師長や主任など看護管理者になると、さまざまな問題に直面することでしょう。今まで患者のケアのみに注力してきたものの、看護管理者は患者の疾患に対する治療やQOL向上などのケアのみならず、組織を円滑に動かさなければいけません。
看護管理とは何か、どのように管理を行えば良いのかなど、当ページでは看護管理の基礎を説明していますので、看護管理に関する知識を深めたい方は、ぜひ最後までお読みください。
1、看護管理とは
看護管理とは、患者の安心・安全・安楽な生活をサポートするため、また、組織として円滑にやりくりするための業務の一環であり、主に師長や主任などのマネージャークラスが行います。しかしながら、役職の持たない看護師(スタッフナース)も日々の業務の中で無意識的に看護管理を実践していることから、役職の有無に関わらず、看護職に携わる全ての者が、看護管理について知っておかなければいけません。
看護管理の主な業務は、「マネジメント」することであるものの、患者に対して日々行っている看護過程に通じています。看護過程とは、患者が抱えている問題(看護問題)を導き出すために、アセスメントや診断を行い、得た情報をもとに計画を立案し、ケアの実施・評価を行う看護プロセスのことで、看護管理においても同様のプロセスを辿ります。
たとえば、看護職員が円滑に業務を行えるよう、妨げとなっている問題を導き出すために現状を把握し、問題解決に向けた計画を立案し、実施・評価していくというプロセスを辿ります。
2、看護職員の役職別にみた業務内容
①看護部長 | ・ 病院長・副院長との折衝
・ 新人看護師の採用計画の作成 ・ 看護部の業務計画の作成 ・ 看護師長への計画の指示 ・ 看護師の教育方針・教育計画の作成 ・ 看護部の代表として対外的な交渉、など |
②副看護部長 | 看護部長の業務内容に加え、看護部長の補佐を行う。 |
③看護師長 | ・ 職員の能力開発の支援と人材の育成
・ 創造的に看護が実践できる職場環境・風土作り ・ 看護部門の方針に基づいた目標の達成 ・ 看護単位を効率的に運用するための組織体制の整備 ・ 質の高い看護サービスの継続的な提供・評価・改善 ・ 地域社会との連携、社会資源を活用した継続的な看護の提供 ・ 看護職員の健康管理 ・ 病院の使命や役割の推進と危機管理 ・ 看護師長の特性や看護管理者の望ましいあり方の意識の確立 ・ 看護研究の推進と支援、など |
④副看護師長 | 看護師長の業務内容に加え、看護師長の補佐を行う。 |
⑤主任 | ・ 看護単位の運営状況を把握、スタッフへの認識の促進
・ 看護案の方針・目的・目標におけるスタッフへの実施の促進と目標の達成 ・ 資源の有効活用、看護単位の運営 ・ 役割モデルとしての自立的かつ創造的な看護の実施。 ・ 社会資源を活用した継続看護、スタッフへの指導。 ・ 互いに啓発できる職場づくりの確立 ・ スタッフへの看護の倫理の自覚促進と行動援助、など |
⑥看護師(スタッフナース) | 指導を受けながらの基礎的看護技術のマニュアルに沿った看護を行う。 |
このように、役職の有無などで業務内容は大きく異なります。一般的に看護管理においては、「看護部長・看護副部長→看護師長・看護副師長」、「看護師長・看護副師長→主任」、「主任→看護師(スタッフナース)」というように、役職の高い者から低い者へのマネジメント業務であると考えると分かりやすいのではないでしょうか。
なお、上述したように、患者に対する日々のケア業務も看護管理の1つであるため、「看護師(スタッフナース)」→「患者」も当てはまりますが、看護管理は患者の安心・安全・安楽な生活をサポートすることを根本としているため、「すべての役職」→「患者」となることは理解しておきましょう。
3、看護管理者の役割
看護管理者が行うべき最も重要な役割は、質の高い組織的看護サービスを提供することです。そのためには、部署や病棟、さらには各看護職員が抱えているさまざまな問題を解決していかなければいけません。
しかしながら、質の高い組織的看護サービスを提供するために解決していかなければいけない問題というのは、部署や病棟、各看護職員によって異なります。
看護技術における部下への指導はもちろんのこと、たとえば、オペ室看護であれば看護師と患者のコミュニケーションが少ないことで、コミュニケーション力に乏しく、各看護師が自発的に発言しないという問題に対して、人前で話すことへの羞恥心をなくすために、スピーチする機会を持つなど、改善すべき問題は多岐に渡ります。
また、部署や病棟などグループ間での看護職員同士の良好な関係を築くこと、事故がないよう安全面に配慮すること、業務の効率化を図ることなど、看護管理の役割はさまざまですので、今何が問題となっているのかを正しく見極め、改善に取り組んでいってください。
4、日本看護管理学会
看護管理学会は、看護実践のあらゆる場における看護サービスの発展を目指して、看護サービスの組織的提供の仕組みを社会的要因との関係において学術的に追求し、人々の健康とQOLの向上に寄与することを目的として1996年に設立されました。
年に1回の学術集会や定期的な例会の開催、年に2回の学会誌の発行など、学術的なさまざまな活動が行われており、2015年7月時点では、3705人もの正会員を有しています。
会員になることで看護管理に関する最新の学術的情報を入手できるだけでなく、学術集会など割引で参加できるため、看護管理に関する知識を深めたいという方は、ぜひ入会を検討しておきましょう。
■事業内容
・学術集会の開催
・会誌等の発行
・看護管理学の発展に資する教育・研究の推進
・看護の適正評価の推進
・看護の質向上に関する事業
■入会方法
≪入会要件≫
以下①または②のいずれかが必要。
①看護管理関連の業績
②社員(評議員)1名の推薦
≪入会金≫
・10,000円(年会費)
5、認定看護管理者
認定看護管理者とは、日本看護協会が認定する資格のことで、多様なヘルスケアニーズを持つ個人・家族及び地域住民に対して、質の高い組織的看護サービスの提供や、看護管理者の資質と看護の水準の維持及び向上の寄与、保健医療福祉に貢献することを目的として、1998年に発足され、2015年10月時点で合計2664の看護師が認定を受けています。
認定看護管理者になったからと言って給料や年収を上がることはほぼありませんが、より高いレベルでの管理を行うことができるようになるため、看護管理者として高みを目指したい方は、ぜひ認定に向けて進んでいきましょう。
■看護管理者になるには
① 日本国の看護師免許を有すること
② 看護師の免許取得後、実務経験が通算5年以上あること |
上記に加え、下記にいずれかの要件を満たすこと。
・ 認定看護管理者教育課程サードレベルを修了している者
・ 看護系大学院において看護管理を専攻し修士号を取得して いる者で、修士課程修了後の実務経験が3年以上ある者。 ・ 師長以上の職位で管理経験が3年以上ある者で、看護系 大学院において看護管理を専攻し修士号を取得している者 ・ 師長以上の職位で管理経験が3年以上ある者で、 大学院において管理に関連する学問領域の修士号を取得 している者。 |
上記の要件を満たした上で、認定審査(書類及び筆記試験)に合格すれば、認定を受けることができます。
■教育課程
時間 | 受講要件 | |
ファーストレベル
(1st) |
150時間 | ①日本国の看護師免許を有する者
②看護師免許を取得後、実務経験が通算5年以上ある者 ③管理的業務に関心があり、管理的業務に従事することを期待されている者。 |
セカンドレベル
(2nd) |
180時間 | ①日本国の看護師免許を有する者
②看護師免許を取得後、実務経験が通算5年以上ある者 ③認定看護管理者教育課程ファーストレベルを修了している者 (または看護部長相当の職位にある者、もしくは副看護部長相当の職位に1年以上就いている者。) |
サードレベル
(3rd) |
180時間 | ①日本国の看護師免許を有する者
②看護師免許を取得後、実務経験が通算5年以上ある者 ③認定看護管理者教育課程セカンドレベルを修了している者。 (または看護部長相当の職位にある者、もしくは副看護部長相当の職位に1年以上就いている者。) |
■教育機関
都道府県 | 教育機関名 | 1st | 2nd | 3rd |
北海道 | 公益社団法人北海道看護協会 | ○ | ○ | |
札幌市立大学教育支援プロジェクトセンター | ○ | |||
青森県 | 青森県看護協会 | ○ | ||
青森県立保健大学地域連携・国際センター | ○ | ○ | ||
岩手県 | 岩手県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
宮城県 | 宮城県看護協会 | ○ | ○ | |
秋田県 | 公益社団法人秋田県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
山形県 | 山形県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
福島県 | 福島県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
茨城県 | 茨城県看護協会 | ○ | ○ | |
茨城県立中央病院認定看護管理者教育課程 | ○ | |||
栃木県 | 栃木県看護協会 | ○ | ○ | |
群馬県 | 群馬県看護協会 | ○ | ○ | |
埼玉県 | 埼玉医科大学認定看護管理者教育課程 | ○ | ||
埼玉県看護協会 | ○ | ○ | ○ | |
上尾中央医科グループ協議会 | ○ | ○ | ||
千葉県 | 千葉県看護協会 | ○ | ○ | |
地域医療機能推進機構本部研修センター | ○ | ○ | ||
東京都 | 国際医療福祉大学看護生涯学習センター | ○ | ○ | ○ |
国立看護大学校研修部 | ○ | |||
昭和大学看護キャリア開発・研究センター | ○ | ○ | ○ | |
聖路加国際大学 教育センター | ○ | |||
東京女子医科大学男女共同参画推進局 看護職キャリア開発支援センター | ○ | |||
東京都看護協会 | ○ | ○ | ○ | |
東京都福祉保健財団 | ○ | |||
日本看護協会看護研修学校 | ○ | ○ | ||
日本赤十字社幹部看護師研修センター | ○ | ○ | ○ | |
神奈川県 | 神奈川県看護協会 | ○ | ○ | |
神奈川県立保健福祉大学実践教育センター | ○ | ○ | ○ | |
北里大学看護キャリア開発・研究センター | ○ | |||
新潟県 | 公益社団法人新潟県看護協会 | ○ | ○ | |
富山県 | 富山県看護協会 | ○ | ○ | |
石川県 | 石川県看護協会 | ○ | ○ | |
福井県 | 福井県看護協会 | ○ | ○ | |
山梨県 | 山梨県看護協会 | ○ | ○ | |
長野県 | 長野県看護協会 | ○ | ○ | |
岐阜県 | 岐阜県看護協会 | ○ | ○ | |
静岡県 | 聖隷福祉事業団 聖隷三方原病院 認定看護管理者教育課程 | ○ | ||
静岡県看護協会 | ○ | ○ | ○ | |
愛知県 | 愛知県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
三重県 | 三重県看護協会 | ○ | ○ | |
滋賀県 | 滋賀県看護協会 | ○ | ○ | |
京都府 | 京都府看護協会 | ○ | ○ | |
大阪府 | 学校法人藍野学院 キャリア開発・研究センター | ○ | ||
大阪府看護協会 | ○ | ○ | ○ | |
兵庫県 | 日本看護協会神戸研修センター | ○ | ○ | |
兵庫県看護協会 | ○ | ○ | ○ | |
奈良県 | 奈良県看護協会 | ○ | ○ | |
和歌山県 | 和歌山県看護協会 | ○ | ○ | |
鳥取県 | 公益社団法人鳥取県看護協会 | ○ | ○ | |
島根県 | 島根県看護協会 | ○ | ○ | |
岡山県 | 岡山県看護協会 | ○ | ○ | |
広島県 | 広島県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
広島大学病院看護実践教育研修センター | ○ | |||
山口県 | 山口県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
徳島県 | 徳島県看護協会 | ○ | ○ | |
香川県 | 香川県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
愛媛県 | 愛媛県看護協会 | ○ | ○ | |
高知県 | 高知県看護協会 | ○ | ○ | |
福岡県 | 国際医療福祉大学九州地区生涯教育センター | ○ | ○ | |
西南女学院大学 認定看護管理者教育課程 | ○ | ○ | ||
福岡県看護協会 | ○ | ○ | ○ | |
佐賀県 | 佐賀県看護協会 | ○ | ○ | |
長崎県 | 長崎県看護協会 | ○ | ○ | |
熊本県 | 熊本県看護協会 | ○ | ○ | |
熊本県立大学 認定看護管理者教育課程 | ○ | |||
大分県 | 大分県看護協会 | ○ | ○ | |
宮崎県 | 宮崎県看護協会 | ○ | ○ | |
鹿児島県 | 鹿児島県看護協会 | ○ | ○ | |
沖縄県 | 沖縄県看護協会 | ○ | ○ | ○ |
6、参考になる書籍
最後に、看護管理を学ぶ上で参考となる書籍をご紹介します。看護管理者として組織を改善し、患者の安心・安全・安楽な生活をサポートできるよう、ぜひ活用しましょう。
看護管理領域において、看護組織論、看護経営・経済論、看護制度・政策論、看護マネジメント論、人的資源活用論、看護情報管理論など、さまざまな領域について学ぶことができる。 |
社会の変化を的確にとらえながら,看護管理者として直面するさまざまな問題について解決策を探る月刊誌。看護師長を中心に主任から部長まで幅広い読者層に役立つ情報をお届けする。 |
看護現場における主任業務と管理・コミュニケーション術を解説したテキスト。主任の立つ位置、看護管理の目標、目指すところを意識した上で71項目の行動・業務を導き出し、「何を、いつまでに、どうすべきか」を分かりやすく解説。 |
まとめ
看護管理は組織を円滑に動かし、患者に質の高い看護を提供することが根本の役割であることから、軽視すべきではありません。
今何が問題となっているのか正しく見極め、その問題に対する計画・実践を行い、見直した上で再度実践に移るという過程を経る必要があるため問題解決には時間がかかります。
しかしながら、1つ1つ段階を踏んでいくことで、新たな問題を発見できたり、効率的かつ効果的な解決策を見出すことができるため、毎日切磋琢磨し、抱えている問題を1つずつ解決していきましょう。