ドレーン・術後管理(6項目)、⑦摂食・栄養ケア(3項目)、⑧保清・皮膚・排泄ケア(4項目)、移動・移送・その他のケア(3項目)の計51項目における看護技術を手順に従って写真で分かりやすく解説されている。

 

【看護過程】

病期・病態・重症度からみた 疾患別看護過程+病態関連図 第2版(医学書院)

病期・病態・重症度からみた 疾患別看護過程+病態関連図 第2版(医学書院)

本書は、初版として出版された「病期・病態・重症度からみた疾患別看護過程+病態関連図」の第2版。初版を踏襲し、全科106疾患の病態生理・症状・診断・合併症・治療・使用薬剤などについてイラストを用いて詳しく説明されている。そこから、患者の全体像を把握するために必要となるアセスメント・看護診断・看護計画・看護介入・評価など、一連の看護過程の疾患別に基礎を学ぶことができる、看護学生・新人看護師“必読”の一冊。

 

看護診断ハンドブック 第10版

看護診断ハンドブック 第10版(医学書院)

NANDA-Iが採択している看護診断および原著者が臨床で使えると考えている看護診断の基本情報(定義・診断指標・関連因子)と、NOC(看護成果),NIC(看護介入)、さらに実際の看護介入を示した書。似たような看護診断の使い分けや臨床での使用の仕方などを原著者が解説している点が特徴。看護診断名と定義を知るだけでなく,臨床でいかに活用し,看護介入につなげるのかまでがわかる。

 

基準看護計画 第2版: 臨床でよく遭遇する看護診断、潜在的合併症と基準看護計画

基準看護計画 第2版: 臨床でよく遭遇する看護診断、潜在的合併症と基準看護計画(照林社)

臨床でよく遭遇する48の看護診断を取り上げ、①健康知覚-健康管理パターン、②栄養-代謝パターン、③排泄パターン、④活動-運動パターン、⑤睡眠-休息パターン、⑥認知-知覚パターン、⑦自己知覚-自己概念パターン、⑧役割-関係パターン、⑨性-生殖パターン、⑩コーピング-ストレス耐性パターン、⑪価値-信念パターン、を基に対象・状態別に75の基準看護計画としてまとめられている。病態生理や指標など豊富な資料により、根拠に基づいたアセスメントができる。

 

【看護記録】

看護の現場ですぐに役立つ看護記録の書き方

看護の現場ですぐに役立つ看護記録の書き方(秀和システム)

①看護記録の基本をマスターする、②看護記録の基本、③看護記録の書き方、④事例から学ぶ看護記録の書き方、⑤看護記録の注意点など、看護記録の基礎を包括的に学ぶことができ、これから看護記録の作成を行う看護学生や新人ナースにとって非常に有益となる入門書。

 

見てわかる看護記録―アセスメント、監査でも困らない!(日総研出版)

「看護記録とは」、「記録の目的と意義」など、看護記録の概念の説明に加え、患者の看護上の問題を解決へと導くための一連の作業システム「POS」、「SOAP」の書き方など、看護記録に際して必要となる要素が豊富に解説されている。

 

【読み物】

看護の力

看護の力(岩波書店)

看護の原点とは何か、どのように看護を提供することが患者にとって益となるのかを、著者:「川嶋みどり」の視点から書かれている。また、同者が60年に渡って実践してきた看護の知識・技術を、事例を踏まえて詳しく解説されているため、客観的な視点から看護について学ぶことができる。看護師を目指している方はもちろん、看護師として就業している方も、“看護とは何か”を再確認できる一冊。

 

看護覚え書―看護であること看護でないこ

看護覚え書―看護であること看護でないこと(現代社)

本書は半世紀以上前にフローレンス・ナイチンゲールによって書かれた「Notes on Nursing」の完訳本。衛生看護に焦点を当てて、“看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさ、などを適切に整え、食事内容を適切に選択し 適切に与えること。患者の生命力の消耗を最小にするように整えること。”というナイチンゲールの看護の思想について深く述べられており、看護の原点に立ち返るという意味でも非常に有益となる一冊。

 

【雑誌(月刊誌)

プチナース

プチナース(照林社)

看護系メディアの発行に特化した出版社「照林社」による“看護学生向け”の看護学習誌。臨床実習(看護技術)やアセスメントにおける観察のポイントのほか、看護師国家試験の問題など、包括的にまとめられている。毎月10日発行、年2回の増刊号が発行され、定期購買(15216円)のほか、単行(1028円)での購入も可能。

 

エキスパートナース

エキスパートナース(照林社)

看護の動向や話題のテーマ、症状ごとの看護ケア・観察のポイント、急変時の対策、検査値への理解、薬品・器具の取り扱いなど、“現役看護師”が行う看護をさまざまなテーマが取り上げられている。毎月20日発行、年3回の増刊号が発行され、定期購買(18522円)のほか、単行(1132円)での購入も可能。

 

月刊ナーシング

月刊ナーシング(学研メディカル秀潤社)

「臨床実践に強くなれるプロの看護総合情報誌」をコンセプトに日々の看護ケアや看護技術、疾患別フィジカルアセスメントなど、実践的かつ分かりやすく解説されている。毎月20日発行、年2回の増刊号、定期購買は増刊号含め18105円、単行は1234円または1235円で購入可能。

 

看護管理

看護管理(医学書院)

社会の変化を的確にとらえながら、看護管理者として直面するさまざまな問題について解決策を探る月刊誌。看護師長を中心に主任から部長まで幅広い読者層に役立つ情報が掲載されている。なお、「看護教育」「看護研究」「精神看護」など専門性の高いジャンルの月刊誌が同社から発行されており、一般的な看護の枠を超えて専門的な看護について深く学びたい方に同社の月刊誌をお勧めする。

 

まとめ

看護関連の本・雑誌は実に多く出版されており、どれを選べば良いのか迷うこともしばしばあるでしょう。そんな時は、当ページで紹介した本・雑誌を選択してみてはいかがでしょうか。

中には5000円を超える高額なものもありますが、詳細かつ丁寧にまとめられていますので、早期にスキルアップを図りたいという方は、ぜひ読んでおきましょう。また、紹介した本・雑誌はどれも1度だけの読み物ではなく、何年にも渡って参考にできる書籍ですので、2度3度と目を通すことを強くお勧めします。

看護師の就職・転職|履歴書・封筒の書き方と手渡しマナー

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看護師の履歴書

就職や転職の際に必ず必要となる「履歴書」。どこの学校を卒業し、どのような経歴を辿ってきたのか、はたまた医療施設への入職に際する志望動機など、記入する項目は多岐に渡り、採用の可否を計る重要な書類に他なりません。

しかしながら、“できる履歴書”が求められるわけではなく、いかに自分の言葉でしっかり書かれているかが重要です。ただし、社会人としての在り方が問われることもあるため、“正確に書く”ことも不可欠です。

ここでは、看護師の就職・転職における履歴書の書き方や封筒の選び方、手渡しマナーなどについて詳しくご紹介しますので、面接を控えている方は熟読の上、参考にして頂ければ幸いです。

 

1、履歴書の重要性

履歴書は一つの身分証明であり、記載内容によって人間性が現れることもしばしばあります。看護師の有効求人倍率は数ある職業の中でも軒並み高く、就職・転職に困ることはまずありません。

しかしながら、各都道府県の医療の中核を担う大型病院などは就職・転職先として人気があることから、誰でも入職できるわけではありません。履歴書は採用決定の1つの判断材料であり、「履歴書の作成を怠る=業務を怠る」と認識されてしまうほど、履歴書は採用に大きく影響を与える書類なのです。

 

■先入観が植えつけられる

面接時に履歴書の提出が求められ、面接官は質問の前に一通り履歴書の内容を見ることでしょう。時間にして30秒程度でしょうが、面接を担当する経験が多い人ほど履歴書だけでその人の人間性を瞬時に判断することができます。

つまり、面接開始すぐに先入観が植えつけられ、「自分の言葉でしっかり書いている」人には初めから良い印象が、「適当に書いている」人には初めから悪い印象が持たれてしまうのです。

人間の先入観が与える影響は非常に大きく、これを覆すのに10分~15分という短い面接時間では難しく、いくら面接が上手くいっても、植えつけられた先入観により総体的な評価は高くならないでしょう。

反対に、履歴書を通して初めから良い印象を植え付けることができれば、面接が上手くいかなかったとしても、「緊張しているのだろう」などと寛容に捉えられ、総体的な評価はそこまで低くならないのです。

 

■自分の気持ちを整理できる

履歴書には「志望動機」の欄があります。面接では必ずと言っていいほど「なぜ当院を選んだのか」という動機を聞かれます。この質問は採用の可否を決める最も大きな要素の1つであり、いかに面接担当者の気持ちを引き寄せることが出来るかがポイントとなります。

履歴書を作成することで、なぜ自分がそこで働きたいのか、その医療施設にとって益となる動機であるのかなど、今一度見直すことができます。

また、面接では口頭で志望動機を話しますが、基本的には履歴書に書いてあることを述べます。もし履歴書の志望動機と口頭での志望動機に相違があった場合、面接担当者に悪い影響を与えかねません。よって、面接を円滑に遂行させるためにも、本心でも偽りでも履歴書を通して自分の気持ちを整理することは非常に大切なのです。

 

2、履歴書を作成する際の注意点

履歴書は社会人としての在り方が示されます。つまり、社会人としてのマナーが問われるのです。そのため、以下に挙げる注意点をしっかり守って、作成に取り組んでください。

 

■手書きが原則

仕事ではパソコンを使う機会が多く、電子カルテなど看護師においてもパソコンを使う機会は非常に多いのが実情です。パソコンは便利なもので、自分の字で書くよりも早く作成することができますが、履歴書をパソコンで作成するのは完全にNG。

パソコンで作成すると、「使いまわしている」と思われ、悪い印象を与えてしまいます。それゆえ、たとえ字が汚くても時間をかけて手書きで作成してください。

なお、筆記用具は可能であれば黒の万年筆、書くのが難しければ黒または青のボールペンを使用しましょう。消せるという理由で“鉛筆”や“シャーペン”を使用する方が稀にいますが、これもNGです。必ず、万年筆またはボールペンを使用してください。

 

■修正液の使用はNG

万年筆やボールペンは、ひとたび間違えると消すことができません。とは言っても、修正液で消すのは言語道断。志望度が低いと捉えられ、悪い印象を与えてしまいます。一文字でも間違えた場合には、必ず最初から作成しなおしてください。

「二重線+訂正印(印鑑)」で修正するのは可とされていますが、やはりこれも悪い印象を与えかねません。間違えたら最初からやり直すという気持ちで丁寧に記入しましょう。

 

■写真で好印象を

貼り付ける写真は必ず証明写真にしてください。プリクラは言語道断、自分のカメラで撮るのもやめましょう。必ず、証明写真機または写真屋さんで撮ってください。撮影の際にはスーツを着用し、好印象を与えるために表情や服のシワなどに気を配りましょう。また、写真の裏に名前を記入しておき、履歴書の作成にあたって誤字・脱字があれば書き直す必要があるため、写真は最後に貼ってください。

 

■書式・年号を統一する

書式は「~です・~ます」で統一してください。年号を書く欄は「生年月日」「学歴・職歴」「資格・免許」などがありますが、すべて和暦(平成・昭和)で統一しましょう。

 

■履歴書サイズはA4

履歴書の様式は「JIS規格履歴書」が標準ですが、職歴欄が広いものなど、JIS規格に類似した履歴書が数多く市販されています。また、用紙サイズはB5版(B4二つ折り)とA4版(A3二つ折り)がありますが、基本的にはA4サイズを選びましょう。

 

なお、作成が終わっても誤字脱字や書式間違いの有無などしっかり確認しておきましょう。

 

3、履歴書の書き方

続いて、当項では履歴書の各欄の書き方をご説明します。間違いやすい欄もありますので、しっかり把握しておきましょう。

看護師の履歴書

出典:All About

 

①日付

日付は作成当日のものではなく、面接日または郵送日の日付を記入します。面接・郵送日が分からない場合は空白にし、決定次第、記入するようにしましょう。

 

②写真

写真は3か月以内に撮影した証明写真を貼ります。スーツ着用、髪の毛が長い人は一つにまとめるなどして清潔感のある写真にしましょう。また、写真の裏には氏名を書いておき、全てを記入した後に貼るようにしましょう。

 

③氏名・生年月日・性別

氏名は自分の名前を記入し、「ふりがな」と書かれている場合には”ひらがな”、「フリガナ」と書かれている場合には”カタカナ”で記入します。生年月日は和暦(平成・昭和)、性別は該当する方を”○”で囲んでください。

 

④住所・電話番号

現住所は住民票に記載されている住所を記入し、連絡先は現住所以外に連絡を希望する場合のみ記入します。電話番号は「×××-×××-××××」のように”ハイフン”を用いて記入し、自宅の電話番号がない場合には携帯でも構いません。

 

⑤学歴・職歴

まず、学歴から書き始めます。1行目の中央に「学歴」と記入し、2行目以降に小学校からの学歴を記入します。転職の経験が多い(職歴の記入が多い)人は、中学校または高等学校から書き始めて問題ありません。なお、小学校・中学校は“卒業年次のみ”記入し、高等学校以降は“入学年次と卒業年次”を記入します。

続いて、職歴を書きますが、学歴と同様に1行目の中央に「職歴」と記入し、次行目以降にこれまでの職歴を全て記入し、最後に「以上」で締めくくります。

年次は和暦(平成・昭和)で統一し、学歴・職歴ともに省略せずに必ず正式名称を記入してください。

例:高校→高等学校、○○病院→○○大学医学部附属○○病院

 

看護師の履歴書(裏面)

出典:All About

 

⑥免許・資格

看護師免許はもちろん、車の免許や英検など、これまでに取得した全ての免許・資格を記入します。また、現在何かしらの免許・資格取得に向けて取り組んでいる方は、「○○の資格取得に向けて勉強中」などと記入し、アピールするのもOK。取得年・月は正しく、そして必ず和暦(平成・昭和)で記入してください。

 

⑦特技・趣味・得意科目

看護と関係ないものでもOK。積極的に記入しましょう。空白は良い印象を持たれないため、必ず何かしら記入してください。

 

⑧志望動機

志望動機は履歴書の中で最も重要な項目であり、面接でも口頭で説明しなければいけません。給与が高い、休日が多い、楽そうだからという内容は論外。自分に合いそうだからという曖昧な回答もNGです。なぜそこで働きたいのかを明確に示すことが大切。志望度や誠意が伝わるよう、空白を避けてください。

 

⑨自己PR・本人希望欄

履歴書の形式によって異なりますが、おおむね「自己PR」または「本人希望欄」があります。自己PRは就業先にとって自分がどのように役に立つのかを記入し、本人希望欄には待遇など何か希望があれば、その旨と共に理由を添えて記入します。自己PRの記入は必須ですが、本人希望欄は希望することがなければ「特になし」や「御院規定に従います」と記入しておきましょう。

 

4、封筒の選び方とマナー

履歴書を裸で渡すことはマナー違反。必ず封筒に納めなければいけません。ここでは、封筒の種類や書き方などについてご説明します。

 

出典:看護学生のための就活ガイダンスブック

 

①A4版の白い封筒を

履歴書は主にA4版を用いるため、変な折り目がつかないように封筒もA4版を選択します。また、茶封筒ではなく白い封筒を選んでください。記載の際には黒の万年筆またはボールペンを使用します。

 

履歴書を入れる封筒

 

②住所・宛先・氏名は縦書きで

表面右側に送り先住所、中央に宛名、裏面左側に自分の住所・氏名を記載しますが、すべて縦書きで記載してください。また、住所の数字は算用数字(123)・漢数字(一二三)どちらでも構いませんが、必ず統一してください。なお、郵便番号は必ず算用数字で記入します。

 

③病院名は正式名称を

病院名(宛名)は省略せず、「医療法人○○会」や「○○大学医学部附属」など正式名称を記載します。また、多くは“人事課 採用ご担当者 様”と記載し、担当者名が分かっている場合には“人事課 採用ご担当者 ○○様”と記載してください。宛名は求人などに載っていますので、その通り記載しましょう。

 

④表面左下に「履歴書在中」の文字を

病院には多岐に渡る郵便物が届くことから、識別できるように表面左下に「履歴書在中」の文字を記載してください。目立たせるために“赤字”が理想ですが、無理な場合は“黒字”でも構いません。ただし、市販されている封筒の多くはすでに記載されているため、ない場合のみ手書きで記載してください。

 

⑤自分の住所・氏名は1/4が理想

裏面左下に自分の住所・氏名を記載しますが、封筒を四分割した左下スペースに収めるのが理想です。ただし、左側に記載されていれば、縦長になっても問題はありません。

 

⑥封は糊(のり)を使用しましょう

封筒を閉じる際に、簡易という理由でセロハンテープを使う方がいらっしゃいますが、必ず糊で封をしましょう。封をした後は「〆印」を書いてください。なお、面接に持参する場合には封をしないでおきましょう。また、クリアファイルなどに入れ、汚れやシワがつかないようにしておきましょう。

 

⑦履歴書は封筒の向きと同じに

封筒から履歴書を取り出した際、履歴書の書き出し部分が最初に目に入るよう、写真を貼付してある面(左側)を表にして入れます。また、上下の向きも間違わないよう気をつけてください。

 

5、面接時の履歴書手渡しマナー

最後に、面接時に履歴書を手渡す際のマナーについてご説明します。あまり難しく考える必要はありませんが、以下に挙げる2つの事項は好印象を与えるポイントとなり得るため、しっかり把握しておいてください。

 

■開封して渡すこと

面接時に手渡しする際には、面接担当者の手間を省くために、封筒から履歴書を取り出し、封筒に重ねるようにして渡しましょう。ただし、面接時ではなく受付時に渡す場合には、開封せずに封筒のまま渡すのが原則です。

 

■見えやすい向きで渡すこと

また、面接担当者に見えやすいように、面接担当者からみて表の状態で渡してください。上下もしっかり確認し、渡す際には「本日はよろしくお願い致します」と一言添えると良い印象を与えることができます。

 

まとめ

就職・転職の際には必ず履歴書の作成が必要になり、書き方一つで社会人としての在り方や人間性が判断されることが多々あります。それゆえ、マナーを守ってしっかり作成することが非常に重要です。

当ページでご説明したことをしっかり把握し、人事課担当者や面接担当者に好印象を持たれるよう、丁寧に自分の言葉で記入してください。

なお、履歴書は基本的に手元に返ってきますので、必ずコピーをとっておきましょう。そうすることで、面接前に記入内容をチェックできるほか、他の医療施設へ応募する際にも、一から考える必要はありません。忘れずコピーしておきましょう。

看護リフレクション|プロセスに沿った実施方法と事例

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看護リフレクション

自分自身を見直すために、自身の看護の質向上を図るために実施される看護リフレクション。当ページでは、概要や有効に活用するために思考、実施に際するプロセス、事例など、看護リフレクションについて包括的かつ詳細にご説明します。

看護リフレクションとは何か、どのように方法を用いて実施するのか分からない方は、最後までしっかりお読みください。

 

1、看護におけるリフレクションとは

リフレクション(Reflection)とは、①鏡に映った自分やものごとの像、②過去の行為・決定について注意深く考え直すこと、という2つの意味があります。

看護を提供する中で、「何か気に障ったことを言ったかな」と、自分の発現した言葉に対して患者の行動に違和感を感じることがしばしばあるはずです。これは看護だけでなく、友達との会話の中での相手の表情や仕草からも読み取れ、「もっと優しく、柔らかな口調で言えば良かったな」と、反省することでしょう。この反省がリフレクションです。

自分を見つめ直すために、自分の看護の質向上を図るために、看護行為や対話の中で“違和感”を感じたことに対して、なぜ違和感が生じたのかを追求するとともに、原因を特定し、次に生かすための改善策を練る、という一連のプロセスを踏んで、反省的な姿勢で振り返る取り組みがリフレクションの考え方です。

看護師は日常的に自分自身に対してや他の医療従事者に対して、患者に対してリフレクション(反省)を繰り返していますが、基本的にこれは“無意識”の中で行っています。それゆえ、反省による改善の程度は低く、2度3度と同じ失敗を繰り返してしまうのです。

そこで、“無意識”の中で行っている反省を、一定のプロセスを経て“意識的”に行うことで、同じ失敗を繰り返さず、反省による改善の程度を高くすることができ、自身の看護の質を向上させることができるのです。つまり、単なる振り返りではなく、意識的に自己との対話を図ることが、看護リフレクションの効果的な実践に必要な思考なのです。

 

2、無意識から意識への移行

まず、看護リフレクションの考え方(プロセス)を説明する前に、無意識から意識への移行についてお話します。というのも、看護リフレクションを実施するためには、無意識の中で行われている日常の反省を意識的に行う必要があるからです。

人間の脳は常に稼働しているわけではなく、多くの場面では“無意識的”に働いています。たとえば、本を読んでいる間には周りの声や物音が聞こえにくくなるはずです。これは、本を読むことに集中(意識)し、その他のことに対しては集中が分散(無意識)しているからです。

全てのことに対して集中している状態では、脳の許容量が超えてしまい、いわゆるパンク状態になってしまうため、脳は1つのことに対して集中力を費やす反面、その他のことに対しては集中力を分散させるというメカニズムを自然に働かせているのです。

勉強するにあたって、ダラダラ暗記していては頭に入らず、一晩寝るとすぐに忘れてしまうでしょう。しかしながら、集中して(意識的に)勉強することで、暗記の効率が高くなり、暗記量の増加を図ることができるとともに、一晩寝てもある程度の暗記量は確保されます。

このように、無意識で行うことに対しては向上を図るのが難しく、意識的に行うことでより効率的に向上を図ることができるのです。

それゆえ、看護リフレクションを実践するにあたって、まずは今まで無意識的に行ってきた“振り返り”から脱却し、意識的に自分と対話するとともに一定のプロセスに沿って行う必要があるのです。

なお、意識と無意識の概念についてより深く学びたいという方は、精神分析の創始者である「ジークムント・フロイト」の書籍を閲読すると良いでしょう。

 

3、看護リフレクションの必要性

では、なぜ看護リフレクションが必要なのでしょうか。上では、“効率的に自身の看護の質を高めるため”、と述べましたが、それだけでなく、人間性の向上や思考力の向上など、看護の枠を超えて1人の人間として成長を図ることができるのです。

 

①人としての個人的成長につながる

②専門家としての成長につながる

③習慣的な行為から脱却する

④自分自身の行動に気づく

⑤観察に基づく判断から理論を構築していくことができる

⑥不確実性の多い事柄を解決したり、決定することができる

⑦個人としての自己をエンパワメントしたり解放することができる

 

4、看護リフレクションのプロセス

では、どのようなプロセスを経て看護リフレクションを実践すれば良いのか、ここでご説明したいと思います。

まず、看護リフレクションを行うプロセスは、すでにGoodman、Gibbs、Johnsなどによって、いくつか開発されています。

 

Goodman(1984)

LEVEL1 何が起こり、そのとき何を行ったかを描写する。
LEVEL2 行為の示す方向と成り行きをアセスメントし、理論と実践の関係についてリフレクションする。
LEVEL3 看護の目的や実践の価値を超えた議論における正当性や開放性の問題についてリフレクションする。

 

Gibbs(1988)

記述・描写 ≪何が行ったのか≫

その出来事はどこで起こったのか、そこで何をしていたのか、自分以外に誰がそこにいたのか、その人は何をしていたのか、何が起こったのか

感情 ≪何を感じ、何を考えたのか≫

その出来事においてどのような気持ちで何を考えていたのか、何が自分をそのような気持ち・考えにさせたのか、他者の言葉や行動がどのように関係しているのか、その出来事の成り行きによって自分の気持ちや考えはどのように変化したのか

評価 ≪その体験は何が良くて何が悪かったのか≫

出来事や行動に対して何が良くて何が良くなかったのか、そこで起こった価値や重要性は何か

分析 ≪その状況の意味は何か≫

なぜこのような状況が起こったのか、状況が良くなかった時は何をすべきであったのか、状況を良くするために何を行ったのか、自分や他者は何に貢献できたのか

総合 ≪ほかに何ができたのか≫

探求を通して自分自身に何ができたのか、自己のどのような成長に繋がったのか、他者の行動にどのような影響を与えたのか

行動計画 ≪再び起こった際にはどうするのか≫

再び同じような状況になったとき、自分はどうするのか

 

Johns(2000)

経験の説明 何が起こったのかを説明し、それに対する重要な要素は何だったのかを考察する
リフレクション 自身が行おうとしたこと、それに対する結果はどうなったのかを考察する

(どのような努力をしたのか、なぜそのような介入をしたのか、行為の結果として何が得られたのか、患者はどのような気持ちだったのか)

影響要因 内面的・外面的・知識的な事柄が自身の決定にどのような影響を与えたのかを考察する
回帰 状況を良くするために他の方法はなかったのか、その方法を実施した場合の結果はどうなっていたのかを考察する
学習 その経験による何が変わるのか、その経験について何を感じ・どう思ったのか、その経験は自身の科学的・道徳的ならびに気づき・美学においてどのような変化を与えたのか

 

それぞれの理論家によってプロセスは異なりますが、概ね「状況の描写・明確化」→「状況の分析・評価」→「学習」という3つのプロセスを踏むことで、看護リフレクションを実践することができます。

どのプロセスを活用すれば良いのか分からない場合には、簡略化した「状況の描写・明確化」→「状況の分析・評価」→「学習」の3つのプロセスを経て実践すれば、円滑に進めていくことができるでしょう。

 

①状況の描写・明確化

患者の状況や、看護行為・言動の内容、それに対する患者の反応を詳しく描写し、シート等に記述します。シート等に記述することで、より詳しくその時に状況を描写することができ、次の分析・評価を円滑に行うことができます。

 

②状況の分析・評価

次に、患者に対する看護行為や言動において、患者がどのように感じたのか、自分の行動は正しかったのかなど、客観的に分析します。また、実施して良かったこと・良くなかったことなど、1つ1つ評価していきます。

 

③学習

最後に、以上のすべてを振り返り、看護師としての自分と向き合いながら、個人の看護経験を看護の知識へと変換させます。今回のことを踏まえて、良い結果をもたらしたことに関しては、より良い結果を導けるよう考察し、悪い結果をもたらしたことに関しては、同じことを繰り返さないよう肝に銘じておきます。

 

5、看護リフレクションの実践する場面

看護リフレクションは、いわゆる“気掛かり”な場面で実践しますが、たとえばどのような場面において実践すればよいのか、ここで具体例をいくつか提示します。

 

  • 患者の言葉に対して、どう言ったらよいのか分からなかったから
  • 会話中に患者の表情が変わったため、気分を害することを言ったのではないか
  • 患者の要求に対して、どう対処していいのか分からなかったから
  • 患者の行動が理解できず、何も言えず、何もできなかったから
  • 患者の病気に対する不安を軽減することができなかったから
  • 患者との距離が近づいたと実感できたが、何が要因だったのか振り返るため
  • 患者との関係が一向に良くならず、自分に何か原因があるのかと考えたから
  • 自分の説明の仕方によって、患者と自分との関係性に悪い影響を与えてしまったから
  • 患者から心配事を話してもらえたが、なぜ急に話してくれたのか分からなかったから
  • 患者の恐怖心に配慮した言葉がけが出来ていない気がするから
  • 患者への声掛けで、どのように言葉をかけたらいいのか分からなくなったから
  • 患者の主観的な発言を取得しようと頑張るあまり、プライバシーに配慮できていなかったと感じたから
  • 手技の実践中に急に無言になり、何か何が原因でそうなったのか突き止めたかったから
  • 笑顔で話していたのに、急に苦笑いになり言葉を濁されて、違和感を感じたから
  • いつもとは何か違う感じがしたから
  • 患者の言動や行動が生活によるものなのか、病気によるものなのか見極めたかったから

 

これらはあくまで例ですので、例にはない場面で、あなた自身が“気掛かり”に思ったこと全てに対して実践しても問題ありません。

 

6、看護リフレクション実践の事例

次に、看護リフレクション実践の1つの事例をご紹介します。「患者の言動」・「私が感じたこと考えたこと」・「私の言動」の3つをもとに、起こった状況を描写し、それに対して患者の状態や行動の良悪を分析・評価し、学んだこと・次に生かすためにすべきことなど、「状況の描写・明確化」→「状況の分析・評価」→「学習」に沿って実践していきます。

 

≪患者情報≫

C氏 58歳 男性 統合失調症 入院期間:10年

幻覚(幻聴)が活発な状態である

≪この場面をとった動機≫

幻聴によって言動が左右されているC氏に、どう対応したらよいのかわからなかった。もう少し、C氏の気持ちを汲んだ対応を考えたかったから

患者の言動 私が感じたこと考えたこと 私の言動
①「先生が退院はダメだけど、学生さんと相談して学生さんがいいよって言うんだったら、退院していいよって」 ②えっ、本当にそうおっしゃったのかな? ③「先生が本当にそうおっしゃいましたか?」
④「うん、そう言ったよ」 ⑤どうしよう、何て言おうかなあ ⑥「先生のほうが私よりえらいので、私は勝手に判断できないんです」
⑦「けど、先生がそう言ってたし頼むよ、何でもするし・・・」 ⑧どうしよう、どうしたらいいのだろう ⑨「私、学生なので勝手に決められないんです」
≪分析・考察≫

C氏が痰インの希望を強く持っていることが分かった。また、その希望の強さから幻覚の内容はできあがっているのではないだろうか。

はじめ、私はC氏の言葉に混乱してしまい⑥⑨のように曖昧な対応を続けてしまっている。

≪私がこの場面で学んだこと≫

幻聴に左右されているC氏も混乱しているし、私も同じように混乱していたのでは、判断がお互いにつかなくなる。落ち着いて、じっくりC氏の言葉を聴いていくことが大切であると思う。(以下略)

長谷川雅美・白波瀬裕美『自己理解・対象理解を深めるプロセスレコード』39項より抜粋、一部改変

 

このように、看護行為や対話の中で起こった出来事について、「状況の描写・明確化」→「状況の分析・評価」→「学習」のプロセスを辿ることで、自身の看護の質向上や患者の問題点がみえてくるのです。

なお、上表は「プロセスレコード」と呼ばれ、リフレクションにおける“記録”です。通常、日常の看護実践の場面では、看護師は患者との関係に深く巻き込まれ、即座の対応を迫られます。それに伴い、自身と患者との相互作用を反省的に意識しながら看護を行えません。

また、患者の頻回な入退院や多くの受け持ち患者数により、看護リフレクションを行った状況は次第に忘れてしまいます。そのために、プロセスレコードを用い記録として残し、後日振り返ることで、さらに深く自分を見つめ直すことができるのです。

 

7、セミナー・グループワークのススメ

看護リフレクションは、自身の人としての成長ならびに看護の質向上のために不可欠な取り組みです。しかしながら、個人単位で実施するのは無理があり、特に看護リフレクションについてこれまで詳しく知らなかったという方は、教授・指導してくれる教員が必要です。

もちろん、一個人で実施することも可能ですが、そうすれば問題解決の糸口は自分自身の主観でしか見つけることができません。それゆえ、一個人で行う場合には必ず同僚など第三者からの意見を取り入れることが大切です。

現状では、看護リフレクションは未だ広く実践されておらず、院内で実施している医療施設は極少数です。そのため、看護リフレクションの実践法を深く学ぶためにはセミナーやグループワークに参加しましょう。また、研修に参加するのも良いでしょう。

看護リフレクションは文章のみの理解で、効率的かつ有効に実践することはできません。セミナーやグループワーク、研修に参加することで、実体験の中で学ぶことができ、さらに他の参加者と交流を図ることで、より詳細に実践法を習得することができます。看護リフレクションの実践への意欲がある方は、ぜひ実体験の中で学んでください。

 

まとめ

看護リフレクションは、自分の今までの看護行為を見つめ直すため、看護の質向上を図るために非常に重要な取り組みであり、“反省する”ということは、看護師だけでなく全ての人にとって大切なことです。

スポーツ選手でも、何が悪かったのかを反省的に考察しなければ、自分の悪い部分は一向に改良されず、一流のスポーツ選手になることは非常に難しいでしょう。このように、人は何においても向上するために反省的な姿勢で振り返らなければいけません。

看護師は数ある職業の中でも責任は重いもの。疾病を有する患者に対して全人的なケアを行えるのは看護師など医療従事者だけです。自身のため、患者のために、この機会にぜひ業務の一環として看護リフレクションの実践を検討してください。


看護師の小論文の過去問(テーマ一覧)と例をふまえた書き方

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看護師の小論文

看護学校や看護師の就職・転職に際して出される小論文。出題されるテーマが決まっておらず、また構成や段落など難しいルールが定められていることから、多くの方が苦戦を強いられているのではないでしょうか。

そこで当ページでは「1、小論文の評価ポイント」「2、小論文の基本的なルール」「3、過去に出題されたテーマ」「4、小論文の段落構成」「5、構想のポイント」の5つの項目をもとに、小論文の上手な書き方について詳しくご説明します。

どのように小論文を書いていいのか分からないという方は、最後までしっかりお読みいただき、参考にしていただければと思います。

 

1、小論文の評価ポイント

まず始めに、小論文の評価ポイントについてご説明します。小論文は作文とは違い、論理的かつ簡潔に自分の想いや考えが記述されているかが評価の基準となります。細かく示せば非常に多くの評価ポイントがありますが、以下の5つをしっかり抑えておけば、減点を免れるだけでなく、“質の高い小論文”として評価されますので、必ず抑えておきましょう。

 

①文章の内容がテーマに沿っているか

これは当然と言えば当然ですが、看護系小論文のテーマは時として“人間の欲望について”など哲学的なものが出されることがあります。この場合でも、脱線せずテーマに沿った内容を記述しなければいけません。また、自分の意見を示す必要があります。

 

②論理的に説明されているか

小論文は作文とは違い、自分の意見やその理由を述べるというように“論理的”な記述形式に沿って記述しなければいけません。また、自分の意見に対する理由に“説得力”があるかも評価のポイントとなるため、“論理的思考”を働かせながら記述する必要があります。

 

③具体例が示されているか

小論文では上述のように、自分の意見やそれに対する理由を説明しますが、理由を説明する際には、実体験を交えるなど具体的に示す必要があります。また、自分なりの気づきや新しい発想をもとにした内容であれば、さらに評価が上がります。

 

④文章の構成が簡潔で読みやすいか

小論文の構成は概ね決まっています。その構成通りに記述することで通常は読みやすい文章に仕上がりますが、脱線するなど明瞭・簡潔さに欠けると評価は下がります。

 

⑤誤字・脱字、誤用がないか

文字の誤字や脱字、送り仮名や文法の誤り、熟語や慣用句の誤用があると評価が下がります。記述後にはしっかり確認し防止に努め、詳細を知らない熟語や慣用句の使用は控えましょう。

 

2、小論文の基本的なルール

小論文では、主語を男女関係なく第一人称に「私」を使用するなど、ルールが決められています。これらを遵守することで減点を抑えることができます。「文法上の間違い」や「句読点の位置」など、“避けられない減点”はあまり考慮しなくても構いませんが、以下に挙げるルールは考慮し、減点を最小限に抑えられるよう努めてください。

 

①語尾を統一する

小論文では、話し言葉ではなく、“堅い文章”が求められます。語尾には「だ・である」を用い、「です・ます」などと混同しないよう、一貫して「だ・である」で記述してください。

 

②一文の長さを短くする

小論文は簡潔で読みやすい文章である必要があります。主語が長くなったり、句読点が多く文章が長い場合には読みにくくなってしまうため、一文は50文字以下に抑えましょう。ただし、短文が連続する場合には幼稚な文章にみえてしまうため、読みやすい文であれば50文字を超えても問題はありません。

 

③婉曲な表現を使用しない

読みにくく意図が見えにくい文章になってしまうため、「~でなければならないだろう(推量)」、「~でなければならないのではないだろうか(推量+疑問)」、「~でなければならないかもしれない(不確実な推量)」、「~でなければならないと言われている(責任転嫁)」、「おおよそ~でなければならない(ぼかし)」など、婉曲な表現は使用しないよう注意してください。

 

④否定的な表現(言い訳・断り書き)は使用しない

時として、難しいテーマや自身の実体験にはないテーマが出題されます。このテーマに対して、「私には理解できないが~ではないだろうか」、「私には難しくてよく分からないが~だと思う」のように、否定的な表現を使用してはいけません。

 

⑤同じ内容・表現の繰り返しを避ける

文字数を稼ぐために同じ内容を繰り返し記述したり、「その問題は未だ未解決である」というように、同じ表現(“未だ”と“未”解決は重複表現)を繰り返してはいけません。

 

⑥原稿用紙の使い方を守る

看護系小論文は、教育機関や医療施設によって“縦書き”と“横書き”の2つの原稿用紙が用いられます。段落においては、どちらも変わらず、内容が変わる場合には「改行(一マス空ける)」しなければいけません。また、数字においては、縦書きの場合は「一〇〇」または「百」というように漢数字で表記するなど、原稿用紙の基本的な使い方・ルールを守る必要があります。

 

⑦文字数は規定の80%以上埋めること

看護系小論文の多くは800文字ですが、最低80%以上(640文字以上)、できれば90%以上(720文字以上)記述しましょう。なお、文字数がオーバーした場合には減点または採点対象外とされる場合があるため、必ず規定文字数以内に抑えるようにしてください。

 

3、過去に出題されたテーマ

看護系小論文の出題形式は「課題作文型」「課題文・資料分析型」に分けられます。

「課題作文型」とはテーマに対する自分の考えや意見を述べるもので、「課題文・資料分析型」は現代文や英文などの課題文についての回答や要旨のまとめ、統計資料やアンケート結果をもとに自分の考えや意見を述べるものです。

一般的に、看護系専門学校においては「課題作文型」、看護系大学においては「課題文・資料分析型」が出題され、就職・転職における採用試験では「課題作文型」が出題されます。

しかしながら、教育機関や医療施設によって異なりますので、希望する教育機関・医療施設の過去問を取り寄せ、出題傾向を把握しておく必要があります。ただし、急に出題傾向が変わることもありますので、「課題作文型」・「課題文・資料分析型」どちらも書けるよう、しっかり準備しておきましょう。以下に過去に出題されたテーマの一例をご紹介します。

 

3-1、課題作文型

課題作文型のテーマは多岐に渡り、「看護・医療」・「自分」「コミュニケーション」「社会・時事」「哲学」「自然・環境・健康」のジャンルから出題されます。

看護系専門学校・看護系大学における入試試験ではジャンル問わず出題されますが、就職・転職に際しては主に「看護・医療」に関するテーマが出題されます。

 

■看護・医療

・あなたの看護観とは何か

・あなたの看護師像とはどのようなものか

・看護師を目指すキッカケ

・看護師の仕事と医師の仕事の違いについて

・看護とマナーについて

・医療人になるために今求められていること

・医療ミスを無くすためにすべきこと

・看護を行う上で、あなたが最も大切にしていることはなにか

・医療従事者になるにあたっての心構え

・再生医療について

・セカンドオピニオンを希望する患者への対処

・重篤な病気にかかった時の家族の存在とはどのようなものか

・チーム医療の現状と課題

・認知症患者が安心・安全に生活するために必要なこと

・臓器移植は人類に何をもたらすのか

 

■自分

・言われて嬉しかった言葉

・これからの人生で大切にしたいこと

・仕事のやりがいについて

・今まで一番頑張ったこと、それによって学んだこと

・今までに行った自分自身を向上させるための取り組みとその効果

・10年後の自分への手紙

・信頼を得るために必要なこと

・家族の中でのあなたの役割

 

■コミュニケーション

・優れたコミュニケーションとはどのようなものか

・人と接する中で気をつけること

・メールによるコミュニケーションについて

・SNSによるコミュニケーションの欠如について

・現代社会における若者の人間関係に対するあなたの考え

・第一印象が与える影響

 

■社会・時事

・老人と社会のありかたについて

・少子化社会にどのように対応するか

・社会性について

・歩きスマホのマナー・事故に対する対策

・女性の社会進出について

・世界には低年齢で亡くなる子どもがたくさんいることについて

・「いじめ」問題について

・赤ちゃんポストについて

・超高齢化社会における看取りについて

・情報化社会と医療について

・障害者差別について

・インターネットのモラル・ルールについて

・SNSの利用と社会問題について

・情報化社会における他者の個人情報保護

・高齢化社会に問題とこれからの若者のあり方

・科学技術の進歩が人々に与える恩恵と弊害

 

■哲学

・あなたの考える「癒す」・「癒される」について

・病気になったときどのような気持ちで生きるべきか

・主体的に学ぶとは

・心の豊かさについて

・あなたにとって「絆」とはなにか

・命の尊厳とは

・豊かな生活とはなにか

・「私は人を見かけ、心(性格)どちらで判断しているのか」について

・あなたの考える「自立」とは

・「学習する」とはどのような意味を持つか

・「生命」について

・「嘘」と「良心」について

・「ゆとり」について

・社会的に大人であるとはどういうことか

 

■自然・環境・健康

・心の健康について

・心身ともに健康な生活を維持するために必要なこと

・「心の病」「身体の病」についてあなたの思うこと

・地球規模での環境問題について

・地球温暖化について

・大気汚染が人体に与える影響

・地球環境と健康の関係

 

3-2、課題文・資料分析型

続いて、過去に出題された課題文・資料分析型のテーマをご紹介します。課題文・資料分析型は、日本語または英語の課題文の読解、グラフや表の読み取りを行い、自分の意見を述べるものです。ジャンルは多岐に渡りますが、概ね「健康」「看護」「医療」をテーマにしたものが多いのが実情です。

なお、課題文・資料分析型は主に看護系大学で出題され、看護系専門学校や就職・転職ではほとんど出題されません。

 

・子供への寛容さがなくなった親に対する解決策

・世界の子供の「自由度」を比較した文と図の説明とあなたの考え

・いじめの孤立・点在する集団内の対等性に関するあなたの考え

・男女別・年齢別日本人口における日本社会の課題

・たばこ規制における商業的規制の必要性に対するあなたの考え

・末期医療において患者が治療を選択するために看護師が行うべき支援

・高齢者の社会参加を支援するための方策

・臓器移植法改正に対するあなたの考え

・文より筆者の主張に対するあなたの考え

・「家族難民」の増加を防ぐ方策に対するあなたの意見

・「自らを不幸に追いやらないための方法」についてのあなたの考え

・最近の青年の問題行動に対する方策

・高校生の薬物使用の実態に対するあなたの考え

 

4、小論文の段落構成

看護系小論文は、「①序論」「②本論1」「③本論2」「④結論」と段落の構成は概ね決まっています。文字数は800文字が多いことから、①序論(100文字)、②本論1(300文字)、③本論2(300文字)、④結論(100文字)といった構成だと書きやすいのではないでしょうか。

各段落の文字数はテーマによって異なりますので、変動しても問題はありません。しかしながら、序論や結論が多く本論が少ないといった構成では、意図が読み取りにくくなるため、おおよそ「100:300:300:100(文字)」の構成が妥当です。

以下に、「看護観」をテーマにした場合の段落構成と、各段落の簡潔な内容についてご説明します。

 

①序論

冒頭では、テーマに対する自分の考えを簡潔に示します。看護観であれば、“その人らしさを生かした看護を行うことが私の看護観である。”というように簡潔に述べることで、以降の文章がより明瞭になり、読み手に分かりやすい文章に仕上がります。

 

②本論1(説明)

次に、自分の考えに対する説明を実体験や著名人の引用などをもとに述べます。前段落で示した看護観、“その人らしさを生かした看護を行うこと”に沿った内容(なぜそうしようと思うようになったのか、など)を補足的に説明してください。

 

③本論2(具体例)

次に、前段落で述べた説明の補足や反論など、自分の考えに対する内容を具体的に述べます。

 

④結論

最後に、テーマに対する自分の考えを再度提示します。また、今後の試みや目標、解決策などを述べ、文章を締めくくります。

 

[①序論]

私の看護観は、対象がどのような状況であっても、その人らしくいきていられるようにサポートし、その人らしさを生かした看護を行うことである。

[②本論1-1]

私がこの看護観を抱くようになったのは、実習で受け持ったA氏との関わりからである。A氏は病院に行くことが嫌いで自宅で嘔吐を繰り返していたが、受診もせずに過ごしていた。その後、嘔吐を見られてから20日後に外来を受診し、胃癌と肝転移と診断された。そして、化学療法目的で入院となり、入院翌日から化学療法が開始された。

[②本論1-2]

私はA氏の状態が終末期にあたるため、受け持ち時はどうA氏と接してよいか分からず、A氏のヘッドサイドに足を運ぶことしか出来なかった。そのため、A氏の思いや特徴、A氏らしさを捉えることが出来ない状態であった。その後、訪室の回数を増やし、コミュニケーションを図るように関わった。すると、A氏の気持ちや思いに少しずつだが気付くことができるようになっていた。

[②本論1-3]

ある朝、訪室するとA氏はベットに座っていた。「今日は遠くまで洗面に行ったのですか」と聞くと「そうだな、そろそろ行くか、頭でも洗いに」と点滴スタンドを押し洗面所へ行き、固定石鹸で頭を豪快に洗っていた。「夏場はよく公園の水道でこうやって頭を洗っていたよ」と言い、「さっぱりした」という発言が聞かれた。その姿や表情、発言はまさにA氏本来の姿だと感じた。そこで、A氏はベット上での洗髪よりも、A氏らしさを考え、自分で洗髪できるようにサポートする方法を計画した。後日、A氏に洗髪を促すと「こんな寒い日に洗わないよ」ときっぱり言われた。私は、清潔保持とA氏にさっぱりしてもらいたいと考えていた。しかし、その日は朝から曇り空で天候まで考えていなかった。私は援助が単なる自己満足の押し付けになってしまったと気付いた。

[③本論2]

援助を行うにしても、対象は一人一人違う。その対象の特徴や生活背景なども把握し、対象のペースやタイミング、その日の体調や天候など実施する環境も考慮した個別性のある看護ができなくてはいけない。また、援助の必要性を説明し、対象が納得してくれることが大事であるとA氏に気付かされた。

[④結論]

今後、看護者としての専門的な能力だけでなく、一社会人としての、学問、知識を広く身につけていきたい。また、芸術・文化に関する教養も高め、豊かな心やたしなみを持った人に成長していく必要性を感じた。そして、今までの学びや体験を最大限に活かし、その人らしい人生を全うできる対象に合った看護を行い、対象を支えていきたいと思う。

出典:第1回 全国看護学生作文コンクール 啓明書房賞

 

当文章は全国看護学生作文コンクールで受賞したものです。作文と表記されていますが、小論文の構成やルールと同一であるため、参考にするのに申し分ありません。

なお、規定文字数が1000文字~1200文字になっているため、「②本論1」を短くすることで、800文字以内に収めることができます。他の受賞作品においては「国際看護支援センター」よりご覧ください。

 

5、構想のポイント

小論文の規定時間は教育機関や医療施設によって異なり、またテーマによっても異なりますが、概ね50分~90分です。時間内に800文字程度の文章を書くのは容易ではないため、時間を上手く使うことが非常に重要です。

基本的には、「構想(2):記述(7):確認(1)の割合で時間を使うことで、制限時間内にまとめることができ、さらに誤字脱字を最小限に減らすことができます。

小論文を書くにあたって最も重要となるのが「構想」であるため、10分~20分程度の時間を使って、しっかりと記述内容を考えることをお勧めします。

 

  • テーマに対する材料を箇条書きにする
(1)意見・見解…設問の主旨に対する自分の意見や見解を打ち出す。

(2)知識・情報…主題に関する知識や情報を選び出す。

(3)体験・経験…身近で具体的な体験や経験、出来事を思い起こす。

(4)連想…ある事項から関連する物事や考えを思い浮かべる。

(5)引用…他人の説や事例を例に引いて使う。ことわざや格言なども含む。

(6)資料…具体的な資料やデータを用いる。

  • 課題文の重要語句を抽出・マークする
  • 自分の考えに対する理由を考え書き記す
  • 段落構成の大まかな枠組みを決める

 

このように、一気に書いていくのではなく、1つ1つ情報を抽出した後に書き始めることで、頭の中が整理でき、より早くより論理的に書くことができます。それゆえ、必ず10分~20分の時間を費やして構想するようにしましょう。また、最後に見直しをするのを忘れないでください。

 

まとめ

読者の心を掴む小論文を書ける人はそうそういません。また、試験官や採用担当者は、「加点方式」ではなく、「減点方式」を用いて小論文を評価しているのが実情です。よって、まずは減点対象を減らすことに重点を置いて小論文の勉強に取り組んでください。

その後は、さまざまなテーマをもとに小論文を書き、他者にみてもらいましょう。この積み重ねが質の高い小論文を書くために必要不可欠です。可能な限り多くの書き、小論文に慣れてくださいね。

医師が警鐘を鳴らす!TPPで日本の医療が米国型の医療制度に変わる理由

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医療の黒船

1.米国の平均寿命、幼児死亡率が低い理由

世界の先進国10カ国(オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウエー、スウエーデン、イギリス、アメリカ、日本)の医療統計(2012年)によれば,アメリカの平均寿命、幼児死亡率はそれぞれ78.1歳、5.9%で10カ国中最低のレベルです。ちなみに日本は平均寿命(82.6歳)、幼児死亡率(2.1%)とどちらも10カ国中最高のレベルです。一方で、アメリカの一人当たりの年間医療費は7、432ドル (88万円)と突出しており(10カ国中1位)、日本は2、750ドル (32万円)で10カ国中で最低です。どうしてこのように米国の医療レベルが最低であるにも拘らず、医療費が突出しているのでしょうか? それは、米国の医療保険制度に問題があるからです。

 

米国の医療制度の実情

アメリカの医療は自由診療が基本です。公的医療保険制度として高齢者・障害者向けのメディケアと貧困者向けのメディケードがありますが、国民皆保険制度は採用していないため、一般の国民は民間の医療保険に加入しなければなりません。 国民各自が民間の保険会社と契約を行うので、多くの民間の保険会社は競ってそれぞれの『保険商品』をPRしています。しかしながら、その保険料は個人の支払い能力によって、何10種類もの範疇があり、 全ての医療が保険でカバーされる訳ではありません。例えば、低額(3-4万円/月)の保険料で契約すれば、外来診察は1年に3回までで、入院費は保険がきかず、 外来での小手術のみ保険でカバーされるなど、種々の制約があります。

そして担当医は個々の患者について、どんな検査や治療をするかを逐一、保険会社と交渉しなければなりません。もちろん、保険会社が担当医の考える治療や検査について『ノー』を突きつけるケースもあります。このように医療費の算定はもとより医療内容までが民間の保険会社の意向に依存しています。担当医は 若い保険会社の事務員相手に検査や薬の処方の許可を得なければならないのです。おまけに事務員は電話数件に1件は許可を却下するようにとのノルマを会社から与えられています。この結果、担当医は目の前の患者に思うような治療ができないケースも多く、そのプライドがつぶされたと感じる事も多いようです。

米国では患者のみならずその治療にあたる医師までをも不幸に貶めているのが民間医療保険なのです。一般的に企業はその利潤をあげる為に、いかに収入を上げ、支出を下げるかに躍起となります。資本主義社会では当然のことですが、この営利目的の市場原理が医療の現場にまで及んでいる事が問題なのです。民間の保険会社は、いかに収入(保険料)を上げ、支出(医療費)を下げるかを常に考えているのです。

 

6人に1人が医療保険に入れない現実

保険料は高額でその支払いは低所得者では困難です。医療費のかさむ慢性病患者は保険の更新を拒否されたりする弊害もあります。したがって、医療の恩恵を享受できない国民が多数存在し、アメリカの全国民の6人に1人(4千万人以上)が医療保険に入れない状態となっています。何らかの保険に入っていなければ、医療費は全額自己負担となります。この自己負担額が払えなければ、無保険者は最低限の必要な医療さえ受ける事はできません。これら無保険者に対して、『診療拒否』できるのがアメリカの医療保険制度なのです。

一方で、高額の民間医療保険(保険料が10万円以上/月)に入る事ができるお金持ちは、プライベートの病院を受診でき専門医にもゆっくり診察してもらえます。もちろん医療費は高額で、庶民が受診することは不可能です。恐るべき医療格差社会です。

 

医療費の支払いで、毎年200万人が破産

医療費支払いが原因で破産する人の数は全米で、毎年2百万人にも達しています。破産時の年収は2万4千ドル(290万円)との統計があります。医療費支払いが原因で破産する人は保険に加入していなかったからなのでしょうか?いいえ、そうではありません。破産した際の医療費の自己負担額は保険に加入していた人では1万3千ドル(160万円)、保険に加入していなっかた人では1万1千ドル(130万円)と大差がありません。 たとえ保険に加入していても、高額な医療費を払えずに米国人はすぐに破産してしまうのです。

 

米国の医療費は日本のそれと比べると極めて高額です。例えば 初診料は150ドルー300ドル(1万8千円−3万6千円)で、専門医を受診すると200ドルー500ドル(2万4千円—6万円)かかります。入院した場合は室料だけで1日千ドル以上(12万円以上)の請求を受けます。いくつかの例を挙げれば、急性虫垂炎で入院し手術後腹膜炎を併発したケース(8日入院)は7万ドル(840万円)、上腕骨骨折で入院手術(1日入院)は1万5千ドル(180万円)、貧血による入院(2日入院,保存療法)で2万ドル(240万円)、自然気胸のドレナージ処置(6日入院,手術無し)で8万ドル(960万円)などです。

 

米国ではホームドクターが必須?

アメリカでは、大部分のクリニックは予約制となっており、いきなりクリニックを訪れても診察してもらえません。民間の医療保険のシステムとして、個々の患者はPrimary care physician(ホームドクター)をもつことが、必須となっています。民間医療保険が中心のアメリカでは、日本のように自由に種々の医療機関にアクセスする事が出来ません。健康上の問題が生じた際には、このホームドクターを訪れます。そして、もし必要であれば、専門医に紹介されるシステムです。しかしながら、専門医への紹介率は50%以下にすべきという制約があり(医療費の抑制のため)、自分の診た患者の50%以上を専門医に紹介するとホームドクターの資格が剥奪されます。

 

2 私達のアメリカで受けた医療の経験

私たち家族がミシガンに住んでいた折、小学生の息子が頭痛と嘔吐が1週間程続いたため、 ホームドクターを受信しました。診断は偏頭痛とのことで、痛み止めが処方されました。親としては、脳の異常の有無が心配で、CTスキャンなどの精査を希望したのですが、拒否されました。既述したように、ホームドクターは安易に専門医に紹介してはいけないとの制約があったためです。

高校生になった息子が、手首を骨折し救急病院に運ばれた事があります。その報を受け、私が救急病院に着いた時は彼が運ばれてから2時間以上経過していました。診察室に横たわる彼の脇にレントゲン写真が置かれており、整復の必要性がありました。しかしながら、医者が現れて整復を開始したのは、その1時間後でした。私の友人の日本人医師が夜間に下痢と腹痛が出現し、あまりに症状が激しいので、ミシガン大学病院の救急を受診しました。3時間待っても医者が来てくれず、そのうちに腹痛が治まってきたので、そのまま帰宅したそうです。大部分のクリニックは予約制となっており、いきなりクリニックを訪れても診察してもらえません。無保険者の患者が受診できる唯一の医療機関が救急外来のため、救急外来はいつも混雑しているのです。

家内が毎夜、激しい頭痛を訴えた事がありました。3−4日、様子をみていたのですが、治まる傾向が無かったのでデーク大学病院の救急に連れていきました。先ず、最初に現れたのが事務員でした。医療保険の種類と内容をしつこく30分以上にわたって質問され、その30分後にやっと看護師と話ができました。医者に会えたのは、さらに30分後でした。救急病院であっても、支払い能力が十分にあるということを確認できるまで治療を開始しないのです。

私の研究室の部下の中国人医師が里帰りをし、アメリカに帰ってきてから数日後、高熱が続きウイスコンシン医科大学の救急を受診しました。検査結果で血尿と血小板減少がみられ、症状が増悪するためICUに入院となりました。診断がつかないため、点滴などの対症療法で経過観察となりました。そして10日程で自然に治癒しました。後に分かった事ですがHanta virusの抗体価が高く、恐らく中国滞在中にネズミから感染したものと推察されました。この10日間のICU入院で1万5千ドル(1800万円)の医療費がかかったそうです。彼は幸いにも大学病院の職員で、保険にも入っていたので、この医療費は大学が面倒みてくれました。何の積極的な治療もなされず、単にICUで経過をみていただけなのに、この金額なのです。無保険の人が同様の病気に罹かっていたら、破産の危険性もあったでしょう。

 

3 マイケル ムーアの告発

このような悲惨なアメリカの医療を告発したドキュメンタリー映画 (シッコ) があります。マイケル ムーアが2007年に公開しています。この映画では、医療費が払えず病院にかかれないので、自分で傷口を縫う人が最初に登場します。続いて、仕事中に誤って指を二本切断した際、指を接合する手術費用が薬指は1万2千ドル(140万円)、中指なら6万ドル(720万円)と言われ中指は諦めざるを得なかった人、医療費があまりに高額で家を売りに出しこどもたちの家に世話になり家庭内で諍いが起こった老夫婦,「妻の腰痛の薬を買おうとしたら213ドル(2万5千円)と言われて絶句した。死ぬまで働くしかない」と嘆く79歳のお爺さん達のストーリーがコメデイータッチで紹介されています。複数骨折をしているのに入院治療費が払えずに病院を強制的に追い出され、車で貧民街まで運ばれて路上に放り捨てられる患者の後ろ姿をマイケル ムーアのカメラが哀しげに追いかけます。

一方で、彼の怒りは現行の医療制度にあぐらをかいている医師にも向かいます。貧困層向けの医療保険制度(メディケイド)において、治療費用が安く済めばボーナスをもらえるので、患者が検査を受けないかもしれないことを見計らって、わざと遠方の病院を検査のために指定する医師,医療費の支出を抑えるため命に関わる場合であっても十分な検査治療を認めないことに同意し、それによって多額の献金を得て昇進した医師などが、やり玉にあがっています。このようにアメリカの医療は、金権主義と市場原理に毒されています。その元凶の一つが、民間による医療保険の運営にあります。

 

4 オバマケアの偽善

オバマケアとはオバマ政権が推進する米国の包括的な医療保険制度改革です。国民に保険加入を義務付け、保険料の支払いが困難な中・低所得者には補助金を支給することにより、保険加入率を94パーセント程度まで高めるという目標で、2010年3月、オバマ大統領は選挙公約を実現する形で医療保険改革法を成立させました。低所得者に補助を行うことにより、国民の健康保険加入率を抜本的に向上させる内容でした。しかし、住民から保険料を強制的に徴収すること、2014年までに保険加入を義務づけないとメディケア給付を打ち切るとした点について各州が反発しています。26州が連邦政府を訴え、2011年1月31日にはフロリダ州では法律に対して違憲判決が出される結果となり、保険制度の実効性が疑問視されています。そして最近のレポートによれば、オバマケアは既存の民間保険会社や製薬企業の既得権益には踏み込まない内要となっており、その欺瞞性が問題となっています 。

 

5 TPPと医療

既述のごとくアメリカの一人当たりの年間医療費は88万円で、日本のそれは32万円です。特筆すべきはこの医療支出のうちで米国政府の負担割合は45%にすぎず,半分以上が個人負担となっています。ところが日本では医療支出のうち80%まで政府が負担しています。このように日本国民は、国民皆保険制度の恩恵に浴してきました。しかしながら、非正規雇用増加により、健康保険料が払えずに病院にかかれない若者が増加しています。近い将来70万人程度が無保険になる可能性が指摘されており、既に日本の医療制度・国民皆保険は瀕死の状態です。医療の面でも格差社会がアメリカと同様に進んでいるのが悲しい現実なのです。

加えてTPPの問題があります。マスコミはTPPをめぐる議論について農業vs製造業という単純な構図で繰り返し取り上げ、TPP参加は輸出産業へのメリットが大であると盛んにアピールしてきました。しかしながら、TPPは公汎な分野にわたる協定であり、その中には医療制度も含まれています。アメリカ主導のTPPに参加することで日本が世界に誇る国民皆保険制度が影響をうけるのではないかとの懸念が広がっています。

TPPに参加すると、アメリカの多くの民間医療保険会社に日本の医療システムへの門戸が開かれるでしょう。アメリカの民間医療保険会社は『医療システム』を経済的利潤を得るための『医療市場』と捉えています。日本の公的保険はすぐには廃止にはならないでしょうが、混合診療がみとめられるようになると縮小していくでしょう。自由診療で医療費が自己負担となると 公的保険に代わる民間の保険会社が必要になります。米国にはノウハウを持った民間の保険会社が多くありますから、そういった外資の保険会社が日本に入ってきます。それこそがまさにアメリカの狙いなのです。

 

米国企業が日本政府を訴えることができる「ISD条項」とは?

2011年11月に野田首相がTPP協議への参加を正式に表明しました。しかし 政府とマスコミはTPPに関する情報を意図的に国民に隠してきました。例えばTPPには24の重要な分野が存在することや、企業が政府を訴えるISD条項に関して一体どれだけの国民が知っているでしょうか?ISD条項とは、米国企業が海外での経済活動を保護するために適用されます。これにより米国の当該企業や投資家が損失、不利益を被った場合、日本の国内法を無視して世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターに提訴することが可能となります。NAFTA (北米自由貿易協定)は国民に膨大な雇用と安価な農作物が食卓にのぼると謳われ,米国、カナダ、メキシコの間で締結されました。NAFTAにもISD条項が存在しますが、2010年の時点でカナダでは28件のISD条項に対する訴訟があり、この28件全てにおいて カナダは米国に敗訴し、賠償金を支払っています。メキシコの19件においても、メキシコが全て米国に敗訴しています。いったん、日本がTPPに参加すれば、米国の民間保険会社がこのISD条項により、『現行の日本の医療保険制度が米国の民間保険会社の自由な経済活動の妨げになっている』と国際投資紛争解決センターに提訴する可能性が懸念されます。その暁には、もはや日本政府は国内法では対処できず、全く次元の異なった国際法廷に舞台が移ります。そして、米国の民間保険会社を傘下に置く国際資本が、裁判の結果に大きな影響力を発揮するでしょう。カナダやメキシコでの敗訴が日本の行く末を暗示しています。

 

6 日本が向かうべき医療制度とは

TPP参加について日本医師会は「混合診療を全面解禁すれば、 自由価格の医療市場が拡大する。これは外資を含む民間資本に対し、魅力的かつ大きな市場が開放されることを意味する。公的医療保険の給付範囲が縮小され、社会保障が後退する。」という懸念を表明しています。 日本政府も例えTPPを導入しても、日本の国民皆保険制度は守ると公約しています。しかしながら、米国の民間保険会社がISD条項により、日本の医療保険制度を提訴した際の具体的な対応策を明示できていません。 TPPに含まれる混合診療と医療への株式会社参入の解禁は、日本の平等で良質な医療システムの息の根を止めることになるでしょう。その結末は、高額な医療費・保険費用と医療格差です。そしてこの改変で確実に利益を得るのは、外資の民間保険会社なのです。輸出産業が得る経済的利潤と、日本人の命を守る医療を同じTPPという同じ俎上(そじょう)で議論していいものかどうか、国民の価値観が問われています。

 

アメリカ政府は長期にわたり日本に対して規制緩和を始めとする、種々の要求を出し続けてきました。そのアメリカ政府を影で操っているのは、世界の90%の富を有するグローバル企業です。グローバル企業の世界市場を拡大しようとする業界の思惑は当然予測できます。『政府は我々の権利や暮らしを全力で守ろうとしているのか? この政府の健全な機能なくして、TPPに参加しようがしまいが、幾度となくやってくるアメリカからの外圧から国民を守ることは難しいでしょう。』 堤未果氏の卓見です。

宇沢弘文氏は『社会的共通資本』という概念を提唱しています。それは豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味します。『社会的共通資本』とは一人一人の人間的尊厳を守リ、魂の自立を支え、 市民の基本的権利を最大限に維持するために不可欠な役割を果たすものであり、 決して市場原理に支配されてはならないし、官僚的基準によって管理されてはならないと説かれています。もちろんその中に、人間が人間らしい生活を営むための医療制度も含まれます。医療は貧富の差に関わり無く平等に提供されるべき『社会的共通資本』であり、市場原理に蹂躙される事なく、発展維持されるべきものです。そのための国民皆会保険制度は,改善される事はあっても、決して改悪される事があってはなりません。我が愛すべき日本の医療の現場では格差は,未来永劫に、存在しないと信じます。

 

まとめ

米国は国民皆保険制度を採用していないため、一般の国民は民間の医療保険に加入しなければなりません。米国の医療レベルは世界の先進国中、最低であるにも拘らず医療費だけが突出しています。その元凶が営利目的の民間医療保険にあります。日本がTPPに参加すれば、米国の民間医療保険会社のノウハウが日本に導入され、40兆円の日本の医療マーケットがその支配下に置かれ、日本の医療はアメリカ化するのです。日本の医療の現場を利潤目的の市場に曝すのか、それとも格差のない医療社会を堅持するのか、日本国民の価値観が問われているのです。

 

参考文献

堤未果. 沈みゆく大国アメリカ(2014年)

堤未果. 政府は必ず嘘をつく(2012年)

宇沢弘文. 社会的共通資本(2000年)

看護におけるケーススタディ(事例研究)の書き方と例題

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看護のケーススタディ

看護学生や看護師が一度は経験するケーススタディ。自身の看護を見直すため、看護技術の向上のために実施される非常に重要な勉強の1つですが、初めて取り組む方は、どのように実施すれば良いのか、どのように記述すれば良いのか、必ず悩むことでしょう。

そこで、当ページではケーススタディの実施経験が浅い方のために、「1、ケーススタディとは」、「2、ケーススタディの目的」、「3、ケーススタディの2つの方式」、「4、ケーススタディの構成」、「5、テーマの例」、「6、実施における注意(倫理的態度)」の6項目について詳しくご説明します。

 

1、ケーススタディとは

ケーススタディとは、ある1つの事例(ケース)に対して仮説を立て、それを検証していく研究のことです。「看護研究」よりも簡易的であるため、「プレ看護研究」とも呼べます。また、「事例研究」と称されることもあります。

看護研究とケーススタディ(事例研究)の違いは、看護研究は“看護全体”に対する研究であり、ケーススタディ(事例研究)は“1つの事例”に対する研究のことです。

また、看護研究は確証されていない看護実践を取り上げた研究であるため、主に看護師としての経験が豊富な方が行います。それに対して、ケーススタディは1つの事例を取り上げ、自身の看護技術の向上や“気づき”を得るための研究であるため、主に看護学生や新人看護師が行います。

 

2、ケーススタディの目的

ケースタディの主な目的は、上で述べたように看護学生や看護師が自身の看護技術の向上や“気づき”を得るために行うものであり、いわゆる「学習」のための研究です。自分の力でアセスメントや看護診断などを行うことによって、問題解決のプロセス構築や倫理的思考の訓練を行うことができるのです。

また、「研究」を目的として行われる場合もあります。ケーススタディは看護研究よりも簡易的なものでありながら、1つの事例に対して深く研究することで、新たな看護方法を発見できることも多々あります。それゆえ、研修体制が充実した医療施設では、新人看護師だけでなく熟練の看護師に対しても実施を促すことがあります。

 

3、ケーススタディの2つの方式

ケーススタディは、1つの事例に対する研究ですが、厳密には「ヒストリカル・スタディ」と「インシデント・スタディ」の2つの方式が存在します。

 

ヒストリカル・スタディ

ヒストリカル・スタディは、事例(問題)の初めから終わりまでの一連の過程を取り上げて研究する方式です。主に、患者1人を対象とした個別的な問題解決を行う場合に用いられるため、通常のケーススタディといえばヒストリカル・スタディの事を指します。

 

インシデント・スタディ

インシデント・スタディは、事例(問題)の断面を取り上げ、問題の原因や対策を考える方式です。主に、患者1人だけではなく、複数の患者を対象とし、比較検討する場合に用いられるため、看護研究に近い方式と言えます。

 

4、ケーススタディの構成

ケーススタディを記述する際には、ある程度の構成に従う必要があります。しかしながら、構成は厳密に決められているわけではなく、基本的には「動機」・「患者情報または事例の概要」・「看護診断から導いた看護問題」・「実施内容と結果」・「考察」が書かれていれば、どのような構成でも問題ありません。

以下に、ケーススタディの構成の一例を挙げますので、どのように記述していけば良いのか分からないという方は、以下の構成で記述していけば良いでしょう。

 

テーマ

担当患者への看護行為などについて、自分の興味あること、気掛かりなこと、失敗したことなどを取り上げる。

はじめに

疾病の概要、看護の実情、研究の動機などを記述する。

研究場所・研究期間

研究場所や研究期間(例:平成○○年○月○日~○月○日)を記述する。

患者情報

研究対象者(患者)の氏名(A氏のように記述)、年齢、性別、診断名、身体的特徴、発病から入院までの経過、受け持ち時の状態(アセスメント)などを記述する。

看護の実際

看護問題、看護目標、期待される結果などを記述する。

実施及び結果

看護問題を解決するために行った看護行為、その結果を記述する。

考察

結果までの内容の概略、結果の解釈や私的・個人的な意見、今後の課題などを記述する。

おわりに

研究により学んだこと、感じたことなどを記述する。

参考文献・引用文献

参考にした文献、または引用した文献があれば記載する。

 

なお、以下に各項目の概要についてご説明します。「研究場所・研究期間」に関しては、特筆して説明することがありませんので省略します。

 

4-1、テーマ

ケーススタディを始めるにあたって、まずテーマが決まらなければ進みません。疑問を持った出来事はないか、自分は何がしたいのかなど、今一度考えてみましょう。

ケーススタディは、自分の看護行為に対する反省ではありません。自身の看護の質向上のために、どのようにケアを行うべきかを検討・研究するものです。それゆえ、「こうしたらこうなるかもしれない」という事例に目を向けてみると良いでしょう。

なお、取り上げるテーマの概略は最初に決める必要がありますが、本文と一致または狭義的でなくてはならないため、最終決定は本文を記述した後にしましょう。

 

4-2、はじめに

「はじめに」では、“このような研究を行った”という研究全体の要約を記述します。つまり、「どんな対象のどんな課題に対して、どんな介入を行い、どんな結果を得た」というように、実施した研究の概略を記述するのです。

それゆえ、冒頭の項目ではあるものの、全ての記述が終了していないと書くことはできません。必ず最後に書くようにしてください。または、最初にある程度の要約を記述し、最後に修正してください。

また、当項目は読者の心を惹きつける上で最も重要であるとともに、疑問や混乱を起こしやすい項目ですので、以下の注意点を守り、時間をかけて記述することを強くお勧めします。

 

  • 本文と内容が一致していること

「はじめに」は、実施した研究の概略を説明する項目であるため、本文にはないこと、または本文と相違のあることを記述しないよう注意してください。

 

  • キーワードを統一すること

「援助」「支援」「介入」「看護援助」「看護支援」「看護介入」といったように、同じ意味を持つキーワードがたくさんあります。キーワードを変えて書いてしまうと、“このキーワードは何を意味するのか”と、混乱を招いてしまいます。必ず、キーワードは統一するようにしましょう。

 

  • 主語を明確にすること

これは内容を分かりやすくするためです。「自分」「患者」「疾病」など、主語を明確にすることで、読みやすい(伝わりやすい)文章になります。

 

  • 一文が長くなりすぎないようにすること

これも内容を分かりやすくするために必要なことです。たとえば、「~しており、~によって、~することで、~の結果が出たが、~によって、~が生じた。」というように、一文が長くなりすぎると読みにくくなってしまいます。どうしても長文になってしまう場合には、接続語を上手く活用して、文を分けてください。

また、主語を長くするのも考えものです。たとえば、「同年代の親しい療養仲間の死の影響で精神的不安が増大した患者への看護は・・・」のように、主語は「患者への看護」でありながら、主語の修飾が非常に長くなってしまうと、理解しにくくなります。この場合も文を2つに分けて書くようにしてください。

 

なお、これらの注意点は「はじめに」だけでなく、本文すべてに当てはまることですので、質の高いケーススタディにするために、本文全体を通して遵守してください。

 

4-3、患者情報

「患者情報」には、患者の氏名(A氏のように記載する)、年齢、性別、診断名、身体的特徴、発病から入院までの経過、受け持ち時の状態(アセスメント)などを記述します。

誰のどのようなことに対する研究であるかを明示しなければ、実施した看護行為や結果の正当性がみえてきません。

特に患者の身体的特徴やアセスメントした内容について深く説明することで、研究の“土台”が築かれ、実施した看護行為や結果が明確になりますので、得た情報(研究に関連する)は全て記述してください。

 

4-4、看護の実際

「看護の実際」には、看護問題(患者の問題)、看護目標、期待される結果、看護活動などを記述します。研究の内容を読者に伝えるために最も重要な項目であるため、詳しく記述してください。

また、文面上で分かりやすく分類するために、1)看護問題、2)看護目標、3)期待される結果、4)看護活動、のように各項目に分けて記述しましょう。

 

  • 看護問題

看護問題は、すでに患者に起こっている問題と起こる可能性のある問題の両方を取り上げます。アセスメントから得た情報をもとに看護過程に従って診断を行い、看護問題を導き出してください。また、列挙するだけでなく、各看護問題の詳細の説明も忘れないでください。

看護問題が何かよく分からないという方は、『理論をもとにした看護問題の書き方(明確化・優先順位)』をお読みください。

 

  • 看護目標

看護過程において、アセスメントと看護診断を経て導き出した看護問題に対して、看護介入を行うことでどのように改善を図れるのかを考え、目標を設定します。記述の際には、端的にまとめましょう。

看護目標が何かよく分からないという方は、『患者に対する看護目標と個人目標への考え方・立て方』をお読みください。

 

  • 期待される結果

看護介入によって、どのような成果が期待できるかについて記述します。これは、「実施及び結果」に繋がることですが、関連する事柄でなくても問題はありません。研究開始時に思ったことを書いてください。

 

  • 看護活動

看護問題を解決するために実施した看護介入について記述します。必ず、看護問題に関連した事柄を記述してください。なお、看護介入の詳しい内容については次項で説明するため、ここでは端的に箇条書きで構いません。

 

4-5、実施及び結果

「実施及び結果」には、研究開始から終了まで、看護問題を解決するために患者に対してどのような看護介入を行ったのかを詳しく記述します。

「1日目」「2日目」というように、詳細な時系列で看護介入の内容をこと細かく説明する必要はなく、ある程度の時系列でポイントとなる事項を取り上げて記述してください。

当項目では文章が長くなるため、「看護介入をカテゴリー別に分けて書く」または「段落ごとに時系列で書く」という構成で記述すれば、読者にとって読みやすく、整理された内容に仕上がります。

 

■例①(看護介入をカテゴリー別に分けて書く)

1)転倒予防のためのケア

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2)抱いている不安感情に対するケア

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

■(例②段落ごとに時系列で書く)

ケア実施1週間目。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ケア実施2週間目。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

これらはあくまで一例ですので、この通りにする必要はなく、読者にとって分かりやすく記述されていれば書き方は何でも問題ありません。

 

4-6、考察

「考察」には、結果までの内容の概略、結果の解釈や私的・個人的な意見、本研究における今後の課題、研究を通して発見した新しい事実、達成できなかった看護問題、反省点・改善点など、いわゆる実施した内容を通しての総評を記述します。

 

4-7、おわりに

「考察」と似ていますが、「おわりに」には研究を通して学んだことについて記述すると良いでしょう。また、今後どのようにしていきたいかなどについて書いても良いでしょう。

 

4-8、参考文献・引用文献

参考にした文献や引用した文献があれば記載しましょう。特に引用文献においては、どこの文章かが明確に分かるように、テーマや氏名だけでなく、ページや行、引用文献の年代(研究当時)など詳しく記述してください。

 

5、テーマの例

次に、これまでに実施されたケーススタディのテーマの一例をご紹介します。どのような事例を取り上げたら良いのか悩んでいる方は、参考にすると良いでしょう。

 

・怒りを訴える患者の家族への精神的援助~突然の病状変化に危機を感じている家族への家族看護~

・急性増悪によって入退院を繰り返す間質性肺炎患者の退院指導~ステロイド薬剤の副作用と低血糖出現時の対策~

・創未治癒のまま自宅退院となった患者・家族の退院指導~退院後の生活のイメージを作り安心して退院できるためには~

・ペースメーカー挿入を余儀なくされた患者の心理状態の変化に応じた看護~スピルバーガーの状態特性不安理論を用いた関わり~

・視床出血術後の意欲減退が出現した患者への自己効力感をつかった看護~結果期待と自己効力感へのアプローチによる排泄行動変化~

・急性期病棟での末期の患者・家族との関わりについて~穏やかになるケアができるために~

・呼吸不全によりADL低下した高齢者へ離床を促す看護

・回腸導管造設術施行後のストーマ管理の指導について~チームで統一した指導を行うために~

・左腎臓全摘出後の患者への関わり~手術前後の不安軽減と透析予防のための生活指導~

・全身麻酔下で開腹手術を受ける患者の体温管理のための看護

引用:公立学校共済組合 九州中央病院 看護部

 

・壮年期の癌患者に対する精神的ケア

・高齢者の早期離床に向けた看護師の役割

・高齢者の個別性を考えた退院指導を実施するための看護師の役割

・高齢者に対する効果的な教育

・入院高齢者の自尊心に配慮した排泄援助

・糖尿病患者の意識改善

・家族と共に行う退院指導

・発熱のある高齢患者に対しての看護ケア~WHYツリーの分析結果を通し高齢者のケアを考える~

・誤嚥性肺炎にて入退院を繰り返す患者へ取り組む~安全に摂食を進めるために~

・胃がんの手術後、退院後の食事や生活について不安を訴える患者への看護~患者の生活背景やQOLをふまえた退院指導を行うために~

・長期入院によりADLの低下した高齢者への援助~患者の生活リズムを重視した他職種間で行うケア~

・誤差を最小限にする出血量測定の試み

・皮膚トラブル防止への取り組み~その安全風土に対する意識調査~

・退院後の生活に不安を抱える患者・家族への看護介入~看護師として退院後の生活を支えていくために~

・脳梗塞を発症した独居の前期高齢者に対する生活習慣を改善するための関わり~疾患を理解し、自宅で安定した生活を送るために~

・患者のQOLに焦点を当てた看護~社会的役割をもつ患者との関わりを通して~

引用:医療法人社団仁成会 高木病院 看護部

 

・看護ケアを行う看護師の苦悩 – 看護ケアが患者の症状悪化を招いてしまうとき

・認知症の術後患者を抑制・拘束せずに安楽に過ごさせるための看護師の挑戦

・延命措置拒否のリビングウィルを持った救急患者の意思決定

・急激な発症により生命危機状態に陥った患者・家族のいのちの捉え方

・患者の家族による暴言と看護ケアの妨害

・患児へのインフォームド・アセントをどのように展開するか – 両親が拒否する場合

・入院直後に急死した患者の遺族の気持ち

・統合失調症患者の意思決定

・がん患者に対する化学療法の是非に関する疑義照会

・B型肝炎の夫の唯一のドナー候補者となった妻の苦悩

・高齢者の透析治療の選択

・患者の安全に関する医療従事者の意見の相違

引用:公益社団法人 日本看護協会 事例検討編

 

6、ケーススタディ実施における注意(倫理的態度)

ケーススタディの実施にあたっては、健康上の問題を有し、医療を受けるために入院している患者を対象とする場合が多いため、患者に負担をかけるようなことがあってはいけません。また、「プライバシー」「自己決定」「匿名性と守秘性」「公正な取扱いを受ける権利」など、患者の人権に対して十分に配慮する必要があります。

特に看護学生は、看護師としてはまだ正当に看護ケアを行える立場にはないため、過剰な看護ケアによる患者の自立意欲や治療における積極的態度の損失を招く危険性があります。

それゆえ、患者の「自立」や「自己決定」を尊重するとともに、看護過程の中で患者の果たす役割を十分に考慮しなければいけません。なお、事例として研究する患者(協力者)の同意は必ず得ておきましょう。

また、必要な場合には、施設内の倫理審査委員会の許可を求めるなどして、患者を第一に考えた上で実施する必要があります。

その他、他の研究で使用した調査用紙やデータは必ず出典を明らかにし、引用や参考にした研究についても必ず明記してください。

 

まとめ

ケーススタディの実施に際して、また記述に際して、多くの時間を費やすはずです。しかしながら、自分の看護を見直すため、看護の質向上のために、非常に大切な勉強の1つです。

また、レポートとして多くの人が閲覧し、時には先行研究として参考にされることもあるでしょう。看護学生や看護師の毎日は多忙を極めますが、自分のために、患者のために、他の医療従事者のために、時間をかけて納得できるものに仕上げてくださいね。

看護コミュニケーションの目的と意義、信頼獲得のための術

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看護のコミュニケーション

看護師の業務の1つとも言える患者とのコミュニケーションは実に奥が深く、場面場面でどのように対応したらいいのか、どのような話題を投げかければいいのか、多くの看護師が悩み考えることでしょう。

コミュニケーション能力を向上させるためには、慣れや長い経験を通した試行錯誤が必要不可欠ですが、「コツ」を知ることで、コミュニケーション能力を劇的に向上することができます。

患者とのコミュニケーションが苦手な看護学生や看護師の方に向けて、当ページではコミュニケーションの重要性や目的など一般知識に加え、能力向上のためのノウハウをご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

 

1、看護におけるコミュニケーションの重要性

看護業務の1つとして、患者とのコミュニケーションがあり、セミナーや論文でもコミュニケーションの重要性が広く取り上げられていますが、なぜコミュニケーションはそれほど重要なのでしょうか。

これを理解するためにはまず、患者の精神的・心理的状態を理解しなくてはなりません。患者は疾患を患い、来院ならびに入院しますが、全ての人が疾患を有することにより不安を呈します。

不安に感じるのは、疾患に対して、苦痛に対して、治療に対して、環境の変化に対して、経済的負担に対して、家族(育児など)への負担に対して、仕事に対して(休暇のため)など、原因は多岐に渡り人それぞれです。

これら不安は程度の大小に関わらず、すべての患者が持つもので、自身の力だけで改善を図ることは非常に難しいのが実情です。

また、社会的に権力を持つ人であっても、疾患を有することや入院に際して、自信の喪失がみられます。つまり、いかなる人であっても、このような状況下では医師や看護師など医療関係者に頼らざるを得ないのです。

また、入院に際しては多くの時間を1人で過ごし、疾患など不安要素について考えてしまうことで、ますます不安が増大してしまいます。

そこで重要となるのが看護師によるコミュニケーションであり、“適切なコミュニケーション”は患者の不安を軽減するとともに、治療が円滑になるなど、さまざまな好影響をもたらすのです。

 

2、コミュニケーションの目的と意義

上述のように、コミュニケーションは患者の不安の軽減や、信頼構築により治療を円滑に進められるという利点が存在します。

外来・入院問わず、すべての患者にとって頼りにする存在、それは医師や看護師など医療従事者です。患者のほとんどは自身の疾患や治療における知識を有していないため、医療従事者を頼りにするほかありません。

信頼のおける医療従事者が側にいることで、不安軽減はもちろんのこと、治療に向けた意欲向上や自己決定の促進など、治療を円滑に行うための“働き”を与えることができます。

また、看護を提供する際、患者が抱える問題を解決するために看護過程を遂行しますが、信頼のおける良好な関係を構築することで、それまで見えなかった(訴えなかった)情報を取得することができ、細やかな問題解決へ導くことができるのです。

このことにより、治療期間・入院期間が短縮され、患者の財政的な問題だけでなく、運営的な側面において医療施設にとっても良い結果がもたらされるのです。

 

3、看護師の実際

しかしながら、患者に対するコミュニケーションを苦手とする看護師が多いのが実情です。特に、臨床経験の少ない看護師や、ICUやオペ室など特別な場所で働いている看護師は、患者に対してどのようにコミュニケーションを図ればよいのか分からないでしょう。看護学生であれば尚更です。

また、ターミナル期の患者に対してや、対応が難しい質問を投げかけられた時、精神不安により配慮のない罵声を浴びせられた時など、臨床経験の長い看護師にとっても、しばしば悩まされることがあり、看護におけるコミュニケーションは一生を通して学び続ける必要があるのです。

 

対応困難の場面例

・症状が思い通りに改善しない患者に対する対応

・幻聴・幻覚の出現時の患者への対応

・治療に対する患者―家族間の考えの相違時における対応

・思い通りにならない状況により、要求がだんだんエスカレートする時の対処

・介助を必要としない患者が、甘えのためにナースコールを頻回に鳴らすことに対する対応

・精神的に不安定な患者の訴えの真偽が分からない

・死を間近に迎える患者の家族に対して、どうフォローすればよいのか

・死を間近に迎える患者の家族から、あと何にも持つのかと尋ねられた時

・死を間近に迎える患者から、「絶対治るよね」と言われた時

・退院決定の後、患者家族に「家に帰ってきて欲しくない」と退院延期を要求された時

・経済的理由などにより、患者家族が患者の前で「早く死んでくれたらいいのに」と言った時

・病識の乏しい患者に幾度も病気について尋ねられたり、入院の不安を詰め寄られた時

・疾患や疾患・入院などによる精神的不安から、暴力を振るわれたり罵声を浴びせられた時

・「本当の病名は何か」と疑いの目で幾度も詰め寄られた時

・薬剤の内服が必要にも関わらず、拒否される時

 

このように、さまざまな場面で難しい対応が迫られ、何も答えられず沈黙したり、返答を間違うことで患者の不安を増大させてしまったり、時には怒鳴りつけられることもあるなど、この困難さが看護学生や看護師を苦悩させているのです。

 

4、コミュニケーション力向上に向けた取り組み

コミュニケーション力を根本から向上させるためには、日頃から批判的な思考(クリティカルシンキング)を働かせ、一連のプロセスに沿ってリフレクションを実施する必要があり、習得には長年の臨床経験(患者との関わり)が不可欠です。

しかしながら、ポイントを抑えることで、今のコミュニケーション能力を劇的に向上させることが可能です。以下に、患者からの信頼獲得のために重要となる接し方のポイントを、心理的要素を踏まえてご紹介します。

 

4-1、コミュニケーションの基本

常に笑顔を接すること

笑顔というのは人の心を癒すのに最も効果的な方法です。“もらい笑い”という言葉が存在するように、笑顔の人を見ると自然と心が穏やかになり、不安が取り除かれるだけでなく、前向きな考えに移行します。反対に、強張った表情や険悪な表情はマイナスの作用を相手に伝えてしまい、気分の低下や消極性を生み出してしまいます。それゆえ、常に笑顔で接することが大切です。

 

穏やかな声で話すこと

もらい笑顔と同様に、声の調子も相手に作用し、声が高いと快活、声が低いと陰鬱な印象を与えます。また、話すスピードが早いと興奮、話すスピードが遅いと冷静な印象を与えます。声が相手の耳に居心地よく入るよう、声の高低が丁度よい穏やかな調子で、ゆっくりと話すよう心掛けてください。

 

親身になって傾聴すること

親身になって傾聴することで、相手は「ちゃんと自分の話を聞いてくれている」と安心します。傾聴は患者情報の取得に役立つため、多忙であっても可能な限り注意深く傾聴するようにしましょう。

 

いかなる事にも冷静に

人は仕草や表情の変化、声の調子などに敏感で、無意識的に反応します。患者本人や患者の周りで緊急を要する事態が発生した際に、慌てた行動をみせてしまうと、患者は不安な状態に陥ります。いかなる事、いかなる場面においても冷静に行動するよう心掛けてください。

 

十分に説明をすること

疾患や治療の方針など、患者に対して十分に説明することも非常に大切です。上で述べたように、患者は疾病や治療について知識がなく、入院時には特に医療従事者を頼りにせざるを得ません。納得のいく説明がなければ、患者は医療従事者に対して不信感を抱き、不安はますます募ってしまいます。コミュニケーションを円滑に図るためにも、可能な範囲で十分に説明を行ってください。また、専門用語を多用せず、患者に分かりやすく説明することが大切です。

 

4-2、抑えておくべきテクニック

目を見て話す

時には威圧的にとられてしまうことがありますが、それは表情が強張っていたり、批判的な態度で接している場合のみです。通常、目を見て話すことで「話をちゃんと聞いていますよ」、「あなたに好感を持っていますよ」というように、好意シグナルが伝わります。特に社会的に権力を持つ人や高齢者の中には、“無礼”として、目を合わせないことに不快を感じる人がいます。笑顔に加えて、目を見て話すよう心掛けましょう。

 

目線を同一にする

日本語には「目上」「目下」という表現があるように、社会的にも心理的にも目の高さは上下関係を表しています。多くの人は受容していますが、中には上から話されることに不快を感じる人もいるため、出来るだけ目線を同じにして話すよう心掛けてください。ただし、何時も目線を同一にする必要はありません。車椅子の移乗を介助する時など、可能な時だけ意識的に行いましょう。

 

距離を確保する

人は無意識的にテリトリー(パーソナルスペース)を形成しており、ある一定の範囲に他人が入ってくると不快を感じます。好感を持っているほど、信頼が厚いほど、この受容の距離は短いため、特に初対面の時には患者のパーソナルスペース内に入らないよう注意する必要があります。なお、人によって距離は異なりますが、1mくらいの距離は確保しておきましょう。

 

相槌を打つ

相槌は「話を聞いていますよ」というサインを相手に伝え、相手は心地よく自分の話をすることができます。相手の話に合わせて、「はい」「ええ」「そうなんですか」などと短い言葉で返しましょう。「ハイハイ」「うんうん」など、忙しい時にやりがちな小刻みな相槌は逆効果です。相手の話に合わせてゆっくり相槌を打つのがポイントです。

 

オウム返しをする

相手が言ったことをそのまま返すオウム返しは、「あなたの話を理解しています」という気持ちを伝えることができます。「今日は寒いわね」に対して「今日は本当に寒いですねー」というように繰り返しましょう。ただし、多用しすぎると、逆効果になるため、要所要所で使うようにしてください。

 

オープンクエスションを使う

YESやNOまたはAかBかの択一でしか返答できないクローズドクエスションではなく、「どう思いますか?」「どうしてですか?」「どうでしたか?」のように相手が自由に返答できるオープンクエスションを使うことで、話しが長続きするだけでなく、相手は気持ちよく話すことができ満足度が格段に向上します。

 

話すスピードを合わせる

話すスピードは人によって大きく異なります。自分のスピードは最も居心地が良いもので、話すスピードが遅い人は相手に速く話されると不快を感じる時があります。また、早口は理解しにくいという一面もあります。話すスピードが早い人は相手に遅く話されてもそれほど不快を感じることはないため、特に話すスピードが遅い人には遅く話すよう心掛けてください。

 

話題に同調する

同調とは、いわゆる共感です。人は、共感の気持ちを示された相手に好感を抱きます。なんでもかんでも同調するのは考えものですが、同調できる話題に対しては「私も好きなんですよ!」というように積極的に同調してみましょう。

 

ボディランゲージを駆使する

ボディランゲージは古くから会話の1つの手段として用いられてきました。人は動くものに無意識的に反応するため、ボディランゲージを用いることで、相手が自分に対してより興味を持つようになります。

 

開放的な姿勢をとる

人は無意識のうちに相手の姿勢に対して好感・嫌悪感を抱きます。腕を胸のあたりで組んだり、後ろで手を組んだり、いわゆる体の一部を隠す姿勢は防衛的・拒否的な印象を与えてしまいます。また、爪や手の平を隠す(手をグーにする)行為も、防衛的・拒否的な印象を与える可能性があるため、これらの行為には気をつけ、開放的な姿勢をとるよう心掛けましょう。

 

※初対面時には必ずこちらから“あいさつ”と“自己紹介”を!

人間関係において、“あいさつ”は基本中の基本です。これは、日常やビジネスだけでなく、医療従事者―患者間でも非常に大切です。また、第一印象は今後の信頼関係に大きく影響します。それゆえ、初対面時には看護師が先に笑顔であいさつしてください。

また、自己紹介も忘れてはなりません。社会的地位の高い人や高齢者の中には、自己紹介がないこと、先に名乗らないことに対して、非常に不快に感じる人がいます。必ず、看護師の方から自己紹介をしてください。

 

5、研修・セミナーのススメ

円滑にコミュニケーションを行うためのポイントをご紹介しましたが、やはり文面のみで完全に理解するのは容易ではありません。また、コミュニケーション術をマスターするためには、長年の実践経験が必要不可欠です。

コミュニケーションの基礎を習得したいという方は、研修やセミナーに参加し、実践を通しながら学ぶことが非常に効率的です。

なお、研修やセミナーに参加することで、コミュニケーションの大切さや、即座に使える技術の習得、自信の獲得、新たな発見など、さまざまな利点がありますので、この機会に参加してみてはいかがでしょうか。

 

研修・セミナーによる学び・気づき

対象との関係の形成 ・非言語的コミュニケーションの意義

・コミュニケーションの援助的関わり

・対象のペースや待つことの重要性

・受容・傾聴・共感の重要性

・基本的コミュニケーション技術の向上

・患者理解の重要性

・信頼関係形成のための基盤づくり

・意図的な関わり合いの重要性

・観察の重要性と観察による患者情報の取得

・個別性のあるコミュニケーション技術の向上

自身の成長の変化 ・自己分析・自己洞察力の向上

・リラックスした関わり合い、関係の構築

・コミュニケーションにおける自己課題の発見

・自己表現力の向上、自身の不安軽減

自己のコミュニケーションに対する気づき(反省点) ・自己中心的、一方的なコミュニケーション

・受動的、消極的なコミュニケーション

・言語的会話を重視するコミュニケーション手段

・不信感を与える無意識的なコミュニケーション

・非尊重的なコミュニケーション

 

6、医療従事者間のコミュニケーションも忘れてはならない

これまで患者を対象としたコミュニケーションについて述べてきましたが、患者だけでなく、病棟やチーム内の他の看護師、医師、その他医療従事者とのコミュニケーションも忘れてはいけません。

昨今、医療従事者間の患者情報の共有不足が嘆かれており、情報の共有不足によるインシデントが多発しています。特に、1人の看護師に対して受け持ち患者数の多い医療施設でのインシデント発生数が多いのが実情です。

インシデントを最小限に抑えるため、また病棟やチーム内の良好な雰囲気作りのため、特に中堅看護師や看護管理者は積極的にコミュニケーションを図るよう努めてください。

 

まとめ

患者とのコミュニケーションは、看護師が抱えるストレスの最も大きな要因の1つであり、多くの看護師が苦手意識を持っていることでしょう。

コミュニケーション能力を根本から向上するのは容易ではありませんが、まずは「4、コミュニケーション力向上に向けた取り組み」を実践し、効果を実感してください。

継続的に実践し効果を実感できれば、自信がつき、コミュニケーション能力は瞬く間に向上していくはずです。ぜひ意識的に実践していってください。

PTGBD(経皮経肝的胆嚢ドレナージ)の看護と観察項目

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ptgbd

1、PTGBDとは

PTGBD(経皮経肝的胆嚢ドレナージ)は、主に急性胆嚢炎や総胆管下部の閉塞による黄疸に対して行われるドレナージ術のことです。

急性胆嚢炎は、胆嚢から出た胆汁を運ぶ役割を持つ胆嚢管に胆石が詰まることで発生するため、貯留した胆汁を体外に排出するためにカテーテル(チューブ)を胆嚢内に留置し、人工的に胆汁を排出させます。

閉塞性黄疸では、減黄減圧処置として同様にカテーテルを留置して胆汁を体外に排出させますが、もともと出血傾向のある症例や高度の腹水を認める症例では、出血やカテーテル逸脱の危険が高いため禁忌となります。

 

2、PTGBDの合併症

カテーテルを留置することで迅速かつ円滑に胆汁を排出することができるPTGBDですが、穿刺やカテーテルの挿入・留置、麻酔薬の使用などにより、起こりうる合併症は多岐に渡ります。

 

  • 胆道出血

胆道出血の多くは門脈性出血で、主に穿刺による胆道の損傷に伴う出血です。カテーテルを通して大量の出血がみられる場合や、それに伴う貧血症状がみられる場合には胆道出血を疑い、早急に血液造影を行います。

 

  • 腹腔内出血

腹腔内出血は、主に穿刺による腹腔内の臓器損傷に伴う出血で、特に術後24時間以内に起こることが多く、大量出血による血圧低下・頻脈・皮膚蒼白・ショック症状(冷感など)・腹痛などの症状が発現するため、術後24時間はバイタルサインや全身状態の注意深い観察が不可欠です。

 

  • 胆汁性腹膜炎

主に留置しているカテーテル逸脱による感染が原因で、胆汁性腹膜炎の発症時には、カテーテル挿入部痛・胆汁量の減少・緑色混濁化を認めます。

 

  • アレルギーショック

術中に用いる麻酔薬(キシロカインなど)によるアレルギーショックは、徐脈・頻脈・呼吸抑制・中毒症状・意識障害などさまざまな症状を呈します。これらの症状がみられ、アレルギーショックと認められれば、ショック症状にはエピネフリン、呼吸困難には気管挿管など症状に合わせて対処します。術中の患者の変化を見逃さないよう、入念に観察してください。

 

  • 気胸・胸水

経胸膜的穿刺により生じ、胸痛・背部痛・呼吸困難・咳などの症状がみられれば、気胸(術中)または胸水(術後)を疑います。

 

3、PTGBDの看護・観察項目

上述のように、PTGBDによる合併症は多岐に渡り、時に重篤化することもあるため、入念な観察が非常に大切です。以下に挙げる観察項目(主に術後)を確認し、異常の早期発見・対処できるよう努めてください。

 

  • 排液の性状・量

排液は正常胆汁であれば茶褐色透明ですが、腹膜炎など感染があれば緑色混濁、胆道出血など出血傾向があれば血液の混じった(多量)排液が排出されます。また、正常に排液が排出されているか確認し、排出量が少なければカテーテルの逸脱・閉塞・屈曲などが考えられます。異常があればすぐに担当医に報告してください。

 

  • 刺入部の確認

刺入部がカテーテルの刺激や感染により、発赤・腫脹などがみられるか、また痛みがないか確認し、発症時には消毒や抗菌薬の塗布などの処置を行います。感染を起こさないために、まずは刺入部周辺を清潔に保ってください。

 

  • 皮膚色の変化(減黄目的の場合)

黄疸に対するPTGBDの場合には、皮膚の色が正常に戻っているか確認してください。変化がみられなければ減黄されていない可能性があります。

 

  • カテーテル留置の確認

カテーテルが逸脱・閉塞・屈曲していると、胆汁は正常に排出されないため、まずは排出される胆汁量を確認してください。また、体動や不注意抜去について患者にしっかり説明し、事故がないよう努めてください。

 

まとめ

PTGBDは胆汁排出において非常に有効な手技であるものの、合併症の発症率はそれほど低くはなく、発見が遅れると時に重篤化することがあります。

PTGBDの術後管理で最も重要なのが、合併症の早期発見であるため、患者のバイタルサインや全身状態、胆汁排液の性状・量・出血の有無など、さまざまな点において入念に観察し、異常の早期発見に努めてください。

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