先天奇形であるファロー四徴症は、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大の四徴からなり、頻脈、多呼吸、哺乳不良、無酸素発作などを起こす重大な疾患です。3歳までを目安に手術が行われますが、子どもは手術をするということを理解できなかったり、怖がって啼泣し術前に無酸素発作を起こしてしまったりと、術前術後の看護は非常に難しいです。安心して手術に臨めるよう、また術前の発作に対応できるよう、ここでしっかり勉強しましょう。
1、ファロー四徴症とは
ファロー四徴症とは、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大の四徴からなる先天性心疾患です。生後1~6か月の間にチアノーゼで初発することが多く、2歳以上ではチアノーゼ性心疾患の約90%を占めます。
2、ファロー四徴症の原因
ファロー四徴症の原因は先天奇形です。先天奇形とは、正常な発生の障害による器官、器官の一部、あるいは身体の一部の形態以上のことをいい、これは外表性の形態異常だけではなく、内部臓器の形態異常も含まれます。先天奇形は、障害される臓器や器官により以下のような奇形が発生します。また、ファロー四徴症の場合、一臓器に複数の奇形が現れます。
■臓器・器官 | ■先天奇形の例 |
中枢神経系 | 無脳症、脊髄髄膜瘤 |
顔面 | 口唇裂、口蓋裂 |
消火器 | 食道気管瘻、鎖肛、十二指腸閉鎖、腸回転異常、臍帯ヘルニア、メッケル憩室 |
泌尿器・生殖器 | 尿道下裂、停留睾丸 |
循環器 | 大血管転位、心室中隔欠損、動脈管開存症、ファロー四徴症 |
四肢 | 合指症 |
出典:小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア 第6版(筒井真優美|日総研グループ|250表9障害される臓器および器官と先天奇形の例 2010年10月28日)
3、ファロー四徴症の症状
ファロー四徴症の症状は、頻脈、多呼吸、哺乳不良などです。生後2~3か月より無酸素発作、4~6か月以降ではばち指が見られ、2歳以降に蹲踞姿勢、発育障害が見られます。蹲踞姿勢とは、胸と膝をつけてしゃがみ込む姿勢で、蹲踞の姿勢では腹部大動脈と大腿動脈を圧迫することで体血流抵抗を増大させ、VSD(心室中隔欠損症)での右→左シャントを減少させる効果があります。また、合併症として低酸素による多血症が原因で脳血栓を起こしたり、脳腫瘍、右→左シャントによる細菌が体循環へ移行することで感染性心内膜炎を起こすこともあります。
出典:ファロー四徴症(特定非営利活動法人日本小児外科学会)
ファロー四徴症の特徴と症状についての詳細は以下を参照してください。
形態の特徴 | 心室中隔欠損 | 右心室と左心室を隔てる心室中隔に欠損孔がある |
肺動脈狭窄 | 右心室からの肺動脈への流出口が狭い | |
大動脈騎乗 | 大動脈が心室中隔にまたがり、左右の両心室にかかっている(通常は左心室のみ) | |
右室肥大 | 肺動脈狭窄により、流出経路が狭く収縮期血圧が高いため、右室壁が肥厚(通常は薄い) | |
症状 | チアノーゼ | 欠損孔(心室中隔欠損)と狭窄(肺動脈狭窄)の存在により、血流は肺動脈よりも心室中隔欠損を通して左室に流れやすいため右→左短絡(右室から左室への血流)が起こり、その結果、酸素飽和度の低い血液(静脈血)が大動脈に直接流れ込み、全身に送られる |
低酸素発作 | 肺動脈弁下の筋肉が収縮して肺血流が急激に低下すると、右→左短絡量が増加する。運動や啼泣などによって引き起こされる | |
多血症 | 肺胞でのガス交換が正常に行われず、血中酸素濃度が低下した状態の不足部分を補うため、赤血球数が増加する | |
ばち状指 | 末梢血管のうっ血によるチアノーゼ状態が長期に続くと出現する | |
蹲踞姿勢 | 下肢の血流を減少させ血管抵抗を増やすことで、右→左短絡量を減少させる。子どもが無意識にしゃがみ込んで無酸素発作を回避する行動で、運動後などに見られる。 |
小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア 第6版(筒井真優美|日総研グループ|251 表11ファロー四徴症の特徴と症状 2010年10月28日)
4、ファロー四徴症の治療
症状の一つである右室肥大は、長期的には右心不全や不整脈の原因となり得るため、子どもの生活の質の向上を考えると、3歳までを目安に手術をすることが望ましいとされています。1歳までは、頻回の失神発作、無酸素発作、心不全徴候が生じるものに肺血流増加を目的とした姑域手術(ブラロック・タウジッヒシャント手術)を行います。ブラロックタウジッヒシャント手術とは、鎖骨下動脈を切断し、肺動脈と端側吻合する術式で、人工血管を用いることが多いです。ファロー四徴症は年齢が高くなればなるほど根治が難しくなるため5歳以前に根治手術(肺動脈狭窄の解除とVSDの閉鎖)を行います(最適時期は1~3歳)。
5、ファロー四徴症の看護計画
5-1、術前低酸素発作のリスク
■看護目標:低酸素発作を起こさない
■観察項目
・バイタルサイン
・呼吸パターン ・チアノーゼの有無 ・蹲踞姿勢の有無 ・顔色 ・機嫌 ・確実に内服が行われているか |
■ケア項目
・できるだけ刺激を排除し、激しい啼泣を誘発させない
・適切な移動方法を選択する ・ケアを行う際は侵襲の少ないものを選択する ・家族など安心できる存在により精神的な安寧の保持を図る ・哺乳や食事は本人のペースを守る ・適宜浣腸緩下剤使用し排便時の努責を防ぐ ・睡眠環境を整え、中途覚醒を避ける ・温度、湿度の管理 ・活動を抑えた遊びの環境を提供する ・生活動線を考慮する ・適切な発達課題を妨げない ・検査や処置中は指示に従い酸素投与 ・検査や処置は低酸素発作に備えた場所で行う |
■指導項目
・子どもの理解ややる気に応じて説明やプレパレーションを行う |
5-2、身体外傷の潜在的状態
■看護目標:危険を回避し身体外傷を起こさない
■観察項目
・麻酔の覚醒状態、意識レベル
・点滴、ドレーンの固定 ・創痛の程度 ・手術への理解度 ・表情、言動 |
■ケア項目
・点滴、ドレーンに触らないよう包帯を巻く
・指示に従い鎮痛剤使用 ・4点柵実施 ・術後暴れることがあれば、体幹ジャケットやミトン固定を行う ・子どもが好きなおもちゃやぬいぐるみなど、安心できるものをベッドサイドにおいておく |
■指導項目
・いつになったら点滴が終わるのか、いつになったら離床できるのか、子どもが回復をイメージできるように説明する |
6、退院指導
退院後は、術後の長期的な合併症を防止するため、退院後に起こり得ることを家族に説明しておく必要があります。ただ「何かあれば連絡をください。」という漠然な指導ではなく、「体育の授業中に動機がしたり、息苦しくなったり、急な発熱があれば○○に電話してください。」などくわしい症状や連絡先を明記するのが親切です。また外来通院になる場合は、外来と情報を共有し、同じ質のケアが提供できるよう密に連携すれば、子どもや家族にも安心して受診してもらえます。
まとめ
手術が近づくにつれ、子どもはこれまで受けたことがない処置を受けることになったり、家族の不安を感じ取って敏感になります。何か自分が悪いことをしたからではないかと落ち込んだり、痛みを怖がり医療従事者を見ただけで泣いてしまう子どももいます。家族と子どもの両方が、手術を理解し、前向きに望めるよう、毎回のケアや処置の際は理解度に合わせて実施していきましょう。術前の発作をいかに予防するか、子どもをやる気にさせるかはあなたの腕にかかっています。
参考文献
小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア 第6版(筒井真優美|日総研グループ|250-252 264-267表11ファロー四徴症の特徴と症状 2010年10月28日)
看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|C69-70 平成27年3月19日)