雑誌やテレビでも、食やダイエットに関する情報が多く発信されています。それは、それだけ私たちが「食べる」という本能が強いからかもしれません。私たち人間だけでなく、どの生き物も生命を維持するためには、食物を食べて必要な物質を取り込み、そのエネルギーを使用して活動をしています。しかし、現代社会では、摂取したエネルギー量より、消費量のほうが少なく肥満になり、それによる健康障害が問題になっていることはよく知られています。しかし、今回はその逆の、るい痩という栄養失調によっておこる身体の状態についてお伝えしたいと思います。
1、るい痩(栄養失調)とは
るい痩とは、体重が著しく減少した状態また脂肪組織が病的に減少し、そのために肋骨など骨の形が皮膚の上に浮き上がるほどの著しく痩せた身体の状態のことを言います。るい痩がひどい患者は、目はくぼみ、髪のつやがなくなります。皮膚は張りがなく、乾燥し傷がつきやすい状態になります。特に、仙骨や腸骨など突出した骨は、皮膚トラブルが起こしやすく、自力体交ができない場合は褥瘡形成のリスクが高まります。そして、栄養が欠乏した状態は外見に変化がでるだけでなく、心身の不調を感じることが多くなります。特に、疲労感やめまい、そして常にひどい倦怠感があり、何もやる気が起きないなどの無気力の状態が続くことがあります。その状態が続くと、うつなど精神疾患につながります。
2、るい痩の原因
るい痩の原因は、カロリー、たんぱく質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどの生命を維持するのに必要な栄養素の摂取量不足です。それではなぜ栄養失調の状態になってしまったのでしょうか。多様な要因がありますが、以下の表に上げたによることが主な栄養失調の原因になっていると考えられています。
■主な要因として考えられること
不十分またはアンバランスな食事 | ・十分に栄養を得られない環境(貧困・震災・戦争など)
・偏食 ・摂食障害(若い女性に多い) ・薬や化学療法の副作用よる食欲低下
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消化機能の障害(消化と吸収) | ・癌による消化機能の低下
・腫瘍による通過障害(イレウスなど) ・癌による悪液質 ・クローン病 ・潰瘍性大腸炎 ・壊死性腸炎 ・乳糖不耐症 |
他の疾患 | ・感染症
・やけど ・脳の疾患(損傷やパーキンソン病・脳梗塞による嚥下機能の低下など) ・認知症 |
この表以外にも、呼吸や心臓の疾患の患者にも栄養失調のリスクがあります。アメリカの入院している患者の3分の1は低栄養状態だといわれています。るい痩の状態にならないためにできることは、栄養状態を改善することが大事であることがわかります。
3、るい痩の治療
治療を始める前にまず、患者に治療する必要性を説明、同意を得ましょう。同意が得られたら、採血、EKG(心臓のリズムや速さを記録)、摂取量のチェック、尿検査、そして胸のレントゲン(感染や肺炎など)など医師が必要とした検査を行います。
■主な治療方法
内服薬 | ・不足しているビタミンやミネラル剤
・食欲増進剤(ステロイドなど) |
栄養補助食品 | ・摂取カロリーを増やすために、量は少なくても高いカロリーが含まれている食材。また、飲み物やゼリーなど摂取がしやすいもの。
・食べやすく加工してある食品 |
点滴やチューブでの栄養摂取 | ・胃管(経口からのアプローチが難しい患者に適応)
・PEG(上部の消化通過障害がある患者や長期間に栄養を注入する必要のある患者に適応) ・TPN(摂取障害や消化機能に問題があるときに、CVやポートから高カロリーの輸液を行うことができます。) |
引用元:Drugs.com
栄養補助食品の種類は多くあるので、いろいろ試してそれぞれの患者の嗜好にあったものをみつけてください。最近は、栄養素だけでなく、食欲を刺激するように、見た目もより本来の食事に近づけた商品も発売されています。例えば、「あいーと」という商品は、硬さはミキサーと同じように柔らかいのですが、ミキサー食とは見た印象が全然違います。実際筆者も食べてみましたが、見た目は普通の食事と変わらないのに、噛まずに口に溶けるようでした。味もおいしく、お肉がスプーンで食べることができるのは驚きでした。毎日これを使用するには、費用がかかるのは確かです。ですので、誕生日食や季節の特別な日には、喜ばれると思います。
引用元:あいーと
■~ミキサー食とあいーと
引用元:あいーと
4、るい痩患者の看護計画
計画を立てるときには、患者の体重の変化、体格(BMI)、年齢、活動量などから栄養アセスメントを行います。栄養サポートチーム(NST)からも、協力を得ることで計画が立てやすくなります。そして、なぜ食事の摂取量が伸びないのか、病態生理的な影響や意欲などの心理的な影響も日々看護する中で、情報を収集していきましょう。
■観察項目(栄養摂取消費バランス異常:必要量以下)
・バイタルサイン、意識レベル
・食事摂取量、食欲、内容、嗜好の有無と内容 ・悪心や嘔吐の有無、嘔吐の回数、嘔吐物の正常と量 ・脱水症状の有無と程度:口喝、口唇、皮膚の乾燥状態、尿量の減少、倦怠感、脱力感 ・体重測定値(平常時体重・体重減少率)、BMIの変化、筋・皮下脂肪厚 ・必要なカロリーと摂取カロリーとのバランス ・十分なカロリー摂取が困難な状態(治療の副作用・感染・胃切除術後、悪阻など) ・栄養吸収障害の有無 ・嚥下困難の有無 ・摂食中枢の障害による食欲減退(視床下部外側の病態など) ・口腔内の状態:口内炎、舌苔の有無、唾液の粘調度 ・咀嚼・嚥下の有無と程度 ・嚥下障害による随伴症状の有無と程度(むせる、咳嗽、つかえ感など) ・排便状態、腹部膨満の状態 ・検査データ:TP,Alb,血清トランスサイレチン、亜鉛、尿中ケトン、血糖、CRP,WBC,X線 ・浮腫の有無 ・睡眠状態 ・基礎代謝率の低下症状:低体温、徐脈 ・摂食動作:麻痺や視覚障害 ・食事の姿勢:体幹の安定性、頸部の角度など ・食事時間と食事環境 ・適切な食事形態、食の嗜好 ・生活状況と経済状況 ・ソーシャルサポートの活用状況 |
■るい痩のケアプラン
主なケアプランとしては、第一に食事摂取困難の原因をアセスメントし、患者の嗜好や体調に応じて食事内容や環境を調整することです。病院食では対応できないときは、家族にも協力してもらい普段食べていた食事を差し入れしてもらう、むせが出現した場合は、とろみをつけるなどをして対応します。摂取量が少ないときには、少量でもカロリーの高い食品を試してみるのもよいでしょう。悪心や嘔吐時には、冷たく、臭気の少ない食品を選び、有効に制吐薬を使用します。また、食前に咳嗽や口腔ケアを行うことで、口腔周囲筋のストレッチ、清涼感に関する食欲の増進、味覚の高まり、唾液の分泌増加を促し、食欲につながります。
また、食べることが苦痛にならないためには気分転換をはかり、環境を整えることが重要です。精神的支持や励ましを行い、家族にも協力を得て、できるだけ在宅でいたような雰囲気にしましょう。摂食姿勢の調整を行うため、RTやSTからもアドバイスをもらうとより効果的です。舌の動きが障害されているときは、口腔内の後方に食物を置くために適切な補助具(絵の長いスプーン)を使用したり、体位を工夫するとよいでしょう。嚥下困難を起こす恐れのある食物(ゆで卵や餅)は避け、パサつくパンやお菓子などは水分を補給しながら摂取するように患者に説明をします。
また、体重測定を決めた曜日に行うと患者も目標をもって取り組めるでしょう。患者と家族のニーズや暮らしに応じてソーシャルサポートを紹介し、調整するといったことも効果的です。
5、まとめ
食事の目的は、体に必要なカロリーと栄養素を取り入れることは説明したとおりです。しかし、食事をとるということは、それだけではなく、味や食材の歯ごたえの違いを楽しんだり、季節の食材やカラフルな野菜の色を目で楽しんだり、体と心の両方の感覚を刺激します。そして、食事は、家族と同じ時を過ごし、同じものを食べて、日々のあったことを話すなど人間の社会性を豊かにします。必要なカロリー量にとらわれすぎず、患者がおいしかった、楽しかったという食事に対する良い記憶を大切にしながら、ケアプランを立ててみてください。
参考文献
基準看護計画第3版―臨床でよく出会う看護診断、潜在的合併症(108-113)|矢田昭子(2016/07/05)
Medical management of malnutrition(undernutirion)|Federal Bureau of prisons clinical practice guidelines(2014/09)