1分間の心拍数が50回よりも減ってしまうことを、一般に徐脈と言います。徐脈は徐脈性不整脈によって起こります。今回は徐脈性不整脈の型を覚え、その治療法と看護計画の立案へつなげていきます。
1、徐脈とは
徐脈は正式には徐脈性不整脈といい、心拍の遅くなる不整脈を意味します。マラソンランナーなどのように治療の必要がない徐脈もありますが、脳への血流不足から失神発作を起こしてしまうケースもあり、場合によってはペースメーカーの埋め込み術が必要となる不整脈です。
2、意外にシンプル!? 徐脈性不整脈の原因は、たった2つ
心臓の電気的興奮は本来、洞結節からの刺激が房室結節を経て、ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維という順で広がっていきます。
徐脈性不整脈は、
①洞結節からの刺激が出ない
②刺激の伝導がうまくいかない |
のどちらかが原因で起こります。
①刺激そのものが出ない疾患は、洞不全症候群(SSS:sick sinus syndrome)で、心拍数は50回以下となります。②刺激がうまく伝わらない疾患は房室ブロックで、1度から3度まで4種類の型があります。1度房室ブロックで自覚症状が出ることはあまりないため治療対象とはなりませんが、2度になると自覚症状も出て治療対象となります。特に2度Ⅱ型と3度は危険性が高く、薬剤にも反応しにくいためペースメーカーの適応となります。
<徐脈性不整脈>
①洞結節からの刺激が出ない | 洞不全症候群 | |
②刺激伝導がうまくいかない | 1度房室ブロック | |
2度房室ブロック | ウェンケバッハ(Wenckebach)型 | |
2度房室ブロック | モービッツ(Mobits)Ⅱ型 | |
3度房室ブロック(完全房室ブロック) |
■1度房室ブロック
QRS波が脱落することはなく、障害の部位は多くが房室結節にあります。迷走神経の過緊張によって、一過性に起こることもあります。
■2度房室ブロックのウェンケバッハ(Wenckebach)型
モービッツⅠ型とも呼ばれ、PQ間隔が次第に伸びて心室への興奮が脱落するものです。これも障害部位のほとんどが房室結節なので、アトロピンなどの薬剤に反応して脈拍数を上げることができます。ここまでは、比較的危険度の低い房室ブロックです。
■2度房室ブロックのモービッツ(Mobits)Ⅱ型
PQ間隔の延長がなく突然ストンと心室への興奮が脱落します。
■3度房室ブロック
完全房室ブロックとも呼ばれます。完全に心房と心室の連携が途絶え、それぞれが勝手に刺激を出しています。本来の刺激伝導を通らないので、心室が補充収縮を出してなんとか最低限の心拍数を維持しようとしますが、いつこの補充調律(補充収縮が続くもの)が止まるかわからないので非常に危険な状態です。
2―1、各徐脈性不整脈の心電図波形をマスターしよう
では、徐脈性不整脈を起こす原因疾患となる洞不全症候群と房室ブロック、それぞれの心電図波形を見比べてその違いをマスターしましょう。
<徐脈性不整脈の心電図波形>
<洞不全症候群(SSS:sick sinus syndrome)>
・P波の数が少ない
・場合によっては、10秒以上洞結節から刺激がでないこともある
<1度房室ブロック>
・P波に続くQRS波までが0.2秒を超える
・QRSの脱落はない
<2度房室ブロック - ウェンケバッハ(Wenckebach)型>
・徐々にPQ間隔が延長し、1拍QRSが落ちる(図の3拍目と4拍目の間)
<2度房室ブロック -モービッツ(Mobits)Ⅱ型>
・PQ間隔の延長はなく、突然QRS波が抜ける(図の3拍目のP波の後ろ)
<3度房室ブロック(完全房室ブロック)>
・P波はP波、QRS波はQRS波と、それぞれ独自に等間隔で興奮している
・心室が自己を守るために補充収縮を出している
3、徐脈性不整脈を起こしたら、どんな症状が出るのか
マラソンランナーでは、1分間の心拍数が30回~40回という人が珍しくありません。これは心拍が上がり過ぎないように自己防衛機能が働いた結果です。しかし、一般の人がこの回数しか拍動しなかったら、血液を全身にまわすことができません。特に脳は低酸素に弱く、血流が不足すれば酸素が供給されなくなるので、意識障害を起こします。
徐脈性不整脈はそれぞれの障害されている部位が違うので、伝導障害のメカニズムは違います。しかし、酸素不足という状態は同じなので、徐脈による症状はほぼ同じです。
<徐脈によって起こる症状>
・眩暈、眼前暗黒感
・息切れ ・失神発作 ・易疲労感 ・動悸 ・心不全(房室ブロック) |
4、徐脈性不整脈の治療法
徐脈性不整脈のうち、1度房室ブロック(や2度房室ブロックのウェンケバッハ型で症状のない場合)は、治療を必要としません。しかし、<徐脈によって起こる症状>に該当する症状がある場合や洞不全症候群・2度房室ブロックモービッツⅡ型・3度房室ブロックは治療が必要です。
徐脈性不整脈には、内服薬と人工ペースメーカー埋め込みの2つの治療法があります。徐脈性不整脈による薬物治療は(アトロピン・イソプロテレノールなど)、迷走神経(副交感神経)を抑制して交感神経を優位にすることで作用します。洞結節と房室結節には迷走神経が分布されているため、これらが有効です。しかし、ヒス束以下の右脚・左脚・プルキンエ線維には迷走神経の分布がないため、薬の効果は得られません。
軽度の場合は内服薬による治療が可能です。内服薬では口喝や動悸といった副作用があり、また心拍数の微妙な調整をすることは難しいため、安定した効果が得られにくいのが難点です。
内服薬によるコントロールがつかない場合、ホルター心電図により高度の洞停止が認められた場合、2度房室ブロックのモービッツⅡ型・3度房室ブロックではペースメーカーによって人工的に刺激を出し、一定回数の心室の収縮を確保する必要があります。
<MRI可能な最新ペースメーカー>
引用:Advisa MRI(日本メドトロニック)
参考動画:ペースメーカーの挿入手技(大分県立病院 循環器内科)
5、徐脈性不整脈の患者への看護計画
ここでは、徐脈性不整脈に対しペースメーカーを挿入した患者への看護として、下記の看護目標を挙げて計画を立案していきます。
看護目標:ペースメーカー埋め込み術による合併症の早期発見と予防に努める
ペースメーカーの作動不全を早期に発見し、対処することができる
5-1、徐脈の観察項目
1.バイタルサイン(脈拍、血圧、体温、SpO₂、呼吸数)
2.モニター波形(術前・術後の変化、ペーシング不全の有無) 3.自覚症状(眩暈、息切れ、動悸、疲労感など)の術前と比較した変化 4.ペースメーカーの設定(DDD、VDD、VVI、AAIなど) 5.創部の状態(皮下出血、創部出血、発赤、疼痛) 6.足背動脈、橈骨動脈触知の可否(塞栓症の徴候がないか) 7.患側上肢の固定状態と血行動態(痺れ、疼痛、皮膚色) |
5-2、徐脈の看護ケア
1.創部の包交と感染徴候の有無を観察する。
2.各勤務で、側肺動脈・橈骨動脈の触知を確認する。 3.モニターチェックを行い、ペーシング不全がないか観察する。 4.医師の指示があるまで、患側の上肢を固定する。 5.抗生物質の投与など、医師に指示された薬剤の確実な投与と管理を行う。 6.身体障害者手帳の交付など、必要な手続きの説明を行う。 7.今後のペースメーカーチェックの流れや受診方法を説明する。 8.ペースメーカーの作動不全が起こった場合の症状(動悸・息切れ・胸痛・眩暈・冷や汗等)と、症状が出たときの病院への連絡方法を説明する。 9.退院後に社会生活を送る中での注意事項、自己チェックの必要性を説明する。 |
まとめ
徐脈が著しくペースメーカーの埋め込みが必要となった場合には、突然健常者から身体障害者1級という立場になるため、身体的なケアだけではなく社会復帰までの精神的なケアも必要です。また、社会復帰してからのペースメーカーとの付き合い方や事務的なことも含め入院中に指導しておく必要があります。
参考文献
不整脈(医療法人徳洲会名古屋徳洲会総合病院心臓血管外科)
ペースメーカーナビ(セント・ジュード・メディカル株式会社)
病気が見える Vol.2 循環器(MEDIC MMEDIA)