緊急事態に直面した時、皆さんは適切な対応ができるでしょうか?今回は、一時救命処置について説明します。いざというときの対応方法をしっかりと確認していきましょう。
1、一次救命処置(BLS)とは
一次救命処置(Basic Life Support:BLS)とは、心肺停止状態の傷病者に対し、救急隊が到着するまでの間に行う救命処置のことです。心肺蘇生(Cardio Pulmonary Resuscitation:CPR)や自動体外除細器(Automated External Defibrillator:AED)を用いた対応がこれにあたります。心臓が止まると、脳への酸素を供給することができなくなり、脳はダメージを受け始めます。その状態が続くと、脳は数分で回復が困難な状態に陥ってしまいます。一時救命処置は時間との勝負と言えるでしょう。
2、一次救命処置と予後
一時救命処置の有無が傷病者の予後にどのくらい影響を及ぼすかをみていきましょう。一次救命処置が行われた場合と行われなかった場合では、生存率や社会復帰率にどの程度違いがあるのでしょうか。以下の図をご覧ください。
図を見てわかるように、心肺蘇生が行われた傷病者の1ヶ月生存率は16.4%と、行われなかった場合に比べ1.8倍です。社会復帰率は11.7%で2.4倍となっています。さらに、AEDを使用した場合の1ヶ月生存率は53.3%、社会復帰率は45.4%とさらに高くなっています。このことからも、一次救命処置が非常に重要であることがわかります。
3、一次救命処置のガイドライン
日本蘇生協議会(JRC)より、「JRC蘇生ガイドライン2015」オンライン版が公開され、2016年には最終版として差し替えられています。これは救急蘇生のためのガイドラインです。市民用に日本救急医療財団心肺蘇生法委員会監修の「救急蘇生法の指針2015」も公開されています。これらのガイドラインには成人や小児への一次救命処置の方法や、急性心筋梗塞や脳卒中などの疾患への基礎知識や緊急時の対処方法についても記載されています。
4、一次救命処置のABCDと手順
一次救命処置のABCDとは何かを知っていますか。AはAirway(気道確保)・BはBreathing(人工呼吸)・CはCiculation(心臓マッサージ)・DはDegiblillation(除細動)を指しています。この手順が一次救命の重要なポイントとなります。心肺停止から1分ごとに、救命率が7~10%下がると言われています。しかし、救急隊が到着するまでにはある程度の時間がかかります。その間の迅速な対応により、傷病者の命を救うことができるかもしれません。ここでは、一時救命処置の手順(ABCD)を学んでいきましょう。
■もし倒れている人を発見したら…
①反応(意識)の有無を確認します。
倒れている人の周りの環境が安全かどうかを確認し、傷病者の肩を軽くたたきます。大きな声で呼びかけ、反応がなければ、大声で周囲に助けを求めます。自分の周りに人が集まったら、救急通報(119 番通報)と近くにAED がある場合は、AEDを持ってきてもらうよう依頼します。傷病者の反応があるのか、ないのか迷った場合も119 番通報し、救急隊へ指示を仰ぎましょう。
②呼吸があるか、心臓が動いているかを確認します。
傷病者に反応がなく、呼吸がない場合や、判断に迷う場合は、心停止とみなし、ただちに胸骨圧迫(CPR)を開始します。呼吸の確認は10秒以内にとどめるようにします。心停止直後の傷病者ではしゃくりあげるような呼吸(死戦期呼吸)がみられることがあります。この呼吸を正常な呼吸と間違えて判断してしまう場合もあるため、判断に迷った場合は胸骨圧迫を開始しましょう。
③胸骨の圧迫を開始します。
傷病者を仰臥位に寝かせ、胸骨の下半分を圧迫します。1分間あたり100~120 回の速さで、胸が約5cm程度 沈むように圧迫します。圧迫が6cm を超えないように注意してください。(小児の場合は成人の1/3程度の圧迫になります。)複数の救助者がいる場合は、お互いにその方法が適切であることを確認し、実施者を換えてながら行います。人工呼吸行える俊樹と技術のある人は、30回胸骨の圧迫をした後、人工呼吸を2回行います。
④AED が到着したら、AEDを装着します。
電極パッドを右前胸部と左側胸部に貼付します。傷病者が小児の場合は、小児用パッドを
使用し、ない場合は成人用のパッドを使用しますが、成人には小児用パッドは使用してはいけません。AED が作動し始めたら、傷病者に触れないようにします。音声メッセージに従い、ショックボタンを押して電気ショックを行います。電気ショック後は直ちに胸骨圧迫を再開します。これらの動作を、救急隊が到着するまで繰り返し行います。
以下は、一次救命処置の手順を図で表したものです。
引用:一次救命処置の手順(日本赤十字社)
5、一次救命処置の注意点
一次救命処置を行うに当たり、まず注意しなければならないことは、処置を行う場所です。危険な場所での処置は、傷病者がさらなる危険にさらされるだけでなく、救助者も巻き込まれ、二次的な被害に巻き込まれてしまう可能性もあります。十分に周囲の安全を確保した上で、一次救命処置を開始しましょう。ただし、むやみに傷病者を動かすと状態が悪化する危険性もありますので、注意が必要です。また、救助者が成人か小児科によっても、CPRの方法や使用する物品(AEDのパッドなど)が異なる場合がありますので、いずれの場合でも対応できるよう確実な知識を身につけておく必要があります。前述のように、一次救命処置は時間との勝負です。いかに早く、いかに適切に処置を行うかが重要なポイントとなり、そのためには一次救命処置に対する、正しい知識と技術を身につけておく必要があります。
まとめ
一次救命処置の重要性は理解できたでしょうか。心肺蘇生の方法やAEDの使い方については、一般の方向けにも、各地方で講習が開催されています。みなさんは自信を持って、その技術を実践できるでしょうか?松村さんの事例のように、奇跡的に命を取り留める傷病者の方がいらっしゃる一方で、救命処置が間に合わなかった方、救命処置を行っても残念ながら命を落としてしまう方がいらっしゃるのが現状です。しかし、一次救命処置が正しく行われた場合、行われなかった場合に比べ、その命を助けられる確率が確実に上がります。一次救急処置を必要とする場面に遭遇することは、それほど多くないかもしれません。万が一、その場面に遭遇した時に、対応できる知識と技術を身につけておくことは非常に重要です。学んだ手順をしっかりと再確認し、いざというときに適切な対応ができるよう、繰り返し復習していきましょう。
参考文献
救急蘇生法の指針(市民用)(厚生労働省|2015年)
「JRC蘇生ガイドライン2016」オンライン版(日本蘇生協議会|2016年)