患者へ適切な看護ケアを行うために必要不可欠な「看護診断」。病気や心理的要因などから起こる患者の様々な問題に対する解決策を導き出す過程(看護診断)は非常に重要であり、この過程なくして患者のニードを満たし、早期治療を図ることはできません。
ここでは、看護診断とはどのようなものなのかを解説していますので、看護診断の概要を掴めていない方はぜひ一読ください。
1、看護診断とは
看護診断は、看護過程の5段階の1つであり、アセスメントから得た情報をもとに、看護問題を導き出すための診断のことです。
■看護過程の5つの段階
①アセスメント | 患者の健康に関する情報を収集し、解釈・分析・評価をする |
②看護診断 | アセスメントの結論として、看護行為によって解決可能な問題を決定する |
③看護計画 | 判別された看護診断の優先度を決定し、その目標を設定し、目標を達成するために適切な看護活動を考え計画を作成する |
④看護介入 | 計画した看護活動を実行する |
⑤看護評価 | 実施した看護活動の効果を目標に照らして、問題の解決がなされたか、目標が達成されたかどうかを判定する |
患者の病気の症状や心身の状態から、どのような看護を行っていけば良いのかを決める上で看護診断は非常に重要な過程であるものの、その必要性が日本で導入されたのは1980年代と最近のことであるため、未だ開発途上です。
また、診断の基準は曖昧な点が多く、診断を行うためには多くの知識が必要であるため、臨床においてあまり実践されていないのが現状です。
2、NANDA看護診断とは
NANDA看護診断とは、北米看護診断協会(North American Nursing Diagnosis Association)が提唱する看護診断のこと。患者の問題を診断する際、同じ問題であっても看護師によって診断に違いが出てきます。統一性がなければ異なる解釈をされてしまう可能性があるため、同一の診断のもと解釈を統一しようという考えで作られました。
しかしながら、看護診断は確立されていないため、NANDA看護診断においても改変が多々行われています。なお、NANDA看護診断において、以下の13領域に分類され、これら各領域ごとに診断を行います。
■NANDA看護診断13領域
領域1:ヘルスプロモーション | 領域8:セクシュアリティ |
領域2:栄養 | 領域9:コーピング/ストレス耐性 |
領域3:排泄と交換 | 領域10:生活原理 |
領域4:活動/休息 | 領域11:安全/防御 |
領域5:知覚/認知 | 領域12:安楽 |
領域6:自己知覚 | 領域13:成長/発達 |
領域7:役割関係 |
また、NANDA看護診断には「実在型看護診断」、「リスク型看護診断」、「ウェルネス型看護診断」の3つの表現形式が存在します。
■診断タイプ
タイプ | 概要 |
実在型看護診断 | 個人・家族・地域社会に存在する健康状態/生活過程に対する人間の反応を記述する |
リスク型看護診断 | その状態を起こしやすい個人・家族・地域社会に生じることのある健康状態/生活状態に対する人間の反応を記述する |
ウェルネス型看護診断 | より高い状態へ促進される準備状態にある個人・家族・地域社会のウェルネスのレベルに対する人間の反応を記述する |
さらに、「①診断ラベル」、「②定義」、「③診断指標」、「④関連因子」、「⑤危険因子」の5つの要素によって構成されています。
■5つの構成要素
表示 | 概要 |
①診断ラベル | ・ 診断ラベルに名称を与えているもの。
・ 診断ラベルは関連のある手がかりのパターンを表現する簡潔な用語または語句。 ・ 診断ラベルには修飾語を含むことがある。修飾語がついていないものもある。 |
②定義 | ・ 診断ラベルの明確で正確な記述であり、その意味を的確に説明している。つまり、それが何かを明芽確に説明しているものである。
・ 類似の診断と区別する時に定義を確認し、該当するかどうかを判断する。 ・ NANDA看護診断の診断ラベルにはすべて定義が示されている。 ・ 定義を見れば、その診断ラベルが何を意味しているのか明確に理解できる。 ・ 定義は診断ラベルとは矛盾しない。 |
③診断指標 | ・ 実在型看護診断とウェルネス型の看護診断の証拠として挙げられる観察可能な手がかりや推論であり、看護診断には必ず診断指標が表記されている。
・ 定義および診断名と一致した徴候(sign)や症状(symptom)のことである。 ・ 特定の看護診断が存在するかどうかを考えていくプロセスにおいて、患者に観察された診断指標をチェックする。 ・ 診断指標が観察されればその看護診断が存在し、観察されなければその診断は存在しないと見なす。 |
④関連因子 | ・ 診断指標ではなく、ある看護診断との間に関連しているように見える観察可能な手がかりや推論である。
・ ある種のパターンに見える関係を看護診断との間に示すように見える因子のことである。 ・ 「…に先行する」「…に伴う」「…に関連した」「…の一因となる」「…を起こさせる」と記述することができる。 ・ 特定の看護診断が存在するかどうかを考えていくプロセスにおいて、患者に観察された関連因子をチェックする。 ・ 関連因子はどの看護診断にも表記されているわけではない。関連因子が確定していない場合は「開発中」と表記されている。 |
⑤危険因子 | ・ 不健康な状態に個人・家族・地域社会を陥りやすくする環境因子および、生理的、心理的、遺伝的、科学的要素である。 |
出典:NANDA看護診断一定義と分類
このように、NANDA看護診断は詳細に構成されているため、正確な診断がしやすく問題を共通認識しやすいという特徴があります。
2-1、NIC(看護介入分類)とNOC(看護成果分類)
上記のように、NANDA看護診断は看護問題を導き出すための診断基準ですが、NANDA看護診断をもとに、どのように看護介入すれば良いのか、どのようなケアを行うのかを分類するものとして、NOC(看護成果分類)とNIC(看護介入分類)があります。
NANDA看護診断 | アセスメントをもとに看護問題を明確にするための診断 |
NOC(看護成果分類) | 問題解決において期待される看護介入が、どの程度有効であるかを看護感受性成果として具体的に数量化して示したもの |
NIC(看護介入分類) | 実際にどんな観察やケアを行うのかを記述したもの |
NANDA看護診断を使って看護診断し、NOCで看護結果を決定し、NICで看護介入するというように、リンケージ(連動)しているため、「NANDA-NOC-NIC」というように看護診断の1つのプロセスとして定着しつつあります。
これらを1つにすることで、より効果的かつ適切に患者のニードを満たすことができるとして、さまざまな臨床現場において活用されています。
なお、NOCの測定には「1=重度に障害」、「2=かなり障害」、「3=中程度に障害」、「4=中程度に障害」、「5=軽度に障害」というような、5段階からなるリッカート尺度を用いて指標を評点します。つまり、介入前(成果の基礎評点)と介入後の成果の評点の差を導き、その差が介入によって達成された成果を示すのです。
NICにおける看護介入は、直接的ケア・間接的ケアの両方が含まれ、介入の対象は個人だけでなく家族や地域社会も含まれます。また、介入を選択する際には、「①期待される成果」、「②看護診断の特性」、「③介入の研究的基盤」、「④介入の実行の可能性」、「⑤患者の受容の可能性」、「看護師の実践能力」の6つの因子を考慮しなければいけません。
3、日本看護診断学会
日本看護診断学会は、適切な看護を行うために看護診断や介護介入、それらの成果に関する研究・開発・検証・普及を行う団体で、今から約25前の1991年に「日本看護診断研究会」として設立され、その3年後となる1994年に「日本看護診断学会」に改名されました。
2015年4月時点での会員数は1233人にのぼり、会員になることで、学会誌を読めたりと看護診断に関する深い知識を習得でき、さらに会員同士の交流を図ることができます。なお、1995年より年に1回の学術大会が開かれていますが、これは非会員でも参加することできます。
≪事業内容≫
- 定期学術大会、課題研究会、講演会などの開催
- 学会機関誌、学会ニュースレターおよび学術図書の刊行
- 国内外の関連諸学会、職能団体との連絡ならびに協力
- NANDAインターナショナルとの国際交流と連携活動、および関連国際学術団体との交流
- 看護診断に関する研究の推進
- 研究の助成
≪入会案内≫
入会に際して特に条件はありません。必要書類を提出し、理事会の承認を得た後、会員になることが出来ます。なお、入会時には入会金5000年と年会費7000円の計12000円を納入する必要があります。
看護診断は未だ確立されていないため、領域や基準など様々な点において改変が行われています。これら改変は日本看護診断学会が先頭となって行っており、今後、看護診断の必要性はますます高まってくるため、看護診断に関する先進的な知識を修得したいという方は、同学会への入会を強くお勧めします。
4、参考になる書籍
最後に、看護診断を理解・把握する上で参考となる書籍を紹介します。看護診断は非常に難解で、臨床現場において未だ導入の是非が問われていますが、今後間違いなく必要となってくるため、看護学生だけでなく看護師の方も、この機会にしっかりと学んでおきましょう。
NANDA-Iが採択している看護診断および原著者が臨床で使えると考えている看護診断の基本情報(定義・診断指標・関連因子)と,NOC(看護成果),NIC(看護介入),さらに実際の看護介入を示した書。似たような看護診断の使い分けや臨床での使用の仕方などを原著者が解説している点が特徴。看護診断名と定義を知るだけでなく,臨床でいかに活用し,看護介入につなげるのかまでがわかる。 |
NANDAインターナショナルで承認された看護診断を収めたハンドブック。26の新しい看護診断が追加、13の看護診断が改訂されたほか、看護診断の基礎からNANDA-I看護診断に関するよくある質問と回答(FAQ)などの解説もさらに充実。臨床でのレファレンスに、また看護診断の学習に役立つナース必携の書。 |
新人看護師ゆう子が試行錯誤をくり返しながら看護診断を学ぶ過程を、読者も一緒になってたどります。看護過程の流れに沿った解説を、ひとつひとつ確かめながら学んでいけます。NANDA‐I看護診断だけではなく、NIC(看護介入分類)、NOC(看護成果分類)も具体的な事例で学べます。 |
まとめ
看護診断が日本で導入され始めたのは1980年代と最近のことであり、アメリカなど海外においても歴史は古くありません。それゆえ、未だ診断基準が確立されておらず、臨床においては導入の是非が問われています。
しかしながら、看護診断は患者のニードを満たし、早期改善・早期治療を行う上で非常に大切な過程であるため、今後その必要性はますます高くなってくるでしょう。
複雑で理解するのは困難ですが、看護診断の詳細を理解することで、カルテの作成や読み取りだけでなく、頭の中で論理的に問題への解決策を導き出すことができますので、日本看護診断学会への入会、または参考書籍を活用して、看護診断に関する深い知識を修得しましょう。