消化器を理解していく上で、肝臓が影響する肝性脳症は避けては通れない疾患の一つです。肝臓は、腸で吸収された栄養素を、肝臓で代謝をするほか貯蔵もしています。また、胆汁を分泌し解毒や排泄するのも肝臓の役目です。
肝臓が機能不全に陥るとさまざまな代謝産物が体内にたまることになり、神経有毒物質あるいは神経機能に必要な物質の欠乏により神経症状が現れます。
当ページでは、肝性脳症の原因や治療、アンモニア脳症などの様々な情報に加え、看護計画や看護問題、さらに臨床経験について詳しく紹介していますので、肝性脳症の患者さんへの看護に自信がない方は特に、しっかりお読みいただき、確かな知識を得て日々の看護に活かせるようにしてください。
1.肝性脳症・アンモニア脳症とは
肝臓は生体のなかで最大の代謝をつかさどる臓器です。肝臓が機能不全に陥るとさまざまな代謝産物が体内にたまることになり、神経有毒物質あるいは神経機能に必要な物質の欠乏により神経症状が現れます。これが肝性脳症、アンモニアが脳に影響した場合にはアンモニア脳症といいます。
この病気は重度の肝硬変や劇症肝炎など、血液中のアンモニアが上昇時に脳に影響が出る病気で、精神障害を起こします。肝性脳症で起こる症状には、病気の進行の程度によって様々です。徘徊をしたり尿失禁、便失禁など、認知症の症状と似ています。
しかし認知症と大きな違いは、さらに重症化すると眠ることが多くなり、最後には昏睡状態となり死に至ります。
1-1 昏睡度分類
肝性脳症の症状である精神障害が看護にとって、とても大事となります。以下に昏睡度分類を記載しますので参考にしてください。
昏睡度分類
昏睡度 | 精神症状 | 参考事項 |
Ⅰ | 睡眠―覚醒リズムの逆転多幸気分、ときに抑うつ状態だらしなく、気にとめない態度 | Retrospectiveにしか判定できない場合が多い |
Ⅱ | 指南力(時・場所)障害、ものを取り違える異常行動(例:お金をまく、化粧品をゴミ箱を捨てるなど)ときに傾眠状態(普通の呼びかけで開眼し、会話ができる)無礼な言動があったりするが、医師の指示に従う態度を見せる | 興奮状態がない尿・便失禁がない羽ばたき振戦あり |
Ⅲ | しばしば興奮状態またはせん妄状態を伴い、反抗的態度を見せる嗜眠傾向(ほとんど眠っている)外的刺激で開眼しうるが、医師の指示に従わない、または従えない(簡単な命令には応じうる) | 羽ばたき振戦あり(患者の協力が得られる場合)指南力は高度に障害 |
Ⅳ | 昏睡(完全な意識の消失)痛み刺激に反応する | 刺激に対して、払いのける動作顔をしかめる等がみられる |
Ⅴ | 深昏睡痛み刺激にも全く反応しない |
意識レベルを判断することができれば、現在の患者さんの全身状態を把握する一つの材料
となりますので、ぜひ頭に入れておきましょう。
2.肝性脳症の原因とは
アンモニアやメタンなど腸内で発生した有害物は、肝臓で分解され尿素として排泄されます。しかし肝硬変になると、肝機能が低下してしまうので、アンモニアなどを分解する力が弱まり、血液中のアンモニアが増加していきます。 それに加え門脈の圧迫のため、バイパスから直接心臓に流れ込んだ血液も脳に流入してしまいます。その結果、解毒されないため脳細胞に障害が起きます。
つまり、肝不全因子とアンモニア、この2つが大きな要因となります。
3.肝性脳症の患者さんへの看護問題
肝性脳症の看護問題には、大きく2つに分けられ、予防行動がとれることと病状の悪化の早期発見が大事になります。
具体的には
1)セルフケア不足による、食事療法や薬物療法を守ることができない
2)認知機能の障害に関連した急性混乱状態
などが挙げられます。その他にも、患者さんの状態によって栄養摂取量低下や、昏睡レベルによっては呼吸に関連した問題を立案することになります。
3-1 食事療法
肝硬変の方は、食欲不振があり食が細くなりがちです。入院された方の50%は栄養不良であるというデータもあります。一方、肝不全つまり肝性脳症を起こしているような方は、エネルギー代謝を亢進させます。まずは、十分なカロリーと必要な量の蛋白質はきちんと摂取するのが、食事療法の基本になります。
血中アンモニアの濃度を上げない対策としては、便通を整える、そのためには繊維質を十分食べることが大事になります。大豆や青身魚などが豊富だと言われています。しかし、相当な量を毎日食べ続けることは難しいのが現状です。
3-2 薬物療法
肝不全用経腸栄養剤には、2種類の薬剤があります。
食欲がある場合は、顆粒状の製剤で比較的飲みやすい方が選択されます。
食欲がない場合は、水に溶かして飲むタイプの方が選択されます。カロリーやビタミン、ミネラルも一緒に添えられているタイプになります。この飲むほうのタイプですが、決しておいしいと言えるものではありません。少しでも緩和できるように、フレーバーで各種の味を調整し、できるだけ摂取できるように配慮をします。臨床経験上で話しをすると、
肝不全の状態が悪化する→食が細くなる→水に溶かすタイプの内服も困難になる
このような状態になることが多いです。原因としては、
1)水に溶かすタイプはかなりの水分を含むので、内服困難になる
2)肝不全悪化に伴い、肝性脳症の症状が出現し、医療者の指示に従えない
ことが考えられます。その場合は、経口摂取→アミノ酸輸液製剤に切り替わります。
4.肝性脳症の患者さんへの看護計画
肝不全による意識障害が肝性脳症で、肝硬変を患っていると頻発します。アンモニアを解毒できずに、脳や心臓へと循環してしまうために起こります。なので、アンモニアが体内に残りづらいような看護計画を立案する必要があります。
具体的には
- 便秘予防
- 劇症化兆候の早期発見
- 食事療法への援助
などが挙げられます。
4-1 便秘予防
肝硬変と診断された時点、合併症である肝性脳症となっている状態では必須となります。ラクツロースなどの下剤を確実に服用してもらうことが大事です。基本的には毎日排便が望ましく、便秘が続いてしまうと、血中アンモニア濃度が上昇します。
一般的には、アンモニア濃度が上昇したからすぐに肝性脳症になるものではありませんが、高いアンモニア濃度を持続すると発症するので、毎日排便を基本にすることが大事になります。
臨床経験上では、肝予備能力がギリギリな患者さんの場合では、1日排便がないだけでも翌日言動や行動がおかしくなっていた患者さんもおり、浣腸を行った後に意識レベルの改善が見られた事例もあります。なので、基本的には毎日の排便が重要となります。
症状悪化予防には必須の看護であり、患者教育となります。
4-2 劇症化兆候の早期発見
ここで、先に述べた昏睡度分類が役に立ちます。意識障害の程度をよくアセスメントし、転倒や転落、誤飲食などの危険行動を観察し、予防策を考えます。
転倒や転落、患者が負傷する危険性があるとき
・ベッド柵をタオルケットやスポンジのようなもので保護をする。
・歩行可能でふらつきがある場合は、離床センサーを設置し、行動時には必ず看護師が見守れる体制を作る。
誤飲食の危険性があるとき
・化粧品や雑誌など、手の届く範囲に物を置かないように、環境調整を行う。
患者さん本人以外にも家族ケアが重要といわれています。肝性脳症はアンモニアの影響で人格が変化しますので、家族は今までにない行動や言動に強いショックを受けます。支持的な対応をするようにします。
4-3 食事療法への援助
血中アンモニア濃度が上昇するのを防ぐため、アンモニアの元になるタンパク質を制限します。不足するタンパク質は、アミノ酸製剤で補います。アミノ酸製剤は、安全にタンパク質をとることができます。
便秘を予防するために、食物繊維をとるようにします。入院中は、栄養士と相談し調整できますが、退院後は家族の協力がとても大事になります。本人と家族へ食事についての栄養指導が重要となります。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。肝性脳症の看護は、
食事療法、薬物療法を守ることができているか
家族などのまわりのサポートが確立されているか
危険行動がなく、安全・安楽に過ごせることができているか
などが重要になっていきます。肝性脳症が悪化すると、本人の意識レベルは格段に悪くなり、危険行動が頻発します。患者さんの安全が守られるように、当ページで紹介した各事項を参考にしていただき、日々の看護実践に活かしてください。