過換気症候群はストレスや不安などの精神的な原因で、呼吸が速く浅くなる発作が誘発される病気です。過換気症候群の治療には、以前はペーパーバッグ法が使われていましたが、危険性が高いので、現在は行われていません。
過換気症候群の原因や症状、治療法、正しい6つの対処方法をまとめました。過換気症候群の患者の看護をする時の参考にしてください。
1、過換気症候群とは
過換気症候群とは、ストレスなどの要因で、突発的に呼吸回数が増えてしまう状態のことです。過呼吸や過呼吸症候群と呼ばれることもあります。
過換気症候群は、呼吸が浅く速くなるために、二酸化炭素を吐きすぎてしまいますので、血中の二酸化炭素分圧が低下し、呼吸性アルカローシスになってしまいます。
また、過換気症候群は呼吸が速く浅くなってしまいますが、肺や気管支などの呼吸器には器質的な問題がなく、のちに検査をしても病変が見つかることはありません。
2、過換気症候群の原因
出典:過換気症候群(過呼吸症候群)(健康の森|日本医師会ホームページ|2012年9月)
過換気症候群の原因は、身体的な疾患によるものではなく、精神的な問題から起こることが多いです。精神的な問題を抱えていると、自律神経のバランスが乱れますので、一時的に呼吸中枢に異常が生じて、呼吸が速くなってしまうために、過換気症候群の症状が起こると考えられています。
大勢の前で発表しなくてはいけない緊張や不安を抱えていたり、仕事や人間関係に関する過度のストレスを抱えていると、過換気症候群の発作が誘発されるのです。
また、過労や寝不足、発熱などで発作が起こりやすくなりますし、泣いた時も呼吸中枢が刺激されて、過換気症候群の発作が出ることがあります。
ただ、過換気症候群の原因は、症状だけを見て、精神的なものであると決めつけることはできません。
次のような重篤な疾患が原因で、過換気症候群の発作と同じような症状が出ることがあります。
・心筋梗塞
・肺塞栓 ・クモ膜下出血 ・脳出血 ・糖尿病性腎症 |
心筋梗塞や肺塞栓は胸の圧迫感や痛みが生じます。また、くも膜下出血や脳出血は、頭痛が伴います。
しかし、ストレスなど精神的な原因から起こる過換気症候群でも、胸の圧迫感や頭痛が伴うこともあります。そのため、過換気症候群だと思われる場合も、一度はきちんとした精密検査をする必要があるのです。
3、過換気症候群の症状
過換気症候群の症状は、呼吸が浅く速くなることが症状です。これ以外には、自覚症状は次のようなものがあります。
・息苦しい
・息ができない ・胸が苦しい ・胸の圧迫感がある ・動悸 |
このような症状が出てきます。過換気症候群は呼吸が速くなっているのにも関わらず、「息ができない、このまま死んでしまうかもしれない」と感じ不安を感じるようになります。
これは、浅く速い呼吸になることで、二酸化炭素を吐きすぎてしまい、血中の二酸化炭素分圧が低下します。そうすると、これ以上二酸化炭素を吐かないように、呼吸中枢が呼吸を抑制しようとするのです。そのため、息苦しさを感じます。しかし、呼吸中枢が呼吸を抑制しようとするのに反発しないと、酸素供給ができないので、速い呼吸を繰り返すようになり、悪循環に陥るようになります。
また、血中の二酸化炭素分圧が低下すると、呼吸性アルカローシスになります。呼吸性アルカローシスになり、血液がアルカリ性に傾くと、血管が収縮します。血管が収縮すると、次のような症状が現れます。
・意識レベルの低下
・めまい ・胸痛 ・胸の圧迫感 ・悪心 ・手足のしびれ ・手足の硬直やけいれん |
これらの症状は血管が収縮して、血流が減少することで起こったり、カルシウムイオンが減少することで起こります。
血液がアルカリ性になると、アルブミンと結びついている水素イオンを分離させて、pHを元に戻そうとします。余ったアルブミンはカルシウムイオンと結びつくため、血中のカルシウムイオンが低下します。そうすると、しびれや硬直、痙攣が起こるのです。
4、過換気症候群の3つの治療
①発作時の応急処置
過換気症候群の発作が起こっていても、基本的にこれといった治療を行わないことが多いです。過換気症候群の発作は、30分~1時間で自然に消失します。
また、患者本人がどんなに「このまま死んでしまう。」と感じても、過換気症候群が原因で死ぬことはありません。後遺症が残ることもありません。
そのため、呼吸を落ち着かせるように促しながら、自然に過換気症候群の発作が治まるのを待ちます。
一昔前は、ビニール袋や紙袋を口に当てて呼吸をするペーパーバッグ法を使って治療が行われていましたが、現在はほとんど行われません。
ペーパーバッグ法は、紙袋やビニール袋の中の二酸化炭素の濃度が上昇しすぎて、低酸素になってしまったり、多すぎる二酸化炭素が不安を助長させる可能性があるため、危険であることがわかり、現在では行われなくなっています。
②鎮痙剤や抗不安薬の投与
患者の状態によっては、過換気症候群の治療に、鎮痙剤や抗不安薬を投与することがあります。病院内ではセルシンなどを筋肉注射をして、発作を早く治まるようにします。
また、日常生活内で過換気症候群の発作が起こりそうな時に、内服するための薬が処方されることもあります。過換気症候群の治療のために処方される薬には、次のようなものがあります。
・デパス
・ソナラックス ・ワイパックス ・レキソタン ・リボトリール |
③再発を予防するための治療法
再発を予防するための治療方法もあります。過換気症候群の発作は繰り返し起こることが珍しくないので、再発を予防するために抗うつ薬や抗不安薬などを処方することがあります。
5、過換気症候群の6つの看護(対処方法)
過換気症候群の発作を起こした患者への正しい対処法を説明していきます。救急外来で働いていると、日常的に過換気症候群の患者と出会うことも多いと思います。
また、病棟で入院している患者が過換気症候群の発作を起こすケースもありますので、看護師として正しい対処法を知っておく必要があります。
①落ち着かせる
過換気症候群で救急外来を受診する人やその家族は、パニックになっていることがあります。
パニック状態だと、こちらのアドバイスが伝わらないですし、不安を自分で助長させて、発作の時間が長引くようになりますので、看護師はまずは患者やその家族に落ち着くように指示をしましょう。
②静かな環境を用意する
次に、静かな環境を用意するようにしましょう。過換気症候群の患者さんは、周りの人から注目を集めやすいですし、病院の待合室のようなごみごみした環境だと、患者本人は不安を感じやすくなります。
そのため、静かな個室のような落ち着ける環境を用意して案内するようにしてください。
③吐く時間を長くするように伝える
過換気症候群の患者には、吐く時間を長くするように伝えましょう。速く浅い呼吸を繰り返すと、息苦しさや手足のしびれが強くなり、悪循環に陥りますので、ゆっくり吐くことを意識するように指導してください。
口をすぼめて、ろうそくの火を吹き消すように呼吸をさせると、ゆっくり吐きやすいと思います。
また、声掛けをしながら、背中を手でゆっくりとトントンと優しく叩いて、呼吸のリズムをとるようにすると、ゆっくりと呼吸がしやすくなります。
④大丈夫と伝えて安心させる
不安は過換気症候群の症状を増悪させますので、看護師は患者に安心させるような声掛けをしましょう。
・しっかりと酸素を吸うことができていること
・1時間以内には症状が自然に消失すること ・後遺症は残らないし、死ぬことはないこと |
これらを伝えて、患者さんのそばにいるようにしましょう。
⑤精神科の受診を勧める
過換気症候群の原因は精神的なストレスや不安、緊張であることが多いので、もし繰り返し発作が起こっているようであれば、精神科や心療内科への受診を勧めるようにしましょう。
病棟での入院患者は主治医に相談して、精神科へのコンサルトを出してもらうことを考えてみると良いでしょう。
⑥ペーパーバッグ法はしないことを指導する
患者の中には、過換気症候群=ペーパーバッグと思い込んでいる人が少なからずいます。患者や家族に、ペーパーバッグ法の危険性を伝えて、病院以外で過換気症候群が起こった時には、ペーパーバッグ法で治療しないように指導しましょう。
まとめ
過換気症候群の基礎知識や原因、症状、治療方法、看護の正しい対処方法をまとめました。過換気症候群は、精神的なストレスが原因であることが多いですが、重篤な疾患も隠れている可能性もあります。
また、ペーパーバッグ法は危険性が高いので、ペーパーバッグ法は行わずに、ゆっくり呼吸をすることを意識させて、不安を取り除くような方法で対処するようにしてください。
参考文献
過換気症候群(一般社団法人日本呼吸器学会|2017年2月3日)
「過換気症候群」について、「過換気症候群とこころ」 について(くす通信第175号|国立病院機構 熊本医療センター)
過換気症候群(田中クリニック)
No.40過換気症候群(一般社団法人 加古川医師会|2000年2月)