患者が急変し、VF(心室細動)だったそんなとき、居合わせた看護師は何をすればよいかわかりますか?心室細動を含めた心停止と基本の急変対応、そしてVFの原因の鑑別診断のヒント、5H5Tをお伝えします。急変はいつ起こっても怖いものですが、恐怖心が少し和らぐことでしょう。
1、心室細動(VF)とは
心室細動とは、心臓が無秩序に震えているだけで正常な電気活動をしていない状態です。AHA(アメリカ心臓協会)では、心室細動(VF)を心停止のうちの一つであると定義しています。
<心停止とは>
・心室細動(VF)
・無脈性心室頻拍(VT) ・心静止(Asys) ・無脈性電気活動(PEA) |
この4つはつながっており、無脈性心室頻拍が心室細動になり、時に無脈性電気活動を経て心静止に至ります。つまり、心静止は末期の心室細動と考えることができます。心臓は本来、洞結節から房室結節・プルキンエ線維と決められたルートで、全身に血液を送るポンプの役割をしています。しかしこのルートを経ずに勝手に心室が震えている状態は、ただ心臓のエネルギーを使い果たすだけで長くは持ちません。最初は心室頻拍として規則的に大きな波形を呈していたものも、時間経過とともに振幅が小さくなり数分で心静止に至ります。
2、VFの心電図波形
心室細動の心電図波形を覚えるには、心室頻拍から心静止までの流れで病態生理と一緒に覚えると、頭の中に定着しやすいですね。心室頻拍(VT)→ 心室細動(VF)→ 無脈性電気活動(PEA)→ 心静止(Asys)の順でご紹介しましょう。
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引用:心肺停止の波形(福岡博多トレーニングセンター)
いかがでしょうか?波形の大きな(電気活動の大きい)心室頻拍から始まり、次第に力なく震える程度の心室細動となり、拍出を伴わない電気活動のみとなり、最終的には全く心臓が動かない心静止の状態になっていくことがわかると思います。
3、VFの原因
心室細動(VF)を起こす原因には、何があるでしょうか。逆に考えると、何を予防したら心室細動を起こさないのでしょうか。AHA(アメリカ心臓協会)では、心室細動を含めた心停止の原因の中で治療可能なものとして「5H5T」を挙げています。
<VF(心停止)の治療可能な原因>
○5H
・循環血液量減少(Hypovolemia) | →アナフィラキシー、出血、肺血症 |
・低酸素症(Hypoxia) | →気道閉塞、溺水 |
・水素イオン(Hydrogen ion)(アシドーシス) | →呼吸性・代謝性アシドーシス、腎不全、糖尿病性ケトアシドーシス |
・低/高カリウム血症(Hypo-/hyperkalemia) | →糖尿病、腎不全、嘔吐・下痢、薬物 |
・低体温(Hypothermia) | →寒冷暴露 |
○5T
・緊張性気胸(Tension pneumothorax) | →喘息、外傷、COPD、人工呼吸器による陽圧 |
・心タンポナーデ(Tamponade,cardiac) | →外傷、腎不全、胸骨圧迫、中心静脈路穿孔 |
・毒物(Toxin) | →各種薬物過量 |
・冠血栓症 (Thrombosis,coronary) | →急性冠症候群 |
・敗血栓症(Thrombosis,pulmonary) | →肺塞栓症 |
これらの10個の頭文字をとると、5個のHと5個のTになります。英語のスペルを完全に覚える必要はありませんが、5H5Tの10個が頭に浮かぶようにしておきたいですね。
4、VFの症状
心室頻拍は脈が触れるものと脈が触れないものがあり、前者は意外にも心電図波形は派手な割に、患者本人はなんとなく胸部不快感を訴える程度のことがあります。一方で、後者は脈が触れない=心拍出量が限りなくゼロに近いことを意味していますので、もちろん意識はありません。心室細動が無脈性心室頻拍の「その後」であることを考えれば、血圧計を巻いたところで測定不能(エラー)になるだけで、パルスオキシメーターも測定不能となることは想像に足るでしょう。自発呼吸がないことも多々あります。心室細動を起こした患者の状態を把握するためのポイントは、下の3つと覚えておきましょう。
<VFを起こしたら、ここを観る>
①頸動脈が触れるか
②気道閉塞の有無・自発呼吸の有無 ③心電図波形 |
5、VFの治療
冒頭でもお伝えした通り、心室細動は心臓が無秩序に電気活動を行って無駄にエネルギーを放出している状態です。ですから、まずはこの悪い流れを断ち切って本来の電気活動に戻すことが必要です。心室のいたるところが震えている状態をリセットするには、わずかながらに残された拍動・拍出量さえもあえて止めてしまう必要があります。これが、除細動です。除細動は電気ショックとも言われますが、脈のある心室頻拍や発作性心房細動(Paf)を止める電気ショックとは、使うエネルギー量が異なります。同じ機械を用いるにしても、心室細動を起こした患者に起こして行うのは「細動を取り除く=除細動」であり、これを最短で行うことが蘇生率を左右することを覚えておきましょう。
6、VF時の看護師対応
目の前の患者が急に倒れた、訪室したら既に患者の意識がなかった・・・臨床現場では、そのようなことがあります。自分の勤務帯では起こって欲しくないとは願いつつも、もしそのような事態が起こったら、どのように行動したらよいでしょうか?急変した患者を発見したとき、多くの場合は心電図をつけていません。ぱっと見た目には心室細動を起こしているかどうかなんてわかりません。では、あなたが自分の担当患者の部屋を訪室したときに既に意識がない状態だったら、どのように行動したらよいのかシミュレーションしてみましょう。
引用:BLS評価・初期評価、二次評価(福岡博多トレーニングセンター)
これをおおよそのイメージとし、具体的な行動を確認していきましょう。
<訪室したら患者の容態が急変していたさあどうする?>
①意識を確認する (肩など身体に触れて声をかける) → 意識なし
②応援スタッフを呼ぶ
③かけつけたスタッフに下の3つをお願いする
・院内救急コール(コードブルー・CPRコール・ハリーコール)をかける
・AEDと救急カート(できればモニター)を用意する ・医師へ連絡する |
④頸動脈を確認(橈骨動脈ではなく)しながら、自発呼吸を確認する → 脈・呼吸なし
⑤応援スタッフがかけつけるまで、胸骨圧迫を行う
⑥救急カートが届いたら2人で胸骨圧迫とバッグバルブマスクで換気補助、(スタッフがそろい次第)記録開始
⑦AEDを装着する
⑧胸骨圧迫と換気補助をしながら、AEDの音声指示に従い除細動を行う
⑨除細動後、すぐに胸骨圧迫から心配蘇生を再開する
⑩以後2分ごとにAEDの音声指示に従って除細動を繰り返し、その間に医師の指示に従ってルート確保・アドレナリン等の薬剤を投与する
⑪⑩を繰り返しながら、5H5Tを参考に原因検索と根本的な治療を行う(必要時には挿管)
⑫家族への連絡、ICU入室準備などを行う
今回は病棟の一室で起こったケースでシミュレーションしてみました。大声を上げれば応援スタッフが来てくれるし、救急カートにAEDもすぐに届きます。院内緊急コールをすれば、数分以内で医師もかけつけてくれます。しかし、実際に看護師が働く現場は多様で、必ずしもこのシミュレーション通りにいかないこともあります。ですから、自分が今日勤務する際に患者が急変したら、どのように行動して誰に連絡を取って、どこに必要な物品があるのかを自分なりにシミュレーションしておくことが必要です。
7、VF時に使うAED
心室細動(VF)は、無秩序に心臓が電気活動を起こしている状態であり、一刻も早くAEDを用意して除細動を行うことが必須。AEDが届いたら、まずパッドを貼りましょう。なぜなら、心電図が見れますし、解析ボタンを押せば除細動の適応か判断して音声でガイドしてくれるからです。更に2分ごとに指示を出してくれますので、人手のない緊急事態においてAEDはタイムキーパーの役目も果たしてくれるのです。ただし、AEDを使用して除細動を行っても血液を送り出す力はありません。除細動は心臓が完全に止まった状態にすることであり、一番大切なことは除細動には必ず胸骨圧迫をセットで行うことです。もしものときには、まずは意識レベルと頸動脈・呼吸の確認、そしてAED。これを頭に叩き込んで、いざというときに身体が自然に動くようにしておきたいものですね。
まとめ
心室細動は心静止の一歩手前の状態であり、一刻も早い除細動が生死を分けます。除細動に限りなく中断をゼロにした胸骨圧迫をセットで行い、それから原因究明と根本治療にかかりましょう。医師よりも患者の近くにいる看護師だからこそ、適切な初期行動が求められます。
参考文献
ACLS EPマニュアルリソーステキスト(株式会社バイオメディスインターナショナル |American Heart Association|2014年)
病気がみえる Vol.2循環器(MEDIC MEDIA|2017年)
ACSLとは(福岡博多トレーニングセンター|2018年更新)
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