前立腺は男性だけにあり、精液の一部をつくっている臓器です。前立腺は、恥骨の裏側に位置しており、栗の実のような形をしています。前立腺癌は、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生します。最近、遺伝子の異常が原因といわれていますが、正常細胞がなぜがん化するのか、まだ十分に解明されていないのが現状です。ここでは、前立腺癌について述べていきます。
1、前立腺癌とは
前立腺癌は、前立腺に生じる悪性腫瘍で、50歳以上の男性に好発します。元来欧米人に多い疾患でしたが、近年は欧米化した食事の影響を受け、我が国でも増加傾向にあります。前立腺癌には手術療法・ホルモン(内分泌)療法・放射線療法による治療が行われますが、今回は外科的治療における術後の看護計画を立案します。
2、前立腺癌の原因
前立腺癌の原因・リスクファクターとして主に4つの要因があると言われていますが、中でも一番の危険因子は食事、特に脂肪分の多い食事です。アメリカでは既に肺癌を抜いて前立腺癌が、男性における癌の第一位となっています。同じ日本人であっても、欧米に住む日本人は国内在住の日本人に比べて前立腺癌の発症が3倍以上になるというデータもあり、いかに食生活が影響を及ぼしているかがわかります。
また、加齢も前立腺癌においては重要な原因となります。前立腺癌は50歳以上になると好発しますが、90歳の男性の遺体を解剖すると、約半数に前立腺癌が発見されると言われています。他にも、遺伝や人種といった要因も存在します。
■前立腺癌の危険因子
➀食生活:動物性脂肪・タンパク質・砂糖の摂取が癌発生に関与すると指摘されている
➁加齢 :50歳以上の男性は、加齢と共に発生率が高くなる
③遺伝 :親・兄弟・子に前立腺癌患者がいた場合の癌発生率は2倍に増加する
➃人種 :黒人>白人>黄色人種であり、日本人を始めとする黄色人種は最も少ない
3、前立腺癌の症状
前立腺癌は、前立腺内に腫瘍が留まる間には、自覚症状はありません。周囲への浸潤が進むと尿閉や血尿などを呈するようになりますが、症状が前立腺肥大と類似しており、程度が軽いと加齢による前立腺肥大と放置されてしまいがちです。そして、骨転移やリンパ性に全身に転移して初めて、原発である前立腺癌が発見されるケースも多くあります。
■前立腺癌の進行度と症状
前立腺内に限局 | 尿道・膀胱へ浸潤 | 尿管へ浸潤 | 転移 |
無症状
検診でPSA↑指摘 |
排尿困難
尿閉 残尿感 排尿痛 夜間頻尿 血尿 |
水腎症
背部の殴打痛 腎後性腎不全 |
骨転移によるもの
疼痛(腰痛) 骨折 全身転移によるもの 貧血 DIC |
4、前立腺癌の治療
4-1、前立腺癌の検査・診断
前立腺癌の治療をするためには、その前に前立腺癌であるという確定診断をつけることが必要です。まず最初に行うのが前立腺特異抗原であるPSAという採血です。PSAは前立腺液に含まれる糖蛋白質です。産生されたPSAは本来血液中に移行せず、腺腔へと分泌されます。しかし、癌や炎症を起こすと、前立腺組織が破綻して血液中に漏れ出すため、血液中のPSA値が高くなります。正常値はPSA>4ng/mlを基準としています。これにより、検診で初期の前立腺癌を発見することも可能になりました。
PSAは手軽に採血で済む検査ではありますが、これだけで前立腺癌の確定診断にはなりません。前立腺の組織を採取(生検)し、顕微鏡下で癌細胞を確認し、初めて前立腺癌であると確定診断されます。生検は肛門から超音波プローブと生検装置を挿入し、10か所以上から採取してくるのが一般的です。
確定診断を付けてから治療方針を決定していきますが、それには転移の有無・浸潤の深さや範囲などを判断するために画像検査を行う必要があります。生検による確定診断がつく前から行うことも、臨床では一般的です。
■前立腺癌の検査
➀採血:PSA
➁触診:直腸診で前立腺に触れて、その硬さで判断する(前立腺癌なら硬くなる) ➂経腹的超音波検査:腹部からプローブをあてる(通常の腹エコー) ➃経直腸的超音波検査(TRUS):肛門から行い、前立腺および性能の形態変化をみる ➃前立腺生検:肛門からエコーを入れ、穿刺して組織を採取する ➄MRI、CT:前立腺癌の浸潤範囲を判定する ➅骨シンチ:前立腺癌による骨転移の有無・範囲をみる |
これらの検査結果をふまえて、今後の治療方針を検討します。
4-2、治療方法
これまで行ってきた検査の結果からTNM分類によって病期を分類し、治療方針を決定します。前立腺癌には大きく分けると3つの治療法と待機療法(積極的治療をしない)という選択肢があります。癌と診断をつけておいて治療しないというのは、治療ができないという意味ではありません。また、2.前立腺癌 原因でお伝えしたように、前立腺癌は前立腺癌以外の死亡事例における解剖で、年齢を経れば経るほど発見されています。つまり、前立腺癌の中には治療をせずにいても命に関わらない、もしくは他の要因で死亡するまで悪さをしないものもある、と言うことができます。
そのため、前立腺癌の治療はただTNM分類だけではなく、患者の年齢やADL・QOL、そして社会背景などを総合して方針を決定する必要があります。
■前立腺癌の治療
➀手術療法 :癌が前立腺内に限局している場合に適応される
下腹部を切開して前立腺を摘除し、膀胱と尿道をつなぎ合わせるのが一般的
近年は腹腔鏡やロボット手術も導入されている
➁ホルモン療法 :前立腺癌の基本となる治療
前立腺癌は男性ホルモンによって成長するため、この作用を抑えることで前立腺癌を小さくする
転移がある場合・手術の補助療法・手術が困難な例に適応される
➂放射線療法 :根治的目的・転移再発した場合・疼痛コントロールに行う
➃待機療法 :積極的な治療(➀~➂)を行わず、対症療法のみで経過を追う
年齢や前立腺癌の進行具合など、総合的に考慮して選択する
5、前立腺癌の術後看護問題
■術後合併症による後出血の恐れ
■手術による神経機能障害に関連した排尿障害の恐れ
■膀胱留置カテーテルの血尿や尿路感染による閉塞の恐れ
上に挙げた前立腺癌の治療には、それぞれに合併症が存在し、必要とされる看護もそれぞれ異なります。今回は術後の観察力つけるため、#1について目標・看護計画立案をしていきます。
6、前立腺癌の術後看護目標・看護計画
看護問題:術後合併症出現の恐れがある
看護目標:後出血を早期に発見する
凝結による留置カテーテルの閉塞を予防する
看護計画:
■O-P
1.バイタルサイン 2.水分摂取量(IN)、尿量(OUT) 3.尿の性状(血尿の有無、凝血塊の有無) 4.疼痛の有無、程度 5.腹部の張り・膨満感 6.血液データ 7.止血薬の使用有無 8.その他自覚症状(頭痛・吐気・嘔吐・眩暈) 9.排便回数・性状(努責を必要とするか)
■T-P 1.膀胱留置カテーテル内に新しい出血を確認した場合、速やかに医師へ報告する 2.出血を確認したら、安静にする 3.医師の指示により、カテーテルの牽引固定を行う 4.牽引中は、クッション等の使用により、同一体位による苦痛・皮膚トラブルを防止する 5.持続還流を行う場合、還流速度を適宜調整し、排液を破棄する 6.食事以外での水分摂取を促す 7.確実な止血薬の投与・確認をする 8.安静度に応じて保清や排泄の介助を行う
■E-P 1.術後合併症の可能性について、症状の出る前(術前)から説明する 2.留置カテーテルから出血が見られたら、看護師に伝えるように指導する 3.排便時に過度な努責をしないように指導する 4.水分摂取の必要性を説明し、食事の合間にも水分を摂取するよう指導する |
まとめ
前立腺癌は高齢者に多く発生する癌であり、平均寿命の延びた現代では、今後は高齢者にも積極的な治療を行うケースが増加してくるでしょう。患者の理解度に応じ、術前からどのような手術を行い、どのような合併症が起こりうるのか説明しておく必要があります。
また、前立腺癌の手術では、膀胱留置カテーテルの抜去後に高頻度で尿失禁がみられます。一時的な症状で治まることが多いとはいえ、失禁による患者の精神的苦痛も配慮し、術前からのオリエンテーションを充実させることも、術後の看護につながるといえるでしょう。
参考文献
前立腺がん|独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター
前立腺がん(前立腺癌)|順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科
MEDIC MEDIA 病気がみえる vol.8 腎・泌尿器|2014/09/12