日々の業務の中で、ふと「ケトン体って何だっけ?」と疑問を思うことはありませんか?臨床現場で「ケトン体」という用語はよく使いますが、具体的にはよくわからないという人もいると思います。
ケトン体やアセトンとは何か?また、ケトン体の基準値やケトン体が高い時のケトーシスについて、ケトン体が出た尿のにおい、ケトン体が高い時の看護のポイントなどを解説していきます。
1、ケトン体とは
ケトン体とはアセトン・アセト酢酸・β-ヒドロキシ酪酸の3つの物質の総称です。アセトン体と呼ぶこともあります。
ケトン体は肝臓で脂肪が分解される時の中間代謝産物で、通常は血液中にほぼ存在しません。しかし、インスリンの欠乏や飢餓状態によって、ブドウ糖をエネルギー源として利用できなくなった場合、中性脂肪から分解された遊離脂肪酸が肝臓でケトン体に産生され、エネルギー源として血液中に放出されます。
1-1、ケトン体の特徴
ケトン体の特徴には次の4つがあります。
①水溶性である
②運搬タンパク質を必要としない
③骨格筋・心臓・腎臓などでエネルギー源として利用される
④肝臓ではエネルギー源にならない
ブドウ糖がエネルギー源として使えない時に、ケトン体がブドウ糖に代わって筋肉や心臓などでエネルギー源として使われるのです。
2、ケトン体の基準値
ケトン体の検査方法は血液検査と尿検査の2つがあります。従来はケトン体の検査は主に尿検査で行ってきましたが、尿中のケトン体は尿中排泄閾値に個人差があり、さらに尿量によっても左右されますので、血液検査の方がより正確にどのくらいケトン体が出ているのかや患者の病態を把握することができます。
■血液検査
ケトン体はアセトンとアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸の総称ですが、アセトンは血液中に存在しないため、血液検査でのケトン体のアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸の2つを測定することになります。
<基準値1)>
・総ケトン体:26~122μmoL/L
・アセト酢酸:13~ 69μmoL/L
・β-ヒドロキシ酪酸(3-ヒドロキシ酪酸):0~ 76μmoL/L
■尿検査
通常では、尿にはケトン体は出るものではありません。
<基準値2)>
・ケトン体:(-)
2-1、ケトン体が高いとケトーシスに!
体内でケトン体が増加し、ケトン体の値が高い状態をケトーシスと言います。高ケトン血症と言うこともあります。
ケトン体値が高くなり、ケトーシスになる原因には、次のようなものがあります。
・糖尿病
・飢餓状態
・過激なダイエット
・激しい運動
・高脂質食
・ストレス
・外傷や手術後
・感染症
糖尿病ではインスリン不足により、ブドウ糖がエネルギーに変換されませんので、ケトン体がエネルギーとして使われます。
また、飢餓状態や過激なダイエット、激しい運動後、高脂質食ではブドウ糖が不足しますので、ケトン体が増加します。
ストレスや外傷、手術後、感染症などでは、ストレスホルモンが分泌され、さらにインスリンの分泌・効果が悪くなるため、ケトン体が増加するのです。
2-2、ケトーシスが進行するとケトアシドーシスに!
ケトン体の中でも、アセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸は強い酸性の物質です。そのため、ケトーシスが進行すると、体は酸性に傾き、ケトアシドーシスの状態になります。
ケトアシドーシスになると、次のような症状が現れます。
・腹痛
・脱力感
・呼気のアセトン臭
・意識障害
・クスマウル呼吸
ケトアシドーシスになると、命の危機に瀕することもあります。
3、ケトン体の尿のにおい
ケトン体は独特のにおいを持つ物質です。
そのため、尿にケトン体が出ていると、その独特のにおいが出ることがあります。
ケトン体のにおいは、「ケトン臭」や「アセトン臭」と呼ばれます。
ケトン臭(アセトン臭)は、甘酸っぱいにおいであり、腐った柿や熟し過ぎたリンゴのにおいと表現されることがあります。
そのため、尿からそのようなケトン体のにおいがしたら、要注意です。
また、ケトン体が体で増えると、尿からだけではなく、口臭や汗からもケトン臭(アセトン臭)がすることがあります。
4、ケトン体が高い時の看護のポイント
ケトン体が高い場合、本来ならエネルギーとして使われるはずのブドウ糖がエネルギーとして使われず、ケトン体がエネルギーとして使われています。つまり、体に何らかの異常が起こっている可能性が高いです。
激しい運動後など、一時的に尿中にケトン体が出ることもありますが、常にケトン体が高い状態が続いている場合、看護介入が必要なことがあります。
ケトン体が高い時の看護のポイントを糖尿病患者とそれ以外に分けて、説明していきます。
4-1、糖尿病患者でケトン体が高い場合の看護のポイント
糖尿病患者でケトン体が高い場合、糖尿病の管理が不良であることを意味します。そのことを踏まえて、看護のポイントを見ていきましょう。
■生活習慣の情報収集
まずは、患者さんの生活習慣・糖尿病のコントロール状況を聞いて、情報収集をしましょう。
・最近の食生活(摂取カロリー、食習慣、飲酒の有無など)
・運動習慣
・血糖降下剤の服用やインスリン注射の状況
・シックディではなかったか
これらの情報収集をすると、患者さんがなぜケトン体が高くなっているのかが見えてきます。
これらの情報収集から、患者さんがなぜケトン体が高いのか?その原因を分析し、どのような指導が必要かを考えるようにしましょう。
■糖尿病管理の指導
ケトン体が高いということは、糖尿病管理ができていないということです。
先ほどの生活習慣の情報収集から、その患者さんの問題点・改善点を抽出し、そこを重点的に指導していきましょう。
・セルフケアの意欲を高める工夫をする
・患者の理解度を把握する
・家族を巻き込んで一緒に指導する
・患者のライフスタイルに適した方法を見つける
・指導で押し付けるのではなく、一緒に考えるスタンスを取る
このようなことに気をつけて、ケトーシスにならないような糖尿病の管理の指導を行うようにしましょう。
■糖尿病性ケトアシドーシスの予防
ケトン体が高い状態が続き、それが悪化すると、糖尿病性ケトアシドーシスに陥ることがあります。
糖尿病性ケトアシドーシスになると、命の危機に瀕します。高齢者やほかの基礎疾患がある場合は死亡率が高くなります。
そのため、ケトン体が高い患者には糖尿病性ケトアシドーシスにならないように、看護師は指導しておくと良いでしょう。
糖尿病性ケトアシドーシスは、糖尿病をしっかりコントロールすることはもちろんですが、感染症や外傷、心筋梗塞、脳卒中など体に大きなストレスがかかるような状態を避けるような生活習慣を指導しておくことも重要です。ケトン体が高い糖尿病患者が、体に大きなストレスがかかったら、一気に糖尿病性ケトアシドーシスが進むリスクがあります。
4-2、糖尿病ではないのにケトン体が高い場合の看護のポイント
糖尿病を基礎疾患に持っていないのに、ケトン体が高い場合の看護のポイントを見ていきます。
■感染症や外傷など高いストレスがかかっている場合
感染症を発症していたり、外傷や手術後などで、高いストレスが体にかかっている場合は、ケトン体の値が高くなります。
この場合の看護はある意味簡単です。
看護師は、ケトン体が高くなった原因の看護に集中すれば良いのです。
感染症の看護・外傷の看護・術後看護に集中し、そこから患者が回復すれば、ケトン体の値は下がり、正常な状態に戻るはずです。
■過激なダイエットをしている場合
過激なダイエットをして、ケトン体が高くなっている場合は、過激なダイエットの危険性を説明し、健康的なダイエットを提案しましょう。
また、過激なダイエットをしている人の中には、拒食症や過食嘔吐などの摂食障害の人もいます。その場合は、精神科の介入が必要になりますので、精神科にコンサルトするようにしましょう。
■周期性嘔吐症の場合
小児でケトン体が高い場合、周期嘔吐症(自家中毒症・ケトン血性嘔吐症)の可能性もあります。
2~10歳の子に多くみられる症状で、身体的・肉体的なストレスが加わり、交感神経が優位になると、エネルギーがブドウ糖からケトン体に変わり、ケトン体の値が高くなります。
そうすると、自家中毒の症状が出て、嘔吐・腹痛・頭痛などの症状を訴えることがあるのです。
看護師は周期性嘔吐症を疑ったら、まずは患児と保護者に最近のストレス状況を聞き、可能ならストレスを除去することを薦め、患児の不安・ストレスを解消できるような環境を作るように指導しましょう。
また、果汁や経口補水液などを少しずつ与え水分補給に努めること、吐き気が治まったら、食べやすく消化に良いものから食べさせることなどを指導すると良いでしょう。
まとめ
ケトン体の基礎知識や検査の基準値・ケトーシスやケトアシドーシスについて、ケトン体のにおい(ケトン臭・アセトン臭)とケトン体が高い時の看護のポイントを説明してきました。
糖尿病の患者はケトン体が高くなりやすいですので、きちんとコントロールできるように、看護師は指導していきましょう。
参考文献
1)血中ケトン体分画(静脈,) KETO ( ketone body fraction)|岡山大学
・おしえて!ドクター健康耳寄り相談室 第54回|宮崎県医師会
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