染色体異常の中で最も多いものがダウン症です。産科や小児科の看護師はダウン症児やその家族と関わる機会は多いと思います。
ダウン症の基礎知識や出生前診断時の看護のポイント、ダウン症の新生児への看護のポイントを解説していきます。
1、ダウン症とは
ダウン症(Down syndrome=ダウン症候群)とは、染色体異常の1つです。21番目の染色体が3本あることで起こるために、「21トリソミー」とも呼ばれます。
通常は、常染色体は2本1組で44本(22組)あります。ダウン症は21番目の染色体が1本多く3本あるのです。
ダウン症という名称は、最初の報告者であるイギリス人のダウン博士の名前からつけられました。
ダウン症の出生割合は、以前は1,000人に1人とされていましたが、近年は高齢出産の増加などの要因があり、600~800人に1人の割合でダウン症児が生まれています。1)
ダウン症は染色体異常の中で最も多い疾患です。
1-1、ダウン症の特徴・症状
ダウン症は、「ダウン症候群様特異顔貌」と呼ばれる特徴的な顔つきをしています。
<ダウン症の特徴的な顔つき>
・丸く平坦な顔(鼻根部平低)
・内眼角贅皮(目頭の襞)
・巨舌(舌の突出)
・後頭部の扁平
・下向きの口角
・小さい耳
・短い鼻
そのほかに、手掌単一屈曲線(猿線)や脛側弓状紋などの指掌紋もダウン症に多く見られる特徴です。
これらの特徴以外に、ダウン症は次のような症状があります。
・筋緊張の低下
・関節の弛緩
・活気がない
・大泉門の開大
・5指短小や内弯
・発育の遅れ
ダウン症では発育の遅れも主な症状です。個人差はあるものの、中程度から重度の精神発達遅滞(知的障害)が見られます。
その他、合併症として、心内膜床欠損症や心室中隔欠損症などの先天性疾患、十二指腸閉鎖や鎖肛などの消化器疾患、けいれん発作、屈折異常や斜視、白内障、甲状腺機能低下症、難聴などがあります。
2、ダウン症の出生前診断の看護のポイント
ダウン症かどうかは、妊娠中に出生前診断をすることで判明します。
ダウン症の出生前診断の検査は次の4つがあります。
・絨毛検査:妊娠11~14週
・母体血清マーカー(クアトロテスト):妊娠15~18週
・新型出生前診断(NIPT):妊娠10~22週
・羊水検査:妊娠15週以降
絨毛検査と羊水検査は確定的検査になりますが、母体血清マーカーと新型出生前診断は非確定的検査で、確率的な診断になります。
2-1、看護のポイント①:遺伝カウンセリングを紹介する
新型出生前診断(NIPT)を受ける時は遺伝カウンセリングを受ける必要がありますが、遺伝カウンセリングは新型出生前診断以外でも受けることができます。
胎児がエコー検査でダウン症の疑いがあると医師から言われた場合や、母体血清マーカーを受けようか迷っている場合も、看護師は妊婦とパートナーに対して、遺伝カウンセリングがあることを伝え、必要であれば遺伝カウンセリングを紹介すると良いでしょう。
2-2、看護のポイント②:必要な情報提供を行う
出生前診断でダウン症と診断された場合、看護師は妊婦と家族が最善な選択を行うことができるように、必要な情報提供を行わなければいけません。
・妊娠中の経過から出産まで
・ダウン症の症状や合併症
・療育や社会福祉に関すること
必要であれば、ソーシャルワーカーにコンサルトして、出生後の療育・福祉に関して、さらに詳しく説明してもらうようにすると良いでしょう。
2-3、看護のポイント③:意思決定の支援を行う
出生前診断でダウン症と診断された妊婦と家族は中絶を選ぶこともあるし、そのまま妊娠を継続することもあります。
看護師は妊婦や家族が最善な選択ができるように、援助していく必要があります。
■不安や葛藤の要因を考える
胎児がダウン症と出生前診断で分かった場合、妊婦と家族は様々な葛藤・不安によって、意思決定が困難になることがあります。
看護師は妊婦と家族の不安・思いを傾聴することで、その葛藤を整理し、葛藤の要因を客観的に提示することで、当事者の意思決定の支援をすることができます。
■家族の関係性を観察する
出生前診断でダウン症だとわかった場合、妊娠継続か否かは、家族の中で意見が割れることは珍しくありません。
家族の関係性によって、胎児の母親である妊婦の意見がないがしろにされることもあります。
看護師は、妊娠継続に関して妊婦の意思は反映されているのかを観察し、必要であれば、看護介入をしていくようにしましょう。
■支持的な支援を行う
出生前診断の検査を受ける前も、検査を受けてダウン症だとわかった後も、そして妊娠継続かどうかの意思決定をした後も、看護師は妊婦と家族の決定に対して、支持的な支援を行う必要があります。
出生前診断については、倫理的な問題は常に付きまといます。看護師個人としての見解も持っていると思います。
しかし、妊婦と家族が考えた末に出した結論に対しては、看護師は決して否定することなく、結論を尊重して支持的な援助をしていきましょう。
当事者たちはどのような結論を出したとしても、不安・葛藤は残っているものです。そこで、否定的な態度を見せられると、罪悪感・孤独感を抱くことになります。
そのため、看護師は常に支持的な態度・支持的な援助を行っていくことが重要なのです。
3、ダウン症の新生児の看護
ダウン症を持つ新生児の看護は、新生児に対する看護と母親・家族への看護に大きく分けることができます。
3-1、ダウン症の新生児への看護のポイント
ダウン症を持つ新生児は、先天性の合併症を持っていることがあります。
合併症がなく生後1週間程度で退院していくこともありますが、先天性心疾患や消化器疾患などはすぐに治療が必要になることもあります。先天性心疾患はダウン症の新生児の40~50%に見られます。
看護師はダウン症の新生児の看護をする時には、異常の早期発見に努めていく必要があります。
3-2、ダウン症の新生児を持つ母親・家族への看護
ダウン症の新生児を持つ母親・家族への看護のポイントは次の3点です。
■受容・共感、傾聴
ダウン症の新生児を持つ母親は、不安や罪悪感などを持っていることが多いです。
出生前診断でダウン症であることが分かっていても、実際に出産して新生児のダウン症候群様特異顔貌を見て、改めてショックを受けることもあります。
看護師は、まずは母親や家族の不安や罪悪感の気持ちを傾聴しましょう。
話しやすい環境を作り、どんな不安を抱え、どんな気持ちを持っているのかを傾聴して、それを受容するように関わっていきましょう。
■愛着形成を促す
早期から新生児と母親の身体的な接触・感情的な接触をすることで、母親の愛着行動や子どもの発達に良い影響を与えるとされています。2)
看護師は愛着形成を促すためにも、タッチング等の接触機会を設ける必要がありますが、母親の愛着形成を促すためには「看護師の変わりない態度」2)が重要です。
看護師は「ダウン症の新生児の母親」という態度ではなく、「新生児の母親」として母親に接し、愛着形成を促していきましょう。
ただ、先天性奇形を持つ親の心理変容は①ショック、②否認、③悲しみと怒り、④適応、⑤再起の5段階になっていますが、出産後は①~③であることが多く、この段階であまり無理に看護師主導で愛着形成を促すと、母親のストレスになりかねません。
愛着形成を促す時には、母親の感情を考慮する必要はあります。
■情報提供を行う
ダウン症の新生児の母親・家族への看護の最後は、情報提供です。
退院後の定期検診の案内や福祉・療育関係の紹介、地域の保健師への情報提供や連携など行う必要があります。
また、不安を傾聴し、どんな情報・知識が必要かを分析しておくと良いでしょう。
ダウン症を持つ家族の話を聞く機会を作ったり、地域のダウン症を持つ家族の会などを紹介するのも効果的です。
まとめ
ダウン症の基礎知識や出生前診断の看護のポイント、ダウン症の新生児の看護のポイントなどを解説しました。
ダウン症は一番多い先天性異常ですので、小児科や産婦人科で看護師がかかわりを持つことは多いです。看護師は個別性を考えながら、必要なケアを提供できるようにしておきましょう。
参考文献
1)公益財団法人 日本ダウン症協会|ダウン症のあるお子さんを授かったご家族へ
2)竹内久美子、村上京子、辻野久美子「ダウン症の診断確定を待つ新生児期の親子関係形成ケアに対する母親の認識」山口医学 64巻第2号 2015年
・ダウン(Down)症候群 概要 – 小児慢性特定疾病情報センター
・原田眞澄「ダウン症児の成長発達支援において看護職が担う役割」
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