ICFとはWHOで採択された人間の生活機能と障害の分類方法です。ICFは難しい分類方法・考え方と思われがちですが、患者を全人的に捉えられる便利な分類方法・考え方です。ICFを看護へ応用すると、より良い看護ができますので、看護師はICFを理解しておく必要があります。ICFの基礎知識や看護への応用、書き方、看護過程での用い方をまとめましたので、実際の看護に活かしてください。
1、ICF(国際生活機能分類)とは
ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health=国際生活機能分類)は、2001年5月にWHO(世界保健機関)の総会にて採択された人間の生活機能と障害の分類法です。簡単に言うと、このICFは全人的な視点で、みんなが共通認識を持って、対象の人(患者・障害者等)の状態を把握するためのものです。「人が生きることの全体像」を把握するためのものと言うこともできます。ICFは、次の6つの要素から構成されています。
1.健康状態
2.心身機能・身体構造 3.活動 4.参加 5.環境因子 6.個人因子 |
そして、この6つの要素は、それぞれがお互いに作用しあっています。
出典:「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について(社会・援護局損害保健福祉部企画課|2002年8月5日)
心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子には、合計で1,424の分類項目(コード)があります。コードの一部は、「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」に掲載されています。
このICFの特徴には、次のようなものがあります。
- 「障害」というマイナス面を強調する言葉は用いず、「心身機能・身体構造」のような中立的な言葉を用いることで、共通言語として使うことができる。
- 「生活機能というプラスの中に障害というマイナスがある」というプラス面を重視した考え方になっている。
- 病気・疾患だけではなく、背景因子である環境因子や個人因子を取り入れることで、全人的な見方ができるようになっている。
2、ICFの看護への応用
ICFは看護に応用することができます。ICFの分類・考え方を用いると、より良い看護ができるようになるのです。その理由は、次の3つがあります。
①全人的な視点で患者を見ることができる | ICFは疾患だけでなく、活動や参加、環境因子、個人因子にも目を向けているので、患者の病気ではなく、患者全体を見ることができます。全人的な視点を持ち、身体的な面だけでなく、精神的、社会的な面、場合によってはスピリチュアルな面にまで目を向けることで、より良い看護をすることができるのです。 |
②個別性を把握できる | ICFでは多角的な視点で患者の全体像を見ることができますので、その患者の個別性を把握することができます。
同じ疾患や同じような後遺症を持っていても、活動や参加、環境因子、個人因子は、患者1人1人違ってきます。そのためICFを看護に応用することで、看護問題・看護目標・看護計画を、患者1人1人に合わせたものにすることができ、個別性を大切にした看護をしていくことができるのです。 |
③チーム医療ができる | ICFは、チーム医療を進めていく上でも非常に役に立ちます。
多職種が1人の患者を見る時には、それぞれの専門性に基づいて、違う視点・違う考え方を持ってチーム医療を進めていきます。この「違う視点・違う考え方」がチーム医療に役立つ時も多々ありますが、それぞれの職種が共通認識を持てないことで、相互理解が進まず、チーム医療の妨げになることもあります。ICFは、患者を全人的な視点で共通認識を持ってみることができますので、多職種がそれぞれの専門性を活かしながらも、同じ方向を向いて、その患者の治療・ケアを進めていくのに役立つのです。 |
3、ICFの書き方
ICFを看護に使うために、ICFの書き方をマスターしておきましょう。ICFの書き方は、6つの要素別に情報をまとめることになります。
出典: 特別支援教育におけるICF及びICF-CY活用に関するよくある質問と答え(FAQ)( 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)
■健康状態
健康状態は、疾病や外傷、体調の変調などを書きます。
【例】
・1ヶ月前に脳梗塞を発症
・心房細動を指摘されていた
・高血圧と糖尿病の既往あり
■心身機能・身体構造
心身機能は身体系の生理的機能を書きます。身体構造には身体の解剖学的な部分を書きます。ここではコードを用いて分類すると、他職種にもわかりやすいと思います。
【例】
<プラス面>
・皮膚の機能(b810) 良好
・意識機能(b110) クリア
<マイナス面>
・構音機能(b320) 構音障害あり
・運動機能(b760) 左片麻痺あり
■活動
活動は、簡単に言うと「ADL」ですね。
【例】
<プラス面>
・食事(d550) 一般食で自力摂取可能
・排泄(d530) 自立
<マイナス面>
・清潔(d510) シャワー浴は一部介助が必要
・歩行(d450) 車イスが必要
■参加
参加は生活の場への参加のことです。
【例】
・毎日面会に来る家族とはあまり話そうとしない
・PTによるリハビリは拒否することもある
・日中はベッド上でテレビを見て過ごしていることが多い
■環境因子
環境因子は、物的な環境・社会的環境、人的な環境の3つがあります。
【例】
・物的環境:自宅は玄関に段差があり、バリアフリーになっていない
・社会的環境:介護認定を受ける予定である。自宅に帰る前に一時的に入所できる老健を探している
・人的な環境:妻と2人暮らし。妻との関係は良好。息子家族が近くに住んでいて、介護の協力の意志あり
■個人因子
個人因子は、患者本人の性別・年齢、体型、性格、学歴、仕事などの情報です。
【例】
・72歳、男性
・167cm、60kg
・社交的な性格
4、ICFの看護過程での2つの用い方
看護師はICFを積極的に看護に応用していきましょう。
では、具体的にICFを看護過程でどのように用いれば良いのかを説明していきます。
■ICFをアセスメントに利用する
ICFの特徴は、患者を全人的に捉えることができることです。
看護師は患者の病気に目を向けるだけでなく、患者の生活、そして患者自身に目を向けて、ケアをしていかなくてはいけません。
それを頭ではわかっていても、実際に情報収集をして、関連図を書いて、アセスメントをするのは難しいと思っている看護師は多いと思います。でも、ICFを用いて患者の情報収集をすれば、難しく考えなくても、患者のニーズが自然と浮かび上がってくることが多いです。そのため、アセスメントに苦労することなく、適切なアセスメントをすることができるのです。
出典:ICF関連図(目標と支援計画)(中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 特別支援教育専門部会(第5回)議事録・配付資料 [資料2]―文部科学省|独立行政法人国立特殊教育総合研究所|2006年5月29日)
この図のように、6つの要素の情報を書き込んでいけば、自然に関連図を作ることができるでしょう。
■ICFで適切な看護目標を設定できる
ICFを看護過程で用いると、適切な看護目標を設定することができます。看護師がマヒのある患者や関節可動域が狭い患者、筋力が低下している患者の看護をする時には、どうしても「できない」というマイナス面ばかりに目が向いてしまいます。そうすると、看護目標を最低限のものに設定してしまい、患者の持つ能力・可能性を引き出せないことがあります。
でも、ICFはプラス面を強調することができるので、その患者の「できること」を見ることができます。その患者ができることに目を向けることで、その患者が持つ力を最大限に引き出せるような適切な看護目標を設定することができるのです。また、患者を全人的に捉えることで、患者のニーズを的確に把握できることも、適切な看護目標を設定する助けになりますね。
適切な看護目標を設定すれば、その患者にとって最適な看護計画を立案することができます。ICFを看護過程で用いることで、「患者がしていることをできることに近づける」、「できることを、さらに伸ばしていく」という看護ができるのです。
まとめ
ICFの基礎知識や看護への応用について、書き方、看護過程での用い方をまとめましたが、いかがでしたか?厚生労働省のICFの説明文を見ると、「難しそう」、「よくわからない」という印象を持ってしまう看護師も多いと思いますが、患者を多角的な視点で見て、全人的に捉えるツールと考えるとわかりやすいと思います。ICFは実際の看護を行う時にも非常に役立つ考え方ですから、受け持ち患者のアセスメントをする時には、ICFの考え方を意識してみると良いでしょう。
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