心臓は拡張と収縮を繰りかえすことで、全身に血液を循環させるポンプ機能を果たしています。今回は、ポンプ機能が果たせなくなった際に使用するIABP(大動脈内バルーンパンピング)の仕組みと適応、看護におけるポイントをお伝えします。
1、IABP(大動脈内バルーンパンピング)とは
1-1、心臓の役割
心臓は拡張期に十分な血液を貯め、収縮期に一気に拍出することで全身へ血液を送り出しています。全身の血液循環はこの心臓のポンプ機能によって果たされていますが、何らかの原因によって心臓からの血液の拍出量が不十分な場合には、ポンプ機能を補う必要があります。この心臓のポンプ機能が低下したときに循環を補う循環補助法の一つがIABP(大動脈内バルーンパンピング法)です。
引用:CS300™ IABP(MAQUET GETINGE GROUP)
1-2、IABPの仕組みと効果
IABPは、大腿動脈(または上腕動脈)から胸部下行大動脈にバルーンのついたカテーテルを挿入します。そして、患者の心拍に合わせて拡張期にバルーンをヘリウムガスで広げ、収縮期にバルーンを縮小させます。この拡張(インフレーション)と縮小(デフレーション)を繰り返すことで、弱ってしまった心臓のポンプ機能を20%増加させることができます。
<IABPの仕組み>
拡張期 収縮期
引用:大動脈内バルーンパンピング術 IABP(医療法人錦秀会 阪和記念病院)
心臓の拡張期にバルーンも膨らませることで、全身へ回る血液が減少する分、逆流する血液が増えて冠状動脈への血流が増加します。冠動脈の血流量を増やすことで、心筋虚血を防ぎます。
また、心臓が収縮するときにバルーンを縮小させることで、大動脈には急激な陰圧がかかります。バルーンが縮小することで左室の圧負荷(末梢血管抵抗)が減少し、さらに縮小するときの陰圧が血液を心臓から全身に送り出すため、心臓にかかる負担が減少します。このようにIABPには下の効果があります。
<IABPの効果>
・冠動脈血流量の増加
・脳血流量の増加 ・末梢血管血流量の増加 ・駆出量増加 ・後負荷の減少 |
IABPのイメージが付かないとう方は、MAQUET GETINGE GROUPの動画で実際の機械と合わせて勉強するとわかりやすいでしょう。
引用:IABP講習会①
引用:IABP講習会②
引用:IABP講習会③
JSEPTIC大動脈内バルーンポンピングの資料も、分かりやすくまとめてあります。仕組みが分からなければ、適応も看護の視点も分かりませんからね。
2、IABPの適応
IABPは心臓のポンプ機能が低下したときの循環補助として使用します。明確な基準がないので各医療機関によってガイドラインを設けているかと思いますが、一般的に言われる適応は以下の通りです。
<IABPの適応>
・薬物療法に期待した効果が得られない場合
・急性心不全 ・心原性ショック ・難治性心室不全 ・難治性不安定狭心症 ・切迫心筋梗塞 ・AMIによる機械的合併症 心室中隔穿孔、僧帽弁閉鎖不全、乳頭筋断裂 ・難治性心室性不整脈に起因する虚血 ・ハイリスクな一般手術における心補助 ・冠動脈血管造影/血管形成術における心補助 ・敗血症性ショック ・心肺バイパスからの離脱時の補助 |
また、バイタルサインや検査データから適応を検討する際の具体的な数値は、下記のラインとなります。
<IABP導入時の血行動態的指標 (参考値)>
・BP80mmHg以下
・CI 2.0L/min/m2以下・PAWP20mmHg 以上 ・尿量低下(0.5ml/kg/hr以下) ・末梢循環不全(四肢冷感、チアノーゼ) |
引用:大動脈内バルーンポンピングより抜粋(JSEPTIC特定非営利活動法人日本集中治療教育研究会)
3、IABPモニターに表示される波形
IABPのモニター画面には、多くの情報が表示されています。下の図はゼメックスIABPコンソール908の画面です。特別なボタン操作をしなくても、多くの項目を一度に観察することができます。
引用:ゼメックスIABPコンソール908添付文書
それぞれに表示されている波形は、下記を示しています。
1) アラーム・メッセージ・スイッチ(UP)
アラームメッセージが最大5 件記録されています。5 件のメッセージは本スイッチを押す毎に新しいメッセージを表示します。
2) アラーム・メッセージ・スイッチ(DOWN)
5 件のメッセージは本スイッチを押す毎に古いメッセージを表示します。
3) 波形スイープスイッチ
スイッチを押す毎に下記のように切り替わります。
誘導モニター → 誘導Ⅰ → 誘導Ⅱ → 誘導Ⅲ (→ 誘導モニターに戻る)
4) ECG 誘導切換スイッチ
スイッチを押す毎に下記のように切り替わります。
5) 血圧波形スケール切換スイッチ
波形のスケールを、0-150mmHg → 0-200mmHg → 0-100mmHg …のように切り替え表示します。
6) 血圧値の表示
S:生体心の収縮期圧を表示します。
D:生体心の拡張期圧を表示します。
A:バルーンによる補助血圧を表示します。
7) ECG 波形上下移動スイッチ
ECG 波形の表示位置を上下に移動します。
8) バルーン圧波形のスケール切換スイッチ
1 目盛りを100mmHg、あるいは25mmHg に変更します。
9) 警報解除スイッチ
緊急停止エラーが発生するとアラームメッセージ、ブザー音とともにスイッチが赤色表示で点滅します。
10) 画面選択スイッチ
画面スイッチには同期・容量・印刷・自動・状態の5 種類があります。
11)ECG 感度自動表示
ECG の感度を自動で調整するモードがON の時に表示されます。
12) 血圧遅延(AP ディレイ)補正表示
ECG~血圧間のトリガー信号間の時間間隔を計測した時に表示されます。
13) ワイド画面での簡易設定画面呼出しスイッチ
ワイド画面上で設定を変更したいとき押すと画面下に簡易設定画面が表示されます。
この中でも特に重要となるのは、心電図・動脈圧波形・バルーン波形のモニタリングです。これらの生体からの信号を、バルーン拡張のトリガーとして使用したり、治療の効果判定に用います。正しい情報と安定したモニタリングが、IABPによる治療成果をあげるためには欠かせません。
4、IABP装着中の患者の看護10個のポイント
IABP装着中の患者を受け持つことになったら、どこを観察すればよいでしょうか。大きな機械がつながっているだけで、ビクビクしていませんか?下のポイントを抑えれば大丈夫。IABPに対する恐怖心も和らぎますよ。
<IABP装着中の観察ポイント10!>
〇機械側の観察ポイント
①IABPの設定
②バルーン拡張と縮小のタイミング ③バルーン内圧波形 ④血圧 ⑤トリガー:タイミングのズレがないかどうか、しっかりトリガーされているか |
〇患者側の観察ポイント
⑥心電図モニターの電極固定
⑦刺入部の固定状況:透明フィルムで保護した上で、出血・血種の有無 ⑧バルーンを挿入している側の下肢の状態:血流障害や血栓形成による循環不全・虚血(褥瘡)・感覚障害・足背動脈の触れ ⑨閉塞の有無 ⑩感染徴候の確認:熱型・挿入部の発赤や腫脹 |
機械側の観察はIABPが正しく作動しており、自己心拍とのタイミングがずれていないか、治療効果が出ているかという視点で観察します。一方、患者側に対する観察は治療効果に加え、合併症が出ていないかどうかにあります。
IABPを挿入する患者は重症の心不全であり、更に合併症が加わってしまった場合は命に直結します。バルーンカテーテル挿入に伴う出血や血種、安静による血栓形成や神経障害の出現に注意して観察しましょう。
まとめ
IABPはICUやCCU勤務者でないと、接することがないと思います。また、循環器・心電図自体に苦手意識を持っている人も多いでしょう。けれども、いざという時に何をしてよいのか全くわからないのでは困ります。バルーンの膨らむことで生体にはどのような血流の変化が起こるのか、それが心臓に対しどのように働くのかなど、IABPのメカニズムと病態生理を結び付けて考えられるようになると、より患者理解が深まるでしょう。
参考サイト・参考文献
大動脈内バルーンパンピング術 IABP(医療法人錦秀会 阪和記念病院)
大動脈内バルーンポンピング(JSEPTIC特定非営利活動法人日本集中治療教育研究会|2014年1月16日)
病気がみえるvol.2循環器(MEDIC MEDIA|2017年3月4日)