泌尿器科は尿路(腎、尿管、膀胱、尿道)と男性性器(前立腺、精巣、陰茎など)の疾患を対象とした臨床の一分野です。患者さんの多くは排尿や性器に関する愁訴で来院するので、看護をするにあたっては羞恥心に対して十分な配慮が必要です。外科的処置を受ける患者さんの術前から術後までの病態を理解し適切な観察と対応が求められます。
1、膀胱癌の種類と特徴
膀胱腫瘍には大きく分けて乳頭状のものと非乳頭状のものがあります。膀胱壁は内から外に向かって粘膜・粘膜下層・筋層・周囲脂肪という構造になっていますが、乳頭状のものは表面がイソギンチャクのような形をしており、膀胱粘膜から膀胱内に向かって発育するタイプです。このタイプは比較的根っこが浅く粘膜内にとどまるものが多いのが特徴です。これに対して非乳頭状のものは表面が岩のような形をしており、根っこが深いのが特徴です。粘膜下層さらには筋層へと膀胱の外へ向かって発育する傾向があります。
膀胱癌は大きく以下3つのタイプに分けられます。
①表在性癌
悪性度の低い癌で、膀胱内腔にイソギンチャクのように突出しています。膀胱内に多発しても浸潤や転移は起こしませんが半数以上の患者さんに再発します。
②浸潤性癌
悪性度が高く根が深いのが特徴です。粘膜下層さらには筋層へと膀胱の外へ向かって浸潤していく傾向があり、進行すると転移を起します。
③上皮内癌
膀胱の表面に這うように発育する悪性度の高い癌です。
2、TUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)とは
TUR-Btとは、下半身麻酔あるいは全身麻酔下で尿道から切除鏡を挿入して前立腺腺腫、膀胱腫瘍などを電気メスで切除する方法です。尿道から内視鏡を挿入するため、開腹術に比べて侵襲が少ないという利点があります。CT・MRI検査や膀胱鏡検査などからリンパ節転移がないこと、病巣の深さが筋層表面までと推測される場合にTUR-Btの適応となります。切除した腫瘍は病理検査で深達度と腫瘍の悪性度の診断を行い、膀胱癌では、手術直後に膀胱内に抗がん剤を注入することで再発率の低下を図ります。
出典:市立島田市民病院
3、TUR-Btにおける合併症
術中・術後の合併症にはどのようなものがあるのでしょうか。以下の起こりうる合併症について見ていきましょう。
3−1、術中の合併症
①膀胱穿孔 電気メスで腫瘍を切除する際に電流の刺激で閉鎖神経反射が起こり患者さんが動くことがあります。その際膀胱穿孔を起こすことがあるため、閉鎖神経ブロック等で回避します。
後腹膜腔への穿孔ではバルーンカテーテルの留置で自然治癒しますが、穿孔の部位によっては開腹術が必要となる場合もあります。
②出血 出血部位を電気凝固止血します。
3−2、術後合併症
①出血(血尿) 術後2〜4週間は腫瘍切除部から出血することがあるため、血尿の有無や程度、尿量を把握していく必要があります
②尿路感染・発熱 術侵襲や術後感染による発熱などの徴候に注意して観察していく必要があります
③頻尿・排尿時痛 腫瘍切除部に炎症が起こり膀胱炎症状が見られますが、創部が治癒していくにつれて徐々に治っていきます。
④深部静脈血栓・肺塞栓 活動性の低下による下肢の静脈血栓、それに伴う肺塞栓を予防するために弾性ストッキングの使用や背屈運動を促しましょう。
⑤水腎症 腫瘍が尿管口に近い場合、TUR-Btによって尿管が狭くなり水腎症を発症することがあります。
⑥穿孔 腫瘍を切除する際、膀胱壁が薄くなり穿孔を起こすことがあります。バルーンカテーテルを挿入したまま穴が塞がるのを待ちますが、開腹にて修復を要する場合もあります。
4、TUR-Btのクリニカルパス
クリニカルパスは、様々な治療や検査についての標準計画表で、看護記録が一元化されているため治療を進めていく上で医療の質の向上にも繋がります。クリニカルパスには医療者用と患者さん用の2つがあります。クリニカルパスを用いることで、患者さんに対して入院から退院までがどのように進んでいくのかをわかりやすく、簡潔に説明することができます。ここではTUR-Btのクリニカルパスの一例を下記にご紹介します。それぞれの医療機関によってパスの内容は多少違いがありますが、参考にしていただき統一した看護の提供ができるようなパスの作成、使用をしていきましょう。
5、術後の看護
無事にTUR-Btが終わったらパスに沿って患者さんの全身状態の観察、痛みやベッド状安静における苦痛の軽減を図ります。術後の合併症を念頭に異常の早期発見に努めましょう。クリニカルパスの中に看護計画が組み込まれているので看護目標からどんな点を観察・援助していけば良いかがわかります。
5−1、看護計画
<目標>
①穿孔がない
②血尿が増強しない
➂苦痛・不安の軽減が図れる
■OP
1.バイタルサイン
2.出血の有無・程度
3.痛みの有無と程度
4.下肢の色・動き
5.感染徴候の有無
6.尿量
7.腹痛・排尿時痛
8.排尿回数(バルーンカテーテル抜去後)
9.排便の有無・パターン
10.足背動脈触知の有無
■TP
1.疼痛時は痛みの度合いに応じて医師と相談しながら鎮痛剤を使用する
2.下肢静脈血栓や肺塞栓の予防に弾性ストッキング等を使用する
■EP
1.疼痛時や苦痛時は我慢せず伝えてもらうよう説明する
2.ベッド上安静の必要性についての説明
3.弾性ストッキングなど、血栓予防についての説明と指導
4.不安なこと、質問等についての説明
6、退院指導について
パス通りに治療計画が進み、退院が決まったら退院指導が行われます。患者さんには日常生活における注意事項をわかりやすく説明することが必要です。また、可能であればご家族にも一緒に話を聞いてもらい、協力をお願いすると良いでしょう。
6−1、退院後の注意点
①水分をたくさん摂取する
尿路感染を予防するためお茶や水などの飲料水をたくさん摂取してもらうよう 説明する。特に高齢者になると水分摂取が少なくなる傾向があるため、声をかけて積極的に水分を摂取してもらうようにしましょう。(コップ5〜6杯くらいなどと説明するとわかりやすいですね)
②便秘にならないよう緩下剤等の使用を検討する
下腹部に力が入ることで再出血の可能性があるため、便秘にならないよう排便コントロールをする。水分をしっかり摂ってもらうこと、どうしても便秘になりがちな方には緩下剤の使用を検討するなどの援助、指導をします。
③定期的な診察を受ける
再発の有無を確認するため3〜6ヶ月ごとに膀胱鏡や細胞診による検査があること・定期的な受診の必要性を説明します。血尿や疼痛が出現した場合には直ちに受診してもらうことも説明しましょう。
④アルコールや長期の旅行・スポーツなど体に負担のかかる事を避ける
術後1ヶ月くらいは出血する危険性があるため、過度に体に負担のかかることは避け、ウォーキングなどの軽い運動にしてもらうようにします。また、重い荷物を持つことも下腹部に力がかかるので避けるよう伝えましょう。
まとめ
TUR-Btは内視鏡下で行われるため、患者さんへの手術侵襲が少なく、入院期間も1週間から10日前後と比較的短期で行える治療法の一つです。とはいえ、腫瘍の状態や術後の患者さんの全身状態によっては更に進んだ治療や他の処置が必要となることもあります。どのような病気でも患者さんは常に様々な不安や悩みを持って治療を受けています。私たち医療者は、病気だけでなく、患者さん自身の内面にも気を配り、的確な対処と看護が行えることが求められます。
参考文献
クリニカルパスとは|市立岸和田市民病院
TUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)|順天堂大学医学部附属順天堂医院 泌尿器科
経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)|金沢大学附属病院|2005/11