酸素吸入は医療現場のみならず、近年在宅で酸素を使用する患者さんが増えています。低酸素血症が持続する患者さんには、酸素療法が長期にわたって行われます。退院後、在宅で酸素吸入を継続的に行っていく上で、私たち医療者は患者さんが安全かつ適切な酸素療法が続けられるよう正しい教育を行い、患者自身にもきちんと理解してもらった上で日常生活が送れるよう援助していかなければなりません。
1、在宅酸素療法(HOT)とは
在宅酸素療法とは、Home Oxgyen TherapyのことでHOT(ホット)と呼ばれます。医療業界では皆さんもご存知の通り『ホット』と言う言葉をよく使用すると思います。在宅酸素療法は、慢性呼吸不全・慢性心不全などにより持続的な酸素投与を必要とし、治癒ではなく、患者を安定した状態に維持し、QOLを向上させる目的で長期にわたり自宅で酸素吸入を行うことです。HOTの導入により、退院をして「自宅で生活する」、「社会復帰する」ことが可能となり、患者及びその家族に充実した社会・家庭生活を営む機会をもたらします。
2、在宅酸素療法の適応基準
在宅酸素療法を行うためにはいくつかの基準があり、それらの条件を満たすことで健康保険を適応して在宅での酸素吸入が可能となります。厚生省で定められた適応基準に従い医師が判断し、酸素療法の必要の有無を決めます。
1、慢性呼吸不全の人(原疾患にCOPD等があり、1ヶ月以上呼吸不全が持続する場合)で、症状が安定している者
2、平常時の動脈血酸素分圧が55Torr以下の者及び動脈血酸素分圧が60Torr以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす者
3、医師が酸素療法を必要と認めた者
疾患別には以下のものが挙げられます。
①肺高血圧症 慢性的な低酸素血症により循環血液量が増大し肺性心を伴う
②チアノーゼ型先天性心疾患 大血管転移症、三尖弁閉鎖症、ファロー四徴症、単心室、総動脈管症などのチアノーゼ性心疾患のうち、発作的に低酸素、無酸素状態になる
➂高度慢性呼吸不全 安静時PaO255mmHg以下、または、PaO260mmHg以下で睡眠時・運動負荷時に著しい低酸素症をきたす場合
④慢性心不全 心機能分類III度以上の慢性心不全で、睡眠時チェーン・ストークス呼吸が見られ、無呼吸低呼吸指数が20以上ある※近年では在宅酸素療法の適応を拡大する傾向にあり、日本胸部疾患学会で決められた基準に従い、必ずしも基準を満たさない症例にも導入され、効果的に用いられています。
引用元:HOT(在宅酸素療法)(フクダ電子)
2−1、在宅酸素療法の禁忌
在宅酸素療法の禁忌として以下のような場合には、原則として適応されません。
1、臨床的に病状または病態が不安定な場合
2、酸素流量をしばしば変更する必要がある場合
3、酸素流量を3L/分以上として投与しなければ動脈血酸素分圧が目標値に達しない場合
4、酸素投与によりCO2蓄積が増悪する場合
3、在宅酸素療法の看護
在宅酸素療法を受ける患者の目標は、病状を安定した状態に保ち、残された心肺機能を効果的に活用して、その人らしい質の高い生活が送れることです。私たち医療者は、患者自身の状態や、その人の生活背景を念頭に基本的な日常生活が安全・安楽に送れるよう援助していく必要があります。
3−1、在宅酸素療法の看護計画
導入に際しては、患者が自分の疾患や現在の状態、酸素吸入の必要性を十分に理解する必要があります。また、疾患の推移についてもきちんと理解できているかを確認し、心理面にも十分に配慮しながら前向きに考えられるような関わりが必要です。
目標①在宅酸素療法について理解し、適切な管理と状態の把握・定期的な受診ができる
OP
1、呼吸状態:呼吸数・リズム・呼吸困難の有無
2、経皮的酸素濃度
3、チアノーゼの有無・爪の色
4、臨床検査所見
5、循環状態
6、感染兆候の有無
7、胸部X線写真
8、酸素流量や濃度は適正であるか
9、カニューレが正しく装着されているか
10、酸素チューブに漏れや屈曲、閉塞がないか
11、体重の増減
12、浮腫
13、心理・社会的側面
TP
1、患者やその家族が酸素管理を正しくできるか評価する
2、パルスオキシメーターを用いて経皮的酸素濃度を測定する
3、定期的にPaO2・PaCO2の測定を行いながら効果と流量の適否を評価する
4、定期的な外来受診、または医師・保健師の訪問により病態を把握し、必要に応じた対策を取る
EP
1、患者およびその家族に対し酸素療法の意味、危険、機器の取り扱い、治療中に起こり得る危険な徴候、医師との連絡方法について説明し、十分な理解・協力が得られるようにする
2、低酸素血症・高炭酸ガス症状についての具体的な説明を行い、先の症状が認められた場合は直ちに受診・連絡するよう説明する
3、感染徴候がみられた場合には呼吸状態の悪化に繋がる可能性があるため、早めの受診・相談をしてもらうよう説明する
4、在宅酸素を行うにあたって不安なことや質問を聞き、不安の軽減・解消に努める
5、定期的な受診の必要性を説明し理解を得る
目標②症状の管理と合併症への対処ができる
OP
1、バイタルサイン
2、発汗の有無
3、頭痛
4、嘔気・嘔吐
5、全身の紅潮
6、意識障害
7、不眠
8、呼吸リズムのパターン
9、喘鳴
10、患者の訴え
11、ストレスの蓄積の有無
TP
1、指示量を守った酸素吸入
2、喀痰喀出を促す
3、水分補給
4、医師の指示による薬物吸入
5、安楽な体位の工夫
6、ADLに応じた日常生活支援サービスの利用
EP
1、咳による排痰法や体位ドレナージについての指導を行う
2、呼吸困難増強時は受診してもらうよう説明する
3、水分補給の必要性について説明・指導を行う
4、起坐位やファーラー位など、安楽な体位の取り方について説明、患者にとって安楽な体位が工夫できるよう援助する
5、リラクセーションのための腹式呼吸や口すぼめ呼吸等のやり方を実際に行いながら説明・指導する
6、呼吸困難の出現を予防する生活習慣の必要性について説明する
7、家族を含め周囲の協力が得られるよう患者の現状や起こり得る状態の増悪や対処法について医師を含め説明を行う
8、緊急時の対処方法について患者やその家族とともに確認する
4、在宅酸素療法における注意点
酸素はそれだけで燃えることはありませんが、燃え方を早くする助燃性があります。このため、近くで火を使うことは厳禁です。患者やその家族に説明をする際には、以下の点をふまえ理解度を確認しながら話を進めていきましょう。
①火気や可燃性のあるものの近くに置かない(線香の火・ろうそく・電気ストーブなど)また、火気を使用しているところから2m以上離れる
②水のかからないところに設置する
③直射日光の当たらないところに設置する
④緊急用ボンベを装置のそばに置く
⑤転倒しないよう、傾斜や凹凸・振動・不安定な場所は避ける
➅壁から15cm以上離して設置する
⑦風通りの良い換気が良い場所に設置する
⑧たこ足配線を使用しない
➈消火器を近くに備えて置く
⑩鼻カニューラをつけた状態や近くでタバコを吸わない(顔の熱傷、死亡事例の報告があり)1)
引用元:在宅酸素療法(美沢メディカルサービス)
まとめ
在宅酸素療法の普及により、患者のQOLの向上や日常生活・社会復帰が可能となりました。しかし、在宅酸素療法はメリットだけではなく、注意しなければならない点や患者の病態変化など、不安要素もあります。退院して自宅に戻る患者やその家族には、病気についてだけでなく、酸素の取り扱いについて正しく的確な説明と理解が求められます。様々な年代の患者が在宅酸素療法を行うため、私たち医療者は患者やその周囲の環境にも配慮しながら継続的な看護をしていく必要があります。
参考文献
1)在宅酸素療法における火気の取扱いについて(報道発表資料|厚生労働省|平成29年7月7日現在)
在宅酸素療法の新しい適応基準 – J-Stage(日内会誌84|佐久間哲也、栗山喬之|1995年)
Home Oxygen Therapy in Japan(英文)(JMAJ 54(2)|kozui kida|2011)
在宅 (長期)酸素療法の適応基準(日本胸部疾患学会雑誌Vol.26 No.8|川上義和|1988年)