上腕骨近位端骨折や肋骨骨折の保存療法で使われるバストバンド。バストバンドを使用することで、患部が安定し、動作による痛みが軽減するため、整形外科ではよく用いられます。肋骨骨折は高齢者の日常生活でも生じることがあり、家のテーブルやタンスの角で胸をぶつける、室内での転倒など、軽度のエネルギーで受傷する方が後をたちません。上腕骨近位端骨折も同様に高齢者の転倒で生じることがあり、若い人の場合はスポーツや事故で受傷することがあります。バストバンドは使い方を間違えば、呼吸苦や皮膚トラブルを生じることがあるので使用には注意が必要です。今回は、バストバンドを用いた固定の方法と観察ポイントを紹介します。
1、バストバンドとは
バストバンドとは、通称胸部固定帯ともいわれ、主に肋骨骨折の保存療法や、上腕骨近位端骨折の術前の患者に使われます。伸縮性がありマジックテープで固定できるため、様々な体型の患者に使用可能です。
出典:アルケアバストバンド・エース(ASKUL)
2、バストバンドの目的
バストバンドの目的は、骨折部の保護と安静の保持です。骨折部は少しの体動で激しく痛みますが、バストバンドを装着することで患部が安定し、痛みが軽減されるのです。
2-1、肋骨骨折のバストバンド適応
肺や心臓、血管の損傷を伴っていない肋骨骨折の場合にバストバンド固定を行います。肋骨骨折は基本、保存的治療が原則です。骨折、不全骨折、レントゲンで骨折がはっきりしない打撲の場合でも同様にバストバンド固定を行うことがあります。骨折部痛が強いときには、鎮痛剤やシップを併用し様子を見ます。転位が激しい骨折の際は手術を行うことがありますが稀です。
2-2、上腕骨近位端骨折のバストバンド適応
転位の少ない場合、3~4週間の三角巾固定とバストバンド固定を行います。固定期間中も手指の腫れを軽減させるため、痛みや腫脹の程度に応じ手指のリハビリを積極的に行います。
3、バストバンド固定の方法(肋骨骨折の場合)
バストバンドは正しく使用しなければ皮膚障害や循環障害を起こすので注意が必要です。
3-1、必ず肌着の上から着用する
肌着なしで直接装着すると、皮膚障害が生じやすくなります。
3-2、骨折部に広い帯面がくるよう取り付ける
広い帯面がくるように取り付けることで患部が安定しやすくなります。
3-3、息を吸い込んだタイミングで上のマジックテープをとめる
呼吸のしづらさが生じないように、息を吸い込んだ時点でテープを止めます。
3-4 息を吐いて下側のテープを止める
下側のテープはウエストに近く、上のテープと同様に止めると緩んでしまいますので、息を吐いた時点で下のテープを固定します。
これで完了です。
出典:肋骨骨折~胸部固定帯の使用法~(宏洲整形外科医院)
4、バストバンド固定の方法(上腕骨近位端骨折の場合)
上腕骨骨折の場合、自分で巻くことは難しいので、医療者が実施します。
4-1、肌着の上から装着する
肋骨骨折の時と同様、バストバンドの下には下着やパジャマを着るようにしましょう。腕を固定するので、袖のある服を選びます。
4-2、三角巾を装着する
このとき腕が下垂しないように注意しましょう。循環を妨げないために、手首側が肘より少し上になるように結びます。
三角巾の装着方法については、以下の動画を参考にしてください。
出典:誰でも簡単!三角巾の使い方(東京有明医療大学)
4-3、三角巾の上からバストバンドを装着する
体幹側面に上腕がぴったりくっつくように巻きます。呼吸が妨げられないよう、肋骨骨折の時と同様、息を吸った時にテープを止めます。
4-4、下側のテープは患側を包み込むようにして止める
両方のテープを患側の上に止めてしまうより患側を包み込むよう止めた方が患肢が安定します。
出典:肩関節脱臼の整復・固定(大宮医療専門学校)
5、バストバンド固定中の3つの看護計画(肋骨骨折の場合)
①■看護計画:骨折による安楽障害
■看護目標:骨折部痛が軽減する
観察項目
・骨折部痛の程度
・表情、言動 ・皮下出血の有無 ・夜間睡眠状況脹の有無 ・鎮痛剤の副作用の有無 ■上腕骨近位端骨折の場合 ・手のしびれの有無 ・手指の動き(グーパーの動きはできるか) ・母指IP関節の自動屈曲ができるか(正中神経範囲) ・示指と中指の自動屈曲ができるか(正中神経範囲) ・母指IP関節、手指MP関節の自動屈曲ができるか(橈骨神経範囲) ・ ■肋骨骨折の場合 ・SPO2(肋骨骨折の場合) ・呼吸困難の有無(肋骨骨折の場合) |
ケア項目
・痛みに応じ鎮痛剤使用
・バストバンド固定 ・バストバンドの下から三角巾固定(上腕骨近位端骨折の場合) ・必要時体位変換 ・咳、くしゃみの際は患部を押さえ、小さくこわけにして咳をするよう指導する(肋骨骨折の場合) |
指導項目
・バストバンドの装着方法を本人、家族に指導する
・バストバンド装着中に気を付けるポイントを本人、家族に指導する ・痛みがひどい際はナースコールするよう説明する ・安静時に呼吸苦が出た場合は直ちにナースコールするよう指導する(血気胸、肺挫傷の可能性あるため) |
②■看護計画:転倒リスク状態(骨折痛による動きの制限から)
■看護目標:入院中転倒しない
観察項目
・年齢(75歳以上は特に転倒リスク高し)
・睡眠剤の内服の有無 ・痛みの程度 ・ADL ・トイレまでの距離 ・急激な環境の変化があるか ・認知症、せん妄の有無 |
ケア項目
・筋力低下がみられる場合や骨折痛が強く離床できない場合は、ADLに応じて尿道バルーン設置
・トイレまでの距離がある場合、夜間ポータブルトイレ使用 ・ふらつきある場合移動時見守り行う ・認知症、不穏行動あれば必要時センサーマット設置 |
指導項目
・ふらつきあれば移動時ナースコールするよう説明
・ズボン上げ下ろし介助が必要な際はナースコールするよう説明 |
③■看護計画:皮膚統合性障害リスク状態
■看護目標:バストバンドによる皮膚トラブルを生じない
観察項目
・バストバンドの固定が強すぎないか
・バストバンド接触部の皮膚の状態 ・バストバンド接触部に痛みは生じていないか ・シップ使用の際はシップによるかゆみ、かぶれがないか確認 ・検査データ(ALB、TP、ヘモグロビン) ・発汗の有無 ・体重 ・皮膚脆弱性 ・食事摂取量 |
ケア項目
・訪室時バストバンドの固定確認
・バストバンド下に違和感あれば巻き直す ・発汗があれば必要に応じて清拭、着替えの実施 |
指導項目
・皮膚に痛み、かゆみ感じればナースコールするよう説明
・発汗した際は着替えの促し |
まとめ
肋骨骨折や上腕骨近位端骨折の保存療法として使われるバストバンド。バストバンド固定により骨折部が安定し、痛みが緩和され快適に日常生活が送れる一方で、巻き方を間違えれば皮膚トラブルや循環障害を起こすこともあるため、本人や家族への指導が必要です。病棟でバストバンド固定中の患者さんに出会った際は、わかりやすい生活指導を意識して行いましょう。高齢者の場合、再度自宅で転倒して骨折を起こすことも考えられるため、転倒しないよう自宅環境の整備、介護サービスの導入なども、本人家族と相談して退院後の生活が安心して送ることができるようサポートを行っていきましょう。
参考文献
・ビジュアル整形外科看護(株式会社照林社 P20 105-106|佐々木由美子、黒佐義郎|2013年6月10日)
・上腕骨近位端骨折(一般社団法人日本骨折治療学会)
・肋骨骨折(一般社団法人日本骨折治療学会)