知的障害者を看護する時には、どのような看護をすれば良いか迷ってしまうことも多いと思います。
また、知的障害者施設で働きたいと思っても、どんな看護をすれば良いかわからないから、何となく不安という看護師も多いですよね。知的障害者への看護は、知的障害者だから特別何かしなければいけないというわけではありません。きちんと向き合って普段通りに看護をすれば大丈夫です。知的障害者施設の基礎知識や看護計画、看護ケアのポイントをまとめました。実際の看護の参考にしてください。
1、知的障害者施設とは
知的障害とは、18歳未満の発達期に生じた知的機能の障害により、認知機能が遅れた状態のことで、IQ(知能指数)70以下だと知的障害に分類されます。そして、その知的障害者を支援する施設が知的障害者施設になります。
■知的障害者施設の現状
知的障害者を支援する施設が、知的障害者施設です。ただ、実は現在は「知的障害者施設」というのは存在しません。厳密に言うと、知的障害者限定の施設は存在せず、障害の種類に関係なく、障害者を支援する施設(障害者支援施設)があり、そこで知的障害者を支援しています。
2006年までは知的障害者福祉法によって、知的障害者更生施設や知的障害者授産施設などがありました。でも、2006年に障害者自立支援法(2010年に障害者総合支援法に名称変更)が施行されたことで、障害の種類で分類することなく、福祉を統一することになったので、「知的障害者施設」はなくなり、「障害者支援施設」となりました。ただ、施設の中には、旧来の名称をそのまま用いて、「知的障害者施設」という名前の施設もあります。
法律上は知的障害者施設はありませんが、実際は知的障害者を中心に支援している施設、つまり事実上の知的障害者施設は存在します。
ここでは、その「事実上の知的障害者施設」について解説していきます。
■大人の知的障害者のための施設
知的障害者施設は、次の2つに大きく分けることができます。
①入所型施設
②通所型施設
看護師が勤務するのは、入所型施設であることが多いですね
■子どもの知的障害児のための施設
また、障害児のための施設は、次の2つに分けられます。
①福祉型障害児施設
②医療型障害児施設
看護師は医療型障害児施設で働くことになりますが、特に重度の知的障害と肢体不自由を併せ持つ重症心身障害児施設に分類される施設での需要が大きいです。
2、知的障害者への看護計画
知的障害者への看護は、知的障害者だからといって、普通の患者への看護と何も変わりません。知的障害者施設での看護師の仕事内容は、次のようなものが多いです。
・バイタルサインのチェック
・服薬管理 ・経管栄養や胃ろうの管理 ・痰の吸引 ・導尿 ・排便コントロール ・日常生活援助 ・褥瘡や皮膚の処置 |
このような仕事は、普通の一般病棟でも行いますよね。だから、看護計画も知的障害者だからといって、変に意識する必要はありません。目の前の患者を見て、必要な看護問題を挙げて、それに沿って看護計画を立てれば良いだけです。
ただ、知的障害者の看護計画を立案する上で、1つだけ注意しなければいけないことがあります。それは、看護師主体にならないことです。
知的障害者の看護計画を立案する時には、ついEP(教育項目)を軽視しがちです。しかし、IQ19以下の最重度の知的障害を持っていて、言葉を発することはできなくても、説明して理解してもらうことは可能であることは少なくありません。全部は理解できなくても、きちんと説明し、指導することは大切です。
知的障害者への具体的な看護計画は、1人1人の患者の状態によって変わってきますが、ここではセルフケア不足での看護計画を例に挙げていきます。
看護目標 | 「自分でやろう」という意識が見られ、看護師や生活支援員の援助により、セルフケア不足に陥らない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・ADL・知的障害(認知)の程度・安静度 ・セルフケア不足に対する理解の程度 ・気管切開や胃ろうなどルート(チューブ類)の有無 ・自宅での家族の介護・援助の程度 |
TP(ケア項目) | ・最低限の援助のみを行う
・できることは時間がかかっても、自分で行ってもらうように促す ・できることを少しずつ増やしていけるように、目標設定をする ・セルフケアの援助をする時には必ず声掛け、説明を行う ・常に支持的な態度で接する ・できた時はそれを褒めて評価する ・自尊心を高める言動をする ・セルフケアしやすい環境整備を行う |
EP(教育項目) | ・セルフケアの重要性を繰り返し伝える
・言葉での理解が難しい時は絵やイラストなどを用いる工夫をする ・家族にも不要な手出しはしないように説明する |
これが知的障害者への一般的なセルフケア不足の看護計画です。これを見てもわかるように、普通のセルフケア不足の看護計画とほぼ変わりません。知的障害者への看護で難しいところは、患者本人も看護師も、家族も「どうせできない」とか「看護師(援助する側)がすべてやったほうが早いし確実」、「看護師がすべてやって当たり前」という意識があるところです。その意識を持っていると、良い看護はできませんから、その意識を改善すること考えながら、個別性のある看護計画を立案するようにしましょう。
3、知的障害者への看護のポイント
知的障害者への看護計画は特別なものではなく、普通の看護計画と同じようなものです。ただ、知的障害者への看護をする時には、次の6つのポイントに気を付けるようにすると、より良い看護をしていくことができます。
■知的障害者を理解すること
知的障害者への看護をする時には、まずは知的障害者個人を理解することが大切です。知的障害者は1人1人違います。そして、同じIQでも理解度・認知度は異なることがあります。だから、知的障害者の看護をする時には、目の前の個人を理解して、その患者に適したアプローチ方法で、看護をしていくことが大切です。
看護師は頭では「1人1人違う」とわかっていても、どこかで「知的障害」と一括りにして見ていたり、忙しさのあまり個別性があることを忘れてしまうことがありますので、注意しなければいけません。
■知的障害者の権利を守ること
看護師は知的障害者の権利を守りながら、看護をするようにしてください。非常に残念な事実ですが、障害者の人権は軽視されがちです。看護師は自分自身が知的障害者の権利を侵害しないように注意するのはもちろんですが、生活支援員など職員を指導するなど、知的障害者の権利が守られるようにしていく必要があります。知的障害者の権利が守られている施設なら、知的障害者は安心して生活していくことができ、職員とも信頼関係を築くことができるはずです。
■チーム医療を進めていくこと
知的障害者への看護をする時には、看護師だけではなく理学療法士や薬剤師、生活支援員、管理栄養士などを巻き込んで行っていくと、効果的です。特に、知的障害者への看護は医療だけでなく、福祉も関わっていますので、多職種が連携してケアしていく必要があるのです。
■家族ケアをすること
知的障害者への看護ケアをする時には、家族ケアを忘れてはいけません。知的障害者の家族は心身ともに疲労していたり、自責の念に駆られていたりすることが多いです。また、家族関係に歪みが生じていることも珍しくありません。看護師は知的障害者の家族に、不安や悩み、意見を傾聴しながら、支持的な態度で接し、必要であれば福祉サービスを紹介したり、ソーシャルワーカーにつなぐなどのケアをしていきましょう。
■事故防止に注意すること
知的障害者は認知機能に遅れがありますし、てんかん発作を持っている人が多いため、知的障害者施設では、一般病棟よりも事故が起こりやすいです。そのため、看護師は事故防止に注意して、知的障害者の安全を守らなくてはいけません。
知的障害者施設で多い事故には、次のようなもの1)があります。
1.転倒・転落
2.熱傷 3.誤嚥 4.異食 5.入浴中の事故 6.水中毒 |
これらの事故を念頭に置いているかどうかで、事故の発生リスクは変わりますから、知的障害者の看護をする時には、事故防止を意識して、安全に配慮したケアをするようにしてください。
■自らの安全を守る
知的障害者の看護をする時には、自らの安全を守ることも大切です。知的障害者の中には、突然暴れたり、暴力を振るったりする人もいます。そのような時には、まずは自らの安全を守って、安全を確保しなければいけません。どのような人がどのようなタイミングで暴力行為をするのかなど、日ごろから職員全員で情報共有をしておくこと、すぐに人を呼んで助けを求めることなどを心がけておきましょう。
まとめ
知的障害者施設について、知的障害者への看護計画、看護のポイントをまとめました。知的障害者への看護は特別なものではなく、個別性を考慮しながら、一般の患者と同じような看護計画を立案すれば大丈夫です。ただ、看護ケアのポイントを押さえておけば、より良い看護ができますので、6つのポイントを意識して看護するようにしましょう。
参考文献
1)施設で生活をする知的障害児者の看護(公益社団法人かながわ福祉サービス振興会|県立障害福祉施設看護師会|2017年3月)
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