重いものをもって腰を痛めたことをあることは、医療者や介護者にかかわらず経験したことがある人は多いのではないのでしょうか。ボディーメカニズムを学んでも、ちょっとした力の加減で筋肉に負担がかかり、腰痛を引き起こすことがあります。今回の看護のトピックは、よく聞くぎっくり腰や急性腰痛とは違う、腰部脊柱管狭窄症についてです。聞いたことはあるけど、あまりよくわからないという人が多いと思います。しかし、新聞の広告欄また高齢者が対象の健康雑誌にはよく見かける疾患です。なぜ、この疾患の治療に関心が集まるのでしょう。それは、加齢により疾患の発症する率が高まり、そして強い痛みを伴うからです。痛みにより日々の日常活動が困難になり、その結果生活の質が低下するリスクがあるからです。
1、腰部脊柱管狭窄症とは
脊柱をつくる椎骨は、上から頸椎7個、胸椎12個、腰痛5個、仙椎5個、尾椎3から5個に区分されます。腰椎は、その中でも上半身の体重を支えるために大型で、筋の起始部となる突起が発達していています。脊柱管は、脊椎の椎孔が連なってできた細長い空洞のことを言います。椎骨を重ねていくと、トンネルのように長い空間ができます。脊柱管は、背骨、椎間板、関節、黄色靭帯に囲まれていて、脊髄の神経が通ります。トンネルや水道管のように、周りは固く守られた管の中に、大切な神経が通っていると想像してみてください。
出典:りせいの自然とゆっくり
管を形成している背骨や組織に異常がおきると、神経を圧迫され、損傷します。丈夫な骨に囲まれた神経はほかに移動することもできません。そのため、神経が圧迫され、血流がことで腰痛や足のしびれなどが起きます。脊柱管が狭窄する主な原因は、加齢です。そして、労働や背骨の病気によるものも原因として考えられます。そのため患者の多くが、50歳から60歳の男女です。若くして発症する人は、先天的に脊柱管が狭いか、脊椎の損傷が原因で起こります。若いときは、腰に荷重をかけても問題なくても、年齢を重ねていくうちに、荷重部分の骨が変形していきます。また、骨粗鬆症によりさらに骨は変形しやすくなります。だれでも起こるリスクがあるのが、腰部脊柱管狭窄症です。
出典:腰痛 オンライン
2、腰部脊柱管狭窄症の症状
この痛みはどうしてなのか?腰をひねっただけなのか?ぎっくり腰だから安静にしていれば治るはずなのに、と自分が腰部脊柱管狭窄症とわからず、痛みをただ我慢して治療が遅れることも多いと聞きます。以下の症状がでたら、できるだけ早く医師に相談しましょう。痛みやしびれが表れる部位は、腰と下肢が主です。
■腰部脊柱菅狭窄症の代表的な症状
①間欠跛行
腰部脊柱管狭窄症の特徴的な症状で、この病気だと長く歩くことが難しくなります。歩いていると下肢に痛みやしびれが出てきて、休むと痛みが和らぐ。歩行と休息を繰り返すことを間欠跛行といいます。
②痛みやしびれが前かがみになるとやわらぐ
③仰向けになるとしびれが出てくる
④腰を後ろへそらせない
⑤スリッパが脱げやすい
⑥足に力が入らない、脱力感がある。
⑦臀部や下肢の引き連れた感覚
⑧足の裏を触れられても、直接触れられている感じがしない
⑨肛門周囲にもしびれた感じがする
⑩排便・排尿がしずらい。残尿感がある。 これは、神経の圧迫の場所によって、排泄障害の症状が出てしまうからです。この場合は、早めの手術が望ましいといわれています。 |
気になる症状がでたら、まず医師に相談しましょう。問診や身体所見、神経反射や知覚の有無、筋力を調べることで診断がつきます。上記に上げた間欠跛行は、診断の決め手になります。そのうえで、画像検査を行います。レントゲンで骨の形を、CTでは水平断面上での骨の状態、MRIでは、椎間板や神経の状態を詳細に検査できます。脊髄像映像も有効で、椎体などからの神経への圧迫の程度がわかります。
3、腰部脊柱管狭窄症の治療方法
薬剤治療(痛み止めや血流を改善し、症状の改善を目指す。) | ・鎮痛剤:貼付薬・外用薬・内服薬などがあります。消炎鎮痛薬で効果が不十分な場合、トラマドール塩酸塩などのオピオイド鎮痛薬も使用可能です。ブルがバリン(リリカなど)は神経性鎮痛緩和薬として、しびれに効果的です。
・筋弛緩薬:疼痛で筋肉が反射的に収縮して凝った状態が長く続くと、疼痛が増悪します。筋弛緩薬は、筋肉の緊張を和らげる効果があります。 ・ビタミンB12:末梢の神経障害を改善します。 ・プロスタグランジンE製剤:神経に伴走する血管の血流を改善します。しびれや間欠跛行に効果があります。 |
硬膜外ブロックまたは神経根ブロック
出典:大日本住友製薬
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・薬物治療法でも効果が見られない患者にとって、有力な治療法が神経ブロックです。神経ブロックは、神経やその周囲に局所麻酔薬を注射し、痛みの伝達をブロックする方法です。痛みの伝達をブロックし、脳までに情報が伝わらないようにします。局所麻酔薬と一緒に、症状によっては、ステロイド薬を合わせて使用する場合もあります。
・硬膜外ブロックは、脊髄や馬尾がおおわれている硬膜の外側にある空間に薬剤を注入する方法です。近く神経だけでなく、運動神経も麻痺するので、施工後は数時間の安静が必要になります。 ・選択的神経根ブロックは、X線透視装置下で位置を確認しながら、その患者の症状の原因であると推測される尾部からのわかれた一本を選び、神経根に注射します。注射を打つ瞬間は、強い痛みを生じますが、その神経根が原因であれば、すぐに痛みやしびれなどの症状が改善します。 |
外科的治療 | ・排尿障害や歩行障害が出た場合、手術の適応になります。方法として、椎弓の一部と肥厚した黄色靭帯などを切除して脊柱管を広げます。
・MEF(内視鏡下腰椎椎弓切除術):全身麻酔後に、内視鏡を使用して圧迫している原因となる椎弓や肥厚した黄色靭帯を切除して神経の圧迫を取り除きます。低侵襲手術で、高齢者の方でも効果的です。1週間程度で退院できます。 ・ME-PLIF/TLIF:内視鏡とX線透視装置を使用した固定中で、全身麻酔後に行われます。変形した椎間板を取り除き、そこから腸骨から採取した骨をつめたケージと言われる人工物を収めて、脊椎を整形します。 ・切開手術:従来の手術で、MEFよりは入院期間が3週間と長くなります。 |
4、腰部脊柱管狭窄症の看護問題
腰部または臀部から下肢にかけての痛みとしびれにより日常生活が安楽に過ごせない。そして、苦痛により、ADLが低下します。
5、腰部脊柱管狭窄症の看護目標
上記の問題においての看護目標は以下になります。
・疼痛やしびれが軽減する。
・筋力が維持でき、ADLが低下しない。 |
6、腰部脊柱管狭窄症の看護計画
■観察計画
・バイタルサイン(ブロック後は、血圧低下に注意する)
・意識レベル ・病状・経過、治療による体動制限の程度。 ・筋力低下 ・運動麻痺の有無、部位、程度 ・痛みの程度、部位。薬剤の使用やペインコントロール状況 ・しびれの程度、部位。 ・持続鎮静などの薬剤の使用有無 ・睡眠状態、表情。入院一日の過ごし方。 ・倦怠感、栄養摂取状況 ・精神状態、活動状態、病状認識 ・リハビリテーションに対する意欲 ・検査データ:CT,MRI,X線、末梢血液 ・間欠跛行の有無 |
■ケア計画
・身体の可動できない原因をアセスメントする
・日常生活の行動がしやすいように環境の調整を行う ・鎮痛薬を使用し、疼痛コントロールを図る(腹部症状など副作用にも注意する) ・意識状態や病状、治療内容に応じてリハビリを計画し、離床をすすめる ・治療や疼痛時感じる不安に対して、寄り添い思いを傾聴する ・不眠時、睡眠薬を使用したり環境を調整する |
■教育計画
・服薬指導
・疾患の認知、退院後のセルフマネジメント状況、生活の困りごとを確認し、患者ができるだけ主体的に取り込むできるように教育計画を実施する ・セルフマネジメントが低い場合、サポート体制を確認し、必要時には利用できるサービスを導入する。 |
6-1、腰部脊柱管狭窄症における施術後の看護計画
切開手術また内視鏡での切除術を行った場合、計画で最も注意が必要なのは感染です。ドレナージの性状や創部周囲の皮膚の色を注意して観察しましょう。腰部の安静を保ちつつ、離床を進めていくことが大切です。
まとめ
腰部脊柱管狭窄症の痛みやしびれは強く、薬を飲んだからとすぐになおる疾患でもありません。活動的な人でも、痛みやしびれの苦痛で安静を余儀なくされます。動きたくても動けない。高齢であればあるほど、一旦落ちた体力や筋肉量を回復するのは困難となり、寝たきりになるリスクが高くなります。部屋にこもり、外に出れない状況はストレスも感じ、精神的に悪影響を及ぼします。そのため、身体だけでなく精神的苦痛を共感し、家族また医療チームで患者を支えていくことが重要になります。
参考文献
基準看護計画第3版―臨床でよく出会う看護診断、潜在的合併症(225-228)|矢田昭子2016/07/05
National institute of arthritis and musculoskeletal and skin diseases|2016/08