低位前方切除術とは、直腸がんを直腸ごと切除して、残った直腸と結腸をつなぎ合わせる手術のことです。肛門を温存できるというメリットはありますが、術後合併症のリスクが高いため、看護師は合併症を考慮しながら、看護をするようにしましょう。
1、低位前方切除術とは
低位前方切除術とは、直腸がんの術式の1つで、直腸のがんを切除して、肛門を温存できる手術法になります。
出典:患者さんのための大腸癌治療ガイドライン2014年版 JSCCR | 大腸癌研究会
低位前方切除術では、直腸のがんを直腸ごと切除して、残った結腸と直腸をつなぎ合わせます。肛門側はがんから2~3cm離れた部位で切除し、結腸側はリンパの流れを考慮してがんの病巣から20cm程度離れた部位で切除します。
そして、残った結腸と直腸を腹膜反転部(直腸がまっすぐになる部位)より下で吻合してつなぎ合わせます。腹膜反転部より上で吻合する場合は上位前方切除術になります。
低位前方切除術では、手縫いではなく自動吻合器を用いて縫合するのが一般的です。これは、手縫いでは骨盤腔の後方部位を縫合するのは困難だからです。自動吻合器が普及することで、低位前方切除術が可能になりました。
以前は、直腸がんになると、人工肛門を造設しなければいけなかったのですが、低位前方切除術が可能になったことで、一時的に人工肛門を造ることはあるものの、肛門を温存しながら、直腸がんを切除することが可能になったのです。
2、低位前方切除術の術後合併症(イレウス・感染・排尿障害)
低位前方切除術は、肛門を温存できるメリットはあるものの、術後合併症が起こる可能性はあります。低位前方切除術で起こりやすい術後合併症はイレウスと感染、排尿障害、性機能障害、排便障害、縫合不全です。
■イレウス
低位前方切除術では腸管と腹腔内の臓器・腹膜が癒着して、イレウスを起こす可能性があります。
■術後感染
オペ後は、術後感染のリスクがあります。オペ前に抗生剤の予防投与をしていても、術中の操作やドレーンから感染が起こり、その感染が創部だけではなく、全身に広がることもあります。
また、縫合不全でも術後感染が起こります。
■排尿障害
低位前方切除術は肛門を温存するものの、がんの病巣を切除するのと同時に、転移しやすいリンパ節を郭清します。リンパ節を郭清する時に、排尿機能をつかさどる神経が損傷されると、排尿障害が起こることがあります。
■性機能障害
低位前方切除術では、勃起障害や射精障害などの性機能障害が起こることがあります。これは、排尿障害と同じようにリンパ節郭清で、自律神経を損傷してしまうためです。
性機能障害は、排尿機能障害よりも頻度が高くなっています。
■排便障害
低位前方切除術では、直腸の一部を切除して結腸とつなぎ合わせます。低位前方切除術をすることで直腸が短くなり、直腸の代わりにつながれるのは、直腸よりも細い結腸です。
直腸は便を溜めておく役割がありますが、低位前方切除術をすると、直腸が短くなることで、便を溜めておけなくなりますので、便回数が増えたり、下痢(水様便)や便失禁、便意頻回などの排便障害が起こることがあります。
■縫合不全
低位前方切除術後は、縫合不全を起こすリスクがあります。低位前方切除術後に縫合不全を起こすと、吻合部から便が漏れ出すことになります。
吻合部から便が漏れ出すと、そこから感染や炎症が広がってしまいます。軽症なら食事制限などで治癒しますが、重症化すると、一時的に人工肛門を造設して、治療しなければいけません。縫合不全が治癒すれば、人工肛門を閉鎖することが可能です。
3、低位前方切除術の看護観察のポイント
低位前方切除術では、縫合不全を起こしやすいかどうかを観察しておくようにしましょう。
縫合不全は、一時的とはいえ人工肛門を造設しなければいけませんし、感染が全身に広がれば、敗血症性ショックを起こすリスクもあります。
そのため、看護師は縫合不全を起こしやすいかどうかをあらかじめ観察しておき、もし、その兆候が見られたら、すぐに対処できるようにしておく必要があります。
縫合不全を起こしやすい要因には、全身的要因と局所的要因の2つに分けられます。
・全身的要因=糖尿病、貧血、低栄養(低タンパク血症)、高齢、慢性腎不全、ステロイド薬の長期使用
・局所的要因=術後感染、縫合の不備(自動吻合器の不備)
これらの要因で縫合不全を起こすリスクが上がりますので、術前から糖尿病や貧血、低栄養の患者には注意を払い、さらにオペ後はドレーンからの排液の性状に注意しましょう。
縫合不全が起こり、便が漏れ出すと、ドレーンの排液は便汁状に変化します。そのため、低位前方切除術のオペ後は、ドレーンの排液の性状変化を観察して、いち早く縫合不全を発見しなければいけません。
4、低位前方切除術の看護計画
低位前方切除術を受けた患者の看護計画の一例をご紹介します。低位前方切除術を受けた患者の看護問題は、縫合不全を起こすリスクがあること、術後感染のリスクがあること、イレウスを起こすリスクがあること、排尿障害や排便障害の可能性があることの5つになります。
■縫合不全を起こすリスクがある
看護目標 | 縫合不全を起こさない、早期に発見できる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・ドレーンの排液、性状、量 ・腹痛や腹部膨満感の有無 ・便の性状や量 ・血液検査データ ・腹部レントゲンの所見 |
TP(ケア項目) | ・ドレーンが閉塞しないように、適宜ミルキングを行う ・縫合不全の兆候が見られたら、すぐに医師に報告する ・医師の指示に基づいた抗生剤の投与 |
EP(教育項目) | ・安静を保持し、腹圧をかけないように指導する ・腹痛など創部付近の異常がある場合は、すぐに知らせるように伝える |
先ほども説明しましたが、低位前方切除術の縫合不全は、人工肛門を造設するなどの必要が出てきますので、できるだけ早く発見して、医師に報告し、適切な対処ができるようにしましょう
■感染リスク状態
創部の感染が起こると、それが原因で縫合不全を引き起こす可能性があるため、術後の感染にも気をつけなければいけません。
看護目標 | 創部感染を起こさない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・血液検査データ(WBC、CRP) ・ドレーンからの排液の量、色、性状 ・創部の疼痛、腫脹、発赤 ・ドレーン刺入部の疼痛、腫脹、発赤 |
TP(ケア項目) | ・清潔操作の徹底 ・ドレーンは適宜ミルキングをする ・ドレーンの排液パックは床につかないようにする ・ドレーンからの排液が逆流しないように、挿入部よりも低い位置に排液バックを固定する ・指示に基づいた抗生剤の投与 ・ドレーン挿入部のガーゼ交換 |
EP(教育項目) | ・患者に手洗いを指導する |
■イレウスを起こすリスクがある
看護目標 | 腸蠕動が回復し、術後2~3日以内に排ガスがある |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン ・血液検査データ(WBC、Ht、K、Na、Cl) ・腹部レントゲン ・腹痛、嘔気、嘔吐、腹部膨満感、腹壁の緊張の有無 ・腸蠕動音の有無 ・排ガスの有無 ・便の量や性状 |
TP(ケア項目) | ・体位交換や早期離床を促す ・指示に基づいた腸蠕動促進剤の与薬 ・安静の指示範囲内での下肢の他動運動 |
EP(教育項目) | ・早期離床や体動の必要性を説明する ・排ガスがあったら報告してもらう |
■排尿障害の可能性がある
低位前方切除術後は、排尿障害が起こる可能性がありますが、リハビリをすることで、排尿機能が回復することがあります。
看護目標 | 排尿訓練によって、自然排尿がある |
OP(観察項目) | ・尿意の有無 ・水分出納 ・1日の尿量 ・1回の尿量 ・自然排尿がある時には、残尿量 ・尿勢 |
TP(ケア項目) | ・膀胱訓練を行い、尿意があればバルンカテーテルを抜去する ・自然な排尿姿勢をとらせる ・用手的排尿方法を実施する ・水音を聞かせる ・定期的に導尿する ・自然排尿がある場合も導尿をして、残尿量をチェックする |
EP(教育項目) | ・リハビリをすれば排尿障害が回復する可能性があることを伝える ・用手的排尿方法を指導する ・自己導尿を指導する |
尿が溜まりすぎて、膀胱の筋肉が伸展しすぎてしまうと、膀胱が収縮できなくなって、自然排尿が難しくなってしまいます。導尿は4時間ごとに行い、自然排尿がある場合も残尿が50ml以下になるまでは、排尿後の導尿を続けたほうが良いでしょう。
■排便障害の可能性がある
低位前方切除術のオペ後は下痢や便失禁、肺便回数の増加など排便障害が起こることがありますが、術後2週間程度経つと、腸の動きが安定して便の性状も落ち着くことがあります。
それでも、術前と同じようには戻らないことがあるので、薬などを用いて調整していく必要があります。
看護目標 | 排便コントロールができる |
OP(観察項目) | ・便の性状 ・便回数 ・排便パターン ・便失禁の有無 |
TP(ケア項目) | ・指示に基づいた薬剤の投与(止痢剤、緩下剤、整腸剤) ・術後は消化に良いものを食べ、繊維質のものや冷たいものは避ける ・温罨法 |
EP(教育項目) | ・2週間程度で徐々に落ち着いてくることを説明する ・薬の種類や量を調整することで排便コントロールが可能なことを説明する ・食事指導を行う |
まとめ
低位前方切除術の基礎知識や術後合併症、看護観察のポイント、看護計画をまとめました。低位前方切除術は肛門を温存できる手術であるものの、術後合併症のリスクも大きいので、看護師は術後合併症のリスクを最小限にするためのケアを行うようにしましょう。