消化管出血は、消化管のいずれかの部位で出血が起こった状態です。
消化管出血によって、大量の出血が起こると、出血性ショックを起こすリスクがありますから、看護師は適切に対処できるようにしておく必要があります。消化管出血の基礎知識や原因、症状、治療方法、看護のポイントをまとめました。実際の看護をする時の参考にしてください。
1、消化管出血とは
消化管出血とは、口から肛門までの消化管のどこかで出血が起こった病態のことです。消化管出血は、吐血と下血の2つに分けることができます。ある程度の出血量があれば、肉眼的に吐物や便の中に血液が混ざっているとわかりますが、出血量が少なければ肉眼ではわからず、便潜血などの検査でしかわかりません。
■吐血
吐血は、Treitz靭帯(トライツ靭帯)よりも上部消化管(食道・胃・十二指腸)で起こった出血が原因で起こります。消化管出血後すぐに吐血をすれば鮮血色ですが、数十分以上時間が経ってしまうと、胃酸によってヘモグロビンが塩酸ヘマチンに変化しますので、黒褐色やコーヒー残渣様に見えることが多いです。
■下血
下血は消化管のいずれの部位での出血でも起こります。
上部消化管での出血は、黒色便(タール便)になります。ただ、下部消化管でも腸内での停滞時間が長ければ、黒色便が見られます。下部消化管で出血が起こると、血便(暗赤色~赤色便)になります。しかし、上部消化管の出血でも、大量出血が起こった場合は、黒色便ではなく、暗赤色~赤色便が見られることがあります。
2、消化管出血の原因
消化管出血の原因は、次のような疾患が考えられます。
<上部消化管出血>
・胃潰瘍
・十二指腸潰瘍 ・食道静脈瘤破裂 ・出血性胃炎(急性胃粘膜病変AGML) ・食道がん、胃がん ・マロリーワイス症候群 |
<下部消化管出血>
・虚血性大腸炎
・肛門病変 ・腸炎 ・大腸がん ・大腸ポリープ ・潰瘍性大腸炎 ・大腸憩室出血 |
消化管出血の割合としては、上部消化管出血が70~80%、小腸出血が5%、下部消化管出血が20~30%となっています。1)
3、消化管出血の症状
消化管出血の症状は、先ほどから説明している通り、吐血や下血が起こります。そのほか、胃痛や下腹部痛、胸痛、悪心、嘔気、嘔吐、発熱などの症状が出ることもあります。
出血量が多かった場合は、ショック状態になりますので、頻脈や冷汗、蒼白などのショック兆候の症状が見られ、失神することもあります。また、出血を少しずつ継続的に起こしている場合は、めまいやふらつき、息切れなどの貧血の症状が現れます。
4、消化管出血の治療方法
消化管出血を起こした患者への治療は、主に補液と止血の2つがあります。
大量に消化管出血を起こした場合は、急速に大量の血液が失われ、出血性ショックを起こし、命の危機に瀕しますので、急速輸液、場合によっては輸血を行い、失われた血液を補充しなければいけません。多くの消化管出血は、自然に止血されますので、止血のための治療は行わないことも多いです。
ただ、出血が止まらない場合には、内視鏡によるクリップ、薬剤注入、レーザー凝固、静脈結紮などの止血術を行います。上部消化管は内視鏡による止血術が有効ですが、小腸や下部消化管では止血できないこともあるので、安静+絶飲食で治療を行っていくことになります。
5、消化管出血の看護のポイント
消化管出血を起こした患者を看護する時のポイントを押さえておきましょう。
①バイタルサインをチェックする
目の前で吐血や下血などを起こした患者がいたら、まずはバイタルサインをチェックしましょう。出血量によっては、出血性ショックを起こしている可能性があります。ABCの評価をしながら、ショック兆候に注意して、バイタルサインをチェックしてください。
A | =Airway(気道) |
B | =Breathing(呼吸) |
C | =Circulation(循環) |
吐血の場合は、血液や血塊を誤嚥して窒息する可能性もありますので、口の中をチェックして、吐物が残っていないかを確認し、再び吐血した時に誤嚥しないように注意しなければいけません。
②性状の観察をする
目の前で消化管出血を起こして、吐血もしくは下血した患者がいたら、吐血や下血の性状の観察をしてください。それによって、おおよその出血部位がわかりますので、早期に適切な治療をすることができます。
吐血は鮮血色のこともありますが、黒褐色やコーヒー残渣様のことが多いことが特徴でしたよね。吐血は、肺や気管から出血した喀血との判別が重要になります。また、鼻血が出て、それを飲み込み、その後嘔吐したというケースもあり得ますので、性状を観察して判別しなければいけません。下血も色をしっかりと確認して医師に報告するようにしてください。
③不安の軽減に努める
吐血や下血をした患者は、自分が深刻な病気なのではないか?このまま死ぬかもしれないという不安に襲われます。患者だけでなく、家族も大きな不安を抱えることになります。看護師は、患者や家族の不安を察知して、必要な情報提供をし、不安を傾聴するなど、不安の軽減に努めなければいけません。ただ、医師の診断が出ていないのに、「大丈夫ですよ」のように安易に励ましたり、不正確な情報を与えるのはやめましょう。
④異常の早期発見に努める
消化管出血を起こした患者は、輸液・輸血や止血処置などの治療を受けたとしても、また再出血を起こす可能性はあります。再出血を起こしたら、すぐに対応できるように、看護師は異常の早期発見に努めましょう。
また、患者にも吐血や下血があったら、たとえ少量でもすぐに報告するように指導しておきましょう。看護師がいないところで吐血や下血をしたら、医師や看護師が性状を観察する必要があるので、自分で吐物や便を処理せずに、すぐにナースコールをすることも指導しておかなければいけません。看護師の感覚だと、「吐血や下血をしたら、そのまま看護師に吐物や便を見せるのが当たり前」と考えると思います。
でも、患者の多くは、「自分の吐物や便を人に見せるなんて絶対に嫌だ。恥ずかしい」と考えるので、トイレに流してしまってから、「便が黒かったです」のように報告することがあるのです。だから、必ず自分で処理せずに、すぐにナースコールをして呼んでもらうように伝えておきましょう。
⑤絶飲食の指導
消化管出血を起こした患者は、基本的に絶飲食の指示が出ます。絶飲食の指示があっても、守れない患者は少なくありません。
「どうしてもお腹が空いてしまった」、「ジュースはダメだけど、お水はOKだと思っていた」、「家族がせっかく買ってきてくれたし、少しくらいなら良いと思っていた」と本気で思って、絶飲食の指示を守れない患者がいるのです。だから、看護師は絶飲食の指示が出ていることを丁寧に説明し、患者にしっかりと理解してもらわなければいけません。
患者だけでなく、家族にも説明していたほうが良いでしょう。家族が絶飲食を理解せずに、患者に飲み物や食べ物を持ってきてしまうというケースは少なくありません。食べることができないというストレスを感じる患者もいますが、食べ物が出血を誘発する可能性があることなどをしっかり説明し、不満を傾聴して、気分転換を促すような看護を行っていきましょう。
まとめ
消化管出血の基礎知識や原因、症状、治療、看護のポイントなどをまとめましたが、いかがでしたか?消化管出血は吐血や下血を起こし、出血性ショックを起こす可能性がありますから、看護師は正しい知識を持って、適切な看護ができるようにしておきましょう。
参考文献
1)消化管出血(久能宣昭|2014年11月27日)
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