筋ジストロフィーとは筋肉が変性して壊死していくことで、筋力低下が起こる遺伝性の疾患です。筋ジストロフィーを発症すると、ADLが少しずつ低下していくため、看護師は患者のニーズを把握して、適切なケアを行っていく必要があります。
筋ジストロフィーの基礎知識や症状、看護問題、看護計画、看護のポイント、看護研究をまとめました。
1、筋ジストロフィーとは
筋ジストロフィーとは、筋肉の壊死と再生が慢性的に繰り返される遺伝性の筋疾患です。筋肉の壊死と再生が慢性的に繰り返されることで、筋肉の萎縮や繊維化などが起こり、筋力が低下して、運動機能に障害が起こります。
出典: 難病情報センター | 筋ジストロフィー(指定難病113)
筋ジストロフィーは、筋萎縮の初発部位や進行速度などによって、次のような種類に分類されます。
・デュシャンヌ型筋ジストロフィー
・ベッカー型筋ジストロフィー
・肢帯型筋ジストロフィー
・先天性筋ジストロフィー
・遠位型筋ジストロフィー
・筋緊張型ジストロフィー
・顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
・眼・咽頭型筋ジストロフィー
筋ジストロフィーには、このような種類がありますが、筋肉を構成するたんぱく質の設計図である遺伝子に変異が生じたことで、筋細胞が正常な機能を維持することができず、筋肉が変性し壊死してしまうのです。
筋ジストロフィーの中ではデュシャンヌ型筋ジストロフィーが最も多く、5歳以下の男児が発症します。デュシャンヌ型筋ジストロフィーの生存年齢は、発症後15~20年とされています。現在のところ、筋ジストロフィーの根本的な治療薬はなく、対症療法が治療の中心となります。
2、筋ジストロフィーの症状
筋ジストロフィーは、筋力がどんどん低下し、運動機能に障害が起こる疾患です。特に、骨格筋の筋力低下が主症状になります。
骨格筋の筋力が低下すると、次のような症状が起こります。
・歩行障害などの運動機能の低下
・関節拘縮や変形
・咀嚼・嚥下機能の低下
・表情筋の筋力低下
デュシャンヌ型筋ジストロフィーは、発症時は転倒しやすい、ジャンプできないなどの症状から始まりますが、徐々に動揺性歩行が見られ、さらに躯幹や四肢の近位筋の著しい筋萎縮や筋力低下によってADLが低下し、10歳前後で車椅子生活になり、その後は寝たきりになります。
そして、骨格筋の障害が進むと、運動障害だけでなく、骨粗しょう症や骨折、呼吸障害、誤嚥や栄養障害、代謝異常などが現れます。
筋ジストロフィーは進行すると、骨格筋だけではなく心筋や平滑筋の筋力も低下しますので、心機能や胃腸障害なども合併します。また、発達障害や知的障害、てんかん、眼症状、腫瘍などの合併症も起こります。
特に、筋強直性ジストロフィーは全身にたくさんの合併症が現れることが特徴です。
出典:難病情報センター | 筋ジストロフィー(指定難病113)
筋ジストロフィーは全身の筋力が低下することで、様々な症状・合併症が現れる病気なのです。
3、筋ジストロフィーの看護問題
筋ジストロフィーの看護問題は疾患の進行度や症状によって異なりますが、ここでは代表的な筋ジストロフィーの看護問題を説明していきます。
■呼吸不全がある
筋ジストロフィーでは呼吸筋の筋力が低下することで、呼吸不全が起こります。呼吸不全が起こると、酸素投与をし、最終的には気管切開を行って、人工呼吸器をつけることになります。
■セルフケア不足
筋ジストロフィーの患者は、骨格筋の筋力低下に伴い、ADLが低下していきますので、セルフケア不足になります。
食事面では咀嚼・嚥下機能が低下し、誤嚥のリスクが高まります。入浴・清潔では、座位が保てるうちはシャワー浴が可能ですが、座位が保てなくなると、器械浴や清拭で清潔保持を行わなくてはいけません。
移動や更衣も自力では不可能になりますし、排泄も筋力の低下に伴い、便秘や排尿障害が見られるようになります。
■心不全や不整脈のリスクがある
筋ジストロフィー患者は、心臓機能の低下による心不全が死因になることが多いので、看護師は異常の早期発見に努め、看護介入していく必要があります。
■褥創発生のリスクがある
筋ジストロフィーが進行すると、歩行や座位保持ができずに寝たきりになりますので、褥創発生のリスクが高まります。
嚥下機能や胃腸機能の低下で栄養状態が不良になりやすいため、褥創が発生すると、なかなか治癒しないこともありますので、看護介入が必要になるのです。
4、筋ジストロフィーの看護計画
筋ジストロフィーの看護計画を、先ほど説明した4つの看護問題に沿って、立案していきましょう。
■呼吸不全がある
看護目標 | 呼吸状態が悪化しない、呼吸苦がない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・チアノーゼ、皮膚冷感の有無 ・呼吸苦の有無 ・呼吸状態 ・痰の性状や量 ・尿量 ・検査所見 ・動脈血ガス |
TP(ケア項目) | ・医師の指示に基づいた確実な酸素投与 ・安楽な大意の調整 ・体位ドレナージ ・適宜痰の吸引をする ・用手的呼吸介助法を行う |
EP(教育項目) | ・呼吸苦や痰の貯留があるときには、すぐに知らせてもらう |
■セルフケア不足
看護目標 | 介助によってセルフケア不足が解消される |
OP(観察項目) | ・ADLの自立度 ・残存機能 ・嚥下障害の有無 ・意欲や依存心、ストレス ・家族のサポート状況 ・生活習慣 |
TP(ケア項目) | ・全介助はせずに必要部分のみ介助する ・支持的姿勢で接する ・ベッドサイドの整理整頓、安全の確保 ・摂食、清潔、更衣、排泄等を本人の意向を汲んで援助する・利用できる社会資源を紹介する |
EP(教育項目) | ・できることは自分で行ってもらうことの重要性を説明する ・家族に介助のコツや見守ることの重要性などを説明する・社会資源の活用して、住環境を整えるように家族に指導する |
■心不全や不整脈のリスクがある
看護目標 | 異常の早期発見ができる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・心電図モニター ・不整脈の有無や自覚症状の有無 ・浮腫や呼吸困難感の有無 ・インアウトバランス ・体重の増減 ・ADLの自立度 |
TP(ケア項目) | ・指示に基づいた薬剤の投与 ・モニターのアラーム設定の確認 ・安楽な体位の調整・セルフケアの援助 ・輸液やインアウトバランスの管理 |
EP(教育項目) | ・自覚症状が出たらすぐに知らせてもらう |
■褥創発生のリスクがある
看護目標 | 褥創を作らない |
OP(観察項目) | ・全身の皮膚の状態 ・ADLの自立度 ・自力での体位交換の可否 ・排泄の状態 ・関節拘縮の有無 ・疼痛や掻痒感の有無 ・栄養状態 ・血液検査データ |
TP(ケア項目) | ・適宜体位交換を行う ・エアマットを使用する ・骨突出部の除圧を行う ・皮膚の清潔を保つ ・排泄ケアを行う ・衣類やシーツのしわを伸ばす |
EP(教育項目) | ・体位交換の必要性を説明する ・疼痛、掻痒感があったら、すぐに知らせてもらう |
5、筋ジストロフィーの看護ポイント
筋ジストロフィーの患者は、誤嚥性肺炎などが起こると入院し、その後は自宅で療養するというケースが多く、看取りも自宅で行うことが増えています。
そのため、看護師は自宅での療養を視野に入れて、看護計画を立案しなければいけません。また、自宅でも家族が引き続きケアを行っていけるように、入院中から家族に積極的にケアに参加してもらい、看護・介護のポイントを指導していく必要があります。
また、筋ジストロフィーの患者は知的障害を伴うこともありますが、知的機能にはほぼ問題がない患者も多いため、患者の自尊心を考慮しながら、ケアを行っていくようにしましょう。
6、筋ジストロフィーの看護研究
筋ジストロフィーの看護をさらに深めていきたい、もっと勉強したいと思っている看護師は、「日本筋ジストロフィー看護研究会」に参加すると良いでしょう。
日本筋ジストロフィー看護研究会は、筋ジストロフィー看護を語り、伝承し、情報交換や看護研究、研修を通して筋ジストロフィー看護の質の向上に寄与することを目的としています。
年に1回以上学術集会が開かれていて、研究発表や筋ジストロフィー看護に携わる看護師同士での意見交換の場などがありますので、筋ジストロフィーの看護を深めていくことができるはずです。
まとめ
筋ジストロフィーの基礎知識や症状、看護問題、看護計画、看護のポイント、看護研究についてまとめました。筋ジストロフィーは厚生労働省から難病に指定されている疾患で、現在のところは対症療法しかありません。
筋ジストロフィーの患者へ適切な看護を提供することで、患者のQOLを大きく向上させることができますので、看護師は患者のニーズを的確に把握して、アセスメントしながら看護を行っていくようにしましょう。