通常、人間が食べ物を摂取すると、消化管を通過する経過において水分が吸収され、適度な硬さの便となって体外に排泄されます。しかし、水分吸収が追い付かずに水分の多い便になってしまい、頻回に排泄することがあります。この状態が一般的に下痢と呼ばれます。下痢は腹痛を始めとした苦痛を伴うだけではなく、栄養状態や電解質のバランスを崩すことにもつながるため、適切な看護が必要です。
1、下痢とは
1-1、食物の消化・吸収の流れ
人間は、通常は食物を口から取り込んでも、そのままの形状では体内に栄養素を吸収することができません。そこで、摂取した栄養素を腸管から吸収するために分解する必要があり、それを消化といいます。栄養素を消化して吸収するまでに、下の経過をたどります。
■食物の流れ
消化管の種類 | 通過時間 | 消化 | 吸収 |
口腔 | 咀嚼 | 主に糖質 | |
咽頭 | 数秒 | ||
食道 | |||
胃 | 3~6時間 | 主にタンパク質 | |
十二指腸 | 小腸
1~2時間 |
糖質
蛋白質 脂質 |
栄養素と水分 |
空腸 | |||
回腸 | |||
上行結腸 | 結腸
24~72時間 |
主に水分
|
|
横行結腸 | |||
下行結腸 | |||
S状結腸 | |||
直腸 | |||
肛門 |
1-2、下痢とは
消化管に流入する水分量は、消化液(胃液・胆汁・膵液・腸液)約7Lと経口摂取される水分量約2Lを合わせて、1日約9Lになります。表の通り、小腸と結腸で水分が再吸収されます。割合は小腸で80~90%、大腸で残りの水分である10~20%が吸収され、便中には0.1Lほどしか出ません。ところが、この消化の過程になんらかの問題が生じると、水分を多く含んだ便が出るようになります。正常な硬さの便は、バナナ型と言われるのが一般的で、便中に含まれる水分量は70%~80%です。これが80%~90%になると「軟便」、90%を超えるとまさに水のような便となり「水様便」、つまり「下痢便」の状態になります。下痢とは、このように「便の水分量が増して泥状〜水様になった状態」をいいます。
2、下痢の原因と治療法について
2-1、下痢を起こす原因
本来ならバナナ型になるまで水分が吸収されて便になるものが、どうして水分の多いままで肛門まで到達してしまうのでしょうか?これには様々な理由があります。
■下痢を起こす原因
・感染症(食中毒、感染性胃腸炎)
・薬物の副作用(緩下剤、化学療法、抗菌薬) ・腸の炎症(腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、虚血性大腸炎) ・代謝の亢進(甲状腺機能亢進症) ・大腸手術による腸管切除 ・ダンピング症候群 ・精神的ストレスによる腸管刺激(過敏性腸症候群) ・経管栄養剤 ・不十分な消化酵素(膵炎) ・放射線治療 |
2-2、下痢に対する治療
急性の下痢は感染性と薬剤性に分けられますが、慢性の下痢は考えられる疾患が多種類あります。原因によって治療法も異なるので、まずは原因を特定することが必要です。とくに感染性の場合は原因となる細菌やウイルスの特定も必要となります。
「下痢の治療=下痢を止める」ではありません。安易に下痢止めによって下痢を止めてしまうと、細菌やウイルスが体内から排泄されません。また、抗癌剤や各種治療による下痢に関しては、下痢の程度をみながら抗癌剤を減量して治療を継続するのか、それとも薬剤の量はそのまま維持し止痢薬を併用するなど、状態に応じて対応します。
下痢の治療は、整腸剤だけで軽快するのか、それとも止痢薬を必要とするのかは、下痢の原因や原疾患によって違うため、一概には言えません。状態に応じて、輸液による水分や電解質の補正も必要になります。ここでは原因・治療法を問わず、下痢の患者に対する看護計画をお伝えしていきます。
3、下痢の看護目標
下痢の看護計画としては主に以下のような流れとなっています。
■O-P
1.排便回数
2.便の性状(色・硬さ・臭い・食物残渣の有無・出血の有無)
3.腹痛の有無・程度
4.腸蠕動音、腹鳴亢進の程度
5.食事摂取状況
6.水分摂取量
7.脱力感・倦怠感の程度
8.尿量、尿回数
9.皮膚の乾燥や口渇(褥瘡)の有無
10.採血データ
11.肛門周囲の皮膚状態
■T-P
1.排便状態・食思に合わせた食事形態の変更
2.輸液・内服管理
3.腹部の保温(温罨法、電気毛布の使用、掛物の調節)
4.肛門部の保清
5.排泄物の処理(スタンダードプリコーションの厳守)
6.排泄時の換気やプライバシーの保護
7.(下痢による汚染時)病衣の交換
■E-P
1.排便時の手指衛生について説明する
2.汚染した衣類の取り扱いについて説明する
3.トイレ介助が必要な時はナースコールをするよう説明する
4.腹部症状や排便・排尿回数の管理が必要なことを説明する
5.食事摂取・水分摂取の必要性について説明する
6.脱水症状について説明する
4、温罨法について
下痢の症状が出ているときには、水分出納管理による脱水予防や栄養管理が必要になります。同時に、患者の下痢による苦痛を取り除くことが必要です。上に挙げた看護計画のうち、薬剤を用いることなく患者の苦痛を軽減できる温罨法は、積極的に行うべきです。ただし、庵罨法は患者の安楽につながる一方で、火傷などの害を起こすこともありますので、実施の際にはエビデンスに基づいた技術が求められます。基本に戻って、温罨法の技術を確認しましょう。
4-1、温罨法の目的
看護目的としては、主に以下の四点を意識するとよいでしょう。
・温熱刺激により、筋肉の緊張をやわらげて疼痛を緩和する。
・体温の低下や悪寒のある患者を保温する。 ・局所の血管拡張・血液循環の改善・細胞の新陳代謝を促す。 ・腹部膨満感のある場合、腸蠕動を促して自然な排ガス・排便を得る。 |
4-2、温罨法の種類
温罨法は、方法によって湿性と乾性があります。乾性としては、湯たんぽ(ゴム製・プラスチック製・金属性)、電気毛布、電気あんか、回路などがあり、湿性としては温湿布、ホットパックなどが挙げられます。ベッドサイドで簡便に行えるもので、かつ必要最低限の物品で済むものとして、湯たんぽやタオルによるホットパックが臨床ではよく行われています。しかし、ゆたんぽは劣化や感染対策(中をしっかり乾燥させることが難しい)の面から、医療機関においては、最近はあまり活用されなくなっています。ここでは、タオルによるホットパックの方法をお伝えします。
■温罨法に必要な物品
・温罨法に使用するタオル(フェイスタオルなど)
・拭き取り用のタオル ・ゴム手袋 ・お湯を張るベースン ・ビニール袋 ・処置用シーツ(必要時) ・バスタオル |
■腹部温罨法の手技
①患者に温罨法の必要性・効果を説明し、同意を得る。
②安楽な体位をとる(ファウラー位もしくは臥位)。
③衣類を整え、カーテンを閉めてから一度退室する。
(腹部をすぐに出せるように衣類をまくり、タオルや掛物で直前まで覆う)
④ベースンに70度前後のお湯を張り、用意したタオルをお湯につける。
(タオルを何枚か重ねたり、扇子のように折ると中までお湯が浸透しやすい)
⑤ゴム手袋を装着してから、タオルを絞り、看護師の前腕などで温度を確かめる。
⑥ベッドサイドへ戻り、患者に軽くタオルを当てて温度を確認してから腹部にタオルをあてる。
⑦タオルの上にビニール袋や処置用シーツをあて、その上からバスタオルをあてる。
⑧数秒間、バスタオルを上から押さえる。
(タオルとビニール袋を密着させて空気を抜き、タオル表面の温度が下降するのを防ぐ)
⑨10分程度貼付する。
⑩タオル・ビニール袋を外し、腹部を乾いたタオルで拭く。(この際、皮膚の発赤がないか確認する。)
⑪患者に症状を確認し、掛物と衣類を整え、物品を片付けて退室する。その後、記録する。
まとめ
下痢は様々な原因で起こり、程度によっては脱水症状を起こしたり、電解質のバランスが崩れてしまうことがあります。また、長期にわたって続く場合には栄養状態を悪化させ、褥瘡や皮膚トラブルを起こすこともあります。
輸液や内服薬の管理は当然のことですが、看護師の立場で気軽にできる温罨法の効果を、もう一度見直したいものです。
参考文献
メディックメディア 病気がみえる vol.1消化器(医療情報科学研究所|2016/03/26)
V章 副作用のマネジメント 下痢(日経メディカルがん診療UP TO DATE)
感染性胃腸炎の下痢の治療について(エーザイ)
便秘症状緩和のための温罨法Q&A(日本看護技術学会)