圧迫骨折は、胸椎や腰椎の椎体がつぶれて扁平になってしまう疾患です。昔は若い人が高所から落ちたときなどの外傷時に生じることが多かったのですが、最近は高齢社会に伴い、骨粗鬆症を背景とした高齢者の患者が多くなりました。今回は圧迫骨折の病態・治療を学び、そこから看護計画を立案していきます。
1、圧迫骨折とは
人間の脊椎は、頭部と体幹を含む上半身を支えています。脊椎は7個の頸椎(C)と12個の胸椎(T)および5個の腰椎(L)、それに仙椎(S)・尾椎からなり、その一つ一つを椎体といいます。椎体は意外にもろいので、ちょっとした外傷によって潰れてしまいます。圧迫骨折は「骨折」という名前がついていますが、骨がポキンと折れるものではなくて、椎体が「潰れる」「ひしゃげる」ことで発生する疾患です。
■圧迫骨折のしくみ
出典:医療法人鉢友会 はちや整形外科医院 骨粗鬆症 脊椎圧迫骨折
圧迫骨折には、腰椎の椎体が潰れる「腰椎圧迫骨折」と、胸椎の椎体が潰れる「胸椎圧迫骨折」があります。どこに力が加わったかという受傷機転によっても違いますが、腰椎圧迫骨折は骨粗鬆症がベースにある高齢者に多く、胸椎圧迫骨折は比較的事故などの思わぬアクシデントによる若年者の発症が多く、若干性質が異なります。
臨床では、夜間や明け方にトイレに行こうとして畳のヘリなどの段差につまずいて転倒したり、ベッドから転落して発症するケースが多くみられます。患者が全く動けなくなってしまった場合、救急車を要請して救急外来を時間外受診し、圧迫骨折と診断を受けても自宅への帰宅が困難で、もめるケースもしばしばあります。
2、圧迫骨折の原因
圧迫骨折は、ベースとなる骨の強さと加わった外傷によって、骨折する場所や程度が変わります。骨の強い成人男性が、日常生活を送る中で発症することは稀です。しかし、強いエネルギーの加わるような事故が起これば、いくら屈強な男性でも圧迫骨折を起こします。一方で、骨のもろい高齢女性の場合は、立ち上がろうとしたときやくしゃみなど、たわいもない日常生活動作だけで発症することもあります。昨今は圧迫骨折による高齢者の寝たきりや介護問題も多く発生しており、圧迫骨折を始めとした全身の骨折を予防するために、積極的に骨粗鬆症の治療を行うようになってきました。それでも、患者は増加の一途をたどっています。
また、骨は病気によってもろくなることがあります。成人男性で骨がもろくなる理由としては、悪性腫瘍によるものがあります。前立腺癌は男性特有の癌ですが、かなり進行するまで自覚症状はほとんどありません。ちょっとしたことで圧迫骨折を起こして精査してみたら、前立腺癌による骨転移が発見される・・・というケースも、珍しくありません。
このように、圧迫骨折は原因を分けると、
➀外傷・受傷によるもの
②加齢等によるもの ➂病的なものに分類されます。 |
■圧迫骨折の原因
➀外傷・受傷によるもの
・重いものの持ち上げ ・事故(スポーツ事故・交通事故・転落事故) ②加齢等によるもの ・60代以上の女性もしくは70代以上の男性 ・骨粗鬆症(骨密度の低下) ・くしゃみ ・転倒時の尻もち ・身体の捻り(ひねり) ・強い前屈 ➂病的なもの ・悪性腫瘍の転移 ・その他骨疾患(骨軟化症etc.) |
3、圧迫骨折の症状
圧迫骨折を起こすと、背中の突起物である棘突起を順番に指で押していくと、同じ場所で叩打痛(こうだつう)が現れます。激しい腰痛と背部痛が主たる症状で、歩行や寝返りをうつだけで激痛が走ります。また、椎体の後方部にまで骨折が及ぶと症状は一層ひどくなり、下肢の痛みや痺れといったヘルニア様の症状、ときには尿が出にくくなったりする麻痺症状も出現します。この疼痛は、1か月以上続くこともあります。
4、圧迫骨折の治療とコルセット
圧迫骨折の治療は、基本的に安静です。発症(受傷)後1か月は、骨折部の変形を起こしやすいため、特に注意が必要です。圧迫骨折の治療には、コルセットを使用します。コルセットを装着することで疼痛を軽減し、骨の変形を防ぐ効果もあります。
コルセットはよく肋骨骨折で使用するバンドとは違い、硬さや範囲など様々な種類があります。胸椎圧迫骨折用、腰椎圧迫骨折用、それから硬性・軟性があります。下の写真は、二つとも胸椎用ですが、硬性コルセットはプラスチック製で、かなり動きが制限されます。その分、受傷直後には安静のためにこちらを使用することが多くなります。
■胸椎軟性コルセット
出典: 体幹装具(株式会社 澤村義肢製作所)
■胸椎硬性コルセット
出典: 体幹装具(株式会社 澤村義肢製作所)
骨折が治ると、体動時の疼痛は消失します。しかし、長時間座位をとるときには疼痛が出てきますので、コルセットを使用しながら少しずつ日常に戻すことが必要です。元の生活に戻るようにするには、1年かかることも珍しくありません。また、高齢者では圧迫骨折による安静を機にADLが低下したり、認知症を発症・悪化させてしまうこともあります。
また、圧迫骨折を発症した高齢の患者は骨粗鬆症の背景を持つことが多いため、再発予防も大切です。内服や注射による骨粗鬆症の治療を行うことにより、圧迫骨折だけでなく大腿骨頸部骨折等、他の部位の骨折予防にもつながります。
5、圧迫骨折の看護問題
圧迫骨折における治療の基本は保存治療ですので、基本的には入院の必要がないケースが多数を占めます。しかし、あまりの疼痛に全く動けなくなってしまった、高齢者で1人暮らしの患者など、社会的な意味を含めて入院治療を行う場合も多くあります。圧迫骨折における看護は、疼痛に対する看護に終始します。今回は急性疼痛に対する看護問題を挙げてみました。
看護問題:(胸腰椎)圧迫骨折による急性疼痛
看護目標:疼痛が緩和し、受傷前のADLの状態に戻る(維持することができる) 疼痛が緩和し、良眠できる |
6、圧迫骨折の看護計画
■O-P
1.疼痛の有無と程度
2.疼痛の生じる行動・体位
3.疼痛による行動制限の有無
4.コルセット装着の有無と、適切に使用できているか
5.コルセット装着による皮膚障害の有無
6.疼痛の訴え
7.食事摂取量
8.夜間の睡眠状態(本人の睡眠に対する満足度)
9.画像データ
10.不穏症状の有無
11.鎮痛剤の使用状況
12.家人の協力、退院後の受け入れ態勢
■T-P
1.疼痛の程度により、医師の指示のもとで鎮痛剤を使用する。
2.安楽な体位を工夫する。
3.排泄や保清など、必要な範囲でのADLの介助を行う。
4.コルセットの装着時に介助する。
5.コルセット着用を促す。
6.安静度がUPしたら、下肢の筋力低下を防ぐため歩行を促す。
7.歩行時に疼痛がひどいようであれば、車椅子や歩行器を使用する。
8.医師の指示のもと、できるだけ早期からリハビリを開始する。
9.自宅退院に向け外来通院によるリハビリが必要な場合、各部署と連携をとる。
■E-P
1.圧迫骨折の治療には安静が重要であることを説明する。
2.日中は必ずコルセットを着用するよう指導する。
3.無理な体動は避けるように説明する。
4.疼痛のひどい場合、ありのまま伝えるように説明する。
5.家族に病態や安静の必要性、また安静の弊害について説明する。
まとめ
圧迫骨折の治療は、基本的に時間が解決してくれるものです。それまでの間はコルセット装着と鎮痛剤使用により安静を図ることになりますが、臨床では痛みが軽減するまでの生活がままならず、入院治療を希望する患者・家族が大勢います。過度な安静によってADLの低下や認知症の発症・悪化がしないように配慮しながら、看護師は疼痛による体動制限への介入が必要となります。骨粗鬆症の予防治療も進歩していますが、高齢社会において、今後も圧迫骨折の患者は増加することが懸念されます。
参考文献
骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折(一般社団法人日本骨折治療学会|浦山 茂樹)
椎体骨折評価基準(日本骨代謝学会|2012)