呼吸不全は、病態を理解していなければひたすら高濃度の酸素を投与し、下手すると病状を悪化させることにつながります。Ⅰ型・Ⅱ型の違いを理解し、どのような看護が求められるか考えることが必要です。
1、呼吸不全の定義
呼吸不全とは、『室内空気呼吸時の動脈酸素分圧(PaO₂)が60Torr(mmHg) 以下となる状態』を意味します。呼吸不全はその病態によって全く治療法がことなるため、今回は基本となる2つの分類をしっかり学び、看護計画立案につなげます。
2、呼吸不全を理解するなら絶対に抑えたい、基本的な分類
呼吸不全は、発症の速度や病態(原因)によって異なる分類の方法があります。一般的に、発症してから呼吸不全の続く期間が1か月未満の場合を急性呼吸不全、1か月以上続く場合を慢性呼吸不全と分類されます。また、病態による分類はⅠ型とⅡ型に分けられ、Ⅰ型は単純に酸素が足りない状態、Ⅱ型は酸素が足りない上に二酸化炭素を吐き出すことができずに身体の中に溜まってしまう状態です。
Ⅱ型は更に、肺胞気-動脈酸素分圧較差(A-aDO₂)が開大するものと、開大せず正常範囲にとどまるものに分けられます。A-aDO₂は簡単に言ってしまうと理想と現実のギャップを現したもので、肺胞と全身の動脈血の酸素分圧の差のことです。正常なガス交換ができていれば、肺胞でPaO2が100TorrならA-aDO₂に5~15Torrの差が生じる程度ですが、これ以上大きく開大することはありません。しかし、正常なガス交換ができなくなると、A-aDO₂は開大します。Ⅰ型は全てにおいて開大しますが、Ⅱ型は正常範囲内も存在します。
<発症形式による分類>
・急性呼吸不全
・慢性呼吸不全 ・慢性呼吸不全の急性増悪 |
<病態による分類>
Ⅰ型呼吸不全 | (PaO₂≦60Torr、PaCo₂≦45Torr) | ・間質性肺炎
・肺水腫 ・ARDS(急性呼吸窮迫症候群) ・無気肺 ・肺血栓塞栓症 ・肺動静脈瘻 |
Ⅱ型呼吸不全 | (PaO₂≦60Torr、PaCo₂>45Torr) | |
①A-aDO₂が開大する | ・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・気管支喘息の発作時 |
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②A-aDO₂が正常範囲 | ・原発性肺胞低換気症候群
・呼吸中枢の抑制 (脳血管疾患、睡眠薬の過量服用など) ・神経、筋疾患 (ギランバレー症候群、進行性筋ジストロフィー、重症筋無力症など) |
3、呼吸不全の原因
呼吸不全を起こす原因は、Ⅰ型とⅡ型で違います。Ⅰ型は、酸素が入ってきても取り込みができない状態です。肺胞の一部でガス交換機能が低下してしまうことによる換気血流不均等の増強や拡散障害、右‐左シャントの存在で酸素化されない静脈血が動脈血に混ざることで、PaO₂が低下してしまいます。
Ⅱ型はこれに加え、呼吸によって発生した二酸化炭素を身体の外に吐き出すことができない状態です。呼吸運動が低下したり肺胞全体に出入りする空気の量が低下したりすることで、肺胞低換気を起こします。
Ⅰ型とⅡ型では、一般的にⅠ型呼吸不全の方が予後不良とされています。Ⅱ型の場合、二酸化炭素が溜まってしまうCO₂ナルコーシスを恐れて酸素投与を躊躇することもあると思います。しかし、CO₂ナルコーシスは人工的に換気させれば回復しますが、低酸素による脳障害は致命的でかつ不可逆的です。Ⅱ型の呼吸不全に対する酸素投与は注意が必要ですが、低酸素の方が断然危険度は高いのです。
4、呼吸不全の症状と治療
Ⅰ型の呼吸不全は、酸素が不足することによって呼吸困難・チアノーゼ・頻脈・意識障害が起こります。ですから、治療の根本は不足している酸素を補うことになります。症状が落ち着いて退院するなら、自宅でも高濃度の酸素を吸入できるように在宅酸素療法(HOT)を導入します。HOTには、自宅に酸素濃縮器を設置してそこからカニューレを伸ばす方法と、酸素ボンベを持ち歩く方法があります。酸素ボンベは、外出するときにだけ使用するのが一般的です。
<携帯用酸素ボンベ>
引用:在宅酸素療法について(大阪警察病院)
<自宅用酸素濃縮器>
引用:酸素濃縮装置ハイサンソ® (帝人ファーマ株式会社)
一方でⅡ型の呼吸不全は、酸素も不足していますが体内にCO₂が貯留することで呼吸中枢を抑制し、更に自発呼吸を弱めてしまいます。そしてCO₂ナルコーシスを起こします。
CO₂ナルコーシスは下の症状の出現に注意する必要があります。
<CO₂ナルコーシスの症状>
・頭痛
・意識障害(傾眠・昏睡・けいれん) ・血圧上昇 ・頻脈 ・四肢の振戦 |
これらの症状を改善し、体内に溜まったCO₂に陽圧をかけて強制的に吐き出させるようにするのが、非侵襲的陽圧換気(NIPPV)です。気管挿管をせずに非侵襲的に行うことができるのが最大のメリットですが、正しく装着しなければ圧が漏れてしまい、効果は減退してしまいます。
引用:二相式気道陽圧ユニットNIPネーザル®(帝人ファーマ株式会社)
酸素が足りない(PaO₂≦60Torr)という状態は、Ⅰ型もⅡ型もどちらも存在しますが、換気が良好かどうかで行う治療・使用する器具が全く異なります。いくら低酸素を恐れてはいけないとは言え、Ⅱ型の患者に二酸化炭素を吐き出す治療を取り入れなくては、症状を改善させることはできません。私達看護師も、患者の病態を把握していなければ、効果的な治療と必要な看護を行うことができなくなってしまいます。
5、 呼吸不全を起こしている患者の看護問題
呼吸不全を起こしている患者は、身体的なガス交換の問題だけではなく、呼吸ができないことによる不安感や、酸素やNIPPVによる精神的ストレスに圧迫部位の褥瘡など、看護師が介入すべき看護問題は多々あります。
今回は急性呼吸不全の状態にある患者の看護問題として、一番基本となるものを挙げてみました。慢性呼吸不全の場合や循環障害などについては、ここから応用することができるでしょう。
<看護問題>
①ガス交換障害による低酸素血症
6、 呼吸不全を起こしている患者の看護目標・看護計画
<看護目標>
①呼吸状態が安定し、呼吸不全による苦痛が軽減する。
②呼吸状態の変調を早期に発見し、対応する。
<看護計画>
O-P
1.バイタルサイン(SpO₂、呼吸数、血圧、脈拍、体温)
2.チアノーゼ、顔色、冷汗の有無 3.呼吸状態(努力呼吸の有無、呼吸困難の程度) 4.咳嗽の有無・程度 5.喀痰の有無・程度・性状(色) 6.酸素投与量、もしくはNIPPVの指示内容 7.6の使用状態(装着の状態、しっかりフィットしているか) 8.画像データ(胸部x-p、胸部CT) 9.採血データ(血液ガス含む) 10.投薬内容 11.IN/OUTバランス 12.酸素マスクやNIPPVマスクによる圧迫部位の皮膚状態 13.安静による褥瘡の有無 |
T-P
1.バイタルサイン、呼吸状態の観察
2.医師の指示量の酸素投与もしくはNIPPVの使用 3.ファウラー位など、安楽な体位を患者と相談する 4.最低2時間に一回の体位交換(背抜き)を行う 5.咳嗽やタッピング・体位ドレナージを行い、喀痰を促す 6.喀痰の喀出が困難な場合、吸引して除去する 7.医師の指示により、吸入を行う 8.口腔ケアを行う 9.酸素マスクやNIPPVマスクの圧迫部位に、必要時クッションや保護剤を使用する 10. 環境整備(ベッド上生活によるストレスを軽減するため) |
E-P
1.呼吸状態の変調があれば、すぐに知らせるよう説明する
2.喀痰を喀出することの必要性、また体位ドレナージ・タッピングの有効性を説明する 3.治療状必要な酸素投与やNIPPVの使用について指導する |
まとめ
呼吸不全の看護は、急性か慢性化でも違いますが、換気不足があるかによって異なります。急性の酸素不足は人工呼吸器の管理が必要になることもありますし、慢性的な酸素不足の場合はHOTの指導が必要になります。また、換気不足の場合はCO₂ナルコーシスへの注意とNIPPVの管理・指導も必要になります。呼吸不全といっても、患者の病態によって看護師の役割も異なります。まずはその患者の病態生理を把握し、その上で看護問題は何かを考え、計画を立案していきましょう。
参考文献
呼吸器の病気(一般社団法人 日本呼吸器学会|2017年2月3日)
呼吸不全の病態生理(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 第26巻第2号 158-162|一和多俊男|2016年)
病気がみえる vol.4呼吸器(MEDIC MEDIA|2013年3月)