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CRT(心臓再同期療法)の看護|適応や4つの看護ポイント

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CRTとは心室を同時にペーシングすることで、重症心不全で低下したポンプ機能を改善する治療方法です。この治療によって、心不全による呼吸困難や息切れなどの症状の改善が見込めるので、患者のQOLを大きく向上させることができます。CRTの適応とガイドライン、看護のポイントをまとめましたので、実際の看護に活かしてください。

 

1、心臓再同期療法(CRT)とは

心臓再同期療法(CRT=Cardiac Resynchronization Therapy)とは、重症の心不全に対して行われるペースメーカー療法の1つで、左右の心室を同時にペーシングして収縮させることで、心臓のポンプ機能を改善させる治療方法になります。日本では2004年から保険適用となった新しい治療方法です。

通常、心臓は洞結節から電気信号が送られ、心房を収縮させ、さらにヒス束、プルキンエ線維を通って心室に伝わり、心室が収縮して、全身に血液が送り出されます。しかし、拡張型心筋症や心筋梗塞などの疾患があると、心筋が傷害されます。そうすると、心室の筋肉の中でも電気信号が早く伝わる部分と遅く伝わる部分が出てきて、左右バラバラに収縮してしまい、ポンプ機能が低下します。

ポンプ機能が低下すれば、血液がきちんと全身に送られなくなってしまいます。それを改善するための治療方法がCRTなのです。

 

両心室ベーシング

出典:両心室ペーシング(心臓同期療法;CRT)について(京都大学医学部附属病院 循環器内科)

 

CRTでは、右心房と右心室、左心室にリード線を挿入します。こうすることで、左右の心室に同時に電気刺激を流すことができ、左右の心室が同期して収縮することができるため、ポンプ機能を改善することができます。

通常、CRTは局所麻酔を用いて、左の鎖骨下に埋め込まれますが、他の心臓手術と同時に行う場合は、開胸して左上腹部に埋め込むこともあります。

CRTはCRT-P(Cardiac Resynchronization Therapy Pacemaker)とCRT-D(Cardiac Resynchronization Therapy Defibrillator)の2種類があります。

CRT-Pはペースメーカー機能だけのもので、CRT-Dはペースメーカー機能に除細動機能が付いたものになります。

 

2、CRTの適応とガイドライン

CRTの適応は、日本循環器学会や日本心不全学会、厚生労働省研究班などが合同で作成した「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」でエビデンスに基づいて、適応を決めています。

そして、適応症例の中でも、推奨度をⅠ、Ⅱa、Ⅱb、Ⅲの4段階で分類しています。

以下の適応分類は、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」1から抜粋したものです。

ここでは、クラスⅠ(手技・治療が有効・有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している)とクラスⅡa(エビデンス・見解から有用・有効である可能性が高い)の適応を説明します。

適応分類 症状
・NYHA 心機能分類 III/IV 度で、最適な薬物治療をしても、 LVEF≦35%、左脚ブロック(QRS幅120ミリ秒以上)であり、洞調律の場合

・NYHA心機能分類II度で、最適な薬物治療をしても、LVEF≦30%、左脚ブロック(QRS幅150ミリ秒以上)であり、洞調律の場合

Ⅱa ・NYHA 心機能分類 III/IV 度で、最適な薬物治療をしても、LVEF≦35%、左脚ブロック(QRS幅150ミリ秒以上)であり、洞調律の場合

・NYHA 心機能分類 III/IV 度で、最適な薬物治療をしても、LVEF<50%、ペースメーカあるいは ICDの適応であり、高頻度に心室ペーシングに依存することが予想される場合

・NYHA 心機能分類 III/IV 度で、最適な薬物治療をしても、 LVEF≦35%、左脚ブロック(QRS幅120ミリ秒以上)もしくは非左脚ブロック(QRS幅150ミリ秒以上)で、高頻度でペーシングが可能な心房細動がある場合

・NYHA心機能分類II度で、最適な薬物治療をしても、LVEF≦30%、非左脚ブロック(QRS幅150ミリ秒以上)であり、洞調律の場合

・NYHA心機能分類II度で、最適な薬物治療をしても、LVEF<50%、ペースメーカあるいは ICDの適応であり、高頻度に心室ペーシングに依存することが予想される場合

 

このようなガイドラインの適応分類を見ても、難しくて良くわからないという看護師さんが多いと思いますので、簡単にCRTの適応を説明します。

・心室の同期障害がある

・薬物治療をしても心不全の状態が改善しない

・QRS幅が120ミリ秒以上ある

・心臓のポンプ機能が悪く、LVEF(左室駆出率)が低下している

このような状態の患者には、CRTが適応となる場合が多いです。

 

3、CRTの患者への看護の4つのポイント

CRTの埋め込み手術をした患者への看護のポイントを4つ説明していきます。

 

■レスポンスやリード離脱の観察

CRTは重症心不全の有効な治療方法ですが、ガイドラインで適応になっている症例だったとしても、治療効果が表れず、心機能が改善しないこともあります。70%はCRTの埋め込み後に心機能の改善が見られますが、30%は治療効果が現れないとされています。2

CRTを埋め込み治療効果が出ていれば、術前よりもQRS幅は短縮されますので、看護師はCRTの術後は治療効果が出ているかどうか、心電図を観察していく必要があります。

また、リードが確実に固定されるまでには1~2ヶ月かかりますので、CRTの術後はリードの離脱や移動のリスクがあります。リードの離脱や移動が起こったかどうかも、心電図を観察していれば発見できます。

 

■術後合併症の予防

CRTの埋め込み手術では、次のような合併症が起こるリスクがあります。

・気胸

・血胸

・出血

・圧迫壊死

・感染

この中で最も注意しなければいけない合併症が感染です。CRTに限ったデータではありませんが、ペースメーカーの感染は施設によって異なるものの、0.7~6%3となっています。

もし、CRTの術後に感染が起これば、心内膜炎などを引き起こすリスクがあるため、リードを摘出し、場合によっては開心術を行わなければいけないこともあります。そのため、看護師は術後の感染に気を付けて、観察をしなければいけません。

創部の発赤や腫脹、熱感、疼痛の有無、発熱の有無、血液検査データなどを観察し、創部の清潔を保持して、感染の予防・早期発見に努める必要があります。

 

■横隔神経刺激の説明や観察

CRTでは左心室のリードは左心室内ではなく、左心室の表面を走行する冠状静脈に留置します。そのため、心臓に沿うようにして走行している横隔神経を刺激してしまうことがあります。横隔神経を刺激すると、横隔膜が収縮しますので、しゃっくりが起こります。この横隔神経刺激があまりにもひどい場合は、左室リードの植え替えを検討しなければいけません。

寝返りなど体位を変えた時に、この横隔神経刺激が起こることが多いですが、横隔神経刺激が突然起こると、患者は不安になりますので、看護師はあらかじめ横隔神経刺激を説明しておき、症状が出ているかどうかを観察する必要があります。

 

■退院指導

CRTの埋め込み手術をして1~2週間後には退院になることが多いです。看護師は患者が安全に退院後の日常生活を送ることができるように、しっかりと退院指導をしていかなくてはいけません。

・定期健診を受けること

・術後数ヶ月は患側の上肢を激しく動かさないこと

・リードやCRT本体に負担がかかるような激しいスポーツは避けること

さらに、CRT-Dの患者の場合はIH機器や磁気を発生させるものに近づかないなど、除細動機能が誤作動せずに日常生活を送ることができるように、退院移動をしていく必要があります。また、患者本人だけでなく、家族への指導も重要ですので、家族も一緒に退院指導をするようにしましょう。

 

まとめ

CRTの基礎知識や適応・ガイドライン、看護の4つのポイントをまとめました。

CRTは重症心不全の有効な治療方法で、患者さんのQOLを大きく向上させることができます。看護師は4つの看護のポイントを念頭に置きながら、患者だけでなく家族に対しても、看護をするようにしましょう。

 

参考文献

1) 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」(日本循環器学会|2018年6月更新)

2)CRTとは(大阪医科大学 外科学講座 胸部外科学教室)

3)ペースメーカー感染症例(Therapeutic Research vol.33 No.11|勝本慶一郎 石黒俊彦|2012年)


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