みなさんは『横紋筋融解症』という病気をご存じでしょうか。
我が国では、1995年の阪神・淡路大震災で注目されるようになり、震災により約400人が外傷によるクラッシュ症候群から横紋筋融解症を引き起こし、約50名が死亡したと言われています。クラッシュ症候群とは座滅症候群とも言われ、長時間重たいものに圧迫された状態から解放された際に、破壊された筋肉から出された毒性の高い物質が血中に流出されることにより、腎臓や心臓の機能を悪化させる病態です。クラッシュ症候群は横紋筋融解症の原因の一つです。
ここでは横紋筋融解症について説明しますので、病態について学び、看護のポイントをしっかり押さえていきましょう。
1、横紋筋融解症とは
横紋筋融解症とは、何らかの原因で骨格筋が変性や壊死をきたし、筋細胞中のミオグロビンやクレアチンキナーゼ、カリウムなどが大量に血液中や尿中に放出される病態を言い、重症の場合は、急性循環不全や急性腎不全を引き起こし致死的な多臓器不全に引き起こす場合もあります。
■急性循環不全
血圧低下により血液循環が悪化し、重要な臓器への血液供給ができなくなる状態を言います。循環不全により心停止を引き起こす場合もあります。
■急性腎不全
急激に腎機能が低下し、老廃物の排泄ができなくなったり、体液中の水分や電解質のバランスが保てなくなる状態を言います。乏尿や無尿などの症状が見られますが、治療により回復する可能性があります。
■多臓器不全
生命を維持するために重要な臓器が複数障害された状態を言います。腎臓、肝臓、血液、呼吸器、循環器、消化器、中枢神経系のうち2つ以上が機能不全に陥った状態で、多臓器不全になると、回復は難しく致死的な状態となります。
出典: 株式会社スズケン
2、横紋筋融解症の原因
横紋筋融解症の原因は様々ですが、大きく外傷性のものと、非外傷性のものに分けられます。
外傷性のものには、圧迫性壊死や急性動脈閉塞、外科手術、電気ショックなどがあり、非外傷性のものには、感染症や先天性骨格筋疾患、代謝性ミオパチー、代謝異常、過度な運動、薬物などがあります。
なかでも薬物では、全身麻酔薬や向精神薬の他に、脂質異常症薬や抗生物質など身近な薬剤が原因となり横紋筋融解症を引き起こすこともあります。
■横紋筋融解症の原因薬剤
薬剤カテゴリー | 薬剤 | |
脂質異常症治療薬 | HMG-CoA還元酵素阻害薬 | アトルバスタチンカルシウム水和物、フルバスタチンナトリウム、プラバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ピタバスタチンナトリウム |
フィブラート系薬剤 | クリノフィブラート,フェノフィブラート,ベザフィブラート,クロフィブラート,クロフィブラートアルミニウム | |
その他 | プロブコール,コレスチミド | |
抗生物質製剤 | ニューキノロン系抗菌薬 | オフロキサシン,塩酸ロメフロキサシン,ガチフロキサシン水和物,プルリフロキサシン,スパルフロキサシン,ノルフロキサシン,トシル酸トスフロキサシン,メシル酸パズフロキサシン,エノキサシン,フレロキサシン,シプロフロキサシン,レボフロキサシン |
マクロライド系抗生物質 | クラリスロマイシン | |
β-ラクタム系抗生物質 | ピペラシリンナトリウム,塩酸セフカペンピボキシル,ファロペネムナトリウム,タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム | |
神経系に作用する薬 | エチゾラム,ブロムペリドール,ハロペリドール,デカン酸ハロペリドール,リスペリドン,塩酸ペロスピロン水和物 | |
抗うつ薬 | 塩酸クロミプラミン,塩酸マプロチリン | |
躁病・躁状態治療薬 | 炭酸リチウム,バルプロ酸ナトリウム | |
ベンゾジアゼピン系睡眠薬 | フルニトラゼパム | |
キサンチン系気管支拡張薬 | テオフィリン,アミノフィリン,コリンテオフィリン,プロキシフィリン,ジプロフィリン | |
解熱消炎鎮痛薬 | ジクロフェナクナトリウム | |
免疫抑制薬 | シクロスポリン | |
痛風・高尿酸血症治療剤 | アロプリノール,コルヒチン | |
上記以外に,消化性潰瘍治療薬,総合感冒薬,高血圧治療薬,骨格筋弛緩薬,抗真菌薬などがあります。 |
出典:お薬の副作用としての横紋筋融解症(筋肉の痛み)(徳島県薬剤師会)
3、横紋筋融解症の症状
横紋筋融解症の症状には、手足のしびれや脱力、筋肉痛やこわばり、全身倦怠感、異常色(赤褐色)尿などがあり、横紋筋が破壊されるため、筋肉の炎症や痛みが出現します。
また、尿中へのミオグロビン排泄量が増加するため赤褐色尿となります。ミオグロビン尿は、横紋筋の融解が起きた場合でしか発生せず、大量のミオグロビンが尿細管を閉塞することにより腎不全を引き起こすと考えられています。
検査所見では、高カリウム血症や高ミオグロビン血症、クレアチンキナーゼ(CK)上昇などの所見が見られます。
4、横紋筋融解症の治療
横紋筋融解症により致死的な合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見・早期治療が重要となります。また、薬物が原因の場合には、原因薬剤の使用をただちに中止します。
輸液等により循環動態の安定を図ることが治療の基本となり、重症度によって大量の輸液が必要となったり、明らかな腎障害が認められる場合は、血液透析の導入される場合もあります。
5、横紋筋融解症の看護のポイント
横紋筋融解症は、重篤化し生命の危機に陥る可能性があるため、症状や兆候の変化をいち早く発見することが看護のポイントとなります。そのためには、横紋筋融解症の病態をしっかりと把握し、患者の状態を十分に観察することが重要です。
5-1、横紋筋融解症の問題点と看護ケア
横紋筋融解症の病態より、腎機能障害、電解質異常、ADL制限、精神的ストレスの増強などの問題点が挙げられます。
■腎機能障害
横紋筋融解症は腎障害から腎不全を引き起こす可能性があるため、ミオグロビン尿や腎機能の変化に注意し観察を行います。重篤な場合は、血液透析が導入されるケースもあるため、透析に対するケアが必要になる場合があります。
腎不全から死に至ることもあるため、患者の状態や臨床検査値などの変化が見られた場合には、ただちに医師へ報告し指示を仰ぎましょう。
■電解質異常
横紋筋融解症では高カリウム血症がみられる場合があります。血中のカリウムが上昇すると、不整脈を引き起こし質的な不整脈から心停止に至る可能性もあります。
心電図変化や臨床検査値および高カリウム血症に伴う症状(四肢のしびれ、筋力低下、吐気など)の出現、増強の有無に注意し観察をしていきましょう。
■ADL制限
横紋筋融解症の症状には個人差がありますが、患者の状態によってはADLへのケアが必要となる場合があります。
麻痺や筋力低下によりADLの低下がみられる場合は、日常生活動作の援助が必要となります。
また、治療によりADLが制限される場合もあり、補液や尿道カテーテルが挿入される場合は、ADL援助の他に感染予防への対策も必要となります。
患者の状態を正しく把握し、それぞれの患者の状態に合わせたケアを提供していきましょう。
■精神的ストレスの増強
横紋筋融解症は重篤化すると死に至る可能性があります。患者は大きな不安を抱いていることが予測されます。またADL制限によりストレスが増強する可能性もあります。患者の言動や表情を観察し、精神的ストレスの軽減に努めましょう。
まとめ
臨床現場において横紋筋融解症の患者の看護に携わることは、それほど多くないかもしれません。しかし、横紋筋融解症は生命に危機に直結する可能性のある疾患です。悪化の症状・兆候の早期発見のためには、病態に対する知識をしっかりと身につけておくことが重要です。
参考文献
重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚生労働省|平成18年11月)
J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 16 No. 3『横紋筋融解症の病態と臨床』(日集中医誌|2009)