通常子宮口が全開し児が娩出される直前に起こる破水が、分娩が起こる前に起こってしまう前期破水。上行性感染を起こし子宮内感染、胎児感染を起こす危険性もあるため母子の感染徴候がないかチェックが必要です。また、理想的な出産を望んでいた夫婦にとってはショックな出来事に感じ主体性が失われてしまうこともあるため夫婦ともに精神的なサポートも必要です。
1、前期破水とは
卵膜は羊水の流出を防ぎ、膣を介しての外界との接触を断つ防御壁の役割をしています。
出典:羊膜とは(京都府立医科大学組織バンク)
卵膜が破れて羊水が流出する状態を破水といい、理想的な破水は妊娠37週以降の分娩で子宮口が全開し児が娩出される直前(分娩第2期)で、この破水を適時破水と呼びます。前期破水とは分娩が始まる前に破水した場合をいい、分娩開始以降、子宮口全開大以前の破水を早期破水、子宮口全開大後も破水が起こらない場合を遅滞破水といいます。破水すると膣内はアルカリ性になるのでBTB試験紙は青く変化します。破水を確認する主な検査は以下の表を参照してください。
1、pH検査法
膣内のpH4.5~6.0、羊水のpH7.1~7.3であり、膣内がアルカリ性を示せば破水している可能性が高い。出血や、トリコモナス膣炎、精液、石けんなどにより偽陽性となることがあるので、注意する。 ・リトマス紙:青変すればアルカリ性である。 ・BTB試薬:アルカリ性であれば、黄色から青に変わる ・ニトラジン法(エムニケーター):あらかじめ綿棒に、指示薬であるニトラジンイエローを浸したもの。青変すれば破水の可能性あり。90%の正診率。 2、がん胎児性フィブロネクチン法(ロムチェック) 羊水中に含まれる、がん胎児性フィブロネクチンの存在により診断する。98%の正診率。 3、シダ状結晶証明法 羊水中のNaCLがシダ状の結晶を形成することにより判断する。正診率85%。 4、胎児毳毛証明法 子宮口からの漏出物から、胎児の毳毛を確認することにより診断する。 5、α―フェトプロテイン(AFP) 胎児由来の物質であり、羊水中には母体血中より高濃度に存在する。尿中や膣分泌液中にはほとんど含まれていない。羊水中の物質として特異性が高く、膣内から検出されれば破水と診断される。 6、インスリン様成長因子結合タンパク質1型(IGFBP-1) インスリン様成長因子に結合するタンパク質の1種で、羊水中に高濃度で存在する。正常妊娠妊婦の膣中にはごく微量しかみとめられないため、破水診断の指標となる。 |
出典:系統看護学講座 専門分野Ⅱ 母性看護学2|株式会社医学書院(森恵美|195表3-10破水を確認するおもな検査)
2、前期破水の原因
前期破水の原因には、絨毛膜羊膜炎などによる卵膜脆弱化、羊水過多による子宮内圧上昇などがあります。
■絨毛膜羊膜炎
子宮頸管あるいは子宮口から細菌感染し絨毛膜と羊膜に炎症を起こした状態が絨毛膜羊膜炎です。妊娠中期に起こりやすく、自覚症状としては発熱、下腹部痛、悪臭のある帯下などですが、自覚症状に乏しい場合もあります。治療としては抗性剤投与、膣洗浄、膣座薬などがあり、現在は比較的胎児への影響が少ないものが多いです。一方胎児に感染してしまうと胎児の肺炎、髄膜炎、敗血症など重篤な状態に陥ることもあるため注意が必要です。
■羊水過多症
妊娠の時期を問わず羊水量が800mlをこえるものを羊水過多、これに臨床的な自・他覚症状を伴うものを羊水過多症といいます。原因は不明ですが、高い頻度で胎児の消化管閉鎖や中枢系神経の異常などの胎児奇形、または一卵性双胎などがあります。母体側の原因としては糖尿病が挙げられます。
3、前期破水の危険性
破水後は、膣あるいは頸管からの上行性感染から子宮内感染を起こす危険性があります。
出典:お悩み34:早産とは(花林レディースクリニック)
通常37週以降の前期破水では24時間以内に自然に陣痛がくる場合が80%ほどなので陣痛が来たら通常の分娩経過となりますが、自然に陣痛が来ない場合あるいは子宮内感染が疑わしい場合は分娩誘発の適応になります。前期破水では羊水の量が減少しており、分娩中に臍帯圧迫を受けるリスクも高いため、胎児機能不全を起こしやすく特に注意が必要です。また、34週未満の前期破水では胎児の未熟性も目立つため、母児感染のリスクとの両方を考慮した分娩時期を決定しなければなりません。
4、前期破水の看護計画
4-1、分娩が今後も円滑に進行するために援助する必要がある
■看護目標:分娩が円滑に進行し、予定通りの分娩が行える
観察項目
・産婦の表情、言動
・付き添っている家族の思い ・痛みの範囲、程度 ・水分摂取量、食事摂取量 ・排尿間隔と排尿量 |
ケア項目
・産婦、家族の感情表出を促す
・産痛緩和できる方法や体位を夫婦で考える ・陣痛間欠時に、食べやすいもの、飲みやすいものを買ってきてもらうよう家族に頼む ・トイレ歩行促し、陣痛時に歩行が難しいようならポータブルトイレ設置 ・陣痛間欠時にリラクゼーション目的の身体的ケア実施 |
指導項目
・陣痛発作時に息を止めることで不利益が生じること、息を吐くことの重要性を説明する
・胎児の健康状態、今後の見通しについてわかりやすく説明し、知識不足なところがあれば情報提供を行う |
4-2、前期破水による上行性感染のリスク
■看護目標:上行性感染(子宮内感染、胎児感染)を起こさない
観察項目
・外陰部の汚染の有無
・バイタルサイン ・羊水の性状 ・胎児心音 ・血液データ(CRP上昇は見られないか) ・羊水培養データ ・出生後の児の呼吸状態 |
ケア項目
・パッド交換など、産婦ができていない清潔行動を手伝う
・指示に従い抗生剤投与 ・内診時、分娩介助はすべて無菌操作で間接介助にあたる ・分娩室入室後は新生児の蘇生や処置の準備が整っているか点検する ・分娩野作成の際に滅菌物が汚染しないように環境整備実施 ・児が羊水を誤嚥しないよう第一呼吸前から用紙吸引を行い、羊水の性状を記録に残す ・出生後も羊水吸引実施 |
指導項目
・外陰部を清潔に保つよう指導し、難しい場合はナースコールするよう説明する |
4-3、夫婦の満足のいく出産体験が困難になるリスク
■関連因子:夫婦の主体性の低下
■看護目標:夫婦にとって満足のいく出産体験となる
観察項目
・夫の休息状況
・夫の受け止め、表情、言動、無力感 |
ケア項目
・夫が休息をとれる機会を提供する
・夫婦の頑張りを肯定する ・夫の気持ちを受け止め無力感が解消できるよう援助する ・産婦のために夫ができる役割を一緒に考える ・夫婦の理想的な出産と現実のギャップを埋め、現実的な出産目標を持てるよう援助する ・児の状態が良ければ3人で交流する機会を設定する ・夫婦の頑張りが互いに伝わるよう支援する |
指導項目
・夫が効果的に腰部マッサージできるように援助する
・夫が産婦にいたわりや励ましの言葉をかけられるよう援助する ・胎児も同じく頑張っていることを伝える |
まとめ
身体的な母子の感染の危険性だけではなく、これから出産を望み期待を寄せている夫婦には心理的なダメージもある前期破水。夫婦が前向きに出産に臨め、なおかつ満足のいく出産体験となるように心身ともにサポートできるよう、ぜひ今回の看護計画を参考にしてください。
参考文献
系統看護学講座 専門分野Ⅱ 母性看護学2|株式会社医学書院(森恵美|390-391 504-506|2012/01/06)
看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|母-46-|2015/03/09)
絨毛膜羊膜炎(医療法人倖生会身原病院)