大腸がんは、部位別がん死亡数で男性は第3位、女性は第1位のがんで、近年患者数が急増しています。大腸がんの基礎知識や症状、ステージ、看護過程・看護問題・看護計画をまとめました。大腸がんの患者の看護をする時の参考にして下さい。
1、大腸がんとは
大腸がんとは、盲腸・結腸、直腸・肛門から構成される大腸に発生するがんです。
出典:ガイドラインを理解するための基礎知識 JSCCR |大腸癌研究会
大腸がんは大腸に発生した悪性腫瘍で、周囲のリンパ節や臓器に浸潤・転移を起こします。浸潤・転移を起こさないものは、良性腫瘍になりますが、良性のポリープの一部ががん化することがあります。また、正常な粘膜からがんが直接発生することもあります。
日本人は大腸がんの中でもS状結腸と直腸にがんができやすいとされています。
大腸がんの罹患率は40代から増加し始め、高齢になるほど罹患率が高くなります。国立がん研究センターの統計によると、2014年の統計では、大腸がんの部位別がん罹患数は男女ともに第2位、死亡数は男性で3位、女性で1位となっています。
出典:ガイドラインを理解するための基礎知識 JSCCR |大腸癌研究会
また、食生活の欧米化などにより、大腸がんの死亡数はこの半世紀で8倍にも増えていることが、日本における大腸がんの大きな特徴と言えるでしょう。
2、大腸がんの症状
大腸がんは初期段階では、自覚症状はほとんどありません。大腸がんを初期段階で早期発見できるのは、がん検診で便潜血が陽性になる場合などが多く、自覚症状から気づくことは珍しいのです。
大腸がんの症状は、大腸がんが進行するに伴って現れるようになります。大腸がんは、がんができる部位によって、盲腸がん、上行結腸がん、横行結腸がん、下行結腸がん、S状結腸がん、直腸がん、肛門がんに分けることができますが、大腸の中でもどの部位にがんができるかによって、現れやすい自覚症状が異なります。
■大腸がんに共通して現れる症状
・腸閉塞
・腹痛
■盲腸・上行結腸・横行結腸のがんに現れる症状
・貧血
・腫瘤
■下行結腸・S状結腸・直腸、肛門のがんに現れる症状
・下血
・血便
・便が細くなる
・便秘
・下痢
3、大腸がんのステージ
大腸がんのステージは、次の3つの要素で決められます。
・深達度(がんが大腸の壁にどのくらい深く入り込んでいるか)
・リンパ節転移の有無(周囲のリンパ節にがんが転移しているか) ・遠隔転移の有無(肺や肝臓、腹膜など臓器に転移しているか) |
この3つの要素で、大腸がんはステージ0からステージⅣまでに分類されます。
ステージ0 | 粘膜内にがんにとどまってまっている |
ステージⅠ | 固有筋層(筋肉内)にとどまっている |
ステージⅡ | 固有筋層を越えて、周囲に広がっている状態 |
ステージⅢa | リンパ節転移が3個以下 |
ステージⅢb | リンパ節転移が4個以上 |
ステージⅣ | 肝臓や肺、腹膜などの遠い臓器に転移している |
4、大腸がんの看護過程
大腸がんはがんの部位やステージによって、治療方法は異なりますが、手術療法が基本の治療法になります。そのほか、化学療法や放射線療法を組み合わせて、治療を行っていきます。
そのため、患者がどのステージでどのような治療をしているかによって、看護問題は異なります。
大腸がんの患者のアセスメントをする時には、全身状態だけでなく、精神状態や治療方法、家族状況、周囲の支援体制などを考慮して、看護過程を進めていくようにしましょう。
4-1、大腸がんの看護問題
大腸がんの看護問題は、その患者の全身状態やステージ、治療方法によって異なりますが、ここでは、大腸がんの代表的な5つの看護問題を説明していきます。
■手術や疾患への不安がある
大腸がんはがんの中でも比較的生存率が高いのですが、それでも患者はがんを発症したことに、不安を持っています。
また、手術を予定している患者は手術への不安や手術後はどうなるのかなどを不安を抱えているため、精神的なケアをして、前向きに治療に取り組んでいけるように支援していかなければいけません。
■術後合併症が起こるリスクがある
大腸がんで開腹手術をすると、縫合不全や術後出血、創部感染、イレウスなどの術後合併症が起こるリスクがあります。
開腹手術をした大腸がんの患者は、術後合併症が起こらないようにケアをしていく必要があります。
■ストーマの異常
大腸がんでは、ストーマを造設することがあります。ストーマの造設後は、粘膜皮膚縫合部の離開やストーマの血行障害、ストーマ周辺皮膚の蜂窩織炎などの皮膚トラブル、装具による圧迫などで異常が起こることがあります。
■便通が安定しない
大腸がんは、下痢や便秘を繰り返すなどの症状が現れます。また、大腸がんの術後は、大腸を切除することで、大腸が短くなるために、便の水分が十分に吸収されず、下痢になりやすいことがあります。
また、大腸が周囲の臓器と癒着して、腸の動きが悪くなり、便秘になることもあります。そのため、大腸がんの手術後は、下痢や便秘を繰り返して、便通が安定しないことが珍しくありません。
■排尿障害や性機能障害が起こる
大腸がんの手術でリンパ郭清をすることで、下腹神経や骨盤神経叢を損傷することがありますので、排尿障害や性機能障害が起こることがあります。また、放射線療法の影響で、このような障害が起こるリスクもあります。排尿障害や性機能障害は退院後のQOLに大きくかかわりますので、看護介入をしてケアしていかなければいけません。
大腸がんでは化学療法や放射線療法などを行うことがありますが、化学療法の看護は「化学療法(抗がん剤治療)の副作用ごとの対処と看護ケア」を、放射線療法の看護は「放射線治療の看護|種類と方法、副作用を踏まえた看護ケア・指導」を参考にしてください。
4-2、大腸がんの看護計画
大腸がんの看護計画を、先ほどの看護問題に沿って看護計画を立案していきましょう。
■手術や疾患への不安がある
看護目標 | 手術や疾患に対する疑問や不安がなくなり、前向きに治療に臨める |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・大腸がんの症状の有無や程度 ・言動、表情 ・食欲や食事摂取量 ・睡眠状態 |
TP(ケア項目) | ・患者との信頼関係を作る
・患者の訴えを傾聴する ・医療スタッフの中で言動の統一を図る ・患者に不安が見られる時には、何度でも医師に説明をしてもらう ・不安を助長させるような言動はしない |
EP(教育項目) | ・パンフレットなどを用いてオリエンテーションを行う
・不安がある時には、些細なことでも話してほしことを伝える |
■術後合併症が起こるリスクがある
看護目標 | 術後合併症が起こらない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・ドレーンからの排液量や性状 ・腹部膨満感 ・吐血や下血の有無 ・創部の発赤、腫脹、熱感、離開の有無 ・浸出液の量や性状 ・創部の疼痛の程度 ・血液検査データ ・排ガスの有無 ・腸蠕動音の有無 |
TP(ケア項目) | ・安静度を確認する
・創部の清潔を保つ ・ドレーンからの排液に異常がある時や出血時には、医師に報告する ・ドレーンの逆行性感染を予防するために、パックの固定位置に注意する ・指示に基づいた処置や薬剤の投与を行う |
EP(教育項目) | ・創部の清潔を保つように説明する
・創部に異常を感じた時には、すぐに報告してもらう ・安静度を守るように伝える |
■ストーマの異常
看護目標 | ストーマからの出血がなく、赤色の色調を保てる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・ストーマの色調 ・ストーマの浮腫の有無 ・ストーマ周辺の皮膚の状態 ・ストーマの高さ ・ストーマからの出血の有無 ・ストーマからの排せつ物の性状や量 ・疼痛の有無 ・皮膚粘膜縫合部の状態 ・腹部症状の有無 |
TP(ケア項目) | ・ストーマへの圧迫や刺激を避ける
・術後はストーマを清潔操作で交換する ・ストーマの異常があれば、すぐに医師に報告する |
EP(教育項目) | ・異常な症状があれば、すぐに報告してもらう |
■便通が安定しない
看護目標 | 自分に合った排便コントロールができる |
OP(観察項目) | ・腹部症状の観察
・排便回数や便の性状、量 ・薬剤を使った時の効果 ・肛門周囲のスキントラブルの有無 |
TP(ケア項目) | ・腹部温罨法
・医師の指示に基づいた止痢剤や整腸剤、緩下剤の投与 ・肛門部の清潔を保つ ・消化管の安静を図る ・程度によってはオムツやポータブルトイレの使用を勧める ・食事内容を工夫する |
EP(教育項目) | ・術後半年程度で便通は落ち着いてくるが、術前と同じ状態には戻らないことを説明する
・規則正しい排便習慣をつける ・食事内容を工夫し、消化に良いものを摂るように指導する |
■排尿障害や性機能障害が起こる
排尿障害の看護計画から説明します。
看護目標 | 排尿障害を理解でき、セルフケアができる |
OP(観察項目) | ・尿意の有無や程度
・排尿の回数や量、性状 ・腹部膨満感の有無 ・残尿の有無や量 |
TP(ケア項目) | ・排尿状況を記録する
・必要時、間欠的導尿を行う ・残尿量を測定する ・用手的排尿を行う |
EP(教育項目) | ・排尿障害について説明する
・時間がたつと改善する可能性があることを説明する ・用手的排尿方法や自己導尿の方法を指導する |
性機能障害の看護計画を説明します。
看護目標 | 術後の後遺症であること理解でき、パートナーと話し合える |
OP(観察項目) | ・性機能障害の程度
・パートナーとの人間関係 ・術前の性生活の状況 ・性機能障害に関する言動や表情 |
TP(ケア項目) | ・性機能障害について医師に説明してもらう
・パートナーとの話し合いの機会が持てるように促す ・ストーマの患者はパウチカバーや固定方法を工夫する ・悩みを傾聴する |
EP(教育項目) | ・悩みがあれば話してもらうように伝える |
まとめ
大腸がんの基礎知識や症状、ステージ、看護過程・看護問題・看護計画をまとめました。
ステージや治療法によってどのような看護をすべきか異なりますが、大腸がんは術後に排泄に関する問題が起こりやすいので、看護師は精神的なケアや退院後の生活を考慮しながら、看護ケアを行うようにしましょう。
参考文献
ガイドラインを理解するための基礎知識 JSCCR |大腸癌研究会