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ケモ(化学療法)の看護手順と注意点[副作用・血管外漏出]

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ケモ看護

ケモ(化学療法)を受ける患者は抗がん剤による急性反応や副作用・合併症などによる肉体的・精神的負担が大きくのしかかります。看護師が行う最も重要な業務は、患者の安心・安全・安楽な生活を支援することであるため、患者のQOL向上のために尽くさなければいけません。

 

当ページでは、ケモ実施における看護手順や、抗がん剤による副作用・血管外漏出など注意すべき点について詳しく説明していますので、最後までしっかりお読みいただき、適切な看護ケアのために、ケモや抗がん剤に関する知識を深めてください。

 

1、ケモとは

ケモとはChemotherapy(ケモセラピー)」のことで、抗がん剤を用いた「化学療法」のことを言います。化学療法は抗がん剤を用いるため、がん(悪性腫瘍)に対する治療法であると広く認識されていますが、がんだけでなく、悪性リンパ腫や急性骨髄性白血病も適応となります。

 

抗がん剤というのは、非常に強力な薬剤であり、正常な細胞をも死滅させてしまうため、頭痛、貧血、悪心、皮疹、下痢、神経障害、脱毛など、さまざまな副作用が出現します。また、血管外漏出の可能性があるなど、ケモを行う際には注意深い観察と迅速な対処が必要不可欠なのです。

 

2、ケモにおける看護師の業務

ケモを実施する際、直接的に治療に関与するのは医師と薬剤師ですが、看護師にも以下のようなさまざまな役割が存在します。

 

①医師・薬剤師と連携して副作用の観察とその対処

抗がん剤を用いるケモでは、副作用が懸念されます。頭痛、貧血、悪心、皮疹、下痢、神経障害、脱毛など、さまざまな副作用の発現を観察し、医師と薬剤師との連携を図った上で、患者の状態に応じて適切に対処します。

 

②点滴・注射の穿刺

抗がん剤の血管穿刺は原則として医師が行いますが、副作用緩和のための点滴・注射は主に看護師が行います。適切な手技のもと、正確な場所・手順で穿刺しなければいけません。

 

③血管外漏出予防のための観察

投与中に抗がん剤が血管外に漏出することがあります。抗がん剤は細胞毒性を示す非常に強力な薬剤であるため、漏出することで皮膚細胞の壊死を招いてしまいます。ゆえに、漏出予防・早期発見のために、患者の状態や刺入部の十分な観察が不可欠です。

 

④患者のセルフケア能力に合わせた療養支援

ケモを実施する患者の多くは外来で済むことが多く、入院が必要な場合にも早ければ3か月程度で退院が可能です。在宅療養における支援や、治療中のみならず退院後のアフターケアも行っていかなければいけません。

 

⑤ケモを受ける患者や家族への心理的援助

抗がん剤のリスクや副作用の発現に関して、患者やその家族に多大な心理的負担がのしかかります。恐怖や不安といった心理的負担を軽減できるよう、積極的にコミュニケーションを図るなど、QOL向上に努めていくことが大切です。

 

⑥急変時・事故発生時の対応と調整

時として、急に容態が悪化し意識不明に陥る、恐怖や不安など心理的負担による事故が発生することがあります。この際には、迅速かつ適切に対処しなければいけません。また、医師や薬剤師との連携を図った上で、使用薬剤の変更や事故の再発防止にも迅速に取り組む必要があります。

 

⑦紙カルテ・電子カルテへの実施入力と観察記録

使用薬剤の種類や患者の経過などが記載されているカルテは、医師ならびにすべての看護職員が情報を共有し、患者に適切な治療・ケアを行うために不可欠なツールです。正確な情報を記載するのはもちろん、誰にでも分かりやすい内容であることが必須です。

 

3、抗がん剤投与の看護手順

ケモを実施する際には、医師と薬剤師が使用する薬剤の種類や期間などの調製を行います。この治療計画を「レジメン」と言い、レジメンに沿った治療を厳守とし、効果がみられない場合や、重い副作用の発現などで中断する場合には、新たなレジメンのもと治療が行われます。

 

レジメンは、がんの種類や使用する薬剤(併用薬剤)の種類によってさまざまで、医療基準として基本的には定められていますが、病院によって異なる場合もあります。

 

レジメンの一例

≪胃がん≫

薬剤名 標準投与量 投与日 Day1 Day8 Day15 Day22 Day29
シスプラチン注 25mg/㎡ Day8,15,22
TS-1Cap 80mg/㎡ Day1-21 Day1-21連続投与
投与間隔:3週投2週休、1クールの日数:5週間

 

≪肺がん≫

薬剤名 標準投与量 投与日 Day1 Day8 Day15
シスプラチン注 40mg/㎡ DIV30分
ジェムシタビン注 1000mg/㎡ DIV30分
投与間隔:3週間 Day1,8、1クールの日数:3週間

 

≪乳がん≫

薬剤名 標準投与量 投与日 Day1 Day22 Day43 Day64
エピルビシンRTU注 100mg/㎡ 全開
CPA(エンドキサン)注 500mg/㎡ DIV30分
5-FU注 500mg/㎡ 全開
投与間隔:3週毎 Day1、1クールの日数:3週間

 

3-1、抗がん剤投与に関する患者への説明

患者本人が抗がん剤の副作用や合併症のリスクを正しく理解した上で治療を行う必要があり、また、そのほか投与中の生活においても気をつけるべき事項がさまざまあります。

 

これらのことを投与前にしっかりと説明することは事故防止のために必要不可欠なことであるため、必ず詳しく説明した上で治療を行うようにしてください。

 

・投与する抗がん剤のリスク

使用する抗がん剤が持つ組織侵襲のリスクや起こりうる副作用について詳しく説明し、同意の元で治療を行います。

 

・血管外漏出の症状

抗がん剤の中には、起壊死性抗がん剤または炎症性抗がん剤(後述)と呼ばれる、血管外に漏れた際に皮下症状を及ぼす薬剤が存在します。それらの薬剤を使用する際は特に、血管外漏出のリスクや漏出時の症状・対処について事前に説明します。

 

・投与中の穿刺部位の安静保持

投与中に動くとルートが外れることにより血管外漏出を招く可能性があるため、事故防止のために穿刺部位を安静について説明をします。また、抗がん剤により肉体的なストレスがかかるため、穿刺部位の安静はもちろん、できるだけ体の安静を図るよう指導してください。

 

・血管の管理

血管に負荷がかかると血管外漏出や血管・皮膚組織の損傷を招いてしまうため、重い荷物はなるべく穿刺部位とは反対の腕で持つ、毎回同じ血管に穿刺しないなど、血管の管理について説明をします。

 

3-2、投与時の一般的な看護の流れ

抗がん剤の投与を行うのは原則として医師が行い、看護師は患者の状態や穿刺部の皮膚状態、そのほか急性反応や副作用の有無を適宜観察します。この段階における看護師の役割は主に「観察」であるため、変化を見逃さないよう入念に観察を行ってください。

 

①使用薬剤と患者の状態を確認する

使用する抗がん剤が正しいか、血管外漏出などの急性症状において危険性の高いものかどうか、そのほか副作用の発症率が高いかなど確認し、合わせて患者の健康状態も観察します。

 

②静脈投与ラインを確保する

血管外漏出のリスク因子を十分に考慮し、より末梢側から太く弾力があり穿刺針の固定が容易な部位を選択し穿刺します。

避けた方が良い穿刺部位
・肘関節窩

・下肢静

・利き手側

・蛇行している血管

・硬化組織のある部位

・骨突出部位や関節付近

・神経や動脈に隣接した部位

・放射線照射を行っている患側上肢

 

③静脈投与ラインの開通性を確認する

血液の逆流・自然滴下を確認し、自然滴下確認時には痛みや圧迫感の有無を確認します。

 

④抗がん剤を投与する

必要な前投薬が正しく投与されたかを再確認し、指示された注入速度を厳守し投与を行います。

 

⑤急性反応や副作用の有無を観察する

血管外漏出の兆候や急性悪心・嘔吐、アナフィラキシーなど、抗がん剤による急性反応・副作用の有無を確認し、何かしらの症状出現時には早急に対処を行います。

 

4、抗がん剤使用時の注意点

ケモの実施時には、抗がん剤の取り扱いに注意しなければいけません。抗がん剤の取扱い者への薬剤の曝露による健康上の危険性を示す報告が多々あるため、抗がん剤使用時には細心の注意を払う必要があります。

 

取扱いにおける全般的な注意事項

①各種抗がん剤に関する知識・投与手順に精通した職員が取り扱う。

②投与前に必要な薬剤・器具・用具などを適切に準備する。

③器具・用具は出来るだけディスポーザブル製品を使用する。

④汚染予防のため、可能な限り市販品の使用を心がける。

⑤投与中に抗がん剤に直接接触しないよう工夫する(設備・防具など)。

⑥誤って接触した時の対応法を決定しておく。

⑦使用した作業台・安全キャビネットなどを十分清掃する。

⑧各作業終了後に作業者の十分な手洗いとうがいを励行する。

⑨スピル・キットを所定の場所に用意する。

 

また、抗がん剤投与を行う患者に対しても、「抗がん剤による副作用」や、投与時における「抗がん剤の血管外漏出」に細心の注意を払う必要があります。

 

抗がん剤による副作用

抗がん剤の特徴として、がん細胞のように増殖の速い細胞を死滅させる働きがありますが、正常な細胞の中にも速く増殖するものがあり、それらの正常な細胞をも死滅させることで、それが副作用として出現します。出現する副作用は、頭痛、貧血、悪心、皮疹、下痢、神経障害、脱毛など多岐に渡り、主に抗がん剤の投与後1時間~10日で症状がみられます。それゆえ、この期間は特に、患者の状態を入念に観察する必要があります。

 

抗がん剤の血管外漏出

血管穿刺にて抗がん剤投与を行う場合、針先が正しく血管に刺入されていない、血管が脆くなっている、体動により針が抜ける、などの理由で血管の外に抗がん剤が漏出してしまうことがあります。血管外漏出が起こると、漏出直後から刺入部位周辺の皮膚に軽い発赤・腫れ・痛みなどの症状が現れ、数日かけて症状が増悪していきます。皮膚症状が増悪していくと、水泡→潰瘍→壊死形成へと移行していき、場合によっては外科手術が必要になるため、血管外漏出を未然に防ぐのはもちろん、細やかな観察のもと早期発見・早期改善を図らなければいけません。

 

4-1、抗がん剤による副作用

抗がん剤の副作用は大きく分けて、「貧血」、「悪心・嘔吐」、「皮疹」、「下痢」、「末梢神経障害」、「血小板減少」、「白血球減少」、「脱毛」があり、これらの副作用によりさまざまな症状が出現します。

 

症状 出現期間 特徴
貧血 投与後3~5日前後 頭痛、眩暈、動悸・息切れ、立ちくらみ、倦怠感、冷感、皮膚や目の色の変化(白くなる)
悪心・嘔吐 早発性:投与後1・2~24時間

遅発性:投与後24~48時間

悪心、嘔吐、食欲減退、食事量の減少、体重減少
皮疹 投与後1~2週間前後 ざ瘡様皮疹・紅斑・浮腫(投与後1~2週目)、皮膚乾燥・亀裂(5週目ごろ)、爪周囲炎(8週目ごろ)
下痢 早発性:投与後24時間以内

遅発性:投与後3~7日前後

腹痛、尿量低下、水様便、皮膚の乾燥、体重減少
末梢神経障害 急性:投与後すぐ

慢性:投与の繰り返しで出現

手足口・咽頭周囲の痺れや痛み、呼吸苦
血小板減少 投与後7~10日前後 頭痛、吐き気、出血傾向、内出血、潜血便
白血球減少 投与後7~14日前後 発熱、頭痛、咳、下痢、咽頭痛、膀胱炎症状、易感染状態
脱毛 投与後2~3週間前後 全身の脱毛(徐々に、または一気に抜け落ちる)

 

中でも「骨髄抑制による貧血」、「悪心・嘔吐」、「下痢」が好発であり、これらは多くの患者が経験する副作用です。それぞれに対して出現率の高い抗がん剤が存在するため、その種類をしっかり把握しておきましょう。

 

貧血(骨髄抑制) UFT、注射用イホマイド、アドリアシン、アルケラン、イダマイシン、エンドキサン、カンプト、キロサイド、ダウノマイシン、タキソテ-ル、タキソール、テラルビシン、サイメリン、サンラビン、ナベルビン、ニドラン、ハイドレア、ファルモルビシン、フルツロン、マイトマイシン
悪心・嘔吐 アドリアシン、キロサイド、ダカルバジン、ニドラン、マイトマイシン
下痢 5-FU、アドリアシン、カンプト、キロサイド、ベプシド、メソトレキセート

 

副作用が発現した際には、主に抑制する薬物をもって対処していきますが、生活面においてもあらゆるケアを行っていかなければいけません。詳しくは、「化学療法(抗がん剤治療)の副作用ごとの対処と看護ケア(http://j-depo.com/news/post-1568-1568.html)」をご覧ください。

 

4-2、抗がん剤の血管外漏出

血管外漏出を防ぐためにはまず、「リスク因子」や「血管外漏出時の組織侵襲に基づく抗がん剤の分類」をしっかりと把握しておく必要があります。また、漏出時には適切な対処が求められるため、その対処法も知っておきましょう。

 

リスク因子

①高齢者(血流量の低下や血管の弾力性)

②栄養不良の患者

③肥満患者(血管を見つけにくく刺入困難)

④血管が細くて脆い患者

⑤皮膚結合織疾患や糖尿病などに罹患している患者

⑥化学療法を繰り返している患者

⑦多剤併用化学療法中の患者

⑧循環障害のある四肢の血管

⑨輸液などで既に使用中の血管ルートの再利用

⑩抗がん剤の反復投与に使われている血管

⑪腫瘍浸潤部位の血管

⑫放射線療法を受けた部位の血管

⑬最近施した皮内反応部位の下流の血管(皮内反応部位で漏出が起こる)

⑭同一血管に対する穿刺のやり直し例

⑮24時間以内に注射した部位より遠位側

⑯創傷瘢痕がある部位の血管

⑰関節運動の影響を受けやすい部位や血流量の少ない血管への穿刺例

 

血管外漏出時の組織侵襲に基づく抗がん剤の分類

分類 重症度 薬剤名
起壊死性抗がん剤 強度 アクチノマイシンD、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビノレルビン、ピラルビシン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、マイトマイシンC、ミトキサントロン
炎症性抗がん剤 中程度 5-フルオロウラシル、アクラルビシン、イホスファミド、イリノテカン、エトポシド、カルボコン、カルボプラチン、ゲムシタビン、ダカルバジン、シクロホスファミド、シスプラチン、チオテパ、ドセタキセル、ニムスチン、ネオカルチノスタチン、ネダプラチン、パクリタキセル、ラニムスチン
起炎症性抗がん剤 軽度 L-アスパラギナーゼ、エノシタビン、シタラビン、ブレオマイシン、ペプレオマイシン、メトトレキサート

 

・起壊死性抗がん剤

少量の漏出であっても強い痛みや、腫脹・水泡・壊死などの皮膚障害を起こし、潰瘍形成に至ることもあります。

 

・炎症性抗がん剤

漏出部位に痛みや発赤が生じることはあるものの、潰瘍まで進展することはほとんどありませんが、軽視することなく、早急な対処が必要不可欠です。

 

・起炎症性抗がん剤

筋肉や皮下への注射が可能な抗がん剤であるため、漏出してもほとんど炎症症状は起こりませんが、高齢者や皮膚の弱い人には稀に痛みや発赤が生じることがあります。

 

漏出時の対処

・起壊死性抗がん剤

 

・炎症性抗がん剤

(大量漏出時)

①すぐに留置針を抜かず、薬液や血液(5ml程度)を吸引・除去する

②注射針・ルートを抜去する

③デクスラゾキサンの静脈注射、ステロイド剤の局注、ステロイド軟膏の塗布など、局所の処置を行う

④ステロイド外用剤の塗布と冷湿布の貼付を継続的に行う

⑤漏出量が多い場合には、ステロイド剤の内服を併用する

・炎症性抗がん剤

(少量漏出時)

・起炎症性抗がん剤

注射部位の変更、消炎剤・鎮痛剤を用いて対処する。

 

血管外漏出の早期発見

漏出することによる皮膚症状は、即時ではなく概ね数時間後に出現しますが、軽度な初期症状が必ず出現するため、早期に発見できるよう、輸液ラインや刺入部の確認、患者の状態などを観察しておきましょう。

①輸液ラインの確認 ・点滴の滴下速度が通常時より減少している

・抹消動脈ライン内の血液逆流が消失している

・自然滴下がない

②刺入部の確認 ・刺入部が発赤・腫脹など皮膚症状がみられる
③患者の状態の観察 ・焼けるような痛み(灼熱痛)がみられる

 

まとめ

抗がん剤を用いたケモは今や一般的な治療法となりましたが、副作用や合併症の発症リスクが非常に高いため、看護師は症状の早期発見のための細やかな観察、症状発現時には迅速に対応しなければいけません。

 

また、抗がん剤は毒性の強い薬物であるため、看護師自身が細心の注意を払って取り扱う必要があります。患者のQOL向上のため、さらには自身の安全のために、ケモや抗がん剤に関する正しい知識を持った上で、適切な看護ケアを実施していきましょう。


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