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多発性硬化症の看護|ガイドライン、症状や治療と看護計画

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多発性硬化症の看護

多発性硬化症は脳や脊髄、視神経の神経細胞の軸索部分を覆うミエリンが破壊されることで、軸索が露出し、神経伝達がうまくいかなくなる病気です。

再発と寛解を繰り返しながら、慢性化するのが一般的ですが、予後不良になるケースもあります。多発性硬化症の基礎知識や症状、ガイドライン、治療方法、看護計画をまとめました。

 

1、多発性硬化症とは

多発性硬化症(MS=Multiple Sclerosis)とは、脳や脊髄、視神経の脱髄疾患です。

出典:認定特定非営利活動法人MSキャビン

 

私たちの神経細胞は神経細胞体に電線のような軸索がついていて、軸索が神経細胞の電気活動を伝えることで、神経伝達が行われています。

そして、軸索はミエリン(髄鞘)というもので覆われています。ミエリンは絶縁体の役割を果たしていて、軸索を守り、神経細胞の電気活動がショートしないようにしています。

でも、多発性硬化症はこのミエリンが壊れてむき出しになってしまいます。ミエリンが壊れると絶縁体がなくなりますので、軸索の途中で神経の伝導がショートし、神経伝達がうまくいかずに様々な症状が現れます。

多発性硬化症は厚生労働省指定の特定疾患で、日本では10万人に8~9人の発症率で、およそ1万2000人の患者がいます。日本やアジアでは比較的少なく、北米や北欧など緯度が高い地域に患者が多いという特徴があり、北欧では10万人当たり100人以上の患者がいる地域もあります。

平均発症年齢は30歳前後で、男女比は1:2~3と女性に多い病気なのです。

 

2、多発性硬化症の症状

出典:多発性硬化症(MS)に関する情報サイト「MSラウンジ」 (武田薬品工業株式会社)

 

多発性硬化症は脳や脊髄、視神経に病巣ができて、ミエリンが壊され、軸索がむき出しになって、神経伝達がうまくいかなくなる病気です。

そのため、脳・脊髄・視神経のどこに病巣ができるのか、どこのミエリンが破壊されるのかによって、どのような症状が現れるのかは異なります。

 

■視神経に病巣がある場合

視神経に病巣があると、視力低下や失明などの症状が現れます。また、視野欠損の症状が出ることもあります。

 

■脳幹部に病巣がある場合

脳幹部に病巣があると、構音障害や嚥下障害、複視、眼振、めまい、顔面の感覚・運動の麻痺などの症状が現れます。

 

■小脳に病巣がある場合

小脳に病巣があると、会話の障害や手足の振戦などの症状が起こります。また、歩行が不安定になり、酔っぱらったような歩き方になることもあります。

 

■大脳半球に病巣がある場合

大脳半球に多発性硬化症の病巣があると、片麻痺や集中力の低下、物忘れが多くなるなど認知機能に影響が出ます。

ただ、大脳の場合は、多発性硬化症の病巣があっても、明らかな症状が現れず、なかなか疾患に気づかないこともあります。

 

■脊髄に病巣がある場合、

脊髄に多発性硬化症の病巣が現れると、体幹部のしびれやピリピリとした痛み、手足のしびれや麻痺、筋肉のこわばり、尿失禁、排尿障害、排便障害(便秘)などの症状が出ます。

 

2-1、多発性硬化症の経過

多発性硬化症は発症後、再発期と寛解期を繰り返すことが一般的です。ミエリンは再生しやすい部位ですので、きちんと治療をすれば症状はなくなります。

ただ、完治することはなく、また再発してしまうのです。再発する回数は年に3~4回の人もいますが、数年に1度しか再発しない人もいます。

再発を繰り返しても、障害がほとんど残らないケースもありますが、再発を繰り返し、寝たきりになって予後不良の経過をたどる人もいます。

 

3、多発性硬化症のガイドライン

多発性硬化症は、まだ根本的な治療法は確立されていません。また、日本人患者の多発性硬化症での治療のエビデンスが乏しいこともあり、日本神経学会・日本神経免疫学会・日本神経治療学会が監修した「多発性硬化症治療ガイドライン2010」が刊行されています。

このガイドラインは、現在の日本の多発性硬化症の治療の指針となるものです。

 

4、多発性硬化症の治療

多発性硬化症の治療方法は、再発期か寛解期かによって異なります。

 

■再発期

多発性硬化症の症状が強く出る再発期は、ステロイドパルス療法を行います。一般的には、ソルメドロール(500mgまたは1000mg)を点滴静注し、これを1日1回、3~5日間行います。これを1クールとし、治療効果によって1~2クール追加して行うこともあります。

ステロイドパルス療法は易感染性や糖尿病などの合併症のリスクが増しますので、長くても2週間程度の治療となります。

ステロイドパルス療法を行っても、症状の改善が見られない時には、血漿浄化療法を行うこともあります。

 

■寛解期

寛解期の治療は、多発性硬化症の再発を予防するための治療と症状緩和のための対症療法を行います。

再発予防のための治療は、インターフェロンβ製剤の注射(2日に1回の皮下注射、または1週間に1回の筋肉注射)や内服薬、1ケ月に1回の点滴薬(ナタリズマブ)などが用いられています。

症状緩和のための対症療法は、痛みを伴う強直性けいれんはカルバマゼピンを、手足の筋肉のこわばりや突っ張りには抗痙縮剤、排尿障害には抗コリン剤などを投与し、症状を緩和させます。

 

5、多発性硬化症の看護計画

多発性硬化症の看護計画を立てる上で、まずは多発性硬化症の患者の看護問題を確認しておきましょう。

多発性硬化症の看護問題には、次のようなものがあります。

・全身の疼痛やしびれによる苦痛がある

・本人や家族に病気の再発による不安がある

・ステロイドパルス療法による副作用が出現する可能性がある

これらの看護問題に沿って、看護計画を立案していきましょう。

 

■全身の疼痛やしびれによる苦痛がある

看護目標 苦痛が軽減し、安楽に過ごすことができる
OP(観察項目) ・しびれや疼痛の部位や範囲、程度

・ADL

・しびれや疼痛以外の症状の有無や程度

TP(ケア項目) ・1~2時間毎の体交換

・冷罨法

・上下肢の他動運動を行う

・ADLに合わせたセルフケアの援助

・寝衣は肌触りが良く、着脱しやすいものを選ぶ

・必要なケアは短時間で終わらせる

・安楽な体位の工夫

・医師の指示の薬剤は確実に投与する

EP(教育項目) ・治療の効果が現れれば、疼痛やしびれは軽減することを伝える

 

■本人や家族に病気の再発による不安がある

看護目標 不安が軽減し、疾患を受容できる
OP(観察項目) ・病気に対する発言

・言動や表情

・睡眠状況

・食欲、食事摂取量

・身体的な症状の有無や程度

・家族の疲労度

TP(ケア項目) ・受容的な態度で接する

・不安を傾聴する

・身体的な苦痛はできるだけ取り除くようにケアをする

・医療者側の言動を統一する

・患者や家族が納得できるまで、医師が疾患の説明をする機会を設ける

・ストレスが軽減できるように環境調整を行う

EP(教育項目) ・不安なことはなんでも話してもらうように伝える

・増悪因子(タバコや入浴、直射日光等)について説明する

 

■ステロイドパルス療法による副作用が出現する可能性がある

看護目標 副作用の早期発見ができる
OP(観察項目) ・血液検査データ(感染徴候の有無)

・消化管出血、胃の不快感等の有無

・不眠やうつ状態、興奮の有無

・満月用顔貌の有無

・尿糖の有無

・皮膚や粘膜の異常の有無

TP(ケア項目) ・清潔ケアの援助

・確実な投薬

・口腔ケアの実施

EP(教育項目) ・ステロイドパルス療法の副作用を説明する

・副作用と思われる症状が現れたら、すぐに報告してもらう

・薬の減量や治療の終了によって、副作用は軽減・消失することを説明する

 

まとめ

多発性硬化症の基礎知識や症状、ガイドライン、治療方法、看護計画をまとめました。多発性硬化症は根本的な治療方法がなく、再発と寛解を繰り返す病気ですので、患者は身体的な苦痛以外にも精神的な不安やストレスを抱えています。

そのため、身体的な問題だけでなく精神的な問題にも目を向けて、より良い看護ができるようにしましょう。

 

参考文献

多発性硬化症の治療ガイドラインのまとめ(一般社団法人 日本神経治療学会)

多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)(難病情報センター )

多発性硬化症とは((独)国立精神・神経医療研究センター・神経研究所免疫研究部)

多発性硬化症の急性期にある患者の看護―症状の増悪に対する不安への援助―(高知大学|門脇知香、長山玉代、横山道佳、西森まち、森沢陽子、小笠原麻紀、山崎真夕子、赤城益美、藤村洋子|1993年)


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